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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B |
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管理番号 | 1313064 |
異議申立番号 | 異議2015-700340 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-12-22 |
確定日 | 2016-03-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5739223号「疎水性シリカ微粒子の製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5739223号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5739223号の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、平成23年5月13日に特許出願され、平成27年5月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 中平茉里(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年1月19日に申立人に通知書が通知され、平成28年1月29日に申立人より手続補正書が提出されたものである。 第2 本件発明 特許第5739223号の請求項1ないし2の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるとおりのものである。 第3 申立理由の概要 申立人は、後記する甲各号証を証拠として提出し、以下の理由により、請求項1ないし2に係る特許は取り消されるべきである旨を主張している。 <理由> (申立理由A)本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (申立理由B)本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証の記載事実を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (申立理由C)本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証の記載事実を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (申立理由D)本件発明1ないし2は明確でないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、特許を受けることができない。 第4 甲各号証の記載 1.甲第1号証 甲第1号証は特開2007-176747号公報(以下、「甲1」という。)であり、以下の記載がある。 (ア)「【0068】 (炭素、窒素の含有量) 表面被覆シリカの炭素及び窒素含有量は、住化分析センター社製のSUMIGRAPHNC-22型で測定した。 【0069】 (シリコーンオイルのクロロホルム抽出) クロロホルム40mLに表面被覆シリカ試料1.0gを懸濁させ、超音波分散機にて30分間分散させた後、遠心分離機にてシリカを分離回収した。分離したシリカにさらにクロロホルムを加え、超音波分散、遠心分離の操作を合計3回繰り返した。その後、減圧乾燥により回収したシリカに残存するクロロホルムを除去した。こうして得られたシリカに残存する炭素含有量、窒素含有量を測定して、遊離シリコーンオイル量の算出および最初のシリコーンオイルが遊離したか否かを確認した。 【0070】 具体的には、ジメチルシロキサンを主鎖とするシリコーンオイル(構造式:-(Si(CH_(3))_(2)-O)_(n)-)では、元素分析により得られた炭素含有量を被覆処理されたシリコーンオイル量へ換算した。クロロホルムによる抽出前後のシリカの炭素含有量から、各々、被覆処理された全シリコーンオイル量、及び、遊離シリコーンオイルが抽出除去された後の残留シリコーンオイル量(すなわち、化学的に付着しているシリコーンオイル量)を算出し、もって遊離シリコーンオイル量の割合を確認した。」 (イ)「【0071】 (疎水性の評価) 容量250mLのビーカーに、水50mL、メタノール50mLを入れ、シリカ試料0.2gを加え、マグネティックスターラーで攪拌した。