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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
管理番号 1311854
異議申立番号 異議2015-700261  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-03 
確定日 2016-02-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第5730194号「吸水性ポリマー粒子の製造方法」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5730194号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1 主な手続の経緯等
特許第5730194号(請求項の数は9。以下「本件特許」という。)は,国際出願日である平成21年7月3日(パリ条約に基づく優先権主張 平成20年7月11日)にされたとみなされる特許出願に係るものであって,平成27年4月17日にその特許権が設定登録されたものである。
特許異議申立人株式会社日本触媒(以下,単に「異議申立人」という。)は,平成27年12月3日,本件特許の請求項1?9に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。

2 本件発明
本件特許の請求項1?9に係る発明は,その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」などといい,これらを併せて「本件発明」という場合がある。なお,請求項2?9の記載は,これを省略する。)。
「a)少なくとも1のエチレン性不飽和の酸基を有するモノマーとしてのアクリル酸,
b)少なくとも1の架橋剤,
c)少なくとも1の開始剤,
d)場合により1もしくは複数の,a)に挙げたモノマーと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーおよび
e)場合により1もしくは複数の水溶性ポリマー
を含有するモノマー溶液を重合することによって吸水性ポリマー粒子を製造する方法であって,15?30℃の温度を有するモノマーa)を,少なくとも部分的に中和し,かつ中和熱を少なくとも部分的に,冷媒を用いた間接的な熱交換器によって除去する方法において,熱交換器の比冷却出力が,5W/cm^(2)未満であることを特徴とする,吸水性ポリマー粒子の製造方法。」

3 申立理由の概要
異議申立人の主張は,概略,次のとおりである。
(1) 本件発明1?9は,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない発明である(以下,後述する「取消理由1-1」?「取消理由1-9」をまとめて「取消理由1」という。)。すなわち,本件発明1?9は,甲1の1に記載された発明であり(以下「取消理由1-1」という。),甲5の1に記載された発明であり(以下「取消理由1-5」という。),甲7の1に記載された発明であり(以下「取消理由1-7」という。),甲8の1に記載された発明であり(以下「取消理由1-8」という。)及び甲9の1に記載された発明である(以下「取消理由1-9」という。)。
(2) 本件発明1?9は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である(以下,後述する「取消理由2-1」?「取消理由2-9」をまとめて「取消理由2」という。)。すなわち,本件発明1?9は,甲1の1に記載された発明を主たる引用発明としたとき,この主たる引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるし(以下「取消理由2-1」という。),甲5の1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるし(以下「取消理由2-5」という。),甲7の1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるし(以下「取消理由2-7」という。),甲8の1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるし(以下「取消理由2-8」という。),甲9の1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる(以下「取消理由2-9」という。)。
(3) 本件特許に係る特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に規定する要件に適合せず(以下「取消理由3」という。なお,当該要件を「サポート要件」という場合がある。),また,本件の明細書の発明の詳細な説明の記載は36条4項1号に規定する要件に適合しないから(以下「取消理由4」という。なお,当該要件を「実施可能要件」という場合がある。),本件発明は特許を受けることができない。
(4) そして,上記取消理由1?4にはいずれも理由があるから,本件の請求項1?9に係る発明についての特許は,113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。
(5) また,証拠方法として書証を申出,以下の文書(甲1の1?10)を提出する。
・甲1の1: 国際公開第2007/028751号
・甲1の2: 特表2009-507062号公報
・甲2: 「アクリル酸とそのポリマー[I]」,大森英三,株式会社昭晃堂,昭和51年6月30日2版の抜粋
・甲3: 「輸送現象」,水科篤郎ら,産業図書株式会社,平成13年2月15日初版第12刷の抜粋
・甲4: 特開2003-268011号公報
・甲5の1: 国際公開第2006/100300号
・甲5の2: 特表2008-534707号公報
・甲6: 特開平5-340687号公報
・甲7の1: 国際公開第2007/028749号
・甲7の2: 特表2009-507118号公報
・甲8の1: 国際公開第2007/028746号
・甲8の2: 特表2009-507061号公報
・甲9の1: 国際公開第2007/028747号
・甲9の2: 特表2009-509930号公報
・甲10: 知財高裁平成22年4月27日判決(平成21年(行ヶ)10296号)

