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審決分類 審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て成立) C25B
管理番号 1311887
判定請求番号 判定2015-600037  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 判定 
判定請求日 2015-11-18 
確定日 2016-03-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第5659337号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「卓上型水素ガス発生装置」は、特許第5659337号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨・手続の経緯
本件判定の請求は、平成27年11月18日になされ、その請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示す卓上型水素ガス発生装置は、特許第5659337号の特許発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。
これに対して、同年12月2日付けで被請求人に判定請求書副本を送達するとともに、期間を指定して、答弁書を提出する機会を与えたところ、平成28年1月12日に答弁書が提出された。

第2 本件特許発明
本件特許発明は、願書に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、これを符号を付して構成要件に分説すると、次のとおりである。

「A 液体及び気体の通過孔を有しないイオン交換膜と、前記イオン交換膜の両面にそれぞれ密着する一対の電極板と、前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板をそれぞれ密着させる固定部と、を有する電気分解板と、
B 前記電気分解板を仕切板として前記電気分解板に仕切られると共に電気分解の対象となる純水をそれぞれ貯蔵する水素ガス発生槽及び酸素ガス発生槽を有する電解槽と、
を備えており、
C 前記イオン交換膜の周縁部は、前記一対の電極板の周縁部よりも外側に伸びており、
D 前記電解槽は、
閉じた容器を上下方向に分割して得た形状の2個の分割ケースと、
F 前記一対の電極板の周縁部よりも外側に位置する前記イオン交換膜の周縁部をソフトガスケットとして用いるために前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部のみを挟んだ状態で前記2個の分割ケースを一体に締結する締結部と、を有する
E ことを特徴とする卓上型水素ガス発生装置。」
(以下、分説した構成要件を「構成要件A」などという。)

第3 イ号物件
1 イ号物件の説明
判定請求書の「6 請求の理由」の「(4)イ号物件の説明」には、イ号物件を説明する、以下の記載がある。

「A_(2) 液体及び気体の通過孔を有しないイオン交換膜と、前記イオン交換膜の両面にそれぞれ密着する一対の電極板と、を有する電気分解板と、
B_(2) 前記電気分解板を仕切板として前記電気分解板に仕切られると共に電気分解の対象となる純水をそれぞれ貯蔵する水素ガス発生槽及び酸素ガス発生槽を有する電解槽と、を備えており、
C_(2) 前記イオン交換膜の周縁部は、前記一対の電極板の周縁部よりも外側に伸びており、
D_(2) 前記電解槽は、閉じた容器を横方向に分割して得た形状の2個の分割ケースと、前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部及びOリングを挟んだ状態で前記2個の分割ケースを一体に締結する締結部と、前記2個の分割ケースのそれぞれに形成され、前記容器の内部において前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板を密着させた状態で狭持する一対の狭持部と、を有する
E_(2) 卓上型水素ガス発生装置。」

「A_(2)の説明
本件判定の請求前(平成27年9月1日)に、請求人が被請求人代理人に開示した資料(既開示資料)の一部であるイ号図面の図2及び図5に記載のとおり、イ号物件は、液体及び気体の通過孔を有しないイオン交換膜と、イオン交換膜の両面にそれぞれ密着する一対の電極板とからなる電気分解板とを備える。」

「B_(2)の説明
既開示資料の一部であるイ号図面の図1及び図5に記載のとおり、イ号物件は、電気分解板を仕切板として電気分解板に仕切られると共に電気分解の対象となる純水をそれぞれ貯蔵する水素ガス発生槽及び酸素ガス発生槽を有する電解槽を備える。」

「C_(2)の説明
イ号図面の図2及び図5に記載のとおり、イ号物件において、イオン交換膜の周縁部は、一対の電極板の周縁部よりも外側に伸びている。」

「D_(2)の説明
既開示資料の一部であるイ号図面の図3及び図4、並びに、図2及び図5に記載のとおり、イ号物件において、電解槽は、閉じた容器を横方向に分割して得た形状の2個の分割ケースと、2個の分割ケースの周縁部がイオン交換膜の周縁部とOリングで挟んだ状態で2個の分割ケースを一体に締結する締結部と、2個の分割ケースのそれぞれに形成され、容器の内部においてイオン交換膜の両面に一対の電極板を密着させた状態で狭持する一対の狭持部(イ号図面の図3及び図4において「電極板をセルに挟み込む部分」と指し示した部分)とを有する。」

「E_(2)の説明
イ号物件は、卓上型水素ガス発生装置である。」

2 イ号図面
判定請求書に添付されたイ号図面及びイ号図面の説明書(以下「説明書」という。)には、以下の記載がある。

(1)図3について
(1-1)説明書には以下の記載がある。
ア 「図3は電解槽を構成する2個の分割ケース(セル)の一方の写真」(第3?4行)
イ 「2個の分割ケースの一方には、周縁を周縁部に囲まれた凹部が形成されるとともに、凹部の内部に『電極板をセルに挟み込む部分』が形成されている(図3参照)。」(第7?9行)
なお、説明書において、「分割ケース」は「セル」とも呼称されているところ、以下においては、「セル」の記載については、「分割ケース」と書き換えることにより、記載を統一する。

(1-2)イ号図面の図3
図3



説明書の上記(1-1)の記載を参照すれば、図3から次のことが見て取れる。
(ア)図3には、標題として「電解槽水素側図」と記載されているが、上記(1-1)アの記載を参照すれば、「電解槽水素側」とは「電解槽」を構成する「2個の分割ケースの一方」を表すものと認められる。
(イ)「2個の分割ケースの一方」の中央には、「凹部」が形成されており、上記「2個の分割ケースの一方」の周縁には、上記「凹部」を囲むように「周縁部」が形成されている。
(ウ)「2個の分割ケースの一方」の「凹部」には、その縁部と中央に、全部で8個の「電極板をセルに挟み込む部分」(「セル」は「分割ケース」のことであるから、以下、「電極板を分割ケースに挟み込む部分」と記載する。)が、「凹部」から突出するように、「2個の分割ケースの一方」と連続して形成されている。
(エ)「2個の分割ケースの一方」の「周縁部」には、下記(5)に記載する、ボルトが貫通すると認められる複数個の孔が形成されている。

