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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03H |
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管理番号 | 1312211 |
審判番号 | 不服2014-20743 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-14 |
確定日 | 2016-03-08 |
事件の表示 | 特願2010-533536「光学的可変画像担持シムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月22日国際公開、WO2009/062867、平成23年 3月 3日国内公表、特表2011-507006〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、2008年11月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年11月15日、欧州特許庁、2008年4月28日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成23年11月2日に手続補正がなされ、平成25年8月14日付けで拒絶の理由が通知され、平成26年2月19日に手続補正がなされるとともに意見書が提出され、同年7月15日付けで拒絶査定がなされ、同年10月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。 なお、請求人は、平成27年2月5日に上申書を提出し、審査官が平成26年11月19日に作成した、特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)の内容に対して反論している。 2 本願の原査定の拒絶の理由の概要 (1)平成25年8月14日付けで通知された拒絶の理由1は以下のとおりである。 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点において不備であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 特許請求の範囲の請求項1において、「前記複製シムが、一旦硬化すると、十分な架橋密度および95%超の重合度(1410cm^(-1)でのアクリレートバンドの消失を追跡することによって、ATR分光法によって測定)を示す」との特定事項がある。 しかしながら、UV硬化性組成物は、UVの光量、照射時間に応じて、その架橋密度、重合度が変化するものであることは、技術常識であって、同じ組成の組成物であっても、照射時間が少なければ、上記特定事項を満たさないこともあるし、照射時間が十分に多ければ、架橋、重合が進み、上記特定事項を満たすものとなる。 事実、本願明細書の【0162】?【0178】において、搬送速度が上昇し、単位面積当たりの照射時間が少なくなるにつれて、同じ組成物であっても、重合度が低下している。 よって、上記特定事項により特定される組成物がいかなるものか不明であり、特許を受けようとする発明が明確に把握できない。(逆に言えば、いかなるUV硬化性組成物であっても、十分なUV照射が行われれば、上記特定事項を満たすものともいえるので、上記特定事項は有意な特定事項とは認められない。) 請求項3についても同様である。 また、「十分な架橋密度」との記載は、その程度が不明である。 (2)平成26年7月15日付け拒絶査定の内容は以下のとおりである。 この出願については、平成25年 8月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。 なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 備考 この出願の請求項に係る発明(以下「本願の請求項に係る発明」という。)は、平成26年2月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認める。 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)について検討する。 出願人は、「本願発明は、当該アクリレートの重合度(変換率)の違いにより、複製シムの表面へのワニスの付着の程度が明らかに異なることを見出している以上、当該発明特定事項は、有意な発明特定事項であることは明白であり、また、本願の独立請求項1は、「物」の発明であって、本願の実施例において、当該重合度の違いによって「物」の発明としての差違を表せることが示されている以上、本願の独立請求項1に係る発明は、当該アクリレートの重合度(変換率)の特定によって、十分に明確であります。」と主張している。 しかしながら、先の拒絶理由において示しているように、UV硬化性組成物は、UVの照度、照射時間に応じて、その架橋密度、重合度が変化するものであることは、技術常識であって、同じ組成の組成物であっても、照射時間が少なければ、上記特定事項を満たさないこともあるし、照射時間が十分に多ければ、架橋、重合が進み、上記特定事項を満たすものとなることは、技術常識である。(照度、照射時間等の照射条件を特定してはじめて、「UV硬化性組成物」にとって「前記複製シムが、一旦硬化すると、硬質物質を提供するために十分高い架橋密度および95%以上の重合度(1410cm^(-1)でのアクリレートバンドの消失を追跡することによって、ATR分光法によって測定)を示す」との特定事項は、有意な特定事項となる。) よって、出願人の前記主張を採用することはできない。 