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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1313067
異議申立番号 異議2016-700006  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-07 
確定日 2016-03-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第5749868号「一方向性の連続繊維と熱可塑性樹脂とを含む複合材料」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5749868号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5749868号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成26年8月28日を国際出願日とする特願2014-542608号であって、平成27年5月22日に特許の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人:特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件発明
本件特許の請求項1?9に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」という。)。

第3.申立て理由の概要
申立人は、甲第1号証を提出して、本件発明1?4は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである旨、甲第1号証を主たる証拠とする甲第1?6号証を提出して、本件発明1?9は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法113条第2号に該当し取り消されるべきものである旨、及び、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしておらず、本件発明は特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである旨を主張している。

甲第1号証 :J. Soc. Mat. Sci., Japan Vol.47, No.7, pp. 735-742
開繊された強化繊維束の樹脂含浸挙動、写し及び抄訳
甲第2号証 :機械工学事典、第18?19頁、写し
甲第3号証 :特開2014-54798公報
甲第4号証 :化学大辞典、第594頁、写し
甲第5号証 :特開2001-88223号公報
甲第6号証 :特表2013-530855号公報

第4.刊行物の記載事項
甲第1号証には、以下の記載がある。
1.「2・1 試料
繊維束は下記の無撚炭素繊維束を使用した.
・TORAYCA T700SC-50C-12K(東レ(株)製造)
幅6.1mm,厚み0.09mm
この繊維束を開繊処理しない場合(未開繊繊維束と表記する)と,本併用開繊方法によって幅16mm,厚み0.05mmに開繊処理した場合(開繊繊維束と表記する)の2つの状態のものをそれぞれ複合材料の強化繊維束として使用した.なお幅,厚みとも自然に放置した状態の繊維束について測定したものである.
マトリックス樹脂には下記のナイロン6を使用した.
・2軸延伸フィルム(ユニチカ(株)製造)
厚み25ミクロン
2・2 成形方法
上記繊維束を一軸に配向させた熱可塑性複合材料を成形する.
成形方法は一種のフィルムスタッキング法であり,Fig.1に示すように繊維束を一軸に配列した層とフイルムによる層とを交互に積み重ね,加熱加圧成形によって複合材料を得る方法である.」(735頁)
2.「

」(736頁)
3.「未開繊繊維束を使用する場合,幅50mmに繊維束の重なりが生じることなく横8列に並べ,その上にフィルムを2枚重ねる1段と3枚重ねる1段を交互に7段まで積み重ねた試料を作成する.また開繊繊維束を使用する場合,幅50mmに繊維束を同じ要領で横3列に並べ,その上にフィルムを1枚重ねた1段を19段に積み重ねた試料を製作する.
両試料において繊維束に樹脂が含浸しボイドが全くなくなったと仮定される場合の成型品厚みと繊維体積含有率は,金型の幅および積層に使用した繊維束本数と樹脂フィルム枚数から計算できる.その結果,未開繊繊維束を使用した場合には厚み1.01mm,繊維体積含有率50.8%となり,開繊繊維束を使用した場合には厚み1.00mm,繊維体積含有率49.9%となる.」(736頁)
4.「

」(738頁)
5.「

」(738頁)
6.「3・2 成形品の断面写真観察結果
未開繊および開繊した繊維束を用いた圧縮成形における,加圧時間5分後と10分後の成形品の断面写真をFig.5,6に示す.
未開繊繊維束の場合,加圧5分後では繊維の集合した部分と樹脂の部分が帯状に明確に分かれて存在し,かつボイド部分も大きいボイドを含め多数存在していることが観察された.そして加圧10分後には繊維の集合した部分内にも樹脂が含浸するが樹脂だけの部分も残ることが観察された.なおボイドについてはその体積が小さくなり,かつその数も減少していることがわかった.
開繊繊維束の場合,加圧5分後には樹脂だけの部分も存在するが未開繊繊維束の加圧10分後の状態などに比べると繊維はかなり散らばった状態になり,帯状の繊維の集合部分などは存在していないことが観察された.そした加圧10分後には繊維が均一に散らばり,かつ各繊維を囲むように樹脂が含浸していることが観察された.」(738?739頁)
7.「

」(739頁)

第5.甲第1号証に記載された発明
上記第4.1.?第4.7.を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「無撚炭素繊維束を開繊処理した開繊繊維束を繊維束の重なりが生じることなく横3列に並べ、その上にナイロン6からなるフィルムを1枚重ねた1段を19段積み重ねた試料を0.5MPa、255℃で10分間加圧した厚み1.06mmの複合材料。」が記載されている。

