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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1311269
審判番号 不服2013-13751  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-18 
確定日 2016-03-02 
事件の表示 特願2009-553033「非球面レンズを有する拡大ルーペ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月18日国際公開、WO2008/110264、平成22年 6月24日国内公表、特表2010-521700〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2008年2月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年3月15日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年2月13日に手続補正がなされ、同年3月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年7月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、平成26年5月26日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年8月15日に手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審の平成25年10月4日付け審尋に対する回答書を平成26年4月4日に、当審拒絶理由通知についての意見書を平成26年8月15日に、それぞれ提出している。

2 本願発明
本願の請求項1ないし18に係る発明は、平成26年8月15日に提出された手続補正書の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、平成26年8月15日付け手続補正によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。

「(a)接眼レンズ系を支持する第1の開口を有する第1の端部、及び対物レンズを支持する第2の開口を有する第2の端部を有するハウジングと、
(b)前記ハウジングの前記第1の端部内に配置される接眼レンズ系と、
(c)前記ハウジングの前記第2の端部内に配置される対物レンズ系と、
を備え、前記対物レンズ系は、機械的損傷及び/又は化学的損傷から保護される少なくとも1つの非球面プラスチックレンズを備える、拡大ルーペであって、
前記対物レンズ系の両レンズが、一方の側面が平面であり、ハウジングの上端を平坦に設計可能であり、該両レンズの上部のみにおいてレンズの半径10?60%が切除されており、
前記非球面プラスチックレンズは、
(1)前記対物レンズ系の一部である少なくとも1つのガラスレンズであって、該ガラスレンズは前記非球面レンズと前記ハウジングの前記第2の開口との間に位置決めされ、
2つの平坦な表面を有している少なくとも1つのガラスレンズ、又は
(2)前記非球面レンズと前記ハウジングの前記第2の開口との間に位置決めされ、2つの平坦な表面を有している少なくとも1つの使い捨てプラスチックレンズ、によって保護される、拡大ルーペ。」(以下、「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
(1)当審拒絶理由に引用した、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である独国特許出願公開第19860432号明細書(以下「引用例」という。)には、図とともに次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。


