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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特29条の2  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1311843
異議申立番号 異議2015-700075  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-08 
確定日 2016-02-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第5699184号「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5699184号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第5699184号は,平成11年5月6日を出願日とする特願平11-125903号の一部を,平成19年6月11日に新たな特許出願とした特願2007-154216号の一部を,平成23年1月18日に新たな特許出願とした特願2011-8226号の一部を,平成25年4月26日に新たな特許出願とした特願2013-93612号の一部を,平成25年6月18日に新たな特許出願とした特願2013-127833号に係るものであり,平成27年2月20日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、異議申立人山林己美子により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件特許発明
本件特許の請求項1?9に係る発明は,特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。なお、以下、本件特許の請求項1?9に係る発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明9」ともいう。

「 【請求項1】
気泡状の二酸化炭素を保持して持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るための製造キットであって、
水、増粘剤、及び炭酸塩の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び炭酸塩0.1?10重量%を含有する塩基性組成物と、
水、増粘剤、及び酸の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び酸0.1?10重量%を含有する酸性組成物とからなり、
前記塩基性組成物及び酸性組成物の流動性が、それぞれ、表面が滑らかな長さ40cmのガラス板の端に、その1gを直径1cmの円盤状に塗り、その円盤が上に来るように水平面に対して60度の角度で立てたとき、5秒後の円盤の移動距離が30cm以内であり、
前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物の水の含有量が85?97重量%であり、
用時に前記塩基性組成物と前記酸性組成物とを混合する(但し、皮膚上で混合する場合を除く)ことにより前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得る、前記製造キット。
【請求項2】
塩基性組成物に保湿剤0.1?25重量%を含む請求項1に記載のキット。
【請求項3】
塩基性組成物に界面活性剤0.01?10重量%を含む請求項1または2に記載のキット。
【請求項4】
塩基性組成物に親油性物質0.01?10重量%を含む請求項1?3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
酸性組成物に保湿剤0.1?25重量%を含む請求項1?4のいずれかに記載のキット。
【請求項6】
酸性組成物に界面活性剤0.01?10重量%を含む請求項1?5のいずれかに記載のキット。
【請求項7】
酸性組成物に親油性物質0.01?10重量%を含む請求項1?6のいずれかに記載のキット。
【請求項8】
化粧料として使用される二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るためのキットである、請求項1?7のいずれかに記載のキット。
【請求項9】
部分肥満改善用化粧料として使用される二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るためのキットである、請求項1?7のいずれかに記載のキット。」

第3.特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人が主張する申立理由の概要は,下記のとおりの申立理由1?申立理由5である。

申立理由1
本件特許発明1?7は、甲第1号証に記載された発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、本件特許発明1?9は、甲第1号証に記載された発明に基いてその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

申立理由2
本件特許発明1?9は、甲第1?6及び8?12号証に記載された発明に基いてその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

申立理由3
本件特許発明1?8は、当該発明に係る優先日前の他の特許出願であって当該優先日後に出願公開された特許出願である、甲第7号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。

申立理由4
本件特許発明1?9について、「本件明細書には、本件特許発明に該当するキットによる皮膚や粘膜の治療効果や美容効果を評価した試験例が一つも記載されていないので、当業者は、本件明細書の記載に基づき本件特許発明のキットが実際に治療効果や美容効果を奏することができると理解できず」(申立書34頁下から3行目-35頁3行)、また、「本件明細書【0127】には「実施例180?266・・・組成物の移動距離が15cm以内であり・・」と記載されているものの・・一般に組成物の流動性は組成物の構成成分の種類・含有割合、基板となるガラス板の特性、組成物の移動距離の特定方法等によって大きく変化することが技術常識であることから・・本件特許発明の組成物の流動性が30cm以内となることは本件明細書に充分裏付けられているとは認められ」(申立書35頁22行-36頁5行)ず、「権利者は本件の関連出願における審判段階において、「ポリビニルアルコールは造膜成分であり、これを用いた場合、皮膚に二酸化炭素を持続的に供給できない」旨主張してきており(甲第13号証)、本件明細書における試験例はいずれもポリビニルアルコールを用いていない。以上の理由から、本件明細書美容や治療効果は、増粘剤の種類によって左右される者であることは明確で有り、増粘剤の種類を何ら規定していない本件特許発明が、本件特許発明の効果(a)を奏さないものを含んでいることは明らかである」(申立書37頁21-末行)。
したがって、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので、本件特許発明1?9は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に違反し、特許を受けることができないものである。
また、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本件特許発明1?9は、特許法第36条第4項(当審注:異議申立人は、特許法第36条第4項1号違反を主張しているが、本件には、平成6年改正特許法が適用されるので、このように認定する。)に違反し、特許を受けることができないものである。

申立理由5
本件特許発明1?9は、「持続的に」がどの程度の持続性を意味するのかが不明である点、「表面が滑らかな」がどの程度の滑らかさを意味するのかが不明である点、「流動性」がどのような温度において測定されるのかが不明である点で明確でないから、本件特許発明1?9は、特許法第36条第6項第2号に違反し、特許を受けることができないものである。

第4.当審の判断

1.申立理由1について
(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証(国際公開第99/12521号)には、以下の事項が記載されている。なお、甲第1号証は、英語で記載されているので、その訳(甲第1号証に対応する特表2001-515851号公報(甲第1号証の2)による。)を記載する。また、括弧内にその記載箇所を、甲第1号証における記載箇所、甲第1号証の2における記載箇所の順に、示す。また、下線は、当審による。
(1-1)
「【請求項1】 直腸または膣投与用の医薬組成物であって、
(i)混合すると反応して生理学的に許容され得るガスを発生させるような、組成物の別々の部分に各々、2つまたはそれ以上の生理学的に許容され得る物質;
(ii)組成物の少なくとも1つの部分に、水溶性の破壊可能なフォーム構造の形成を容易とするのに適したポリマー安定剤;および
(iii)組成物の少なくとも1つの部分に、医薬的に活性な物質;
を含んでなる、少なくとも2つの部分からなる組成物。
【請求項2】 (i)に定義した2つまたはそれ以上の物質が1つまたはそれ以上の酸および1つまたはそれ以上の発泡性化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】 酸が水溶性の酸である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】 ポリマー安定剤がヒドロゲル増粘剤である、請求項1、2、または3に記載の組成物。

【請求項8】 腸、直腸、または膣の障害の処置または予防方法であって、当該障害を患っている、またはとかく患いやすい患者に、請求項1?5のいずれか1つに記載の組成物の治療上有効な量を投与することを含んでなる方法。」 (Claims 1?4、8、特許請求の範囲【請求項1】?【請求項4】、【請求項8】)
(1-2)
「投与の間、組成物の個々の部分を混合すると、
(i)反応してガスを発生させ、ポリマー安定剤と接触させる;
(ii)水溶性の破壊可能なフォームを形成させた後、直腸または膣に適用することができる;
と定義される2つまたはそれ以上の物質をもたらす。ポリマー安定剤は、膨潤させた形で、例えば、ヒドロゲルの形で使用するのが好ましい。本発明の組成物は、マルチパートシリンジから投与するのが好ましい。そのような器具の利点は、発泡作用が穏やかであり、投与時間がシリンジのピストンを使用して調節可能であることから、結果的には患者に不快感を与えることが少なくなるという点である。」(2頁16-23行、段落【0006】)
(1-3)
「酸は、塩酸、または水溶性のモノもしくはポリカルボン酸であるのが好ましい。適当な水溶性のモノまたはポリカルボン酸の例には、クエン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、グリコール酸、マロン酸、シュウ酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、または酢酸が含まれる。最も好ましいのはクエン酸で、好ましくは、組成物の1?3重量%の濃度である。
発泡性化合物は、医薬的に許容され得るアルカリ金属カーボネートまたはビカーボネート、例えば、炭酸一水素ナトリウム、炭酸一水素カリウム、炭酸ナトリウム、または炭酸カリウムであるのが好ましい。最も好ましいのは炭酸一水素ナトリウムで、好ましくは、組成物の3.5?5.5重量%の濃度である。使用すべき各々の物質の正確な濃度は、必要とされるフォームの量、並びに形成されるべきフォームの望ましいpHおよび浸透圧モル濃度に依存する。一般に、2つの物質(i)が酸および発泡性化合物である場合には、それらは、酸:発泡性化合物の1:0.5?1:2.5、好ましくは、1:1?1:4の重量比で使用されるべきである。
ポリマー安定剤(ii)は、ヒドロゲル増粘剤であるのが好ましい。本発明で使用するポリマー安定剤は、溶液での場合に擬塑性(pseudoplastic)流動特性を示すのが好ましい。より好ましくは、本発明で使用するポリマー安定剤は、水溶性のヒドロゲル増粘ポリマー、例えば、天然多糖類、半合成ポリマーもしくは合成ポリマー、またはその混合物である。天然多糖類の例は、寒天、アルギネート、カラゲーニン、グアー、アラビアゴム(arabic)、トラガカントゴム、ペクチン、デキストラン、ゲラン(gellan)、およびキサンタンガムである。適当な半合成ポリマーは、多糖類誘導体、例えば、セルロースエステルおよび加工デンプンである。合成ポリマーの例は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、ポリビニルアセテート、およびポロキサマーである。好ましくは、ポリマー安定剤で増粘した溶液の粘度が、広いpH範囲で実質的に同じままであり、イオン強度とはほとんど無関係である。より好ましくは、ポリマー安定剤は、キサンタンガムまたはヒドロキシエチルセルロースである。最も好ましくは、ポリマー安定剤は、キサンタンガムである。
キサンタンガムの利点は、それを含む組成物が高いひずみ速度で低い粘度を有することから、それらをポンプし、スプレーして、噴霧するのが容易であるという点である。それらは、低いひずみ速度で高い粘度を示す。これは、縣濁させた薬物の良好な安定化を結果的にもたらす。
ポリマー安定剤は、それを膨潤させた形で含む溶液または分散物が、Bohlin(商標) 回転粘度計 CSR-10aにより測定すると、所定のひずみ速度で表1に示す範囲内に粘度を有するような濃度で使用するのが好ましい。粘度の要件を満たすのに必要とされる所定のポリマー安定剤の濃度は、当業者により経験に基づいて容易に決定することができる。
【表1】

」 (2頁29行-4頁9行、段落【0008】?【0013】)
(1-4)
「本発明で使用すべき医薬的に活性な物質は、組成物により処置すべき疾患、または組成物の意図する効果に依存する。それは、1つまたはそれ以上の抗炎症薬、鎮痛薬、局所麻酔薬、抗感染薬、避妊薬および/または抗狭心症剤であるのが好ましい。適当な抗炎症薬には、ステロイドまたは非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が含まれる。好ましい鎮痛薬および局所麻酔薬は、リドカイン、モルヒネ、またはコデインである。好ましいステロイドは、ブデソニド、ベクロメタゾンの適当なエステル、ロフレポニド(rofleponide)もしくはその適当な誘導体(例えば、エステル)、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、フルオシノロン、アムシノニド、ブフェキサマク、またはフルニソリドである。特に好ましいのはブデソニドである。好ましいNSAIDは、4-アミノサリチル酸、5-アミノサリチル酸、またはスルファサラジンである。好ましい抗炎症薬は、抗菌剤(例えば、バシトラシンまたはヨウ素)、防腐剤(例えば、セトリミド)、殺真菌剤(例えば、クロトリマゾール、メトロニダゾール、またはサイクロスポリン)、および抗ウイルス剤(例えば、アシクロビルまたはヨードクスリジン(idoxuridin))である。好ましい抗狭心症剤は、イソソルビド-5-モノニトレートまたはイソソルビドジニトレートである。医薬的に活性な物質は、単独で、または組み合わせて投与することができる。」(4頁18行-5頁8行、段落【0015】)
(1-5)
「 本発明の組成物は、場合により、界面活性剤、保存剤、および他の種類の安定剤、例えば、抗酸化剤、キレート化剤、張度調節剤(例えば、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、またはグルコース)、展着剤、および水溶性の潤滑剤、例えば、プロピレングリコール、グリセロール、またはポリエチレングリコールといったような医薬的に許容され得る賦形剤を含んでなり得る。必要とされる各々の賦形剤の濃度は、当業者により経験に基づいて容易に決定することができる。」 (5頁29行-6頁3行、段落【0019】)
(1-6)
「適当な展着剤は、局所適用に使用される展着剤、例えば、ジ-n-オクチルエーテル(例えば、Cetiol(商標) OE)、脂肪アルコールポリアルキレングリコールエーテル(例えば、Aethoxal(商標) B)、2-エチルヘキシルパルミテート(例えば、Cegesoft(商標) C24)、およびイソプロピル脂肪酸エステルである。展着剤は、好ましくは、ポリマー安定剤と同じ部分に分散させるべきである。」(6頁14-17行、段落【0023】)
(1-7)
「 本発明の組成物は、破壊可能であるフォームを形成するようなものである。組成物により形成されるフォームの量は、投与後2?120分で50%まで減少するのが好ましく、5?240分後にはその元の量まで完全に破壊される。フォームが破壊されるまでの時間は、フォームが出来るだけ結腸辺りまで広がるよう十分に長いほうが好ましいが、腸の自然運動により処理されるべき領域から除去された後に破壊されるほど長くないのが好ましい。
該破壊時間は、数多くの因子に依存する。例えば、2つもしくはそれ以上の物質(i)により生産されるガスの量が多ければ多いほど、またはポリマー安定剤を含んでなる成分の粘度が高ければ高いほど、破壊時間は長くなる。破壊時間はまた、界面活性の性質、例えば、界面活性剤または保存剤を有する組成物への他の添加剤の性質にも依存する。
本発明の組成物により形成されるフォームの破壊性の利点は、患者からのフォームの除去が患者にとってより快適なものであり、活性物質がフォームの中心に捕捉されて、処置すべき身体の領域に接触できない可能性はほとんどないという点である。」 (6頁23行-7頁10行、段落【0025】-【0027】)
(1-8)
「本発明はまた、腸、直腸、または膣の障害の処置または予防方法であって、当該障害を患っている、またはとかく患いやすい患者に、本発明の組成物の治療上有効な量を投与することを含んでなる方法も提供する。」 (7頁18-21行、段落【0029】)
(1-9)
「 実施例1
表2に示す成分を含んでなる本発明の組成物を製造した。次いで、それを混合して、破壊性が測定されるフォームを形成させた。
クエン酸、エデト酸ナトリウム、およびポロキサマーを精製水に溶解して、その結果得られた溶液にキサンタンおよびブデソニドを分散させることにより、成分1を製造した。キサンタンを水和させるために、その分散物を減圧下に室温で30分間撹拌した。その結果得られたヒドロゲルを、2つのチャンバー混合シリンジの一方のチャンバー(Mixpac Systems AG,スイスにより製造されたMIXPAC System 50)に充填した。
重炭酸ナトリウムおよびエデト酸ナトリウムを精製水に溶解して、減圧下に室温で30分間の撹拌によって得られた溶液にキサンタンを分散させることにより、成分2を製造した。その結果得られたアルカリ性ヒドロゲルを、2つのチャンバー混合シリンジの他方のチャンバーに充填した。
シリンジをもつ両方のチャンバーを混合チップで繋ぎ、ここで、チャンバーをプランジャーにより排出すると、2つの成分の完全な混合が行われた。
発生させたフォームをメスシリンダーに充填した。発泡させたフォームの量を測定して、その破壊を経時的にモニターした。
各々の成分10gを使用して、シリンジを排出するのに10秒かかった。排出後5秒で95ml量を得た。5分後、その量は90mlまで減少して、10分後、その量は85mlまで減少した。2.5時間かけた後、フォームが完全に破壊された。フォームのpHは6.28であった。
【表2】

