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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1310466
審判番号 不服2015-4062  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-02 
確定日 2016-01-27 
事件の表示 特願2011-541280「排気ガスから電気エネルギーを生成する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 8日国際公開、WO2010/076098、平成24年 5月31日国内公表、特表2012-512359〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2009年11月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年12月17日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成23年5月26日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年7月26日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成26年2月13日付けで拒絶理由が通知され、同年5月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月23日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年3月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に、特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年3月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成27年3月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成27年3月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成26年5月19日付けで提出された手続補正書により補正された)下記アに示す請求項1ないし11を、下記イに示す請求項1ないし11と補正するものである。
ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし11
「 【請求項1】
内燃エンジン(3)の排気ガス(2)から電気エネルギーを生成する装置(1)は、排気ガス入口(5)と、排気ガス出口(6)と、排気ガス入口(5)と排気ガス出口(6)との間の熱交換部(7)とを有する発電機(4)を含み、前記熱交換部(7)は、前記排気ガス(2)のための複数の流路(8)を有し、前記流路(8)は、前記流路(8)から外側へ向く側面(10)で、熱冷却装置(11)に熱伝導的に接続される熱電素子(9)により少なくとも部分的に囲まれ、前記流路(8)は、少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)を有し、
前記少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)は、相対的に冷たい前記排気ガス(2)の領域では、前記排気ガス(2)の残存する熱が大きな範囲から排気ガス流へ分散され、かつ相対的に熱い前記排気ガス(2)の領域である前記排気ガス入口(5)の直接的な下流に配置された前記熱電素子(9)の過熱が同時に防がれるように、前記流路(8)の下流部分に配置される、
装置(1)。
【請求項2】
異なる型の前記熱電素子(9)は、少なくとも1つの前記流路(8)に少なくとも沿って設けられ、前記熱電素子(9)は、平均排気ガス温度に関する異なる最大効率を有し、それらの異なる効率に関して、前記流路(8)の第1の部分(12)又は少なくとも1つの第2の部分(13)に配置される、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
少なくとも1つの前記流路(8)の前記少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)は、少なくとも1つのガイドブレード(15)又は1つの熱伝導構造(16)を有する請求項1又は2に記載の装置(1)。
【請求項4】
少なくとも1つの前記流路(8)は、前記流路(8)の第1の壁(21)上の少なくとも1つの構造(19)又は1つの外形(20)を有し、前記第1の壁(21)は、前記熱電素子(9)と直接的に熱接触する前記流路(8)の表面であり、前記少なくとも1つの構造(19)は、切り込みにより前記流路(8)の下流部に形成され、前記流路(8)に突出する表面を有し、前記1つの外形(20)は、前記流路(8)の下流部に形成され、前記流路(8)の壁の閉じた表面領域を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項5】
動圧(22)の増加に伴って、少なくとも1つの前記流路(8)内の前記排気ガス(2)は、隣接するバイパス流路(23)へ少なくとも部分的に輸送される、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項6】
前記バイパス流路(23)は、少なくとも1つの前記流路(8)に配置されるボディ(24)により形成され、前記ボディ(24)は、開口ベース表面(25)を有し、前記流路(8)内の前記排気ガス(2)の流れ方向(14)の反対方向に傾斜し、それを通じて前記排気ガス(2)が流れうる第2の壁(26)を有する、請求項5に記載の装置(1)。
【請求項7】
前記熱交換部(7)の上流に設けられる少なくとも1つの酸化触媒コンバータ(27)をさらに備える請求項1から6のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項8】
前記酸化触媒コンバータ(27)は、加熱可能である請求項7に記載の装置(1)。
【請求項9】
前記熱交換部(7)の下流に設けられる少なくとも1つのNOxアキュムレータ(28)をさらに備える請求項1から8のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項10】
装置(1)によって内燃エンジン(3)の排気ガス(2)から電気エネルギーを生成する方法であって、排気ガス入口(5)と、排気ガス出口(6)と、排気ガス入口(5)と排気ガス出口(6)との間の熱交換部(7)とを有する発電機(4)を含み、前記熱交換部(7)は、前記排気ガス(2)のための複数の流路(8)を有し、前記流路(8)から外側へ向く側面(10)で、冷却装置(11)に熱伝導的に接続される熱電素子(9)により少なくとも部分的に囲まれ、前記流路(8)の下流部分に配置される流れ操作のための素子(30)によって、前記排気ガス(2)と前記熱電素子(9)との熱伝導は、少なくとも前記排気ガス(2)の全体流量又は前記排気ガス(2)の温度(33)の関数として調節される、方法。
【請求項11】
内燃エンジン(3)を有し、請求項1から9のいずれか一項に記載の前記排気ガス(2)から電気エネルギーを生成する装置(1)を有する、自動車(29)。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし11
「 【請求項1】
内燃エンジン(3)の排気ガス(2)から電気エネルギーを生成する装置(1)は、排気ガス入口(5)と、排気ガス出口(6)と、排気ガス入口(5)と排気ガス出口(6)との間の熱交換部(7)とを有する発電機(4)を含み、前記熱交換部(7)は、前記排気ガス(2)のための複数の流路(8)を有し、前記流路(8)は、前記排気ガス入口(5)付近の上流部及び前記排気ガス出口(6)付近の下流部を含み、前記排気ガス(2)は、前記下流部よりも前記上流部が熱く、前記流路(8)は、前記流路(8)から外側へ向く側面(10)で、熱冷却装置(11)に熱伝導的に接続される熱電素子(9)により少なくとも部分的に囲まれ、前記流路(8)の少なくとも一方は、少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)又は前記流路(8)に少なくとも沿って設けられる異なる型の前記熱電素子(9)を有し、
前記少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)は、前記上流部には配置されず、前記下流部にのみ配置される熱伝導構造(16)を有し、前記熱伝導構造(16)は、前記発電機(4)の効率を向上させるために、前記排気ガス(2)の乱流を発生させ、かつ層状境界流を低減することにより、相対的に冷たい前記排気ガス(2)の領域では、前記排気ガス(2)の残存する熱が排気ガス流へ分散され、かつ相対的に熱い前記排気ガス(2)の領域である前記排気ガス入口(5)の前記上流部に配置された前記熱電素子(9)の過熱が同時に防がれる、
装置(1)。
【請求項2】
前記熱電素子(9)は、平均排気ガス温度に関する異なる最大効率を有し、それらの異なる効率に関して、前記流路(8)の第1の部分(12)又は少なくとも1つの第2の部分(13)に配置される、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
少なくとも1つの前記流路(8)の前記少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)は、少なくとも1つのガイドブレード(15)を有する請求項1又は2に記載の装置(1)。
【請求項4】
少なくとも1つの前記流路(8)は、前記流路(8)の第1の壁(21)上の少なくとも1つの構造(19)又は1つの外形(20)を有し、前記第1の壁(21)は、前記熱電素子(9)と直接的に熱接触する前記流路(8)の表面であり、前記少なくとも1つの構造(19)は、切り込みにより前記流路(8)の下流部に形成され、前記流路(8)に突出する表面を有し、前記1つの外形(20)は、前記流路(8)の下流部に形成され、前記流路(8)の壁の閉じた表面領域を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項5】
動圧(22)の増加に伴って、少なくとも1つの前記流路(8)内の前記排気ガス(2)は、隣接するバイパス流路(23)へ少なくとも部分的に輸送される、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項6】
前記バイパス流路(23)は、少なくとも1つの前記流路(8)に配置されるボディ(24)により形成され、前記ボディ(24)は、開口ベース表面(25)を有し、前記流路(8)内の前記排気ガス(2)の流れ方向(14)の反対方向に傾斜し、それを通じて前記排気ガス(2)が流れうる第2の壁(26)を有する、請求項5に記載の装置(1)。
【請求項7】
前記熱交換部(7)の上流に設けられる少なくとも1つの酸化触媒コンバータ(27)をさらに備える請求項1から6のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項8】
前記酸化触媒コンバータ(27)は、加熱可能である請求項7に記載の装置(1)。
【請求項9】
前記熱交換部(7)の下流に設けられる少なくとも1つのNOxアキュムレータ(28)をさらに備える請求項1から8のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項10】
装置(1)によって内燃エンジン(3)の排気ガス(2)から電気エネルギーを生成する方法であって、排気ガス入口(5)と、排気ガス出口(6)と、排気ガス入口(5)と排気ガス出口(6)との間の熱交換部(7)とを有する発電機(4)を含み、前記熱交換部(7)は、前記排気ガス(2)のための複数の流路(8)を有し、前記流路(8)は、前記排気ガス入口(5)付近の上流部及び前記排気ガス出口(6)付近の下流部を含み、前記排気ガス(2)は、前記下流部よりも前記上流部が熱く、前記流路(8)は、前記流路(8)から外側へ向く側面(10)で、冷却装置(11)に熱伝導的に接続される熱電素子(9)により少なくとも部分的に囲まれ、前記流路(8)の少なくとも一方は、少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)又は前記流路(8)に少なくとも沿って設けられる異なる型の前記熱電素子(9)を有し、前記流路(8)の前記下流部に配置される前記流れ操作のための素子(30)によって、前記排気ガス(2)と前記熱電素子(9)との熱伝導は、少なくとも前記排気ガス(2)の全体流量又は前記排気ガス(2)の温度(33)の関数として調節され、前記少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)は、前記上流部には配置されず、前記下流部にのみ配置される熱伝導構造(16)を有し、前記発電機(4)の効率を向上させるために、前記熱伝導構造(16)により前記排気ガス(2)の乱流を発生させ、かつ層状境界流を低減することにより、相対的に冷たい前記排気ガス(2)の領域では、前記排気ガス(2)の残存する熱が排気ガス流へ分散され、かつ相対的に熱い前記排気ガス(2)の領域である前記排気ガス入口(5)の前記上流部に配置された前記熱電素子(9)の過熱が同時に防がれる、方法。
【請求項11】
内燃エンジン(3)を有し、請求項1から9のいずれか一項に記載の前記排気ガス(2)から電気エネルギーを生成する装置(1)を有する、自動車(29)。」
(下線は、本件補正箇所を示すために、請求人が付したものである。)

