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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1312328
審判番号 不服2014-18919  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-22 
確定日 2016-03-09 
事件の表示 特願2012-547312「生物検体を高速フォーカス撮像する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年7月7日国際公開,WO2011/082344,平成25年5月13日国内公表,特表2013-516650〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
本件出願は,特許法184条の3第1項の規定により,2010年12月30日(優先権主張 平成21年12月31日 アメリカ合衆国)にされたとみなされる特許出願であって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成25年10月 7日:拒絶理由通知(同年同月15日発送)
平成26年 2月13日:意見書
平成26年 2月13日:手続補正書
平成26年 5月14日:拒絶査定(同年同月20日送達)
平成26年 9月22日:手続補正書
(以下,この手続補正書による補正を「本件補正」という。)
平成26年 9月22日:審判請求
平成26年12月26日:前置報告
平成27年 8月20日:上申書

2 本件補正について
(1) 本件補正の内容
ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び13は,以下のとおりである。
「【請求項1】
チャンバー内に静止状態で存在する生物学的液体サンプルを撮像する方法であって,
Z軸と平行なレンズ軸を有する対物レンズに対して,チャンバーをZ軸位置に位置させるステップと,
一方又は両方のチャンバー及び対物レンズを互いに対して移動させるステップと,
Z軸に沿ったフォーカス検索範囲内を一方又は両方のチャンバー及び対物レンズが互いに対して移動している時に,生物学的液体サンプルの一以上の画像を生成するステップと,を備え,
画像が生成される時に,一方又は両方のチャンバー及び対物レンズを互いに対してZ軸に沿って一定速度で移動させ,
画像を生成するステップは,フォーカス検索範囲内でZ軸に関連付けられると共に,定量可能なフォーカス・インデックスを有する画像の周期的な生成を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
一定速度は,画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値よりも低い請求項1記載の方法。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりである。
「【請求項1】
チャンバー内に静止状態で存在する生物学的液体サンプルを撮像する方法であって,
Z軸と平行なレンズ軸を有する対物レンズに対して,チャンバーをZ軸位置に位置させるステップと,
一方又は両方のチャンバー及び対物レンズを互いに対して移動させるステップと,
Z軸に沿ったフォーカス検索範囲内を一方又は両方のチャンバー及び対物レンズが互いに対して移動している時に,生物学的液体サンプルの一以上の画像を生成するステップと,を備え,
画像が生成される時に,一方又は両方のチャンバー及び対物レンズを互いに対してZ軸に沿って一定速度で移動させ,
画像を生成するステップは,フォーカス検索範囲内でZ軸に関連付けられると共に,定量可能なフォーカス・インデックスを有する画像の周期的な生成を含み,
一定速度は,画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値よりも低く設定される
ことを特徴とする方法。」

(2) 補正について
本件補正前の請求項13に係る発明(以下「本件補正前発明」という。)と本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,方法の発明として相違するところがないから,本件補正は,請求項1を削除し,本件補正前の請求項13を本件補正後の請求項1に繰り上げたものといえる。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項1号に掲げる,特許法36条5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である。

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,この出願の請求項13に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用例1,2及び4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用例1:特表2003-501693号公報
引用例2:特開2003-315684号公報
引用例4:特開2004-21185号公報

第2 当審判体の判断
1 引用例の記載及び引用発明等
(1) 引用例1の記載
引用例1には,以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は,自動焦点システム,特に広範囲の種々の顕微鏡,例えば限定するわけではないが,蛍光顕微鏡又は位相差顕微鏡用に適した自動焦点システムに関する。
【0002】
【技術的背景】
高処理量スクリーニングの導入に伴って薬品研究における定量的顕微鏡術が重要になってきている。顕微鏡像の完全自動獲得は,形態変化の調査を考慮に入れた自動画像解析システムと結び付いた付随的な作業である。生きている細胞の動力学における化学薬品の効果を明らかにするには時間がかかる。病理学的変容を定量化するために,固定された組織部分の組織化学的評価が使用される。
【0003】
自動スクリーニングにおける重要な段階は焦点合わせである。顕微鏡像の獲得のための迅速かつ信頼し得る自動焦点方法が,大規模な日常的な使用には不可欠である。また,1回の撮影フィールドより大きい面積を走査する必要のある完全自動化顕微鏡ベースの画像処理システムにも自動焦点が要求される。顕微鏡の機械的な不安定性,及び標本及び/又は容器,例えばガラススライドの不規則性を含んだ種々の要因から,この自動焦点に対する要求が生じた。例えば,不均一に分布された熱源として作用するランプを持った顕微鏡における数ミクロンの不安定については熱膨張を考えることができる。顕微鏡の段階的駆動用モーターと歯車との間のバックラッシュから機械的不安定が生ずる。好ましくは,自動焦点アルゴニズムは,多くの種類の顕微鏡及び多種の標本作製技術と標本の形式に一般に応用できなければならない。自動焦点は文献上では以前からの話題であるが,かかる一般に適用し得る解はない。これら方法は,1種類の画像化モードのために設計されることが多い。更に,蛍光顕微鏡の焦点面を決めるためになされる仮定が,位相差顕微鏡においては成り立たないことが多い。光学顕微鏡において一般に適用し得る方法に対する古くからの要求がある。」

イ 「【0008】
本発明の目的は,種々の顕微鏡モードに一般に応用し得る自動焦点法を提供することである。
【0009】
本発明の更なる目的は,高処理能力スクリーニングのような付随的な作動環境に特に適した自動焦点法を提供することである。
【0010】
本発明の更なる目的は,時間とともに変化する画像を獲得し監視するために特に適した自動焦点法を提供することである。
【0011】
本発明のなお更なる目的は,ノイズ,光のアーティファクト,及び組織標本表面上のダストのような顕微鏡検査に共通の混乱要因に対して強い自動焦点法を提供することである。」

ウ 「【0031】
図2は,本発明による自動焦点システムを適用し得る光学装置,顕微鏡システム1を示す。
【図2】

システム1のハードウエア構成要素は,顕微鏡1,XYモーター3の対とZモーター5とにより制御される電動化された標本台2,XYZ標本台制御器6,ビデオカメラ7,ビデオフレームグラバー8のある画像プロセッサー及びホストプロセッサー9を備える。ビデオフレームグラバーを有する独立した画像プロセッサーを提供することができるが,本発明は,これには限定されない。XYZ標本台制御器は,X,Y及びZ方向における運動を独立して制御する。Z方向は顕微鏡10の光学軸に沿っている。典型的に顕微鏡標本台2は,コンピューターの制御下でステップモーター又はDCサーボモーターにより横方向及び垂直方向で動かされるであろう。この例の説明において,適切な構成要素が,以下,より詳細に説明される。顕微鏡10により観察すべき標本4は,標本台2の上に置かれる。ランプ,例えば蛍光ランプ,及びその他の光学的補機は,熟練者に公知であり説明されないであろう。
【0032】
本発明は(直交する3方向で動く)XYZ標本台2を引用して主に説明されるが,本発明はこれに限定されない。焦点合わせを得るためには,顕微鏡10の対物レンズ11と標本4との間の相対運動に対する要求があるだけである。これを達成する方法が本発明の限界であることは予想されない。
【0033】
本発明は,標本を光学軸に沿って動かすのではなくて,焦点位置を決定するために対物レンズ11が調節される光学装置も含む。かかる光学装置においては,対物レンズ11は,圧電式対物レンズ位置決め機構のようなホストプロセッサーにより制御し得る適宜適切な調節装置により調整することができる。位置決め機構は対物レンズターレットと対物レンズ11との間に挟まれる。かかる位置決め機構は,Polytech,PI,Costa mesa,Cal.,USAより入手可能である(例えばE-810.10閉ループ制御器)。かかるシステムにより,標本を顕微鏡の光学軸に沿って動かす代わりに,対物レンズ11が調節される。対物レンズと標本の運動の組合せも本発明の範囲内に含まれる。
【0034】
本発明により,焦点スコアの測定は,線形濾過された画像のエネルギー内容に最もよく基づくことができる。更に,最適の焦点スコアは,好ましくは勾配フィルターによる出力である。」

エ 「【0040】
本発明によるデジタル勾配フィルターは,図3AからCの濾過関数により示されたような1次元濾過には限定されない。
【図3A】

【図3B】

【図3C】

本発明の実施例による2次元勾配フィルター関数の3次元表現が図3Dに図式的に示される。
【図3D】

図3Dは,2次元正規ガウス曲線の2次元空間導関数を示す。X軸とY軸とは獲得された画像の平面内にあり,かつ単位として画素数を持つ。Z軸は,濾過過程において使用された関連画素数に適用される重みを示す。原点0,0,0は濾過すべき画素上にある。関数は,正と負の各1個の2個の3次元ローブを持つ。この2個のローブの原点は濾過すべき画素と一致することが好ましい。図3Eに図式的に示されたようなローブの方向の回転も,本発明内に含まれ,これが濾過の有効性を減らすことはない。
【図3E】

【0041】
本発明の画像フィルターの好ましい一実施例により,図3Dに示されたような2次元ガウス導関数が,焦点スコアを測るために,画像の面(方向zが画像化すべき標本に直角である,即ち方向zが焦点方向であるx,y,z座標系の,x,y座標軸)内で使用される。ガウスフィルターのσが濾過の範囲を決定し,かつこれは重要な特徴の尺度に関係する。適切な焦点関数は次の通りである。
【0042】
【数1】

【0043】
ここに,f(x,y)は画像のグレー値,Gx(x,y,σ)とGy(x,y,σ)とは,尺度σにおけるx方向及びy方向の1次のガウス導関数であり,NMは画像内の画素の総数であり,そしてfx,fyはそれぞれx方向とy方向における尺度σでの画像の導関数である。更に,ガウス勾配フィルターの説明が,Haar Romey BM,Geometry driven Diffusion in Computer Vision,Boston,Kluwer academic Publishers,1999,pp.439及びJ.F.Cannyの方法を説明するTraitement de l'image sur microordinateur,Jean-Jacques Toumazet,Sybex,1987,pp.156-158に見いだすことができる。
【0044】
ある特定の顕微鏡の設定に対して,ノイズ感度とデテール感度との間のトレードオフがしばしば観察される。例えば蛍光顕微鏡においては,信号対ノイズ比(SNR)が小さく,比較的平滑な画像が調査されることが多い。位相差顕微鏡においてはSNRが大きく,かつ小さいデテール(相転移)は,決して検出されない。自動焦点の精度は,焦点スコアフィルターを通して伝えられる信号対ノイズ比に依存する。本発明の実施例により,ガウスフィルターのσは,これが画像の大きさについて3画素の範囲内にあるように,オペレーターが自由に選ぶことができる。σの値は,ノイズが最大に抑制され,かつ画像内の対象のデテールに対する応答が保存されるように選ばれることが好ましい。棒状構造については,σの値は次式に適合することが好ましい。
【0045】
【数2】

【0046】
ここに,バーの太さはdにより与えられる。焦点合わせをすべき最小のデテールがバー状であるとすれば,式(2)がσの値の標示を与える。顕微鏡の焦点面は位置zの始点の付近の予め定められた区間Δz内にあるとする。走査用標本台は,位置z_(min)=z-1/2・Δzに下方に動かされる。常に同じ方向から焦点位置に接近することにより,例えば標本台を必要量より更に下方に送りそしてこれを再び所与位置に上昇させることにより,バックラッシュの修正が行われる。結果として,歯車の機械的許容差が無くされる。
【0047】
t=0msのとき,標本台制御器が,標本台を,全焦点区間Δzを移動するための上昇を開始させる。焦点を通る標本台の連続運動中に,40ms区間において,又はその他の標準ビデオ速度で標本の連続画像が獲得される。次いで,獲得された各画像の焦点スコアが計算される。本発明の好ましい実施例により,次のビデオフレーム用として画像バッファーが再使用される。これには,常に作動する2個の画像メモリバッファーを要するだけである。一方のバッファーは,先に獲得された画像の焦点スコア計算に要するデータを提供するために使用され,他方のバッファーは次の画像の獲得するために使用される。従って,焦点スコアの計算は1ビデオフレーム時間内で行われることが好ましい。
【0048】
標本台が焦点区間の終わりに達すると直ちにt=tdmsにおいてタイミングが停止される。全焦点区間についての焦点スコアの結果から焦点曲線の見積りが得られる。焦点曲線に対する見積りにおける大域的最値適が,標本の最終的な焦点位置として使用すべき焦点面を表す。各z位置は,対応画像が獲得されたときから計算される。標本台が直線運動するとすれば,時間tiにおける画像の位置は次式に対応して得られる。
【0049】
【数3】

【0050】
ここに,t_(d)は移動継続時間を表し,Δzは焦点区間であり,そしてz_(min)は出発位置(t=0msにおける位置)である。
【0051】
焦点曲線は焦点面の付近で放物線であるとすることが安全であることが見いだされた。これから,二次内挿法により高い焦点精度を達成することができる。標本台の線形運動をする,又はz=vt+z_(min)であると仮定すると,焦点面付近の焦点曲線は次式で近似される。
【0052】
【数4】

【0053】
検出された最適値を通る放物線とその近傍の測定値とを適合させることにより正確な焦点位置が得られる。時間t=t_(0)において検出された最適値s(t_(0))=s_(0)を考える。時間軸は,時間t=0において最適値が検出されるように決め直すことができる。次いで,近傍のスコアがそれぞれ(s_(n),t_(n))及び(s_(p),t_(p))で与えられる。a,b及びcについて解くと次式が得られる。
【0054】
【数5】

【0055】
放物線のピーク値,従って焦点位置までの経過時間が次式で与えられる。
【0056】
【数6】

【0057】
焦点面は,次式で与えられた位置にある。
【0058】
【数7】

【0059】
標本は,バックラッシュを考慮してここに動かされる。
【0060】
光学系の焦点深度は,満足できる鮮鋭度でデテールを観察し得る焦点面からの軸方向距離として定義される。このとき,焦点において考え得るスライスの厚さは次式で与えられる。
【0061】
【数8】

【0062】
ここに,nは媒体の屈折率,λは使用された光の波長,そしてNAは対物レンズの開口数である。焦点曲線は,z_(d)間隔で測定されたときナイキスト速度でサンプリングされる。通常のビデオハードウエアは,一定速度でフレームを獲得する。このため,焦点曲線のサンプリング密度は,ビデオ時間フレーム当たり標本台移動速度z_(d)μmの調整により影響されるだけである。
【0063】
本発明は,焦点スコアが,σの一つの値で濾過した後で十分に良好でない場合,或いは焦点スコアをある多項式,例えば放物線に適合させようとする試みが成功しない場合,例えば焦点スコア内に最大値が宣告されない場合の追加の方法も含む。本発明の一実施例により,濾過段階がσの別の値で繰り返される。σのこの第2の値は,ホストプロセッサー9により自動的に設定することができる。例えば,適切な焦点スコア又はその最大値が得られなかったならば,ホストプロセッサー9は,σの値を大きくして焦点合わせ段階を繰り返す。或いは又は追加して,適切な焦点スコア又は焦点スコアの最大値が得られなかった場合は,焦点合わせをするために使われたフィールドに隣接した標本のフィールドを選ぶことができ,そして本発明による焦点合わせ段階が繰り返される。この方法は,新しいフィールド位置におけるσの別の値を電子的に設定し,再び焦点段階を繰り返すことにより拡張することができる。所定回数失敗した後に,自動焦点手順を終了させることができ,又は焦点合わせが不可能であったことを示すために,何かの方法で,標本に目印を付けることができる。」

(2) 引用発明
引用例1には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。なお,段落番号は,引用発明の認定に活用した引用例1の記載箇所を示すために併記したものである。)。
「 【0031】顕微鏡システム1は,顕微鏡1,XYモーター3の対とZモーター5とにより制御される電動化された標本台2,XYZ標本台制御器6,ビデオカメラ7,画像プロセッサー及びホストプロセッサー9を備え,XYZ標本台制御器は,X,Y及びZ方向における運動を独立して制御し,Z方向は顕微鏡10の光学軸に沿っていて,顕微鏡10により観察すべき標本4は,標本台2の上に置かれ,
【0032】焦点合わせを得るためには,顕微鏡10の対物レンズ11と標本4との間の相対運動に対する要求があり,【0046】顕微鏡の焦点面は位置zの始点の付近の予め定められた区間Δz内にあるとして,走査用標本台は,位置z_(min)=z-1/2・Δzに下方に動かされ,【0047】t=0msのとき,標本台制御器が,標本台を,全焦点区間Δzを移動するための上昇を開始させ,焦点を通る標本台の連続運動中に,40ms区間において,又はその他の標準ビデオ速度で標本の連続画像が獲得され,次いで,獲得された各画像の焦点スコアが計算され,【0048】標本台が焦点区間の終わりに達すると直ちにt=t_(d)msにおいてタイミングが停止され,全焦点区間についての焦点スコアの結果から焦点曲線の見積りが得られ,焦点曲線に対する見積りにおける大域的最値適が,標本の最終的な焦点位置として使用すべき焦点面を表し,
各z位置は,対応画像が獲得されたときから計算され,標本台が直線運動するとすれば,時間tiにおける画像の位置は次式に対応して得られ,
【0049】【数3】

【0050】t_(d)は移動継続時間を表し,Δzは焦点区間であり,そしてz_(min)は出発位置(t=0msにおける位置)であり,
【0051】焦点曲線は焦点面の付近で放物線であるとすることが安全であり,二次内挿法により高い焦点精度を達成することができる,
【0008】自動焦点法。」

(3) 引用例2記載事項
引用例2には,以下の事項が記載されている(以下「引用例2記載事項」という。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は顕微鏡用の自動焦点方法に関する。
【0002】本発明はまた顕微鏡の焦点を調整する装置にも関する。特に,本発明の装置は次の品目,すなわち,相対運動が対物レンズと顕微鏡試料台との間のZ方向で生成され得るような,作動位置に配置した対物レンズと顕微鏡試料台,試料の画像を取得するために顕微鏡に接続されるカメラ,顕微鏡制御装置,および少なくとも1つの結線を介して顕微鏡制御装置に接続されるコンピュータとを有する顕微鏡に関する。」

イ 「【0008】本願請求項1に係る発明は,顕微鏡用の自動焦点方法であって,前記顕微鏡が,Z方向の相対運動が顕微鏡試料台と作動位置に配置した対物レンズとの間で達成され得るように構成される方法であって,
a)前記顕微鏡試料台と前記対物レンズとの間における前記Z方向の前記相対運動の連続実行中に,画像をカメラによって取得する工程と,
b)前記相対運動によって到達する,前記画像が前記カメラによって読み取られるZ位置を決定する工程と,
c)前記読み取った画像に対するコントラスト価値関数を計算する工程と,
d)前記相対運動によって到達した前記Z位置,および前記関連コントラスト価値関数を記憶する工程と,
e)前記Z方向の前記相対運動によって定義済み最終位置に到達するまで,工程a)?d)を実行する工程と,
f)連続コントラスト価値関数を前記様々なZ位置から確認する工程であって,前記コントラスト価値関数は前記それぞれのZ位置に属する工程と,
g)前記連続コントラスト価値関数から,最大コントラスト値および関連Z位置を計算する工程と,
h)前記最大コントラスト値に関連する前記Z位置に到達する工程と,を含むことを特徴とする。」

ウ 「【0015】以下の説明の場合,Z位置の変位が,顕微鏡試料台18のZ方向Zにおける変位として理解されるべきである。焦点関数が顕微鏡制御装置4によって開始される場合に,開始位置26への到達が焦点関数の始まりで起きる。開始位置26(図2)への到達は,瞬間的位置z_(0)から開始位置z_(1)=z_(0)-r/2へ実行される。ここで,rはZ方向Zにおける捜索領域(焦点捕獲領域と呼ばれる)である。原則として,焦点捕獲領域は理想焦点位置の両側にかかる範囲である。次に,顕微鏡2のZ駆動(または顕微鏡試料台18)の動き28が一定速度で起きる。焦点捕獲領域を通しての動き28は,最終位置z_(2)=z_(0)+r/2に到達するまで実行される。Z駆動の動きと同時に実行される,画像30の取得がビデオカメラ20によって達成される。これに関連して,画像は最大可能周波数(例えば1秒当り25画像)で連続して取得される。これらの画像のディジタル化32が,コンピュータ6内に存在するフレーム取込み器によって実行される。時間スケール39(任意単位)もまた図2に示される。瞬間的Z位置の決定36,顕微鏡2のZ駆動の動き28,および画像30の取得が同時に起こることが,これから明らかである。全時間中(T=0からT=Eまで),適当な焦点位置が設定されるまで,顕微鏡試料台18はほんの最短に停止させられることにも留意すべきである。捕獲領域(最適焦点位置が配置される領域)を貫く動きと焦点位置への次の動きとの間に,その焦点位置の計算による決定が実行される(補間)。最小期間の割込みが2つの動きの間に起こる。」