(2)図4について
(2-1)説明書には以下の記載がある。
ア 「図4は2個の分割ケース(セル)の他方の写真」(第4行)
イ 「2個の分割ケースの他方には、周縁を周縁部に囲まれた凹部が形成されるとともに、周縁部にOリングを位置決めする『Oリング溝』が、凹部の内部に「電極板を分割ケースに挟み込む部分」がそれぞれ形成されている(図4参照)。」(第10?12行)

(2-2)イ号図面の図4
図4



説明書の上記(2-1)の記載を参照すれば、図4から次のことが見て取れる。
(ア)図4には、標題として「電解槽酸素側図」と記載されているが、上記(2-1)アの記載を参照すれば、「電解槽酸素側」とは「2個の分割ケースの他方」を表すものと認められる。
(イ)「2個の分割ケースの他方」の中央には、「凹部」が形成されており、上記「2個の分割ケースの他方」の周縁には、上記「凹部」を囲むように「周縁部」が形成されている。
(ウ)「2個の分割ケースの他方」の「凹部」には、その縁部と中央に、全部で8個の「電極板をセルに挟み込む部分」(「セル」は「分割ケース」のことであるから、以下、「電極板を分割ケースに挟み込む部分」と記載する。)が、「凹部」から突出するように、「2個の分割ケースの他方」と連続して形成されている。
(エ)「2個の分割ケースの他方」の「周縁部」には、下記(5)に記載する、ボルトが貫通すると認められる複数個の孔と、「Oリング溝」が形成されている。

(3)図2について
(3-1) 説明書には次の記載がある。
ア 「図2は電解槽の分解写真」(第3行)

(3-2) イ号図面の図2



上記(1)及び(2)を参照すれば、図2から次のことが見て取れる。
(ア)図2には、標題として「T3試作電解槽構造図」と記載されているが、上記(3-1)アの記載を参照すれば、「T3試作電解槽構造図」とは「電解槽の分解写真」でもあるから、図2には、図3の「電解槽水素側」すなわち「2個の分割ケースの一方」と、図4の「電解槽酸素側」すなわち「2個の分割ケースの他方」が含まれているといえる。
(イ)図2は、上記(ア)に記載したように、「電解槽の分解写真」であり、「電解槽」は図2に記載のとおり、左側の部品、中央の部品、及び右側の部品からなる三つの部品に分解される。そして、上記三つの部品のうち、左側の部品は、「水素出力部」を有していること、及びその矩形状部分の形状を勘案すると、図3に記載された「電解槽水素側」すなわち「2個の分割ケースの一方」に該当する。図2の中央の部品は、「イオン交換膜」である。そして、図2の右側の部品は、「酸素出力部」及び「Oリング」を有していること、及びその矩形状部分の形状を勘案すると、図4に記載された「電解槽酸素側」すなわち「2個の分割ケースの他方」に該当する。
(ウ)「2個の分割ケースの一方」の「凹部」及び「2個の分割ケースの他方」の「凹部」には、いずれにも、「電極板」が配置されており、「電解槽酸素側」すなわち「2個の分割ケースの他方」の「周縁部」には、「電極板」を囲むように、「Oリング」が配置されている。
(エ)「イオン交換膜」の外形は、「2個の分割ケースの一方」及び「2個の分割ケースの他方」の外形よりも一回り小さいが、上記2つの「電極板」の外形及び「Oリング」の外形よりも一回り大きい。

(4)図5について
(4-1) 説明書には次の記載がある。
ア 「図5は電解槽の平面図、正面図、断面図、分解側面図及び分解斜視図を含む構造図である。」(第4?6行)
イ 「2個の分割ケースの一方の凹部がイオン交換膜と一対の電極板からなる電気分解板に仕切られて水素ガス発生槽が形成され、2個の分割ケースの他方の凹部がその電気分解板に仕切られて酸素ガス発生槽が形成されている。」(第16?18行)

(4-2)イ号図面の図5
図5



説明書の上記(4-1)の記載を参照すれば、図5から次のことが見て取れる。

(4-2-1) 図5の五つの図面
(ア) 図5には、標題として「電気分解槽構造図(T3試作図)」と記載されているところ、上記(4-1)アの記載によれば、図5は、電解槽の平面図、正面図、断面図、分解側面図及び分解斜視図を含む図面である。
(イ) 図5の五つの図面のうち、電解槽が分解された状態を表すものは右側の図と下部中央の二つの図であり、そのうち右側の図は斜視図であるから、分解斜視図であり、残る下部中央の図が分解側面図であるものと認められる。そして、上部中央の図には「Section A-A'」と記載されているので、下部左側の図のA-A'の位置における断面図であるものと認められる。残る二つの図のうち、上部左側の図は、右側の分解斜視図を参照すると電解槽を上方から見た図であることがわかるから、平面図であると認められる。最後に残った下部左側の図は、矢印Bが記載されており、上記矢印Bから見た図が「View B」なる記載のある下部中央の分解側面図であると解されるところ、下部左側の図は上記分解側面図と垂直な側面方向から見た図であるから、正面図であるものと認められる。

