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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1311776
審判番号 不服2015-2939  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-16 
確定日 2016-03-03 
事件の表示 特願2012-134929「CDMA通信システムにおけるハイブリッド自動再送機構におけるデータ配送」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月22日出願公開、特開2012-231490〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,2003年5月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年5月13日 米国,2002年6月19日 米国)を国際出願日とする特願2004-504442号の一部を平成21年11月9日に新たな特許出願として出願した特願2009-256305号の一部を平成24年6月14日に新たな特許出願として出願したものであって,平成25年9月19日付け拒絶理由通知に対して平成26年4月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが同年10月6日付けで拒絶査定がなされ,これを不服として平成27年2月16日付けで審判請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年2月16日に提出された手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本願発明と補正後の発明
本件補正は,平成26年4月1日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「無線通信方法であって,
送信すべきデータパケットの優先度を決定することと,
データチャネルを介して前記データパケットを送信することと,
前記優先度を含む制御メッセージを形成することと,
前記制御メッセージを制御チャネルを介して前記データチャネルと同時に送信することと,
を具備し,
前記制御メッセージはさらに流出指示を含み,前記流出指示は,前記データパケットの前記優先度とは異なる優先度をもつ少なくとも1つのデータチャネルを流出するための指示を含む,方法。」
という発明(以下,「本願発明」という。)を,補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「無線通信方法であって,
送信すべきデータパケットの第1の優先度を決定することと,
データチャネルを介して前記データパケットを送信することと,
前記第1の優先度を含む制御メッセージを形成することと,
前記制御メッセージを制御チャネルを介して前記データチャネルと同時に送信することと,
を具備し,
前記制御メッセージはさらに流出指示を含み,前記流出指示は,前記データパケットの前記第1の優先度とは異なる第2の優先度をもつ少なくとも1つのデータチャネルを流出するための指示を含み,ここにおいて,前記第2の優先度に関して送信すべきデータが存在しない場合には,前記第1の優先度の前記データパケットは,前記第2の優先度のデータパケットの送信に使用された,前記少なくとも1つのデータチャネルを介して送信される,方法。」
という発明(以下,「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2 新規事項の有無,補正の目的要件について
本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲若しくは図面に記載した事項の範囲内において,補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「優先度」,「異なる優先度」が,それぞれ,「第1の優先度」,「第2の優先度」である点を付加して限定するとともに,「前記第2の優先度に関して送信すべきデータが存在しない場合には,前記第1の優先度の前記データパケットは,前記第2の優先度のデータパケットの送信に使用された,前記少なくとも1つのデータチャネルを介して送信される」点を付加して限定することにより特許請求の範囲を限定的に減縮するものであって,特許法第17条の2第3項(新規事項)及び特許法第17条の2第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

3 独立特許要件について
上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1 本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明と周知技術
A 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用されたQualcomm,Handling of missing blocks in the reordering buffer,3GPP TSG-RAN Joint WG1/WG2 AH#32 R2A-010029,2001年11月,〈URL,http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG2_RL2/TSGR2_AHs/2001_11_WG1_HSDPA/R2_only_docs/R2A010029.zip〉(以下,「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。