他の請求項についても同様である。 3 平成26年10月14日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)について (1)本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、平成26年2月19日になされた手続補正によって補正された(以下「補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1に、 ア 「複製シムの製造に使用するための、十分な濃度のUV反応性官能基を有するUV硬化性組成物であって、 前記UV反応性官能基の濃度が、配合物1kgあたり2?7モルであり、 前記UV硬化性組成物が、アクリレートモノマー、オリゴマーおよびポリマー、光開始剤、ならびに場合によりケイ素および/またはフッ素含有化合物を含み、かつ前記複製シムが、一旦硬化すると、硬質物質を提供するために十分高い架橋密度および95%以上の重合度(1410cm^(-1)でのアクリレートバンドの消失を追跡することによって、ATR分光法によって測定)を示す前記組成物。」 とあったものを、 イ 「複製シムの製造に使用するための、十分な濃度のUV反応性官能基を有するUV硬化性組成物であって、 前記UV反応性官能基の濃度が、配合物1kgあたり2?7モルであり、 前記UV硬化性組成物が、アクリレートモノマー、オリゴマーおよびポリマー、光開始剤、ならびに場合によりケイ素および/またはフッ素含有化合物を含み、かつ前記複製シムが、一旦硬化すると、硬質物質を提供するために十分高い架橋密度および95%以上の重合度(1410cm^(-1)でのアクリレートバンドの消失を追跡することによって、ATR分光法によって測定)を示し、かつ前記複製シムは、200?450ワットの範囲の出力を有するUVランプによって硬化される、前記組成物。」(以下、「本願発明」という。)、 と補正するものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。 (2)特許請求の範囲についての本件補正は、平成26年7月15日付け拒絶査定における審査官の「先の拒絶理由において示しているように、UV硬化性組成物は、UVの照度、照射時間に応じて、その架橋密度、重合度が変化するものであることは、技術常識であって、同じ組成の組成物であっても、照射時間が少なければ、上記特定事項を満たさないこともあるし、照射時間が十分に多ければ、架橋、重合が進み、上記特定事項を満たすものとなることは、技術常識である。(照度、照射時間等の照射条件を特定してはじめて、「UV硬化性組成物」にとって「前記複製シムが、一旦硬化すると、硬質物質を提供するために十分高い架橋密度および95%以上の重合度(1410cm^(-1)でのアクリレートバンドの消失を追跡することによって、ATR分光法によって測定)を示す」との特定事項は、有意な特定事項となる。)」という指摘に基づき、補正前の請求項1の「複製シム」について、「200?450ワットの範囲の出力を有するUVランプによって硬化される」とした補正である。 (3)本件補正は、願書に最初に添付された明細書の「【0112】 UV光源は、ランプを含み得る。ランプは、200?450ワットの範囲の出力を有し得る。」の記載に基づく補正であって、特許法第17条の2第3項の要件を満たすものであり、且つ、審査官の特許法第36条第6項第2号の拒絶理由に対する補正であって、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる、明瞭でない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものである。 4 本願の特許請求の範囲の記載 本願の特許請求の範囲には請求項1ないし15が記載されているところ、その請求項1の記載は、上記3(1)イで示した本願発明のとおりである。 5 本願の発明の詳細な説明の記載 本願の発明の詳細な説明には次の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。 (1)「【0162】 実施例 配合物例 配合物1(アミノアクリレートを含まない) 【表1】 【0163】 配合物1を、厚さ6μmの巻き線バーコーターを用いてコロナ処理PMXホイル上に塗布し、1kgの圧力下でオリジナルシムと積層する。試料を、透明ホイルを通して異なるベルト速度および異なるランプ出力で中圧水銀ランプに露光し、光線量を変更する。硬化した複製シムを、その後、オリジナルシムから分離する。 【0164】 アクリレート架橋から生じる化学修飾を、ATRユニットを用いたIR分光法によって表面測定に関してモニターする(Digital FTIR Excalibur Spectrometer FTS 3000 MX)。アクリレート二重結合に特徴的な1410cm^(-1)でのIRバンドの消失をモニターすることによって、アクリレート二重結合の反応を定量的に決定する。清浄なUV硬化性ワニスをコロナ処理プラスチックホイル上に塗布し、同時にUV光に露光しつつ、複製シムによってエンボス加工する。複製シムの表面およびワニスが付着した順位で、品質を評価する。 【0165】 【表2】 」 (2)「【0166】 配合物2(アミノアクリレート+20%TMPTAを含まない) 【表3】 【0167】 配合物2を、太さ6μmの巻き線バーコーターを使用して、コロナ処理PMXホイル上に塗布し、1kgの圧力下でオリジナルシムと積層する。