(4-2-2) 図5の分解斜視図
(ア) 図5の右側の分解斜視図から、「電解槽」を分解すると、右側から順番に、「ヒートシンク」、「酸素出力部」及び「Oリング溝」を備えた「セル」、「Oリング」、「電極板」、「イオン交換膜」、「電極板」、「ヒートシンク」及び「水素出力部」を備えた「セル」という複数の部品が得られ、これら複数の部品から「電解槽」が構成されることが見て取れる。
(イ) 上記(3-2)(イ)、(ウ)を参照すれば、上記「ヒートシンク」、「酸素出力部」及び「Oリング溝」を備えた「セル」とは、「電解槽酸素側」すなわち「2個の分割ケースの他方」に該当し、上記「ヒートシンク」及び「水素出力部」を備えた「セル」とは、「電解槽水素側」すなわち「2個の分割ケースの一方」に該当するものと認められる。したがって、上記(ア)の視認事項より、図5には、「Oリング」、「電極板」、「イオン交換膜」及び「電極板」を積層したものが、「2個の分割ケースの他方」及び「2個の分割ケースの一方」に挟まれることが記載されているものと認められる。
(ウ) 「2個の分割ケースの他方」とは「電解槽酸素側」であり、「2個の分割ケースの一方」とは「電解槽水素側」であることから、図5の右側の分解斜視図も参照すると、「2個の分割ケースの他方」及び「2個の分割ケースの一方」を水平方向から併せることによって「電解槽」が形成されることが理解される。そして、このことは逆に言うと、上記「2個の分割ケースの他方」及び「2個の分割ケースの一方」は、「電解槽」を鉛直方向に切断することによって水平方向に分割して得られた形状を有するものであるということができる。

(4-2-3) 図5の分解側面図
(ア) 図5の下部中央の分解側面図から、右側から順番に、「ヒートシンク」を備えた「セル」、「電極」、「イオン交換膜」、「電極」、「Oリング」、「ヒートシンク」を備えた「セル」が配置されていることが見て取れる。
(イ) なお、図5の分解斜視図と分解側面図は同じ電解槽を異なる方向から見たものであるから、分解側面図に記載された上記「電極」は、分解斜視図に記載された「電極板」に該当している。また、上記(4-2-2)(イ)を参照すれば、「Oリング」に隣接する左端の「セル」は、「電解槽酸素側」すなわち「2個の分割ケースの他方」に該当し、右端の「セル」は、「電解槽水素側」すなわち「2個の分割ケースの一方」に該当している。
(ウ) 図5の下部中央の分解側面図から、「イオン交換膜」の両側に二つの「電極」すなわち二つの「電極板」が配置されており、「イオン交換膜」の大きさ(図面縦方向の長さ)は当該二つの「電極板」のそれぞれよりも大きく、「イオン交換膜」の「周縁部」は上記二つの「電極板」よりも外側(図面の上下方向)に伸びている。そして、「電極板」よりも外側に伸びている「イオン交換膜」の「周縁部」及び上記「Oリング」の少なくとも上端部及び下端部を挟むように、「2個の分割ケースの一方」の「周縁部」及び「2個の分割ケースの他方」の「周縁部」が位置していることが見て取れる。

(4-2-4) 図5の断面図と正面図
(ア) 図5の上部中央の断面図に、説明のための符号(1)?(7)を付して再掲する。
図5 断面図




(イ) 上記(ア)の断面図から、ハッチング(斜線模様)で示された「酸素セル」と「水素セル」の間に、符号(7)で示した「黒色で示された領域」が配置されており、当該「黒色で示された領域」の上面側の両端と中央に符号(1)?(3)で示した3箇所と、下面側の両端と中央に符号(4)?(6)で示した3箇所の「白抜きの矩形領域」が設けられており、これら合計6箇所の「白抜きの矩形領域」によって上記「黒色で示された領域」が狭持されていることが見て取れる。
(ウ) 上記(イ)の「黒色で示された領域」については、当該断面図中に説明がないが、当該断面図は図5の下部左側の正面図のA-A'の位置における断面図であり、分解槽の当該A-A'の位置には、図5の下部中央の分解側面図を参照すると、二つのセルの間に、「イオン交換膜」と二つの「電極板」が配置されているから、上記「黒色で示された領域」は、「イオン交換膜」の両面に二つの「電極板」を密着させた状態の「電気分解板」であると解される。なお、当該断面図中には、引き出し線とともに、「イオン交換膜」、「酸素電極板」及び「水素電極板」と記載されていることから、「黒色で示された領域」が「電気分解板」であることが裏付けられる。
(エ) 上記(イ)の「白抜きの矩形領域」については、当該断面図中に説明がないが、次の(オ)?(キ)の検討から、図3と図4において認定した、「2個の分割ケース」の「凹部」のそれぞれに形成された「電極板を分割ケースに挟み込む部分」に該当するものと認められる。
(オ)図5の下部左側の正面図に、説明のための符号(1)?(9)を付して再掲する。
図5 正面図