これにビューレットを使用してメタノールを滴下し、試料粉末の全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した時点を終点として、滴定をした。この際メタノールが直接試料に触れない様に、チューブで溶液内に導いた。終点におけるメタノール-水混合溶媒中のメタノールの容量%を疎水度(M値)として表わした。」 (ウ)「【0075】 実施例1 比表面積200m^(2)/gの親水性フュームドシリカ100質量部をミキサーに入れて撹拌し、窒素雰囲気に置換すると同時に、250℃に加熱した。撹拌、保温を継続してシリカの流動状態を保ったまま、スプレーノズルを使用して最初のシリコーンオイルとして、第1のアミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-857)4質量部を噴霧、混合した。その後、加熱、撹拌を1時間継続することによって被覆処理した。引き続いて、種類の異なるシリコーンオイルとして、第2のジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-96-50CS)16質量部を噴霧処理し、さらに同様に1時間の被覆処理を実施して、表面被覆シリカを得た。」 (エ)「【0078】 比較例1 比表面積200m^(2)/gの親水性フュームドシリカ100質量部をミキサーに入れて撹拌し、窒素雰囲気に置換すると同時に、250℃に加熱した。撹拌、保温を継続してシリカの流動状態を保ったまま、スプレーノズルを使用して、ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-96-50CS)20質量部を噴霧、混合した。その後、250℃での加熱、撹拌を1時間継続することによって被覆処理を実施した。得られた表面被覆シリカの特性を表1に示し、帯電量を測定した結果を表2に示した。」 (オ)「【0091】 実施例5 比表面積60m^(2)/gの親水性フュームドシリカ100質量部を基材として使用し、第1のアミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-857)を3質量部、第2のジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-96-50CS)を17質量部とする以外は実施例1と同様の操作を実施して、表面被覆シリカを得た。得られた表面被覆シリカの特性を表3に示し、帯電量を測定した結果を表4に示した。」 (カ)「【0092】 比較例8 比表面積60m^(2)/gの親水性フュームドシリカ100質量部に対して、アミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-857)の濃度が15重量%となるようにジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-96-50CS)で希釈した混合処理液20質量部を処理する以外は、比較例1と同様の操作を実施した。得られた表面被覆シリカの特性を表3に示し、帯電量を測定した結果を表4に示した。」 (キ)「実施例5」「比較例8」の「表面被覆シリカの特性」について、以下の【表3】(【0093】)に記載されている。 (ク)「【0098】 比較例9 比表面積200m^(2)/gの親水性フュームドシリカ100質量部に対して、ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-96-50CS)30質量部を噴霧、および、被覆処理する以外は、比較例1と同様の操作を実施した。得られた表面被覆シリカの特性を表5に示し、帯電量データ、凝集粗粉量を表6に示した。」 (ケ)「比較例9」の「表面被覆シリカの特性」について、以下の【表5】(【0099】)に記載されている。 2.甲第2号証 甲第2号証は特開2010-173925号公報(以下、「甲2」という。)であり、【0050】【0052】に、シリカ微粒子の疎水化処理の方法(熱処理タイミング)として、シリコーンオイルを塗布後に熱処理を行うことが示されている。 3.甲第4号証 甲第4号証は特開2004-168559号公報(以下、「甲4」という。)であり、以下の記載がある。 (タ)「【0004】 また、シリコーンオイル系処理剤によって疎水化処理したシリカ粉末等を用いることも知られている(特開昭58-60754号、特開昭59-201063号、特開平2-287459号)。