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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1311786
審判番号 不服2015-13028  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-08 
確定日 2016-03-03 
事件の表示 特願2011- 77284「鋳包用シリンダライナ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月 5日出願公開、特開2012- 67740〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成23年3月31日(優先権主張平成22年8月25日)の出願であって、平成26年9月17日付けで拒絶理由が通知され、平成26年11月10日に意見書が提出されたが、平成27年4月7日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年7月8日に拒絶査定審判請求がされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
高さが0.3?1.2mmでアンダーカット部を有する突起を20?80個/cm^(2)形成した外周面に溶射層を被覆した鋳包用シリンダライナにおいて、
前記溶射層が鉄系材料からなり、前記ライナ外周面の一定領域における溶射層表面の表面積と前記領域面積との比が12?23であることを特徴とする鋳包用シリンダライナ。」

3.刊行物に記載された発明
(1)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2010-159768号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、シリンダブロックに適用される鋳ぐるみ用のシリンダライナの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダブロックとしてシリンダライナを備えたものが実用化されている。一般には、アルミニウム合金製のシリンダブロックに対してシリンダライナが適用される。なお、こうした鋳ぐるみ用のシリンダライナとしては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62-52255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンにおいては、シリンダの温度上昇によりシリンダボアが熱膨張するようになる。一方、シリンダの温度の大きさは軸方向の位置に応じて変化するため、これにともなってシリンダボアの変形量も軸方向において異なった大きさとなる。こうしたシリンダボアの変形量の違いは、ピストンのフリクションの増大をまねくため、燃料消費率を悪化させる要因の一つとなっている。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的はシリンダの軸方向における温度差の縮小を通じて燃料消費率の向上を図ることのできるシリンダライナの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、シリンダブロックに適用される鋳ぐるみ用のシリンダライナの製造方法において、軸方向の上部の外周面から軸方向の下部の外周面までにわたり連続する態様の溶射層を溶射装置により形成するものであって、前記上部の外周面に溶射層を形成する際に前記溶射装置を同外周面から第1の距離だけ離間させ、前記下部の外周面に溶射層を形成する際に前記溶射装置を同外周面から前記第1の距離よりも大きい第2の距離だけ離間させることを要旨としている。」(段落【0001】ないし【0006】)

(イ)「【0014】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、図1?図6を参照して説明する。
本実施形態では、アルミニウム合金製エンジンのシリンダライナとして本発明を具体化した場合を想定している。
【0015】
<エンジンの構成>
図1に、本発明にかかるシリンダライナを備えたエンジンの全体構成を示す。
エンジン1は、シリンダブロック11及びシリンダヘッド12等を備えて構成されている。
【0016】
シリンダブロック11は、複数のシリンダ13を備えて構成されている。
シリンダ13は、シリンダライナ2を備えて構成されている。
シリンダブロック11においては、シリンダライナ2の内周面(ライナ内周面21)によりシリンダ13の内周側の壁面(シリンダ内壁14)が形成されている。また、ライナ内周面21に囲まれてシリンダボア15が形成されている。
【0017】
シリンダライナ2は、鋳造材料による鋳ぐるみを通じてその外周面(ライナ外周面22)側がシリンダブロック11と接合されている。
なお、シリンダブロック11の素材となるアルミニウム合金としては、例えば「JIS ADC10(関連規格:米国ASTM A380.0)」または「JIS ADC12(関連規格:米国ASTM A383.0)」を用いることができる。本実施形態では、アルミニウム合金として上記ADC12を採用してシリンダブロックを構成している。
【0018】
<シリンダライナの構成>
図2に、本発明が適用されたシリンダライナの斜視構造を示す。
シリンダライナ2は、鋳鉄を素材として形成されている。」(段落【0014】ないし【0018】)

(ウ)「【0067】
〔1〕「低熱伝導皮膜の構成1」
シリンダライナ2においては、溶射を通じて形成した溶射層を低熱伝導皮膜4として採用することができる。溶射層の素材としては、主にアルミナやジルコニア等のセラミック材料を採用することができる。また、この他に、酸化物及び気孔を多数含む鉄系材料の溶射層により低熱伝導皮膜4を構成することもできる。」(段落【0067】)