(カ) 上記(オ)の正面図から、複数の縦縞で表されたヒートシンクの領域よりも一回り小さい、符号(1)で示した点線で囲まれた領域が「分割ケース」の「凹部」を示すものと認められるところ、当該点線で囲まれた領域の縁部に符号(2)?(7)で示した6個と、同領域の中央に符号(8)?(9)で示した2個とを併せた合計8個の点線で示された矩形領域が存在することが見て取れる。
(キ) 上記(カ)に記載した8個の矩形領域が、図3と図4のそれぞれにおいて認定した、8個の「電極板を分割ケースに挟み込む部分」に該当することは明らかであり、上記矩形領域の一部が、当該正面図のA-A'の位置における断面図において、上記「白抜きの矩形領域」として見えているものと認められる。
(ク) 上記(イ)に記載した「酸素セル」と「水素セル」はそれぞれ、「電解槽酸素側」すなわち「2個の分割ケースの他方」と、「電解槽水素側」すなわち「2個の分割ケースの一方」に該当することは明らかである。また、上記(イ)に記載した「黒色で示された領域」は、上記(ウ)の検討から、「イオン交換膜」の両面に二つの「電極板」を密着させた状態の「電気分解板」である。そして、上記(イ)に記載した「白抜きの矩形領域」は、上記(エ)の検討から、「2個の分割ケース」のそれぞれの「凹部」に形成された「電極板を分割ケースに挟み込む部分」である。
(ケ) 以上の検討を総合すると、「2個の分割ケース」のそれぞれの「凹部」に形成された「電極板を分割ケースに挟み込む部分」によって、「イオン交換膜」の両面に二つの「電極板」を密着させた状態となるように「電気分解板」が狭持されているといえる。
(コ) 上記(ケ)の検討から、「2個の分割ケース」のそれぞれの「凹部」に形成された「電極板を分割ケースに挟み込む部分」によって「電気分解板」が狭持されているところ、このことは、上記(4-2-2)の(ウ)で検討したように、「2個の分割ケース」を水平方向から併せることによって「電解槽」が形成されることを勘案すれば、「電解槽」が「電気分解板」によって仕切られているとも表現することができる。そして、説明書の上記(4-1)イの記載を参照すれば、「電気分解板」によって仕切られた「酸素セル」すなわち「2個の分割ケースの他方」側の「凹部」は「酸素ガス発生槽」を形成し、「電気分解板」によって仕切られた「水素セル」すなわち「2個の分割ケースの一方」側の「凹部」は「水素ガス発生槽」を形成しているものと認められる。

(5)図1について
(5-1)説明書には以下の記載がある。
ア 「図1は、卓上型水素ガス発生装置であるイ号物件の筺体内部に設けられる電解槽の外観写真」(第1?2行)

(5-2)イ号図面の図1
図1



説明書の上記(5-1)の記載を参照すれば、図1から次のことが見て取れる。
(ア)図1には、標題として「電解セル外観図」と記載されているが、上記(5-1)アの記載によれば、「卓上型水素ガス発生装置であるイ号物件の筺体内部に設けられる電解槽の外観写真」でもある。
(イ)図1から、ヒートシンクを備えた2個の「分割ケース」が、電解槽の側面の周縁部において複数のボルトとナットを用いて締結されることによって、電解槽が形成されていることが見て取れる。

3 上記1及び2に基づくイ号物件の認定
(1)構成A_(2)について
請求人が、上記1の「A_(2)の説明」で説明しているとおり、イ号物件は、「液体及び気体の通過孔を有しないイオン交換膜と、前記イオン交換膜の両面にそれぞれ密着する一対の電極板と、を有する電気分解板」とを備えているものと認められる。
ここで、「電気分解板」が「イオン交換膜の両面にそれぞれ密着する一対の電極板」を有することは、上記2の(4-2-4)(イ)で検討したことによって裏付けられる。
なお、イ号物件の「イオン交換膜」が「液体及び気体の通過孔を有しない」ものである点について、判定請求書において具体的な説明がされていないが、当事者間で争いがない事項であるため、本判定では、請求人の主張をそのまま受け入れて構成A_(2)を認定することとする。

(2)構成B_(2)について
請求人が、上記1の「B_(2)の説明」で説明しているとおり、イ号物件は、「前記電気分解板を仕切板として前記電気分解板に仕切られると共に電気分解の対象となる純水をそれぞれ貯蔵する水素ガス発生槽及び酸素ガス発生槽を有する電解槽」を備えているものと認められる。
ここで、「電解槽」が「前記電気分解板を仕切板として前記電気分解板に仕切られる」こと及び「水素ガス発生槽及び酸素ガス発生槽を有する」ことは、上記2の(4-2-4)(ケ)で検討したことによって裏付けられる。
なお、イ号物件の「水素ガス発生槽及び酸素ガス発生槽」が「純水を」「貯蔵」する点について、判定請求書において具体的な説明がされていないが、電気分解により水素ガス及び酸素ガスを発生するために分解槽内に原料である水を貯蔵する必要があることは技術常識であるし、当事者間で争いがない事項でもあるため、本判定では、請求人の主張をそのまま受け入れて構成B_(2)を認定することとする。

(3)構成C_(2)について
請求人が、上記1の「C_(2)の説明」で説明しているとおり、イ号物件において、「イオン交換膜の周縁部は、前記一対の電極板の周縁部よりも外側に伸びて」いるものと認められる。
ここで、「イオン交換膜の周縁部は、前記一対の電極板の周縁部よりも外側に伸びて」いることは、上記2の(4-2-3)(ウ)で検討したことによって裏付けられる。

(4)構成D_(2)のうち電解槽が分割ケースと締結部を有する点の構成について
請求人が、上記1の「D_(2)の説明」で説明しているとおり、イ号物件において、「電解槽」は「閉じた容器を横方向に分割して得た形状の2個の分割ケースと、前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部及びOリングを挟んだ状態で前記2個の分割ケースを一体に締結する締結部と」を有しているものと認められる。
そして、「電解槽」が「閉じた容器を横方向に分割して得た形状の2個の分割ケース」を有することは、上記2の(4-2-2)(ウ)で検討したことによって裏付けられる。なお、ここで、「2個の分割ケース」が「閉じた容器を横方向に分割して得た形状」であるとは、上記2の(4-2-2)(ウ)で検討したように、「2個の分割ケースの他方」及び「2個の分割ケースの一方」が、「閉じた容器」である「電解槽」を「鉛直方向に切断することによって水平方向に分割して得られた形状」であることを表している。
また、「電解槽」において「2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部及びOリングを挟んだ状態」にあることは、上記2の(3-2)(エ)及び(4-2-3)(ウ)で検討したことによって裏付けられる。
また、「電解槽」が「2個の分割ケースを一体に締結する締結部」を有することは、「ボルトとナット」を「2個の分割ケースを一体に締結する締結部」とみれば、上記2の(5-2)(イ)で検討したことによって裏付けられる。