実施例2
表3に示す成分を含んでなる本発明の組成物を製造した。次いで、それを混合して、破壊性が測定されるフォームを形成させた。
クエン酸、エデト酸ナトリウム、ポリソルベート 80、およびリドカインを精製水に溶解して、得られた溶液にヒドロキシエチルセルロースを分散させることにより、成分1を製造した。その分散物を減圧下に室温で3時間撹拌した。その結果得られたヒドロゲルを、実施例1で使用したような2つのチャンバー混合シリンジをもつ1つのチャンバーに充填した。
重炭酸ナトリウムを精製水に溶解して、室温および減圧下での3時間の撹拌によって得られた溶液にヒドロキシエチルセルロースを分散させることにより、成分2を製造した。実施例1に記載したようにフォームを発生させた。
発生させたフォームをメスシリンダーに充填した。発泡させたフォームの量を測定して、その破壊を経時的にモニターした。
各々の成分10gを使用して、シリンジを排出するのに5秒かかった。排出後60秒で86ml量を得た。15分後、その量は83mlまで減少して、30分後、その量は69mlまで減少した。2時間かけた後、フォームが完全に破壊された。フォームのpHは6.82であった。
【表3】

」(7頁26行-10頁10行、段落【0031】?【0042】)

(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には「 直腸または膣投与用の医薬組成物であって、(i)混合すると反応して生理学的に許容され得るガスを発生させるような、組成物の別々の部分に各々、2つまたはそれ以上の生理学的に許容され得る物質;(ii)組成物の少なくとも1つの部分に、水溶性の破壊可能なフォーム構造の形成を容易とするのに適したポリマー安定剤;および(iii)組成物の少なくとも1つの部分に、医薬的に活性な物質;を含んでなり、
(i)に定義した2つまたはそれ以上の物質が1つまたはそれ以上の酸および1つまたはそれ以上の発泡性化合物であり、
酸が水溶性の酸であり、
ポリマー安定剤がヒドロゲル増粘剤である、
少なくとも2つの部分からなる組成物」(摘示(1-1))が記載されているとともに、該「少なくとも2つの部分からなる組成物」の具体例として実施例1(摘示(1-9))が記載されている。
ここで、該実施例1は、「成分1」と「成分2」の2つの部分からなる「組成物」であり、「成分1」は、「精製水10g」、「クエン酸0.28g」、「キサンタン0.1g」、「エデト酸ナトリウム0.001g」、「ポロキサマー0.02g」、「ブデソニド0.002g」からなり、「成分2」は、「精製水10g」、「炭酸一水素ナトリウム0.42g」、「キサンタン0.1g」、「エデト酸ナトリウム0.001g」、「ポロキサマー0.02g」からなる(摘示(1-9)の表2)ものである。
また、摘示(1-3)も勘案すると、「クエン酸」は、「酸」に該当し、「キサンタン」及び「ポロキサマー」は、「ヒドロゲル増粘剤」に該当し、「ブデソニド」は、「医薬的に活性な物質」に該当し、「炭酸一水素ナトリウム」は、「発泡性化合物」に該当する。

なお、甲第1号証には、「本発明の組成物は、破壊可能であるフォームを形成するようなものである。組成物により形成されるフォームの量は、投与後2?120分で50%まで減少するのが好ましく、5?240分後にはその元の量まで完全に破壊される。」(摘示(1-7))との記載があるが、実施例1(摘示(1-9))において組成物により形成されたフォームの量が投与後何分で元の量まで完全に破壊されたかに関する記載はない。
また、「ポリマー安定剤は、それを膨潤させた形で含む溶液または分散物が、Bohlin(商標) 回転粘度計 CSR-10aにより測定すると、所定のひずみ速度で表1に示す範囲内に粘度を有するような濃度で使用するのが好ましい。」(摘示(1-3))との記載があるが、実施例1(摘示(1-9))についてその粘度は、記載されていない。

そうすると甲第1号証には下記の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「 直腸または膣投与用の医薬組成物であって、
(i)混合すると反応して生理学的に許容され得るガスを発生させるような、組成物の別々の部分に各々、2つまたはそれ以上の生理学的に許容され得る物質;
(ii)組成物の少なくとも1つの部分に、水溶性の破壊可能なフォーム構造の形成を容易とするのに適したポリマー安定剤;および
(iii)組成物の少なくとも1つの部分に、医薬的に活性な物質;を含んでなり、
(i)に定義した2つまたはそれ以上の物質が1つまたはそれ以上の酸および1つまたはそれ以上の発泡性化合物であり、
酸が水溶性の酸であり、
ポリマー安定剤がヒドロゲル増粘剤である、
少なくとも2つの部分からなる組成物であって、
該少なくとも2つの部分が、それぞれ、精製水10g、クエン酸0.28g、キサンタン0.1g、エデト酸ナトリウム0.001g、ポロキサマー0.02g、ブデソニド0.002gからなる成分1と、精製水10g、炭酸一水素ナトリウム0.42g、キサンタン0.1g、エデト酸ナトリウム0.001g、ポロキサマー0.02gからなる成分2である、
組成物。」


(3)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

本件特許明細書には、「増粘剤」として「キサンタンガム」(当審注:「キサンタン」と同義であると認める。)が例示されていること(段落【0054】)、「炭酸塩」として「炭酸水素ナトリウム」(当審注:「炭酸一水素ナトリウム」と同義であると認める。)が例示されていること(段落【0065】)、「酸」として「クエン酸」が例示されていること(段落【0066】-【0067】)を勘案すると、甲1発明の「精製水」、「クエン酸」、「キサンタン」、「炭酸一水素ナトリウム」は、それぞれ、本件特許発明1の「水」、「酸」、「増粘剤」、「炭酸塩」に相当する。
なお、甲第1号証には、「ヒドロゲル増粘剤」の例示の1つとして「ポロキサマー」が記載されている(摘示(1-3)が、「ポロキサマー」は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーであるところ、本件特許明細書には、本件特許発明1の「組成物」中に含ませることができる界面活性剤として「ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー」が例示されていることを勘案すると、甲1発明の「ポロキサマー」は、本件特許発明1の「増粘剤」には該当しない。

甲1発明は、「成分1」について、「精製水」、「クエン酸」、「キサンタン」の合計量に対する「精製水」、「クエン酸」、「キサンタン」の割合を計算すると、それぞれ、96重量%、2.7重量%、1.0重量%となる。
そうすると、甲1発明の「精製水10g、クエン酸0.28g、キサンタン0.1g、エデト酸ナトリウム0.001g、ポロキサマー0.02g、ブデソニド0.002gからなる成分1」は、本件特許発明1の「水、増粘剤、及び酸の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び酸0.1?10重量%を含有する酸性組成物」を満足する。
なお、仮に、甲1発明の「ポロキサマー」が本件特許発明1の「増粘剤」に該当するとして計算した場合には、「成分1」について、「精製水」、「クエン酸」、「キサンタン」、「ポロキサマー」の合計量に対する「精製水」、「クエン酸」、「キサンタン」と「ポロキサマー」の合計、の割合を計算すると、それぞれ、96重量%、2.7重量%、1.2重量%となるが、この値をもとにしても、上記判断は変わらない。

また、甲1発明は、「成分2」について、「精製水」、「炭酸一水素ナトリウム」、「キサンタン」の合計量に対するそれぞれの割合を計算すると、それぞれ、95重量%、4.0重量%、1.0重量%となる。
そうすると、甲1発明の「精製水10g、炭酸一水素ナトリウム0.42g、キサンタン0.1g、エデト酸ナトリウム0.001g、ポロキサマー0.02gからなる成分2」は、本件特許発明1の「水、増粘剤、及び炭酸塩の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び炭酸塩0.1?10重量%を含有する塩基性組成物」を満足する。
なお、成分1の場合と同様に、仮に「ポロキサマー」が「増粘剤」に該当するとして計算した場合には、それぞれ、95重量%、4.0重量%、1.1重量%となるが、この値をもとにしても、上記判断は変わらない。

甲1発明は、「組成物」について、「混合すると反応して生理学的に許容され得るガスを発生させる」ものであり、「成分1」と「成分2」からなるものである。そして、「組成物」に対する「精製水」の割合は、95重量%(=(10+10)/(10+0.28+0.1+0.001+0.02+0.002+10+0.42+0.1+0.001+0.02)*100)である。
したがって、甲1発明は、本件特許発明1の「塩基性組成物と、酸性組成物とからなり、組成物の水の含有量が85?97重量%であり」を満足する。

甲1発明は、「フォーム構造」について、「(i)に定義した2つまたはそれ以上の物質が1つまたはそれ以上の酸および1つまたはそれ以上の発泡性化合物」が反応してガスが発生することによって形成するものであり、当該ガスは、具体的には「クエン酸」と「炭酸一水素ナトリウム」の反応で発生する二酸化炭素である。
そうすると、甲1発明の「フォーム構造」が、本件特許発明1の「気泡状の二酸化炭素を保持」を満足することは明らかである。

甲1発明は、「組成物」について、甲第1号証に「投与の間、組成物の個々の部分を混合すると、(i)反応してガスを発生させ、ポリマー安定剤と接触させる;(ii)水溶性の破壊可能なフォームを形成させた後、直腸または膣に適用することができる」(摘示1-2)、「本発明の組成物は、破壊可能であるフォームを形成するようなものである。組成物により形成されるフォームの量は、投与後2?120分で50%まで減少するのが好ましく、5?240分後にはその元の量まで完全に破壊される。フォームが破壊されるまでの時間は、フォームが出来るだけ結腸辺りまで広がるよう十分に長いほうが好ましい」(摘示1-6)と記載されている。
そうすると、甲1発明は、「成分1」と「成分2」を混合して形成した「フォーム」を「フォームが出来るだけ結腸辺りまで広がるよう」に「直腸または膣投与」するものであるが、形成した「フォーム」は、「5?240分後にはその元の量まで完全に破壊され」てしまうのであるから、甲1発明は、「直腸または膣投与」に関し、予め「フォーム」を形成し「直腸または膣投与」する時まで貯蔵しておくという態様は採用し得ず、「成分1」と「成分2」を混合して形成した「フォーム」は、直ちに「直腸または膣投与」されなければならないと認められる。
したがって、甲1発明の「組成物」は、本件特許発明1の「用時に前記塩基性組成物と前記酸性組成物とを混合する(但し、皮膚上で混合する場合を除く)ことにより組成物を得る」を満足する。

本件特許発明1は、「塩基性組成物」と「酸性組成物」とからなり、これらを「混合」して「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得」るものであり、甲1発明は、「成分1」と「成分2」を混合して「直腸または膣投与用の医薬組成物」を得るものである。
そうすると、甲1発明の「直腸または膣投与用の医薬組成物」が本件特許発明1の「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」に対応し、甲1発明の「成分1」と「成分2」は、本件特許発明1の「製造キット」に対応する。
したがって、甲1発明は、本件特許発明1の「製造キット」を実質的に満足する。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明の一致点、相違点は、下記のとおりである。