しかし、従来の疎水化粉末は疎水性および分散性が十分ではなく、見掛け上の疎水率は高くても、例えば、メタノール液に対する分散性についてみると、多くはメタノール濃度60%程度において沈降が始まり、70%濃度においてほぼ全量が沈降する。」 (チ)「【0006】 本発明は、従来の疎水化粉末における上記問題を解決したものであり、疎水率と共に疎水化度が高く、かつ分散性に優れており、従って、トナー添加剤として用いた場合に優れた画像特性が得られる高分散高疎水性シリカ粉末とその製造方法を提供する。」 (ツ)「【0008】 ・・・本発明のシリカ粉末は、例えば、シリコーンオイル系処理剤による一次表面処理、解砕処理、アルキルシラザン系処理剤による二次表面処理を行い、かつ処理粉末が上記疎水率、疎水化度および分布頻度を有するように各処理工程の条件を調整して表面処理および解砕処理することによって得られる。」 (テ)「【0009】 【具体的な説明】 以下、本発明を具体的に説明する。なお、水に対する疎水性の程度を疎水率によって示し、メタノール液に対する疎水性の程度を疎水化度によって示す。具体的には、疎水化度は、水中にシリカ粉末を添加し、シリカ粉末が浮遊する状態でメタノール液を添加し、シリカ粉末の全量が懸濁するときのメタノール濃度である。」 (ト)「【0019】 (3)疎水化度:シリカ粉末試料0.20g(0.20±0.01g)を秤取し、純水50mlを加え、マグネチックスターラで撹拌しながら、シリカ粉末が液面に浮いた状態で液面下にメタノールを注入し、液面上にシリカ粉末試料が認められなくなったときを終点とする。メタノール使用量をXとし、次式に従って疎水化度(M.W.)を求める。 疎水化度 M.W.(%)=X/(50+X)・100 なお、疎水化度に対応するメタノール量Mは、例えば、疎水化度75%のときM=150.0ml、疎水化度80%のときM=200.0mlであり、疎水化度の差が見掛け上小さくてもメタノール量の差は大きい。 (4)疎水均一性(メタノールウェッタビリィティー法に基づくメタノール液に対する濡れ性の評価):試料を遠沈管に入れ、この遠沈管に濃度の異なるメタノール溶液を各々入れて蓋をし、ターブラーミキサーで分散させた後に、シリカ粉末が沈降を開始するメタノール濃度とシリカ全量が沈降するメタノール濃度を測定し、その差によって示した。 (5)疎水率:500nmの波長で純水に対する透過率を測定した。」 (ナ)比較例1-6の「疎水化度」と「疎水率」について、以下の【表2】(【0035】)に記載されている。 4.甲第3号証及び補正書と共に提出された甲第3号証 (以下、前者を「甲3」、後者を「甲3補正」という。) 甲3、甲3補正は共に、信越化学工業株式会社の「ShinEtsu 信越シリコーン オイル」と題されたカタログであり、製品名「KF-96-50CS」というシリコーンオイルの動粘度について記載されている。 なお、甲3の公知性は申立人の主張を参酌しても確認できない。詳細は<補足>を参照のこと。 4-2.補正書に記載された文献 補正書には、参考文献として、特開2003-35969号公報(14頁6-7行)、特開平5-125380号公報(【0041】)が提示され、製品名「KF-96-50CS」というシリコーンオイルの動粘度について記載がある旨示されている。 5.甲第5号証及び補正書と共に提出された甲第5号証 (以下、前者を「甲5」、後者を「甲5補正」という。) 甲5、甲5補正は共に、信越化学工業株式会社の「ShinEtsu 信越シリコーン 反応性・非反応性変性シリコーンオイル」と題されたカタログであり、製品名「KF-857」という変性シリコーンオイルの動粘度について記載されている。 なお、甲5の公知性は申立人の主張を参酌しても確認できない。詳細は<補足>を参照のこと。 5-2.補正書に記載された文献 補正書には、参考文献として、特開2003-98740号公報(【0097】)、特開平8-150787号公報(【0034】)が提示され、製品名「KF-857」という変性シリコーンオイルの動粘度について記載がある旨示されている。 第5 申立理由の判断 上記「第3 申立理由の概要」の申立理由(A)ないし(D)の申立理由について以下に判断する。 1.申立理由A、Bについて(本件発明1の甲1発明aに基づく新規性、進歩性) (1)甲1に記載された発明(甲1発明aの認定) 上記した甲1の記載において、「比較例9」に関する(ク)、「比較例9」中で引用する「比較例1」に関する(エ)、「比較例9」に関する「表面被覆シリカの特性」を示す(ケ)及び「表面被覆シリカ」から遊離又は残存する炭素量の計測に関する(ア)の記載から、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。 