(日本語訳:
「明細書
本発明は、望遠鏡または拡大鏡のための光学システムに関する。
望遠鏡または拡大鏡には、単眼または双眼の、その使用目的(遠景または近景)に応じて望遠システムまたは拡大システムとなる強力な拡大光学システムが備えられている。このような望遠鏡または拡大鏡は、一方では視力が強く制限されている患者に、それなりの視力を作り出すのに役立っている。他方、それは単眼または双眼の形をして、細かな仕事、例えば手術を行う者の作業を助ける手段としても役立っている。
光学システムとしては、短い構造の単純な仕組みで十分な拡大が可能であることから、ガリレイシステムが一般的に用いられている。高い光学像品質を確保するために、吸色性の光学システムが用いられている。色収差補正のために、対物レンズとして、少なくとも2枚の色消しレンズからできた単体レンズを使用する必要があるが、これは光学システムの価格を上げると同時に重量も増やしている。重量は、望遠鏡または拡大鏡を装着する際の快適性に影響する。
更に、常に、短い構造体の長さ、即ち対物レンズの焦点距離が短くなることと、それに応じて結像(反射)面の曲率半径が小さくなることとの間で妥協点を探らなければならない。曲率半径が小さいことで、可能な最大入射光開口部の大きさ、そしてその結果実際の構造体長(焦点距離)と視野の大きさも、制限される。しかしながら、特に視力障害者にとっては、広い視野は非常に重要である。
本発明は、重量は軽いが十分な色収差補正が可能であり、さらに広い視野が得られるという、望遠鏡または拡大鏡に最適な光学システムを提供することを目的としている。
上記の目的は、本発明によれば、請求項1に記載の特徴を有する光学システムによって達成される。本発明の光学システムは、その接眼レンズ側の表面に画像回折構造が配されている1個の対物レンズを具備する。これにより、短い焦点距離と十分な色収差補正能の両方を備えた比較的薄いレンズを実現できる。
前記回折構造は、単純な光学システムにおいては昔から知られており、特に光学装置にプラスチックレンズを使用する際に、製造コストの低下を第一目的として用いられている。米国特許第5,581,405A号は、いわゆる使い捨てカメラ用の、結像面が凸面型に湾曲した反射面であり、別に凹面状の結像面が回折構造と一緒に具備されているハイブリッドレンズがそれを示している。ドイツ国特許第DE4110614A1号には、眼鏡用レンズでの回折構造の使用が開示されている。しかしながら、それには回折構造を保護する目的で保護層が設けられており、それが画質を低下させる。
本発明は、以下の事実に基づく。すなわち、ハイブリッド光学システムは、画質について妥協を許さない、視覚障害者向けの高品質光学的視覚補助装置の領域を含む、望遠鏡または拡大鏡向けの高品質光学システムにおいて、技術的に単純な製造工程、特にプラスチック射出成形を採用した場合でも、回折構造が望遠鏡または拡大鏡の内部に配されたシステムの表面上に、回折構造を保護するための、画像劣化を招くような保護層を備えることが不要となることから、画質を犠牲にすることなく使うことができる。
対物レンズとしては平凸レンズを想定することが好ましく、この場合回折構造は平坦面に配置される。特に回折構造は非球面状にカーブした面の上に配される。このようなレンズ1枚を使うと、色収差補正だけでなく1/4波長収差と角度収差も強く補正できるようになる。
回折構造は、特に100以上の、同心かつ鋸歯型の環状域であって、その表面は凸状に湾曲しているものから形成されていることが好ましい。これによって環状域を出て焦点に集められた光線は、少なくともある波長では、位相遅れは全て同じになることが保証される。
特に回折構造は、構造波長を546.074nmとして計算される。これにより可視域全体について、特に十分な回折効率を実現することができる。
対物レンズおよび接眼レンズは、同じ材料からできていることが好ましい。こうして作られた光学システムでは、この方法によって特に効率的な収差補正が可能となることが示されている。
材料としては、熱可塑性ポリマー、特にポリメチルメタクリレート(PMMA)を想定すると好都合であり、この材料は対物レンズ射出成形時に、対物レンズ上に回折構造を作ることを可能にする。別の好適実施例では、本発明は接眼レンズだけでなく対物レンズにも一体的にチューブが形成され、これらは連結して光学システム全体のハウジングを形作る。これにより、光学システムの特に経済的な製造が可能となる。
別の好適実施態様では、パイロットピンが設けられたチューブと、その内部の周囲にねじが切られている別のチューブを想定している。これにより、光学システムの鮮明度を簡単に個別設定できるようになる。
本発明を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図面の簡単な説明:
図1は、本発明の光学システムを使った望遠鏡の透視図である。
図2は、本発明の光学システムの縦断面図である。
図3は、前記光学システムの側平面図である。
図4は、光学システムに用いられているレンズの断面図である。
図5は、回折構造と光線の光路の拡大図である。
図1によれば、望遠鏡または拡大鏡4の光学レンズ2はそれぞれ光学システム6を具備しており、その光軸は、例えばドイツ国特許第DE3530649C2号に記載されている方法を用いて、眼鏡使用者の眼軸に合わせて調整されている。
光学システム6は、図2に描かれている実施例によると、対物レンズ8と、少なくとも回折性の凸面型の画像面10を有し、被写体の直立像を作り出す両凹型の接眼レンズ12を配したガリレイ望遠鏡である。
接眼レンズ12側の対物レンズ8の表面14は平面である。別の好適施態様では、表面14は、更に色収差を補正するため、特に球面収差を補正するために、わずかにカーブした非球面であってもよい。表面14には、図面には描かれていない回折構造が具備されており、これにより比較的薄いレンズでも短い焦点距離を可能にしている。
対物レンズ8および接眼レンズ12は熱可塑性材料からできており、特にプラスチック射出成形によって一つの作業工程で別々に作られる。対物レンズ8だけでなく接眼レンズ12にも、それぞれチューブ16ないし18が一体式に形作られており、それを使って対物レンズ8と接眼レンズ12は相互連結することができる。チューブ16、18はその表面を荒肌加工されており、同時に光学システム6のハウジングも形作っている。光学システム6は、クランピングリングの助けを借りて、光学レンズ2に作られた開口部に固定される。
対物レンズ8に形成されたチューブ16は、光学レンズ2から反り出ているその末端壁と共に対物レンズ8の外部突起Sの上を覆っており、これによりレンズ設置時に対物レンズが機械的に損傷しないようにしている。
チューブ16の外周、縦方向に配された溝型の凹み24は、蓋として形成され、チューブ16の上に載せることができる光学解像システム28、例えば色フィルタまたは太陽光線フィルタの固定ピン26を受ける役割を果たしている。
図3の側平面図からは、対物レンズ8と接眼レンズ12の間の距離を変えることができるように、内側チューブ18にらせん状のスロット30が設けられ、そこに外側チューブ16に配されたガイドピン32が入ることが見てとれる。
図4は、光学システム6の対物レンズおよび接眼レンズ8ないし12を拡大して示している。回折構造34を具備した表面14は、光軸36の領域で拡大して描かれており、これは、例えばJari TurunenおよびFrank Wyrowski編集の教科書「Diffractive Optics for Industrial and Commercial Applications(産業および商業利用のための回折光学)」、Akademie Verlag(アカデミー出版)、ベルリン、1997年、ISBN 3-05-501733-1の82ページの詳しい記載に従って作られる。この実施例では、個々の環状域38は、凸状に湾曲した表面から作られており、その曲率は、光線の光路が環状域38の外域か内域かにかかわらず、環状域38の光線の焦点までの光路長が、環状域38内の全ての光線について等しくなるように選ばれる。
図5によると、好適実施例では直径25mmの対物レンズ8には、126個の環状域38を有する回折構造32が配備されている。このような構造32の焦点Fは、回折構造34を具備した表面14の内側頂点S’から1134.73mmの距離にある。この時、構成波長λは545.074nmであると特に好都合である。これにより、光学システムの回折面に生じる色収差を特に都合よく補正することができる。図面に示した数値例は、対応する回折像の一次回折次数に基づいて計算されている。対物レンズの総焦点距離は47.9mmである。回折像表面10(図2)は、約24.5mmの曲率半径と約6mmの厚みを持つ非球面である。
別の好適実施態様では、更に収差を補正するために、表面14を非球面に曲げることもできる。