<一致点>
「気泡状の二酸化炭素を保持する組成物を得るための製造キットであって、
水、増粘剤、及び炭酸塩の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び炭酸塩0.1?10重量%を含有する塩基性組成物と、
水、増粘剤、及び酸の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び酸0.1?10重量%を含有する酸性組成物とからなり、
前記組成物の水の含有量が85?97重量%であり、
用時に前記塩基性組成物と前記酸性組成物とを混合する(但し、皮膚上で混合する場合を除く)ことにより前記組成物を得る、前記製造キット。」

<相違点1>
甲1発明の「直腸または膣投与用の医薬組成物」が本件特許発明1の「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」に対応するところ、本件特許発明1の「組成物」は、「持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」であるのに対し、甲1発明の「組成物」は、「直腸または膣投与用の医薬」である点。

<相違点2>
本件特許発明1は、「前記塩基性組成物及び酸性組成物の流動性が、それぞれ、表面が滑らかな長さ40cmのガラス板の端に、その1gを直径1cmの円盤状に塗り、その円盤が上に来るように水平面に対して60度の角度で立てたとき、5秒後の円盤の移動距離が30cm以内であり」との限定を有するのに対し、甲1発明は、そのような限定を有していない点。

(4)判断

相違点1について
本件特許発明1の「持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」という用途の目的は、二酸化炭素の持続的な経皮・経粘膜吸収である(本件特許明細書の段落【0042】参照。)のに対して、甲1発明の「直腸または膣投与用の医薬」という用途の目的は、「医薬的に活性な物質」を「腸、直腸、または膣の障害の処置または予防」(摘示(1-1)の請求項8)のために「直腸または膣投与」することであって、「二酸化炭素」自体を投与することではないと認められる。
なお、「二酸化炭素」は、フォームが結腸辺りまで広がるよう十分に長い時間破壊されないこと、フォームが破壊性を有することにより患者からのフォームの除去がより患者にとってより快適なものであること、フォームが破壊されることによって活性物質がフォームの中心に捕捉されて、処置すべき身体の領域に接触できない可能性がほとんどないこと、という特徴を有するフォームを形成する(摘示(1-7)参照。)ためのものである。
そうすると、両者の用途・目的は、明らかに異なる。また、両者が(表現は異なるものの)実質的に同一であるともいえない。

なお、異議申立人は、甲1発明について、形成されたフォームが破壊されまで保持されている間に二酸化炭素が直腸または膣内の粘膜に吸収されることは明らかであるから、甲第1号証に記載のキットは、「気泡状の二酸化炭素を保持して持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる組成物を得るための製造キット」に該当する(申立書21頁11行-22頁3行)、「そうすると、甲第1号証に記載の発明において「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収」が行われていることは明らかであるから、本件特許発明において「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」と規定することで、甲第1号証に記載されていない新たな用途を提供したとはいえない。」(申立書22頁16行-19行)、「したがって、本件特許発明における「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」と甲第1号証に記載の「直腸または膣投与用組成物」との区別をつけることはできない。」(申立書22頁末行-23頁1行)旨主張している。
しかしながら、そもそも、甲第1号証には、「気泡状の二酸化炭素」を「皮膚」から吸収させることについて記載も示唆も無いし、「皮膚」から吸収させるために「二酸化炭素を放出」していることが自明であるとも認められない。
また、仮に、甲1発明において気泡状の二酸化炭素が直腸または膣の「粘膜」から吸収される現象が起こりうるとしても、「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」の組成物であるといえるためには、単にその組成物を皮膚や粘膜に適用した際に二酸化炭素が吸収されているというだけでは不十分であり、さらに、該二酸化炭素の持続的な吸収が意図的に(例えば、所定の吸収量となるように設計されているなど)行われていることを要すると認められる。
そこで、甲1発明において該二酸化炭素の持続的な吸収が意図的に行われているか否かについて検討すると、甲第1号証には甲1発明において二酸化炭素の吸収を意図的に行う旨の記載がないどころか、二酸化炭素が皮膚や粘膜を介して吸収されることに関してすら何も記載がない。加えて、甲1発明において「二酸化炭素」は、「フォーム構造」を形成するための成分であるが、「直腸または膣」の皮膚や粘膜から吸収されると「フォーム構造」の形成や維持が阻害されるから、甲1発明にとって二酸化炭素が皮膚や粘膜から吸収されることは、好ましくないと認められ、したがって、甲1発明において二酸化炭素の持続的な吸収が意図的に行なわれていると解することはできない。

そうすると、相違点1は、実質的な相違点である。

また、甲第1号証には二酸化炭素の持続的な吸収を意図的に行う点についてはもちろん、単に二酸化炭素が皮膚や粘膜を介して吸収されることについてすら何も記載がない。加えて、甲1発明において「二酸化炭素」は、「フォーム構造」を形成するための成分であり、「直腸または膣」の皮膚や粘膜から吸収されると「フォーム構造」の形成や維持が阻害されることから、甲1発明にとって二酸化炭素が皮膚や粘膜から吸収されることは、好ましくないと認められる。
そうすると、本件特許発明が属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、甲1発明の「組成物」の用途について、「直腸または膣投与用の医薬」という用途に代えて、二酸化炭素を意図的に皮膚や粘膜から吸収させることを着想し、「気泡状の二酸化炭素を保持して持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」とすることを、容易に想到することができたとは認められない。

相違点2について

甲第1号証には甲1発明の「成分1」、及び、「成分2」の「表面が滑らかな長さ40cmのガラス板の端に、その1gを直径1cmの円盤状に塗り、その円盤が上に来るように水平面に対して60度の角度で立てたとき、5秒後の円盤の移動距離」(以下、「流動性パラメータ」という。)の値について記載がないし、流動性パラメータの値が30cm以内であることが自明であるとも認められない。
異議申立人は、甲1発明の「成分1」、「成分2」は、粘度が10^(1)?10^(10)mPa・sであるから、その粘度から判断して、流動性パラメータの値が30cm以内であると推定でき(申立書12頁20-28行、13頁14-29行、21頁2-5行)、また、成分1及び成分2の組成の本件特許発明1との類似性から判断して、流動性パラメータの値が30cm以内であると推定できる旨主張(申立書21頁5-6)している。
しかしながら、粘度が10^(1)?10^(10)mPa・sである場合に流動性パラメータの値がどのような値になるのかや、具体的な推定手順(粘度の値を流動性パラメータの値に変換するための計算式など)、流動性パラメータの値が30cm以内であるとの推定が正しいこと、等に関し全く説明がないし、そのような推定が正しいといえる根拠も見いだせない。
また、甲1発明の「成分1」、及び、「成分2」は、いずれも、その大部分が「精製水」で構成されている水溶液であり、その密度は、概ね1g/cm^(3)程度である(したがって、その体積は、概ね1cm^(3)程度である。)と推定できること、流動性パラメータの値が30cm以内であるためには、まず、「表面が滑らかな長さ40cmのガラス板の端に、その1gを直径1cmの円盤状に塗」ることが可能であることを要し、したがって、その1gを直径1cmの円盤状で高さが概ね1cmになるように塗れるような物性を有していることを要すると認められるところ、甲1発明の「成分1」、及び、「成分2」の粘度が10^(1)?10^(10)mPa・sであるとすると、例えば粘度が10^(1)mPa・s(ウスターソーズ程度)である場合には、甲1発明の「成分1」、及び、「成分2」は、「その1gを直径1cmの円盤状に塗」ることはできないし、「その円盤が上に来るように水平面に対して60度の角度で立てたとき、5秒後の円盤の移動距離」は、明らかに30cm以上になると認められる。
また、「成分1」、及び、「成分2」の組成の本件特許発明1との類似性についても、どのようにして類似性を判断したのかや、類似性の程度に応じて流動性パラメータの値がどのように算出できるのかに関して何も説明がないし、流動性パラメータの値が30cm以内であるとの推定が正しいといえる根拠も見いだせない。

したがって、異議申立人の主張は、採用できないし、相違点2は、実質的な相違点である。

また、甲第1号証には、そもそも流動性パラメータについて記載も示唆も無いし、流動性パラメータは、汎用の物性でもない。そうすると、当業者がこの流動性パラメータという物性を創作することを容易に想到しえたとは認められないし、さらに、甲1発明において、この流動性パラメータで甲1発明の「成分1」、及び、「成分2」を限定することを着想し、かつ、その値を「30cm以内」と決定することを、容易に想到しえたとは認められない。

そうすると、相違点1及び相違点2は、いずれも実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。
また、甲第1号証には相違点1及び2に係る事項を採用する動機付けも見いだせないことから、相違点1及び相違点2に係る事項は、いずれも、当業者が容易に想到することができたものではないので、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。
本件特許発明2?9について

本件特許発明2?7は、本件特許発明1をさらに限定したものであるところ、上記のとおり、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明であるとは認められないのであるから、本件特許発明2?7も、甲第1号証に記載された発明であるとは認められない。
また、本件特許発明2?9は、本件特許発明1をさらに限定したものであるところ、上記のとおり、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとは認められないのであるから、本件特許発明2?9も、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。


2.申立理由2について

(1)甲第2?6、8?12号証に記載されている事項
甲第2号証(欧州特許出願公開第0806201号明細書)には、以下の事項が記載されている。なお、甲第2号証は、英語で記載されているので、日本語訳(当審による。)を記載する。また、下線は、当審による。
(2-1)
「より具体的には、本発明は、発泡剤を含む第一の組成物と、酸成分を含む第二の組成物を含む化粧用マスク製品に関し、第一及び第二の組成物は、発泡作用を引き起こすために順次適用されます。」(2頁6-8行)
(2-2)
「第一および第二の組成物を含む本発明の化粧用マスク製品は、酸成分と発泡剤の水性相反応を可能にするのに十分な水を含有します。一般的には、第一および第二の組成物の各々は、水を含有しますが、組成物の一方は、本質的に無水であり得る。個々の組成物の含水量は、他方の組成物の含水量に応じた制限があります。すなわち、上記の通り第1と第2の組成物は、皮膚に適用した際に化粧用的に有効かつ安全に水相反応するに十分な量の水が必要です。」(2頁41-46行)
(2-3)
「第二の組成物は、消費者の皮膚特に顔に適用した場合、垂れたりせず、上述の第一の組成物と容易に混合できるような組成物の形態で提供されます。 第二の組成物は、ゲル化剤、増粘剤、有機溶媒、キレート剤、pH調整剤、緩衝剤(酸成分を除く)、着色剤、防腐剤及び香料などの1種以上の賦形剤が含まれる化粧品的に適切なビヒクル中に酸成分を含むゲルの形態が好ましいです。」(3頁40-45行)
(2-4)
「非液体の有機材料が添加されることで、クリーム組成物に十分なコシを持たせており、皮膚に適用した場合に垂れることが無い。さらに、非液体有機物質は、皮膚に適用した場合に、皮膚軟化剤、湿潤剤または他の皮膚コンディショニング機能を提供するように選択することが好ましい。油性皮膚軟化剤は、発泡剤と酸成分の反応によって得られる発泡作用を抑制する傾向があるので、油皮膚軟化剤の代わりにクリーム組成物中に組み込まれています。それにもかかわらず、化粧マスク製品の総重量の1.0%未満、特に0.2%未満の低レベルの油皮膚軟化剤を一般的に許容することができます。
好ましくは、非液体の有機物質(i)は、クリーム組成物の重量の約1?約20重量%の量で存在し、最も好ましくは約5?約15%です。これらの材料は疎水性であり、容易に水に溶解しません。これらの物質のHLBは、10未満特に6未満です。これらの材料は、多くの場合、ワックス状を有する。本発明のクリーム組成物において使用される有機材料は、典型的には125°Fの融点を持ち、好ましくは約125から約200°Fに、さらに最も好ましくは約135?約175°Fに融点を有しています。CTFA化粧品成分ハンドブック、79-84頁(初版1988年)に記載のスキンコンデシショナー材料は、それらが非液体と疎水性であり、それらが上記好ましい範囲で適度な融点を持っている場合は特に適して提供されます。有用な材料は、飽和の炭素数約12?約22の直鎖脂肪酸であって例えばステアリン酸、パルミチン酸およびベヘン酸などや、これらの脂肪族アルキル、グリセリル、あるいは、ラノリンエステルや、セチル、ステアリルおよびセテアリルアルコールなどの約12?約22個の炭素を有する直鎖飽和脂肪族アルコール;ポリエチレングリコール及びそれらのモノ - およびジエステル、ならびに蜜蝋、マイクロクリスタリンワックス、水添ヒマシ油、パラフィンワックス、ラノリンワックス等の天然及び合成ワックスです。これらの材料は、それらが疎水性で非液体の場合には、1分子当たり3以下、より典型的には2モルのエチレンオキシド付加体です。」(4頁17-36行)
(2-5)
「増粘剤は、25℃で約50000から100万、好ましくは15万500,000、特に好ましくは20万から40万cpsの粘度になるように組成物を増粘する量で存在します。増粘剤には以下のものが含まれる。すなわち、セルロースおよびその誘導体、特にカルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびメチルセルロースや;カラゲナン、アルギン酸塩、寒天、グアーガム及びその誘導体、デンプンおよび加工デンプン、β-グルカン、キサンタンガムなどの炭水化物や;ケイ酸アルミニウムマグネシウム、アタパルジャイト、ベントナイト、モンモリロナイトおよびヘクトライトなどの粘土や;アクリル;アクリレート樹脂、例えば、カルボマー、および特定のポリマーおよびコポリマー、例えば、ポリビニルアルコール。」(6頁9-15行)
(2-6)
「一般に増粘剤は、クリーム組成物の重量に対して0.1?約5%の量、好ましくは約0.1?約3%、最も好ましくは約0.5?約2重量%、で存在します。」(6頁15-17行)
(2-7)
「水は、約40?約90%まで、好ましくは、約60?約80%の量でクリームマスク内に存在します。」(6頁28-29行)
(2-8)
「水は有機溶媒と一緒に使用する共溶媒であり、ゲル組成物の重量で、ゲル組成物の重量の約0?約20%まで、好ましくは約5?約15%の量で存在します。」(7頁33-34行)
(2-9)
「したがって、水の量は広範囲の値をとりうるが、ゲルの特定の物理的特性を提供するために、または製造を容易にするために調整されます。」(7頁36-37行)
(2-10)
「増粘剤は、上述した所望の粘度を提供するために、約0.1から約3%、好ましくは約0.5?約1.5重量%の量で存在します。好ましい粘度は、25℃で一般に約50,000から約250,000であり、特に約50,000から約175,000 cpsです。」(7頁41-44行)
(2-11)
「ゲルの活性化剤組成物の適用は以下のとおりであり、酸成分は、一般に、実質的に完全に発泡剤との反応により枯渇されるように適用されます。」(8頁37-38行)
(2-12)
「クリームとゲルの重量比は、典型的には約1:2?4:1、好ましくは約1:1?約3:1、そして最も好ましくは約2:1です。」(8頁43-44行)
(2-13)
「放出されたガス(発泡剤が重炭酸ナトリウムである場合には二酸化炭素)が、比較的粘性のあるクリーム - ゲル混合物を通して浸透していくことによって、発泡が起こります。」(8頁47-48行)
(2-14)
「化粧品マスク製品は、発泡剤と酸成分の反応と消費者の皮膚の非刺激性を確実にするために十分な水を必要とします。」(9頁8-9行)
(2-15)
「第一および第二の組成物を組み合わせた化粧マスク生成物は、好ましくは、約5?15分間、最大約30分間、皮膚に接触した状態に維持されています。その後、残留物を布または当技術分野で知られているようにスクレーパーを用いて除去されます。」(9頁12-14行)
(2-16)
「保湿クリーム製品を適用し、発泡剤または酸成分を含む第一の組成物を適用し、発泡剤又は酸成分の他方を含む第二の組成物を適用するレジメンは、皮膚の色調、質感および柔軟性を向上させ、および皮膚の表面に付着していることによって皮膚の表面の不連続性を強調する死細胞を除去します。」(9頁16-19行)
(2-17)