「シリコーンオイルで疎水化処理された疎水性シリカ微粒子の製造方法であって、 比表面積200m^(2)/gの親水性フュームドシリカを250℃に加熱し、撹拌、保温を継続してシリカの流動状態を保ったまま、スプレーノズルを使用して、ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-96-50CS)を噴霧、混合し、その後、250℃での加熱、撹拌を1時間継続し、 得られた表面被覆シリカの炭素量が7.6[%]、 疎水度M値66[vol%]、 クロロホルムによる抽出前後のシリカの炭素含有量差2.6[%]である、製造方法。」 (以下、「甲1発明a」という。) (2)「疎水率が95%以上」と「疎水度M値66[vol%]」について i)対比 本件発明1と甲1発明aとを対比すると、「疎水性シリカ微粒子」の疎水性について、本件発明1は「疎水率が95%以上」と規定するのに対して、甲1発明aは「疎水度M値66[vol%]」と規定しており、両者は主にこの点で相違するので、以下に検討する。 ii)判断 まず、両者の定義についてみると、本件発明1の「疎水率」は、本件特許明細書【0034】に「(疎水率)疎水性シリカ粉末1.0gを分液ロートに計り採り、これに純水100mlを加えて栓をし、ターブラーミキサーで10分間振とうした後、10分間放置した。その後、下層の20?30mlをロートから抜き取った後に、下層の混合液を10mm石英セルに分取し、純水をブランクとして比色計にかけ、その500nmの透過率の測定値を疎水率とした。」と記載され、同【0024】に「(疎水率)疎水率は、疎水性シリカ微粒子の疎水性の程度を示す値であり、本実施形態では95%以上である。疎水率は高いほど好ましく、その上限は100%である。」と記載されることから、純水に対する波長500nmの光の透過率(100%)に対する純水に疎水性シリカ粒子を混ぜた混合液に対する同光の透過率の割合で定義されるものといえる。 一方、甲1発明aの「疎水度M値」は、上記甲1の記載(イ)から、疎水性シリカ粒子を水に懸濁させるために要する水とメタノールの混合液中のメタノールの容量%で定義されるものといえる。 そうすると、本件発明1の「疎水率」と甲1発明aの「疎水度M値」では、それらの定義が全く異なり、両者に技術的な関連は認められない。 iii)異議申立人の主張について iii-1)主張の概要 この点で異議申立人は、「疎水率」と「疎水度M値」は『共にシリカの疎水性の程度を示す物性値である点はかわりはなく、故に「疎水度M値」が高いシリカは「疎水値」も高くなり両者は良好に相関する』(申立書11頁末行?12頁2行)と主張し、その裏付けとして甲4を提示し、甲4には『シリコーンオイルで表面被覆された疎水性シリカにおいて、疎水化度(甲第1号証でいう「疎水度M値」)が68?71%のものの疎水率が97%であることが明記されている(比較例1,4?6)』(申立書12頁10?13行)から、『甲第1号証に示されるような、「疎水度M値」が60%台後半の疎水性シリカにおける「疎水率」が、本件特許発明1の・・・「95%以上」を満足することは・・・明らかである。』(申立書12頁7?10行)と主張する。 iii-2)具体的な主張内容 そこで上記申立人の主張について以下に検討する。 上記甲4の記載(テ)の「(3)」から、甲4の「疎水化度」は、「シリカ粉末」が純水とメタノールの混合液の「液面上に」認められなくなるまでに注入された「メタノール」の量から求められるものといえるから、甲1発明aの「疎水度M値」に相当するものといえる。 また、同(テ)の「(5)」から、甲4の「疎水率」は、「500nmの波長」の光の透過率で定義されるものといえるから、本件発明1の「疎水率」に相当するものといえる。 そして、同(ナ)から、甲4に記載の発明に特有の「解砕処理」を行わず、従来の一次表面処理を行うシリコーンオイルで表面被覆された疎水性シリカの「疎水化度」が「68?69%」(「比較例1」「比較例4」「比較例6」)に対して、「疎水率」は「97%」であることがみてとれる。 そうすると、シリコーンオイルで表面被覆された疎水性シリカについて、甲4の「疎水化度」と「疎水率」の関係は一般的なものだから、甲1の「疎水度M値」と「疎水率」との関係についても妥当し、甲4において「疎水化度」が「68?69%」に対して「疎水率」が「97%」なのだから、甲1の「疎水度M値」が「66[vol%]」に対して「疎水率」が「95%以上」になるはずである、ということが申立人の主張であるといえる。 iii-3)当審の判断 上記申立人の主張に対しては以下のように判断する。 