(エ)「【0134】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について、図9?図20を参照して説明する。
本実施形態では、前記第1実施形態のシリンダライナの構成を以下で説明するように変更している。なお、本実施形態のシリンダライナにおいて、以下で説明する構成以外については前記第1実施形態と同様となっている。
【0135】
<シリンダライナの構成>
図9に、シリンダライナの斜視構造を示す。
シリンダライナ2の外周面(ライナ外周面22)には、括れた形状の突起(突起6)が複数形成されている。
【0136】
突起6は、シリンダライナ2の上端(ライナ上端23)からシリンダライナ2の下端(ライナ下端24)までにわたってライナ外周面22の全体に形成されている。
シリンダライナ2において、突起6の表面を含めたライナ外周面22には、高熱伝導皮膜3及び低熱伝導皮膜4が形成されている。
【0137】
<突起の構成>
図10に、突起6のモデル図を示す。以降では、シリンダライナ2の径方向(矢印A方向)を突起6の軸方向とする。また、シリンダライナ2の軸方向(矢印B方向)を突起6の径方向とする。図10では、突起6の径方向からみた突起6の形状を示している。
【0138】
突起6は、シリンダライナ2と一体に形成されている。また、基端部61においてライナ外周面22とつながっている。
突起6の先端部62には、突起6の先端面に相当する頂面62Aが形成されている。頂面62Aは、略平滑に形成されている。
【0139】
突起6の軸方向において、基端部61と先端部62との間には括れ部63が形成されている。
括れ部63は、径方向に沿う断面の面積(径方向断面積SR)が基端部61及び先端部62の径方向断面積SRよりも小さくなるように形成されている。
【0140】
突起6は、括れ部63から基端部61及び先端部62へかけて径方向断面積SRが徐々に大きくなるように形成されている。
図11に、シリンダライナ2の括れ空間64に印を付けた突起6のモデル図を示す。」(段落【0134】ないし【0140】)

(オ)「【0146】
〔2〕「低熱伝導皮膜の厚さ」
シリンダライナ2においては、低熱伝導皮膜4の厚さ(皮膜厚さTP)が0.5mm以下に設定されている。皮膜厚さTPが0.5mmよりも大きい場合、突起6によるアンカー効果が小さくなるため、シリンダブロック11とライナ下部26との接合強度が大幅に低下するようになる。」(段落【0146】)

(カ)「【0183】
(13)本実施形態のシリンダライナ2では、標準突起数NPが「5個?60個」の範囲に含まれるように突起6を形成している。これにより、ライナ接合強度を向上させることができるようになる。また、突起6間への鋳造材料の充填性を向上させることができるようになる。
【0184】
なお、標準突起数NPが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。標準突起数NPが5個よりも少ない場合、突起6の数の不足していることにより、ライナ接合強度の低下をまねくようになる。標準突起数NPが60個よりも多い場合、突起6同士の間隔が狭いことにより、突起6間への鋳造材料の充填性が低下するようになる。
【0185】
(14)本実施形態のシリンダライナ2では、標準突起長HPが「0.5mm?1.0mm」の範囲に含まれるように突起6を形成している。これにより、ライナ接合強度及びシリンダライナ2の外径精度を向上させることができるようになる。
【0186】
なお、標準突起長HPが上記選択範囲から外れている場合には、次のような不具合が生じるようになる。標準突起長HPが0.5mmよりも小さい場合、突起6の高さが不足していることにより、ライナ接合強度の低下をまねくようになる。標準突起長HPが1.0mmよりも大きい場合、突起6が折れやすくなることにより、ライナ接合強度の低下をまねくようになる。また、突起6の高さが不均一となるため、外径精度が低下するようになる。」(段落【0183】ないし【0186】)

(2)刊行物1発明
上記(1)の記載及び図面の記載を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

<刊行物1発明>
「高さが0.5?1.0mmで基端部61と先端部62との間に括れ部63を有する突起6を5?60個/cm^(2)形成した外周面に溶射層である低熱伝導皮膜4を被覆した鋳ぐるみ用シリンダライナにおいて、
前記溶射層である低熱伝導皮膜4が鉄系材料からなる鋳ぐるみ用シリンダライナ。」