(4) 引用例4記載事項
引用例4には,以下の事項が記載されている(以下「引用例4記載事項」という。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,標本の観察に用いられる顕微鏡用焦点検出装置およびそれを備えた顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より,顕微鏡用の焦点検出装置として,画像コントラスト方式を採用した構成が知られている。画像コントラスト方式とは,標本の像を画像として取り込み,その画像のコントラストに基づいて焦点検出を行う方式である。」

イ 「【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の顕微鏡用焦点検出装置は,対物レンズを介して形成される標本の像のコントラストを周期的に検出する検出手段と,前記検出手段による検出結果に基づいて,前記標本と前記対物レンズとの相対的な位置関係を所定の速度で連続的に変更する変更手段と,前記コントラストの検出周期と前記位置関係の変更速度との関係を調整する調整手段と,前記調整手段による調整結果に基づいて前記検出手段および前記変更手段を制御して焦点検出を行う制御手段とを備えたことを特徴とする。」

ウ 「【0038】
Z軸サーチ速度は以下の式を用いて算出される。
Z軸サーチ速度(μm/S)=Zarea[ ]×Mcyc÷8・・・式1
式1のZarea[ ]は対物レンズ12の倍率に対応した合焦可能範囲であり,Mcycはサンプリング周期である。
また,式1の「8」の部分は,合焦可能範囲内で8回程度サンプリング(コントラストの検出)を行うことを意味する。合焦可能範囲内で8回程度サンプリングを行うことにより,合焦位置Zpを大まかに見つけることができる。
【0039】
そして,CPU17は,算出したZ軸サーチ速度を,メモリ18のZspeed[ ]の領域に,レボルバ穴の番号に対応付けて記憶する(図4(e)参照)。
また,Z軸ステップ送り量は,以下の式を用いて算出される。
Z軸ステップ送り量(μm)=2×λ÷{2×(Mobj_na[ ])^(2)×4}・・・式2
式2のλは照明装置による照明光の波長であり,Mobj_na[ ]は対物レンズ12の開口数である。
【0040】
また,式2の「4」の部分は,焦点深度内で4回程度サンプリング(コントラストの検出)を行うことを意味する。焦点深度内で4回程度サンプリングを行うことにより,高精度で焦点検出を行い合焦位置Zpに位置決めすることができる。そして,CPU17は,算出したZ軸ステップ送り量を,メモリ18のZstep[ ]の領域に,レボルバ穴の番号に対応付けて記憶する(図4(f)参照)。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア チャンバーをZ軸位置に位置させるステップ
引用発明の「顕微鏡システム1は,顕微鏡1,XYモーター3の対とZモーター5とにより制御される電動化された標本台2,XYZ標本台制御器6,ビデオカメラ7,画像プロセッサー及びホストプロセッサー9を備え,XYZ標本台制御器は,X,Y及びZ方向における運動を独立して制御し,Z方向は顕微鏡10の光学軸に沿っていて,顕微鏡10により観察すべき標本4は,標本台2の上に置かれ」ているところ,「焦点合わせを得るためには,顕微鏡10の対物レンズ11と標本4との間の相対運動に対する要求があり」,また,「焦点を通る標本台の連続運動中に,40ms区間において,又はその他の標準ビデオ速度で標本の連続画像が獲得され」る。さらに,引用発明が前提とする座標空間は,X,Y及びZ方向で定義される空間であるから,焦点を通るZ方向の直線が存在する(以下「Z方向直線」という。)。
ここで,引用発明の「Z方向直線」,「光学軸」及び「対物レンズ11」は,それぞれ,本願発明の「Z軸」,「レンズ軸」及び「対物レンズ」に相当する。また,引用発明の「標本4」と本願発明の「チャンバー」は,ともに,「撮像対象」である点で共通する。
したがって,引用発明における,「顕微鏡10により観察すべき標本4は,標本台2の上に置かれ」るという構成(以下「配置工程」と略称する。)と,本願発明の「Z軸と平行なレンズ軸を有する対物レンズに対して,チャンバーをZ軸位置に位置させるステップ」は,「Z軸と平行なレンズ軸を有する対物レンズに対して,」撮像対象「をZ軸位置に位置させるステップ」の点で共通する。

イ 移動させるステップ
引用発明において,「焦点合わせを得るためには,顕微鏡10の対物レンズ11と標本4との間の相対運動に対する要求があり」,「走査用標本台は,位置z_(min)=z-1/2・Δzに下方に動かされ,t=0msのとき,標本台制御器が,標本台を,全焦点区間Δzを移動するための上昇を開始させ」,「標本台が焦点区間の終わりに達すると直ちにt=t_(d)msにおいてタイミングが停止され」る(以下「相対運動工程」と略称する。)。
したがって,引用発明の「相対運動工程」と本願発明の「一方又は両方のチャンバー及び対物レンズを互いに対して移動させるステップ」は,「一方又は両方の」撮像対象「及び対物レンズを互いに対して移動させるステップ」の点で共通する。

