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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E06B
審判 全部申し立て 2項進歩性  E06B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E06B
管理番号 1311872
異議申立番号 異議2015-700341  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-22 
確定日 2016-03-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5740298号「建具」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5740298号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5740298号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成23年12月26日に特許出願され、平成27年5月1日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人尾田久敏(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明1ないし3
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」「本件発明3」という。分説は申立人の主張に基づく。)。

「【請求項1】
A.窓開口部と、窓開口部を開閉する障子と、
B.窓開口部の室外側の中間部に設けた桟とを備え、
C.障子は、室内側に開くように取付けてあり、
D.障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる
E.ことを特徴とする建具。
【請求項2】
F.窓開口部と、窓開口部を開閉する障子と、
G.窓開口部の室外側の中間部に設けた桟とを備え、
H.障子は、室内側に開くように取付けてあり、
I.桟は、左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面を有する
J.ことを特徴とする建具。
【請求項3】
K.窓開口部の室外側に網戸を備え、網戸に桟が取付けてあることを特徴とする請求項1又は2記載の建具。」

3 取消理由の概要
申立人が主張する取消理由の概要は以下のとおりである。

(1)取消理由1(新規性欠如・進歩性欠如)
請求項1に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである(甲第1号証)。
請求項2に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである(甲第1号証又は甲第7号証)。
請求項1ないし3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:意匠登録第1388590号公報(「刊行物1」という。以下、同様。)
甲第2号証:TOSTEM玄関ドア総合カタログ‘10-’11(「刊行物2」)
甲第3号証:特開2003-27849号公報(「刊行物3」)
甲第4号証:特開2010-65515号公報(「刊行物4」)
甲第5号証:実公昭58-2879号公報(「刊行物5」)
甲第6号証:実公昭59-19118号公報(「刊行物6」)
甲第7号証:特開平11-200722号公報(「刊行物7」)
甲第8号証:実願昭59-108212号(実開昭61-25488号)のマイクロフイルム(「刊行物8」)
甲第9号証:特開2000-27567号公報(「刊行物9」)
甲第10号証:登録実用新案第3084226号公報(「刊行物10」)

(2)取消理由2(明確性要件及びサポート要件)
本件発明1ないし3は、明確性要件及びサポート要件を満足しておらず、その特許は特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである。

4 刊行物の記載
(1)本件特許の出願日前に頒布された刊行物1には、以下の記載がある。

ア 「【意匠に係る物品の説明】本物品は、障子の開状態を示すC-C’拡大図に示すように、開閉自在な障子を備えた建物用戸である」

イ 「【意匠の説明】透光性部分を示す参考正面図及び透光性部分を示す参考背面図において、薄墨部は透光性を有する。左側面図は右側面図と、底面図は平面図と対称にあらわれるため省略する。」

ウ 図面として、
【正面図】



【背面図】



【障子の開状態を示すC-C′部拡大図】




エ 上記ウの図面から、開閉自在な障子を備えた建物用戸に関して、障子の開状態において、障子が、桟の室内側に開き、桟の隙間から障子が見えることが看て取れる。

(2)刊行物2に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物2の111ページには、
「CZ(4)-51型」として、以下の記載がある(一部のみ)。





上記の記載から、「玄関ドアにおいて、障子(採風部)を開いたときに障子(採風部)が桟の室内側となること」が看て取れる。

(3)刊行物3ないし刊行物10に記載された事項(申立人の主張に基づく。)

ア 刊行物3に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物3には、ガラス板3を組み込んだ扉パネルDの左右中間部に桟を設けることが記載されている(段落20及び図1?3)。

イ 刊行物4に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物4には、面格子の縦棒3に、左右の風を受け止めて室内に取り込むためのパネル板2を設けることが記載されている(段落6及び図1?3)。

ウ 刊行物5に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物5には、横枠2と縦枠3との接合面で挟持する目隠し本体4に、各種断面形状を有する目隠し翼片6を形成することにより、防犯、採光、目隠し及び通風の目的を同時に達成することが記載されている(第2欄第24?28行、第3欄第11?14行及び図1?6)。