符号の説明
2 光学レンズ
4 望遠鏡または拡大鏡
6 光学システム
8 対象物
10 結像面
12 接眼レンズ
14 表面
16,18 チューブ
20 クランピングリング
22 連結面
24 凹み
26 固定ピン
28 光学解像システム
30 スロット
32 ガイドピン
34 回折構造
36 光軸
38 環状域
S 外焦点
F 外側頂点
S’内側頂点
λ 構成波長
d 厚み

特許請求の範囲
【請求項1】 その接眼レンズ(14)側表面(12)に像回折構造(34)を備えた、一体型対物レンズ(8)を有する望遠鏡または拡大鏡(4)用の光学システム(6)。
【請求項2】 回折構造(34)を具備した対物レンズ(8)表面(14)は平坦であることを特徴とする、請求項1に記載の光学システム(6)。
【請求項3】 回折構造(34)を備えた対物レンズ(8)表面(14)は非球面に調整されていることを特徴とする、請求項2に記載の光学システム(6)。
【請求項4】 回折構造(34)は、同心性の、鋸歯型の環状域(38)より成り、その表面(14)は凸型に曲げられていることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の光学システム(6)。
【請求項5】 少なくとも100個の環状域を具備することを特徴とする、請求項4に記載の光学システム(6)。
【請求項6】 回折構造(34)は、546.074nmの構成波長を基に計算されることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の光学システム(6)。
【請求項7】 対物レンズ(8)および接眼レンズ(12)は同一材料からできていることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の光学システム(6)。
【請求項8】 材料として熱可塑性ポリマーが用いられていることを特徴とする、請求項7に記載の光学システム(6)。
【請求項9】 材料は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)であることを特徴とする、請求項8に記載の光学システム(6)。
【請求項10】 接眼レンズ(12)および全ての対物レンズ(8)各々に、一体式にチューブが形作られており、嵌め合わせるとハウジングが形成されることを特徴とする、請求項8に記載の光学システム(8)。
【請求項11】 チューブの一方にはガイドピン(32)に設けられており、それがもう一方のチューブ(16)の周囲方向にらせん状に付けられたスロットに嵌め込まれることを特徴とする、請求項10に記載の光学システム(8)。

図面2葉。」)

(2)Fig.2は次のとおりである。


(3)上記(1)及び(2)から、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「例えば、手術の際の細かい作業の実施を補助するため、両眼鏡の構成で提供される拡大鏡であって、
接眼レンズ12、対物レンズ8、前記接眼レンズ12と一体となった筒18及び前記対物レンズ8と一体となった筒16を備え、
前記対物レンズ8及び接眼レンズ12は、熱可塑性ポリマー材料、特にポリメチルメタクリレート(PMMA)で射出成形され、非球面の表面を備えたものである、
拡大鏡。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
(1)引用発明の「接眼レンズ12」、「対物レンズ8」、「『接眼レンズ12と一体となった筒18』、『対物レンズ8と一体となった筒16』」及び「拡大鏡」は、それぞれ、本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の「接眼レンズ系」、「対物レンズ系」、「ハウジング」及び「拡大ルーペ」に相当する。

