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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1310419
審判番号 不服2014-10586  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-04 
確定日 2016-01-27 
事件の表示 特願2009-511517「多発性硬化症を治療するためのクラドリビン・レジメン」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月29日国際公開、WO2007/135172、平成21年10月29日国内公表、特表2009-537605〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成19年5月23日を国際出願日(パリ条約による優先権主張2006年5月24日(EP)ヨーロッパ特許庁、及び2006年9月18日(US)アメリカ合衆国)とする出願であって、その請求項1に記載の発明は、平成26年6月4日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「 多発性硬化症に罹患し、かつ多発性硬化症のための少なくとも1つの慣用的療法に対して不応性である患者を治療するための薬剤の製造のためのクラドリビンおよびIFN-ベータの組合せの使用であって、クラドリビンが以下の逐次段階:
(i)クラドリビンが投与される誘導期間であって、そして誘導期間の終了時に到達されるクラドリビンの総用量が1.7 mg/kg?3.5 mg/kgである誘導期間;
(ii)クラドリビンが投与されない無クラドリビン期間;
(iii)クラドリビンが投与される維持期間であって、そして維持期間中に投与されるクラドリビンの総用量が誘導期間(i)の終了時に到達されるクラドリビンの総用量より低いかまたは等しい維持期間;
(iv)クラドリビンが投与されない無クラドリビン期間
に従って経口的に投与され、
前記慣用的療法が、ベータ・インターフェロンによる治療、酢酸グラチラマーによる治療、ナタリツマブによる治療、及びミトキサントロンによる治療から成る群から選択される、使用。」(以下、「本願発明」という。)


2.原査定における拒絶の理由の概要

原査定における拒絶理由の一つは、本願は、発明の詳細な説明に所定の課題を解決できる発明として記載されていないものについて特許を請求しようとするものであるから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。


3.当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について

特許法第36条第6項第1号には、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」と規定されており、当該規定を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。


(2)本願発明が解決しようとする課題
上記(1)に示したところに照らして、本願発明が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているかについて、以下検討する。

まず、本願明細書には、以下のとおりの記載がある(なお、下線は合議体が付した。)。

(摘記事項1)
「【0018】
いくつかの副作用(AE)、例えば日和見免疫機能または骨髄抑制に関連した感染の発生率増大は、最高用量で観察された(Selby et al., 1998、上記;Beutler et al., 1994, Acta hematol., 91: 10-15)。効能用量とAE発生の用量との間の安全性の狭い限界のため、今までのところ、多発性硬化症におけるクラドリビンに関する臨床試験は、静脈内または皮下投与のいずれかを用いて実行されてきた。その結果、Beutler等(Beutler et al., 1996, Seminars in Hematology, 33, 1(S1), 45-52)は、クラドリビンによる多発性硬化症の治療のための経口経路を除外した。
【0019】
Grieb等は、再発-寛解性多発性硬化症を有する患者11名における小試験を報告した(Grieb et al., 1995, Archivum Immunologiae et Therapiae Experimentalis, 43(5-6), 323-327)が、この場合、クラドリビンは約4?5.7 mg/kg(それぞれ約52および約75キロの患者)の総用量で、即ち2?2.85 mg/kgの総有効用量で、5日の6ヶ月コースの間、経口的に投与された。一部の人に関しては、3?6ヶ月の無クラドリビン期間後に、0.4?0.66 mg/kgの累積用量で、5日の1回再治療が実行された。上記のレジメンを用いて観察された副作用は、クラドリビンの静脈内注入により治療された慢性進行性多発性硬化症に罹患している患者に関する試験で観察されたものほど重度でなかったということであった(Sipe et al., 1994, Lancet, 344, 9-13)が、しかし依然として存在した。さらに、上記の経口レジメン対静脈内注入療法の治療的効能が問題にされ(Grieb et al., 1995、上記)、そして「非応答者」の一群が同定されている(Stelmasiak et al., 1998, Laboratory Investigations, 4(1), 4-8)。
【0020】
したがって、副作用の発生および/または重症度を低減しながら、MS病変に及ぼす同一のまたは改善された作用を可能にするクラドリビンの経口投与を包含する多発性硬化症の治療方法を有することが望ましい。さらに、MSは慢性疾患であるので、再治療が可能であるような方法で副作用の発生および/または重症度を低減することが望ましい。治療期間の間のクラドリビン治療の持続的利益も望ましい。
【0021】
少なくとも1つの慣用的療法に対して不応性である患者の治療を可能にする多発性硬化症の治療方法を有することも望ましい。」(段落【0018】?【0021】)