上記申立人の主張は、「疎水化度」が高いシリカは「疎水率」も高くなり両者は良好に相関するという仮定に基づくものである。 (理由1) そこで、上記甲4の記載(タ)(チ)(ツ)(テ)をみると、「シリコーンオイル系処理剤によって疎水化処理したシリカ粉末」において、「水に対する疎水性の程度」が「疎水率」で、「メタノール液に対する疎水性の程度」が「疎水化度」であり、両者はそもそも技術的意味の相違するものであるところ、従来は、「疎水率」は高くても「疎水化度」は高くはなかったので、「疎水率と共に疎水化度が高く」なるように「解砕処理」等を加えたものが甲4に記載の発明であるということができる。 すると、上記甲4の記載(ナ)に示されるのは、甲4に記載の発明に特有の「解砕処理」を行わず、従来の一次表面処理を行うシリコーンオイルで表面被覆された疎水性シリカの「疎水化度」と「疎水率」であるから、「疎水化度」と「疎水率」の関係は「疎水率と共に疎水化度が高く」なるものとはいえず、上記仮定はそもそも成立しないといえる。 (理由2) そして、同(ナ)に記載されるのは「疎水化度」が「68?69%」に対して「疎水率」が「97%」であり、「疎水化度」が「66%」に対する「疎水率」は記載が無く、「疎水化度」が「66%未満」に対する「疎水率」も記載が無いから、「疎水化度」が「66%」に対する「疎水率」を推測することもできないといえる。 (まとめ) そうすると、本件発明1の「疎水率」と甲1発明aの「疎水度M値」とはそもそも技術的意味の相違するもので両者の間に技術的な関連性は認められず、また、甲4の記載をみても、従来のシリコーンオイルで表面被覆された疎水性シリカでは「疎水化度」が高いシリカは「疎水率」も高くなり両者は良好に相関するとはいえず、さらに「疎水化度」が「68?69%」に対して「疎水率」が「97%」との記載しかないから「疎水化度」が「66%」に対する「疎水率」を推測することもできないことから、甲1発明aの「疎水度M値66[vol%]」が本件発明1の「疎水率が95%以上」に相当するものとはいえず、申立人の主張は採用できない。 (3)申立理由A、Bについての結言 以上から、甲1発明aの「疎水度M値66[vol%]」が、本件発明1の「疎水率が95%以上」に相当するとも、「疎水度M値66[vol%]」を「疎水率が95%以上」とすることは当業者が容易に成し得ることであるともいえない。 さらに、他の甲号証をみても、甲1発明aの「疎水度M値66[vol%]」が本件発明1の「疎水率が95%以上」に相当することを示す記載も示唆も見いだせず、また、そのような技術常識も認められない。 よって、本件発明1は、甲1発明aと同一であるとはいえないから甲1に記載された発明であるとはいえず、また、当業者が甲1発明aに基いて容易に発明をすることができたものであるともいえない。 2.申立理由Cについて(本件発明2の甲1発明b、cに基づく進歩性) (1)甲1に記載された発明 (1-1)甲1発明bの認定 上記した甲1の記載において、「比較例8」に関する(カ)、「比較例8」中で引用する「比較例1」に関する(エ)、「比較例8」に関する「表面被覆シリカの特性」を示す(キ)及び「表面被覆シリカ」から遊離又は残存する炭素量の計測に関する(ア)の記載から、甲1の比較例8には、疎水化処理された疎水性シリカ微粒子の製造方法に関して、以下の発明が記載されていると認められる。 「シリコーンオイルで疎水化処理された疎水性シリカ微粒子の製造方法であって、 比表面積60m^(2)/gの親水性フュームドシリカを250℃に加熱し、撹拌、保温を継続してシリカの流動状態を保ったまま、スプレーノズルを使用して、アミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-857)の濃度が15重量%となるようにジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-96-50CS)で希釈した混合処理液を噴霧、混合し、その後、250℃での加熱、撹拌を1時間継続し、 得られた表面被覆シリカの炭素量が5.5[%]、 クロロホルムによる抽出前後のシリカの炭素含有量差3.3[%]である、製造方法。」 (以下、「甲1発明b」という。) (1-2)甲1発明cの認定 上記した甲1の記載において、「実施例5」に関する(オ)、「実施例5」中で引用する「実施例1」に関する(ウ)、「実施例5」に関する「表面被覆シリカの特性」を示す(キ)及び「表面被覆シリカ」から遊離又は残存する炭素量の計測に関する(ア)の記載から、甲1の実施例5には、疎水化処理された疎水性シリカ微粒子の製造方法に関して、以下の発明が記載されていると認められる。 