(5) 構成D_(2)のうち電解槽が狭持部を有する点の構成について
請求人が、上記1の「D_(2)の説明」で説明しているとおり、イ号物件において、「電解槽」は「2個の分割ケースのそれぞれに形成され、容器の内部において前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板を密着させた状態で狭持する一対の狭持部」を有しているものと認められる。
ここで、上記「一対の狭持部」とは、「分割ケースの一方」と連続して形成されている「電極板を分割ケースに挟み込む部分」と、「分割ケースの他方」と連続して形成されている「電極板を分割ケースに挟み込む部分」をまとめて呼称したものであり、「2個の分割ケース」を締結部によって一体に締結したときに、上記二つの部分が「電気分解板」の一点に一方側から及び反対側から同時に力を加えることによって、「前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板を密着」させる機能を有しているものであることを表すものと解することができるので、「電解槽」が「2個の分割ケースのそれぞれに形成され、容器の内部において前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板を密着させた状態で狭持する一対の狭持部」を有していることは、上記2の(4-2-4)の(ア)?(ケ)で検討したことによって裏付けられる。

(6) 構成E_(2)について
請求人が、上記1の「E_(2)の説明」で説明しているとおり、イ号物件は、「卓上型水素ガス発生装置」であるものと認められる。
なお、イ号物件が卓上型の水素ガス発生装置であるかについて、判定請求書には具体的な説明がなされていないが、当事者間で争いがない事項であるため、本判定では、請求人の主張をそのまま受け入れて構成E_(2)を認定することとする。

(7) イ号物件
イ号物件は、上記1と2の記載事項及び視認事項、ならびに、上記(1)?(6)の検討を総合して、本件特許発明の構成要件の分説と対応するように符号を付して構成に分説すると、以下のとおりのものと認める。

「a 液体及び気体の通過孔を有しないイオン交換膜と、前記イオン交換膜の両面にそれぞれ密着する一対の電極板と、を有する電気分解板と、
b 前記電気分解板を仕切板として前記電気分解板に仕切られると共に電気分解の対象となる純水をそれぞれ貯蔵する水素ガス発生槽及び酸素ガス発生槽を有する電解槽と、
を備えており、
c 前記イオン交換膜の周縁部は、前記一対の電極板の周縁部よりも外側に伸びており、
d 前記電解槽は、
閉じた容器を横方向に分割して得た形状の2個の分割ケースと、
f 前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部及びOリングを挟んだ状態で前記2個の分割ケースを一体に締結する締結部と、
g 前記2個の分割ケースのそれぞれに形成され、前記容器の内部において前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板を密着させた状態で狭持する一対の狭持部と、を有する
e 卓上型水素ガス発生装置。」
(以下、分説した構成を「構成a」などという。)

(8) 被請求人が主張するイ号物件の認定について
ア 当審では、イ号物件を上記(7)のとおり認定しており、被請求人の主張するイ号物件の認定は採用しなかった。その理由は以下イ?エに記載のとおりである。

イ 被請求人は答弁書の7(1)(四)において、「『A2』および『A2の説明』段落、並びに、『D2』及び『D2の説明』段落の記載内容について否認し、その余を認める。甲第12号証に記載のとおりだからである。」と記載している。そして、上記第3の1に記載したように、構成A_(2)が「電気分解板」についての認定であり、構成D_(2)が「電解槽」についての認定であることを勘案すると、被請求人は、イ号物件のうち、特に、「電気分解板」と「電解槽」の認定について、甲第12号証の「回答追加説明書」の「2.改良品の構成」に記載された次のとおりのものとすべきであると主張しているものと解される。

(ア)被請求人の主張する「電気分解板」の認定
「a 液体及び気体の通過孔を有しないイオン交換膜と、
b 前記イオン交換膜の両面にそれぞれ密着する一対の電極板と、
d1 前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板をそれぞれ密着させる固定部と、
e を有する電気分解板と、」

(イ)被請求人の主張する「電解槽」の認定
「m 前記電解槽は、
m1 閉じた容器を上下方向に分割して得た形状の2個の分割ケースと、
m2 前記一対の電極板の周縁部よりも外側に位置する前記イオン交換膜の周縁部をソフトガスケットとして用いるために前記2個の分割ケースの周縁部の少なくとも内側付近が前記イオン交換膜の周縁部のみを挟んだ状態で前記2個の分割ケースを一体に締結する締結部と、
m3 前記2個の分割ケースの周縁部の中央付近において前記2個の分割ケースに挟まれるOリングと、を有し、」

ウ そこで、最初に、当審によるイ号物件の「電気分解板」の認定と、被請求人による認定を対比すると、当審は、上記(7)のaのように認定しているところ、被請求人による認定は、上記イ(ア)に記載した、構成d1及びeのように、「電気分解板」が「固定部」を有するものとして認定している点で相違しており、被請求人によるこのような認定が、技術的な観点から見て、妥当であるかについて検討する。
被請求人が主張する「電気分解板」の認定において、上記構成d1によれば、「固定部」とは、「前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板をそれぞれ密着させる」ものであるから、上記第3の2(1)と(2)において検討した、イ号図面の図3及び図4に記載の「電極板を分割ケース(セル)に挟み込む部分」に対応するものであることは明らかである。そして、上記「電極板を分割ケースに挟み込む部分」は、上記第3の2(1)(1-2)(ウ)と同(2)(2-2)(ウ)において検討したように、「2個の分割ケースの一方」または「2個の分割ケースの他方」と連続して形成されているものである。また、上記「電極板を分割ケースに挟み込む部分」は、上記第3の2(4)(4-2)(4-2-4)(ケ)において図5に基づいて検討したように、「イオン交換膜」の両面に二つの「電極板」が密着した状態となるように「電気分解板」を狭持するためのものであるから、「電極板を分割ケースに挟み込む部分」と「電気分解板」は、単に接触可能に形成されているだけであって、一体の構造物として形成されているものとはいえない。
したがって、被請求人が、構成d1及び構成eにおいて、「電気分解板」が「固定部」を有するものとして認定している点は、イ号図面の図3、図4及び図5並びにこれら図面の説明に基づいて把握される事項と整合していないので、イ号物件において、「電気分解板」が「固定部」を有するものとして認定することが妥当であるとはいえない。