(摘記事項2)
「【発明が解決しようとする課題】
【0024】
発明の概要
本発明は、多発性硬化症の治療のための製剤処方物の調製のためのベータ・インターフェロンと組合されたクラドリビンの使用に向けられるが、この場合、クラドリビン調製物は経口的に投与される。
【0025】
特に本発明は、少なくとも1つの慣用的療法に対して不応性である患者の治療のための薬剤の調製のためにベータ・インターフェロンと組合されたクラドリビンの使用に向けられる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一実施形態は、多発性硬化症の治療におけるベータ・インターフェロンと組合されたクラドリビンのための改良型用量投与レジメンを提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の付加的実施形態は、多発性硬化症の治療のための製剤処方物の調製のためにベータ・インターフェロンと組合されたクラドリビンの使用を提供し、この場合、副作用は低減され、クラドリビンのさらなる使用を可能にする。」(段落【0024】?【0027】)

(摘記事項3)
「【0266】
実施例1:再発型のMSの治療における経口クラドリビン
再発型の臨床的に明確な多発性硬化症を有する患者60名の試験を実行する。先ず、基線値を確立するために、正常肝臓、腎臓および骨髄機能に関して各患者を検査する。
【0267】
事前の12ヶ月以内に1回または複数回の再発を有した18?55歳の男性または女性から、
患者を選択する。女性患者は、非妊娠中女性である。
【0268】
以下の表1に列挙した治療群のうちの1つに、患者を無作為に割り当てる:
【表5】


【0269】
群2および3の患者は各々、WO 2004/087101、実施例3に記載されたようなシクロデキストリン処方物中に組合される3 mgまたは10 mgの2-CdA(患者の体重によって、1日1、2または3回投与)を摂取する。ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンを含有する3 mgまたは10 mgの2-CdA錠剤中のクラドリビン処方物の組成を、以下の表2に列挙する:
【表6】


【0270】
患者の体重によっている誘導期間に関する投与スキームの例を、それぞれ1.75 mg/kgおよび3.5 mg/kgの目標用量に関して以下の表3および4に示す。維持期間に関しては、表3の投与スキームが適用可能である。
【0271】
【表7】


