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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02G 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02G |
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管理番号 | 1312445 |
審判番号 | 不服2014-19506 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-09-30 |
確定日 | 2016-03-17 |
事件の表示 | 特願2009-247507「ワイヤハーネス」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月12日出願公開、特開2011- 97692〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成21年10月28日の出願であって,その手続の概要は以下のとおりである。 拒絶理由通知 :平成25年11月18日(起案日) 意見書 :平成26年 1月24日 手続補正 :平成26年 1月24日 拒絶理由通知 :平成26年 2月 6日(起案日) 意見書 :平成26年 4月11日 手続補正 :平成26年 4月11日 拒絶査定 :平成26年 7月25日(起案日) 拒絶査定不服審判請求 :平成26年 9月30日 手続補正 :平成26年 9月30日 上申書 :平成26年12月22日 拒絶理由通知 :平成27年 9月 1日(起案日) 意見書 :平成27年10月21日 手続補正 :平成27年10月21日 第2 当審による拒絶理由通知の概要 審判合議体が平成27年9月1日付けで通知した拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)における,特許法第29条第2項の判断(本願に係る発明の容易想到性の判断)の概要は次のとおりである。 平成26年9月30日付け手続補正書により補正された,本願の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は,下記の刊行物に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2006-94619号公報 引用文献2:特開2004-224156号公報 引用文献3:特開2003-115223号公報 引用文献4:特開2009-140612号公報 引用文献5:特開2009-129780号公報 引用文献6:特開昭55-53108号公報 引用文献7:実公昭50-42468号公報 引用文献8:実願昭51-95325号(実開昭53-13296)のマイクロフィルム 引用文献9:特開昭56-59088号公報 引用文献10:特開2005-39085号公報 引用文献11:特開2004-268803号公報 第3 本願発明の容易想到性について 1 本願発明について 本願の請求項1?4に係る発明は,平成27年10月21日に提出された手続補正書に記載されたとおりのものであり,その請求項1の記載は,次のとおりである。(以下,本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 「【請求項1】 一又は複数本の高圧電線と、該一又は複数本の高圧電線における保護対象部分を一括して挿通・保護する保護部材と、を備えるワイヤハーネスにおいて、 前記一又は複数本の高圧電線を電磁的に遮蔽するシールド機能を有するシールド電線にて構成し、 前記保護部材を、前記一又は複数本の高圧電線を外部からの物理的衝撃から保護する筒状のパイプで形成するとともに、前記一又は複数本の高圧電線における外部からの物理的衝撃を受ける箇所に設け、 前記パイプは、円筒状で外面が平滑に形成され前記一又は複数本の高圧電線の配索経路に沿った形状に形成される長尺で曲げ可能なパイプ、又は、円筒状で外面が平滑な複数の短尺で曲げ可能なパイプと,前記長尺で曲げ可能なパイプ又は前記短尺で曲げ可能なパイプと同種の材質からなり、円筒状で外面が平滑に形成され該短尺で曲げ可能なパイプの外側に装着可能な大きさの内径に形成されるパイプを所定の長さで切断してなり前記複数の短尺で曲げ可能なパイプ間に跨がって装着して形成される連結部材と,によって構成され、前記一又は複数本の高圧電線の配索経路に沿った形状に形成される連結短尺パイプからなり、 前記保護部材は、前記一又は複数本の高圧電線を前記配索経路に沿った形状に保持するようにした ことを特徴とするワイヤハーネス。」 