(3)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-160594号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本件発明は、鋳包み用鋳鉄部材並びにその製造方法及び鋳包み用鋳鉄製品に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0029】
本件発明に係る鋳包み用鋳鉄部材の製造方法において、前記溶融金属として、鉄又は鉄系合金、アルミニウム又はアルミニウム系合金、銅又は銅系合金、亜鉛又は亜鉛系合金、スズ又はスズ系合金のいずれかの材質を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本件発明に係る鋳包み用鋳鉄部材は、粗化した外周壁面を備える円筒形状の鋳包み用鋳鉄部材であり、その外周壁面は、周方向に高速回転する円筒形状の鋳鉄部材の当該外周壁面に、溶融金属の溶滴を衝突させ瞬間凝固した溶滴スプラッシュを付着させて形成した複数の突起部で粗化した溶射被膜を形成して得られるものであり、従来の鋳包み用鋳鉄部材の粗化処理形態とは全く異なる粗化形態を備えている。この粗化表面は、通常の表面粗さ計では測定不能な極めて大きな突起部のある凹凸表面を形成することが可能で、その突起部自体に一定の空隙がある状態となる。従って、鋳包みに用いるマトリクス材との濡れ性に優れ、界面での密着性が非常に良好になる。
【0031】
従って、本件発明に係る鋳包み用鋳鉄部材の技術概念を、シリンダライナに適用し、これをマトリクス材としてアルミニウム合金を用いるシリンダブロックの製造に適用すると、シリンダライナの表面にある十分な凹凸のある溶射皮膜が、アルミニウム合金溶湯との濡れ性を改善し、シリンダライナの凹凸のある溶射被膜の突起部へのアルミニウム合金溶湯の侵入が容易で、マトリクスとシリンダライナの溶射被膜との界面でアンカー効果が十分に発揮される。その結果、低圧鋳造法を用いても、高圧鋳造法を用いた場合と変わらず、鋳鉄部材とアルミニウム系マトリクスとの密着性も良好になる。よって、あらかじめ当該鋳鉄部材に溝や凹凸を形成させる必要は必ずしも無くなる。
【0032】
また、本件発明に係る鋳包み用鋳鉄部材の製造方法は、円筒形状の鋳鉄部材を軸支して、これを周方向に高速回転させつつ、その鋳鉄部材の当該外周壁面に、溶射法により溶融金属の溶滴を高速で衝突させる点に特徴を有している。従って、従来の円筒形状の鋳鉄部材に溶射被膜を形成する装置をそのまま使用することが可能で、新たな設備投資も要さないため、製品コストの上昇を招くことはなく、極めて容易に導入可能な製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本件発明に係る鋳包み用鋳鉄部材、鋳包み用鋳鉄部材の製造方法、鋳包み用鋳鉄製品のそれぞれの形態について説明する。
【0034】
本件発明に係る鋳包み用鋳鉄部材の形態: 本件発明に係る鋳包み用鋳鉄部材は、円筒形状の鋳包み用鋳鉄部材の外周壁面に形成した粗化処理形態に特徴を有する。この本件発明に係る溶射被膜付鋳鉄部材1の粗化表面をマイクロスコープ(倍率:×3倍?×100倍)で観察したものを図1?図3に示す。そして、図4には、本件発明に係る溶射皮膜付鋳鉄部材1の溶射被膜を走査型電子顕微鏡で観察した狭小領域の観察像を示している。この図1?図4から理解できるように、この形態を、現段階において、言葉として的確に表現することも、数値パラメータとして定義することも困難である。そこで、本件出願人等は、溶射被膜の形態を「周方向に高速回転する円筒形状の鋳鉄部材の当該外周壁面に、溶融金属の溶滴を衝突させ瞬間凝固した溶滴スプラッシュを付着させて形成した複数の突起部で粗化した溶射被膜」と表現している。
【0035】
本件発明に係る鋳包み用鋳鉄部材の前記突起部は、針状、海綿形状、板状形状の溶滴スプラッシュ形状を含んで構成されたものである。本件発明に係る鋳包み用鋳鉄部材の溶射皮膜は、当該鋳鉄部材を高速回転させながら溶射法で形成し、溶射装置から射出された溶融金属の溶滴が、当該溶滴の衝突によるスプラッシュと、鋳鉄部材の遠心力との影響で、瞬間的に鋳鉄部材の表面で凝固付着するために、特異で不定形な形状の突起部となる。そのため、前記突起部の形状は、溶射時の条件(鋳鉄部材の回転数、溶射材等)によって、溶滴スプラッシュの形状が種々の形状となる。しかし、マイクロスコープ等の観察結果から判断して、針状、海綿形状、板状形状が、主な付着形態と判断できる。これら特異な形状が複合化して形成した突起部は、溶射時の溶滴衝突と鋳鉄部材の遠心力によって形成されるため、鋳鉄部材の外周壁面の表面形状に大きく影響を受けるものではない。よって、当該鋳包み用鋳鉄部材とアルミニウム系マトリクスとの密着性を向上させるために、あらかじめ鋳鉄部材の外周壁面に溝を形成したり、ブラスト処理により鋳鉄部材の外周壁面に凹凸を形成させる必要はない。」(段落【0029】ないし【0035】)