4 当合議体の判断
当合議体は,以下述べるように,取消理由1?4にはいずれも理由はないと解する。
(1) 取消理由1について
ア 取消理由1-1について
まず,本件発明1に対する取消理由1-1の存否について検討する。
(ア) 甲1の1に記載された発明
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である甲1の1(決定注:甲1の1は外国語で記載された刊行物であるので,本決定の便宜上,その記載内容については,甲1の1に係る国際出願による特許出願の公表特許公報であって,その訳文として提出された甲1の2を援用する。)には,特にその特許請求の範囲,【0018】,【0019】,【0022】,【0039】,【0063】,【0065】などの記載からみて,次のとおりの発明(以下「甲1の1発明」という。)が記載されていると認める。
「a)少なくとも1種のエチレン性不飽和カルボン酸としてのアクリル酸と,
b)少なくとも1種の架橋剤と,
c)選択的に,モノマーa)と共重合可能な1種以上のエチレン性及び/又はアリル性不飽和のモノマーと,
d)選択的に,モノマーa)と,b)と,場合によりc)とが少なくとも部分的にグラフトしうる1種以上の水溶性ポリマーとを含有するモノマー混合物の重合によって得られる吸水性ポリマーの製造方法であって,
15?25℃の温度を有する上記アクリル酸を少なくとも部分的に塩基で中和し,
前記中和を連続的に実施し,
中和された溶液を冷媒を用いた熱交換器によってその温度が70℃未満となるように冷却する工程を含む,上記方法。」
(イ) 一致点及び相違点
本件発明1と甲1の1発明とを対比すると,本件発明1と甲1の1発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
「a)少なくとも1のエチレン性不飽和の酸基を有するモノマーとしてのアクリル酸,
b)少なくとも1の架橋剤,
d)場合により1もしくは複数の,a)に挙げたモノマーと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーおよび
e)場合により1もしくは複数の水溶性ポリマー
を含有するモノマー溶液を重合することによって吸水性ポリマー粒子を製造する方法であって,15?25℃の温度を有するモノマーa)を少なくとも部分的に中和し,かつ中和熱を少なくとも部分的に冷媒を用いた間接的な熱交換器によって除去する,吸水性ポリマー粒子の製造方法。」
・ 相違点1
吸水性ポリマー粒子の製造に用いられるモノマー溶液に含有されるモノマー成分について,本件発明1は「c)少なくとも1の開始剤」を含有すると特定するのに対し,甲1の1発明はそのような特定事項を有しない点。
・ 相違点2
中和熱を熱交換器によって除去する際の当該熱交換器について,本件発明1は「熱交換器の比冷却出力が,5W/cm^(2)未満」であると特定するのに対し,甲1の1発明はそのような特定事項を有しない点。
(ウ) 相違点についての検討
まず,上記相違点2について検討する。
甲1の1における中和熱を熱交換器によって除去することについて,「熱交換器の比冷却出力が,5W/cm^(2)未満」であることが記載されているか,又は記載されているに等しいとまでいえるかどうかについて検討すると,甲1にはそのような記載がされているとか記載されているに等しいということはできない。上記相違点2は,実質的な相違点といわざるを得ない。
異議申立人は,特許異議申立書において(例えば,15?17頁),甲1の1の実施例のものは「熱交換器の比冷却出力が,5W/cm^(2)未満」である旨縷々主張する。
そこで上記主張について検討するに,異議申立人の上記主張は,甲1の1の実施例のものにモノマーの晶出や堆積の問題が生じないことを前提とするものであり,その前提の根拠として,甲1の1にはモノマーの晶出や堆積が発生したとの記載がないことを挙げる。しかし,甲1の1に上述の問題が生じているとの記載がないことをもって,直ちに甲1の1の実施例のものに上述の問題が生じていないということにはならない。
異議申立人の上記主張は,その前提において失当であって採用できない。
(エ) 小括
以上のとおりであるから,上記相違点1について検討するまでもなく,本件発明1は甲1の1発明と同一であるとはいえず,よって,甲1の1に記載された発明ではない。
また,請求項2?9の記載は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであるところ,請求項1に係る本件発明1が甲1に記載された発明であるといえないのは上述のとおりであるから,請求項2?9に係る本件発明2?9についても同様に,甲1の1に記載された発明であるとはいえない。
よって,本件発明1?9は甲1の1に記載された発明であるから特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないとする取消理由1-1には,理由がない。
イ 取消理由1-5,取消理由1-7,取消理由1-8及び取消理由1-9について
上記アで検討したことと同旨である。すなわち,本件発明1と甲5の1に記載された発明,甲7の1に記載された発明,甲8の1に記載された発明あるいは甲9の1に記載された発明と対比すると,上記相違点2と同じ相違点を少なくとも認定できるところ,このような相違点は実質的なものである。
よって,取消理由1-5,取消理由1-7,取消理由1-8及び取消理由1-9には,いずれも理由がないと判断される。
ウ まとめ
以上のとおりであるから,異議申立人が主張する取消理由1には理由がない。