【0272】
【表8】



【0273】
群1では、患者は、プラセボ(生理食塩水)を4ヶ月間摂取し、その後、8ヶ月は治療を施さない。
【0274】
群2では、患者は、2-CdA シクロデキストリン処方物の2ヶ月(誘導期間)間、月に約5日間のクラドリビンの毎日経口投与を受け、例えば最初の2ヶ月の終了時に投与される総有効量は約0.7 mg/kg(約40%の生物学的利用能に関しては約1.75 mg/kgの総用量)であり;その後、2ヶ月間プラセボを投与され;その後8ヶ月間は治療を受けない。
【0275】
群3では、患者は、2-CdA シクロデキストリン処方物の4ヶ月(誘導期間)間、月に約5日間のクラドリビンの毎日経口投与を受け、例えば最初の4ヶ月の終了時に投与される総有効量は約1.4 mg/kg(約40%の生物学的利用能に関しては約3.5 mg/kgの総用量)であり;その後8ヶ月間は治療を受けない。
【0276】
13ヶ月目に開始して、3患者群はすべて、より低い用量(例えば最初の2ヶ月の終了時に投与される総有効用量は約0.7 mg/kgである)で2ヶ月(維持期間)間に約5日/月の間、クラドリビン・シクロデキストリン処方物による再治療を受け、その後、10ヶ月は治療を受けない。
【0277】
最後に、25ヶ月目に、全患者群が、より低い用量(例えば最初の2ヶ月の終了時に投与される総有効用量は約0.7 mg/kgである)で2ヶ月(維持期間)間に約5日/月の間、クラドリビン・シクロデキストリン処方物による再治療を受け、その後、10ヶ月より長い間、治療を受けない。
【0278】
Miller et al., 1996、上記;Evans et al., 1997、上記;Sipe et al., 1984、上記;およびMattson, 2002、上記に記載されたようなMRIスキャンおよび神経学的検査により、MSの進行に関連した脳の病変の任意の進行または改善が認められるか否かを確定するために、患者をモニタリングする。全患者が、12ヶ月目に、基線およびMRI試験(脳または脊髄、病変の位置確認)を受ける。
【0279】
患者の能力障害進行ならびに最初の再発を有するための時間を、24ヶ月目に無再発患者の割合と同様にモニタリングする。
【0280】
リンパ球マーカーおよび単球数を、患者においてモニタリングする。
【0281】
群2および3の患者は、脳病変の低減を示す。
【0282】
誘導治療および維持治療の連続から成る2-CdAレジメンは脳病変を低減するのに効率的であり、重症副作用は観察されない、ということをデータは示す。」(段落【0266】?【0282】)

(摘記事項4)
「 実施例2:MSの治療における経口クラドリビンおよびレビフ(登録商標)の組合せ治療
1. 患者
再発型の臨床的に明確なMSを有し、レビフ(登録商標)を摂取しながらスクリーニング前の先行する48週に少なくとも1回の再発を経験している二百二十(220)名の患者の試験を実行する。
【0283】
この96週治療試験における登録者に関して定性するために、被験者は:
以前の48週間内(スクリーニング前)に少なくとも1回の再発を経験しており;そして
スクリーニング前に少なくとも48週間、レビフ(登録商標)を摂取している。
年齢18?55歳(55を含む)体重40?120 kg(120を含む)の男性または女性から、患者を選択する。
【0284】
一旦登録されると、レビフ(登録商標)を摂取しながら活動性MS症候を経験しているこれらの被験者は、かれらの現行レビフ(登録商標)レジメンに追加して高用量のクラドリビン(N=89、群3として限定される、表1参照)、低用量のクラドリビン(N=89、群2として限定される、表1参照)またはプラセボ(N=42、群1として限定される、表1参照)を摂取するために2:2:1比で無作為化される。
【0285】
この試験に関しては、かれらの現行レビフ(登録商標)レジメンへの追加療法としてプラセボを摂取している被験者は、対照群である。レビフ(登録商標)療法への追加クラドリビンに対する被験者の応答を、安全性,耐容性および有効性に関して、レビフ(登録商標)療法に追加するプラセボに対する被験者の応答と比較する。
【0286】
2. 製品
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの複合体中で10 mg錠剤で提示されるクラドリビン(表2参照)およびレビフ(登録商標)を、試験に登録している被験者に提供する。
【0287】
レビフ(登録商標)は、皮下投与用に意図された44 mcg(容積0.5 mL)で即使用可能な予め充填された注射器中の滅菌溶液として供給される。
【0288】
レビフ(登録商標)の投与量は、週3回皮下注射される44 mcgである。
【0289】
クラドリビンは、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとの複合体中に10 mgのクラドリビンを含有する錠剤で提示される(表2参照)。
【0290】
マッチング・プラセボ錠剤は、クラドリビン錠剤と同一組成を有するが、しかしクラドリビンを含有しない。プラセボに関しては、クラドリビンは10 mgの2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンにより取り替えられる。
【0291】
3. 投与スキーム
用量:クラドリビンは、10 mg錠剤中で経口投与される。投与されるべき錠剤の数は、体重範囲ならびに被験者が無作為化される治療部門によって、4?10錠剤の範囲のブリスター包装中に調剤される10 kg体重範囲(即ち60?69.9 kg、70?79.9 kg等;表7参照)を用いて、体重に基づいて標準化される。
【0292】
ブリスター包装中に調剤される錠剤の総数は、4?5日期間に亘って均一に投与されるべきである。例えば5つの錠剤を摂取する被験者は、5日間に1日摂取すべきである;一方、7つの錠剤を摂取する被験者は、1日目に2つ、2日目に2つ、3日目に1つ、4日目に1つ、そして5日目に1つを摂取すべきである。
【0293】
表5は、1周期の治療のための毎日錠剤投与の崩壊を示す。
【0294】
【表9】