「シリコーンオイルで疎水化処理された疎水性シリカ微粒子の製造方法であって、 比表面積60m^(2)/gの親水性フュームドシリカを250℃に加熱し、撹拌、保温を継続してシリカの流動状態を保ったまま、スプレーノズルを使用して、最初のシリコーンオイルとして、第1のアミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-857)3質量部を噴霧、混合し、その後、加熱、撹拌を1時間継続することによって被覆処理し、引き続いて、種類の異なるシリコーンオイルとして、第2のジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF-96-50CS)17質量部を噴霧処理し、さらに同様に1時間の被覆処理を実施し、 得られた表面被覆シリカの炭素量が5.7[%]、 クロロホルムによる抽出前後のシリカの炭素含有量差3.3[%]である、製造方法。」 (以下、「甲1発明c」という。) (2)対比 本件発明2と甲1発明b、cとを対比すると、両者は主に次の相違点1,2で相違する。すなわち、 「疎水性シリカ微粒子」の疎水性について、本件発明2は「疎水率が95%以上」と規定するのに対して、甲1発明b、cは特定しておらず、両者はこの点(相違点1)で相違する。 また、「疎水性シリカ微粒子」の粒子径について、本件発明2は「平均一次粒子径が25?40nm」と規定するのに対して、甲1発明b、cは「比表面積60m^(2)/gの親水性フュームドシリカ」と規定しており、両者はこの点(相違点2)で相違する。 (3)相違点の判断 <相違点1について> 甲1発明b、cは上記のように「疎水率」について規定せず、甲1には甲1発明b、cにおいて「疎水率が95%以上」であることは記載も示唆もない。 さらに、他の甲号証をみても、甲1発明b、cにおいて「疎水率が95%以上」になることを示す記載も示唆も見いだせず、また、そのような技術常識も認められない。 <相違点2について> 甲1発明b、cの「親水性フュームドシリカ」の粒子の直径について検討する。 フュームドシリカの真密度ρは、技術常識から ρ=2.2[g/cm^(3)]=2.2×10^(6)[g/m^(3)]である。 フュームドシリカの粒子が真球であると仮定すると、粒子半径r、直径Dとして (比表面積S[m^(2)/g])={(球の表面積[m^(2)])/(球の体積[m^(3)])}/(真密度[g/m^(3)])=4πr^(2)/(4/3πr^(3))/ρ 直径D=2r=6/Sρ =6/{60[m^(2)/g]×2.2×10^(6)[g/m^(3)]} =45.4545[nm] したがって、甲1発明b、cの「親水性フュームドシリカ」の直径は45nmであり、これは一次粒子径といえるもので、本件発明2の「25?40nm」とは相違することは明らかである。 また、甲1発明b、cの「親水性フュームドシリカ」の直径を「25?40nm」にすることについて、何らの動機付けも見いだせず、当業者が容易に成し得ることであるともいえない。 (4)申立理由Cについての結言 以上から、甲1発明bまたは甲1発明cにおいて、「疎水率が95%以上」とすること、また、「親水性フュームドシリカ」の直径を「25?40nm」にすることは、当業者が容易に成し得ることであるとはいえない。 よって、本件発明2は、当業者が甲1発明bまたは甲1発明cに基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3.申立理由Dについて(本件発明1、2の明確性) 請求項1と請求項2では、「平均一次粒子径が25nm」であって、「遊離炭素量が3.0wt%」の場合が重複しているが、そのことをもって本件発明1、2が明確でないとはいえず、また、特許法第36条第5項には「一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない」と規定されることに鑑みれば、請求項1及び請求項2の記載は特許請求の範囲に記載された発明を不明確にしているものとはいえない。 <補足>甲3、甲5の公知性について (甲3の公知性について) i)甲3にはその頒布日の明示がなく、その最終頁右下に「(c)Shin-Etsu 2004.9/2013.5(5)1.P.A.Printed in Japan.」(当庁の起案システムでは丸付き文字は表記できないため「()」で代用した。)