ア 「1.Introduction
At the WG2 meeting #23 in Helsinki, a general framework for the HARQ protocol for HSDPA was agreed to (see [1]). This framework envisioned the existence of two independent protocols sitting on top of one another. The lower protocol is the Hybrid ARQ proper and will allow the combining of symbols transmitted over multiple occasions in order to correctly decode a given data block. Whereas the upper protocol will allow the re-ordering of these correctly decoded data blocks so as to provide in-sequence delivery to the higher layers.
The re-ordering protocol will be based, for each priority level, around some form of receive buffer and a sequence number with which each data block will be tagged in order to allow reliable reordering. The current working assumption (see [1]) is that the priority level and sequence number (TSN) will be transmitted in-band, together with the data. This implies that as long as a data block cannot be decoded, the receiver cannot determine which data blocks are pending.
・・・(中略)・・・
The HARQ protocol is synchronous, and with the use of the New Data Indicator (see [1]) it is possible to tell when a given transmission has been interrupted. However, because there multiple priority levels and assumed, and the indication of this level is only present in-band, it is not possible to tell which queue the abandoned transmission was intended for. When multiple transmissions from multiple priority levels are pending, it is practically impossible to know which ones were abandoned and which ones are still pending.
(当審仮訳:
1.イントロダクション
ヘルシンキのWG2会合#23において,HSDPAのためのHARQプロトコルについての一般的枠組みが採択された([1]参照)。この枠組みは互いに上下に重なり合う2つの独立したプロトコルの存在を想定している。下層のプロトコルはハイブリッドARQプロトコルであり,所与のデータブロックを正しく復号するために複数回にわたって送信されたシンボルの結合を考慮する。これに対して,上層のプロトコルは上位レイヤへの順番通りの配送を行えるよう,正しく復号されたデータブロックの再配列を考慮する。
この再配列プロトコルは,各優先度レベルごとに,ある形の受信バッファと,信頼できる再配列を許可するために各データブロックに付されたシーケンス番号とを基礎にしている。現在用いられている仮定([1]参照)は,優先度レベルとシーケンス番号(TSN)がデータと共にインバンドで送信されるということである。このことは,データブロックが復号できない限り,受信機はどのデータブロックが未受信かを決定できないことを意味する。
・・・(中略)・・・
HARQプロセスは同期的であり,新規データ指示子([1]参照)の使用により,いつ送信が中断されたかを知ることができる。しかしながら,複数の優先度レベルが仮定され,また,このレベルの指示がインバンドでのみ表示されるため,その放棄された送信がどのキューに対してなされたものであるのかを知ることはできない。複数の優先度からの複数の送信が実行中であるとき,どれが放棄されどれがまだ実行中であるのかを知ることは実際には不可能である。)」(1頁)

イ 「3.3.Implicit determination of aborted transmission
In [3], a method was proposed for deducing, based on the data received on the same or lower priority level that the transmission of a missing data block had been aborted. This mechanism does not require the use of additional signaling and instead relies on the order with which data blocks are transmitted (highest priority level and earliest arrival first). However, it appears that a fair number of data blocks need to be received before it can be conclusively established that the transmission of a given missing block had been aborted. Therefore, its use only really applies to scenarios belonging to case (b). Furthermore, it does not improve the worse case waiting time but rather provides improvement in some specific circumstances.
It would be possible to boost the performance of such a mechanism by modifying the HARQ signaling. For example, if the priority level were known independently of the decoding of the data, which can be achieved by moving the priority level indicator from in-band to the shared control channel, then the knowledge of whether a block was still in re-transmission for a given priority level would be much more reliable.
(当審仮訳:
3.3 中止された送信の間接的な決定
[3]で,同じか下の優先度レベルでデータが受信されたことに基づいて,紛失したデータブロックの送信が中止されたことを推定することが提案された。このメカニズムは,追加的なシグナリングの利用を必要とせず,その代わりにデータブロックが送信された順番(最高の優先度レベルと最も早く到着したものが先)に依存する。しかしながら,あるデータブロックの送信が中止されたと断定できるためにはかなりの数のデータブロックが受信される必要があるように見える。従って,その利用は,ケース(b)に属するシナリオにのみ実際にはあてはまる。さらに,それは,より悪いケースの待ち時間を改善せず,ある特殊な状況での改善に資する。
HARQシグナリングを修正することにより,そのようなメカニズムのパフォーマンスを上昇させることができる。例えば,優先度レベルがデータの復号とは無関係に知られるならば,これは,優先度レベル指示子をインバンドから共有制御チャネルへと移すことにより達成できるが,ブロックがまだある特定の優先度レベルについての再送途中であるかについての情報ははるかに信頼できるものになるであろう。)」(3頁)