【0295】
クラドリビンを摂取する患者は、2つの期間中にそれを摂取する。第一期間は誘導期間と呼ばれ、そして第二期間は維持期間と呼ばれる。
【0296】
【表10】



【0297】
誘導期間(第5、第9、第13週)
最初の48週は、誘導期間(試験第1日目に開始して、第47週の終わりまで)に対応する。3群の患者は、以下のスキームに従う(表6参照):
群3(高用量クラドリビン)は、4連続周期の間、0.875 mg/kg/周期を摂取する;
群2(低用量クラドリビン)は、0.875 mg/kg/周期を2連続周期の間+プラセボを2周期、摂取する;
群1(プラセボ)は、プラセボを4連続周期の間、摂取する。
【0298】
試験第1日目に調剤された治療の初期経過後、各被験者は、第5、9および13週目の開始時に、4週間隔で、3つの付加的治療に戻る(表6参照)。
【0299】
クラドリビン/プラセボの精確な薬剤用量投与は第5、9および13週目の開始時にクラドリビン/プラセボ錠剤を調剤する前の体重に基づいているため、被験者の体重は精確に査定されるべきである。
【0300】
患者はすべて、低用量または高用量クラドリビン錠剤またはプラセボを誘導期間中のそれらの進行中のレビフ(登録商標)治療レジメンへの「追加」として摂取する。
【0301】
維持期間(第48および52週)
維持期間(第48?96週)において、誘導期間にクラドリビンを摂取する被験者は、次にレビフ(登録商標)に付加された低用量クラドリビン(2周期の間、0.875 mg/kg/周期、表6参照)を摂取するが、一方、プラセボを摂取する者は、レビフ(登録商標)に付加されたプラセボを摂取し続ける(2周期の間、表6参照)。
【0302】
クラドリビンの錠剤は強度10 mgであり、標準化10 kg体重範囲に基づいて調剤される(表7参照)。各治療周期は、28日期間中に4?5連続日の間投与される(表5参照)クラドリビン錠剤の個々の毎日経口用量投与と定義される。
【0303】
【表11】


