• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1312837
審判番号 不服2015-3979  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-02 
確定日 2016-03-24 
事件の表示 特願2012-194166「シリコン単結晶の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月13日出願公開、特開2012-246218〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年1月20日(優先権主張平成21年9月29日)に出願した特願2010-9574号の一部を、平成24年9月4日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年 3月28日付け:拒絶理由の通知
同年 5月 8日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月14日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)の通知
同年10月 9日 :意見書、手続補正書の提出
同年12月18日付け:拒絶査定
平成27年 3月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出

2.本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成27年3月2日にされた手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりである。

【請求項1】
シリコン単結晶の製造方法であって、
チョクラルスキー法によって原料融液からシリコン単結晶を引き上げる際に、
少なくとも、前記原料融液を保持するルツボに、シリコンより融点が高く組成に酸素原子を含まない材質で構成されたルツボだけを用い、かつ前記原料融液の対流を抑制するための磁場を印加し、
前記印加する磁場を、引き上げ中の前記シリコン単結晶の固液界面上の中心部における強度を500Gauss以上6000Gauss以下とし、
前記シリコン単結晶の引き上げの際に、炉内構造を調整することによって成長界面近傍の温度勾配Gの面内分布と、前記シリコン単結晶の引き上げ速度Vを制御して、前記引き上げるシリコン単結晶中に無欠陥領域が発生するようにV/Gを制御することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。

3.引用例の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日(平成21年9月29日)前に頒布された刊行物である、特開昭56-32397号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

a 「チヤンバー内にルツボを載置し、該ルツボ内の溶融シリコンを引上げてシリコン単結晶を造る引上装置において、上記ルツボを黒鉛基材表面に炭化珪素膜を介して窒化珪素膜を被覆した構造にすることを特徴とするシリコン単結晶引上装置。」(第1頁、2.特許請求の範囲)

b 「シリコン単結晶は主にチヨコラフスキー法(CZ法)によつて製造されている。この方法はルツボ内に多結晶シリコン原料を入れ、周囲から加熱して該多結晶シリコンを溶融させ、その溶融物を種結晶を用い上方に引上げ単結晶を造るものである。」(第1頁左下欄第14?19行目)

c 「本発明は上記欠点を解消するためになされたもので、炭素や酸素の混入が極めて少ない高純度のシリコン単結晶を製造し得るシリコン単結晶引上装置を提供しようとするものである。」(第2頁左上欄第2?5行目)

d 「このルツボ2は黒鉛製基材4と、この黒鉛製基材3表面に炭化珪素膜5を介して被覆された窒化珪素膜6とから構成されている。」(第2頁左上欄第12?14行目)

e 「

」(第3頁 図面)

(2)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2009-126738号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。

a 「【0001】
本発明は、CZ法(CZochralski method)によるシリコン単結晶の製造方法に関し、」

b 「【0006】
一方、上記点欠陥は、一般的にいわれるV(引上げ速度)/G(固液界面での結晶軸方向温度勾配)比によりその濃度が決まるといわれている。」

c 「【0009】
・・・しかし、最近では、グローンイン欠陥が発生しないN領域の引上げ育成の制御が行われるようになってきている。ここで、N領域がシリコン単結晶の径方向に広がったシリコン単結晶(以下、Neutral結晶という)の引上げ育成を確保するために、上記V/G比の制御および固液界面の形状の制御が必須となってくる。」

d 「【0010】
・・・このような大口径化では、大型化した石英ルツボ内の融液における自然対流の増大、引上げ速度の低下、冷却時間の増大がその実用化をこれまでに増し難しくする物理上の本質的な要因となる。そこで、上記大口径化にあっては、MCZ法は上記自然対流を抑制し石英ルツボ内でのシリコン融液の温度の安定化を実現する上から多用されるようになる。」

e 「【0028】
ここで、励磁コイル20,21はいわゆる水平磁場を生成するようになっていても構わない。この場合には、シリコン融液面に平行な向きに生成する水平磁場の磁束密度は例えば1000?3000G程度の範囲で適宜に設定される。」