(2)引用発明の「ハウジング(筒18、筒16)」が開口及び端部を有していることはFig.2から明らかであり、「接眼レンズ系(接眼レンズ12)」及び「対物レンズ系(対物レンズ8)」が、「ハウジング(筒18、筒16)」の端部内に一体的に支持されていることもFig.2から明らかであるから、引用発明「拡大ルーペ(拡大鏡)」と、本願発明の「拡大ルーペ」とは、少なくとも、「接眼レンズ系を支持する第1の開口を有する第1の端部、及び対物レンズを支持する第2の開口を有する第2の端部を有するハウジングと、前記ハウジングの前記第1の端部内に配置される接眼レンズ系と、前記ハウジングの前記第2の端部内に配置される対物レンズ系と、を備え」る点で一致する。

(3)引用発明の「対物レンズ系(対物レンズ8)」は、熱可塑性ポリマー材料、特にポリメチルメタクリレートで射出成形され、非球面の表面を備えたものであるから、本願発明の「対物レンズ系」と、「少なくとも1つの非球面プラスチックレンズを備える」点で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)から、本願発明と引用発明とは、
「(a)接眼レンズ系を支持する第1の開口を有する第1の端部、及び対物レンズを支持する第2の開口を有する第2の端部を有するハウジングと、
(b)前記ハウジングの前記第1の端部内に配置される接眼レンズ系と、
(c)前記ハウジングの前記第2の端部内に配置される対物レンズ系と、
を備え、前記対物レンズ系は、少なくとも1つの非球面プラスチックレンズを備える、拡大ルーペ。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記「対物レンズ系」が、
本願発明では、「機械的損傷及び/又は化学的損傷から保護され」るものであり、その「非球面プラスチックレンズ」が、「(1)前記対物レンズ系の一部である少なくとも1つのガラスレンズであって、該ガラスレンズは前記非球面レンズと前記ハウジングの前記第2の開口との間に位置決めされ、2つの平坦な表面を有している少なくとも1つのガラスレンズ、又は(2)前記非球面レンズと前記ハウジングの前記第2の開口との間に位置決めされ、2つの平坦な表面を有している少なくとも1つの使い捨てプラスチックレンズ、によって保護され」るものであるのに対し、
引用発明では、そのような保護手段を備えない点。

相違点2:
前記「対物レンズ系」の「両レンズ」が、
本願発明では、「一方の側面が平面であり、ハウジングの上端を平坦に設計可能であり、該両レンズの上部のみにおいてレンズの半径10?60%が切除されて」いるのに対し、
引用発明では、対物レンズ系は1枚のレンズであり、一方の側面が平面になっておらず、レンズの上部が切除されてもいない点。

5 判断
(1)相違点1について
ア 本願の優先日前に、レンズ系の先頭の(最も物体側に配置された)プラスチックレンズに傷や汚れがつくことを防止するために、該先頭のプラスチックレンズの更に前側に平行平面ガラス板を設けること、及び、該平行平面ガラス板を設ける位置をレンズホルダーの開口端と先頭レンズの間とすることは周知(以下「周知技術1」という。例えば、当審拒絶理由に引用した特開平1-263615号公報(2頁左上欄18行?同右上欄末行の「・・・レンズ系の先頭のレンズがプラスチックレンズとなることが不可避となっている。一方、プラスチックレンズはガラスレンズに比べ、硬度で劣っており、傷および汚れがつきやすいという欠点を有している。本発明はレンズ系の先頭に設けられたプラスチックレンズを傷や汚れから保護し、しかも同時に収差が良好に補正されたプラスチックズームレンズを提供することを目的とする。・・・プラスチックレンズの傷や汚れの防止は、先頭のプラスチックレンズの前にガラス平行平面板を設けることにより達成できる。・・・プラスチックレンズの傷、汚れの防止には、・・・先頭のプラスチックレンズの前にガラス平行平面板を設ければ良い」旨の記載、第1図等参照。)、当審拒絶理由に引用した特開昭63-269137号公報(2頁左上欄16行?同右下欄18行の「・・・保護用の皮膜(保護層)なしのプラスチック玉レンズを・・・レンズ系の最も前方(被写体側)へ配置したのでは、プラスチックレンズ玉に疵がつき又はごみよごれなどが付着するという問題が生じる。・・・赤外線カットコーティング付平行平面フィルタをプラスチックレンズよりも更に前側に配置することにより、・・・プラスチックレンズに、疵や汚れが付着することを防止できる。・・・保護フィルタ3は平行平面ガラス板であり、フィルタホルダー2に保持され、・・・フィルタホルダー2は、レンズホルダー1の前部に切られているフィルタ取付ネジ部11に嵌合されて組込まれる・・・」旨の記載、第1図等参照。))である。
イ 引用発明の「拡大ルーペ(拡大鏡)」は、例えば、手術の際の細かい作業の実施を補助するためのものであり、そのような用途では先頭レンズに傷や汚れが付き易いことは当業者には明らかであるから、引用発明において、レンズホルダーの開口端と先頭のプラスチックレンズの間に平行平面ガラス板を設け、該先頭プラスチックレンズが傷や汚れから保護されるようになすこと、すなわち相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術1に基づいて容易になし得たことである。