【0304】
本試験は、同一集団の被験者においてレビフ(登録商標)に付加される場合のプラセボと比較した、活動性疾患を有する多発性硬化症被験者においてレビフ(登録商標)に付加
される場合の経口クラドリビンの安全性、耐容性および有効性を評価するよう意図される。
【0305】
特に、この試験のための試料サイズは、この試験に入る前の48週に、レビフ(登録商標)を摂取しながら少なくとも1回の再発を有した被験者におけるレビフ(登録商標)+プラセボ追加療法と比較した場合に、96週のレビフ(登録商標)+クラドリビン後の被験者当たりのT1ガドリニウム強調病変の平均数の低減を検出するよう意図される。
【0306】
リンパ球マーカーおよび単球数を、患者においてモニタリングする。
【0307】
Miller et al., 1996、上記;Evans et al., 1997、上記;Sipe et al., 1984、上記;およびMattson, 2002、上記に記載されたようなMRIスキャンおよび神経学的検査により、MSの進行に関連した脳の病変の任意の進行または改善が認められるか否かを確定するために、患者をモニタリングする。
【0308】
患者の能力障害進行ならびに最初の再発を有するための時間を、24ヶ月目に無再発患者の割合と同様にモニタリングする。
【0309】
MRI技法のような方法を用いて検出されるようなRRMSの再発の頻度ならびにCNSにおける病変のモニタリングにより、治療の有効性が測定される(Miller et al., 1996, Neurology, 47(Suppl 4): S217;Evans et al., 1997, Ann. Neurology, 41: 125-132)。
【0310】
MRI T1ガドリニウム強調病変の低減および/または抑制の観察(活動性炎症の領域を表示すると考えられる)は、主要有効性評価項目を示す。
【0311】
二次的有効性評価項目としては、新規のT1ガドリニウム強調性あるいは新規のT2非強調性または拡張性病変として定義される被験者当たりの組合せ活動性病変の数、あるいはその両方(二重計数しない);被験者当たりの活動性T2病変の数;被験者当たりの活動性T1ガドリニウム強調病変の数;活動性T2病変を有さない被験者の割合;活動性T1ガドリニウム強調病変を有さない被験者の割合;T2病変容積の変化;再発率;強調能力障害状態スケールスコアおよびScripps神経学的評価スケール(SNRS)スコア(Sipe et al., 1984, Neurology, 34, 1368-1372)が挙げられる。
【0312】
群2および3における患者は、脳病変の低減を示す。
【0313】
レビフ(登録商標)による治療と組合された誘導治療および維持治療の連続から成る2-CdAレジメンは脳病変を低減するのに効率的であり、重症副作用は観察されない、ということをデータは示す。
【0314】
この96週試験の終わりにさらに48週持続期間の間の追跡延長試験が可能である。追跡延長試験用量投与は、96週目で開始する。被験者は、本明細書に上記した維持期間と同一スキームに従って、2周期に亘って提供されるクラドリビン1.75 mg/kg/年 + レビフ(登録商標)44 mcgTIWを摂取する。」(段落【0282】?【0314】)


上記摘記事項1に示されるとおり、本願発明は、クラドリビンには一定の副作用があることが公知であったところ、副作用の発生および/または重症度を低減しながら、クラドリビンの経口投与を包含する多発性硬化症の治療方法が望まれており、また、多発性硬化症は慢性疾患であるので、再治療が可能であるような方法で副作用の発生および/または重症度を低減することも望まれていたという技術的背景から生じたものであると認められる。
そして、摘記事項2に示されるとおり、本願発明における改良型の用量投与レジメンを提供することによって、上記のような副作用が低減され、クラドリビンのさらなる使用を可能にすることが本願発明の目的であるといえる。このような目的については、摘記事項3の「実施例1」の結果(段落【0281】と【0282】)及び摘記事項4の「実施例2」の結果(段落【0312】と【0313】)のいずれにおいても、脳病変が低減した旨のみならず重症副作用は観察されない旨が記載されている点とも整合している。
これらの記載内容を総合的に勘案すると、本願発明が解決しようとする課題は、慣用治療手段に対して不応性である多発性硬化症患者を治療するためのクラドリビンとインターフェロン-ベータの組合わせの使用において、治療効果を発揮しつつ、副作用の発生および/または重症度を低減するように改良された用量投与レジメンを提供すること、であると認められる。


(3)検討
次に、本願の発明の詳細な説明の記載に基づいて、上記の課題が解決できると理解されるかどうか検討する。
まず、摘記事項3で示された実施例1については、クラドリビンを単剤として患者に投与する実施形態であるから、それ自体は本願発明の技術的範囲に属さない実施例であるが、一応検討する。当該実施例1では、患者を「表1」で示されるプラセボ群、クラドリビン低用量群(1.75mg/kg)、クラドリビン高用量群(3.5mg/kg)に分けて、各患者の体重に応じて「表3」?「表4」に示される錠剤数を決定すること、及び誘導期間、維持期間において特定の投与量を投与することが記載されているものの、これらはいずれも、試験を実施する前の段階の試験計画を記載しているにすぎないものである。そして、試験を実施したことで得られる定量的な結果、例えば多発性硬化症の病変を評価した評価値や副作用の重症度を測定した数値などについては何も記載されていない。また、段落【0281】及び【0282】において、脳病変が低減したこと及び重症副作用は観察されないことが一応定性的に記載されているものの、これは試験計画時における希望的な予測を単に述べたにすぎないような内容であり、実際に課題が解決されると当業者が理解できる程度の試験結果を表しているとはいえない。