エ 次に、当審によるイ号物件の「電解槽」の認定と、被請求人による認定を対比すると、当審は、上記(7)のd、f、gのように認定しているところ、被請求人は、上記イ(イ)に記載した、構成m2及びm3のように、「分割ケースの周縁部」を、「イオン交換膜の周縁部のみを挟」む「内側付近」と、「2個の分割ケースに挟まれるOリングと、を有」する「中央付近」に分けて認定している点で相違しており、被請求人によるこのような認定が、技術的な観点から見て、妥当であるかについて検討する。
「分割ケースの周縁部」は、上記第3の2(1)と(2)において検討した、イ号図面の図3及び図4から見て取れるように、「分割ケース」の一部分として、同一の材料によって一体かつ連続に形成されているものであるし、また、「Oリング」と「イオン交換膜の周縁部」は、共同して「電解槽」の密閉性を確保する部材であると認められるから、「分割ケースの周縁部」は「電解槽」の密閉性を確保する部材を狭持する機能を有する、一体の領域であると認められる。
したがって、「分割ケースの周縁部」は、一体の領域として認定すべきものであって、上記構成m2及びm3のように、「内側付近」の領域と「中央付近」の領域に分けて認定すべき技術的根拠が見出せないので、イ号物件において、「分割ケースの周縁部」を「内側付近」の領域と「中央付近」の領域を有するものとして認定することが妥当であるとはいえない。

第4 判断
1 構成要件の充足性について
イ号物件が、本件特許発明の構成要件を充足するか否かについて、検討する。

(1)構成要件Aについて
イ号物件が、構成aの「液体及び気体の通過孔を有しないイオン交換膜と、前記イオン交換膜の両面にそれぞれ密着する一対の電極板と、を有する電気分解板」を備えていることは、本件特許発明が、構成要件Aの「液体及び気体の通過孔を有しないイオン交換膜と、前記イオン交換膜の両面にそれぞれ密着する一対の電極板と、」「を有する電気分解板」を備えていることに相当する。しかしながら、イ号物件の構成aの「電気分解板」は、「前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板をそれぞれ密着させる固定部」を備えていない。
したがって、イ号物件の構成aは、文言上、本件特許発明の構成要件Aのうち、「前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板をそれぞれ密着させる固定部」「を有する電気分解板」の点を充足しない。

(2)構成要件B、C及びEについて
イ号物件の構成b、c及びeは、それぞれ、本件特許発明の構成要件B、C及びEに相当することが明らかであるから、イ号物件の構成b、c及びeは、それぞれ、本件特許発明の構成要件B、C及びEを充足する。

(3)構成要件Dについて
イ号物件が、構成dの「前記電解槽は、閉じた容器を横方向に分割して得た形状の2個の分割ケース」を有することと、本件特許発明が、構成要件D1の「前記電解槽は、閉じた容器を上下方向に分割して得た形状の2個の分割ケース」を有することとは、「分割」の方向がそれぞれ「横方向」と「上下方向」である点で文言上相違している。
しかしながら、イ号物件において容器の分割方向が「横方向」であるとは、上記第3の3(4)で検討したように、「2個の分割ケースの他方」及び「2個の分割ケースの一方」が、「閉じた容器」である「電解槽」を「鉛直方向に切断することによって水平方向(横方向)に分割」するということであり、一方、本件特許発明において容器の分割方向が「上下方向」であるとは、判定請求答弁書の第5/5頁の第2?3行に記載しているとおり、「2個の分割ケースは上下方向に切断されることにより横に分割」することに他ならないから、上記の相違は表現上の相違であって実質的な相違ではない。
したがって、イ号物件の構成dは、本件特許発明の構成要件Dを充足する。

(4)構成要件Fについて
イ号物件が、「電解槽」において、構成fの「前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部」「を挟んだ状態で前記2個の分割ケースを一体に締結する締結部」を有することは、本件特許発明が、「電解槽」において、構成要件Fの「前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部」「を挟んだ状態で前記2個の分割ケースを一体に締結する締結部」を有することに相当する。しかしながら、イ号物件の構成fについて、「2個の分割ケースの周縁部」は「イオン交換膜の周縁部」以外に「Oリング」を挟んでいるから、「前記一対の電極板の周縁部よりも外側に位置する前記イオン交換膜の周縁部をソフトガスケットとして用いるために前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部のみを挟」んでいるものではない。
したがって、イ号物件の構成fは、本件特許発明の構成要件Fのうち、「前記一対の電極板の周縁部よりも外側に位置する前記イオン交換膜の周縁部をソフトガスケットとして用いるために前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部のみを挟」む点を充足しない。

2 構成要件Aについての均等論適用の可否について
被請求人は、判定請求答弁書の第4/5頁の(2)において、「構成A_(2)は、構成D_(2)に記載の『前記2個の分割ケースのそれぞれに形成され、前記容器の内部において前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板を密着させた状態で狭持する一対の狭持部』を電気分解板の構成要素として有するといえる。・・・特許請求の範囲において『?を有する』を解釈する際には、・・・その技術的思想の本質を表す事項(発明特定事項)及びその効果から実質的に解釈されるべき・・・したがって、構成A_(2)は構成要件A_(1)と一致する。」と主張しており、この主張は実質的に、
(ア)本件特許発明の構成要件Aのうち「電気分解板」が「前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板をそれぞれ密着させる固定部」を有することと、
(イ)イ号物件の構成gの「前記容器の内部において前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板を密着させた状態で狭持する一対の狭持部」が「前記2個の分割ケースのそれぞれに形成され」ていること、
が均等であることを主張しているものと解される。
なお、本件特許発明について、上記構成A_(1)は、本判定では構成Aと記載し、また、イ号物件について、上記構成A_(2)は、本判定では構成aと、上記構成D_(2)は、本判定では構成d、f、gとさらに細かく文説して記載している。