上記引用例の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると,
a 上記引用例には,「HSDPAのためのHARQプロトコルについての一般的枠組み」(摘記事項ア)に関して記載されており,この中で,「現在用いられている仮定([1]参照)は,優先度レベルとシーケンス番号(TSN)がデータと共にインバンドで送信されるということである。このことは,データブロックが復号できない限り,受信機はどのデータブロックが未受信かを決定できないことを意味する。」(摘記事項ア)とあり,上記「優先度レベル」がデータと共に送信されるものである以上,送信機側で該データ(データブロック)の「優先度レベル」が決定されていることは自明であり,また,HARQプロトコルにおいてデータブロックが「HARQプロセス」を介して送信されることは技術常識であるから,
「送信すべきデータブロックの優先度レベルを決定することと,
HARQプロセスを介して前記データブロックを送信すること」
が記載されている。
b また,上記「優先度レベル」の送信チャネルについて,「例えば,優先度レベルがデータの復号とは無関係に知られるならば,これは,優先度レベル指示子をインバンドから共有制御チャネルへと移すことにより達成できるが,ブロックがまだある特定の優先度レベルについての再送途中であるかについての情報ははるかに信頼できるものになるであろう。」(摘記事項イ)とあるように,「優先度レベル」を「共有制御チャネル」で送信することも記載されているが,該「共有制御チャネル」で送信されるデータは「制御メッセージ」と言えるから,
「前記優先度レベルを含む制御メッセージを形成することと,
前記制御メッセージを共有制御チャネルを介して送信すること」
が記載されている。
c 以上のようなデータブロックの送信処理がなされる「HSDPA」は,High Speed Downlink Packet Access(高速ダウンリンクパケットアクセス)の略であって,移動通信システムの通信プロトコルであることは技術常識であるから,上記引用例には,
「無線通信方法」
が記載されていると言える。

以上を総合すると,上記引用例には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が開示されていると認める。

「無線通信方法であって,
送信すべきデータブロックの優先度レベルを決定することと,
HARQプロセスを介して前記データブロックを送信することと,
前記優先度レベルを含む制御メッセージを形成することと,
前記制御メッセージを共有制御チャネルを介して送信することと,
を具備する方法。」

B 周知技術1
例えば,原査定において周知例として引用されたMotorola,HARQ Protocol: Details of Asynchronous/Synchronous HARQ Scheme,3GPP TSG-RAN WG2 TSGR2#23-011977,2001年8月,〈URL,http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG2_RL2/TSGR2_23/Docs/Zips/R2-011977.zip(以下,「周知例1」という。)には,下記の事項ウが記載されている。

ウ 「Method B: separates the channel identifier from the packet sequence number and provides an explicit abort indication. In this scheme, a 3-bit channel identifier and 1-bit new packet indicator is sent on the shared control channel.
・・・(中略)・・・
Alternatively, the Node B may use the new packet indicator to abort a HARQ channel by incrementing the new packet indicator in the absence of acknowledgement. A UE detecting a change in the state of the new packet indicator will flush the contents of the HARQ buffer and replace with the current attempt. This method allows the Node B to selectively abort a specific HARQ channel.
(当審仮訳:
方法B:チャネル識別子をパケットシーケンス番号から分離し,明示的な中止指示を提供する。このスキームでは,3ビットのチャネル識別子と1ビットの新規パケット指示子が共有制御チャネルで送信される。
・・・(中略)・・・
代替として,ノードBは,ACKが無い場合に新規パケット指示子を増分することにより,HARQチャネルを中止するために新規パケット指示子を使用してもよい。新規パケット指示子の状態の変化を検出したUEは,HARQバッファの中身を流出し,現在の試行と入れ替える。この方法により,ノードBは特定のHARQチャネルを選択的に中止することができる。)」(2頁目?3頁目)

上記周知例1に記載されているように,HARQ(ハイブリッド自動再送要求)において,「HARQバッファの中身を流出させる新規パケット指示子を共有制御チャネルで送信すること。」(以下,「周知技術1」という。)は周知技術である。

C 周知技術2
例えば,ASUSTeK,Missing gap removal in the reordering entity,3GPP TSG-RAN WG2#27 R2-020240,2002年 2月,URL,http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG2_RL2/TSGR2_27/Docs/Zips/R2-020240.zip(以下,「周知例2」という。)には,下記の事項エが記載されている。