試料を、透明ホイルを通して、異なるベルト速度および異なるランプ出力で中圧水銀ランプに露光し、光線量を変更する。硬化した複製シムを、その後、オリジナルシムから分離する。 【0168】 アクリレート架橋から生じる化学修飾を、ATRユニットを用いたIR分光法によって表面測定に関してモニターする(Digital FTIR Excalibur Spectrometer FTS 3000 MX)。アクリレート二重結合に特徴的な1410cm^(-1)でのIRバンドの消失をモニターすることによって、アクリレート二重結合の反応を定量的に測定する。 【0169】 清浄なUV硬化性ワニスをコロナ処理プラスチックホイルに塗布し、同時にUV光に露光しながら、複製シムによってエンボス加工する。 【0170】 【表4】 」 (3)「【0171】 配合物3(アミノアクリレートを含む) 【表5】 【0172】 太さ6μmの巻き線バーコーターを用いて、配合物3をコロナ処理PMXホイル上に塗布し、1kgの圧力下でオリジナルシムと積層する。試料を様々なベルト速度および様々なランプ出力で透明ホイルを通して中圧水銀ランプに露光し、光線量を変更する。硬化した複製シムをその後オリジナルシムから分離する。 【0173】 アクリレート架橋の結果起こる化学修飾を、ATRユニットを用いたIR分光法によって表面測定に関してモニターする(Digital FTIR Excalibur Spectrometer FTS 3000 MX)。アクリレート二重結合の反応を、アクリレート二重結合に特徴的な1410cm^(-1)でのIRバンドの消失をモニターすることによって、定量的に測定する。清浄なUV硬化性ワニスをコロナ処理プラスチックホイルに塗布し、同時にUV光に露光しながら、複製シムによってエンボス加工する。 【0174】 【表6】 【0175】 配合物4(アミノアクリレート+30%TMPTAを含む) 【表7】 【0176】 配合物4を、太さ6μmの巻き線バーコーターを使用して、コロナ処理PMXホイル上に塗布し、1kgの圧力下でオリジナルシムと積層する。試料を、透明ホイルを通して、異なるベルト速度および異なるランプ出力で中圧水銀ランプに露光し、光線量を変更する。硬化した複製シムを、その後、オリジナルシムから分離する。 【0177】 アクリレート架橋の結果起こる化学修飾を、ATRユニットを用いたIR分光法によって表面測定に関してモニターする(Digital FTIR Excalibur Spectrometer FTS 3000 MX)。アクリレート二重結合の反応を、アクリレート二重結合に特徴的な1410cm^(-1)でのIRバンドの消失をモニターすることによって、定量的に測定する。複製シムを、その後、特許II/2-23569にしたがってUVによりホログラムをプリントするために使用する。 【0178】 【表8】 」 6 請求人の主張について (1)意見書において請求人が主張する内容は概略以下のとおりである。 「(1)理由1について 審査官殿のご指摘に鑑み、独立請求項1に、「前記UV反応性官能基の濃度が、配合物1kgあたり2?7モルであり、前記UV硬化性組成物が、アクリレートモノマー、オリゴマーおよびポリマー、光開始剤、ならびに場合によりケイ素および/またはフッ素含有化合物を含」む、との特徴を追加 する補正をし、UV硬化性組成物の組成をより明確にいたしました。 また、審査官殿は、本願の独立請求項1におけるアクリレートの重合度等については、十分なUV照射が行われれば当該重合度を満たすとのご指摘ではありますが、下記(2)理由2、3で述べているように、本願発明は、当該アクリレートの重合度(変換率)の違いにより、複製シムの表面へのワニスの付着の程度が明らかに異なることを見出している以上、当該発明特定事項は、有意な発明特定事項であることは明白であり、また、本願の独立請求項1は、「物」の発明であって、本願の実施例において、当該重合度の違いによって「物」の発明としての差違を表せることが示されている以上、本願の独立請求項1に係る発明は、当該アクリレートの重合度(変換率)の特定によって、十分に明確であります。 また、「十分な架橋密度」の記載については、審査官殿のご指摘に鑑み、「硬質物質を提供するために十分高い架橋密度」に変更する補正をし、当該架橋密度の程度をより明確にいたしました。 以上より、補正後の本出願は、特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たすものでありますから、もはや理由1は完全に解消されたものと確信いたします。」 (2)審判請求書において請求人が主張する請求の理由は概略以下のとおりである。 「3. 本願発明が特許されるべき理由 ・・・略・・・ (2)理由1について 審査官殿のご指摘に鑑み、独立請求項1において、「前記複製シムは、200?450ワットの範囲の出力を有するUVランプによって硬化される」の記載を追加する補正をいたしました。 すなわち、当該補正により、独立請求項1における「前記複製シムが、一旦硬化すると、硬質物質を提供するために十分高い架橋密度および95%以上の重合度(1410cm^(-1)でのアクリレートバンドの消失を追跡することによって、ATR分光法によって測定)を示」すための、UVの照射条件であるUVの照度が特定されていることから、相応して、当該UVの照度に応じ、上記の架橋度乃至重合度にするために要するUVの照射時間も調整されます。 