2 引用文献及び周知例の記載と引用発明及び周知技術 (1)引用文献1の記載と引用発明 ア 引用文献1 当審拒絶理由通知で引用された,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-94619号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。) (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、シールド導電路及びシールド導電路の製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来、シールド機能を備えた導電路として、特許文献1に記載されているものがある。この導電路は、シールド機能を有しない複数本の電線を、編組線からなる筒状のシールド部材によって一括して包囲した構成となっている。 【特許文献1】特開2002-313496公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 上記のような導電を自動車のボディのフロア下面に沿って配索する場合、走行中の飛び石等によって電線が傷付けられることが懸念される。この対策として、金属製のパイプの中に電線を挿通させる構造が考えられる。この構造によれば、パイプが、シールド部材としての機能と電線を保護する機能との両機能を兼ね備えるので、部品点数を増やすことなく、電線を確実に保護できる。 【0004】 ところで、シールド機能を備える導電路は、一直線状に配索されることは殆どなく、屈曲した経路に沿って配索されることから、パイプを用いた導電路の場合も、配索経路に沿ってパイプを屈曲させ、その屈曲した形態のパイプ内に電線を挿入することになる。 ・・・ 【0007】 本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、製造が容易なシールド導電路及びその製造方法を提供することを目的とする。」 (イ)「【課題を解決するための手段】 【0008】 上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、複数本の電線をシールド用の金属パイプで一括して包囲した形態であって複数の屈曲部を有するシールド導電路を製造する方法において、ほぼ真っ直ぐの状態の前記金属パイプに前記複数本の電線を挿通し、前記複数本の電線が挿通されている前記金属パイプに対し複数回の曲げ加工を施す工程において、第1回目の曲げ工程で前記金属パイプに形成される屈曲部を、その屈曲部の内周との摩擦によって前記電線が長さ方向への変位を規制される形態に曲げ加工するところに特徴を有する。」 (ウ)「【0014】 <実施形態1> 以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図9を参照して説明する。本実施形態のシールド導電路は、シールド機能を有しない6本の電線10A,10Bを、シールド機能と電線10A,10Bの保護機能とを兼ね備えた金属製の金属パイプ20で一括して包囲した形態のものであり、屈曲した経路を構成する。シールド導電路は、後述するように真っ直ぐな状態の金属パイプ20に電線10A,10Bを挿通し、電線10A,10Bが挿通された状態で金属パイプ20に曲げ加工を施すことによって製造される。 【0015】 6本の電線10A,10Bのうち3本は、例えば電気自動車のモータに大電流の電力を供給するための大径電線10Aであり、他の3本は、例えば自動車の電装品(エアコン等)に台形電線10Aよりも小さい電流を供給するための小径電線10Bとなっている。尚、図1?4、6、7、9においては、小径電線10Bの図示を省略している。