そこで、本件特許発明とイ号物件の異なる部分である構成要件Aにつき、最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決、最高裁平成6年(オ)1083号)が判示する次の5つの要件にしたがって、均等論適用の可否について検討する。
「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、
(第一要件)その部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(第二要件)その部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(第三要件)このように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
(第四要件)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
(第五要件)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、
その対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」

(1)第一要件
本件特許発明の構成要件Aがイ号物件と異なる部分、すなわち「電気分解板」が「前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板をそれぞれ密着させる固定部」を有することについて、その技術的意義を考察する。

本件特許発明における、「電気分解板」に設けられた「前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板をそれぞれ密着させる固定部」に関して、本件特許明細書に以下の記載がある(なお、下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。)。

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
・・・
【0006】
また、従来の電気分解システムにおいては、電気分解板から水素ガスを効率よく分離させることができないことや、イオン交換膜に電極板を固定する大きなボルトやナットが水素ガスを吸着してしまうことなど、卓上型水素ガス発生装置として用いるためには適さない上記以外の種々の不具合も多数存在するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、小型化や携帯性の問題などの従来技術における種々の不具合を改善した新規の卓上型水素ガス発生装置を提供することを本発明の目的としている。」

「【0087】
(固定部520)
固定部520は、イオン交換膜510の両面に一対の電極板500をそれぞれ密着させる。一対の電極板500及びイオン交換膜510が密着していないと、一対の電極板500とイオン交換膜510との間の通電抵抗が大きくなり、電気分解板5の電解効率が低下するため、固定部520による密着性能は重要になる。
【0088】
一対の電極板500及びイオン交換膜510の密着方法としては、従来と同様、湾曲し難い厚めの電極板500でイオン交換膜510を挟み込み、電極板500の周囲4か所及び中央1箇所の合計五か所でボルト止めする方法も考えられる。しかし、電気分解板5にボルト等の大きな突起物が多数存在すると、電極板500から発生する水素ガスや酸素ガスの気泡15がその突起物に吸着し、気泡15の上昇を妨げることになる。また、突起物の体積が大きくなるほど、電解槽6に貯蔵する純水13の容量が減少する。その結果、水素ガスの発生量が低下する。
【0089】
なお、突起物への気泡15の吸着に関しては、電解槽6に循環ポンプを接続することによってその吸着を減らすことも可能である。しかし、本実施形態の卓上型水素ガス発生装置1は、小型化、携帯性向上及び安価性を考慮し、循環ポンプを備えていない。
【0090】
そのため、本実施形態の固定部520は、図2?図4に示すように、小さなリベットであることが好ましい。
【0091】
(リベット)
本実施形態の固定部520としてのリベットは、密着性を高めるため、図4に示すように、電極板500の周囲に沿って長方形状に4個配置されていると共に、電極板500の中央部において縦長の菱形形状に4個配置されている。また、固定部520としてのリベットは、密着性を高めるため、液体を吸収したときに膨張することが好ましい。
【0092】
これらのリベットは、熱可塑性プラスチック製であり、図3に示すように、リベット軸521と、2個のリベット頭部522と、により構成されている。」

固定部についての上記記載によれば、本件特許発明の解決しようとする課題の一つは、イオン交換膜に電極板を固定するために大きなボルトやナット等の突起物を用いると、当該突起物が水素を吸着するという不具合を改善した、新規の卓上型水素ガス発生装置を提供することであり、固定部として小さなリベットを電極板500に設けることにより、一対の電極板500とイオン交換膜510の密着性が高まって電解効率が向上するとともに、大きな突起物が水素を吸着するという上記課題が解決するものである。
してみると、本件特許発明において、「前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板をそれぞれ密着させる固定部」を「電気分解板」に設けることは、本件特許発明特有の課題解決のための技術手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分、すなわち本質的部分であるということができる。

(2)第二要件
本件特許発明において、「電気分解板」に「固定部」を設けることに代えて、イ号物件のように、「2個の分割ケース」のそれぞれに「一対の狭持部」を形成した場合に、本件特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するかについて検討する。

上記(1)で検討したように、本件特許発明において、「電気分解板」に「固定部」を設けることによって、一対の電極板とイオン交換膜の密着性が高まって電解効率が向上するとともに、大きなボルトやナット等の突起物を用いたときに当該突起物が水素を吸着したり、電解槽に貯蔵する純水の容量が減少するという不具合を改善するものである。

一方、イ号物件において、「2個の分割ケースのそれぞれに形成」された「一対の狭持部」は、「前記容器の内部において前記イオン交換膜の両面に前記一対の電極板を密着させた状態で狭持する」ものであるから、一対の電極板とイオン交換膜の密着性が高まって電解効率が向上するという、本件特許発明と同様の効果を奏するものとは認められるものの、「一対の狭持部」は、イ号図面の図3、図4に示されているように、分割ケースの凹部から突出するように形成されるものであるから、本件特許明細書に記載された「大きなボルトやナット等の突起物」に相当するものであり、したがって、当該突起物に水素が吸着したり、貯蔵する純水の容量が減少するという不具合が改善されていないものである、ということができる。

そうすると、本件特許発明において、「電気分解板」に「固定部」を設けることに代えて、イ号物件のように、「2個の分割ケース」のそれぞれに「一対の狭持部」を形成した場合に、本件特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するものであるとはいえない。