ウ 画像を生成するステップ
引用発明では,「t=0msのとき,標本台制御器が,標本台を,全焦点区間Δzを移動するための上昇を開始させ,焦点を通る標本台の連続運動中に,40ms区間において,又はその他の標準ビデオ速度で標本の連続画像が獲得され」ている(以下「連続画像獲得工程」と略称する。)。
ここで,引用発明の「全焦点区間ΔZ」及び「画像」は,それぞれ,本願発明の「フォーカス検索範囲」及び「画像」に相当する。
したがって,引用発明の「連続画像獲得工程」と本願発明の「Z軸に沿ったフォーカス検索範囲内を一方又は両方のチャンバー及び対物レンズが互いに対して移動している時に,生物学的液体サンプルの一以上の画像を生成するステップ」は,「Z軸に沿ったフォーカス検索範囲内を一方又は両方の」撮像対象「及び対物レンズが互いに対して移動している時に,」「一以上の画像を生成するステップ」の点で共通する。

エ 画像の周期的な生成
引用発明では,「焦点を通る標本台の連続運動中に,40ms区間において,又はその他の標準ビデオ速度で標本の連続画像が獲得され,次いで,獲得された各画像の焦点スコアが計算され」ている。また,引用発明の「相対運動工程」における「各z位置は,対応画像が獲得されたときから計算され,標本台が直線運動するとすれば,時間tiにおける画像の位置は次式に対応して得られ,
【数3】

t_(d)は移動継続時間を表し,Δzは焦点区間であり,そしてz_(min)は出発位置(t=0msにおける位置)であ」る。
ここで,引用発明の「焦点スコア」は,焦点位置でピーク値を取り放物線近似される(段落【0055】)評価値であるから,本願発明の「フォーカス・インデックス」に相当する。
したがって,引用発明の「連続画像獲得工程」は,本願発明の「画像を生成するステップは,フォーカス検索範囲内でZ軸に関連付けられると共に,定量可能なフォーカス・インデックスを有する画像の周期的な生成を含み」の要件を満たす。

オ 撮像する方法
本願発明は,フォーカスを合わせるための各ステップを,発明特定事項として具備する。その一方,本願発明は,その後に行われるはずの,フォーカスが合った画像を撮像又は選択するステップを,発明特定事項として具備しない。したがって,本願発明の「チャンバー内に静止状態で存在する生物学的液体サンプルを撮像する方法」とは,フォーカスを合わせるために行われる撮像方法のことを意味すると解される。
そうしてみると,引用発明の「自動焦点法」と,本願発明の「チャンバー内に静止状態で存在する生物学的液体サンプルを撮像する方法」は,「撮像する方法」の点で共通する。
なお,仮に,本願発明の「チャンバー内に静止状態で存在する生物学的液体サンプルを撮像する方法」が,発明特定事項として明示された各ステップの後,フォーカスが合った画像を撮像又は選択するステップを含む一連の方法全体のことを意味するとしても,引用発明においても,「自動焦点法」の後に焦点が合った状態で撮像するステップが存在することは自明であり(引用例1の段落【0057】?【0059】の記載からも理解できる事項である。),あるいは,焦点が合った画像を選択する方法(いわゆるフォーカスブラケット)は周知慣用技術にすぎない。

(2) 本願発明と引用発明は,以下の構成において,一致ないし共通する。
「 撮像する方法であって,
Z軸と平行なレンズ軸を有する対物レンズに対して,撮像対象をZ軸位置に位置させるステップと,
一方又は両方の撮像対象及び対物レンズを互いに対して移動させるステップと,
Z軸に沿ったフォーカス検索範囲内を一方又は両方の撮像対象及び対物レンズが互いに対して移動している時に,一以上の画像を生成するステップと,を備え,
画像を生成するステップは,フォーカス検索範囲内でZ軸に関連付けられると共に,定量可能なフォーカス・インデックスを有する画像の周期的な生成を含む,方法。」

(3) 本願発明と引用発明の相違点は,以下のとおりである。
ア 相違点1
本願発明の「撮像する方法」は,「チャンバー内に静止状態で存在する生物学的液体サンプルを」撮像する方法であり,したがって,本願発明は,Z軸と平行なレンズ軸を有する対物レンズに対して,「チャンバー」をZ軸位置に位置させるステップと,一方又は両方の「チャンバー」及び対物レンズを互いに対して移動させるステップと,Z軸に沿ったフォーカス検索範囲内を一方又は両方の「チャンバー」及び対物レンズが互いに対して移動している時に,「生物学的液体サンプルの」一以上の画像を生成するステップと,を備えるのに対して,引用発明は,これが特定されていない点。

イ 相違点2
本願発明は,「画像が生成される時に,一方又は両方のチャンバー及び対物レンズを互いに対してZ軸に沿って一定速度で移動させ」ているのに対し,引用発明は,これが明らかではない点。

ウ 相違点3
本願発明の「一定速度は,画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値よりも低く設定される」のに対し,引用発明は,これが明らかではない点。

(4) 判断
ア 相違点1について
引用例1の段落【0002】には,「高処理量スクリーニングの導入に伴って薬品研究における定量的顕微鏡術が重要になってきている。顕微鏡像の完全自動獲得は,形態変化の調査を考慮に入れた自動画像解析システムと結び付いた付随的な作業である。生きている細胞の動力学における化学薬品の効果を明らかにするには時間がかかる。病理学的変容を定量化するために,固定された組織部分の組織化学的評価が使用される。」と記載されている。
また,医薬品研究のための顕微鏡による観察対象として,「チャンバー内に静止状態で存在する生物学的液体サンプル」は例示するまでもなく周知であり,「チャンバー内に静止状態で存在する生物学的液体サンプル」を観察対象とする場合においても,自動焦点法が必要であることは言うまでもない。
引用発明において相違点1に係る構成を採用することは,引用発明の顕微鏡の用途が示唆するところであり,当業者が容易にできた事項である。
なお,引用例1の段落【0002】に「生きている細胞の動力学における化学薬品の効果を明らかにするには時間がかかる。」と記載されているとおり,引用発明の顕微鏡による観察対象は,長い時間でみれば,静止状態にあるものではない。しかしながら,引用発明の自動焦点法が1回行われる時間でみれば,引用発明の顕微鏡による観察対象も,静止状態とみなせるものであり,少なくとも,静止状態のものを観察対象とすることは引用発明においても排除されておらず,当業者において容易である。