大径電線10Aは、円形をなす銅合金製の芯線11Aを架橋ポリエチレン製の円筒形をなす絶縁被覆12Aで包囲したものであって、芯線11Aとして断面積が15平方ミリメートルの太さのものが使用され、絶縁被覆12Aの外径は7.0ミリメートルとされている。小径電線10Bは、円形をなす銅合金製の芯線11Bを架橋ポリエチレン製の円筒形をなす絶縁被覆12Bで包囲したものであり、芯線11Bとして断面積が3平方ミリメートルの太さのものが使用され、絶縁被覆12Bの外径は3.8ミリメートルとされている。 【0016】 尚、本実施形態では、芯線11A,11Bを銅合金製としたが、これに限らず、アルミ合金等の金属材料を芯線11A,11Bとして用いてもよい。また、絶縁被覆12A,12Bを架橋ポリエチレン製としたが、これに限らず、架橋ポリウレタン製の樹脂材料を絶縁被覆12A,12Bとして用いてもよい。また、芯線11A,11Bの断面積と絶縁被覆12A,12Bの外径寸法は、上記以外の数値とすることもできる。 【0017】 これら6本の電線10A,10Bは、図5に示すように、3本の大径電線10Aを俵積み状(三角形をなすように外接した形態)に配置するとともに、大径電線10Aの外周の間に形成される隙間に小径電線10Bを嵌め込むようにすることで、全体として概ね円形をなすように束ねられている。そして、この束ねた電線10A,10Bは、長さ方向に間隔を空けた複数箇所において粘着テープ(図示せず)が巻き付けられることにより、束ねた状態に保たれている。また、3本の大径電線10Aの前端部においては、絶縁被覆12Aを除去して露出させた芯線11Aに、端子金具13が圧着などの方法によって導通可能に固着されている。同様に、3本の小径電線10Bの前端部にも端子金具(図示せず)が固着されている。尚、電線10A,10Bの後端部については、金属パイプ20に曲げ加工を施す前の段階(シールド導電路の製造を開始する前の段階)では端子金具は固着されず、金属パイプ20の曲げ加工が完了した後で電線10A,10Bの後端部に端子金具が固着されるようになっている。」 (エ)「【0018】 金属パイプ20は、アルミ合金製(A3003 H14)であり、肉厚が一定の真円筒状をなす。シールド導電路の製造前の段階では、金属パイプ20は一直線状をなしている。金属パイプ20の外径は、23ミリメートルであり、肉厚は1ミリメートルである。また、金属パイプ20の長さは、電線10A,10Bの全長よりも短い寸法とされている。かかる金属パイプ20の前端部には、外周側へフランジ26が張り出した形態の金属製(例えば、アルミ合金製)のブラケット25が固着されている。尚、本実施形態では、金属パイプ20をアルミ合金製としたが、これに限らず、他の金属材料(例えば、ステンレス)を金属パイプ20として用いてもよい。また、金属パイプ20の外径寸法と肉厚寸法は、上記以外の数値とすることもできる。 【0019】 かかる金属パイプ20は、後述する曲げ加工機により、長さ方向に間隔を空けた5ヶ所において屈曲されており、金属パイプ20における各屈曲部21A,21B,21C,21D,21Eの両側の領域は直線部22a,22b,22c,22d,22e,22fとなっている。金属パイプ20の前端に近い位置には第1屈曲部21Aが形成され、第1屈曲部21Aの後方(図1?図4における左方)には第2屈曲部21Bが形成され、第2屈曲部21Bの後方には第3屈曲部21Cが形成され、第3屈曲部21Cの後方には第4屈曲部21Dが形成され、第4屈曲部21Dの後方(金属パイプ20の後端部に最も近い位置)には第5屈曲部21Eが形成されている。第1屈曲部21Aにおいては金属パイプ20がほぼ直角に曲げられており、第2?第5の屈曲部21B,21C,21D,21Eにおいては金属パイプ20が鈍角状に曲げられており、5つの屈曲部21A?21Eのうち第1屈曲部21Aが最も大きく曲げられている。 ・・・ 【0021】 次に、本実施形態のシールド導電路の製造工程を説明する。 まず、各電線10A,10Bの前端部に端子金具13を固着するとともに、6本の電線10A,10Bを図5に示す所定の形態に束ね、テープ(図示せず)を巻き付けることによって束ねた状態に固定する。次に、金属パイプ20が真っ直ぐの状態(曲げ加工される前の状態)で、束ねた電線10A,10Bを、その後端部を先に向けて前方からブラケット25及び金属パイプ20内に挿入する。