エ 刊行物6に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物6には、格子の各角筒形縦桟5の左右両側面に、目隠し板2を側方に突出させ、各目隠し板が正面齟齬し平面間隔Hを存するよう列設することにより、外部から透視できなくし、雨水の吹込を防止するとともに程よい通気作用行わせることが記載されている(第2欄第21行?第3欄第2行及び図1?4)。

オ 刊行物7に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物7には、扉2に設けられた通風路6の屋外側に目隠しとしてのルーバー7、屋内側に通風路6を開閉できるダンパー8Aが取り付けられ、換気可能とすることが記載されている(段落14?15及び図1?5)。

段落【0014】及び【0015】は以下のとおり(下線を付した。)。
「【0014】通風路6は、縦に細長い矩形の開口部である。通風路6の屋外側には、屋外側からの覗き見や異物の投入を防ぐための目隠しとして、ルーバー7が取り付けられている。ルーバー7は、薄い羽根板71、72が格子状に組まれたもので、横方向の羽根板72を外側に傾斜させて遮蔽角を設け、屋外側からの視線を遮っている。
【0015】一方、通風路6の屋内側には、通風路6を閉鎖することのできるダンパー8Aが取り付けられている。ダンパー8Aは、通風路6の開口面全体を閉ざす大きさに形成された、それ自体には開口部分のない鉄板製の部材である。ダンパー8Aは、扉2の吊り元と反対側の縁部を扉2の屋内側表面に取り付けられ、屋内側の方向に片開き式に回動して開閉するようになされている。」

図1?5は以下のとおり。




カ 刊行物8に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物8には、上框20と下框21と左右の竪框22、22とを方形状に枠組みし、その枠組体に網23を張設し、左右の竪框22、22間に中桟24が横架連結していることが記載されている(第5頁第10?13行、図3)。

キ 刊行物9に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物9には、左・右縦枠(1a)と、上・下横枠(1b)と平行に、かつ適宜な通気穴(2)を保って、横桟(3)を複数本、一定間隔ごとに設け、戸枠本体(1)の左・右縦枠(1a)と上・下横枠(1b)に向けて防虫用の網(4)を装着した強化網戸からなるものであること、当該桟は、図1においては横桟(3)だけを有する戸枠を示したが、必要に応じて縦桟だけで設けてもよく、また、縦桟と横桟とを格子状に組み合わせて設けて形成した戸枠であってもよいこと、が記載されている(段落7、8及び図1)。

ク 刊行物10に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物10には、網戸中桟8が設けられた網戸が記載されている(図2、4)。

5 判断
(1)本件発明1(新規性進歩性)について
ア 対比・判断
本件発明1と、刊行物1に記載のものとを対比すると、刊行物1には、「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる」点が記載されていない。この点は、刊行物2又は3にも記載されていない。
本件発明1は、「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる」構成を有することによって、「開いた障子が桟の室内側に隠れるため、障子が室内側に吹き込む風の妨げにならないので、風の取り込み量を多くすることができる。」「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れることで、室外側から見て障子を開いていることが分からないため、防犯性が向上する。」という効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明ではないし、当業者が刊行物1ないし3に記載の発明に基いて容易になし得たものでもない。