とあるので、平成28年1月19日付け通知書で、この文字列が甲3の頒布日を示すものか立証されたい旨を通知したところ、申立人は、平成28年1月29日付け手続補正書に添付して甲3補正を提出し、その最終頁右下の「(c)Shin-Etsu 2001.3/2002.5(1)3.I.E.Printed in Japan.」との記載に基づき、同手続補正書において『「2001.3/2002.5」の文字列が記載されており、その発行日ないし頒布日に相当する日付けとして、本件異議申立に係る甲第1号証である特開2007-176747号公報の出願日(2005年12月28日)より前の日付けが示されています。』と主張した。 ii)上記主張は、甲3の文字列である「2004.9」「2013.5」が、それぞれ当該カタログの2004年9月頒布版、2013年5月頒布版を示すものと仮定したときに、2004年9月頒布版のカタログが新たに提出され、その内容が2013年5月頒布版の内容と同じであれば、2013年5月頒布版の内容は2004年9月の時点で本件出願に対して公知であった可能性があることに基づく。 iii)しかしながら、甲3補正の文字列は「2001.3」「2002.5」であり、2002年5月頒布版(甲3補正)では、2002年5月から2004年9月の間のカタログ内容の変動を確認できないから、2013年5月頒布版(甲3)の内容が2004年9月の時点で公知であったとはいえない。 iv)また、そもそも、上記各文字列が甲3、甲3補正の頒布日を示すことは、証拠(例えば、甲3、甲3補正の頒布者によって、上記文字列が頒布日を示すことが記された宣誓供述書の提出等)により立証されていない。 v)よって、甲3は本件出願に対して非公知文献と判断する。 (甲5の公知性について) i)甲5にはその頒布日の明示がなく、その最終頁右下に「(c)Shin-Etsu 2006.2/2015.11(7)1.P.A.Printed in Japan.」(当庁の起案システムでは丸付き文字は表記できないため「()」で代用した。)とあるので、平成28年1月19日付け通知書で、この文字列が甲5の頒布日を示すものか立証されたい旨を通知したところ、申立人は、平成28年1月29日付け手続補正書に添付して甲5補正を提出し、その最終頁右下の「(c)Shin-Etsu 2002.2(1)2.I.E.Printed in Japan.」との記載に基づき、同手続補正書において『「2002.2」の文字列が記載されており、発行日ないし頒布日に相当する日付けとして、本件異議申立に係る甲第1号証である特開2007-176747号公報の出願日(2005年12月28日)前の日付けが示されています。』と主張した。 ii)上記主張は、甲5の文字列である「2006.2」「2015.11」が、それぞれ当該カタログの2006年2月頒布版、2015年11月頒布版を示すものと仮定したときに、2006年2月頒布版のカタログが新たに提出され、その内容が2015年11月頒布版の内容と同じであれば、2015年11月頒布版の内容は2006年2月の時点で本件出願に対して公知であった可能性があることに基づく。 iii)しかしながら、甲5補正の文字列は「2002.2」であり、2002年2月頒布版(甲5補正)では、2002年2月から2006年2月の間のカタログ内容の変動を確認できないから、2015年11月頒布版(甲5)の内容が2006年2月の時点で公知であったとはいえない。 iv)また、そもそも、上記各文字列が甲5、甲5補正の頒布日を示すことは、証拠(例えば、甲5、甲5補正の頒布者によって、上記文字列が頒布日を示すことが記された宣誓供述書の提出等)により立証されていない。 v)よって、甲5は本件出願に対して非公知文献と判断する。 第6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-03-16 |
出願番号 | 特願2011-108573(P2011-108573) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C01B)
P 1 651・ 113- Y (C01B) P 1 651・ 537- Y (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田澤 俊樹、森坂 英昭、植前 充司 |
特許庁審判長 |
真々田 忠博 |
特許庁審判官 |
永田 史泰 中澤 登 |
登録日 | 2015-05-01 |
登録番号 | 特許第5739223号(P5739223) |
権利者 | 日本アエロジル株式会社 |
発明の名称 | 疎水性シリカ微粒子の製造方法 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |