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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1310003
審判番号 不服2015-1745  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-29 
確定日 2016-01-13 
事件の表示 特願2012-527004「低摩擦スカートを有するモノブロックピストン」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月17日国際公開、WO2011/031535、平成25年 1月31日国内公表、特表2013-503300〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年8月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年8月27日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年2月24日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成24年4月12日に特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成26年5月12日付けで拒絶理由が通知され、平成26年8月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年9月22日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年1月29日に拒絶査定不服審判が請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成26年8月18日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
モノブロックピストンであって、
上側クラウンを有するピストン本体と、
前記上側クラウンから延びる一対のピンボスであって、ピンボア軸に沿って互いに整列するピンボアを有する一対のピンボスと、
前記一対のピンボスに固着され、横方向に間隔をおいた一対のスカート部であって、前記一対のピンボスの間において前記上側クラウンから最下自由縁まで延びるスカート部とを備え、
前記ピストン本体はスラスト側と反スラスト側とを有し、前記スラスト側の前記スカート部は、前記スカート部の外側表面から内側表面まで貫通して開口する、前記最下自由縁から前記ピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部を有し、前記反スラスト側の前記スカート部は前記凹部を有さない、モノブロックピストン。」

第3 特開平9-317554号公報(以下、「引用文献1」という。)を主引例とした場合の進歩性
1 引用文献1
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用文献1には図面とともに次の記載がある。なお、下線は、当審で付した。

(1)引用文献1の記載
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は内燃機関用ピストンに関する。
【0002】
【従来の技術】ピンボス軸線上において互いに離間して設けられた一対のピンボスを具備し、各ピンボスと、ピンボス軸線に関しスラスト側および反スラスト側に位置する一対のスカート部とを一対のパネル部によって互いに接続し、ピンボス軸線の両側、すなわちスラスト側および反スラスト側において各パネル部に開口を形成した内燃機関用ピストンが公知である(実開平5-64565号公報参照)。このピストンでは、パネル部に開口を設けることによってピストンの軽量化を図る一方、反スラスト側に位置する開口を、スラスト側に位置する開口よりも小さくすることによって反スラスト側に位置するパネル部、特に開口の下方に位置するパネル部の強度ができるだけ低下しないようにしている。」(段落【0001】及び【0002】)

イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、反スラスト側に位置するパネル部に開口を設けると、たとえ小さい開口であったとしても機関膨張行程時に、開口の下方に位置するパネル部に引っ張り応力が作用する。しかしながら、このような引っ張り応力はパネル部の耐久性を低下させ、斯くしてパネル部に亀裂が生ずる恐れがあるという問題点がある。特に、アルミニウムなどの軽量材は疲労特性が低く、したがってピストンをこのような軽量材から形成した場合にはピストンの耐久性がさらに悪化しうる。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明によれば、ピンボス軸線上において互いに離間して設けられた一対のピンボスを具備し、各ピンボスと、ピンボス軸線に関しスラスト側および反スラスト側に位置する一対のスカート部とを一対のパネル部によって互いに接続した内燃機関用ピストンにおいて、ピンボス軸線に関しスラスト側に位置するスカート部およびパネル部にのみ開口を形成し、この開口が一方のパネル部からスカート部を介し他方のパネル部まで連続して延びている。すなわち、一方のパネル部からスカート部を介し他方のパネル部まで連続して延びる開口が形成されるのでピストンの軽量化が達成され、しかもこの開口が反スラスト側に形成されることなくスラスト側に形成されるのでピストンの耐久性が確保される。」(段落【0003】及び【0004】)

ウ 「【0005】
【発明の実施の形態】図面を参照すると、例えばアルミニウムなどの軽量材からなる内燃機関用ピストン1は円形断面を有する頂部2と、接続部3を介して頂部2に接続された第1および第2のピンボス4a,4bと、頂部2から下方に延びる一対のスカート部5t,5aとを具備する。図2および図4からわかるように、第1および第2のピンボス4a,4bはピンボス軸線J-J上において互いに離間して配置されてピストンピン(図示しない)を受容する。このピストンピンによってピストン1がコンロッド(図示しない)と接続される。また、図1および図2に示されるように、ピンボス軸線J-Jはピストン軸線K-K上に配置される。なお、一対のスカート部5t,5aのうちピンボス軸線J-Jに関しスラスト側に位置するスカート部5tをスラスト側スカート部と称し、反スラスト側に位置するスカート部5aを反スラスト側スカート部と称することにする。
【0006】特に図2に示されるように、各ピンボス4a,4bはそれぞれ対応する第1および第2のパネル部6a,6bによって一対のスカート部5t,5aに接続される。すなわち、各パネル部6a,6bのうちピンボス軸線J-Jに関しスラスト側に位置するパネル部6a,6bをスラスト側パネル部分6at,6btと称し、各パネル部6a,6bのうち反スラスト側に位置するパネル部6a,6bを反スラスト側パネル部分6aa,6baと称すると、第1のピンボス4aは第1のスラスト側パネル部分6atによってスラスト側スカート部5tに接続され、第1の反スラスト側パネル部分6aaによって反スラスト側スカート部5aに接続される。また、第2のピンボス4bは第2のスラスト側パネル部分6btによってスラスト側スカート部5tに接続され、第2の反スラスト側パネル部分6baによって反スラスト側スカート部5aに接続される。
【0007】図2からわかるように、これら第1および第2のパネル部6a,6bはピンボス軸線J-Jに対しほぼ垂直に拡がっている。なお、本実施態様において、第1および第2のピンボス4a,4b、各スカート部5a,5b、および第1および第2のパネル部6a,6bはそれぞれ対称面M-Mに関して互いに対称的に形成されている。」(段落【0005】ないし【0007】)

エ 「【0008】さらにピストン1は、図1および図3に示されるように、第1のスラスト側パネル部分6atからスラスト側スカート部5tを介して第2のスラスト側パネル部分6abまで連続して延びる開口7を具備する。これに対して、第1および第2の反スラスト側パネル部分6aa,6ba、および反スラスト側スカート部5aには一切開口が設けられない。したがって、これら第1および第2の反スラスト側パネル部分6aa,6ba、および反スラスト側スカート部5aは頂部2からそれぞれの底端まで連続的に延びることになる。
【0009】なお、図面において番号8はピストンリングを受容するピストンリング受容溝を示している。このようにピストン1のスラスト側に開口7を設けることによってピストン1の軽量化を達成することができる。特に、本実施態様におけるように開口7を第1のスラスト側パネル部分6atからスラスト側スカート部5tを介して第2のスラスト側パネル部分6abまで連続して延びるように形成すると開口7を大きくすることができる。したがって、ピストン1の反スラスト側に開口を形成しないといってもピストン1の重量を十分に低減することができる。
【0010】一方、ピストン1の反スラスト側には開口が形成されないので第1および第2の反スラスト側パネル部分6aa,6ba、および反スラスト側スカート部5aの強度を確保することができる。すなわち、これら反スラスト側パネル部分6aa,6ba、および反スラスト側スカート部5aに大きな応力がせず、特に機関の全行程にわたって引っ張り応力が作用しなくなる。」(段落【0008】ないし【0010】)

オ 「【0011】ところで、冒頭で述べたように、引っ張り応力が例えば反スラスト側パネル部分6aa,6baに作用するとこれら反スラスト側パネル部分6aa,6baに亀裂が生じやすくなる。また、ピストン1をアルミニウムなどの軽量材から形成すると亀裂が特に生じやすくなる。本実施態様では、反スラスト側パネル部分6aa,6baおよび反スラスト側スカート部5aに引っ張り応力が作用しないのでピストン1をアルミニウムから形成したとしても亀裂が生ずるのが阻止され、したがってピストン1の耐久性を確保することができる。
【0012】なお、開口7よりも下方に位置するスラスト側パネル部分6at,6btと、対応するピンボス4a,4bとの接続部には、機関膨張行程時において比較的大きな圧縮応力が作用する。ところが、このように作用する応力が圧縮応力のみであるとスラスト側パネル部分6at,6btにはほとんど亀裂が生じない。すなわち、スラスト側パネル部分6at,6btにおいても反スラスト側パネル部分6aa,6baにおいても亀裂が生ずるのが阻止されており、したがってピストン1の耐久性が確保されている。
【0013】また、本実施態様では、スラスト側スカート部5tに開口7が形成されているのでピストン1とシリンダボア内周面間の摩擦を低減することができる。さらに、この開口7を介してシリンダボア内周面にエンジンオイルを供給することが可能となるのでピストン1とシリンダボア内周面間の摩擦をさらに低減することができ、したがってスカート部5t,5aのスカッフをさらに低減することができる。」(段落【0011】ないし【0013】)

(2)上記(1)及び図面から分かること

カ 上記(1)アないしオ及び図面から、引用文献1には、一体構造の内燃機関用ピストンが記載されていることが分かる。

キ 上記(1)ウ及び図面から、引用文献1に記載されたピストンは、円形断面を有する頂部2と、頂部2に接続された第1および第2のピンボス4a,4bと、頂部2から下方に延びる一対のスカート部5t,5aとを具備することが分かる。

ク 上記(1)ウ及び図面から、引用文献1に記載されたピストンにおいて、第1および第2のピンボス4a,4bは、ピンボス軸線J-J上において互いに離間して配置されてピストンピンを受容する穴(以下、「ピンボア」という。)を有することが分かる。

ケ 上記(1)エの段落【0009】における「このようにピストン1のスラスト側に開口7を設けることによってピストン1の軽量化を達成することができる。特に、本実施態様におけるように開口7を第1のスラスト側パネル部分6atからスラスト側スカート部5tを介して第2のスラスト側パネル部分6abまで連続して延びるように形成すると開口7を大きくすることができる。」という記載から、ピストン1のスラスト側に開口7を設ければよいのであって、パネル部分まで延びるように開口7を大きくすることは必須ではないことが分かる。

(3)引用発明1及び引用技術1
以上の(1)及び(2)並びに第1ないし5図の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「一体構造の内燃機関用ピストン1であって、
頂部2を有するピストン本体と、
前記頂部2に接続された一対のピンボス4a,4bであって、ピンボス軸線Jに沿って互いに整列するピンボアを有する一対のピンボス4a,4bと、
前記一対のピンボス4a,4bに固着され、横方向に間隔をおいた一対のスカート部5a,5tであって、前記一対のピンボス4a,4bの間において前記頂部2から底端まで延びるスカート部5a,5tとを備え、
前記ピストン本体はスラスト側と反スラスト側とを有し、スラスト側スカート部5tは、前記スカート部の外側表面から内側表面まで貫通して開口する、スカート部の途中から前記ピンボス軸線Jを越えて上方向に延びる開口を有し、前記反スラスト側スカート部5aは開口を有さない、一体構造の内燃機関用ピストン1。」

また、以上の(1)及び(2)並びに第1ないし5図の記載を総合すると、引用文献1には次の技術(以下、「引用技術1」という。)が記載されているといえる。

「内燃機関用ピストンにおいて、ピンボス軸線に関しスラスト側に位置するスカート部に開口を形成し、反スラスト側に位置するスカート部には開口を形成しない技術。」

2 本願発明と引用発明1との対比・検討
(1)対比
本願発明と、引用発明1とを対比する。
引用発明1における「一体構造の内燃機関用ピストン1」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願発明における「モノブロックピストン」に相当し、以下同様に、「頂部2」は「上側クラウン」に、「に接続された」は「から延びる」に、「ピンボス4a,4b」は「ピンボス」に、「ピンボス軸線J」は「ピンボア軸」に、「スカート部5a,5t」は「スカート部」に、「上側クラウン」は「頂部2」に、「底端」は「最下自由縁」に、「スラスト側スカート部5t」は「スラスト側のスカート部」に、「反スラスト側スカート部5a」は「反スラスト側のスカート部」に、それぞれ、相当する。

また、本願発明における「凹部」とは、「外側表面から内側表面まで貫通して開口する」ものであるから、引用発明1における「開口」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願発明における「凹部」に相当する。

また、引用発明1における「スカート部の途中からピンボス軸線Jを越えて上方向に延びる開口」は、「スカート部においてピンボア軸を越えて上方向に延びる開口」という限りにおいて、本願発明における「最下自由縁から前記ピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部」に相当する。

また、引用発明1における「反スラスト側スカート部は開口を有さない」は、反スラスト側スカート部に開口を有しないということであるから、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願発明における「反スラスト側のスカート部は凹部を有さない」に相当する。

したがって、本願発明と、引用発明1とは、
「モノブロックピストンであって、
上側クラウンを有するピストン本体と、
前記上側クラウンから延びる一対のピンボスであって、ピンボア軸に沿って互いに整列するピンボアを有する一対のピンボスと、
前記一対のピンボスに固着され、横方向に間隔をおいた一対のスカート部であって、前記一対のピンボスの間において前記上側クラウンから最下自由縁まで延びるスカート部とを備え、
前記ピストン本体はスラスト側と反スラスト側とを有し、スラスト側のスカート部は、スカート部の外側表面から内側表面まで貫通して開口する、スカート部においてピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部を有し、反スラスト側の前記スカート部は前記凹部を有さない、モノブロックピストン。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
「スラスト側のスカート部は、スカート部の外側表面から内側表面まで貫通して開口する、スカート部においてピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部を有し」に関して、
本願発明においては、スラスト側のスカート部は、スカート部の外側表面から内側表面まで貫通して開口する、「最下自由縁からピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部」を有するのに対し、
引用発明1においては、スラスト側スカート部は、スカート部の外側表面から内側表面まで貫通して開口する、「スカート部の途中からピンボア軸を越えて上方向に延びる開口」を有するが、本願発明のようには特定されていない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)検討
上記相違点1について判断する。
本願発明においては、スラスト側のスカート部は、スカート部の外側表面から内側表面まで貫通して開口する、「最下自由縁からピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部」を有する構成となっている。
このように、スカート部に「最下自由縁からピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部」を設ける技術は、本願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、米国特許出願公開第2005/0039708号明細書[例えば、Fig.8を参照。]、実願昭61-162100号(実開昭63-67647号)のマイクロフィルム[例えば、明細書第4ページ第2ないし7行並びに第1ないし3図参照。]及び実公昭58-7077号公報[例えば、第4図を参照。]等の記載を参照。)である。
また、スカート部に「スカート部の途中からピンボア軸を越えて上方向に延びる開口」を設ける技術も本願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、引用文献1、特開平4-244677号公報[例えば、段落【0023】並びに図1及び11を参照。]及び実願平2-21190号(実開平3-112551号)のマイクロフィルム[例えば、明細書第6ページ第5ないし16行並びに第1及び2図を参照]等の記載を参照。)である。
このように、スカート部に「最下自由縁からピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部」を設ける技術と、スカート部に「スカート部の途中からピンボア軸を越えて上方向に延びる開口」を設ける技術とは、ともに周知技術であり、どちらを選択するかは、ピストンに必要とされる強度等に応じて、当業者が適宜なし得る選択的設計事項である。
してみると、引用発明1において、「スカート部の途中からピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部」(周知技術2)を、「最下自由縁からピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部」(周知技術1)に設計変更することにより、上記相違点1に係る発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)効果について
本願発明は、全体としてみても、引用発明1及び周知技術1から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明1及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第4 米国特許出願公開第2005/039708号明細書(以下、「引用文献2」という。)を主引例とした場合の進歩性
1 引用文献2
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用文献2には、図面とともに次の記載がある。なお、下線は、当審で付した。

(1)引用文献2の記載
ア 「[0025] The invention comprises a piston 20, ・・・ in a convention way (not shown).」(段落[0025])
{当審訳:「本発明は、ピストン20、コネクティングロッド40、及び排気バルブ30アセンブリを備え、一般的には、図4に示される参照番号10により参照される。図1から20において示されるように、ピストン20(図8)の最も簡単な実施形態はピストン面22を有し、ここでは、ピストンリストピン穴28へ延在する排気バルブポート21が形成される。図4、9-2に示されるように、ピストン20の片側からピストンリストピン穴28の内側の片側まで延在するリストピン70は、上側73に形成される二つの排気入口ポート71と72、及びリストピン70の一端から延在する排気ガス出口穴76内に形成される内部中心穴74を有する。図5は、カップ上部壁82(図8)内に形成されるカップ中心バルブステム穴81と、カップ外部壁(図5)から外向きに延在する四つのカップ支持アーム84を有する排気バルブスプリングコンテナーカップ80を示す。排気バルブヘッド31は、排気バルブポート21の内部のピストン面22内へと、くぼんでいる。ピストンスカート20B(図8)は、ピストン長さを延長し、オイル経路20Aを含んでいる。排気バルブ30(図19)、排気バルブスプリング61、排気バルブスプリングリテーナー60、及び排気バルブリテーナー保持器50は、排気バルブアセンブリ90(図20)を形成し、ピストン20及び排気バルブスプリングリテーナーカップ80の内部に取り付けられて、排気バルブステム32(図16)はコネクティングロッドリストピンエンド42上に配置され、カップ中心バルブステム穴81(図4)を通して突出する。カム型バルブ作動ローブ41はコネクティングロッドリストピンエンド42の上に形成される。バルブ作動ローブ41は、排気ガスからバルブ作動システムを密封するコネクティングロッドリストピンエンド42に対して密封するピストンローブ区画部29内で回転する。コネクティングロッドオイル穴46は、コネクティングロッドリストピン穴オイル47とバルブ作動ローブオイル穴48(図14)に接続する。ピストンローブ区画部29は、排気バルブスプリングリテーナーオイル穴62(図17)に接続し、これは、排気バルブスプリングリテーナーカップ80に接続する。バルブヘッド31は、上部カップ上部壁82上に配置され、排気バルブシート29A(図5)の上に配置されて、ピストン20内の排気バルブポート21の上部を囲む。ピストン排気経路25及びピストン排気経路26は、ピストン20の内側に形成され、ピストン排気バルブポート21をリストピン排気ポート71と72へ接続する。ピストンリング溝23は、ピストンリングを受容するようにピストンの周囲に形成される。コネクティングロッドリストピンエンド42は、平坦側面43と対向平坦側面44を備える円形であり、平坦側面43と44及び円形コネクティングロッドリストピンエンド42を密封するように形成されるピストンコネクティングロッド穴27へ嵌合して、クランクケース(図示されない)への排気ガスの逃げを防止する(図6及び13)。リストピン70は、ピストンリストピン穴28にぴったりと押し込まれ、回転可能に接続されたロッドリストピン穴45を通過する(図14)。カップサポートアームオイル穴20Dは、排気バルブリテーナーカップを、ピストンスカートオイル穴20Aへ接続するピストン上部オイル穴20Cへ接続する(図5)。コネクティングロッド40は、従来の方法(図示されない)で従来のクランクシャフト(図示されない)へ接続される。」(段落[0025]}