4.対比・判断
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における「基端部61と先端部62との間に括れ部63を有する突起6」は本願発明における「アンダーカット部を有する突起」に相当し、以下同様に、「溶射層である低熱伝導皮膜4」は「溶射層」に、「鋳ぐるみ用シリンダライナ」は「鋳包用シリンダライナ」に、それぞれ相当する。
刊行物1発明における「高さが0.5?1.0mm」の範囲にある突起6(上記3.(1)(カ)の段落【0185】参照。)は、本願発明における「高さが0.3?1.2mm」の「突起」という事項を充足している。
刊行物1発明における「突起6を5?60個/cm^(2)形成した」という事項(刊行物1の段落【0183】参照。)に含まれる「突起を20?60個/cm^(2)形成した」という事項は、本願発明における「突起を20?80個/cm^(2)形成した」という事項を充足している。
以上から、本願発明の用語に倣って整理すると、本願発明と刊行物1発明とは、
「高さが0.3?1.2mmでアンダーカット部を有する突起を20?80個/cm^(2)形成した外周面に溶射層を被覆した鋳包用シリンダライナにおいて、
前記溶射層が鉄系材料からなる鋳包用シリンダライナ。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本願発明においては、「前記ライナ外周面の一定領域における溶射層表面の表面積と前記領域面積との比が12?23である」(該比を以下、「表面積比」という。)のに対し、
刊行物1発明においては、そのような事項を備えるかどうか、不明確である点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。
まず、例えば、特開2003-326353号公報(特に、段落【0012】及び段落【0030】)、特開2009-264347号公報(特に、段落【0033】及び【表1】)に示されているように、シリンダライナ外周面の一定領域における熱伝導率と、シリンダライナ外周面の一定領域における溶射層表面の表面積ないし表面積比(これは該表面積の1つの無次元化ともいえる。)との間に相応の関連があること(以下、「周知技術」という。)は当業者に自明であるところ、シリンダライナの本来の機能からみて技術的に重要な特性は一般に熱伝導率であって、表面積ないし表面積比そのものではない。表面積ないし表面積比は所定の熱伝導率を実現するにあたって考慮されるべき手段の1つにすぎない。
そして、このような表面積比について、本願発明においては「12?23」と特定されている。
ここで、一般に、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮というべきであるから、公知技術に対して数値限定を加えることにより、特許を受けようとする発明が進歩性を有するというためには、当該数値範囲を選択することが当業者に容易であったとはいえないことが必要であり、これを基礎付ける事情として、当該数値範囲に臨界的意義があることが明細書に記載され、当該数値限定の技術的意義が明細書上明確にされていることが必要である。
しかし、(A)本願明細書(特に表1)及び図面(特に図5)をみても、試験例(特に上限値及び下限値付近の試験例)が少ないこと、(B)表1の実施例2、3及び4並びに比較例1及び2は突起高さが0.7mm、突起個数が30個/cm^(2)とした例についての試験にすぎず(しかも、この例において、表面積比の上限値及び下限値についての試験がない。)、この例の場合及び本願発明に包含される他の例、例えば、高さが0.3で突起個数が80個/cm^(2)、突起高さが1.2mm、突起個数が20個/cm^(2)等の場合について、上限値及び下限値の臨界的な意義を示す試験ないし説明が特にないこと、(C)本願明細書の段落【0011】には、「表面積比が23を越えても熱伝導率がこれ以上上がらない。」と記載されているが、表1の実施例4、5及び6並びに比較例2をみると、表面積比が21.9から23.0になると熱伝導率が減少しており、続いて24.2になると増加しており、これによれば、「表面積比が23を越えても熱伝導率がこれ以上上がらない。」とは必ずしもいえないとともに、23を上限値として認識できるような熱伝導率の客観的な推移を明確かつ一義的に捉えることは不可能であること、(D)本願明細書の段落【0011】には、「ライナ外周面の表面積比が12未満では、シリンダブロックと接触するシリンダライナの外周面の表面積が小さく、有効な熱伝導率を得られない。」と、また、段落【0034】には、「表1及び図5に示されるように、表面積比が12未満では、シリンダライナがシリンダブロックと接触する表面積が小さく、熱伝導率が35W/m・K未満となり、有効な熱伝導率を得られない。」と記載されているが、熱伝導率について35W/m・Kという数値が有効な熱伝導率かどうかを識別する客観的標準値となる根拠については特に説明がなく、かつそのような根拠は見出し得ないこと、及び、(E)審判請求書において接合強度について述べられているが、表面の凹凸を多くすれば接合強度が低下することは自明であるとともに、審判請求書の表Aをみても、上限値及び下限値に格別の意義があるとは理解できないこと等からすれば、12?23という数値範囲の上限値及び下限値に顕著ないし臨界的な格別の意義があるとは到底認められない。
さらに加えて、(a)本願明細書の表1の実施例1ないし6に示されているような、シリンダライナにおける熱伝導率(W/mK)が略35ないし略50程度のものは、例えば、特開2009-264347号公報(特に、表1)に示されているように普通であり、特別な値ではないこと、(b)刊行物2(特に、段落【0029】、【0034】及び【0035】)には、鋳鉄部材シリンダライナ表面への溶射に関して、溶射材料として鉄系合金を用いること、及び、その場合に、表面の形状が溶射時の条件によって種々の形状となることが記載ないし示唆されていること(以下、「刊行物2技術」という。)、及び、(c)表面の凹凸を多くする等により微視的に見た表面積ないし表面積比を大きくできることは自明であること、以上の知見を総合すると、刊行物1発明において、例えば、シリンダライナにおける略35ないし略50程度の熱伝導率(W/mK)を実現するために、溶射層である低熱伝導皮膜4の表面積ないし表面積比に着目してこれを適切な値に設定しようとすることは至極当然の合理的・定型的手法であるとともに、特に、上述したように12?23の数値範囲の上限値及び下限値に限界値としての格別の意義(所謂、臨界的意義)がないことにかんがみると、該表面積比を12?23の範囲内の値とすることは当業者の通常の創作能力の発揮により好適化又は最適化したにすぎない程度のことであって、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないといわざるを得ない。
以上を総合すると、刊行物1発明において、刊行物2技術及び周知技術を適用して、相違点に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