(2) 取消理由2について
ア 取消理由2-1について
(ア) 主たる引用発明,一致点及び相違点など
甲1の1発明,本件発明1と甲1の1発明との一致点及び相違点(相違点1及び2)は,それぞれ上記(1)アで認定のとおりである。
(イ) 相違点についての検討
事案に鑑み,まず相違点2について検討する。
本件発明1は,本願の明細書の記載(例えば【0012】,【0017】参照)によれば,本件発明1の解決しようとする課題は,吸水性ポリマー粒子の原料であるアクリル酸モノマーの中和時において,従来,当該モノマーを冷却することが行われてきたが,過度の冷却に起因して当該モノマーの晶出ないしは塩堆積が発生することにあり,これを抑制するため,15?30℃の温度を有するアクリル酸モノマーの中和時に発生する中和熱を熱交換器によって除去する際,その熱交換器について「熱交換器の比冷却出力が,5W/cm^(2)未満」とすることで上記課題を解決するものである。この点,異議申立人が異議申立書の17頁,41頁で整理するとおりである。
他方で,甲1の1の記載(例えば【0018】,【0039】参照)によれば,甲1の1発明は,アクリル酸を連続的に中和するに際し,連続的な中和による発熱によって不所望な早期の重合が起こり,生じたポリマーゲルによって液体輸送の導管が閉塞するといった課題があるところ,中和された溶液を冷媒を用いた熱交換器によってその温度が70℃未満となるように冷却することで,上述の課題を解決するものであるといえる。
しかし,甲1の1には,中和熱の過度の冷却に起因して生ずるアクリル酸モノマーの晶出ないしは塩堆積に着目し,熱交換器による冷却を過度に行わないこと,すなわち,熱交換器の比冷却出力について上限値(本件発明1では「5W/cm^(2)」)を設けることについての記載はない。また,そのような上限値の設定が本件の優先日前に公知であることについて,これを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,甲1の1発明の冷却の工程において,上記課題を解決するべく,中和熱を熱交換器によって除去する際の当該熱交換器について「熱交換器の比冷却出力が,5W/cm^(2)未満」とすることは,もはや当業者が容易になし得るとまではいえない。
(ウ) 小括
以上のとおりであるから,上記相違点1について検討するまでもなく,本件発明1は甲1の1発明から想到容易であるということはできない。また,本件発明2?9についても同様に,甲1の1発明から想到容易であるとはいえない。
よって,本件発明1?9は甲1の1に記載された発明から想到容易であって特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとする取消理由2-1には,理由がない。
イ 取消理由2-5,取消理由2-7,取消理由2-8及び取消理由2-9について
上記アで検討したことと同旨である。すなわち,取消理由2-5,取消理由2-7,取消理由2-8及び取消理由2-9には,いずれも理由がないと判断される。
ウ まとめ
以上のとおりであるから,異議申立人が主張する取消理由2には理由がない。

(3) 取消理由3について
異議申立人は,熱交換器へ流入するモノマー水溶液の温度が低いときには,熱交換器の比冷却出力が「5W/cm^(2)未満」であっても,モノマー水溶液の温度が低くなりすぎる結果,モノマーの晶出及び堆積が生じるすなわち本件発明の課題が解決できない場合が存在するから,本件発明はいわゆるサポート要件を満足しない旨主張する(異議申立書42頁,図のCの場合)。
しかし,本件発明は,熱交換器の比冷却出力について下限値を特定するものではない。そして,モノマー水溶液の温度が低いために,熱交換器の比冷却出力の上限値(5W/cm^(2) )で冷却するとモノマーの晶出及び堆積が生じてしまうような場合,比冷却出力を低く設定することで,上述のような問題を回避できることは,当業者であれば容易に理解できる。
よって,異議申立人の上記のような場合(図のCの場合)を前提とする取消理由3の主張には理由がない。

(4) 取消理由4について
異議申立人は,本件の明細書の発明の詳細な説明には,熱交換器を設計するのに必要な数値条件等の開示は存在しないから,本件はいわゆる実施可能要件を満足しない旨主張する(異議申立書43頁)。
そこで検討するに,物を生産する方法の発明における発明の実施とは,その方法の使用をする行為のほか,その方法により生産した物の使用等をすることをいうから(特許法2条3項3号),物を生産する方法の発明については,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者が例えばその物を製造することができるのであれば,実施可能要件を満たすということができる。
これを本件発明についてみると,明細書の発明の詳細な説明には,「熱交換器の比冷却出力が,5W/cm^(2)未満」とすることについての具体的な記載はないが,出願当時の技術常識(例えば,比冷却出力が5W/cm^(2)未満の熱交換器が技術常識であること。)に基づけば,当業者は請求項1の吸水性ポリマーを製造すること(より具体的には,中和熱の除去に用いる熱交換器について,「熱交換器の比冷却出力が,5W/cm^(2)未満」とすること)ができるといえる。
よって,本件の明細書の記載は,本件発明について,実施可能要件を満たすと判断される。異議申立人が主張する取消理由4には理由がない。

5 むすび
したがって,異議申立人の主張する申立ての理由及び証拠によっては,特許異議の申立てに係る特許を取り消すことはできない。また,他に当該特許が113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-02-18 
出願番号 特願2011-517107(P2011-517107)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08F)
P 1 651・ 536- Y (C08F)
P 1 651・ 113- Y (C08F)
P 1 651・ 121- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤本 保  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 小野寺 務
須藤 康洋
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5730194号(P5730194)
権利者 ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
発明の名称 吸水性ポリマー粒子の製造方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  
代理人 八田国際特許業務法人  

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