2 本件補正の目的
審判請求人は、審判請求書において、本件補正に関し、
「(3)補正の根拠の明示
同日付けで提出の手続補正書に記載した通り、以下の補正を行いました。
請求項1及び10の補正は、補正前の請求項2及び3、当初明細書の段落0024、0054等に基づきます。
請求項2及び3の補正は、請求項1及び10の記載と整合させるためのものです。
よって、これらの補正は、特許法第17条の2第3項、第4項及び第5項の要件を満たしています。」
と説明しているが、本件補正の目的が特許法第17条の2第5項各号のいずれに該当するか具体的に説明していないので、本件補正の目的について検討する。

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明の発明特定事項である「流路(8)」について、「流路(8)は、少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)を有」するものを、「流路(8)の少なくとも一方は、少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)又は前記流路(8)に少なくとも沿って設けられる異なる型の前記熱電素子(9)を有」するものにする補正(以下、「補正事項」という。)を含むものである。

(1)特許法第17条の2第5項第2号について
上記補正事項のうち、「又は前記流路(8)に少なくとも沿って設けられる異なる型の前記熱電素子(9)」を追加する補正は、「流路(8)」が「少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)」を有するものから、「少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)」と「前記流路(8)に少なくとも沿って設けられる異なる型の前記熱電素子(9)」とを選択的に有するもの、すなわち、「少なくとも1つの流れ操作のための素子(30)」を有さずに「前記流路(8)に少なくとも沿って設けられる異なる型の前記熱電素子(9)」のみを有するものを含むように拡張するものであるから、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。

(2)特許法第17条の2第5項第4号について
上記審判請求書には、
「(4-2)理由1(特許法第36条第6項第2号)について
上述したように、当初明細書等の記載に基づいて請求項1及び10を補正しました。上記の補正は、既に登録となっている本願の対応米国特許(US8,713,924)、対応韓国特許(KR10-1299746)及び対応ロシア特許(RU2521533)に基づきます。
よって、補正後の請求項1?11に係る発明は、明確になったと思料致します。」
と記載されていることから、本件補正は、明りようでない記載の釈明を目的とするものであると主張していると解することができる。
特許法第17条の2第5項第4号は、「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」と規定しているから、明りようでない記載の釈明を目的とする補正は、審査官が拒絶の理由に示した特許請求の範囲が明瞭でない旨を指摘した事項について、その記載を明瞭にする補正に限られているところ、審査官が指摘した上記補正事項に関係する事項は、以下のとおりである。

ア 平成26年2月13日付け拒絶理由
「<理由1>
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


最初に、特許請求の範囲の全請求項の記載表現は、日本語として不明確であり、特許を受けようとする発明が明確でない。以下に各表現について指摘するが、最終的に請求項単位で読んだ場合に、日本語として技術が把握できるように補正されたい。
また、図面の符号番号は発明を特定する記載として認められないので、注意して下さい。
(1) 請求項1の記載では発明が不明確である。
(1a)「異なる型の熱電素子」との記載のみでは、何が異なるのか不明であり、技術範囲を特定できない。
(1b)「異なる型の熱電素子は、……又は少なくとも1つの流れ操作のための素子を有する少なくとも1つの前記流路に設けられる」では、意味が不明。

(2) 請求項2の記載では発明が不明確である。
(2a)「平均排気ガス温度に関する異なる最大効率を有」する、との表現は意味が不明りょう。
(2b)「前記流路の第1の部分又は少なくとも1つの第2の部分」との記載のみでは、これら部分について何ら特定されていない上、「それらの異なる効率に関して、…第1の部分又は…第2の部分に配置される」では日本語としても意味が不明確であって何をどのように配置したのか把握できない。」

イ 平成26年10月23日付け拒絶査定
「<理由1(特許法第36条第6項第2号)について>
平成26年5月19日付け手続補正書で特許請求の範囲に補正がなされたが、各請求項の記載は依然として日本語としての意味が不明確であり、請求項1?9、11に係る発明においては特許を受けようとする発明の「装置」、「自動車」の構造、請求項10に係る発明においては特許を受けようとする発明の「方法」の発明のいずれも、不明確である。

上記補正により、独立形式請求項である請求項1、10に係る発明は「流れ操作のための素子」を有するものに限定されたが、請求項1、3、10の記載を総合しても、当該素子の構造が現在の請求項の文章からは把握できず、当該素子をどのように使って「排気ガスと熱電素子との熱伝導」を調整するのか不明である。
また、請求項1、3の補正は当初明細書【0022】?【0024】の記載に基づいてなされていると思われるが、これら段落の文章自体が不明りょうであるため、【0024】記載の相対的に冷たい/熱い排気ガスの領域や【0022】記載のガイドプレート及び/又は熱伝導構造が「流れ操作のための素子」を構成するものか否か不明確であるうえ、その構造自体も明確でない。
そうすると、発明の詳細な説明及び図面を総合しても「流れ操作のための素子」がどのようなものかを把握することができず、「流れ操作のための素子」を発明特定事項として含む本願の請求項1?11に係る発明は不明確である。

請求項2は、補正前に請求項1に含まれていた「異なる型の熱電素子」を含む記載となったが、<理由1>の(1a)の他、(2)で指摘した記載不備が解消していない。」

そして、上記補正事項は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲を拡張するものであって、審査官が指摘した上記ア及びイに対応してその記載を明瞭にするものではない。
したがって、本件補正は、明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当しない。

(3)特許法第17条の2第5項第1号及び第3号について
本件補正は、請求項の削除及び誤記の訂正のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。

したがって、上記(1)ないし(3)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号のいずれを目的とするものにも該当しないから、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものである。

3 独立特許要件
仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号に規定される事項を目的とする補正に該当するものとして、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、予備的に検討する。