(2)相違点2について
ア 本願の優先日前に、拡大鏡において、対物レンズを単レンズでなく複数のレンズを組み合わせたレンズ系とすることは周知(以下「周知技術2」という。例えば、いずれも原査定の拒絶理由で引用された、特開2007-47319号公報(図5等参照。)及び特開2005-107250号公報(図3等参照。))である。
イ 本願の優先日前に、外科用又は手術用の拡大鏡の対物レンズにおいて、該対物レンズの(正面視で)上部を直線状又は円弧状にカットオフしてなる非円形の形状を採用することは周知(以下「周知技術3」という。例えば、実願昭53-135123号(実開昭55-52122号)のマイクロフィルム(対物レンズの形状については第1図、第4図参照。手術用であることについては実用新案登録請求の範囲参照。)、実願昭54-14761号(実開昭55-116314号)のマイクロフィルム(対物レンズの形状については第1図、第3図参照。裸眼で拡大鏡が邪魔にならずに見ることができることについては1頁13?14行参照。外科用であることについては6頁14行参照。)、特開2005-18068号公報(【請求項1】、【0001】、【0026】、【0027】の「(対物レンズを)非円形の形状にすることによって、使用者は、必要に応じてルーペ・ハウジング30、52越しに見ることで、実際の物体をより簡単に見ることもできる」旨の記載、図1、図2、図3A、図3B、図9、図10参照。))である。
ウ 本願発明において、「対物レンズ系の両レンズが、一方の側面が平面であり、ハウジングの上端を平坦に設計可能であり、該両レンズの上部のみにおいてレンズの半径10?60%が切除されて」いることによる作用効果は、本願明細書の【0022】に「好ましくは、対物レンズ系のレンズのみの一側面が平面であり、ハウジングの上端を平坦に又は基本的に平坦に設計することを可能にする。好ましくは、レンズの一側面においてレンズの半径の10%?60%、たとえば10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、又は60%、より好ましくは20%?50%が切除される。この除去によって、本発明の拡大ルーペ又は立体拡大ルーペの視野はわずかに低減するが、それによって、ユーザが拡大ルーペ又は立体拡大ルーペ越しに見るために眼を上げると、視野は顕著に増大する」と記載されているとおり、ユーザが拡大ルーペ又は立体拡大ルーペ越しに見るために眼を上げると、視野が顕著に増大することであるところ、周知技術3も同様の作用効果を奏することは上記イに示した周知例の記載からも明らかである。
エ 実際の物体をルーペ・ハウジング越しに見る際にルーペハウジングが邪魔にならないようにするために、引用発明に周知技術3を適用する際、工程の簡略化等のために、対物レンズをカットオフする部分をルーペ越しの視界の妨げになる該レンズの上部のみに限定することは当業者が適宜なし得る程度のことである。また、カットオフする範囲をレンズの半径の何%とするかは、ルーペ・ハウジング越しの視野をどの程度確保したいかに応じて適宜定めればよい設計的事項である。
オ 上記アないしエからみて、引用発明において、対物レンズ系を両レンズから構成するとともに、該両レンズの一方の側面を平面とし、ハウジングの上端を平坦に設計可能とし、該両レンズの上部のみにおいてレンズの半径10?60%を切除すること、すなわち、相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術2及び周知技術3に基づいて容易になし得たことである。

(3)効果について
本願発明の奏する効果は、当業者が引用発明の奏する効果、周知技術1の奏する効果、周知技術2の奏する効果及び周知技術3の奏する効果に基づいて予測することができた程度のものである。

(4)まとめ
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1、周知技術2及び周知技術3に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願の請求項1に係る発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1、周知技術2及び周知技術3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-08 
結審通知日 2014-09-11 
審決日 2014-09-25 
出願番号 特願2009-553033(P2009-553033)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 西村 仁志
清水 康司
発明の名称 非球面レンズを有する拡大ルーペ  
代理人 庄司 隆  

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