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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01B
審判 全部申し立て 特174条1項  A01B
管理番号 1311806
異議申立番号 異議2015-700001  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-04-30 
確定日 2016-01-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第5706569号「畦塗り機」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5706569号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5706569号(以下「本件特許」という。)は、平成13年9月3日に出願した特願2001-265939号の一部を平成24年2月8日に新たな特許出願(特願2012-25233号)とし、該新たな特許出願(特願2012-25233号)の一部を平成26年4月7日に新たな特許出願(特願2014-78397号)とし、該新たな特許出願(特願2014-78397号)の一部をさらに平成26年8月19日に新たな特許出願(特願2014-166355号)としたものであって、平成27年1月6日に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされ、同年3月6日に特許の設定登録がなされ、その後、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)の特許に対して、特許異議申立人松山株式会社及び小川原朋広により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
本件特許発明1ないし4は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
元畦を修復する整畦体を備えた畦塗り機であって、
前記整畦体における側面修復体は、回転軸を中心として周方向に等間隔に配設された複数の整畦板を相互に連結して構成され、
隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより、一体の前記側面修復体が構成され、
前記隣接する整畦板の境界部分に段差部が形成され、
前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が、直線状であり、
前記連結片は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないことを特徴とする畦塗り機。
【請求項2】
前記複数の整畦板の基端部は、前記回転軸を中心とする取付け基部に取付けられていることを特徴とする請求項1に記載の畦塗り機。
【請求項3】
前記側面修復体の外周縁を構成する各整畦板の外端が、円弧状部分と直線状部分とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の畦塗り機。
【請求項4】
前記隣接する整畦板の境界部分では、回転方向前側に位置する整畦板の外端が、前記円弧状部分になっていることを特徴とする請求項3に記載の畦塗り機。」

第3 申立て理由の概要
1 新規性及び進歩性欠如
(1)特許異議申立人松山株式会社は、証拠として特開平10-276504号公報(甲第1号証。以下「刊行物1」という。)を提出し、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により、その特許は取り消すべきものである旨主張している。
また、特許異議申立人松山株式会社は、証拠として、特開2001-161107号公報及び「ニプロあぜぬり機 UZ-300・AZ-350 SERIES 取扱説明書」(甲第2号証及び項第3号証。以下「刊行物2」及び「刊行物3」という。)を提出し、本件特許発明3及び4は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2又は3に記載の構成に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、その特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(2)特許異議申立人松山株式会社は、証拠として特開2014-128287号公報(甲第11号証。以下「刊行物4」という。)を提出し、本件特許の出願は、特許法第44条第1項の規定に違反する不適法な分割出願であって、同法第44条第2項に規定される出願日の遡及は認められないから、本件特許発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は取り消されるべきものである旨主張している。
特許異議申立人小川原朋広も同じく証拠として刊行物4(甲第1号証)を提出し、本件特許の出願は、特許法第44条第1項の規定に違反する不適法な分割出願であって、同法第44条第2項に規定される出願日の遡及は認められないから、本件特許発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により、その特許は取り消されるべきものである旨主張している。

2 新規事項の追加
特許異議申立人松山株式会社及び小川原朋広は、本件特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであるから、本件特許発明1ないし4に係る特許は、取り消されるべきものである旨主張している。

3 実施可能要件違反
特許異議申立人松山株式会社及び小川原朋広は、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものであるから、本件特許発明1ないし4に係る特許は、取り消されるべきものである旨主張している。

4 サポート要件違反
特許異議申立人松山株式会社及び小川原朋広は、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであるから、本件特許発明1ないし4に係る特許は、取り消されるべきものである旨主張している。

5 明確性要件違反
特許異議申立人松山株式会社及び小川原朋広は、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるから、本件特許発明1ないし4に係る特許は、取り消されるべきものである旨主張している。

第4 当審の判断
1 新規性及び進歩性欠如について
(1)刊行物1に基づく取消理由
ア 刊行物の記載
(ア)刊行物1には、以下の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「円筒回転体42と円錐回転体43とからなる畦形成装置41であって、
円錐回転体43は、円筒回転体42の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに、表面は放射状の分割片に分割され、分割片は進行方向に対して前進角を設けられ、隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される畦形成装置41。」