3-1 刊行物
(1)刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-199762号公報(以下、「刊行物」という。)には、次の記載がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱電変換素子を使用して、自動車の排気ガスなどの熱流体の熱を電気に変換する熱電変換技術、およびそれの実際的な適用技術に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より熱電変換素子を利用して、そのゼーベック効果に基づく熱の電気への変換を目的とした技術が幾つか提案されている。特に、近年は、世界的規模で拡大した自動車の普及に伴い、自動車から排気される排気ガスによる地球規模の温暖化が大きな問題となっている。自動車の排気ガスは、一般的に数百度℃にも達する高温排気ガスであり、かかる排気ガスの持つ多くの熱はそのまま排気ガスとともに大気中に放散されていた。
【0003】そこで、かかる自動車の排気ガスの熱、所謂排熱を利用して発電を行う熱電変換技術が注目を集め、盛んに研究されるようになってきた。
【0004】例えば、実開平6-79168号公報には、熱電変換素子により自動車等の排気熱から発電する排気熱利用発電装置において、熱電変換素子の低温部側のそれまでの自動車走行時の風による空冷方式を、エンジン冷却用の水を使用した水冷方式に改善することで、熱電素子の低温部側と高温部側との温度差を常時大きく維持できるようにした構成が開示されている。
【0005】また、かかる構成では、自動車の内燃機関(エンジン)からの排気ガスを、排気管内部に設けた熱交換機に導入し、導入した排気ガスを熱交換機に設けた複数の開口からなるディフューザからその円周方向に拡散させる構成である。拡散した排気ガスは、熱電変換素子の高温部側電極が接触して設けられた排気管壁に接触するように構成されている。
【0006】かかる構成を採用することにより、自動車の停止時のアイドリング状態でも、すなわち走行風が発生しない状態でも、熱電変換素子の冷却を十分に行うことができ、走行風による空冷式の場合に比べて常時必要な温度を確保して、安定して発電を行うこことができるよな改善が図られている。
【0007】特開昭63-262075号公報には、排気ガスの熱を利用する排気熱熱電変換発電器において、従来の吸熱部に設けた吸熱フィン、放熱フィンが排気ガスの出入り口側に設けられ、且つ吸熱、放熱面積が小さいために、十分な熱交換が行えないことに鑑み、多数枚のフィンを流路方向に対して斜め平行に設けたり、あるいは平面ハ字型に並列するなどの構成を採用することにより、その改善を図る構成が開示されている。
【0008】特開平11-122960号公報には、並列するフィンの長さを長短取り混ぜた構成の集熱フィンの先端側を対向させることにより集熱効果の改善を図ることが記載されている。特開2000-232244号公報には、集熱フィンのそれぞれが、対向する集熱フィン間に対向して設けられている構成が記載されている。」(段落【0001】ないし【0008】)