このことは、本願の出願時(優先日)の技術常識、並びに本願の明細書の段落番号0130の「UV-シムの場合、光線量の増大(より高い光強度もしくはより長い露光時間)、光開始剤量の増大もしくは光開始剤のさらに反応性の高いものとの置換、または重合温度の上昇によって、高重合度が得られる」(但し、下線を付しました)の記載からもご理解いただけるものと思料いたします。 また、同様に、請求項5の「(c)光学的可変画像をUV硬化性組成物に付与し、例えば、UVランプ、または電子ビーム放射によって即座に硬化させ、複製シムを製造する工程」の記載を、「(c)光学的可変画像をUV硬化性組成物に付与し、200?450ワットの範囲の出力を有するUVランプによって即座に硬化させ、複製シムを製造する工程」に変更する補正をし、補正後の独立請求項1と記載を整合させました。 よって、上記補正により、本出願の補正後の特許請求の範囲の記載は、十分に明確であります。 以上より、本出願の補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものでありますから、もはや理由1は完全に解消されたものと確信いたします。」 (3)上申書において請求人が主張する請求の理由は以下のとおりである。 「2.前置報告書における拒絶の理由 前置報告書における特許査定できない理由は以下のとおりです。 「 請求項1?15についての補正は限定的減縮を目的としている。この場合、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。 しかしながら、「前記複製シムが、一旦硬化すると、硬質物質を提供するために十分高い架橋密度および95%以上の重合度(1410cm^(-1)でのアクリレートバンドの消失を追跡することによって、ATR分光法によって測定)を示し、かつ前記複製シムは、200?450ワットの範囲の出力を有するUVランプによって硬化される」との特定事項は、拒絶理由において説示しているように、権利範囲を確定するための要素が不足しており、特許を受けようとする発明が明確に把握できない。(例えば、「0165」では、組成が同じで、200W/cmのUVランプで硬化されるものであっても、10m/分で搬送されるものは、アクリレート変換率が100%であるのに対し、20m/分で搬送されるものは、アクリレート変換率が94%となっている。) したがって、本願補正発明は、特許法第36条第6項第2号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 また、前記特定事項は、有意な特定事項と認められないところ、本願補正発明のその余の特定事項を満足する発明は、引用文献等1?4に記載されている。 したがって、本願補正発明は、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものでもある。 よって、この補正は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 そして、この出願は原査定の理由に示したとおり拒絶されるべきものである。 ・・・略・・・ 4.審判請求人の主張 上記前置報告書における拒絶の理由は失当であることを以下に説明します。 (1)特許法第36条第6項第2号について 当該前置審査における審査官殿は、本願発明1に規定されている重合度を満たすための硬化条件には、UVの照度だけでは足りず、UVの照射時間も特定すべきであると指摘しています。 たしかに、硬化条件として当該UVの照射時間も特定されれば、本願発明1の記載はより明確であります。 しかしながら、本願発明1には、上述のように、目的とする複製シムの重合度(95%以上の重合度)及びその硬化条件としてのUV照度(200?450ワットの範囲)が既に特定されています。 また、例えば、本出願の実施例中の配合物1を使用した際のアクリレート変換率及びその硬化条件と、配合物3を使用した際のアクリレート変換率及びその硬化条件とを比較すれば、使用される配合物(この比較の場合にはアミノアクリレートの有無)に応じて、目的とする複製シムの重合度を得るためにUVの照射時間が調整されることが示されています。 それ故、当業者であれば、本願発明1において特定されているUV照度の範囲内(200?450ワットの範囲)内でUVの照射時間を調整し、目的とする複製シムの重合度(95%以上の重合度)を得ることは十分可能であります。 したがって、本願発明1の記載事項には技術的な不備は存在しておらず、それ故、権利範囲を確定するための要素は不足していないことから、当該前置報告書における審査官殿の指摘は失当であります。 なお、本出願の明細書において、UVの照射時間の具体的な数値については実施例にしか記載されていません。 これは、目的とする複製シムの重合度及びその硬化条件としてのUV照度さえ明細書中に示されていれば、残りの硬化条件であるUVの照射時間は、単なる調整事項であることを意図していたからであることも付言いたします。 したがって、上述の説明並びに本出願の明細書中の記載から、本願発明1及びそれに直接若しくは間接的に従属する請求項2?15(本願発明2?15)の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであり、それ故、本出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの、当該前置報告書における審査官殿の認定は誤りです。」 