」(9頁35行-10頁20行)
(2-18)
「クリームを均一に消費者の顔に、皮膚にマッサージすることなく適用されます。ゲルの活性化剤組成物は、次いで、ビーズクリーム組成物上及び額、頬と顎の直径が約1/8インチの形態で適用され、その後、穏やかなマッサージにより、またはへらを用いてクリームに混合されます。組み合わせ組成物は、重炭酸塩と乳酸が反応して発泡を開始します。発泡は、クリーム組成物中に界面活性剤が存在するからではなく、むしろ混合された組成物を通して二酸化炭素のバブリングによるものである。もちろん、水性系において良好な泡の形成は、界面活性剤を含めることによって強化されます。消費者は、クリーム組成物の適用時に皮膚に冷却感を感じ、その後、反応の発熱に起因する皮膚の加温を感じます。 この実施例では、約16gのクリーム組成物と約8gのゲル組成物を消費者の顔に適用しました。約10分後、化粧品マスクは、スクレーパーを使用して消費者の顔から除去され、その後、洗浄されます。」(10頁23-33行)
(2-19)
「実施例4
重炭酸ナトリウム成分が5%のレベルでゲル促進剤に含まれている点を除いて、実施例1と同様に行います。乳酸(88%)及び水酸化ナトリウム(50%)の実施例1の構成要素はそれぞれ、8%および2%のレベルでクリーム組成物に含まれています。乳酸及び水酸化ナトリウム成分を含むクリーム組成物は、9グラムの量で最初に適用されます。重炭酸ナトリウムを含有するゲル組成物15gを、消費者の顔面に塗布します。消費者は、クリーム組成物の適用時に皮膚に冷却感を感じ、その後、反応の発熱に起因する皮膚の加温を感じます。 この実施例では、約16gのクリーム組成物と約8gのゲル組成物を消費者の顔面に適用しました。約10分後、化粧品マスクは、スクレーパーを使用して消費者の顔面から除去され、その後、顔面は洗浄されます。」(10頁45-51行)
(2-20)
「消費者の皮膚を治療する化粧用マスク製品であって、
第1の組成物および第2組成物を含み、
これらの組成物は、消費者の皮膚に順次適用するようになっており、
いずれか一方が発泡剤を含み、他方が酸成分を含み、
それぞれの組成物はさらに、化粧品として適切なビヒクルを含み、
前記第一および第二の組成物のうち少なくとも一つの組成物は、前記ビヒクルの一部として化粧マスクに適合性のある少なくとも一つの化粧品用補助剤の有効量を含み、
前記第一および第二の組成物を消費者の皮膚に順次適用する際に、発泡剤と酸成分が反応するための媒体として有効な量の水を含み、
前記有効な量の水は、前記第一の組成物及び前記第二の組成物に含まれるか、前記第一の組成物または第二の組成物に含まれる、
化粧用マスク製品。」(特許請求の範囲、請求項1)
(2-21)
「発泡剤は、それを含有する組成物の1?20重量%の量で存在し、酸成分は、それを含有する組成物の1?30重量%の量で存在することを特徴とする請求項1に記載の化粧マスク製品。」(特許請求の範囲、請求項2)
(2-22)
「請求項1?3のいずれか一項に記載の化粧用マスク製品であって、第一の組成物は、クリームの形態であり、発泡剤を含有し、第二の組成物がゲルの形態であり、酸成分を含有することを特徴とする化粧用マスク製品」(特許請求の範囲、請求項4)
(2-23)
「請求項1に記載の化粧用マスク製品であって、発泡剤を1?20%含む第一の組成物および化粧品として許容される酸成分を1?30%含む第二の組成物を含み、前記第一および第二の組成物の一方は、さらに(I)約0?25%の皮膚コンディショニング効果を有する非液体疎水性有機物質、 (ii)乳化、洗浄及び発泡性の一つ以上を調整するために適する1つ以上の約1?20%の界面活性剤系(iii)約40?90%の水、および(iv)25℃で約50,000の100万の粘度を提供するのに効果的な量の増粘剤、および前記第1および第2の組成物の他方は、さらに(a)約55?90%の化粧品として好適な有機溶媒 (b)約0?20%の水、及び(c)25℃で約25,000?500,000 CPSの粘度を提供するのに有効的な量の増粘剤、を含み、前記水は、第一および第二の組成物が消費者の皮膚の上で混合された際、発泡剤と酸成分が水媒体中で十分に反応することができるような量で含む、化粧用マスク製品。」(特許請求の範囲、請求項6)
甲第3号証(特開昭63-310807号公報)には、以下の事項が記載されている。
(3-1)
「(1)酸性物質を水に溶解して得られる水溶液を第1剤とし、水溶性高分子及び/又は粘土鉱物と炭酸塩とを常温固型のポリエチレングリコールで被覆した固型物を第2剤とする用時混合型発泡性化粧料。」(1頁左下欄、特許請求の範囲)
(3-2)
「本発明は、炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させる、ガス保留性、経日安定性、官能特性及び皮膚安全性に優れた発泡性化粧料に関する。」(1頁左下欄13-16行)
(3-3)
「そこで本発明者らは、上記の事情に鑑み鋭意研究した結果、後記特定組成の発泡性化粧料は、2剤型である為経日安定性に優れ、炭酸塩と水溶性高分子をポリエチレングリコールで被覆してなる第2剤と酸性物質である第1剤を用時混合する際に、炭酸ガスの泡が徐々に発生すると共に水溶性高分子及び/又は粘土鉱物の粘性によって安定な泡を生成し、炭酸ガスの保留性が高まる事を見出し、本発明を完成するに至った。
」(頁右下欄6-14行)
(3-4)
「発泡性化粧料を使用するには、第1剤を容器に入れ、第2剤を加え、数十秒間撹拌した後適宜使用する。」(3頁右上欄3-5行)
(3-5)
「実施例1?11
〔発泡性エッセンス〕
第1表の組成の如く、発泡性エッセンスを調製し、前記の諸試験を実施した。
〔調製方法〕
〈第1剤〉
水にクエン酸を加えて撹拌し、均一に混和する。
尚、クエン酸が溶け難い場合は適宜加熱する。
〈第2剤〉
約80℃にて、ポリエチレングリコール(分子量4000)を溶解し、熱時、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムを加え、均一に混合した後室温まで冷却し、ポリエチレングリコールで被覆した粉末とした。」(3頁右下欄14行-4頁左上欄1行)
(3-6)


」(4頁下欄)
甲第4号証(特開平3-161415号公報)には、以下の事項が記載されている。
(4-1)
「(1)(A)分子内にヘテロ環を有する水溶性非イオン性高分子1種又は2種以上0.01?20重量%、及び
(B)炭酸ガス0.01?10重量%
を含有することを特徴とする薬用化粧料。」(1頁左下欄、特許請求の範囲、第1項)
(4-2)
「従って、本発明の目的は、炭酸ガスを高濃度で長時間保持することができ、血行促進効果の持続性が高い薬用化粧料を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
本発明者らは、種々検討した結果、炭酸ガスを水中に含有させるに際し、特定の水溶性非イオン性高分子を用いることにより、前記目的を達成する薬用化粧料が得られることを知見した。」(2頁左上欄19行-右上欄6行)
(4-3)
「本発明の或分(A)である分子内にヘテロ環を有する水溶性非イオン性高分子としては、合成高分子、セルロース誘導体、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン;天然多糖類、例えば、ローカストビーンガム、グアーガム、デンブン、タマリンドガムなどの、流動性を有する粘調液を作る化合物が好ましく、特に、セルロース誘導体である重合度200?2000のヒドロキシエチルセルロースが好ましい。成分(A)として上記化合物を用いた場合は、安定性(pH、耐塩、温度及び経時安定性など)及び粘度特性の優れたものが得られる。」(2頁左下欄8-20行)
(4-4)
「実施例4
下記に示す配合組戒のへアートリートメントを調製した。
・ヘアートリートメントの配合組成
(1)ステアリルトリメチル
アンモニウムクロライド -- 3.0%
(2)ステアリルアルコール -- 2.0%
(3)ラ ノ リ ン -- 3.0%
(4)パ ラ フ ィ ン -- 3.0%
(5)ヒドロキシエチルセル
ロース -- 1.0%
(6)メチルバラベン -- 0.2%
(7)香 料 -- 0.7%
(8)水 バランス

上記配合組成のへアートリートメントを耐圧容器に入れ、炭酸ガスを2重量%になるように充填して、ヘアートリートメント組成物を得た。」(5頁右上欄下から6行-左下欄12行)
(4-5)


」(6頁右上欄)
(4-6)


」(6頁下欄)
甲第5号証(特開昭60-215606号公報)には、以下の事項が記載されている。
(5-1)
「そこで、本発明者は、このような欠点がなく、血行をよく促進するパック剤を提供すべく鋭意研究を行った結果、炭酸ガスを皮膚に直接作用させると皮膚の血流がよくなり、皮膚にしっとり感を与えることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有するパック剤を提供するものである。
本発明のパック剤は、次に示すように、従来のパック剤と併用することもできるし、また単なる炭酸ガスパック剤として使用することもできる。
本発明の、パック剤は次のような形態とすることができる。
1(当審注:原文は丸の中に1。) 従来公知のパック剤を耐圧容器に入れ、これに高圧炭酸ガス、あるいは炭酸塩と酸、もしくはドライアイス等の炭酸ガス発生源を加えて密閉する。
本パック剤は使用時内容物を吐出させて被パック部位に塗布する。
2(当審注:原文は丸の中に2。) 炭酸塩と酸を実質的に水の存在しない状態で、一つの不織布、布、紙等の担体に担持させる。更にこの担体に公知のパック剤成分を一緒に担持させておいてもよい。
本パック剤は、使用時被パック部位に付着させ、この上に蒸しタオルを重ねるとか、水を添加するとかの方法によってパック剤に水を供給して、当該炭酸塩と酸とを反応させて炭酸ガスを発生させる。」(2頁左上欄1行-右上欄末行)
(5-2)
「製造例4
平均分子量40万のポリビニルアルコール16部、平均分子量5万のポリビニルアルコール4部、1,3-ブチレングリコール8部、エタノール6部、カルボキシメチルセルロースナトリウム3部、亜鉛華4部、炭酸水素ナトリウム5部、香料0.3部、色素を微量および水53.7部から、常法により製造したものをA剤とした。
平均分子量40万のポリビニルアルコール16部、平均分子量5万のポリビニルアルコール5部、1,3-ブチレングリコール8部、エタノール5部、コラーゲン2部、酸化チタン2部、酒石酸5部、香料0.3部、色素を微量および水56.8部から常法により製造して得たものをB剤とした。使用時、A剤2重量部とB剤3重量部を混合する。使用時のpHは6.2。」(4頁右上欄12-左下欄14行)
(5-3)