イ 申立人の主張について
申立人は、
「障子の開状態を示すC-C’部拡大図によれば、障子は開状態で窓開口部に対して直角方向に延在し、他方で窓開口部の中央部には3つの桟が配置されているから、当該障子は開状態で当該3つの桟の室内側に隠れている・・・甲1には本件特許発明1の構成要件A?Eの全てが記載されており、本件特許発明1は甲1に記載された発明である。」
「本件特許発明1では、窓開口部と桟との間から斜めに開状態の障子を見た場合は、当該障子は隠れない。また、当該桟を室外正面から見た場合でも、本件図8及び図9によれば引手33が隠れない。したがって、本件特許発明1において「隠れる」という発明特定事項の技術的意味は、発明の詳細な説明等を参酌すると、障子の一部(斜めから見える障子の一部、引手等)を除く多くの部分が隠れることと解される。他方で、甲1発明では、3本の桟の間から障子の側面の一部が見える可能性はあるが、当該障子の多くの部分が隠れている。」
「構成要件Dにおける「隠れる」も甲1発明における「隠れる」も障子の多くの部分で隠れるという技術的な意味において異なるところはなく・・・」
「構成要件Dにおける「隠れる」という発明特定事項の意味が、仮に開状態の障子の室外側側端の厚み方向の全てに亘って隠れるという意味であると解釈し・・・相違すると認定したとしても、そのような相違点は当業者が適宜採用しうる程度の設計的事項にすぎない。」
「斜めから見れば障子が見え、正面から見みても室内が見えたり、障子の引手が見えたりするのであるから、「防犯性が向上する」という作用効果は極めて限られたものにすぎず、甲1発明に対して有利な効果とは言えない。」などと主張する。
しかしながら、刊行物1に記載のものにおいて、「3本の桟の間から障子が見える」のであるから、「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる」構成を開示するものではない。また、刊行物2については、「障子を開いたときに障子が桟の室内側となること」は看取できるものの、「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる」構成を開示するものではない。
申立人は、「相違点は当業者が適宜採用しうる程度の設計的事項にすぎない」とも主張するが、そもそも、刊行物1及び2には「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる」ことは記載も示唆もなく、そのような技術的思想は開示されておらず、かつ、「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる」構成が周知技術又は技術常識であるとも認められないから、「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる」構成を採用する動機づけは存在しない。
以上のとおり、「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる」ことは、当業者が適宜採用しうる設計的事項であるとはいえないから、申立人の上記主張は根拠がない。

(2)本件発明2(新規性進歩性)について
ア 対比・判断
本件発明2と、刊行物1に記載のものとを対比すると、刊行物1に記載のものにおいて、桟は、矩形の断面形状を有するのみであって、「左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面」を有するものではない。
また、本件発明2と、刊行物7に記載のものとを対比すると、刊行物7に記載のものにおいて、「ルーバー7は、薄い羽根板71、72が格子状に組まれたもので、横方向の羽根板72を外側に傾斜させて遮蔽角を設け、屋外側からの視線を遮っている」(前記4(3)オ参照。)との記載のとおり、「ルーバー7」の「羽根板72」が有する「遮蔽角」は、「屋外側からの視線を遮」るものであって、「左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面」とは異なる。
したがって、刊行物1又は7のいずれにも、「窓開口部と、窓開口部を開閉する障子と、窓開口部の室外側に設けた桟とを備えた建具」において、「桟は、左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面を有する」構成を有していない。
また、上記の構成(「窓開口部と、窓開口部を開閉する障子と、窓開口部の室外側に設けた桟とを備えた建具」において、「桟は、左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面を有する」構成)は、刊行物4ないし6のいずれにも記載されていない。
そして、請求項2に係る発明は、「桟は、左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面を有する」構成を有することによって、「正面からの風だけでなく左右または上下からの風も室内に取り込めるため、風の取り込み量を多くすることができる。」との効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、刊行物1又7に記載された発明ではないし、当業者が刊行物1、7に記載の発明及び刊行物4?6に記載の技術に基いて容易になし得たものでもない。

イ 申立人の主張について
申立人は、
「甲1には、・・・桟は、左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面を有する(構成要件I)。・・・本件特許発明2は甲1に記載された発明である。」
「左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面」が、窓開口部の室外側の面より室外側に突出していると解釈し、・・・たとしても、そのような技術的事項は従来周知の技術にすぎない。・・・これら(甲4?甲6)の周知技術を甲1発明の中間部の桟に適用することは、当業者であれば適宜採用しうる程度の設計的事項にすぎない。」
「甲7発明は、窓開口部の室外側の中間部にルーバー7を有し(本件特許発明2の構成要件Gに相当)、上記エ.「1.新規性1」で述べたと同様に、甲7発明におけるルーバー7の羽根板71、72は、左右からの風を受けて室内側に誘導する機能を有する(構成要件Iに相当)。・・・本件特許発明2における「左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面」が、窓開口部の室外側の面より室外側に位置していると解釈し、又はそのように訂正されたとしても、そのような技術的事項は上述したように従来周知の技術にすぎない(甲4?甲6)。」などと主張する。
しかしながら、上記アで検討したとおり、刊行物1又は7に記載のものは、「桟は、左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面を有する」構成を備えていないから、申立人の主張は前提において誤りである。
また、申立人が主張するように、風誘導面の構造が従来周知であったとしても、刊行物4ないし6は、「窓開口部と、窓開口部を開閉する障子と、窓開口部の室外側に設けた桟とを備えた建具」に関するものではないから、刊行物1又は7に記載のものに「風誘導面の構造」を採用する動機付けが不明である。