7 当審の判断 (1)本願発明を再掲すると、本願発明が「複製シムの製造に使用するための、十分な濃度のUV反応性官能基を有するUV硬化性組成物であって、前記UV反応性官能基の濃度が、配合物1kgあたり2?7モルであり、前記UV硬化性組成物が、アクリレートモノマー、オリゴマーおよびポリマー、光開始剤、ならびに場合によりケイ素および/またはフッ素含有化合物を含み、かつ前記複製シムが、一旦硬化すると、硬質物質を提供するために十分高い架橋密度および95%以上の重合度(1410cm^(-1)でのアクリレートバンドの消失を追跡することによって、ATR分光法によって測定)を示し、かつ前記複製シムは、200?450ワットの範囲の出力を有するUVランプによって硬化される、前記組成物。」のように特定され、本願発明は「UV硬化性組成物」という物の発明であるところ、「十分な濃度のUV反応性官能基を有するUV硬化性組成物」、「一旦硬化すると、硬質物質を提供するために十分高い架橋密度および95%以上の重合度・・・を示し」、「UVランプによって硬化される」との記載からみて、本願発明の「UV硬化性組成物」は、硬化、重合を行う前の組成物である。 (2)本願発明の「前記複製シムが、一旦硬化すると、硬質物質を提供するために十分高い架橋密度および95%以上の重合度(1410cm^(-1)でのアクリレートバンドの消失を追跡することによって、ATR分光法によって測定)を示し、かつ前記複製シムは、200?450ワットの範囲の出力を有するUVランプによって硬化される」なる発明特定事項(以下、「硬化に関する特定事項」という。)は、「UV硬化性組成物」を硬化して複製シムを製造する際に用いるUVランプの出力が200?450ワットであること、及び、硬化後の物質が十分に高い架橋密度及び95%以上の重合度を示すことを規定しているところ、当該規定は「UV硬化性組成物」を材料(製造前物質)とする製造条件に関する構成の一部や、当該製造方法により製造された後の物の特性の一部のみを規定するものであって、製造前の物質である「UV硬化性組成物」の構成を規定するものではない。そして、特許請求の範囲において、これら複製シムの製造条件や製造後の物質の特性を記載しても、当該製造条件や製造後の物質の特性が、当該製造前のUV硬化性組成物のどのような構造又は特性を表しているかについては、たとえ本件出願の発明の詳細な説明の記載や技術常識等を参酌しても当業者が明確に理解することができるとはいえないことは、以下のとおりである。 (3)具体的には、上記5(1)ないし(3)で摘記した本願の発明の詳細な説明の記載に依れば、「配合物1」ないし「配合物4」は、いずれもUV硬化時の光線量の大小に応じて、95%以上の重合度の硬化物にも、95%未満の重合度の硬化物にもなり得るものである。 しかるに、上記硬化に関する特定事項が、仮に、実際に、出力が200?450ワットのUVランプを用いて、十分に高い架橋密度及び95%以上の重合度の硬化物に硬化することを要件とするのだとすると、未硬化の「UV硬化性組成物」である前記「配合物1」ないし「配合物4」について、上記硬化に関する特定事項を満足するのか否かが決定できないのだから、当該硬化に関する特定事項を明確であるということはできない。 一方、上記硬化に関する特定事項が、単に、出力が200?450ワットのUVランプを用いて、十分に高い架橋密度及び95%以上の重合度の硬化物に硬化することが可能であることを要件とするに止まるのだとすると、前記「配合物1」ないし「配合物4」はいずれも上記硬化に関する特定事項を満足する「UV硬化性組成物」であるということになるものの、そもそも、出力が200?450ワットのUVランプを用いて十分に長いUV照射を行えば、如何なる「UV硬化性組成物」であっても「十分に高い架橋密度及び95%以上の重合度」の硬化物が得られるのか、それとも、特定の物質を成分とする組成物であるとか、あるいは各成分の含有比が特定の条件を満たす組成物であるといった何らかの条件が加わらないと、出力が200?450ワットのUVランプを用いて十分に長いUV照射を行っても、「十分に高い架橋密度及び95%以上の重合度」の硬化物が得られないのかが不明であるから、やはり当該硬化に関する特定事項を明確であるということはできない。 結局のところ、上記硬化に関する特定事項が、硬化、重合を行う前の「UV硬化性組成物」という物のどのような構成(成分、含有量、特性等)を特定しているのかを理解することができない。 (4)本願発明は、上記(1)で述べたとおり、硬化、重合を行う前の「UV硬化性組成物」という物の発明であるから、「UV硬化性組成物」という物のどのような構成(成分、含有量、特性等)を特定しているのかを理解することができない上記硬化に関する特定事項を有する本願発明を明確であるということはできない。 8 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-10-05 |
結審通知日 | 2015-10-13 |
審決日 | 2015-10-26 |
出願番号 | 特願2010-533536(P2010-533536) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(G03H)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 亮治 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
鉄 豊郎 清水 康司 |
発明の名称 | 光学的可変画像担持シムの製造方法 |
代理人 | 篠 良一 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 久野 琢也 |