そして、各電線10A,10Bの前端部(端子金具13が接続されている側の端部)を金属パイプ20(正確にはブラケット25)から前方へ導出させ、その導出長さを所定の長さに調整する。次いで、この長さ調整した電線10A,10Bの前端部からブラケット25に亘ってテープ28を巻き付ける。このとき、テープ28は、ブラケット25だけでなく、金属パイプ20の前端部まで巻き付けてもよい。以上により、電線10A,10Bの前端部と金属パイプ20の前端部とが、電線10A,10Bの長さ方向への相対移動を規制された状態に固定される。 【0022】 この後、金属パイプ20を曲げ加工機にセットし、金属パイプ20の後端部をチャック30で保持するとともに、金属パイプ20の前端部近くを受け部材31に支承させる。このとき、金属パイプ20の前端部、即ち第1屈曲部21Aが形成される部分が、ガイド部材32と曲げ治具34との間に挟まれるように配置される。また、アームが回転することにより、ガイド部材32の円弧状断面のガイド面33が、金属パイプ20の外周に対し第1屈曲部21Aの曲げの内側となる位置に接するとともに、曲げ治具34が、図9に想像線で示すように、金属パイプ20の外周に対し曲げの外側となる位置に接する状態となる。 【0023】 次に、曲げ治具34が、図9に想像線で示す位置から金属パイプ20の前方側に向かってガイド面33に沿いつつ円弧状に(ガイド面33と同心の円弧を描くように)約90°の範囲に亘って図9に実線で示す位置まで水平移動する。この間、曲げ治具34は、その三角溝状の内面35を金属パイプ20の外周に摺接させつつ金属パイプ20を前方へしごくようにガイド面33に向かって押圧し、この曲げ治具34の押圧により、金属パイプ20が電線10A,10Bの束を挿通させた状態でガイド部材32を支点として電線10A,10Bと一緒にほぼ直角に曲げられる。以上により、第1屈曲部21Aが形成され、第1屈曲部21Aの前後両側に連なる2つの直線部22a,22bは、ほぼ90°をなす。 ・・・ 【0032】 以上により、金属パイプ20に第1?第5の全ての屈曲部21A?21Eが形成されて、曲げ工程が完了する。この後は、曲げ加工機から金属パイプ20が外され、電線10A,10Bの金属パイプ20から導出されている後端部に対して端子金具(図示せず)が固着される。また、電線10A,10Bの前端部に巻き付けられていたテープ28が外される。そして、金属パイプ20の前端部がブラケット25を介して機器(例えば、電気自動車のインバータ装置やモータなど)のシールドケース(図示せず)に対して導通可能に固定されるとともに、各端子金具13が機器側コネクタの待ち受け端子(図示せず)に接続される。尚、金属パイプ20の後端部も機器のシールドケース(図示せず)に接続されるとともに、電線10A,10Bの後端部に固着した端子金具も機器側コネクタの待ち受け端子(図示せず)に接続される。 【0033】 上述のように本実施形態においては、ほぼ真っ直ぐの状態の金属パイプ20に電線10A,10Bを挿通しておき、その金属パイプ20と電線10A,10Bを一体的に曲げ加工するようにしているので、予め屈曲されている金属パイプに電線を挿入する方法のように、金属パイプの屈曲部に電線が突き当たることも、電線が金属パイプの屈曲部を変形させることもなく、製造が容易である。」 (オ)「【0038】 <他の実施形態> 本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。 (1)上記実施形態では屈曲部の数を5ヶ所としたが、本発明によれば、屈曲部の数は4ヶ所以下でもよく、6ヶ所以上でもよい。 ・・・ (13)上記実施形態では電線がシールド機能を有しないものとしたが、本発明は、電線がシールド機能を有するものであっても適用できる。」 イ 引用発明 (ア)シールド導電路について 上記ア(ウ)には,「シールド導電路」が,「シールド機能を有しない6本の電線10A,10Bを、シールド機能と電線10A,10Bの保護機能とを兼ね備えた金属製の金属パイプ20で一括して包囲した形態」であり,「真っ直ぐな状態の金属パイプ20に電線10A,10Bを挿通し、電線10A,10Bが挿通された状態で金属パイプ20に曲げ加工を施」したものであることが記載されている。 また,上記ア(ウ)には,「シールド導電路」を構成する「電線10A」について,「これら6本の電線10A,10Bは、図5に示すように、3本の大径電線10Aを俵積み状(三角形をなすように外接した形態)に配置する」ことが記載されている。 これらの記載から,シールド導電路を構成する金属パイプ20には,3本の電線10Aが挿通されることは明らかである。 よって,引用文献1には,「シールド機能を有しない3本の電線10Aを、シールド機能と前記電線10Aの保護機能とを兼ね備えた金属製の金属パイプ20で一括して包囲した形態であり、真っ直ぐな状態の前記金属パイプ20に前記電線10Aを挿通し、前記電線10Aが挿通された状態で前記金属パイプ20に曲げ加工を施したシールド導電路」が記載されていると認められる。 (イ)電線10Aについて 上記ア(ウ)には,「6本の電線10A,10Bのうち3本は、例えば電気自動車のモータに大電流の電力を供給するための大径電線10A」であることが記載されていることから,「電線10A」は,3本あり,電気自動車のモータに大電流の電力を供給するための大径電線であることが記載されているといえる。 よって,引用文献1には,「3本の電線10Aは、電気自動車のモータに大電流の電力を供給するための大径電線」であることが記載されていると認められる。 (ウ)金属パイプについて 上記ア(ア)には,「導電を自動車のボディのフロア下面に沿って配索する場合、走行中の飛び石等によって電線が傷付けられ」,「この対策として、金属製のパイプの中に電線を挿通」させ,「電線を確実に保護」することが記載されている。 また,上記ア(エ)には,「金属パイプ20」が,「肉厚が一定の真円筒状をなす」ことが記載されている。 そして,上記(ア)には,金属パイプ20に電線10Aが挿通していることが記載されているので,金属パイプ20で確実に保護される電線に電線10Aが含まれることは明らかである。 よって,引用文献1には,「金属パイプ20は、肉厚が一定の真円筒状をなし、自動車のボディのフロア下面に沿って配索される電線10Aを中に挿通させることで走行中の飛び石等によって電線10Aが傷付けられことから保護する」ものであることが記載されていると認められる。 (エ)引用発明について 上記(ア)?(ウ)より,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「シールド機能を有しない3本の電線10Aを、シールド機能と前記電線10Aの保護機能とを兼ね備えた金属製の金属パイプ20で一括して包囲した形態であり、真っ直ぐな状態の前記金属パイプ20に前記電線10Aを挿通し、前記電線10Aが挿通された状態で前記金属パイプ20に曲げ加工を施したシールド導電路において、 3本の前記電線10Aは、電気自動車のモータに大電流の電力を供給するための大径電線であり、 前記金属パイプ20は、肉厚が一定の真円筒状をなし、自動車のボディのフロア下面に沿って配索される前記電線10Aを中に挿通させることで走行中の飛び石等によって前記電線10Aが傷付けられことから保護した シールド導電路。」 (2)周知例(引用文献2)の記載と周知技術 ア 周知例(引用文献2)の記載 当審拒絶理由通知で引用された,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献2には,図面とともに,次の記載がある。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。) (ア)「【0006】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、電動車両(例えば、後述する実施の形態におけるハイブリッド車両1)のフロア(例えば、後述する実施の形態におけるフロア14)底面に沿って敷設される電力ケーブル(例えば、後述する実施の形態における高圧ケーブル7,7U,7V,7W)の保持構造において、前記電力ケーブルはそれぞれ一本ずつ金属製の保護パイプ(例えば、後述する実施の形態における保護パイプ30)に挿通され該保護パイプが車両のフロア底面に保持されていることを特徴とする。 このように構成することにより、電力ケーブルを車両のフロア底面に簡単に敷設することができる。また、保護パイプは石跳ねや水跳ねから電力ケーブルを保護する。さらに、保護パイプは剛性を有しているので、電力ケーブルが撓むのを防止する。保護パイプは外部からの熱を遮断し、電力ケーブルを熱害から保護する。