(3)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2004-99416号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の記載がある。

a 「【0007】
最近では、CZ法を改良した、いわゆるMCZ法(Magneticfield applied Czochralski Method)も知られている。このMCZ法では、原料融液に磁場を印加することによって原料融液の熱対流を抑制して結晶を製造する。近年、シリコン単結晶は、直径8インチ以上の大口径のものが要求されているが、このような大口径のシリコン単結晶を製造する際には、原料融液の熱対流が抑制できるMCZ法を用いるのが効果的である。」

(4)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平7-89791号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下の記載がある。

a 「【請求項2】 シリコン融液に対して水平方向に磁場を印加するとともに、このシリコン融液を保持する石英るつぼを回転させながら、単結晶棒をシリコン融液から引き上げる単結晶引き上げ方法において、
上記石英るつぼの回転速度を1?10rpmとし、上記磁場強度を500?5000ガウスとし、上記引き上げ速度を平均値で0.5?2.0mm/分とするとともに、
上記石英るつぼの底壁部を加熱したことを特徴とする単結晶引き上げ方法。」

b 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば単結晶シリコンをMCZ法(磁場印加チョクラルスキー法:Magnetic field applied Czochralski crystal growth method)で製造するための単結晶引上技術の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】MCZ法は大口径のシリコン単結晶を製造するために案出されたものである。このMCZ法による単結晶引上装置は、水平方向に磁場を発生する磁場印加装置と、この磁場印加装置の両極間に設けられた炉体と、この炉体の内部に設けられシリコン融液を保持する石英るつぼと、このシリコン融液を加熱するヒータと、シリコン単結晶棒を回転させながら引き上げる引上機構とを有して構成されている。
【0003】この装置では、磁場中で、石英るつぼ内のシリコン融液にシリコン単結晶の種結晶を浸し、この種結晶を回転させながら徐々に引き上げ、種結晶と同一方位の大口径のシリコン単結晶を成長させる。磁場印加によって、石英るつぼ内のシリコン融液の熱対流現象を抑制することにより、石英るつぼからの不純物の混入を大幅に低減するとともに、シリコンの固液界面をより静的な状態に保っている。」

4.引用発明の認定
(1)引用例1は、チヨコラフスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の製造方法に関する。(摘示箇所a、b、e)

(2)引用例1には、ルツボ内に多結晶シリコン原料を入れ、該多結晶シリコンを溶融させ、該溶融シリコンを引上げてシリコン単結晶を造ることが記載されている。(摘示箇所a、b、e)

(3)引用例1には、黒鉛製基材と、該黒鉛製基材表面に炭化珪素膜を介して被覆された窒化珪素膜とから構成されたルツボを用いることが記載されている。(摘示箇所a、d、e)

以上を総合し、本願発明1の記載に即して整理すると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「チヨコラフスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の製造方法であって、
ルツボ内で多結晶シリコン原料を溶融させ、該溶融シリコンを引上げてシリコン単結晶を造る際に、
黒鉛製基材と、該黒鉛製基材表面に炭化珪素膜を介して被覆された窒化珪素膜とから構成されたルツボを用いる、
シリコン単結晶の製造方法。」

5.対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(1)引用発明は、「シリコン単結晶の製造方法」であり、本願発明1と一致する。

(2)引用発明の「チヨコラフスキー法(CZ法)」は、本願発明1の「チョクラルスキー法」に相当する。

(3)引用発明の「多結晶シリコン原料」は、本願発明1の「原料」に相当し、引用発明の「溶融シリコン」は、該「多結晶シリコン原料」を「溶融させ」たものであるから、本願発明1の「原料融液」に相当する。
したがって、引用発明の、「該溶融シリコンを引上げてシリコン単結晶を造る」ことは、本願発明1の、「原料融液からシリコン単結晶を引き上げる」ことに相当する。