次に、摘記事項4で示された実施例2については、クラドリビンとレビフ(インターフェロン-ベータの商品名)を併用して患者に投与する実施形態が開示されている。しかしながら、先の実施例1と同様に、患者を「表1」で示されるプラセボ群、クラドリビン低用量群(1.75mg/kg)、クラドリビン高用量群(3.5mg/kg)に分けて、患者の体重に応じて「表7」に示される錠剤数を決定すること、及び「表5」と「表6」に示される誘導期間、維持期間において特定の投与量を投与することが記載されているものの、これらはいずれも試験を実施する前の段階の試験計画を記述しているにすぎないものである。そして、試験を実施して得られる定量的な結果、例えば多発性硬化症の病変を評価した評価値や副作用の重症度を測定した数値などについては何も記載されていない。また、段落【0312】及び【0313】において、脳病変が低減したこと及び重症副作用は観察されないことが一応定性的に記載されているものの、これは試験計画時における希望的な予測を単に述べたにすぎないような内容であり、実際に課題が解決されると当業者が理解できる程度の試験結果を表しているとはいえない。そうすると、当該実施例2に記載された具体的な投与レジメンに限ってみても、発明の課題が解決されているとは理解できない。まして、本願発明におけるクラドリビンの投与レジメンに関しては、「誘導期間」、「無クラドリビン期間」、「維持期間」及び「無クラドリビン期間」の具体的な期間や、「誘導期間」と「維持期間」におけるクラドリビンの投与態様が特定されておらず、種々の態様を含むものである。そうすると、「誘導期間」や「維持期間」内において、例えば3.5mg/kgのクラドリビンを一日に投与してしまう実施形態も包含されており、そのような投与態様は、技術常識に基づけば、急激に体内に多量のクラドリビンが取り込まれることによって副作用が重症化してしまう蓋然性が高い。そうすると、本願発明の全体についてまで、発明の課題が解決されるとは理解できない。

そして、発明の詳細な説明に記載された他のすべての事項を参照しても、クラドリビンの投与レジメンに関する実施の形態、用語の定義、クラドリビンの製造方法、インターフェロン-ベータの化学的性質及び不応性患者の選択方法等に関する説明がなされているのみで、本願発明で示される投与レジメンを採用することで、不応性の多発性硬化症患者に対して治療効果が実際に得られ、かつ副作用の発生又は重症度も低減したと当業者が理解できる程度の記載は見いだせない。
さらに、例えば摘記事項1によれば、そもそもクラドリビンには副作用の問題点が従来から指摘されており、薬剤としての効能と安全性の両方を達成するには用量の限界が狭いものであるという技術常識が本願出願前には存在していた。また、本願発明は慣用的治療法に対して不応性である患者を対象としている以上、治療がより困難な状況にあることなども踏まえると、本願出願時の技術常識に基づいて、本願発明の投与レジメンが課題を達成できるとは当業者といえども理解できない。

(4)小活
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲や、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
よって、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


4.むすび

以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-20 
結審通知日 2015-08-25 
審決日 2015-09-14 
出願番号 特願2009-511517(P2009-511517)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒巻 真介吉田 佳代子  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
佐久 敬
発明の名称 多発性硬化症を治療するためのクラドリビン・レジメン  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 青木 篤  
代理人 池田 達則  
代理人 福本 積  
代理人 古賀 哲次  
代理人 中島 勝  

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