エ 「(図1 省略)
In Figure 1, four active HARQ processes, named as a, b, c, and d respectively, are considered. Initially, thirteen MAC-hs PDUs, B0 to B12, of priority class B are requested for transmission. At Cycle 3, six MAC-hs PDUs of priority class A, A0 to A5, are requested for transmission. Priority class A is assumed to have higher priority than priority class B. In Cycle 1, MAC-hs PDUs with TSN=0, 1, 2, 3 of Class B are transmitted. They are represented as B0, B1, B2, and B3 respectively. Status indications for B0 and B2 are NACK and status indications for B1 and B3 are ACK. B0 and B2 are retransmitted in Cycle 2. B4 and B5 are also transmitted in Cycle 2. B4 is not received by the receiver but the status indication is mistakenly recognized as an ACK by the transmitter. In Cycle 3, A0 to A3, which are MAC-hs PDUs of priority class A with TSN=0, 1, 2, 3 respectively, are transmitted. Status indication for A1 is NACK but is mistakenly recognized as ACK, and Status indications for A0, A2 and A3 are ACK. In Cycle 4, A4 and A5 are transmitted. Both status indications are ACK. In Cycle 4, HARQ processes c and d are scheduled to transmit MAC-hs PDUs to other UE and thus are shown blank for the considered UE. In Cycle 5, B6 to B9 are transmitted. Note that B0 is not re-initiated. It is discarded and will never be retransmitted again after interruption by priority class A.
(当審仮訳:
(図1 省略)
図1において,それぞれa,b,c,dと名付けられた4つの動作中のHARQプロセスが検討される。最初に,優先度クラスBのB0からB12までの13個のMAC-hs PDUが送信要求される。サイクル3で,優先度クラスAのA0からA5までの6つのMAC-hs PDUが送信要求される。優先度クラスAは優先度クラスBよりも高い優先度を有すると仮定する。サイクル1で,クラスBのTSNが0,1,2,3のMAC-hs PDUが送信される。これらはそれぞれB0,B1,B2,B3と表される。B0とB2の状態指示はNACKであり,B1とB3の状態指示はACKである。B0とB2はサイクル2で再送される。B4とB5もサイクル2で送信される。B4は受信機で受信されないがその状態指示は送信機においてACKと誤って受信される。サイクル3で,優先度クラスAでそれぞれのTSNが0,1,2,3のMAC-hs PDUであるA0からA3までが送信される。A1の状態指示はNACKであるがACKと誤って受信され,A0,A2,A3の状態指示はACKである。サイクル4で,A4とA5が送信される。両方とも状態指示はACKである。サイクル4で,HARQプロセスcとdは他のUEへMAC-hs PDUを送信することが予定されており,このため検討中のUEについてはブランクで表示されている。サイクル5で,B6からB9までが送信される。B0は再送されないことに注意されたい。それは廃棄され,優先度クラスAの介入後は再び再送されることは決してない。)」(2頁)

上記周知例2に記載されているように,HARQ(ハイブリッド自動再送要求)において,「異なる優先度のデータを同一のHARQプロセスで送信すること。」(以下,「周知技術2」という。)は周知技術である。

(3)対比
補正後の発明と引用発明とを対比するに,
a 引用発明の「データブロック」が「パケット」として送信されることは明らかであって,補正後の発明の「データパケット」に相当する。
b 引用発明の「HARQプロセス」は,「データブロック」が送信される「チャネル」といえるから,補正後の発明の「データチャネル」に相当する。
c 引用発明の「優先度レベル」は補正後の発明の「第1の優先度」に含まれる。

従って,両者は以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「無線通信方法であって,
送信すべきデータパケットの第1の優先度を決定することと,
データチャネルを介して前記データパケットを送信することと,
前記第1の優先度を含む制御メッセージを形成することと,
前記制御メッセージを制御チャネルを介して送信することと,
を具備する方法。」