イ 「【0034】(実施の形態1)本実施の形態では、以下、ユニット状に形成した本発明の排熱熱電変換装置について説明する。図1は、ユニット状に形成された排熱熱電変換装置の熱電変換モジュール部を省いた状態での状況を示す要部斜視図である。図2は、図1に示す排熱熱電変換装置に熱電変換モジュールを搭載した状態での断面図である。
【0035】ユニット状に形成された排熱熱電変換装置Wは、図1、2に示すように、排気ガスを熱流体として流通させる排気管10aに形成した流通管10に熱電変換モジュール20を設けて構成されている。
【0036】排気管10a(10)は、図1に示す場合には、断面扁平形状で、上面11aおよび下面11bが平行な対向面に形成されている。上面11aは、略四角形状に切り欠きが設けられ、この切り欠き部に合わせた形状の集熱板12aが集熱部材12として設けられている。下面11b側にも、図2に示すように、上面11a側に設けたと同様に集熱部材12としての集熱板12bが設けられている。このようにして、排気管10aの対向位置に集熱板12a、12bが対面して設けられることとなる。
【0037】かかる集熱板12aには、図2に示すように、集熱面12acに対して鉛直下方に向けて複数枚の集熱フィン12afが同一材質で一体成形されて設けられている。複数枚の集熱フィン12afは、互いに所定間隔d隔てて、フィン面が対面するように設けられている。同様に、集熱板12bにも、集熱面12bcに対して鉛直上方に向けて集熱フィン12bfが上記要領で複数枚設けられている。
【0038】例えば、集熱板12a、12b、集熱フィン12af、12bfを熱伝導度の良好なアルミニウム(Al)などの金属で形成すればよい。但し、アルミニウムを使用する場合には、排気ガスに対する耐食性を向上させる目的で、例えば、集熱フィンの表面に50μm程度の陽極酸化処理を行って、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))の層を形成しておけばよい。なお、耐食性向上目的の上記アルミニウムへの表面処理は、かかる陽極酸化処理に限定する必要はなく、要は本発明の排熱熱電変換技術に支障が発生しない範囲で、熱伝導率の低下を許容範囲内に抑え、且つ耐食性の向上目的が果たせる処理であればよい。
【0039】かかる集熱フィン12af、12bfは、上記説明では集熱部材12a、12bに対して同一材質で一体成形して設ける構成を示したが、これは集熱フィン12af、12bfから、集熱部材12a、12bへの熱伝導が安定して行われるために好ましい構成と考えられる。これは、集熱板と集熱フィンとを異種材質で形成して、それぞれを溶接その他の方法で接続する場合に比べて、接続部での熱伝導の停滞が発生しにくく安定した熱伝導が期待できるためである。
【0040】しかし、かかる点に格別の配慮を必要としない場合には、同一材質で一体成形することなく、熱伝導率の良好な材質で各々形成した集熱板、集熱フィンを溶接などで接続するようにしてもよい。
【0041】対向して設けられた集熱板12a、12bにそれぞれ設けられた複数の略矩形平板状の集熱フィン12af、12bfは、集熱フィン12af、12bfのそれぞれの先端側のフィン面が、図1、2に示すように、対面するように設けられている。
【0042】すなわち、複数枚の集熱フィン12bfのそれぞれの先端側が、複数枚の集熱フィン12af間の所定の間隔dで隔てた隙間12ad内に差し込まれて、集熱フィン12afの先端側のフィン面と、集熱フィン12bfの先端側のフィン面とが、所定間隔あけてオーバーラップして対面した状態になっている。オーバーラップ度は、図2に示すように、集熱フィン12afの先端側と、この集熱フィン12afにオーバーラップしている集熱フィン12bf先端側との間隔Lで表示すればよい。
【0043】上記構成の集熱フィン12afを設けた集熱板12aは、図2に示すように、板面中央を集熱板12aの形状にほぼ合わせて切り欠いて枠状に形成し、上面10aの左右端側を断面L型に曲げ形成した集熱板取付部材13aに、溶接あるいはボルトナット止めなどで固定して設けられている。同様に集熱板12bも、板面中央を集熱板12bの板面形状にほぼ合わせて切り欠いて枠状に形成した下面11bの左右端側を断面L型に曲げた集熱板取付部材13bに、取付け固定されている。
【0044】すなわち、図1、2に示す場合には、集熱板12a、12bはそのまま排気管10aの上方管壁部、下方管壁部の一部をそれぞれ構成することとなる。
【0045】このようにして集熱板12a、12bを集熱板取付部材13a、13bに取り付けた状態では、図2に示すように、下方または上方に開口した断面略コ字形で、かかるコ字形の上下方向の開口部に、複数の集熱フィン12af、12bfが断面櫛形状に設けられた形状になっている。すなわち、集熱板12aを設けた集熱取付部材13aと、集熱板12bを設けた集熱取付部材13bとを、集熱板12aの集熱フィン12afの先端側が、集熱板12bの集熱フィン12bfの先端側と互い違いにオーバーラップするように合わされている。
【0046】合わせるに際しては、集熱フィン12af、12bfのオーバーラップ度を示す間隔Lを適切な値に調節する必要があるが、これは集熱板取付部材13a、13bのそれぞれの左右端側のL型屈曲部間に、間隔Lが適切な範囲になるように予め高さを決めた隔壁14aを仕切部材14として介在させることにより間隔Lを一義的に設定できるようにしておけばよい。
【0047】なお、図2では、管内の状況が分かりやすいように図面に向かって中心から左側を正面図で示し、右側を断面図で示した。
【0048】このようにして、上下を集熱板12a、12b、左右を隔壁14aで区画された断面略四角形状の集熱空間Aが構成されることとなる。また、隔壁14aには、排気ガスの熱を集熱空間A側に反射できるように熱反射板を使用するとより好ましい。
【0049】一方、集熱板取付部材13a、13bの側面部には、断面蒲鉾型の半円筒部材15の底面部15aが設けられ、ボルト16で低面部15a、集熱取付部材13a、13b、隔壁14aが共締めで固定されている。このようにして、上記集熱空間Aの左右に、隔壁14a、底面部15aを仕切部材として見立てて、集熱部材12が設けられない断面略半円形状の非集熱空間Bが形成されることとなる。
【0050】なお、上記構成では隔壁14a、底面部15aを仕切部材として見立てる構成を示したが、より簡単には、図3に示すように、断面口字形に形成した箱型の集熱板取付部材13の上面、下面に、それぞれ切欠部を設け、この切欠部に集熱板12a、12bを取付け、集熱板取付部材13の側面に半円状の外壁13cを設けることにより、集熱板取付部材13の側面を仕切部材に見立てて、集熱空間A、非集熱空間Bをそれぞれ区画するようにしてもよい。
【0051】このようにして構成された集熱空間Aとその左右に設けた非集熱空間Bとで、排気管10aの熱流体としての排気ガスが流れる管内空間が構成されることとなる。
【0052】かかる構成の排気管10aの両端部側には、図1に示すように、集熱空間A、非集熱空間Bの外縁に沿って外方に張り出した全体が略楕円リング状に形成されたフランジ17a、17bが設けられている。すなわち、フランジ17a、17bは、集熱空間Aの上下に対応して張り出したフランジ17ab、17bbと、非集熱空間Bの半円弧状外周縁から外方に張り出したフランジ部分17ac、17bcとからそれぞれ構成されている。
【0053】さらに、フランジ部分17ab、17bbには、締付ねじ取付用切欠部18aが設けられ、フランジ部分17ac、17bcには、フランジ板面にボルト挿通孔18bが設けられている。このようにして、締付ねじ取付用切欠部18a、ボルト挿通孔18bを有するフランジ17a、17bにより排気管10aの連結部が構成されている。
【0054】また、排気管10aのフランジ17a、17bに挟まれた上下の管壁を構成する集熱板12a、12bには、図4に示すように、熱電変換素子21から構成される熱電変換モジュール20が設けられている。熱電変換モジュール20は、p型半導体22aとn型半導体22bとが電極で接続された一対の熱電変換素子21を単位として、複数の熱電変換素子21が電気的に接続されて構成されている。
【0055】熱電変換素子21を構成するp型半導体22a側は、図4に示すように、例えば、低温接触部側から高温接触部側に向けて、絶縁体23、電極24、p型半導体22a、電極25、絶縁体26の順に積層され、n型半導体22b側は、高温接触部側から低温接触部側に向けて、絶縁体26、電極25、n型半導体22b、電極24、絶縁体23の順に積層されている。図4では、繰り返し単位としての熱電素子21を分かりやすいように実線表示した。この熱電素子が電気的に直列、あるいは並列に接続されて熱電変換モジュール20を構成している。
【0056】上記のように構成された熱電変換素子21の高温接触部側は、絶縁体26を介して、図2に示すように、集熱部材12、すなわち集熱板12a、12bに密着させられている。一方、熱電変換素子21の低温接触部側は、図2に示すように、冷却部材30として蛇行管(図6参照)に形成された水冷式冷却器30aの底面31が絶縁体23を介して密着させられている。
【0057】上記水冷式冷却器30aは、図2に示すように、蛇行管の両端側にホース挿入ノズルに構成した冷却水の供給口32、排出口33がそれぞれ設けられ、蛇行管に冷却水を通すことにより、蛇行管の底面31でこれに接触する熱電変換素子21の低温接触部側を冷却することができるようになっている。冷却水は、自動車の排気ガス排出システムに本発明の構成を使用する場合には、例えば、水冷式エンジンの冷却用の冷却水を循環させるようにすればよい。
【0058】図2に示す場合には、集熱板12a、12bには、複数の熱電変換モジュール20が搭載されており、上記構成の水冷式冷却器30aは、個々の熱電変換モジュール20に各別に設けられている。このように、個々の熱電変換モジュール20毎に各別に水冷式冷却器30aを設けておくことにより、熱電変換モジュール毎に高さ方向の寸法のバラツキが発生しても、蛇行管の底面31を熱電変換モジュール20の低温接触側に絶縁体を介して密着させることができる。
【0059】従来のように、複数個の熱電変換モジュール20を一つの冷却器の底面に接触させる構造では、熱電変換モジュールの高さ方向の寸法にバラツキがあると、高さ方向の低い方との間に隙間が発生し易く、隙間部分を別途スペーサ部材で埋めるなど処理する必要があり、その部分で熱伝導効率を低下させる原因の一つともなっていた。
【0060】さらに、熱電変換モジュール毎に各別に水冷式冷却器30aを設けておくことにより、高温接触側での熱歪みに基づく剥がれを効果的に防止することもできる。
【0061】また、上記説明では、熱電変換モジュール20を集熱板12a、12b上に設けるに際して、熱電変換モジュール20を構成する熱電変換素子21の高温接触部側を絶縁体26を介して接触させる構成を示したが、かかる絶縁体26は集熱板12a、12bと別体に設けても良いが、例えば、前記集熱フィン12af、12bfの表面に耐食性向上のために陽極酸化処理した酸化アルミニウム層を一体に形成すると同様の手法で、集熱板12a、12bの熱電変換モジュール20の設置範囲に当初よりかかる酸化アルミニウム層を設けて絶縁層としておいても構わない。かかる構成を採用すれば、別体の絶縁体を介することなく、集熱板12a、12b上に直接熱電変換モジュール20を設けることもできる。
【0062】但し、かかる酸化アルミニウムの層を形成すると、かかる層が無い場合に比べて、熱伝導率が低下することが確認されており、許容範囲内で薄く形成することが好ましい。かかる絶縁層を設ける場合として陽極酸化処理による酸化アルミニウム層の形成について述べたが、かかる処理技術に限定する必要はなく、要は本発明の排熱熱電変換に支障がない範囲で、絶縁層の役目を果たし、且つ熱伝導を極端に低下させない処理であれば適用できることは言うまでもない。
【0063】集熱板などをSUSで形成する場合には、熱電変換モジュールをかかる集熱板に設けるに際しては、薄い絶縁シートや、あるいは絶縁グリースを別途介在させる方法が考えられるが、かかる方法と比べて、上記アルミニウムの集熱板に当初より絶縁層を形成する方法の方が、集熱効率、加工工数、生産効率などの面から格段に好ましい。
【0064】以上の構成を有するユニット状の排熱熱電変換装置Wでは、排気管10aの一方の側から排気ガスが流入し、排気管10a内を通過して他方の側から排出されることとなる。排気管10a内に流入した排気ガスは、その大部分は集熱空間A内を通過し、排気管10a内の周辺側から流入する排気ガスは非集熱空間Bをそれぞれ通過することとなる。
【0065】集熱空間A内を通過する排気ガスは、集熱部材12の集熱板12a、12bと集熱面12ac、12bc、および集熱フィン12af、12bfと接触して、排気ガスの排熱が集熱面12ac、12bc、集熱フィン12af、12bfから集熱されることとなる。すなわち、集熱フィン12af、12bfの集熱板12a、12bの根元付近にも熱流体が流れることとなる。
【0066】特に、本発明の排熱熱電変換装置Wでは、集熱フィン12af、12bfのそれぞれの先端側が間隔Lでオーバーラップされているため、集熱空間A内を通過する排気ガスは、かかるオーバーラップ部分で、その他の部分に比して排気ガスの通過抵抗が上がり、その分通過抵抗の少ないオーバーラップ部分の上方および下方に排気ガスが逃げるように誘導されることとなる。すなわち、かかるオーバーラップ部分が、流通管10の上面、下面の管壁の一部を構成する集熱板12a、12b側に、熱流体としての排気ガスを誘導する誘導機構として機能することとなる。
【0067】そのため、従来のように対向する集熱フィンをオーバーラップさせない構成の場合に比べて、集熱板12a、12b側の温度雰囲気をより高温にすることができるのである。すなわち、集熱板12a、12bによる排気ガスからの集熱が効率的に行えることとなる。
【0068】集熱フィン12af、12bfをオーバーラップさせて、排気ガスを集熱板12a、12b側に誘導する誘導機構をこのように管内に設けることにより、図5に示すように、集熱板12a、12bでの表面温度を従来より高く維持できることが実験により確認された。
【0069】実験に際しては、流路長600mmの上記説明の排気管10aを構成し、対向位置に設けた集熱板12a、12bからの集熱フィン12af、12bfのオーバーラップ度を間隔L=10mmに設定した。
【0070】かかる構成の排気管10aに温度445℃の排気ガスを流した状態で、集熱空間Aの入り口から所定距離入った箇所での集熱空間Aの中心部の温度、および集熱板12aの熱電変換モジュール20を設ける側の表層温度、非集熱空間Bの左右の半円筒部材15の弯曲部外側面の温度を測定した。かかる結果を、図5に示した。図5のグラフでは、集熱空間Aの入り口からの距離を横軸にとり、実測温度を縦軸にとっている。
【0071】図5からは、集熱空間A内の中心部を流れる排気ガスの温度は、入り口から200mm、290mm、385mm、480mm入ったそれぞれの測定距離で、それぞれ389℃、348℃、277℃(276.5℃)、214℃であった。かかる測定箇所に対応する位置の集熱板12aの表層温度は、335℃(334.5℃)、265℃(264.5℃)、194℃、157℃(156.6℃)であった。
【0072】かかる結果からは、入り口からの測定距離が漸次長くなるに従い、集熱空間Aの中心部の温度は漸次低くなることが確認される。また、集熱板12aの表層温度も、入り口からの測定距離が漸次長くなるに従い、低くなって行くことが確認される。両者の温度減少勾配は、ほぼ同一の減少傾向を示すことが、図5のグラフから確認される。集熱フィン12af、12bfのオーバーラップ部を設けることにより、集熱空間A内の中央を流れる排気ガスは、オーバーラップ部で通過抵抗が大きくなり、排気ガスの流れの一部は、通過抵抗の少ない上方の集熱板12a、下方の集熱板12b側に誘導されていることが分かった。
【0073】さらに、測定距離200mmにおける集熱板12aでの表層温度は、335℃と極めて高く、従来構成の集熱板側では得ることのできなかった極めて高い温度である。本発明者は、排気ガスを集熱板12a、12b側に効率よく誘導できるようにスパイラル状の集熱フィンを用いた構成の排熱熱電変換装置を開発したが、かかるスパイラル状集熱フィンの構成はそれまでの従来構成の場合よりも集熱効果が優れていたが、しかし、本願発明のオーバーラップ部を設ける構成は、かかる構成よりもさらに集熱板12a表面での高温雰囲気を獲得できることが確認された。
【0074】このように集熱板12a、12bを従来以上に効率よく高温雰囲気に維持することができるため、熱電変換素子21の低温接触側での低温雰囲気を一定として想定した場合でも、高温接触側と低温接触側との温度差は、高温接触側の温度を上昇させることにより従来より大きな温度差を創出することができ、かかる温度差に基づく発電量を大きくすることができるのである。すなわち、かかるオーバーラップ部を設けない場合に比べて、オーバーラップ部を設ける本発明の排熱熱電変換装置の方が、その他の条件を同一と想定した場合には、より発電量を大きくすることができるのである。
【0075】本実施の形態の構成では、図1に示すように、集熱空間A、非集熱空間Bが区画されているため、非集熱空間Bを通過する排気ガスは、集熱空間Aを通過する排気ガスと混合することがない。一般に、排気管10a内を排気ガスが流れている状態では、排気ガスの流れの中心側は高温に維持され、周辺側に、即ち拡散される程温度低下が認められる。そのため、排気管10aの中央側に集熱空間Aを設定し、その左右側に非集熱空間Bを区画することにより、周辺側に拡散された温度低下が認められる排気ガスは、集熱空間A内の排気ガスと混合するおそれはなく、集熱空間A内を通る排気ガスの温度低下を抑制することができる。
【0076】また、集熱空間A内では、集熱フィンのオーバーラップ部を設けて排気ガスの流れ抵抗をある程度生じさせて集熱板12a、12b側に高温排気ガスを誘導する誘導機構を設けているが、隔壁14aなどの仕切部材14で集熱空間Aの側方を非集熱空間Bと仕切ることにより、オーバーラップ部で流れ抵抗を受けて、抵抗の少ない方に流れようとする排気ガスを、左右側方に逃がすことなく、集熱板12a、12bの有する上下方向に誘導することができる。すなわち、集熱空間A内を流れる高温排気ガスの側方拡散を効果的に防止することもできるのである。
【0077】図5に示すデータは、集熱フィン12af、12bfのオーバーラップ度は、L=10mmの場合であり、複数枚ある集熱フィン12a、12bのうち、対向する一枚の集熱フィン12a、12bのオーバーラップ面積は885mm^(2)である。また、フィン面の対向間隔は、6mmであった。
【0078】かかるL、オーバーラップ面積、対向間隔は、あくまで図5で示す実験における条件であって、本発明は、かかる数値に限定されるものではない。適用する熱流体に適った適切な範囲に、実験などを通して適宜設定すればよい。
【0079】上記説明では、内燃機関などからの排気ガスを熱流体として排気管を流通路として使用する場合について説明したが、上記構成は、熱流体として液体を想定しても構わないことは言うまでもない。」(段落【0034】ないし【0079】)