保護パイプは電磁シールド機能を有するので、電力ケーブルとしてノンシールドケーブルの採用が可能になる。」 (イ)「【0018】 エンジン2とモータ・ジェネレータ3とオートマチックトランスミッション4は車室10よりも前方のエンジンルーム11に収容され、インバータ6はこの実施の形態では運転席あるいは助手席を構成する第1シート13Aの下側に配置されていて、モータ・ジェネレータ3とインバータ6は三相の高圧ケーブル(電力ケーブル)7U,7V,7Wによって接続されている。以下、特に相を区別して説明する必要がない場合には、総称して「高圧ケーブル7」と記す。 モータ・ジェネレータ3に接続された高圧ケーブル7はエンジンルーム11からフロア14の下側を通り、インバータ6の下部において立ち上がり、フロア14を貫通してインバータ6に接続されている。」 (ウ)「【0037】 〔他の実施の形態〕 なお、この発明は前述した実施の形態に限られるものではない。 例えば、前述した実施の形態ではインバータ6が第1シート13の下部に設置されているが、インバータ6は、図1において二点鎖線で示すように、第2シート13Bの下部あるいは第3シート13Cの下部に設置されていてもよいし、あるいは、フロア14の下側に設置されていてもよい。 また、電力ケーブルは低圧ケーブルであってもよく、本発明に係る車両用電力ケーブル保持構造は、DC/DCコンバータ(電力変換器)と低圧バッテリ(例えば12ボルトバッテリ)とを接続する低圧ケーブルの保持構造にも適用可能である。 さらに、この発明は、ハイブリッド車両だけでなく、動力源がモータのみの電動車両にも適用可能である。」 イ 周知技術 上記ア(ア)?(ウ)より,引用文献2にみられるように,電動車両において,モータに接続する電力ケーブルを高圧ケーブルとすることは,本願の出願日前,当該技術分野では周知技術と認められる。 3 本願発明と引用発明との対比 (1)対比 ア 引用発明の「シールド導電路」は,「3本の電線10A」を「金属製の金属パイプ20で一括して包囲した形態」とされているので、「ワイヤーハーネス」と称することができる。 イ 引用発明の「3本の電線10A」は,本願発明の「一又は複数本の高圧電線」に対応しているので,本願発明と引用発明は,「一又は複数本の電線」を備えた点で共通している。 ウ 引用発明の「金属パイプ20」は,「肉厚が一定の真円筒状をなし、自動車のボディのフロア下面に沿って配索される前記電線10Aを中に挿通させることで走行中の飛び石等によって前記電線10Aが傷付けられことから保護」するものであることを踏まえると,引用発明の「金属パイプ20」は,形状が「肉厚が一定の真円筒状」であり,配置される場所が「走行中の飛び石」がぶつかる「自動車のボディのフロア下面」であり,目的として「走行中の飛び石等」から「電線10Aが傷付けられことから保護」するものであると認められ,本願発明の「保護部材」及び「パイプ」に対応するものである。 エ また,引用発明の「金属パイプ20」は,「真っ直ぐな状態の前記金属パイプ20に前記電線10Aを挿通し、前記電線10Aが挿通された状態で前記金属パイプ20に曲げ加工を施」されるものであるから,引用発明の「金属パイプ20」は,電線10Aの配索に対応させて「真っ直ぐな状態」であったものに曲げ加工が施されたものであるといえる。 オ 上記ウから,引用発明の「金属パイプ20」は,中に挿通させた電線10Aを「走行中の飛び石等」から「電線10Aが傷付けられことから保護」するものであるから,上記ア及びイを踏まえると,本願発明と引用発明は,「一又は複数本の電線と、該一又は複数本の電線における保護対象部分を一括して挿通・保護する保護部材と、を備えるワイヤハーネス」である点で共通している。 カ 上記ウから,引用発明の「金属パイプ20」が,「真円筒状」であり,「電線10A」を「走行中の飛び石等」から「保護」するものであり,「走行中の飛び石」がぶつかる「自動車のボディのフロア下面」に配置されるものであり,本願発明の「保護部材」に対応するものであることを踏まえると,本願発明と引用発明は,「保護部材を、前記一又は複数本の電線を外部からの物理的衝撃から保護する筒状のパイプで形成するとともに、前記一又は複数本の電線における外部からの物理的衝撃を受ける箇所に設け」た点で共通している。 