(相違点1)
「制御メッセージ」が,
補正後の発明では「データパケットと同時に送信」されるのに対し,
引用発明では不明である点。

(相違点2)
補正後の発明では「前記制御メッセージはさらに流出指示を含み,前記流出指示は,前記データパケットの前記第1の優先度とは異なる第2の優先度をもつ少なくとも1つのデータチャネルを流出するための指示を含み,ここにおいて,前記第2の優先度に関して送信すべきデータが存在しない場合には,前記第1の優先度の前記データパケットは,前記第2の優先度のデータパケットの送信に使用された,前記少なくとも1つのデータチャネルを介して送信される」のに対し,
引用発明では不明である点。

(4)判断
上記相違点につき検討する。

(相違点1)について
引用発明の「無線通信方法」は,具体的にはHARQプロトコルを用いた通信方法であり,HARQプロトコルにおける制御メッセージで送信される情報は,データチャネルで送信される特定のデータブロック(データパケット)の制御に関する情報であり,時間的に近接したタイミングで送信すべきものであることは明らかであるから,引用発明において,「制御メッセージ」を「データパケットと同時に送信」することは,当業者であれば容易になし得たものである。

(相違点2)について
上記「2 引用発明と周知技術」の項中の「(2)周知技術」に記した周知技術1,2を以下に再掲する。
「HARQバッファの中身を流出させる新規パケット指示子を共有制御チャネルで送信すること。」(周知技術1)
「異なる優先度のデータを同一のHARQプロセスで送信すること。」(周知技術2)

上記周知技術1において,新規パケット指示子はあきらかに「流出指示」といえ,また,流出されるHARQバッファの中身が当該HARQプロセスを用いて先に送信されたデータであることは自明であって,このときその「流出指示」は「データチャネルを流出するための指示」といえる。
そして,上記周知技術2にあるように,異なる優先度のデータを同一のHARQプロセスで送信することが周知技術であることに鑑みれば,引用発明のデータチャネル(HARQプロセス)において,第2の優先度のデータブロックに引き続いて第1の優先度のデータブロックを送信するようにし,「前記制御メッセージはさらに流出指示を含み,前記流出指示は,前記データパケットの前記第1の優先度とは異なる第2の優先度をもつ少なくとも1つのデータチャネルを流出するための指示を含」むよう構成することは,上記周知技術1,2に基づいて当業者が容易になし得たものである。
その際,先に送信される第2の優先度のデータブロックについて「送信すべきデータが存在しない場合」には,該送信に使用されたHARQプロセスが次のデータブロックの送信に使用可能であることは明らかであって,「前記第2の優先度に関して送信すべきデータが存在しない場合には,前記第1の優先度の前記データパケットは,前記第2の優先度のデータパケットの送信に使用された,前記少なくとも1つのデータチャネルを介して送信される」ようにすることは,当業者が適宜なし得ることに過ぎない。
そうすると,結局,引用発明において,「前記制御メッセージはさらに流出指示を含み,前記流出指示は,前記データパケットの前記第1の優先度とは異なる第2の優先度をもつ少なくとも1つのデータチャネルを流出するための指示を含み,ここにおいて,前記第2の優先度に関して送信すべきデータが存在しない場合には,前記第1の優先度の前記データパケットは,前記第2の優先度のデータパケットの送信に使用された,前記少なくとも1つのデータチャネルを介して送信される」構成を採用することは,上記周知技術1,2に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

そして,補正後の発明が奏する効果も引用発明及び周知技術から容易に予測できる範囲内のものである。

(5)まとめ
以上のとおり,補正後の発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定 1 本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2 引用発明と周知技術
引用発明及び周知技術は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3 独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明と周知技術」の項で認定したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から当該本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成に当該本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3 独立特許要件について」の項で検討したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから,本願発明も同様の理由により,容易に発明できたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-30 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-20 
出願番号 特願2012-134929(P2012-134929)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04L)
P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷岡 佳彦  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
新川 圭二
発明の名称 CDMA通信システムにおけるハイブリッド自動再送機構におけるデータ配送  
代理人 井関 守三  
代理人 奥村 元宏  
代理人 福原 淑弘  
代理人 蔵田 昌俊  

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