ウ 「【0080】(実施の形態2)本実施の形態では、実施の形態1で説明したユニット状に形成した排熱熱電変換装置を、複数個連結して別の形態の排熱熱電変換装置を構成した場合について説明する。
【0081】図6は、高温ガスの排気システムにおいて、ユニット状の排熱熱電変換装置Wを複数個連結して別構成の排熱熱電変換装置を構成した場合を示す平面図である。図7は、図6に示す構成の側面を、中心線より上側を断面として示した一部断面側面図である。なお、図6の切断線A-Aで切断した様子は、図1の断面図部分と同様になる。
【0082】図6、7に示すように、高温ガスの排気システムを構成する排気管40の途中に、上記実施の形態1で説明した構成のユニット状の排熱熱電変換装置W(W1、W2、W3、W4)が4個連結されている。
【0083】高温ガスの入口側には、小径の短い直管部41aと、それに続いて先が略ラッパ状に拡幅された拡幅管部41bとからなる高温ガス流入側ユニット41が設けられている。高温ガス流入側ユニット41の拡幅管部41bの管端側は、図8に示すように、その断面形状が、図1に示すユニット状の排熱熱電変換装置と接続できるような断面形状に形成され、その管端の周囲には、連結用のフランジ41cが形成されている。フランジ41cの構成は、図1に示すフランジ17bと同様に形成されている。
【0084】高温ガス流入側ユニット41の拡幅管部41b内には、図6に示すように、熱流体としての高温ガスを左右に分配する2枚のフラップ42aが分配部材42として設けられている。フラップ42は、高温ガス流入側ユニット41の管外に設けた小型モーター(図示せず)などで、左右にフラップを開閉可能に振ることができるようしておけばよい。
【0085】かかるフラップ42aの左右への開き度合いを調節することにより、高温ガス流入側ユニット41に接続するユニット状の排熱熱電変換装置W1(W)の集熱空間Aと非集熱空間Bとへの高温ガスの流量を調節できるようになっている。
【0086】そのため、例えば、高温ガスが通常の想定温度より異常高温度状態になったときでも、異常高温ガスの非集熱空間Bへの流量を拡大することにより、集熱空間Aへの流量を抑制して、異常高温に基づく熱電変換モジュール20の損傷を未然に防止することができる。
【0087】かかる点については、より具体的には、例えば、本発明の排熱熱電変換装置を自動車の排気ガス排出システムに使用し、自動車を連続高速運転したり、あるいは急勾配や長い坂を登坂させるなどしてエンジンの出力を増加させた場合、排気ガスが高温になり過ぎるため、かかる高温の排気ガスの一部を非集熱空間Bに逃がすなどして、熱電変換モジュール20の熱損傷を避ける場合が挙げられる。
【0088】かかる構成の高温ガス流入側ユニット41の拡幅管部41bに続けて、図1に示したユニット状の排熱熱電変換装置W1が接続されている。排熱熱電変換装置W1は、前記実施の形態1で説明した構成を有しており、拡幅管部41bとは、連結用フランジ17b、41cを介して相互に連結されることとなる。
【0089】高温ガス流入側ユニット41に接続した排熱熱電変換装置W1は、さらに、図6、7に示すように、攪拌チャンバユニット43に接続されている。攪拌チャンバユニット43は、図9に示すように、内部が集熱空間、非集熱空間に区切られない一つの空間に構成された空洞の流通管43aに構成されている。流通管43aの管長さは、排熱熱電変換装置W1を構成する管長さより短く形成されている。かかる流通管43aの両管端側には、ユニット間の連結ができるように連結用のフランジ44が設けられ、かかるフランジ44の構成は高温ガス流入側ユニット41のフランジ41cと同様に形成しておけばよい。
【0090】上記構成の攪拌チャンバーユニット43では、直前の排熱熱電変換装置W1で、集熱空間A、非集熱空間Bとに分かれて流れてきた熱流体が合流させられ、それぞれの流速により合流時に攪拌が行われることとなる。攪拌により熱流体の温度分布が、すなわち、集熱空間A内を流れる熱流体の周辺側と、中央側との温度分布差が平均化されて以降の排熱熱電変換装置Wにおける集熱効率の向上を図ることができる。
【0091】また、非集熱空間B内を流れる熱流体が十分に排熱熱電変換に使用できる程の熱量を有している場合には、集熱空間A内を流れてきて集熱されることにより温度低下が著しい排気ガスとを攪拌することもできる。
【0092】なお、図に示す攪拌チャンバユニット43では、管内を空洞に形成しておき、攪拌チャンバユニット43内に流れ込む集熱空間A、非集熱空間Bとからの熱流体の流速に基づく自然攪拌を期待したが、例えば、スタティクミキサーなどを管内に設けて、強制攪拌が行えるようにしてもよい。
【0093】かかる構成の攪拌チャンバーユニット43には、さらに、排熱熱電変換装置W2(W)、W3(W)、W4(W)が連続して3個接続され、最後尾の排熱熱電変換装置W4には、ガス排出側ユニット44が接続されている。ガス排出側ユニット44は、図6に示すように、フランジ連結により互いに接続される拡幅管部44aと、拡幅管部44aに繋がるガス排出管部44bから構成されている。
【0094】このようにして、本実施の形態の排熱熱電変換装置は、図6、7に示すように、高温ガスの排出システムにおいて、高温ガス流入側ユニット41、排熱熱電変換装置W1、攪拌チャンバーユニット43、排熱熱電変換装置W2、排熱熱電変換装置W3、排熱熱電変換装置W4、ガス排出側ユニット44の順に直列に接続されて構成されている。
【0095】かかる構成の排熱熱電変換装置では、高温ガス流入側ユニット41側から流入する高温ガスは、直管部41aを通り、拡幅管部41b内で、フラップ42aの開閉度に応じて分配され、続く排熱熱電変換装置W1の集熱空間A、非集熱空間B内に流れる。
【0096】排熱熱電変換装置W1では、集熱空間A内に流れてきた高温ガスが、集熱板12a、12b、集熱フィン部材12af、12bfに接触して、高温ガスから集熱される。集熱板12af、12bfに、図4に示すように、絶縁体26、電極25を介して高温接触部側を接続し、電極24、絶縁体23を介して低温接触部側を水冷式冷却器30aに接続するp型半導体22a、n型半導体22bのそれぞれに温度差を発生させて、ゼーベック効果に基づく温度差に応じた電気が熱電変換により発電されることとなる。
【0097】このようにして排熱熱電変換装置W1でその排熱から熱電変換に利用された高温ガスは、攪拌チャンバーユニット43内に流れ、直前の排熱熱電変換装置W1内で集熱空間A、非集熱空間B内を別々に流れてきた熱流体が合流、攪拌されて、熱流体の温度分布の不均一を極力解消した状態で、次に続く3個の排熱熱電変換装置W2、W3、W4に流れる。かかる3個の排熱熱電変換装置W2、W3、W4内では、集熱空間A内を流れる熱流体から排熱が集熱され、熱電変換モジュール20の高温側と低温側との温度差に基づき熱電変換発電が行われる。
【0098】このようにして熱電変換にその排熱が利用されたガスは、温度が低下した状態で、ガス排出ユニット44の拡幅管部44a、ガス排出管部44を通して、ガス排出システム外に排出されることとなる。
【0099】図6に示す場合には、各排熱熱電変換装置W1、W2、W3、W4には、それぞれ集熱板12a、12bに熱電変換モジュール20が3個ずつ計6個設けられ、これら6個の熱電変換モジュール20毎に水冷式冷却器30aが6個設けられている。従って、排熱熱電変換装置W1、W2、W3、W4を4個連結してなる排熱熱電変換装置全体では、都合24個の熱電変換モジュール20を含む熱電変換機構が装備されることとなる。
【0100】本発明の実施の形態では、複数のユニット状に形成した排熱熱電変換装置を複数個接続する構成であるため、高温ガスが流路長さに沿って温度が漸次低下する場合でも、熱電変換に利用できる温度を示す流路長に合わせて組み合わせるユニット数を調整すればよい。
【0101】かかるユニット状に構成しない場合には、高温ガスの温度などにより流路長による温度低下率が異なる場合には、それぞれ熱電変換に利用できる温度範囲の流路区間の長さが異なり、都度その長さに合わせて別途排熱熱電変換装置の排気管の長さを設定しなければならず、その対応が面倒になる。しかし、本実施の形態のように接続可能なユニット状に形成しておけば、かかる対応が臨機応変に行える。また、接続個数の変更により変換出力の調節もできる。
【0102】また、図6、7に示す4個の排熱熱電変換装置Wでは、それぞれに搭載する熱電変換モジュール20は同一構成でも構わないが、より好ましくは、流路長さに応じて高温ガスの温度低下に見合った温度範囲で変換効率の特性の優れた熱電変換素子をそれぞれ内蔵するように、熱電変換モジュール20内に搭載する熱電変換素子の温度特性を変えておけばよい。
【0103】すなわち、熱電変換モジュール20内に組み込む熱電変換素子の適用温度範囲の異なるものを予め複数種用意しておき、排熱熱電変換装置を適用する箇所の流路長さにおける温度低下割合に合わせて、予め用意した種々の適用温度範囲の熱電変換モジュールを有したユニット状の排熱熱電変換装置を選択的に組み合わせるようにすればよい。
【0104】また、図6、7に示す場合には、攪拌チャンバーユニット43を、高温ガス流入側ユニット41側から1番目の排熱熱電変換装置W1の後に接続したが、状況に応じて、排熱熱電変換装置W2の後に接続しても、あるいは排熱熱電変換装置W3の後に接続しても構わない。接続位置の選定は、直前の排熱熱電変換装置からの集熱空間Aと非集熱空間Bとを通過する高温ガスの温度差などで判断すればよい。」(段落【0080】ないし【0104】)