イ 相違点2について
引用発明の標本台は,全焦点区間ΔZを移動するに際し,連続運動させられるものであり,しかも,標本台が直線運動するとして画像の位置が得られるものである。
そして,当業者ならば,引用例2記載事項を心得ているから,標本台を「連続運動」かつ「直線運動」させる引用発明の構成に接した当業者ならば,引用発明の標本台は,「一定速度で移動」させるべきものと理解するし,あえて一定速度とさせない特段の理由も認められない。また,「チャンバー」に関しては,上記アで判断したとおりである。
そうしてみると,引用発明において相違点2に係る構成を採用することは当然のことといえるから,当業者が容易にできた事項である。

ウ 相違点3について
(ア)相違点3に係る構成について
相違点3に係る本願発明の構成は,「一定速度は,画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値よりも低く設定される」というものである。
ここで,「画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離」という記載を,その字句どおりに理解すると,「画像の生成を開始した時点におけるZ位置と,画像の生成が終了した時点におけるZ位置との距離」のことを意味するように解される。しかしながら,仮に,このように解すると,「画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値」は,一定速度と等しくなってしまうから,「一定速度は,画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値よりも低く設定される」という特許請求の範囲の記載に反することとなる。
そこで,発明の詳細な説明を参照すると,段落【0039】には,「画像が捕捉されるZ軸位置間を移動する距離(すなわち,“フォーカス解像度”)」と記載されているから,「画像が捕捉されるZ軸位置間を移動する距離」とは,「フォーカス解像度」のことを意味すると理解できる。また,段落【0041】には,「フォーカス解像度は,1.0から4.0μmまでの,約2.7μmの焦点深度を有する。」と記載されているから,本願発明の「画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離」とは,(A)「対物レンズの焦点がぼけないZ方向の距離」(焦点深度)のことと解するのが妥当である。

あるいは,「画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離」という記載を,(B)「画像が生成されている間の適宜の2つの時点におけるZ位置間の距離」のことを意味すると解すると,この場合には,適宜の2つの時点を,生成開始時点及び生成終了時点としない限り,「一定速度は,画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値よりも低く設定される」こととなる。

さらに,請求項1の「画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離」という記載は,(C)一つの画像を生成する時点におけるZ位置と,次の画像を生成する時点におけるZ位置との距離を意味するようにも解されるところである。

そこで,上記(A)?(C)の全ての場合について,以下,判断する。

(イ)判断
引用発明は「焦点を通る標本台の連続運動中に,40ms区間において,又はその他の標準ビデオ速度で標本の連続画像が獲得され,次いで,獲得された各画像の焦点スコアが計算され」,また,「焦点曲線は焦点面の付近で放物線であるとすることが安全であり,二次内挿法により高い焦点精度を達成することができる」ところ,引用例1の段落【0060】?【0062】の記載,あるいは,当業者における技術常識からも理解できるとおり,引用発明において焦点位置を精確に取得するためには,「満足できる鮮鋭度でデテールを観察し得る焦点面からの軸方向距離」(段落【0060】)近傍においてできるだけ多くの画像を取得し,焦点面の付近における焦点曲線の放物線による近似が精確に行われるようにすることが望ましい。
そして,当業者ならば,引用例4記載事項を心得ているから,当業者が標本台を移動させるに際しては,その速度を,(焦点合わせのために確保できる時間を考慮しつつ)できるだけ遅くしてサンプリング回数を増やす(画像生成回数を増やす)ことにより,焦点面の付近における焦点曲線の放物線による近似が精確に行われるようにするといえる。
そして,この場合,標本台の速度は,(A)対物レンズの焦点がぼけないZ方向の距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値よりも低く設定されることとなる。また,標本台の速度は,(B)画像が生成されている間の適宜の2つの時点におけるZ位置間の距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値よりも低く設定されることとなる。