第6.対比・判断
1.新規性(特許法第29条第1項第3号)について
(1)本件発明1
甲1発明の「無撚炭素繊維束を開繊処理した開繊繊維束」、「ナイロン6」、「厚み1.06mmの複合材料」は、それぞれ、本件発明1の「一方向の連続繊維である炭素繊維」、「熱可塑性樹脂」、「厚み0.3mm以上の複合材料」に相当すると認められる。
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は以下の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
[一致点]「一方向の連続繊維である炭素繊維と、熱可塑性樹脂とを含む厚み0.3mm以上の複合材料。」
[相違点]本件発明1では、熱可塑性樹脂またはサイズ剤のいずれにも、実質的に被覆されていない炭素繊維の本数の割合pが、p<0.01を満たすと特定するのに対して、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。
上記相違点について検討する。
異議申立書によると、甲第1号証の図6(2)に示された複合材料に含まれる炭素繊維の繊維本数を計測したところ2661本であり、そのうち、熱可塑性樹脂で表面の10%未満が被覆されている炭素繊維の本数は6本であり、熱可塑性樹脂で実質的に被覆されていない炭素繊維の本数の割合は、0.002(=6/2661)である旨、申立人は主張している。
しかしながら、甲第1号証の図6(2)に基づいて上記のように炭素繊維の本数を計測した旨の記載では、本件特許に係る明細書の【0085】?【0088】に記載されている評価方法と同じ方法で計測したとすることはできないし、さらに、甲第1号証の図6(2)は鮮明でないためにその様な微細な観察ができるのか不明であり、当該図面から熱可塑性樹脂で表面の10%未満が被覆されている炭素繊維の本数を導出できるとは認められない。
よって、甲1発明において、熱可塑性樹脂またはサイズ剤のいずれにも、実質的に被覆されていない炭素繊維の本数の割合pを特定することはできない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、新規性を有する。
(2)本件発明2?4
本件発明2?4は、本件発明1を引用するものであるところ、本件発明1が、上記第6.1.(1)のとおり新規性を有するものであるから、本件発明2?4も同様に新規性を有する。

2.進歩性(特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1
上記第6.1.(1)にあるように、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも上記相違点において相違するところ、甲第1号証?甲第6号証のいずれにも当該相違点にかかる割合pを特定する点について記載も示唆もなく、また、当該割合pは、当業者が通常使用する数値であるとも認められない。
そして、当該割合pを特定することによって、成形後の成形体の機械特性が良好となるという格別の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められず、進歩性を有する。
(2)本件発明2?9
本件発明2?9は、本件発明1を引用するものであるところ、本件発明1が、上記第6.2.(1)のとおり進歩性を有するものであるから、本件発明2?9も同様に進歩性を有する。

3.サポート要件(特許法第36条第6項1号)について
申立人は、本件特許に係る明細書に記載されている比較例4の複合材料では成形体を作製できないところ、該材料の厚みは0.26mmであり、有効数字を1桁に換算すると0.3mmとなるから、本件発明1において少なくとも厚み0.3mmの複合材料については、発明の効果が奏されていないのであるから、本件特許に係る特許請求の範囲の記載は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている旨主張している。
本件特許の明細書には、複合材料の厚み「0.3mm」と記載され、かかる記載の表示に基づいて申立人は有効数字を1桁としているが、明示的に有効数字についての定義が記載されているわけではなく、厚みが0.26mmの複合材料は比較例とされ本件発明1から除外されていることを考えれば、本件発明1の「0.3mm以上」が0.26mmを除外することは技術常識的に考えて矛盾しているとはいえない。
そうしてみると、本件発明1は、厚みが0.26mmの比較例を包含しないと解するのが相当であるから、本件特許の明細書において、厚みが0.26mmの複合材料が比較例として記載されていることをもって、本件発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たしていないとはいえない。
また、上述のとおりであるから、請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?9に係る特許請求の範囲の記載もサポート要件を満たしていないとはいえない。
したがって、本件発明1?9に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていないとは認められない。

第7.むすび
以上のとおり、申立人が主張する特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-03-17 
出願番号 特願2014-542608(P2014-542608)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 537- Y (C08J)
P 1 651・ 113- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深谷 陽子  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 前田 寛之
大島 祥吾
登録日 2015-05-22 
登録番号 特許第5749868号(P5749868)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 一方向性の連続繊維と熱可塑性樹脂とを含む複合材料  
代理人 為山 太郎  

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