(2)上記(1)及び図面から分かること
ア 上記(1)ウの段落【0080】及び【0081】並びに図6及び7の記載によれば、ユニット状の排熱熱電変換装置Wを複数個連結して別構成の排熱熱電変換装置、すなわち、排熱熱電変換システムが記載されていることが分かる。
そして、上記(1)ウの段落【0082】及び【0094】の記載によれば、排熱熱電変換システムには、高温ガス流入側ユニット41、排熱熱電変換システムW、攪拌チャンバーユニット43及びガス排出側ユニット44が含まれることが分かる。

イ 上記(1)イの段落【0069】ないし【0072】及び図5の記載によれば、排熱熱電変換装置Wの集熱空間A内の中心部を流れる排気ガスの温度は、入り口からの測定距離が漸次長くなるに従い、漸次低くなることが記載されているから、上記アの排熱熱電変換システムにおいては、排熱熱電変換システムWにおける集熱空間Aの高温ガス流入側ユニット41側、すなわち上流部の排気ガスの温度は、排熱熱電変換システムWのガス排出側ユニット44側、すなわち下流部の排気ガスの温度よりも高いことが分かる。

ウ 上記イの段落【0056】及び【0057】並びに図2の記載によれば、排熱熱電変換システムWの集熱空間Aは、集熱板12a、12bで、冷却部材30に接触された熱電変換素子21により少なくとも部分的に囲まれていることが分かる。