(イ)刊行物2には、以下の記載がある。
「【0011】ここで本発明においては、前記多角円錐状ドラム19からなる整畦体16を、図1ないし図3に示すように、稜線18により8つに区切られた整畦面(多角円錐状ドラム)の回転軸取付け側中心点19aを、回転軸20の中心Oより偏心量αだけ偏心させて取付け部21を介して回転軸20に取付けている。この第1実施例のものでは各稜線18は直線をなしている……」

(ウ)刊行物3の26頁右欄の図をみると、ウイングの外端が円弧状部分と直線状部分とを有し、隣接するウイングの境界部分では回転方向前側に位置するウイングの外端が円弧状となっていることがみてとれる。

イ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と刊行物1発明とを対比すると、両者は少なくとも、刊行物1発明は、「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で隣接する整畦板を相互に連結することにより、一体の側面修復体が構成され、連結片は、隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成を備えていない点で相違する。
そして、上記相違点にかかる構成は、刊行物1ないし3に記載も示唆もされておらず、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
よって、本件特許発明1は、刊行物1発明と同一であるとも、刊行物1発明、又は刊行物1発明並びに刊行物2及び3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
なお、特許異議申立人松山株式会社は、刊行物1の図3には、隣接する分割片44の境界部分に沿って設けられた連結片(逃げ面bを有する片部分)によって、隣接する分割片44相互が互いに連結された一体の円錐回転体43が開示されている旨主張する(特許異議申立書9頁14ないし22行)が、図3に示された実施例の円錐回転体43は一体成形によるものであって、連結片によって隣接する分割片44相互を連結することにより構成されたものとは認められないから、申立人の主張は採用できない。

(イ)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の特定事項をすべて含むものであるから、本件特許発明1と同様に、刊行物1発明と同一であるとも、刊行物1発明、又は刊行物1発明並びに刊行物2及び3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)刊行物4に基づく取消理由
ア 特許異議申立人松山株式会社及び小川原朋広は、本件補正により、本件特許の請求項1に追加された「前記連結片は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成は、原出願(特願2014-78397号)の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内のものではないから、本件特許の出願は、分割要件を満たしていない旨主張し(松山株式会社の異議申立書25頁1行ないし27頁末行、小川原朋広の異議申立書13頁12行ないし15頁4行)、さらに、特許異議申立人松山株式会社は、本件特許の請求項1に記載された「境界部分に沿って設けられた連結片」についても原出願(特願2014-78397号)の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内のものではないから、本件特許の出願は、分割要件を満たしていない旨主張するので以下検討する。

(ア)原出願(特願2014-78397号)の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「原出願の当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。
a 「【0003】
上記従来の畦塗り機においては、整畦ドラムの側面修復体が円錐状の円弧面または円錐状の多段平面を有しており、……土盛体により切削されて元畦箇所に供給される泥土の状態によっては、所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある、という問題点があった。また、整畦ドラムは、円錐状の円弧面または円錐状の多段平面など有しているところから、その形状や製造上、作用等において改良すべき点があった。本発明は、上記の問題点を解決することを目的になされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために本発明は、以下の構成を特徴としている。
A.走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、この機枠に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復するドラム状の整畦体とを有する畦塗り機であって、前記整畦体は、回転しながら畦を形成する整畦ドラムを、回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し、各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成した。
【0005】
B.上記整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成した。
C.上記複数の整畦板を、複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成した。
……
【0007】
<作用>上記A.?E.の構成により本発明の畦塗り機における整畦体(整畦ドラム)は、以下の作用を行う。
(1).回転しながら畦を形成する整畦ドラムは、回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し、各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成することで、整畦ドラムは土盛体により供給された泥土を、回転しながら各段差部により間欠的に叩打し、泥土を固めながら元畦に塗りつけ、従来の整畦ドラムに比べ良好な畦を形成する。
【0008】
(2).整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成することで、土盛体により供給された泥土を、回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ、良好な畦を形成でき、しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくする。
(3).複数の整畦板を、複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成することで、整畦ドラムの製造が簡単になる。」

b 「【0022】
図5(a)、(b)に示す第2実施例の整畦ドラム24は、……。即ち、整畦ドラム24は、……8枚の整畦板24aを、回転方向後側をわずかに突出させて平面視外周縁が非円形になるように設け、各整畦板24aは、隣接する整畦板24aが相互に所定の重なり部分24bを有するよう連結部材24c,24dにより固着している。……」

c 「【0024】
さらに、図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は、図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて、整畦ドラム27のドラムの内側において、各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。そして、各整畦板27aの境界部分に直線状の垂直段部27dを形成したものである。」

d 「【0027】
……その盛り上げた土壌を整畦体6の整畦ドラム15(あるいは24,25,26,27,28のいずれか)の整畦面が偏心回転して畦法面を叩いて目的とする畦に成形する。また、水平円筒体16により整畦ドラムによって成形された畦の頂部を平らに成形する。」

e 上記c、dの摘記事項を踏まえて図8(a)(b)をみると、隣接する整畦板27aの重なり部分27bに沿って連結片27c,27cが設けられていること、及び、連結片27c,27cは、隣接する整畦板27aのうち、回転方向前側に位置する整畦板27aの裏面に固定されるとともに、回転方向後側に位置する整畦板27aの側端面に固定され、整畦板27aの表面に露出していないことがみてとれる。

(イ)上記(ア)aの摘記事項によると、「所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある」という課題を解決するための手段は、「各整畦板の境界部分に段差部を形成」することであって、「隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有」することは、当該課題を解決するために必須の構成ではないことは明らかである。

(ウ)上記(ア)dの摘記事項によると、整畦ドラム27の畦法面を叩く側が整畦面であると認められるから、図8(a)(b)において、整畦板27aの表面が整畦面であることは明らかである。

(エ)上記(ア)cの「整畦ドラム27のドラムの内側において、……連結片27c,27cにより固着している」との記載、及び原出願の当初の明細書等に記載された第1実施例ないし第4実施例において、連結部材はいずれも整畦板の裏面に固定されていることを踏まえると、図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27において、連結片27c,27cは回転方向後側に位置する整畦板27aの裏面に固定されてもよいことは明らかである。

イ 上記(ア)ないし(エ)を総合すると、原出願の当初明細書等には、隣接する整畦板27aの境界部分に沿って連結片27c,27cが設けられていること、及び、連結片27c,27cは、隣接する整畦板27aのうち、回転方向前側に位置する整畦板27aの整畦面の裏面に固定されるとともに、回転方向後側に位置する整畦板27aの側端面又は整畦面の裏面に固定され、整畦板27aの整畦面に露出していないこと、すなわち、本件特許の請求項1に記載された「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結」し、「前記連結片は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないこと」が実質的に記載されているものと認められる。
そして、本件特許の分割出願時点での原出願(特願2014-78397号)の明細書、特許請求の範囲又は図面にも、原出願の当初明細書等に記載された上記事項が記載されているものと認められ、その他に本件特許を不適法な分割出願とする理由も見当たらないから、本件特許の出願日は平成13年9月3日に遡及するものと認められる。

ウ してみると、刊行物4の発行日は平成26年7月10日であって、刊行物4は本件特許の出願前に頒布されたものではないから、本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に頒布された刊行物4に記載された発明と同一であるとも、当業者が刊行物4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。

2 新規事項の追加について
特許異議申立人松山株式会社及び小川原朋広は、本件補正により、本件特許の請求項1に追加された「前記連結片は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成は、本件特許の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許の当初明細書等」という。)に記載した範囲内のものではない旨主張し(松山株式会社の異議申立書21頁1行ないし24頁末行、小川原朋広の異議申立書12頁7行ないし13頁11行)、さらに、特許異議申立人松山株式会社は、本件特許の請求項1に記載された「境界部分に沿って設けられた連結片」についても本件特許の当初明細書等に記載した範囲内のものではない旨主張する。
しかし、本件特許の当初明細書等には、上記1(2)ア(ア)において摘記した事項と同様の事項が記載されており(段落【0003】ないし【0008】、【0022】、【0024】、【0027】)、隣接する整畦板27aの境界部分に沿って連結片27c,27cが設けられていること、及び、連結片27c,27cは、隣接する整畦板27aのうち、回転方向前側に位置する整畦板27aの整畦面の裏面に固定されるとともに、回転方向後側に位置する整畦板27aの側端面又は整畦面の裏面に固定され、整畦板27aの整畦面に露出していないこと、すなわち、本件特許の請求項1に記載された「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結」し、「前記連結片は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないこと」が実質的に記載されているものと認められる。
なお、特許異議申立人小川原朋広は、本件特許の当初明細書等には、「延在しない」ことの意味や延在している場合の態様などが記載されておらず、本件特許発明1は不明確であるから、本件特許の当初明細書等の記載から自明な事項ということもできない旨主張する(異議申立書12頁下から2行ないし13頁6行)が、本件特許の当初明細書等の記載に接した当業者であれば、「連結片」が「回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」とは、「連結片」が「回転方向後側に位置する整畦板27aの側端面又は整畦面の裏面に固定され、整畦板27aの整畦面に露出していない」ことを意味すると直ちに理解できるから、当該主張は採用できない。
よって、本件補正は、本件特許の当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。

3 実施可能要件違反について
特許異議申立人松山株式会社は、本件特許の請求項1の「前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が、直線状であり」及び「前記連結片は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との記載、本件特許の請求項2の「前記複数の整畦板の基端部は、前記回転軸を中心とする取付け基部に取付けられている」との記載、並びに本件特許の請求項3の「前記側面修復体の外周縁を構成する各整畦板の外端が、円弧状部分と直線状部分とを有する」との記載は、いずれもその技術的意義が理解することができないから、本件特許の発明の詳細な説明は本件特許発明1ないし4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨主張する(異議申立書28頁1行ないし29頁末行)。
また、特許異議申立人小川原朋広は、本件特許の請求項1の「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結する」及び「前記連結片は、前記隣接する整畦板のうち、……回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との記載に関し、本件特許の明細書及び図面には、連結片が、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない状態で、整畦板と連結される場合の態様が何ら示されておらず、当業者といえども、その実施をすることはできない旨主張する(異議申立書11頁3ないし19行)。
そこで、まず、特許異議申立人松山株式会社の上記主張について検討する。
特許法第36条第4項(注:本件特許の出願日は平成13年9月3日に遡及するため、平成10年改正法が適用される。)で委任する経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)では、発明がどのような技術的貢献をもたらすものであるかが理解できるように、発明が解決しようとする課題、その解決手段などの、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を明細書の発明の詳細な説明に記載することが規定されている。一方、本件特許の発明の詳細な説明には、上記1(2)ア(ア)aにおいて摘記した事項と同様の事項が記載されており(段落【0003】ないし【0008】)、当該記載事項によると、本件特許発明1ないし4は、「所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある」との課題を解決するために、解決手段として、「各整畦板の境界部分に段差部を形成」するものであり、また、従来の整畦ドラムは、「その形状や製造上、作用等において改良すべき点がある」との課題を解決するために、解決手段として「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより、一体の前記側面修復体」を構成する等するものであると理解できるから、本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないということはできない。
また、本件特許発明1ないし4は、本件特許の明細書及び図面の記載並びに技術常識に基づいて、当業者がその物を製造できないものともいえない。
次に、特許異議申立人小川原朋広の上記主張について検討すると、上記2において検討したとおり、本件特許の請求項1の「前記連結片は、前記隣接する整畦板のうち、……回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との記載は、「連結片」が「回転方向後側に位置する整畦板27aの側端面又は整畦面の裏面に固定され、整畦板27aの整畦面に露出していない」ことを意味すると直ちに理解できるから、本件特許発明1ないし4は、本件特許の明細書及び図面の記載並びに技術常識に基づいて、当業者がその物を製造できないとはいえない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が、本件特許発明1ないし4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとすることはできない。

4 サポート要件違反について
特許異議申立人松山株式会社及び小川原朋広は、本件特許の請求項1に記載された「前記連結片は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張し(松山株式会社の異議申立書30頁1ないし17行、小川原朋広の異議申立書11頁20行ないし12頁6行)、さらに、特許異議申立人松山株式会社は、本件特許の請求項1に記載された「境界部分に沿って設けられた連結片」についても本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。
しかし、本件特許の発明の詳細な説明には、上記1(2)ア(ア)において摘記した事項と同様の事項が記載されており(段落【0003】ないし【0008】、【0022】、【0024】、【0027】)、隣接する整畦板27aの境界部分に沿って連結片27c,27cが設けられていること、及び、連結片27c,27cは、隣接する整畦板27aのうち、回転方向前側に位置する整畦板27aの整畦面の裏面に固定されるとともに、回転方向後側に位置する整畦板27aの側端面又は整畦面の裏面に固定され、整畦板27aの整畦面に露出していないこと、すなわち、本件特許の請求項1に記載された「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結」し、「前記連結片は、前記隣接する整畦板のうち、回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され、回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないこと」が実質的に記載されているものと認められる。
よって、本件特許発明1ないし4は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではないということはできない。

5 明確性要件違反について
特許異議申立人松山株式会社は、本件特許の請求項1の記載において、「整畦面」は、整畦板のうちのどこを意味するのか不明であり、「整畦板の整畦面に延在しない」は、否定的表現であって不明確であり、「整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片」は、連結片が整畦板のどこに設けられ、どこに固定されているか不明であり、本件特許の請求項2の記載において、「前記回転軸を中心とする取付け基部」とは、どの部分を意味するのか不明であり、さらに、本件特許の明細書に記載された「連結部材」、「整畦ドラム」、「重なり部分」及び「垂直段部」との文言が本件特許の特許請求の範囲に記載されていないから、本件特許発明1ないし4は明確ではない旨主張する(異議申立書30頁18行ないし32頁9行)。
また、特許異議申立人小川原朋広は、本件特許の請求項1の記載において、連結片が「整畦板の整畦面に延在しない」ことの技術的意義が不明であるため、連結片が如何にして「整畦面に延在しない」となるか不明確であり、連結片の意味する部材の範囲も不明確である旨、「整畦板の整畦面」がどの範囲を示すのか特定できない旨、何を基準として「回転方向前側」と「回転方向後側」を示すのかが不明確である旨、及び、連結片が「回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」とはどのような構成であるのかが不明である旨主張し、よって、本件特許発明1ないし4は不明確となる旨主張する(異議申立書4頁13行ないし11頁2行)。
そこで、まず、特許異議申立人松山株式会社の上記主張について検討する。
本件特許の発明の詳細な説明には、上記1(2)ア(ア)において摘記した事項と同様の事項が記載されており(段落【0003】ないし【0008】、【0022】、【0024】、【0027】)、当該記載事項に照らせば、整畦ドラム27の畦法面を叩く側が「整畦面」であると認められ、「連結片」は、「回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないこと」についても、「回転方向後側に位置する整畦板の側端面又は整畦面の裏面に固定され、整畦板の整畦面に露出していないこと」を意味すると認められるから、本件特許の請求項1の記載において、「整畦面」の位置、並びに「連結片」が設けられる位置及び固定箇所は明確である。
また、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面の記載に照らせば、本件特許の請求項2に記載された「前記回転軸を中心とする取付け基部」は、「側面修復体」の「回転軸」を「中心とする」部材であって、本件特許の明細書に記載された「上面修復体16」に対応するものであると認められるから、本件特許の請求項2の記載において、「取付け基部」は明確である。
さらに、本件特許の明細書に記載された「連結部材」、「整畦ドラム」及び「垂直段部」が、本件特許の請求項1に記載された「連結片」「整畦体」「段差部」に対応することは、本件特許の明細書及び図面の記載からみて明らかであり、本件特許の明細書に記載された「重なり部分」が、本件特許の特許請求の範囲に記載されていないからといって、本件特許発明1ないし4が不明確になるというものでもない。
次に、特許異議申立人小川原朋広の主張について検討すると、連結片が整畦板の整畦面に延在しないことの意味、及び整畦板の整畦面の位置については、上記検討のとおりである。
また、本件特許の請求項1の「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより、一体の前記側面修復体が構成され」との記載に照らせば、「回転方向前側に位置する整畦板」と「回転方向後側に位置する整畦板」の位置関係は、互いに隣り合うものであることは明らかである。
なお、特許異議申立人小川原朋広は、構造上、整畦板が満遍なく畦法面に接することはないから、整畦面とは整畦板の一部を指すものと考えるのが相当である旨主張するが、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面の記載に照らして、「整畦面」を整畦板の畦法面に接する部分に限定して解釈しなければならない理由は見当たらないから、申立人の主張は採用できない。
よって、本件特許発明1ないし4は明確でないということはできない。

第5 むすび
以上のとおりであって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件特許発明1ないし4の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし4の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2015-12-28 
出願番号 特願2014-166355(P2014-166355)
審決分類 P 1 651・ 55- Y (A01B)
P 1 651・ 536- Y (A01B)
P 1 651・ 121- Y (A01B)
P 1 651・ 537- Y (A01B)
P 1 651・ 113- Y (A01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 木村 隆一  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 住田 秀弘
中田 誠
登録日 2015-03-06 
登録番号 特許第5706569号(P5706569)
権利者 小橋工業株式会社
発明の名称 畦塗り機  
代理人 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ  
代理人 山田 哲也  
代理人 樺澤 聡  
代理人 小林 幸夫  
代理人 樺澤 襄  
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