イ 「[0026] During operation of the engine ・・・although this system is not shown.」(段落[0026])
{当審訳:「[0026]エンジンの作動中には、クランクシャフトの回転によって、コネクティングロッドクランクシャフトジャーナルエンド(図示されない)が横方向へ移動し、コネクティングロッドリストピンエンド42をリストピン70の周囲で前後に往復運動させる。ピストンがTDCからBDCへ移動すると、コネクティングロッドリストピンエンド42の往復動作により、バルブ作動ローブ41はバルブリテーナー60との接触から外れて移動させられ、排気バルブ30を閉じる。ピストン20がBDCへ近づくと、コネクティングロッドリストピンエンド42の往復動作により、バルブ作動ローブ41は、排気バルブスプリング61を圧縮し、排気バルブリテーナー保持器50に力をかけ、カップ中心バルブステム穴を通して排気バルブステム32に上向きに力をかけて、排気バルブシート29Aから排気バルブヘッド30を持ち上げることによって、バルブ作動ローブ41はバルブリテーナー60と接触するように移動させられ、排気バルブ30を開く。排気バルブ30が開くと、気筒(図示されない)内の排気ガスはピストン上部排気ポート25内を通過し、排気バルブポート21を通るように流れて、ピストン排気経路25及び26へと流れ込む。ピストン排気経路25及び26を通って流れる排気ガスは、リストピン排気入口71及び72へ入り、リストピン中心穴75を通過し、排気ガス出口穴76を通ってリストピン70の一端から流れ出す。排気ガス出口穴76から流れ出る排気は、気筒排気ポート(図示されない)へ流れ込む。クランクシャフトが回転して、ピストン20がBDCからTDCへ移動すると、排気バルブ30は、ピストンローブ区画部29へ回転しながら入ったり出たりするバルブ作動ローブ41によって開放状態に保持され、気筒(図示されない)内の排気ガスは、ピストン20の上向きの動作により押されて、このことによって気筒内の容積を減少させ、ピストン20及びリストピン70を通して流れ、気筒排気ポートを通して流れ出る。TDCの後で、ピストン排気バルブ30は数度の角度で開放状態になる。燃焼作動吸入バルブ面(図示されない)は、排気バルブ30が閉じるまで排気ポート21を覆うので、TDCからBDCへのピストンの移動中には、燃焼ガスは排気ポート21へ入らない。コネクティングロッドオイル穴46、47及び48、またバルブスプリングリテーナーオイル穴62を通して、オイルはエンジンオイルポンプ(図示されない)によって送り出され、コネクティングロッド、リストピン、バルブ作動ローブ、バルブスプリングアセンブリ、及びバルブスプリングコンテナーカップを潤滑する。オイルは排気バルブスプリングコンテナーカップを通して支持アームオイル穴20Dへ流れ込み、これらの穴を通してピストン上部オイル穴20Cへ流れ込む。ピストン上部オイル穴20Cを通して流れるオイルは、ピストンスカートオイル穴20Aへ流れ込み、ピストンから流れ出て、クランクシャフト(図示されない)へ戻る。コネクティングロッドカムローブ及びバルブスプリングアセンブリの代わりにカムプレートを使用して排気バルブを作動させ、これにより、バルブスプリングアセンブリの必要性を排除してもよいが、このシステムは示されていない。 」(段落[0026])}

(2)上記(1)及び図面から分かること

サ 上記(1)ア及びイ並びに図面(特にFig.8)から、引用文献2には、ピストン本体とピストンスカート20Bを備えるピストン20が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)ア及びイ並びに図面(特にFig.4及び6ないし8)から、引用文献2に記載されたピストン20は、ピストンリストピン穴28を備える一対のピンボスを備えているといえる。

ス 上記(1)ア及びイ並びに図面(特にFig.4及び6ないし8)から、引用文献2に記載されたピストン20において、ピストンリストピン穴28は、その中心軸(以下、「リストピン軸」という。)に沿って互いに整列することが分かる。