エ 上記イの段落【0065】及び【0066】の記載によれば、集熱フィン12af、12bfは、集熱構造とともに、排気ガスの流れを誘導する構造を有することが分かる。

オ 上記ウの段落【0102】及び【0103】の記載によれば、熱電変換モジュール20は、適用温度範囲の異なる複数種の熱電変換素子を有することが分かる。

カ 上記ウの段落【0084】ないし【0087】及び図6の記載によれば、フラップ42によって熱電変換モジュール20の熱損傷を避けることができることが分かる。
また、上記ウの段落【0090】及び【0091】の記載によれば、攪拌チャンバーユニット43によって、直前の排熱熱電変換装置W1で、集熱空間A、非集熱空間Bとに分かれて流れてきた排気ガスが合流させられ、それぞれの流速により合流時に攪拌が行われ、排気ガスの温度分布が平均化されて、以降の排熱熱電変換装置Wにおける集熱効率の向上を図っていることが分かる。

(3)刊行物に記載された発明
上記(1)及び(2)の記載を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されているといえる。

「内燃機関の排熱熱電変換システムは、高温ガス流入側ユニット41と、ガス排出側ユニット44と、高温ガス流入側ユニット41とガス排出側ユニット44との間の排熱熱電変換装置W及び攪拌チャンバーユニット43とを有する排熱熱電変換システムであって、
排熱熱電変換装置Wは、排気ガスのための集熱空間A及び非集熱空間Bを有し、
集熱空間Aの高温ガス流入側ユニット41側である上流部の排気ガスの温度は、ガス排出側ユニット44側である下流部の排気ガスの温度よりも高く、
集熱空間Aは、集熱板12a、12bで、冷却部材30に接触された熱電変換素子21により部分的に囲まれ、
集熱空間Aは、集熱フィン12af、12bf及び集熱空間Aに沿って設けられる適用温度範囲の異なる複数種の熱電変換素子を有し、
集熱フィン12af、12bfは、排気ガスの流れを誘導する構造及び集熱構造を有し、
攪拌チャンバーユニット43によって、排熱熱電変換システムの集熱効率を向上させ、フラップ42によって、熱電変換モジュール20の熱損傷を避ける排熱熱電変換システム。」

3-2 対比
刊行物に記載された発明における「内燃機関」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願補正発明における「内燃エンジン」に相当し、以下同様に、「排熱熱電変換システム」は「排気ガスから電気エネルギーを生成する装置」、「発電機」及び「装置」に、「高温ガス流入側ユニット41」は「排気ガス入口」に、「ガス排出側ユニット44」は「排気ガス出口」に、「排熱熱電変換装置W及び攪拌チャンバーユニット43」は「熱交換部」に、「排気ガス」は「排気ガス」に、「集熱空間A」及び「非集熱空間B」はそれぞれ「流路」に、「集熱空間Aの高温ガス流入側ユニット41側である上流部の排気ガスの温度は、ガス排出側ユニット44側である下流部の排気ガスの温度よりも高く」は「流路は、排気ガス入口付近の上流部及び排気ガス出口付近の下流部を含み、排気ガスは、下流部よりも上流部が熱く」に、「集熱板12a、12b」は「流路から外側へ向く側面」に、「冷却部材30」は「熱冷却装置」に、「接触された」は「熱伝導的に接続される」に、「熱電変換素子21」は「熱電素子」に、それぞれ相当する。
また、刊行物に記載された発明における「集熱フィン12af、12bf」は排気ガスの流れを誘導する構造及び集熱構造を有しているところ、本件出願の明細書に「流れ操作のための少なくとも1つの素子を有する、代替的な又は他の提案された実施形態は、流通する排気ガスから熱電素子への熱の伝導を向上させる機能を有する。この素子は、付加的な構成要素及び/又は流路の壁の一部であってもよい。この手法では、特に、排気ガスと流路の壁との接触に影響を与えることが試みられる(負荷の関数として、及び/又は温度の関数として、及び/又は位置の関数として)。」(段落【0019】)及び「熱伝導構造は、特に、少なくとも流路の長さの一部にわたって延び、後部へ突出し、低い流れ抵抗でのみ排気ガスを流す金属熱電構造である。熱伝導構造は、したがって、薄くかつ面積設計であることが好ましく、特に、冷却リブの形態であることが好ましい。前記熱伝導構造は、それによって、排気ガスが流れる流路の断面全体からの熱の吸収が可能となる。熱伝導構造は、排気ガスから熱電素子へ輸送される熱エネルギーが、熱電素子で分散されうるように、高い熱伝導性を有して形成されるべきである。」(段落【0023】)との記載があることからみて、本願補正発明における「流れ操作のための素子」又は「熱伝導構造」に相当し、
刊行物に記載された発明における「適用温度範囲の異なる複数種の熱電変換素子」は、本件出願の明細書に「異なる型の熱電素子とは、特に、異なる効率又は異なる最大効率を有する素子をいう。ここで、熱エネルギーから電気エネルギーへの変換に関する1つの型の素子の効率は、平均ガス温度に関する少なくとも1つの最大値を有する。前記熱電素子は、それらの異なる効率に関して、流路の1つの第1の部分又は流路の少なくとも1つの第2の部分に配置されることが好ましい。特に、このセクションは、異なる平均排気ガス温度での、発電機を通じた排気ガスの流路の領域について示す。異なる最大効率を有する熱電素子は、したがって、それぞれの最大効率が、流路のそれぞれの部位における排気ガス温度を広げる各条件の平均値に適合されるように、配置されるべきである。したがって、相対的に高い温度の領域における最大効率を有する熱電素子は、排気ガス入口の領域に設けられるべきであり、相対的に低い温度でそれらの最大効率を有する、対応する熱電素子は、排気ガス出口付近に設けられるべきである。これは、入手できる熱エネルギーから電気エネルギーへの向上した変換を可能にする。」(段落【0020】)との記載があることからみて、本願補正発明における「異なる型の熱電素子」に相当する。
そして、刊行物に記載された発明における「集熱空間Aは、集熱フィン12af、12bf及び集熱空間Aに少なくとも沿って設けられる適用温度範囲の異なる複数種の熱電変換素子を有し」は、本願補正発明における「流路の少なくとも一方は、少なくとも1つの流れ操作のための素子又は流路に少なくとも沿って設けられる異なる型の熱電素子を有し」に相当する。

そうすると、本願補正発明と刊行物に記載された発明とは、
「内燃エンジンの排気ガスから電気エネルギーを生成する装置は、排気ガス入口と、排気ガス出口と、排気ガス入口と排気ガス出口との間の熱交換部とを有する発電機を含み、熱交換部は、排気ガスのための複数の流路を有し、流路は、排気ガス入口付近の上流部及び排気ガス出口付近の下流部を含み、排気ガスは、下流部よりも上流部が熱く、流路は、流路から外側へ向く側面で、熱冷却装置に熱伝導的に接続される熱電素子により少なくとも部分的に囲まれ、流路の少なくとも一方は、少なくとも1つの流れ操作のための素子又は流路に少なくとも沿って設けられる異なる型の熱電素子を有する装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

本願補正発明においては、「少なくとも1つの流れ操作のための素子は、上流部には配置されず、下流部にのみ配置される熱伝導構造を有し、熱伝導構造は、発電機の効率を向上させるために、排気ガスの乱流を発生させ、かつ層状境界流を低減することにより、相対的に冷たい排気ガスの領域では、排気ガスの残存する熱が排気ガス流へ分散され、かつ相対的に熱い排気ガスの領域である排気ガス入口の上流部に配置された熱電素子の過熱が同時に防がれる」のに対し、刊行物に記載された発明においては、「集熱フィン12af、12bfは、排気ガスの流れを誘導する構造及び集熱構造を有し、攪拌チャンバーユニット43によって、排熱熱電変換システムの集熱効率を向上させ、フラップ42によって、熱電変換モジュール20の熱損傷を避ける」ものであって、集熱フィン12af、12bfが上流部には配置されず、下流部にのみ配置されるか否か不明である点(以下、「相違点」という。)。