あるいは,以下のようにも判断される。
すなわち,当業者ならば,引用例4記載事項を心得ているところ,引用例4の段落【0063】に「上記した実施形態では,サンプリング周期(コントラストの検出周期)が顕微鏡10に応じた固有の値である例を示したが,顕微鏡10および顕微鏡用焦点検出装置の構成,性能に応じて可変であっても良い。その場合,サンプリング周期とZ軸サーチ速度との何れか一方または両方を変化させることにより,サンプリング周期とZ軸サーチ速度との関係を調整することができる。」と記載されているとおり,当業者において,外部トリガ等によりサンプリング周期を制御可能なビデオカメラ(工業用ビデオカメラ)は周知である。また,引用例1の段落【0047】には,「本発明の好ましい実施例により,次のビデオフレーム用として画像バッファーが再使用される。これには,常に作動する2個の画像メモリバッファーを要するだけである。一方のバッファーは,先に獲得された画像の焦点スコア計算に要するデータを提供するために使用され,他方のバッファーは次の画像の獲得するために使用される。従って,焦点スコアの計算は1ビデオフレーム時間内で行われることが好ましい。」と記載されているから,引用例1には,焦点スコアの計算が1ビデオフレーム時間内に収まらない態様,画像メモリバッファーを1個しか設けない(専用のハードウエアを設けない)態様等も事実上開示されており,その場合,画像の焦点スコア計算時間に相当する待ち時間を設ける(画像獲得の周期を遅くする)こととなる。
そうしてみると,引用発明の,40ms(標準ビデオ速度)で画像を獲得するビデオカメラに替えて,サンプリング周期可変のビデオカメラを採用することにより画像の焦点スコア計算時間を確保することは,引用例1に事実上開示された実施態様が示唆する事項といえる。
そして,この場合,標本台の速度は,(C)一つの画像を生成する時点におけるZ位置と,次の画像を生成する時点におけるZ位置との距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値よりも低く設定されることとなる。

(ウ)小括
したがって,いずれにせよ,引用発明において相違点3の構成を採用することは,当業者が容易にできたことである。

(5) 本願発明の効果について
本件出願の発明の詳細な説明の段落【0013】には,「本発明によれば,生物検体を高速フォーカス撮像する方法及び装置に関し,分析を効率的に行うために,異なる高さの焦点合わせを正確かつ迅速に行うことができる。」と記載されている。
引用例1の段落【0009】には,「本発明の更なる目的は,高処理能力スクリーニングのような付随的な作動環境に特に適した自動焦点法を提供することである。」と記載されている。
本願発明の効果は,引用発明が奏する効果であるか,あるいは,引用発明が奏する効果と比較して,当業者が予測できないような顕著なものであるとはいえないものである。

(6) 小括
本願発明は,引用発明及び引用例2及び4に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

3 上申書について
(1) 請求人は,上申書において,補正案を提示している。
しかしながら,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件出願は,請求人に対し補正の機会を与えることなく拒絶すべきものである。

なお,本願発明と,補正案の請求項1に係る発明の主たる相違点は,多項式近似の点にある。しかしながら,引用発明は,「焦点曲線は焦点面の付近で放物線であるとすることが安全であり,二次内挿法により高い焦点精度を達成することができる」ものである。そうしてみると,補正案の請求項1に係る発明は,上記2で述べたのと同様に,当業者が容易に発明できたものであると考えられ,少なくとも,補正案の請求項1に係る発明について,当業者が容易に発明をすることができたものではないことが,一見して明らかであるということはできない。
そうしてみると,請求人に対して上申書に記載されたとおり補正する機会を与えた場合には,本来必要ではない,さらなる審理が必要となるものである。
上申書の補正案を受け入れることはできない。

(2) 請求人は,上申書において,以下のとおり主張している。
「引用文献1(特表2003-501693号公報)に記載された発明においては,顕微鏡の段階的駆動用モーターと歯車との間のバックラッシュを問題としているため,Z位置に沿って画像を連続的に取得するときに,画像を取得する度に顕微鏡の駆動と停止とを繰り返していると考えられます。この点,本願の請求項1に係る発明においては,画像を取得する度にチャンバーと対物レンズの駆動を停止させることはないため,バックラッシュの問題は発生しません。また,引用文献1は,焦点を合わせた後に焦点のZ位置で取得した画像をそのまま用いて分析を行うことを何ら開示も示唆もしていません。」

しかしながら,「バックラッシュ」(歯車等の隙間)による問題は,一方向に動かした標本台を反対方向に動かす場合や,動かしていた標本台を停止させる場合に発生するものであるから,バックラッシュを問題とする引用発明において,標本台は,全焦点区間Δzにおいて,極力加減速されることのないよう(すなわち一定速度で)上昇移動させられると考えるのが妥当である。

4 その他
本件補正について,当審判体は請求項の削除を目的とする補正と判断した。
ところで,本件補正前の請求項13には,「一定速度は,画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値よりも低い」と記載されているのに対し,本件補正後の請求項1には,「一定速度は,画像が生成される近接したZ軸に沿った位置間の距離を一つの画像を生成するのに掛かる時間で除算した値よりも低く設定される」と記載されているところであり,文言上は,「設定される」との文言が,本件補正により新たに加わっている。
しかしながら,上記文言の有無は,「チャンバー内に静止状態で存在する生物学的液体サンプルを撮像する方法」としての各ステップの構成を左右しないものであるから,本件補正前発明と本願発明は,方法の発明として相違するところがなく,したがって,本件補正は請求項の削除である。
仮に,「設定される」との文言をもって本件補正を特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるとしても,その場合には,上記1?3で述べたとおりの理由によって本件補正後の発明(本願発明)は独立して特許を受けることができないと判断される結果,本件補正が却下され,そして,本件補正前発明について,上記1?3で述べたのと同様の理由によって本件補正前発明は29条の規定により特許を受けることができないと判断されることになるにすぎない。

第3 まとめ
以上のとおり,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用例1に記載された発明,引用例2及び4に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-05 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-19 
出願番号 特願2012-547312(P2012-547312)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 居島 一仁  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 佐竹 政彦
樋口 信宏
発明の名称 生物検体を高速フォーカス撮像する方法及び装置  
代理人 絹谷 信雄  

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