(4)引用発明の、「黒鉛製基材と、該黒鉛製基材表面に炭化珪素膜を介して被覆された窒化珪素膜とから構成されたルツボ」について、まず、該「ルツボ」は、「ルツボ内で多結晶シリコン原料を溶融させ」るものであるから、本願発明1の、「原料融液を保持するルツボ」に相当する。
そして、「黒鉛」、「炭化珪素」、「窒化珪素」は、いずれもシリコンより融点が高く、組成に酸素原子を含まない材質であることは明らかであり、引用発明は、そのような材質で構成されたルツボだけを用いている。
したがって、引用発明の、「黒鉛製基材と、該黒鉛製基材表面に炭化珪素膜を介して被覆された窒化珪素膜とから構成されたルツボを用いる」ことは、本願発明1の、「少なくとも、前記原料融液を保持するルツボに、シリコンより融点が高く組成に酸素原子を含まない材質で構成されたルツボだけを用い」ることに相当する。

以上のことから、本願発明1と引用発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

・一致点
「シリコン単結晶の製造方法であって、
チョクラルスキー法によって原料融液からシリコン単結晶を引き上げる際に、
少なくとも、前記原料融液を保持するルツボに、シリコンより融点が高く組成に酸素原子を含まない材質で構成されたルツボだけを用いることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。」

・相違点
[相違点1]本願発明1は、「原料融液の対流を抑制するための磁場を印加し、前記印加する磁場を、引き上げ中の前記シリコン単結晶の固液界面上の中心部における強度を500Gauss以上6000Gauss以下と」するのに対し、引用発明は磁場を印加するものではない点。

[相違点2]本願発明1は、「前記シリコン単結晶の引き上げの際に、炉内構造を調整することによって成長界面近傍の温度勾配Gの面内分布と、前記シリコン単結晶の引き上げ速度Vを制御して、前記引き上げるシリコン単結晶中に無欠陥領域が発生するようにV/Gを制御する」のに対し、引用発明はV/Gを制御するものではない点。

6.判断
以下、上記相違点1、2について検討する。

(1)相違点1について
例えば引用例2?4にも記載のように(上記3.(2)?(4)を参照。)、製造されるシリコン単結晶を大口径化することは、当業者に周知の課題であり、チョクラルスキー法により大口径のシリコン単結晶を製造するにあたり、原料融液の対流を抑制するために磁場を印加することは、当業者に周知の技術であったといえる。
なお、この点について必要であれば、下記刊行物Aの第239頁第28?38行目の記載も参照されたい。

刊行物A:「最新 シリコンデバイスと結晶技術 -先端LSIが要求するウェーハ技術の現状-」、リアライズ理工センター発行、平成17年12月26日

したがって、引用発明も、「シリコン単結晶の製造方法」であるから、上記のとおり大口径化は当業者に周知の課題ということができ、引用発明の、「チヨコラフスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の製造方法」を大口径化するにあたり、「溶融シリコン」の対流を抑制するための磁場を印加することは、当業者であれば、引用例2?4に例示される周知技術を考慮して、容易に想到し得たことである。

また、本願発明1は、更に、「前記印加する磁場を、引き上げ中の前記シリコン単結晶の固液界面上の中心部における強度を500Gauss以上6000Gauss以下と」するものであるが、引用例2には、「水平磁場の磁束密度は例えば1000?3000G程度の範囲で適宜に設定される」旨(上記3.(2)eを参照。)、引用例4には、「磁場強度を500?5000ガウス」とする旨(同3.(4)aを参照。)記載されており、本願発明1の「500Gauss以上6000Gauss以下」という数値範囲が、チョクラルスキー法において印加される磁場の強度として、技術的に格別のものであるとはいえない。

(2)相違点2について
例えば引用例2にも記載のように(上記3.(2)b、cを参照。)、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造において、「V(引上げ速度)/G(固液界面での結晶軸方向温度勾配)比」を適切な範囲に制御することにより、シリコン単結晶中に「グローンイン欠陥が発生しないN領域」が得られることは、当業者に周知の技術である。
そして、上記「V(引上げ速度)」、「G(固液界面での結晶軸方向温度勾配)」、「グローンイン欠陥が発生しないN領域」は、本願発明1の「シリコン単結晶の引き上げ速度V」、「成長界面近傍の温度勾配G」、「無欠陥領域」にそれぞれ相当する。
また、所望の温度分布を得るため、炉内に断熱材を設けるなど、炉内構造を調整することも、当業者に周知の技術である。
これらの点について必要であれば、更に、下記刊行物Aの第140?143頁(「5.Grown-in欠陥」の項)、及び下記刊行物B?Eを参照。

刊行物A(再掲):「最新 シリコンデバイスと結晶技術 -先端LSIが要求するウェーハ技術の現状-」、リアライズ理工センター発行、平成17年12月26日
刊行物B:特開平11-157996号公報(【0002】、【0005】、【0042】、図1、7)
刊行物C:特開平11-180800号公報(【0002】、【0005】、【0030】、図1、5)
刊行物D:特開平8-330316号公報(【0007】、【0017】、【0032】?【0036】、図1?5)
刊行物E:V.V.VORONKOV, THE MECHANISM OF SWIRL DEFECTS FORMATION IN SILICON, Journal of Crystal Growth, 1982, vol.59, pp.625-643

そして、引用発明も、「シリコン単結晶の製造方法」であるから、無欠陥のシリコン単結晶が望まれていることは当業者に明らかである。
してみれば、引用発明においても、「前記シリコン単結晶の引き上げの際に、炉内構造を調整することによって成長界面近傍の温度勾配Gの面内分布と、前記シリコン単結晶の引き上げ速度Vを制御して、前記引き上げるシリコン単結晶中に無欠陥領域が発生するようにV/Gを制御する」ことは、当業者であれば、引用例2に例示される周知技術を考慮して、容易に想到し得たことである。

(3)本願発明1の奏する作用効果について
請求人は、審判請求書において、本願発明1は、「酸素をほとんど含まず、Grown-in欠陥のない、すなわち極低酸素・無欠陥のシリコン単結晶ウェーハを切り出すことができるシリコン単結晶を製造することができ、それにより、高耐圧が要求されるパワーデバイス等に適した、FZ結晶と同等の酸素をほとんど含まない無欠陥の大口径のシリコン単結晶を製造するのに好適なシリコン単結晶の製造方法を提供できる」という顕著な効果が得られる旨主張している。(第7頁第16?22行目)
上記主張について検討するに、まず、上記2.(1)cに記載のとおり、引用発明は、炭素や酸素の混入が極めて少ない高純度のシリコン単結晶を製造し得るものである。
そして、上記6.(1)で説示したとおり、引用発明において、「溶融シリコン」の対流を抑制するための磁場を印加することにより、シリコン単結晶を大口径化することができる。
更に、上記6.(2)で説示したとおり、引用発明において、「V(引上げ速度)/G(固液界面での結晶軸方向温度勾配)比」を適切な範囲に制御することにより、シリコン単結晶中に「グローンイン欠陥が発生しないN領域」が得られる。
してみれば、上記請求人が主張する、酸素をほとんど含まない無欠陥の大口径シリコン単結晶を製造できるという本願発明1の作用効果は、引用発明及び引用例2?4に例示される当業者に周知の技術により奏される作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、本願明細書の記載をみても、当業者の予測し得ない作用効果を奏するものとは認められないから、格別顕著なものということはできない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明1は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1?4に記載された発明及び当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-22 
結審通知日 2016-01-26 
審決日 2016-02-09 
出願番号 特願2012-194166(P2012-194166)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 若土 雅之  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 真々田 忠博
永田 史泰
発明の名称 シリコン単結晶の製造方法  
代理人 好宮 幹夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