(3)本件発明3(進歩性)について
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2を更に減縮したものであるから、本件発明1又は本件発明2についての判断と同様の理由により、当業者が刊行物1?3に記載の発明又は刊行物1、7、4?6に記載の発明に基いて容易になし得たものではない。なお、刊行物8ないし10は、構成要件Kが従来周知であるとして、申立人が提示した文献である。
したがって、本件発明3は、当業者が刊行物1ないし10に記載の発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(4)記載要件(明確性要件・サポート要件)について
ア 申立人の主張
申立人は、請求項1に関して、
「本件特許発明1における「隠れる」とはいかなる技術的事項を指すのか、すなわち、どの方向からみてどのように隠れるのか、その態様及び範囲が不明確である。」
「本件特許発明1は、「障子が桟の室内側に隠れる」とのみ特定しており、発明の詳細な説明に開示された上記事項以外の態様(室外側から斜め視した場合、90°以外の障子開放の場合、正面視でも引手が突出している場合等、障子が隠れない場合)を含みうる記載となっており、発明の詳細な説明に開示された内容から拡張又は一般化できない範囲まで、開示範囲を超えて請求している。」と主張し、
また、請求項2に関して、
「本件特許発明2における「左右または上下から」「風誘導面」とはどのような技術的事項を指すのかその範囲が不明確である。」
「本件特許発明2は、「桟は、左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面を有する」とのみ特定しており、発明の詳細な説明に開示された上記構造以外の態様(室外側に突出していない場合、風誘導面が窓開口部と直交する面を有する場合等)を含みうる記載となっており、発明の詳細な説明に開示された内容から拡張又は一般化できない範囲まで、開示範囲を超えて請求している。」などと主張する。

イ 判断(本件発明1)
(ア)明確性要件について
申立人は、「隠れる」とはいかなる技術的事項を指すのか不明確であると主張するので、「隠れる」について検討する。
「隠れる」という用語は、技術用語ではないから、一般的な用語の意味として「ものの陰になって見えないようになる。」(広辞苑第6版)と解釈することが妥当である。
そうすると、請求項1における「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる」とは、「障子を開いたときに」「障子が桟の室内側で、桟の陰になって見えないようになる」ということを意味し、この「見えないようになる」状態は、図1、図8及び図9にも記載されているから、「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる」構成に何ら不明確な点はない。
申立人は、図8及び図9において、引手33が隠れていない旨主張するが、障子を開いたときに、室外側から見て障子2の一部である引手33が見えたとしても、障子2の本体部分が桟の室内側に隠れている以上、障子が開いているとは必ずしも認識されないから、申立人の該主張は失当というべきである。
以上のとおりであるから、本件発明1は、明確でないとはいえない。

(イ)サポート要件について
本件発明1は、本件明細書に記載のとおり、「風の取り込み量を多くすることができ、防犯性や意匠性も良好な建具の提供」(段落【0004】)を課題として、「開口部に障子を室内側に開くように設けたので、障子を開くことで窓開口部を全開でき、尚且つ開いた障子が桟の室内側に隠れるため、障子が室内側に吹き込む風の妨げにならないので、風の取り込み量を多くすることができる。また、障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れることで、室外側から見て障子を開いていることが分からないため、防犯性が向上する。障子を室内側に開くように設けることで、ドアに組み込んで採風ドアとする場合には、ドアの室外側面からの出っ張りを小さくでき、意匠性が向上する。」(段落【0008】)との効果を奏するものである。
また、本件明細書に、「障子2は、たてすべり出し又は横すべり出し式に開くものに限らず、蝶番等により室内側に回動して開くものであってもよい。また、障子2を上下又は左右に複数並べて設置し、開いた障子2がそれぞれ隠れるように桟3,55を複数設けたものであってもよい。そして、ルーバー窓のように障子を上下又は左右に多数並べて設置し、各障子がそれぞれ隠れるように桟を複数設けたものであってもよい。桟3,55の断面形状は任意であり、・・・」(段落【0022】)と記載されているとおり、「障子」や「桟」の形状等は任意であって、本件明細書に記載された実施形態に限定されるものではない。
請求項1に特定されているとおり、「障子は、室内側に開くように取付けてあり、障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れる」ものであれば、「風の取り込み量を多くすることができ、防犯性や意匠性も良好な建具の提供」という課題を解決し、「開口部に障子を室内側に開くように設けたので、障子を開くことで窓開口部を全開でき、尚且つ開いた障子が桟の室内側に隠れるため、障子が室内側に吹き込む風の妨げにならないので、風の取り込み量を多くすることができる。」「障子を開いたときに障子が桟の室内側に隠れることで、室外側から見て障子を開いていることが分からないため、防犯性が向上する。」などの効果を奏することは明らかである。
したがって、発明の詳細な説明の記載と出願時の技術常識を考慮すれば、請求項1に記載の構成を採用したことにより、当業者が、本件発明1の課題を解決できると認識できることは明らかであり、また、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に開示された内容から拡張又は一般化できない範囲まで開示範囲を超えて請求するものとはいえない。

ウ 判断(本件発明2)
(ア)明確性要件について
申立人は、本件特許発明2における「左右または上下から」「風誘導面」とはどのような技術的事項を指すのかその範囲が不明確である旨主張するので、「風誘導面」について検討する。
「風誘導面」とは、請求項2の記載のとおり「左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する」ものであり、またに、本件明細書においても、「縦桟3の側面3bで左右からの風54を室内側に向けて誘導でき、室外側からの風53だけでなく左右からの風54も取り込めるので採風効率がさらに向上する。」(段落【0020】)、「横桟55の上下面(風誘導面)55a,55aで上下からの風56を室内側に向けて誘導することで、室外側からの風53だけでなく上下からの風56も取り込めるので、風の取り込み量を多くできる。」(段落【0021】)と記載されているとおり、「左右からの風54を室内側に向けて誘導」、「上下からの風56を室内側に向けて誘導」するという機能を有するものであるから、不明確である点は認められない。
したがって、本件発明2は明確ではないとはいえない。

(イ)サポート要件について
本件発明2は、本件明細書に記載のとおり、「風の取り込み量を多くすることができ、防犯性や意匠性も良好な建具の提供」(段落【0004】)を課題として、「窓開口部に障子を室内側に開くように設けたので、障子を開くことで窓開口部を全開でき、尚且つ桟に左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する風誘導面を有することで、正面からの風だけでなく左右または上下からの風も室内に取り込めるため、風の取り込み量を多くすることができる。障子を室内側に開くように設けることで、ドアに組み込んで採風ドアとする場合には、ドアの室外側面からの出っ張りを小さくでき、意匠性が向上する。」(段落【0009】)との効果を奏するものである。
また、本件明細書に、「桟3,55の断面形状は任意であり、風誘導面は円弧状面ではなく傾斜面であってもよい。」(段落【0022】)と記載されているとおり、「風誘導面」は「円弧状面」や「傾斜面」に限定されるものではなく、発明の詳細な説明に記載されていない態様のものであっても「左右または上下からの風を受けて室内側に誘導する」ものであれば、「風の取り込み量を多くすることができ、防犯性や意匠性も良好な建具の提供」という課題を解決し、「正面からの風だけでなく左右または上下からの風も室内に取り込めるため、風の取り込み量を多くすることができる。」との効果を奏することは明らかである。
したがって、発明の詳細な説明の記載と出願時の技術常識を考慮すれば、請求項2に記載の構成を採用したことにより、当業者が、本件発明2の課題を解決できると認識できることは明らかであり、また、請求項2の記載は、発明の詳細な説明に開示された内容から拡張又は一般化できない範囲まで開示範囲を超えて請求するものとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり、明確性要件及びサポート要件に関して、申立人が主張する理由によって、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-03-02 
出願番号 特願2011-283098(P2011-283098)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (E06B)
P 1 651・ 113- Y (E06B)
P 1 651・ 121- Y (E06B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 家田 政明  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
赤木 啓二
登録日 2015-05-01 
登録番号 特許第5740298号(P5740298)
権利者 三協立山株式会社
発明の名称 建具  
代理人 小林 陽一  

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