(3)第三要件
本件特許発明において、「固定部」は、「電気分解板」に設けられる部品であって、他の部品と独立しており、「固定部」単独の作用として、イオン交換膜の両面に一対の電極板を密着させる機能を有するものであるのに対して、イ号物件において、「一対の狭持部」は、「2個の分割ケース」のそれぞれと連続して形成されたものであり、「2個の分割ケース」を「締結部」によって締結しないとイオン交換膜の両面に一対の電極板を密着させることのできないものである。つまり、本件特許発明の「固定部」とイ号物件の「一対の狭持部」は、イオン交換膜の両面に一対の電極板を密着させる機能を有する点で共通するものの、設けられる場所も構成も全く異なるものである。
したがって、本件特許発明において、「電気分解板」に「固定部」を設けることに代えて、イ号物件のように、「2個の分割ケース」に「一対の狭持部」を形成することは、判定請求書に記載されたイ号物件が開発された平成27年2月時点において、卓上型水素ガス発生装置の技術分野における当業者にとって単なる設計変更程度であるとはいえないから、当業者にとって容易に想到することができたものであるといえない。

(4)構成要件Aの充足性についての結論
以上のとおり、最高裁判決が判示する均等論が適用できるための5つの要件のうち、第四、第五の要件について検討するまでもなく、第一、第二、及び第三の要件が満たされていないから、本件特許発明とイ号物件の異なる部分である構成要件Aにつき、均等論の適用ができない。
したがって、本件特許発明とイ号物件の異なる部分である構成要件Aにつき、均等論の適用ができないので、イ号物件の構成aは、本件特許発明の構成要件Aを充足しないといえる。

3 構成要件Fについての均等論適用の可否について
被請求人は、判定請求答弁書の第5/5頁の(二)において、「イ号物件の分割ケースの周縁部におけるOリングの内側部分は、まさしく、イオン交換膜のみをソフトガスケットとして用いており、本件発明の構成D1と同様、『イオン交換膜の周縁部のみを挟んだ状態』であるといえる。」と主張しており、この主張は実質的に、
(ア)本件特許発明の構成要件Fのうち「前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部のみを挟んだ状態で前記2個の分割ケースを一体に締結する締結部」と、
(イ)イ号物件の構成fの「前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部及びOリングを挟んだ状態で前記2個の分割ケースを一体に締結する締結部」と、
が均等であることを主張しているものと解される。
そこで、本件特許発明とイ号物件の異なる部分である構成要件Fにつき、上記2で検討したと同様に、最高裁判決が判示する5つの要件に基づいて、均等論適用の可否について検討する。

(1)第五要件
甲第13号証の本件特許の審査段階での平成26年5月12日付け意見書を参照すると、「3-7.引用文献1?5の組み合わせ」には、「上記の通り、引用文献2?5には、『電解室がイオン交換膜の周縁部『のみ』を挟む構造』が開示されておらず、従来から明らかな『電解室がイオン交換膜及び電極の各周縁部の『両方』を挟む構造』又は『電解室がガスケットを介してイオン交換膜の周縁部を挟む構造』が開示されているだけです。
したがいまして、引用文献1?5に記載の従来技術を組み合わせても、本願発明のような『分割式電解室がイオン交換膜の周縁部『のみ』を挟む構造』を導き出すことができません。」と記載されている。
つまり、被請求人は、本件特許発明の審査段階において、引用文献に記載された、従来から明らかな「電解室がガスケットを介してイオン交換膜の周縁部を挟む構造」は、「電解室がイオン交換膜の周縁部『のみ』を挟む構造」すなわち、本件特許発明の「前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部のみを挟んだ状態」とは相違するものであることを主張している。
そして、イ号物件は、構成fのうち「前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部及びOリングを挟んだ状態」を有するものであるところ、そのような構成は、上記意見書に記載された、従来から明らかな「電解室がガスケットを介してイオン交換膜の周縁部を挟む構造」に他ならないものである。
したがって、イ号物件の構成fのうち「前記2個の分割ケースの周縁部が前記イオン交換膜の周縁部及びOリングを挟んだ状態」については、本件特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるといえる。

(2)構成要件Fの充足性についての結論
以上のとおり、最高裁判決が判示する均等論が適用できるための5つの要件のうち、第一?第四の要件について検討するまでもなく、第五の要件が満たされていないから、本件特許発明とイ号物件の異なる部分である構成要件Fにつき、均等論の適用ができない。
したがって、本件特許発明とイ号物件の異なる部分である構成要件Fにつき、均等論の適用ができないので、イ号物件の構成fは、本件特許発明の構成要件Fを充足しないといえる。

4 上記第3の3において、イ号物件の構成A_(2)のうち「イオン交換膜」が「液体及び気体の通過孔を有しない」ものである点、構成B_(2)のうち「水素ガス発生槽及び酸素ガス発生槽」が「純水を」「貯蔵」する点、構成E_(2)のうち「卓上型」の水素ガス発生装置である点については、判定請求書において具体的な説明がされていないために、請求人の主張をそのまま受け入れて認定を行ったが、当該請求人の主張に基づいて認定した構成は、上記2、3における構成要件Aと構成要件Fの充足性についての議論とは直接の関係がないため、上記議論の結果に影響しない。

5 まとめ
上記1?4のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A及びFを充足しない。

第6 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A及びFを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2016-03-01 
出願番号 特願2012-289292(P2012-289292)
審決分類 P 1 2・ - ZA (C25B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川崎 良平  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 河野 一夫
池渕 立
登録日 2014-12-12 
登録番号 特許第5659337号(P5659337)
発明の名称 卓上型水素ガス発生装置  
代理人 松田 純一  
代理人 高橋 洋平  
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