」(5頁左下欄)
甲第6号証(FRAGRANCE JOURNAL, 1996, Vol.24, No.8, pp37-40)には、「最近のボディスリミング,ファーミング製品の動向」と題する「特集/ボディケア製品の研究開発の動向」が記載されており、以下の事項が記載されている。
(6-1)
「まず最近のボディスリミング・ファーミング製品に共通する特徴としては,
1)脂肪分解、セルライト予防
2)血行促進による水分と老廃物の代謝促進」(37頁左欄15-18行)
甲第8号証(総合リハビリテーション、1989年、p605?609)には、「人工炭酸泉浴剤による褥瘡治療について」と題する「特集」が記載されており、以下の事項が記載されている。
(8-1)
「脳出血後遺症の70歳男性に係る症例1」、「脳梗塞,糖尿病,高血圧の77歳女性に係る症例2」、「C5レベル頸髄損傷の52歳男性に係る症例3」(608頁左欄6-33行)
(8-2)
「著者らは経皮的に浸透した炭酸ガスは血管平滑筋のTCA cycleにproduct inhibitionをかけ,血管のautoregulation作動による拡張を引き起こすものと考えている・・褥瘡を治療させることになると思われる。」(608頁右欄7-15行)

甲第9号証(化粧品・原料データベース、[online]、2015年10月2日検索、インターネット<http://iwasedatabase.jp/presc_detail.php?id=PS00029&t=1383011378>)には、「プロノン#184」に関し、以下の事項が記載されている。
(9-1)
それぞれ、「商品名 プロノン#184」、「製造会社 日油株式会社」、「特性 安定化剤、乳化剤、造年剤、ゲル化剤、保湿剤」と記載されている欄がある表
(9-2)
それぞれ、「表示名称 INCIコード 成分名 外原規名 外原規簡略名」、「ポロキサマー184 POLOXAMER184 ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(26E.O.)(30P.O.) ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(26E.O.)(30P.O.) POE(26)POP(30)」と記載されている欄がある表
甲第10号証(人工炭酸泉1(1),005?009,1998)には、「炭酸浴(炭酸泉)」と題する論文が記載され、その5頁に記載されている「表1.炭酸泉の限界濃度値(定義より抜粋)」と題する表には、以下の事項が記載されている。
(10-1)
「5.炭酸水又は炭酸泉 100mg/kg遊離CO_(2)」(5頁、表1)
甲第11号証(特開平8-281087号公報)には、以下の事項が記載されている。
(11-1)
「【従来の技術】炭酸泉には優れた血行促進効果があることから、古くから温泉を利用する浴場等で用いられている。炭酸泉の血行促進効果は、基本的に、含有炭酸ガスの末梢血管拡張作用により身体環境が改善されるためと考えられる。また、炭酸ガスの経皮進入によって、毛細血管床の増加及び拡張が起こり、皮膚の血行を改善する。このため、皮膚上の毛穴から老廃物、汚れ等を排出し、また、皮膚のpHを正常に整える弱酸性水でもあるため、にきび等皮膚の炎症の改善に効果があると考えられている。」(段落【0002】)
甲第12号証(特開昭63-267724号公報)には、以下の事項が記載されている。
(12-1)
「第1鉄イオンと二酸化炭素を溶存した還元性雰囲気の硫酸酸性溶液を主成分とする皮膚病治療用液組成物。」(1頁左下欄5-7行)


(2)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、特許請求の範囲(摘示(2-20)?(2-23))に記載された発明と、その具体例である実施例1(摘示(2-17)?(2-18))が記載されている。
なお、甲第2号証には「第一および第二の組成物を組み合わせた化粧マスク生成物は、好ましくは、約5?15分間、最大約30分間、皮膚に接触した状態に維持されています。その後、残留物を布または当技術分野で知られているようにスクレーパーを用いて除去されます。」(摘示(2-15))との一般的な記載はあるが、実施例1に関し、化粧マスク生成物を何分間、皮膚に接触した状態に維持したかは記載が無いため不明であり、「増粘剤は、25℃で約50000から100万、好ましくは15万500,000、特に好ましくは20万から40万cpsの粘度になるように組成物を増粘する量で存在します。」(摘示(2-5))、「好ましい粘度は、25℃で一般に約50,000から約250,000であり、特に約50,000から約175,000 cpsです。」(摘示(2-10))との一般的な記載はあるが、実施例1に関し、粘度は、記載が無いため不明であり、「化粧品マスク製品は、発泡剤と酸成分の反応と消費者の皮膚の非刺激性を確実にするために十分な水を必要とします。」(摘示(2-14))との一般的な記載はあるが、実施例1に関し、化粧品マスク製品における水の含有量に関する記載はない。
以上を総合すると、甲第2号証には下記の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。


「消費者の皮膚を治療する化粧用マスク製品であって、
第1の組成物および第2組成物を含み、
これらの組成物は、消費者の皮膚に順次適用するようになっており、
それぞれの組成物はさらに、化粧品として適切なビヒクルを含み、
前記第一および第二の組成物のうち少なくとも一つの組成物は、前記ビヒクルの一部として化粧マスクに適合性のある少なくとも一つの化粧品用補助剤の有効量を含み、
第一の組成物は、クリームの形態であり、発泡剤を1?20%含有し、
第二の組成物がゲルの形態であり、化粧品として許容される酸成分を1?30%含有し、
前記第1および第2の組成物の一方は、さらに
(I)約0?25%の皮膚コンディショニング効果を有する非液体疎水性有機物質、
(ii)乳化、洗浄及び発泡性の一つ以上を調整するために適する1つ以上の約1?20%の界面活性剤
(iii)約40?90%の水、および
(iv)25℃で約50,000の100万の粘度を提供するのに効果的な量の増粘剤、
および前記第1および第2の組成物の他方は、さらに
(a)約55?90%の化粧品として好適な有機溶媒
(b)約0?20%の水、及び
(c)25℃で約25,000?500,000 CPSの粘度を提供するのに有効的な量の増粘剤、
を含み、
前記第一および第二の組成物を消費者の皮膚に順次適用する際に、発泡剤と酸成分が反応するための媒体として有効な量の水を含み、
前記有効な量の水は、前記第一の組成物及び前記第二の組成物に含まれるか、前記第一の組成物または第二の組成物に含まれ、第一および第二の組成物が消費者の皮膚の上で混合された際、発泡剤と酸成分が水媒体中で十分に反応することができるような量で含まれ、

第一の組成物がクリームの形態の組成物であって、
炭酸ナトリウム 5.0
メチルココイルタウリン酸ナトリウム 5.0
セテアリルアルコール 3.5
グリセリルステアレート 1.5
セチルアルコール 5.0
PEG-100ステアレート 1.5
PEG-40カストールオイル 1.5
エッセンシャルオイル 0.01
防腐剤 1.0
着色剤 0.4
キサンタンガム 1.5
EDTA3ナトリウム 0.2
水 残部
からなるものであり、
単位はいずれも重量%であり、
粘度(25℃)が302000cpsであり、pH8.0がであり、
第二の組成物がゲル形態の活性化剤であって、
ブチレングリコール 78.0
ヒドロキシエチルエチルセルロース 1.0
水酸化ナトリウム(50%) 2.0
乳酸(88%) 9.1
水 残部
からなるものであり、
単位はいずれも重量%であり、
粘度(25℃が53000cpsであり、pHが4.9であり、
クリームは、均一に消費者の顔に、皮膚にマッサージすることなく適用され、次いで、ゲルの活性化剤組成物は、ビーズクリーム組成物上及び額、頬と顎の直径が約1/8インチの形態で適用され、クリームとゲルの活性化剤組成物は混合され、
重炭酸塩と乳酸が反応して二酸化炭素のバブリングにより発泡し、
約16gのクリーム組成物と約8gのゲル組成物が消費者の顔に適用されるものであり、約10分後に化粧品マスクは、スクレーパーを使用して消費者の顔から除去され、その後、洗浄される、
化粧用マスク製品。」

(3)対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。

甲2発明は、「重炭酸塩と乳酸が反応して二酸化炭素のバブリングにより発泡」するものであることから、本件特許発明1の「気泡状の二酸化炭素を保持して」を満足する。

甲2発明の「第一の組成物」と本件特許発明1の「塩基性組成物」を対比する。
甲2発明の「第一の組成物」の「水」、「炭酸ナトリウム」、「キサンタンガム」は、それぞれ、本件特許発明1の「塩基性組成物」の「水」、「炭酸塩」、「増粘剤」に相当する。
甲2発明の「第一の組成物」の「水」の含有量である「残部」は、「残部」であるので全体(100重量%)から、「水」以外の成分の含有量を引いた残りで計算すると73.89%であり、したがって、「水」、「炭酸ナトリウム」、「キサンタンガム」の合計量に対する「水」、「炭酸ナトリウム」、「キサンタンガム」の割合を計算すると、それぞれ、91.9重量%、6.2重量%、1.9重量%となる。
そうすると、甲2発明の「第一の組成物がクリームの形態の組成物であって、
炭酸ナトリウム 5.0
メチルココイルタウリン酸ナトリウム 5.0
セテアリルアルコール 3.5
グリセリルステアレート 1.5
セチルアルコール 5.0
PEG-100ステアレート 1.5
PEG-40カストールオイル 1.5
エッセンシャルオイル 0.01
防腐剤 1.0
着色剤 0.4
キサンタンガム 1.5
EDTA3ナトリウム 0.2
水 残部
からなるものであり、
単位はいずれも重量%」は、本件特許発明1の「水、増粘剤、及び炭酸塩の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び炭酸塩0.1?10重量%を含有する塩基性組成物」に相当する。

甲2発明の「第二の組成物」と本件特許発明1の「酸性組成物」を対比する。
甲2発明の「第二の組成物」の「水」、「乳酸」、「ヒドロキシエチルエチルセルロース」は、それぞれ、本件特許発明1の「酸性組成物」の「水」、「酸」、「増粘剤」に相当する。
そうすると、甲2発明の「第二の組成物がゲル形態の活性化剤であって、
ブチレングリコール 78.0
ヒドロキシエチルエチルセルロース 1.0
水酸化ナトリウム(50%) 2.0
乳酸(88%) 9.1
水 残部
からなるものであり、
単位はいずれも重量%」は、本件特許発明1の「水、増粘剤、及び酸を含有する酸性組成物」に相当する。

なお、異議申立人は、「また、第2組成物が、水を17.5重量、増粘剤を1重量%、酸を1.4重量%含有すると、これら3成分の合計量に対して、水が87.5質量%、増粘剤が5質量%、酸が7.5質量%となる。」(申立書15頁24-27行)と主張しているが、実施例1における「第二の組成物」の「水」の含有量である「残部」は、「残部」であるので全体(100重量%)から、「水」以外の成分の含有量を引いた残りで計算すると9.9重量%であり、「乳酸」の含有量は、実質「8.0%」(9.1*88/100)と計算されるので、結局、「水」、「乳酸」、「ヒドロキシエチルエチルセルロース」の合計量に対する「水」、「乳酸」、「ヒドロキシエチルエチルセルロース」の割合を計算すると、それぞれ、52.4重量%、42.3重量%、5.3%である。
したがって、甲2発明の「第二の組成物」は、本件特許発明1の「水、増粘剤、及び酸の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び酸0.1?10重量%を含有する酸性組成物」に相当するとはいえない。

甲2発明は、「第一の組成物がクリームの形態の組成物」であり、「第二の組成物がゲル形態の活性化剤」であり、「クリームは、均一に消費者の顔に、皮膚にマッサージすることなく適用され、次いで、ゲルの活性化剤組成物は、ビーズクリーム組成物上及び額、頬と顎の直径が約1/8インチの形態で適用され、クリームとゲルの活性化剤組成物は混合され、重炭酸塩と乳酸が反応して二酸化炭素のバブリングにより発泡」するものであるから、本件特許発明1の「用時に前記塩基性組成物と前記酸性組成物とを混合する」を満足する。

本件特許発明1の「製造キット」は、「前記塩基性組成物と前記酸性組成物とを混合することにより組成物を得る」ものである。
これに対し、甲2発明の「マスク製品」は、「第一の組成物がクリームの形態の組成物」であり、「第二の組成物がゲル形態の活性化剤」であり、「クリームは、均一に消費者の顔に、皮膚にマッサージすることなく適用され、次いで、ゲルの活性化剤組成物は、ビーズクリーム組成物上及び額、頬と顎の直径が約1/8インチの形態で適用され、クリームとゲルの活性化剤組成物は混合され、重炭酸塩と乳酸が反応して二酸化炭素のバブリングにより発泡」して得るものである。
そうすると、甲2発明の「マスク製品」が本件特許発明1の「組成物」に対応し、甲2発明の「第1の組成物」及び「第2組成物」は、それぞれ、本件特許発明1の「塩基性組成物」及び「酸性組成物」に対応する。また、甲2発明は、本件特許発明1の「製造キット」を実質的に満足する。

そうすると、本件特許発明1と甲2発明の一致点、相違点は、下記のとおりである。

<一致点>
「気泡状の二酸化炭素を保持することができる組成物を得るための製造キットであって、
水、増粘剤、及び炭酸塩の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び炭酸塩0.1?10重量%を含有する塩基性組成物と、
水、増粘剤、及び酸を含有する酸性組成物とからなり、
用時に前記塩基性組成物と前記酸性組成物とを混合して前記組成物を得る、前記製造キット。」

<相違点1>
甲2発明の「マスク製品」が本件特許発明1の「組成物」に対応するところ、本件特許発明1は、「組成物」の用途が「持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」であるのに対し、甲2発明の「マスク製品」は、「消費者の皮膚を治療する化粧用」である点。

<相違点2>
甲2発明の「第一の組成物」、「第二の組成物」がそれぞれ本件特許発明1の「塩基性組成物」、「酸性組成物」に対応するところ、本件特許発明1は、「前記塩基性組成物及び酸性組成物の流動性が、それぞれ、表面が滑らかな長さ40cmのガラス板の端に、その1gを直径1cmの円盤状に塗り、その円盤が上に来るように水平面に対して60度の角度で立てたとき、5秒後の円盤の移動距離が30cm以内であり」との限定を有するのに対し、甲2発明は、そのような限定を有していない点。
<相違点3>
甲2発明の「第二の組成物」が本件特許発明1の「酸性組成物」に対応するところ、本件特許発明1は、「水、増粘剤、及び酸の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び酸0.1?10重量%を含有する」との限定を有するのに対し、甲2発明は、「水」、「乳酸」、「ヒドロキシエチルエチルセルロース」の割合が、それぞれ、52.4重量%、42.3重量%、5.3%である点。

<相違点4>
「組成物」について、本件特許発明1は、「水の含有量が85?97重量%」との限定を有するのに対し、甲2発明の「マスク製品」は、「約16gのクリーム組成物と約8gのゲル組成物」を「適用」するものであることから、その水の含有量が、53重量%(=(16*(73.89/100)+8*(9.9/100))/(16+8)*100)である点。

<相違点5>
「用時に前記塩基性組成物と前記酸性組成物とを混合する」について、本件特許発明1は、「但し、皮膚上で混合する場合を除く」との限定を有するのに対し、甲2発明は、「消費者の顔の皮膚上で混合する」ものである点。

(4)判断

相違点1について
異議申立人は、甲2発明の「第一の組成物」と「第二の組成物」が消費者の顔に適用されてから除去されるまでの間は、気泡状の二酸化炭素が皮膚上に保持されていることになるため二酸化炭素が経皮吸収されるので、甲2発明のキットで製造される混合物は、「二酸化炭素経皮吸収用組成物」と言える(申立書23頁17-29行)、また、甲第8、10、11号証を参照すれば、血行促進効果が炭酸ガスの経皮吸収によることは周知であり、甲第3、5号証を参照すれば、血行促進効果を目的とした炭酸パックも周知であるから、甲2発明において「組成物」の用途を「持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」に変換することは、当業者であれば容易に想到しえたと主張する(申立書24頁1-6行)。

しかしながら、そもそも、甲第2号証には、「気泡状の二酸化炭素」を「皮膚」から持続的に吸収させることについて記載も示唆も無いし、「皮膚」から吸収させるために「気泡状の二酸化炭素」が化粧用マスク製品に含まれていることが自明であるとも認められない。
また、仮に、甲2発明において気泡状の二酸化炭素が皮膚から吸収される現象が起こりうるとしても、「二酸化炭素経皮吸収用」の組成物であるといえるためには、単にその組成物を皮膚に適用した際に二酸化炭素が吸収されるというだけでは不十分であり、さらに、該二酸化炭素の持続的な吸収が意図的に(例えば、所定の吸収量となるように設計されているなど)行われていることを要すると認められる。
そこで、甲2発明において該二酸化炭素の持続的な吸収が意図的に行われているか否かについて検討すると、甲第2号証には甲2発明において二酸化炭素の吸収を意図的に行う旨の記載がないどころか、二酸化炭素が皮膚や粘膜を介して吸収されることに関してすら何も記載がない。加えて、甲2発明において「二酸化炭素」は、「発泡」するための成分であるが、「二酸化炭素」が皮膚から吸収されると「発泡」が不十分になることによって阻害されるため、甲2発明にとって二酸化炭素が皮膚から吸収されることは、好ましくない現象であると認められる。
そうすると、甲2発明において、二酸化炭素の持続的な吸収が意図的に起こるように変更を行うことには阻害要因があると認められる。
したがって、仮に、血行促進効果が炭酸ガスの経皮吸収によること(甲第8、10、11号証)や、血行促進効果を目的とした炭酸パック(甲第3、5号証)も周知であるとしても、甲2発明の「組成物」の用途を「持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」に変換することを当業者が容易になしえたとは認められない。


相違点2について

「表面が滑らかな長さ40cmのガラス板の端に、その1gを直径1cmの円盤状に塗り、その円盤が上に来るように水平面に対して60度の角度で立てたとき、5秒後の円盤の移動距離」(以下、「流動性パラメータ」という。)で表される物性は、汎用の物性ではないし、甲第2号証には、流動性パラメータが記載されてもいない。
そうすると、当業者がこの流動性パラメータという物性を創作することを容易に想到しえたとは認められず、したがって、甲2発明において、その流動性パラメータで甲2発明の「第一の組成物」及び「第二の組成物」を限定することを着想し、かつ、その値を「30cm以内」と決定することを、容易に想到しえたとは認められない
なお、異議申立人は、甲2発明の「第一の組成物」及び「第二の組成物」の粘度に関連して、「増粘剤は、25℃で約50000から100万、好ましくは15万500,000、特に好ましくは20万から40万cpsの粘度になるように組成物を増粘する量で存在します。」(摘示(2-5))、「好ましい粘度は、25℃で一般に約50,000から約250,000であり、特に約50,000から約175,000 cpsです。」(摘示(2-10))と記載されているから、その粘度から判断して、流動性パラメータの値が30cm以内であると推定できる(申立書15頁9-13行、15頁18行-16頁1行)旨、また、成分1及び成分2の組成の本件特許発明1との類似性から判断して、流動性パラメータの値が30cm以内であると推定できる旨(申立書21頁5-6)主張している。
しかしながら、粘度が約50000から100万cpsである場合に流動性パラメータの値がどのような値になるのかや、具体的な推定手順(粘度の値を流動性パラメータの値に変換するための計算式など)、流動性パラメータの値が30cm以内であるとの推定が正しいこと、等に関し全く説明がないし、そのような推定が正しいといえる根拠も見いだせない。
また、「第一の組成物」及び「第二の組成物」の組成の本件特許発明1との類似性についても、どのようにして類似性を判断したのかや、類似性の程度に応じて流動性パラメータの値がどのように算出できるのかに関して何も説明がないし、流動性パラメータの値が30cm以内であるとの推定が正しいといえる根拠も見いだせない。
また、甲2発明の「第一の組成物」、及び、「第二の組成物」は、いずれも、その大部分が「水」や「ブチレングリコール」で構成されており、その密度は、概ね1g/cm^(3)程度である(したがって、その体積は、概ね1cm^(3)程度である。)と推定できること、流動性パラメータの値が30cm以内であるためには、まず、「表面が滑らかな長さ40cmのガラス板の端に、その1gを直径1cmの円盤状に塗」ることが可能であることを要し、したがって、その1gを直径1cmの円盤状で高さが概ね1cmになるように塗れるような物性を有していることを要すると認められるところ、甲2発明の「第一の組成物」、及び、「第二の組成物」の粘度が、例えば粘度が50000cps(ジャム程度)である場合には、甲2発明の「第一の組成物」、及び、「第二の組成物」は、「その1gを直径1cmの円盤状に塗」ることはできないし、「その円盤が上に来るように水平面に対して60度の角度で立てたとき、5秒後の円盤の移動距離」は、明らかに30cm以上になると認められる。
したがって、異議申立人の主張は、採用できないし、甲2発明の「第一の組成物」、「第二の組成物」の流動性をそれぞれ30cm以内に限定することを当業者が容易に想到しえたとも認められない


相違点3について

甲2発明は、そもそも、「第二の組成物」について、「水、増粘剤、及び酸の合計量」に対する「水」、「増粘剤」、及び、「酸」の含有割合に関する事項を有していないし、甲第2号証には、「第二の組成物」について、「水、増粘剤、及び酸の合計量」に対する「水」、「増粘剤」、及び、「酸」の含有割合を特定の値にする点について、記載も示唆も無い。

また、甲2発明の「第二の組成物」は、水、増粘剤、及び酸の合計量に対し、「水」、「乳酸」、「ヒドロキシエチルエチルセルロース」の割合が、それぞれ、52.4重量%、42.3重量%、5.3%であるから、少なくとも酸の割合を4分の1以下に減らさないと、本件特許発明1の「酸性組成物」における「水、増粘剤、及び酸の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び酸0.1?10重量%を含有する」を満足するものとはなりえないところ、酸の割合を4分の1以下に減らすと、「発泡剤と酸成分が反応する」際に「酸成分」が大幅に不足して十分な「発泡」が得られなくなると認められるから、そのような変更を加えることには阻害要因があると認められる。
そうすると、甲2発明において、「第二の組成物」に関し、「水、増粘剤、及び酸の合計量」に対する「水」、「乳酸」、「ヒドロキシエチルエチルセルロース」の割合を変更し、「水、増粘剤、及び酸の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び酸0.1?10重量%」を満足するように変更することを、当業者が容易に想到しえたとは認められない。

相違点4について
甲第2号証には水の含有量について「化粧品マスク製品は、発泡剤と酸成分の反応と消費者の皮膚の非刺激性を確実にするために十分な水を必要とします。」(摘示(2-14))と記載されている。「十分な水」に該当する「水の含有量」の値について具体的な記載はないが、甲2発明の「マスク製品」は、その水の含有量が53重量%であるが、この値は、実施例で採用されている値である((2)甲第2号証に記載された発明、を参照。)から、「53重量%」は、「十分な水」に該当すると認められる。
そうすると、甲2発明において、当業者が「十分な水」に該当する「53重量%」をあえて変更(増加)して「85?97重量%」とすべき理由(動機付け)は、何もない。
さらに、甲2発明の水の含有量(53重量%)を、本件特許発明1の「水の含有量が85?97重量%」を満足するものとするためには、32重量%以上増加させることが必要であり、したがって、水以外の成分については、合計で32重量%以上減少させることを要するが、この点についてなにも検討されていないし、検討するまでも無く可能であるとも認められない。
そうすると、甲2発明の「マスク製品」において、「水の含有量」を「85?97重量%」に変更することを当業者が容易に想到しえたとは認められない。
相違点5について
異議申立人は、甲第3、5号証によれば皮膚以外の場所で2剤を混合して美容マスクなどの発泡性化粧料を製造することは周知であるから、甲2発明においてそのような周知技術を参照して皮膚以外の場所で2剤を混合するように設計変更することは当業者にとって容易であると主張している(申立書第25頁末行-26頁4行)。
しかしながら、当業者は、何の理由も無く設計変更することはありえないところ、異議申立人は、設計変更の理由について何も説明していないし、理由があることが自明であるとも認められない。
また、甲第2号証には、「消費者の顔の皮膚上で混合」しない場合について記載も示唆も無い。
そうすると、「消費者の顔の皮膚上で混合」しないものが周知であるとしても、当業者が、甲2発明において「消費者の顔の皮膚上で混合する」ことに代えて「皮膚上で混合する場合を除く」ものとすることを容易に着想することができたとは認められない。

以上のとおりであるので、本件特許発明1は、甲第1?6、8?12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。
本件特許発明2?9について

本件特許発明2?9は、本件特許発明1をさらに限定したものであるところ、上記のとおり、本件特許発明1が甲第1?6、8?12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとは認められないのであるから、本件特許発明2?9も、甲第1?6、8?12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。


3.申立理由3について

申立理由3は、「本件特許発明1?8は、当該発明に係る優先日前の他の特許出願であって当該優先日後に出願公開された特許出願である、甲第7号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。」というものであるが、甲第7号証に係る出願(Appl. No.:09/189827、Filed:Nov. 10, 1998)は、米国特許商標庁への出願であるから、特許法第29条の2にいう「他の特許出願」に該当しない。
したがって、申立理由3は、さらに検討するまでもなく、理由がない。

なお、異議申立人は、一貫して「本件特許発明」と「甲第7号証に記載の発明」を対比するとともに、「以上により、甲第7号証に記載の発明は、本件特許発明と同一である。よって本件特許発明は、甲第7号証に基づく特許法第29条の2の規定により取消されるべきでものである。」(申立書32頁17-19行)と主張していることから、申立理由3に関し上記と異なる解釈をする余地はないが、甲第7号証に係る出願のいわゆるパテントファミリーである甲第7号証の2に係る出願(特願2000-580587号)は、甲第7号証に係る出願に基づく優先権主張を伴うものであり、その優先日(1998年11月10日)は、本件特許発明1?8に係る優先日(1999年5月6日)よりも前であり、また、甲第7号証の2に係る出願は、2002年9月10日に公表されている。
そこで、当審は、甲第7号証の2に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明について検討したが、以下に示すとおり、本件特許発明1?8のいずれとも同一ではない。


(1)甲第7号証の2に記載された事項
甲第7号証の2には、以下の事項が記載されている。なお、摘示(7-1)を除き、括弧内に、その記載箇所について、甲第7号証における記載箇所、甲第7号証の2における記載箇所の順に、示す。また、下線は、当審による。

(7-1)
「【請求項1】 皮膚又は毛髪への適用に適する化粧料用又は医薬用の自己発泡性システムであって、別々の水性成分として炭酸水素アルカリ金属塩成分と酸成分を含み、前記酸成分が炭素原子数8以下の有機酸及び無機酸からなる群から選ばれるものであり、前記成分の各々が化粧料として及び/又は医薬として許容可能なキャリヤーに含まれており、前記成分は混合された場合に互いに反応して二酸化炭素を放出する化粧料用又は医薬用の自己発泡性システム。

【請求項13】 有効量の請求項1記載の化粧料用又は医薬用の自己発泡性システムを適用することを含む皮膚を清浄にする方法。

【請求項15】 化粧料用又は医薬用の自己発泡性システムを小出しするための一体形パッケージであって、少なくとも2つの別々の連通していないチャンバと少なくとも2つの反応性成分を含み、前記反応性成分の少なくとも1つが酸であり、前記酸が炭素原子数8以下の有機酸と無機酸からなる群から選ばれるものであり、前記反応性成分の少なくとも1つが炭酸水素アルカリ金属塩であり、前記チャンバの各々が異なる反応性成分を含むとともに前記成分を小出しするための開口部を有し、前記成分が混合された場合に互いに反応して二酸化炭素を生成することができるものであるが前記別々のチャンバ内に含まれているときには不活性のまま存在する一体形パッケージ。
【請求項16】 前記チャンバの各々の前記開口部が前記反応性成分の実質的に同時の小出し及び混合を可能にするものである請求項15記載のパッケージ。」(甲第7号証の2の特許請求の範囲の請求項1、13、15、16)
(7-2)
「本発明は自己発泡性システム(self-foaming system )に関する。特に、本発明は、少なくとも2つの成分を有する自己発泡性システムに関する。前記少なくとも2つの成分は小出しされた場合に気泡を発生するものであって、皮膚に対してクレンジング効果、冷却効果及び爽快感を与えるものである。」(1欄5-9行、段落【0001】)
(7-3)
「 本発明は、皮膚又は毛髪への適用に適する化粧料用又は医薬用の自己発泡性システムに関する。このシステムは、別々の水性成分として炭酸水素アルカリ金属塩成分と酸成分の少なくとも2つの成分を含む。前記酸成分は、炭素原子数8以下の有機酸又は無機酸である。酸の例としては、限定するわけではないが、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸及びリン酸塩並びにピロリン酸塩、例えばリン酸一ナトリウム塩及びピロリン酸二ナトリウム塩、サリチル酸、乳酸、並びにそれらの酸の他の塩が上げられる。炭酸水素塩成分は炭酸水素ナトリウムであっても炭酸水素カリウムであってもよい。2つの成分は、化粧料として及び/又は医薬として許容可能なキャリヤーとそれぞれ組み合わされる。このシステムを使用する際に、前記成分を小出しし、処理すべき表面、例えば皮膚又は毛髪に適用する。酸成分と炭酸水素塩成分が互いに混合すると、二酸化炭素を放出する。」(1欄64行-2欄16行、段落【0006】)
(7-4)
「本発明の別の側面は、使用者がそのシステムを皮膚又は毛髪に適用する場合に、特定の時間でシステムの発泡性が生じることである。
発泡作用は、皮膚又は毛髪に前記システムを適用する時点及び皮膚又は毛髪への使用中に主に望まれる。前記システムの成分をそれらの各容器又はチャンバから小出しした後、接触直後に発泡性が望まれる皮膚又は毛髪に適用される。対照的に、システムの成分を皮膚に適用する前に、発泡は必要でない。同様に、前記システムを皮膚又は毛髪に対して使用した後、発泡はもはや必要でない。なぜなら、前記システムの使用は終了し、前記システムの成分はすすぎ又は他の同様な操作により皮膚又は毛髪から除去されるからである。従って、発泡性を生じさせる際のタイミングは前記システムの重要な特徴である。」(2欄49-65行、段落【0009】-【0010】)
(7-5)
「チャンバの開口部は、反応性成分の実質的に同時の小出し及び混合が可能であるように(すなわち、成分がそれらの個々のチャンバから排出された途端にそれらの成分が合流するように)作られている。」(4欄61-65行、段落【0019】)
(7-6)
「炭酸水素ナトリウム成分とクエン酸成分を互いに接触させ反応させる場合に得られる発泡の程度(すなわち、寿命及び強度)は、それらの成分間の比率及びシステムに存在する2つの成分の相対量を変えることにより調整できる。」(5欄24-31行、段落【0022】)
(7-7)
「大気圧下で発生した二酸化炭素ガスのいくらかは溶液中に残留し、それが適用された皮膚又は毛髪に留まる。」(5欄50-52行、段落【0024】)
(7-8)
「本発明を以下の非限定的な実施例によりさらに説明する:
実施例
1.下記表は本発明の配合物を例示する:
【表1】


」(8欄1-25行、段落【0033】-【0034】)

(2)甲第7号証の2に記載された発明
甲第7号証の2(摘示(7-1))の請求項15を引用する請求項16に記載の「一体形パッケージ」について、実施例の記載(摘示(7-8))を勘案すると、甲第7号証の2には下記の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。

「化粧料用又は医薬用の自己発泡性システムを小出しするための一体形パッケージであって、
少なくとも2つの別々の連通していないチャンバと少なくとも2つの反応性成分を含み、
前記反応性成分の少なくとも1つが酸であり、前記酸が炭素原子数8以下の有機酸と無機酸からなる群から選ばれるものであり、
前記反応性成分の少なくとも1つが炭酸水素アルカリ金属塩であり、
前記チャンバの各々が異なる反応性成分を含むとともに前記成分を小出しするための開口部を有し、
前記チャンバの各々の前記開口部が前記反応性成分の実質的に同時の小出し及び混合を可能にするものであり、
前記成分が混合された場合に互いに反応して二酸化炭素を生成することができるものであるが前記別々のチャンバ内に含まれているときには不活性のまま存在し、
前記酸が含まれるチャンバには下表に記載の成分1が含まれ、
前記炭酸水素アルカリ金属塩が含まれるチャンバには下表に記載の成分2が含まれる
一体形パッケージ。

成分1 成分2
脱イオン水 90 90
Polaxamer 184 0.4 0.4
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1 0.1
炭酸水素ナトリウム 4.7
ピロリン酸二ナトリウム塩 4.7


(3)対比
本件特許発明1と甲7発明とを対比する。
甲7発明の「成分1」と本件特許発明1の「塩基性組成物」を対比する。
甲7発明の「成分1」は、「脱イオン水」、「炭酸水素ナトリウム」、「Polaxamer 184」、「ヒアルロン酸ナトリウム」及びその他の成分からなるものである。
「成分1」の「脱イオン水」、「炭酸水素ナトリウム」、「Polaxamer 184」、「ヒアルロン酸ナトリウム」は、それぞれ、本件特許発明1の「塩基性組成物」に含有されている「水」、「炭酸塩」、「増粘剤」、「増粘剤」に相当する。
「成分1」の「脱イオン水」、「炭酸水素ナトリウム」、「Polaxamer 184」、「ヒアルロン酸ナトリウム」の合計量に対する「脱イオン水」、「炭酸水素ナトリウム」の割合を計算すると、それぞれ、95重量%、4.9重量%であり、「Polaxamer 184」と「ヒアルロン酸ナトリウム」を合わせたものの割合を計算すると0.5%となる。
そうすると、甲7発明の「成分1」は、本件特許発明1の「水、増粘剤、及び炭酸塩の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び炭酸塩0.1?10重量%を含有する塩基性組成物」を満足する。

甲7発明の「成分2」と本件特許発明1の「酸性組成物」を対比する。
甲7発明の「成分2」は、「脱イオン水」、「ピロリン酸二ナトリウム塩」、「Polaxamer 184」、「ヒアルロン酸ナトリウム」及びその他の成分からなるものである。
「成分2」の「脱イオン水」、「ピロリン酸二ナトリウム塩」、「Polaxamer 184」、「ヒアルロン酸ナトリウム」は、それぞれ、本件特許発明1の「酸性組成物」に含有されている「水」、「酸」、「増粘剤」、「増粘剤」に相当する。
「成分2」の「脱イオン水」、「ピロリン酸二ナトリウム塩」、「Polaxamer 184」、「ヒアルロン酸ナトリウム」の合計量に対する「脱イオン水」、「ピロリン酸二ナトリウム塩」の割合を計算すると、それぞれ、95重量%、4.9重量%であり、「Polaxamer 184」と「ヒアルロン酸ナトリウム」を合わせたものの割合を計算すると0.5%となる。
そうすると、甲7発明の「成分2」は、本件特許発明1の「水、増粘剤、及び酸の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び酸0.1?10重量%を含有する酸性組成物」を満足する。

「成分1」および「成分2」は、ともに「脱イオン水」を90%含有することから、「成分1」および「成分2」を混合して得られる組成物の脱イオン水の含有割合は、90%である。
したがって、甲7発明は、本件特許発明1の「組成物の水の含有量が85?97重量%であり」を満足する。

本件特許発明1の「製造キット」は、「塩基性組成物」と「酸性組成物」とからなり、これらを「混合」して「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得」るものである。
これに対し、甲7発明は、「一体形パッケージ」であって、「成分1」と「成分2」を含み、「前記成分は混合された場合に互いに反応して二酸化炭素を放出」して発泡するものである。
また、「成分1」と「成分2」が「混合」されることによって形成された組成物中で「酸」と「炭酸水素アルカリ金属塩」が互いに反応して生成した「二酸化炭素」の気泡により「発泡」が起こると認められる。
そうすると、甲7発明は、本件特許発明1の「気泡状の二酸化炭素を保持して」を満足する。

甲7発明の「一体形パッケージ」は、「成分1」および「成分2」を含み、「前記成分は混合された場合に互いに反応して二酸化炭素を放出」するものであり、「成分1」および「成分2」を混合すると、混合物が得られることは自明である。
そうすると、甲7発明の「成分1」及び「成分2」は、それぞれ、本件特許発明1の「塩基性組成物」及び「酸性組成物」に対応し、「成分1」と「成分2」の混合で得られた混合物が、本件特許発明1の「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」に対応する。
また、甲7発明の「一体形パッケージ」は、本件特許発明1の「製造キット」に相当する。


そうすると、本件特許発明1と甲7発明の一致点、相違点は、下記のとおりである。

<一致点>
「気泡状の二酸化炭素を保持する組成物を得るための製造キットであって、
水、増粘剤、及び炭酸塩の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び炭酸塩0.1?10重量%を含有する塩基性組成物と、
水、増粘剤、及び酸の合計量に対し、水60?99.8重量%、増粘剤0.1?30重量%、及び酸0.1?10重量%を含有する酸性組成物とからなり、
前記組成物の水の含有量が85?97重量%である、
前記製造キット。」

<相違点1>
甲7発明の「成分1」と「成分2」の混合で得られた混合物が、本件特許発明1の「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」に対応するところ、本件特許発明1の「組成物」は、「持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」との限定を有するのに対し、甲7発明の「成分1」と「成分2」の混合で得られた混合物は、「化粧料用又は医薬用の自己発泡性システムを小出しするための一体形パッケージ」に係るものであることから、「化粧料用又は医薬用」である点。

<相違点2>
甲7発明の「成分1」及び「成分2」は、それぞれ、本件特許発明1の「塩基性組成物」及び「酸性組成物」に対応するところ、本件特許発明1は、「前記塩基性組成物及び酸性組成物の流動性が、それぞれ、表面が滑らかな長さ40cmのガラス板の端に、その1gを直径1cmの円盤状に塗り、その円盤が上に来るように水平面に対して60度の角度で立てたとき、5秒後の円盤の移動距離が30cm以内であり」との限定を有するのに対し、甲7発明は、そのような限定を有していない点。

<相違点3>
本件特許発明1は、「組成物」について、「用時に前記塩基性組成物と前記酸性組成物とを混合する(但し、皮膚上で混合する場合を除く)」との限定を有するのに対し、甲7発明は、そのような限定を有していない点。

(4)判断

相違点1について

「持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」という用途と、「化粧料用又は医薬用」という用途は、明らかに異なる用途である。

なお、異議申立人は、甲7発明において、皮膚にたまった二酸化炭素ガスの持続的な経皮吸収が行われることは明らかであり、甲7発明の「自己発泡システム」は、「気泡状の二酸化炭素を保持して持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる組成物を得るための製造キット」に該当するから、「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」製造キットといえる、と主張している(申立書31頁12-19行)ので、以下に、両者が(表現は異なるものの)実質的に同一の用途であるともいえるか、検討する。
甲第7号証の2には、「気泡状の二酸化炭素」を「皮膚」から吸収させることについて記載も示唆も無いし、「皮膚」から吸収させるために「二酸化炭素を生成」していることが自明であるとも認められない。
また、仮に、甲7発明において気泡状の二酸化炭素が皮膚から吸収される現象が起きているとしても、「二酸化炭素経皮吸収用」の組成物であるといえるためには、単にその組成物を皮膚に適用した際に二酸化炭素が吸収されるというだけでは不十分であり、該二酸化炭素の吸収が意図的に(例えば、所定の吸収量となるように設計されているなど)行われていることを要すると認められる。
そこで、甲7発明において該二酸化炭素の吸収が意図的に行われているをいえるか否かについて検討すると、甲第7号証の2には甲7発明において二酸化炭素の吸収を意図的に行う旨の記載がないどころか、二酸化炭素が皮膚や粘膜を介して吸収されることに関してすら何も記載がない。

加えて、甲7発明は、「自己発泡性システム」に係るものであるから、二酸化炭素が皮膚から吸収されて「発泡」が阻害されることは好ましくない現象である上に、甲第7号証の2には、甲7発明の「自己発泡性システム」について「前記少なくとも2つの成分は小出しされた場合に気泡を発生するものであって、皮膚に対してクレンジング効果、冷却効果及び爽快感を与えるものである。」(摘示(7-2))と記載されている。
そうすると、甲7発明の「前記成分が混合された場合に互いに反応して二酸化炭素を生成する」という構成は、「皮膚に対してクレンジング効果、冷却効果及び爽快感を与える」ための構成であると認められる。また、甲第7号証には「二酸化炭素」がこれらの効果を奏する作用機序などについてさらなる説明が記載されていないので当審において推定すると、二酸化炭素が皮膚上の汚れ等を物理的に除去すること(クレンジング)、皮膚上の二酸化炭素が体温を奪うこと(冷却)、皮膚上の二酸化炭素が皮膚に刺激を与えること(爽快感)によるものであると推定されるので、「二酸化炭素」が皮膚から吸収されて皮膚上に存在しなくなってしまうとこれらの効果を奏することができないと推定される。
結局、甲7発明が二酸化炭素の吸収が意図的に起こるような構成を実質的に備えていると認めることはできず、甲7発明は、「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」を満足するとはいえないから、相違点1は、実質的な相違点である。

相違点2について

甲第7号証の2には甲7発明の「成分1」、及び、「成分2」の流動性パラメータの値について記載がないし、流動性パラメータの値が30cm以内であることが自明であるとも認められない。
なお、異議申立人は、甲7発明の「成分1」、及び、「成分2」は、本件特許発明1のキットと同様の組成を有するから、本件特許発明1のキットと同様の流動性を有することは明らかである旨主張している(申立書32頁9-11行、19頁9-18行)
しかしながら、「成分1」、及び、「成分2」の組成の本件特許発明1との類似性について、どのようにして類似度を判断したのかや、類似性の程度に応じて流動性パラメータの値がどのように算出できるのかに関して何も説明がないし、流動性パラメータの値が30cm以内であるとの推定が正しいといえる根拠も見いだせない。
したがって、相違点2も、実質的な相違点である。

相違点3について

異議申立人は、「甲第7号証における請求項3のパッケージである要件E’’’は、本件特許発明の要件Eを満たし」と主張する(申立書31頁末行-32頁1行、19頁4-18行)。
しかしながら、甲7発明の「前記チャンバの各々の前記開口部が前記反応性成分の実質的に同時の小出し及び混合を可能にするものであり」(要件E’’’に相当する。)は、その記載(表現)から判断して、本件特許発明1の「用時に前記塩基性組成物と前記酸性組成物とを混合する(但し、皮膚上で混合する場合を除く)」と同義ではない。
また、甲第7号証の2には「このシステムを使用する際に、前記成分を小出しし、処理すべき表面、例えば皮膚又は毛髪に適用する。酸成分と炭酸水素塩成分が互いに混合すると、二酸化炭素を放出する。」(摘示(7-3))、「発泡作用は、皮膚又は毛髪に前記システムを適用する時点及び皮膚又は毛髪への使用中に主に望まれる。前記システムの成分をそれらの各容器又はチャンバから小出しした後、接触直後に発泡性が望まれる皮膚又は毛髪に適用される。対照的に、システムの成分を皮膚に適用する前に、発泡は必要でない。」(摘示(7-4))と記載されている。
そうすると、甲7発明についての「用時」とは、「皮膚又は毛髪に適用する」時であるが、甲7発明は、「皮膚又は毛髪に前記システムを適用する時点及び皮膚又は毛髪への使用中」に「発泡作用」を必要とするとともに、「適用する前に、発泡は必要でない」ものであり、「酸成分と炭酸水素塩成分が互いに混合すると、二酸化炭素を放出する」ことを勘案すると、甲7発明は、皮膚又は毛髪に適用した時点で(皮膚又は毛髪上で)酸成分と炭酸水素塩成分を混合して発泡を開始させるものである一方、皮膚又は毛髪に適用する前に(皮膚又は毛髪以外の場所で)酸成分と炭酸水素塩成分を混合して発泡を開始することは想定していない発明であると認められる。
したがって、相違点3も実質的な相違点である。

そうすると、本件特許発明1は、当該発明に係る優先日前の他の特許出願であって当該優先日後に出願公開された特許出願である、甲第7号証の2に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるとは認められない。
本件特許発明2?8について

本件特許発明2?8は、本件特許発明1をさらに限定したものであるところ、上記のとおり、本件特許発明1が、当該発明に係る優先日前の他の特許出願であって当該優先日後に出願公開された特許出願である、甲第7号証の2に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるとは認められないのであるから、本件特許発明2?8も、当該発明に係る優先日前の他の特許出願であって当該優先日後に出願公開された特許出願である、甲第7号証の2に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるとは認められない。


4.申立理由4のうち、サポート要件について

特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

上記検討を行う際には、その前提として、「当該発明の課題」を認定することを要するが、申立人は、そもそも、本件特許発明1?9が解決しようとする課題を認定していないし、実質的な検討をすることができる程度に十分な主張(説明)もしていない。
例えば、申立人は、当業者は、本件明細書の記載に基づき本件特許発明のキットが実際に治療効果や美容効果を奏することができると理解できないから、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので、本件特許発明1?9は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨の主張をしているが、治療効果や美容効果を奏さないとなぜ、本件特許発明1?9は、その発明の課題を解決することができないものであるといえるのかに関し、何も説明をしていない。

また、当審において改めて検討しても、以下に述べるとおり、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合していないとすることはできない。

本件特許発明1について
本件特許発明1は、「気泡状の二酸化炭素を保持して持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るための製造キット」の発明であり、その解決しようとする課題について、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は、当審による。

「【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、水虫、虫さされ、アトピー性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾皮症、脂漏性湿疹、蕁麻疹、痒疹、主婦湿疹、尋常性ざ瘡、膿痂疹、毛包炎、癰、せつ、蜂窩織炎、膿皮症、乾癬、魚鱗癬、掌蹠角化症、苔癬、粃糠疹、創傷、熱傷、き裂、びらん、凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な組成物を提供することにある。
また本発明は、褥創、創傷、熱傷、口角炎、口内炎、皮膚潰瘍、き裂、びらん、凍瘡、壊疽などの皮膚粘膜損傷;移植皮膚片、皮弁などの生着不全;歯肉炎、歯槽膿漏、義歯性潰瘍、黒色化歯肉、口内炎などの歯科疾患;閉塞性血栓血管炎、閉塞性動脈硬化症、糖尿病性末梢循環障害、下肢静脈瘤などの末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感、しびれ感;慢性関節リウマチ、頸肩腕症候群、筋肉痛、関節痛、腰痛症などの筋骨格系疾患;神経痛、多発性神経炎、スモン病などの神経系疾患;乾癬、鶏眼、たこ、魚鱗癬、掌蹠角化症、苔癬、粃糠疹などの角化異常症;尋常性ざ瘡、膿痂疹、毛包炎、癰、せつ、蜂窩織炎、膿皮症、化膿性湿疹などの化膿性皮膚疾患;除毛後の再発毛抑制(むだ毛処理);そばかす、肌荒れ、肌のくすみ、肌の張りや肌の艶の衰え、髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物、該組成物製造用キットを提供することを目的とする。」(【発明が解決しようとする課題】)

本件特許発明1は、「水虫に有効な」などの限定を何も有さない「気泡状の二酸化炭素を保持して持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るための製造キット」の発明であることを勘案すると、その発明が解決しようとする課題は、「気泡状の二酸化炭素を保持して持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るための製造キット」を提供することであると認められる。

これに対し、発明の詳細な説明には、本件特許発明1の「製造キット」の具体例である実施例180?226がその発泡性、発泡の持続性の評価結果とともに記載され(【表15】)、段落【0127】には「実施例180?226」についてさらに、「実施例180?266、300?322と324の塩基性組成物及び実施例180?266、325、327の酸性組成物はすべて本試験において、組成物の移動距離が15cm以内であり、二酸化炭素発生補助剤と反応させて二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物としたときにそのまま皮膚粘膜に塗布して使うことができるものであった。」と記載されている。
また、二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を「33歳の女性の右頬」に適用した「皮膚の若返り試験」や、「29歳の女性の右頬」に適用した「顔の部分痩せ試験」が記載され、いずれも有効であったこと(段落【0128】の「試験例36」、「試験例37」)などが記載されていることから、本件特許発明1の「製造キット」を使用して得た「気泡状の二酸化炭素を保持している経皮・経粘膜吸収用組成物」は、皮膚あるいは粘膜に適用すると、二酸化炭素が経皮・経粘膜吸収され(て、皮膚の若返りや顔の部分痩せに有効なものであ)ると認められる。
以上を総合的に勘案すると、本件特許発明1の「製造キット」は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、「気泡状の二酸化炭素を保持して持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るための製造キット」を提供することという課題を解決することができるものであると認められる。

本件特許発明2?7について
本件特許発明2?7は、本件特許発明1においてさらに、塩基性組成物に保湿剤0.1?25重量%を含む点(請求項2)、塩基性組成物に界面活性剤0.01?10重量%を含む点(請求項3)、塩基性組成物に親油性物質0.01?10重量%を含む点(請求項4)、酸性組成物に保湿剤0.1?25重量%を含む点(請求項5)、酸性組成物に界面活性剤0.01?10重量%を含む点(請求項6)、酸性組成物に親油性物質0.01?10重量%を含む点(請求項7)で限定したものであるが、本件特許発明1と同様の検討により、本件特許発明2?7はいずれも、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

本件特許発明8について
本件特許発明8は、本件特許発明1においてさらに、化粧料として使用される二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るためのキットである点で限定したものであり、その解決しようとする課題は、「気泡状の二酸化炭素を保持して持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる化粧料として使用される二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るための製造キット」を提供することであると認められるが、本件特許発明1と同様の検討により、本件特許発明8も、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

本件特許発明9について
本件特許発明9は、本件特許発明1においてさらに、部分肥満改善用化粧料として使用される二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るためのキットである点で限定したものであり、その解決しようとする課題は、「気泡状の二酸化炭素を保持して持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる部分肥満改善用化粧料として使用される二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るための製造キット」を提供することであると認められるが、本件特許発明1と同様の検討により、本件特許発明9も、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
5.申立理由4のうち、実施可能要件について

本件特許発明1?9は、「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物を得るための製造キット」であって、物の発明に係るものであるから、本件特許発明1が実施可能であるといえるためには、本件特許発明1?9の「製造キット」を製造し使用できることを要するといえる。

これに対し、申立人は、「e.申立理由4(特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号違反)について」の項(申立書34頁25行-38頁5行)において、サポート要件違反の説明に続けて「また、この本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1?9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」(申立書35頁8-9行、36頁12-13行、38頁3-5行)と主張しており、実施可能要件違反の理由についてサポート要件違反の理由の説明以外には具体的に何も説明していない。
したがって、申立人の主張は、要するに、サポート要件違反であるから実施可能要件違反でもある、というものであると解されるが、検討するまでも無く採用できない。

なお、仮に、当業者は、本件明細書の記載に基づき本件特許発明のキットが実際に治療効果や美容効果を奏することができると理解できないから、実施可能要件違反である旨の主張をしていると解したとしても、治療効果や美容効果を奏さないとなぜ、本件特許発明1?9の「製造キット」を製造することができず、かつ、使用することができないといえるのかに関し、何も説明をしていない。

そして、当審において改めて検討しても、本件特許発明1?9に係る製造キットの製造方法や使用方法について、仮に発明の詳細な説明に詳細な説明がなかったとしても、当業者であれば技術常識に基づいて適宜製造し使用できると認められる。
したがって、本件特許発明1?9についての発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。


6.申立理由5について

「持続的に」は、一般的な用語であるところ、発明の詳細な説明には本件特許発明1の「持続的に」の定義に関する特段の記載は、ない。したがって、「持続的に」の意味は、一般的な意味であり、「保ち続けること。中絶しないで、長く続けること。」(広辞苑)を意味すると認められる。
なお、「持続的に」に関して、発明の詳細な説明には「本発明において、「二酸化炭素を持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる組成物」とは、好ましい具体例では、二酸化炭素を5分以上、好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上、特に好ましくは1.5時間以上、最も好ましくは2時間以上二酸化炭素を経皮・経粘膜吸収させることができる組成物を意味する。」(段落【0038】)との記載がある。
そうすると、「持続的に」とは、具体的には例えば「5分以上」途切れることなく、を意味すると認められるが、これは上記解釈と矛盾しない。
したがって、「持続的に」の意味するところは明確であると認められる。

また、発明の詳細な説明には本件特許発明1の「表面が滑らかな」の定義に関する記載がないが、流動性の測定にあたり、「移動距離」に影響を与えるような凹凸が表面にあることが測定の信頼性や再現性の観点から好ましくないことは、自明である。
そうすると、「表面が滑らかな」の意味するところは、流動性の測定にあたり、「移動距離」に影響を与えるような凹凸が表面にないことを意味していることが明らかであり、その意味するところは明確であると認められる。

また、流動性の測定温度についても発明の詳細な説明には記載が無いが、本件特許発明1の「製造キット」は、皮膚又は粘膜に適用するものであることを勘案すると、その使用時の温度は概ね室温?体温である。
そうすると、流動性の測定温度について記載が無くても、室温?体温であるあることが明らかであるから、その意味するところは十分に明確であると認められる。

以上のとおりであるから、特許請求の範囲の記載は、明確である。

第5.むすび
以上のとおりであるから,特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本願の請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
異議決定日 2016-02-02 
出願番号 特願2013-127833(P2013-127833)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 16- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 横山 敏志
蔵野 雅昭
登録日 2015-02-20 
登録番号 特許第5699184号(P5699184)
権利者 株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ
発明の名称 二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物  
代理人 水谷 馨也  
代理人 山田 威一郎  
代理人 松井 宏記  
代理人 立花 顕治  
代理人 田中 順也  

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