3-3 判断
刊行物に記載された発明は、排熱熱電変換システムの集熱効率を向上させ、熱電変換モジュール20の熱損傷を避ける排熱熱電変換システムであるところ、熱電発電装置において、熱交換器の媒体流路に下流側のみに存在するフィンを設置して上流側と下流側の温度差を可能な限り均一とし、熱伝達率を向上させることは、本件出願の優先日前に周知の技術(例えば、特開平11-27969号公報[段落【0018】及び【0019】並びに図3]を参照。以下、「周知技術」という。)である。そして、熱交換器の媒体流路にフィンを設置した場合に、媒体の乱流を発生させると熱伝達率が変化することや、媒体の境界層を分断すると熱伝達率が変化することは、本件出願の優先日前に当業者にとって技術常識(例えば、特開平10-290590号公報[段落【0059】及び【0061】並びに図16及び17]を参照。以下、「技術常識」という。)であり、また、上流側と下流側の温度差が均一となれば、熱電変換モジュール20の熱損傷を避けることが可能であることは、当業者にとって明らかである。
そうすると、刊行物に記載された発明において、攪拌チャンバーユニット43によって、排熱熱電変換システムの集熱効率を向上させ、フラップ42によって、熱電変換モジュール20の熱損傷を避けることに代えて、上記周知技術を採用し、上流部には存在せず、下流側にのみ存在する集熱フィン12af、12bfを設置して、排気ガスの乱流を発生させ、境界層を分断し、すなわち、層状境界流を低減し、上流側と下流側の温度差を均一にして、排熱熱電変換システムの集熱効率を向上させると共に熱電変換モジュール20の熱損傷を避ける、すなわち、過熱を防ぐことは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本願補正発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明及び周知技術から予想される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願補正発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-4 まとめ
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号に規定される事項を目的とする補正に該当するものとしても、上記3のとおり、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
平成27年3月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし11に係る発明は、平成26年5月19日付けで提出された手続補正書により補正された請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1アに示した請求項1に記載されたとおりのものである。

1 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物の記載及び刊行物に記載された発明については、上記第2[理由]3-1に記載したとおりである。

2 対比
刊行物に記載された発明における「内燃機関」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願発明における「内燃エンジン」に相当し、以下同様に、「排熱熱電変換システム」は「排気ガスから電気エネルギーを生成する装置」、「発電機」又は「装置」に、「高温ガス流入側ユニット41」は「排気ガス入口」に、「ガス排出側ユニット44」は「排気ガス出口」に、「排熱熱電変換装置W及び攪拌チャンバーユニット43」は「熱交換部」に、「排気ガス」は「排気ガス」に、「集熱空間A」及び「非集熱空間B」はそれぞれ「流路」に、「集熱板12a、12b」は「流路から外側へ向く側面」に、「冷却部材30」は「熱冷却装置」に、「接触された」は「熱伝導的に接続される」に、「熱電変換素子21」は「熱電素子」に、それぞれ相当する。
また、刊行物に記載された発明における「集熱フィン12af、12bf」は排気ガスの流れを誘導する構造及び集熱構造を有しているところ、本件出願の明細書に「流れ操作のための少なくとも1つの素子を有する、代替的な又は他の提案された実施形態は、流通する排気ガスから熱電素子への熱の伝導を向上させる機能を有する。この素子は、付加的な構成要素及び/又は流路の壁の一部であってもよい。この手法では、特に、排気ガスと流路の壁との接触に影響を与えることが試みられる(負荷の関数として、及び/又は温度の関数として、及び/又は位置の関数として)。」(段落【0019】)との記載があることからみて、本願発明における「流れ操作のための素子」に相当する。

そうすると、本願発明と刊行物に記載された発明とは、
「内燃エンジンの排気ガスから電気エネルギーを生成する装置は、排気ガス入口と、排気ガス出口と、排気ガス入口と排気ガス出口との間の熱交換部とを有する発電機を含み、熱交換部は、排気ガスのための複数の流路を有し、流路は、流路から外側へ向く側面で、熱冷却装置に熱伝導的に接続される熱電素子により少なくとも部分的に囲まれ、流路は、少なくとも1つの流れ操作のための素子を有する装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

本願発明においては、「少なくとも1つの流れ操作のための素子は、相対的に冷たい排気ガスの領域では、排気ガスの残存する熱が大きな範囲から排気ガス流へ分散され、かつ相対的に熱い排気ガスの領域である排気ガス入口の直接的な下流に配置された熱電素子の過熱が同時に防がれるように、流路の下流部分に配置される」のに対し、刊行物に記載された発明においては、「集熱フィン12af、12bfは、排気ガスの流れを誘導する構造を有し、攪拌チャンバーユニット43によって、排熱熱電変換システムの集熱効率を向上させ、フラップ42によって、熱電変換モジュール20の熱損傷を避ける」ものであって、集熱フィン12af、12bfは、下流部分を含む流路に配置されるものの、相対的に冷たい排気ガスの領域では、排気ガスの残存する熱が大きな範囲から排気ガス流へ分散され、かつ相対的に熱い排気ガスの領域である排気ガス入口の直接的な下流に配置された熱電素子の過熱が同時に防がれるものであるか否か不明である点(以下、「相違点」という。)。

3 判断
刊行物に記載された発明は、排熱熱電変換システムの集熱効率を向上させ、熱電変換モジュール20の熱損傷を避ける排熱熱電変換システムであるところ、熱電発電装置において、熱交換器の媒体流路に下流側のみに存在するフィンを設置して上流側と下流側の温度差を可能な限り均一とし、熱伝達率を向上させることは、本件出願の優先日前に周知の技術(例えば、特開平11-27969号公報[段落【0018】及び【0019】並びに図3]を参照。以下、「周知技術」という。)である。そして、上流側と下流側の温度差が均一となれば、熱電変換モジュール20の熱損傷を避けることが可能であることは、当業者にとって明らかである。
そうすると、刊行物に記載された発明において、攪拌チャンバーユニット43によって、排熱熱電変換システムの集熱効率を向上させ、フラップ42によって、熱電変換モジュール20の熱損傷を避けることに代えて、上記周知技術を採用し、下流側にのみ存在する集熱フィン12af、12bfを設置して、上流側と下流側の温度差を均一にし、排熱熱電変換システムの集熱効率を向上させると共に熱電変換モジュール20の熱損傷を避ける、すなわち、過熱を防ぐことは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明及び周知技術から予想される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 本願補正発明について
上記第2における本件補正に関し、仮に、特許法第17条の2第5項第4号に規定される事項を目的とする補正に該当するものとして、すなわち、平成27年3月2日付けの手続補正が却下されないものとして、上記本願補正発明が、特許を受けることができるものであるかどうかについて、予備的に検討する。

1 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物の記載及び刊行物に記載された発明については、上記第2[理由]3-1に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願補正発明は、上記第2 3のとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

また、本願補正発明は、「流路の少なくとも一方は、少なくとも1つの流れ操作のための素子又は流路に少なくとも沿って設けられる異なる型の熱電素子を有し」との発明特定事項が選択的事項であるから、「流路に少なくとも沿って設けられる異なる型の熱電素子」を選択した場合には、刊行物に記載された発明における「集熱空間Aは、集熱フィン12af、12bf及び集熱空間Aに少なくとも沿って設けられる適用温度範囲の異なる複数種の熱電変換素子を有し」は、本願補正発明における「流路の少なくとも一方は、少なくとも1つの流れ操作のための素子又は流路に少なくとも沿って設けられる異なる型の熱電素子を有し、少なくとも1つの流れ操作のための素子は、上流部には配置されず、下流部にのみ配置される熱伝導構造を有し、熱伝導構造は、発電機の効率を向上させるために、排気ガスの乱流を発生させ、かつ層状境界流を低減することにより、相対的に冷たい排気ガスの領域では、排気ガスの残存する熱が排気ガス流へ分散され、かつ相対的に熱い排気ガスの領域である排気ガス入口の上流部に配置された熱電素子の過熱が同時に防がれる」に相当する。
そうすると、本願補正発明と刊行物に記載された発明とは相違する点がなく、本願補正発明は、刊行物に記載された発明であるか、刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない

第5 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。
また、仮に、上記第2のように、平成27年3月2日付けの手続補正が却下されないものとしても、上記第4のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-21 
結審通知日 2015-08-25 
審決日 2015-09-09 
出願番号 特願2011-541280(P2011-541280)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F01N)
P 1 8・ 572- Z (F01N)
P 1 8・ 121- Z (F01N)
P 1 8・ 57- Z (F01N)
P 1 8・ 113- Z (F01N)
P 1 8・ 574- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今関 雅子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 槙原 進
佐々木 訓
発明の名称 排気ガスから電気エネルギーを生成する装置  
代理人 寺田 雅弘  
代理人 多田 繁範  

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