キ 上記ウから,引用発明の「金属パイプ20」は「肉厚が一定の真円筒状」であるところ,引用文献1の図1には,金属パイプ20がコルゲートチューブのような形状を有さない,円筒状で外面が平滑に形成された形状が記載されているので,引用発明の「金属パイプ20」の形状には,「円筒状で外面が平滑に形成され」た形態が含まれ得るものである。そして,上記エから,引用発明の「金属パイプ20」は,電線10Aの配索に対応させて「真っ直ぐな状態」であったものに曲げ加工が施されたものであるといえる。 そして,本願発明の「パイプ」は,「円筒状で外面が平滑に形成され前記一又は複数本の高圧電線の配索経路に沿った形状に形成される長尺で曲げ可能なパイプ」,又は,「円筒状で外面が平滑な複数の短尺で曲げ可能なパイプと,前記長尺で曲げ可能なパイプ又は前記短尺で曲げ可能なパイプと同種の材質からなり、円筒状で外面が平滑に形成され該短尺で曲げ可能なパイプの外側に装着可能な大きさの内径に形成されるパイプを所定の長さで切断してなり前記複数の短尺で曲げ可能なパイプ間に跨がって装着して形成される連結部材と,によって構成され、前記一又は複数本の高圧電線の配索経路に沿った形状に形成される連結短尺パイプ」のいずれか一方の構成であればよいものである。 そこで,択一的記載とされた本願発明の「パイプ」の構成を,「円筒状で外面が平滑に形成され前記一又は複数本の高圧電線の配索経路に沿った形状に形成される長尺で曲げ可能なパイプ」である場合について,本願発明と引用発明とを対比すると,本願発明と引用発明は,「円筒状で外面が平滑に形成され前記一又は複数本の電線の配索経路に沿った形状に形成される長尺で曲げ可能なパイプ」である点で共通している。 ク 引用発明の「金属パイプ20」は,「自動車のボディのフロア下面に沿って配索される前記電線10Aを中に挿通」させたものであり,上記エから,電線10Aの配索に対応させて「真っ直ぐな状態」であったものに曲げ加工が施されたものであるから,曲げ加工が施された「金属パイプ20」内に挿通された3本の電線10Aは,自動車のボディのフロア下面に沿って配索された形状が保持されることは明らかである。 (2)一致点及び相違点 上記(1)から,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,それぞれ以下のとおりであると認められる。 ア 一致点 「一又は複数本の電線と、該一又は複数本の電線における保護対象部分を一括して挿通・保護する保護部材と、を備えるワイヤハーネスにおいて、 前記保護部材を、前記一又は複数本の電線を外部からの物理的衝撃から保護する筒状のパイプで形成するとともに、前記一又は複数本の電線における外部からの物理的衝撃を受ける箇所に設け、 前記パイプは、円筒状で外面が平滑に形成され前記一又は複数本の電線の配索経路に沿った形状に形成される長尺で曲げ可能なパイプからなり、 前記保護部材は、前記一又は複数本の電線を前記配索経路に沿った形状に保持するようにした ことを特徴とするワイヤハーネス。」 イ 相違点 (ア)相違点1 上記一致点に係る構成の「一又は複数本の電線」が,本願発明では「高圧電線」であるのに対し,引用発明では「高圧電線」であるか不明である点。(イ)相違点2 上記一致点に係る構成の「一又は複数本の電線」を,本願発明では「電磁的に遮蔽するシールド機能を有するシールド電線にて構成し」ているのに対し,引用発明ではシールド機能を有しない電線により構成している点。 4 相違点についての検討 (1)相違点1について 上記2(1)イ(エ)より,引用発明の「3本の前記電線10Aは、電気自動車のモータに大電流の電力を供給するための大径電線であ」る。 そして,上記2(2)イのとおり,電動車両において,モータに接続する電力ケーブルを高圧ケーブルとすることは,引用文献2にみられるように,本願の出願日前,当該技術分野では周知技術と認められる。 また,一般に,電気自動車は,電動車両の一種である。 してみると,引用発明において上記周知技術を採用して,「電気自動車のモータ」に接続する「3本の電線10A」を高圧電線とすることは,当業者が普通に行い得るものと認められる。 以上から,引用発明において,上記相違点1に係る構成とすることは,上記周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認める。 (2)相違点2について 上記2(1)ア(オ)の「本発明は、電線がシールド機能を有するものであっても適用できる」との引用文献1の記載(段落【0038】)より,引用発明の「3本の電線10A」を,「シールド機能を有する」ようにすることは,当業者が普通に行い得るものと認められる。 そうすると,引用発明において,上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものと認める。 5 本願発明の作用効果について 本願明細書の下記ア?オの記載により,本願発明は,下記ア?オに挙げる作用効果を奏することが謳われている。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。) ア「【0043】 以上、図1を参照しながら説明してきたように、本発明のワイヤハーネス21によれば、保護部材としての長尺標準パイプ22を備えて構成することから、この長尺標準パイプ22であればワイヤハーネス配索設計と同等の設計スピードで保護部材の設計も行うことができるという効果を奏する。」 イ「【0044】 また、本発明のワイヤハーネス21によれば、保護部材として長尺標準パイプ22を用いることにより、保護部材の汎用性を高めることやコスト低減を図ることができるという効果を奏する。 ウ「【0045】 また、本発明のワイヤハーネス21によれば、保護部材として長尺標準パイプ22を用い、この長尺標準パイプ22を曲げ可能にすることにより、他車種汎用を図ることができるという効果を奏する。 エ「【0046】 また、本発明のワイヤハーネス21によれば、シールド機能を電線側に設けることにより、保護部材側の簡素な構造を維持することができるという効果を奏する。 オ「【0047】 また、本発明のワイヤハーネス21によれば、簡素な構造の標準パイプを用いることにより、ワイヤハーネス21の製造に係る工数を削減することができるという効果を奏する。 」 上記ア?ウ及び上記オの記載により挙げられている効果は,「標準パイプ」を用いることに起因するものであることが窺え,特許請求の範囲に「標準パイプ」を用いる点の記載のない本願発明が奏する効果であるとは認められない。 また,請求項1には,「保護部材」にシールド機能を有さない部材を用いることは記載されておらず,さらに,同項には「保護部材」を「簡素な構造」とするための特段の事項が記載されているとも認められず,上記エの「保護部材側の簡素な構造を維持することができるという効果」は,本願発明が奏するものであるとは認められない。 もっとも,仮に,請求項1に記載の「円筒状で外面が平滑に形成され」「長尺で曲げ可能なパイプ」を用いることで,本願発明が,上記ア?オの記載の効果又はそれらの効果に類する効果を奏するものであるとしても、当該効果は,その容易想到である構成から当業者が容易に予測し得る範囲内のものであり,同範囲を超える顕著なものであるとは認められない。 また,他に,本願発明が奏する効果があるとしても,当該効果は,その容易想到である構成から当業者が容易に予測し得る範囲内のものであり,同範囲を超える顕著なものがあるとは認められない。 以上から,本願発明の奏する作用効果は,格別のものとはいえない。 6 小括 したがって,本願の請求項1に係る発明(本願発明)は,引用文献1記載の発明(引用発明),及び,引用文献2にみられるような周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。 第4 結言 以上検討したとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-01-13 |
結審通知日 | 2016-01-19 |
審決日 | 2016-02-02 |
出願番号 | 特願2009-247507(P2009-247507) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H02G)
P 1 8・ 537- WZ (H02G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 林 毅、月野 洋一郎 |
特許庁審判長 |
飯田 清司 |
特許庁審判官 |
長谷川 素直 河口 雅英 |
発明の名称 | ワイヤハーネス |
代理人 | 小林 保 |