セ 上記(1)ア及びイ並びに図面から、引用文献2に記載されたピストン20は、コネクティングロッド40に接続されてクランクシャフトを回転させるものであるから、ピストンリストピン穴28に関して、一方がスラスト側、他方が反スラスト側であるといえる。したがって、Fig.8を参照すると、引用文献2に記載されたピストン20において、スラスト側及び反スラスト側のピストンスカート20Bは、ピストンスカート20Bの外側表面から内側表面まで貫通して開口する、最下自由縁からピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部を有しているといえる。


(3)引用発明2
以上の(1)及び(2)並びにFig.1ないし20の記載を総合すると、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

「一体型のピストン20であって、
ピストン面22を有するピストン本体と、
ピストン面22から延びる一対のピンボスであって、リストピン軸に沿って互いに整列するピストンリストピン穴28を有する一対のピンボスと、
一対のピンボスに固着され、横方向に間隔をおいた一対のピストンスカート20Bであって、一対のピンボスの間においてピストン面22から最下自由縁まで延びるピストンスカート20Bとを備え、
ピストン本体はスラスト側と反スラスト側とを有し、スラスト側及び反スラスト側のピストンスカート20Bはピストンスカート20Bの外側表面から内側表面まで貫通して開口する、最下自由縁からリストピン軸を越えて上方向に延びる凹部を有する、一体型のピストン20。」

2 本願発明と引用発明2との対比・検討
(1)対比
本願発明と、引用発明2とを対比する。
引用発明2における「一体型のピストン20」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願発明における「モノブロックピストン」に相当し、以下同様に、「ピストン面22」は「上側クラウン」に、「リストピン軸」は「ピンボア軸」に、「ピストンリストピン穴28」は「ピンボア」に、「ピストンスカート20B」は「スカート部」に、それぞれ、相当する。

したがって、本願発明と、引用発明2とは、
「モノブロックピストンであって、
上側クラウンを有するピストン本体と、
上側クラウンから延びる一対のピンボスであって、ピンボア軸に沿って互いに整列するピンボアを有する一対のピンボスと、
一対のピンボスに固着され、横方向に間隔をおいた一対のスカート部であって、一対のピンボスの間において上側クラウンから最下自由縁まで延びるスカート部とを備え、
ピストン本体はスラスト側と反スラスト側とを有し、スラスト側の前記スカート部は、スカート部の外側表面から内側表面まで貫通して開口する、最下自由縁から前記ピンボア軸を越えて上方向に延びる凹部を有する、モノブロックピストン。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本願発明においては、「反スラスト側のスカート部は凹部を有さない」のに対し、
引用発明2においては、「反スラスト側のピストンスカート20Bはピストンスカート20Bの外側表面から内側表面まで貫通して開口する、最下自由縁からリストピン軸を越えて上方向に延びる凹部を有する」点(以下、「相違点2」という。)。

(2)検討
上記相違点2について判断する。
引用文献1には、上記1(3)で述べたとおり、「内燃機関用ピストンにおいて、ピンボス軸線に関しスラスト側に位置するスカート部に開口を形成し、反スラスト側に位置するスカート部には開口を形成しない技術。」(引用技術1)が記載されている。
ここで、引用技術1において「反スラスト側に位置するスカート部には開口を形成しない」のは、ピストンの耐久性を確保するためである。
そして、ピストンの耐久性を確保することは、ピストンにおける普遍的な課題である。
してみれば、引用発明2において、ピストンの耐久性を確保するために、上記引用技術1を採用することにより本願発明の相違点2に係る発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)効果について
本願発明は、全体としてみても、引用発明2及び引用技術1から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

(4)小括
したがって、本願発明は、引用発明2及び引用技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、引用発明1及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、上記第4のとおり、本願発明は、引用発明2及び引用技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-11 
結審通知日 2015-08-18 
審決日 2015-08-31 
出願番号 特願2012-527004(P2012-527004)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 槙原 進
金澤 俊郎
発明の名称 低摩擦スカートを有するモノブロックピストン  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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