なお、 請求人は、審判請求書の「III.本願発明が特許されるべき理由」において、「(2)しかしながら、平成26年11月10日付け提出の意見書において既に述べたように、引用文献1においては鉄系材料は低熱伝導率を実現するための技術的手段であり、また、高熱伝導率を実現するためにはアルミニウム等の鉄系以外の材料が利用されます。すなわち、引用文献1には、熱伝導率を意図的・積極的に向上させる技術的手段として、アルミニウム等の鉄系以外の材料を使用することが開示されております。したがって、引用文献1を参照した当業者であれば、意図的・積極的に熱伝導率を向上させようとした場合、溶射材料種の選択により実現しようとすることは明らかであります。」と主張している。
確かに、刊行物1(引用文献1)の「本発明」の実施形態においては、溶射層の素材として主にアルミニウム等が採用された皮膜及び溶射層の素材として鉄系材料が採用された皮膜を設けている。しかし、本願発明がどのような課題解決のためにアルミニウム等ではなく鉄系材料を採用したのか、必ずしも明確でないが、それはひとまず措くとして、本願発明においては、シリンダボア等の上下の温度差及びそれによる変形量の差異という常識的課題にもかかわらず、シリンダライナ外周面の全面に一様な熱伝導率の溶射層を被覆するのか否か、そしてそれが本願の請求項1に特定されているのかどうか、必ずしも明確でない。仮にそれが本願の請求項1に特定されているとしても、刊行物1の「本発明」及びその実施形態は、上記の常識的課題を考慮して2つの皮膜(溶射層)を設けたのであり、該課題の解決という点からみれば本願発明よりむしろ優れていると評価し得るのであって、該課題を何ら考慮せず、例えば簡素化・簡略化の点から、全面にわたって一様な熱伝導率の溶射層とすることに格別の創作性があるとは考えられない。

そして、本願発明は、全体としてみても、刊行物1発明、刊行物2技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 結語
上記5.で述べたとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-24 
結審通知日 2016-01-05 
審決日 2016-01-21 
出願番号 特願2011-77284(P2011-77284)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲村 正義  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
伊藤 元人
発明の名称 鋳包用シリンダライナ  
代理人 アイアット国際特許業務法人  
代理人 アイアット国際特許業務法人  
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