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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) F16L
管理番号 1313085
判定請求番号 判定2015-600024  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2016-05-27 
種別 判定 
判定請求日 2015-07-30 
確定日 2016-04-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第5518268号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号説明書に示す「FluoroPEELZ」は、特許第5518268号発明の技術的範囲に属する。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号説明書に示すFluoroPEELZ(以下「イ号物件」という。)は、特許第5518268号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

第2 手続の経緯
本件特許発明に係る出願は、2012年11月19日(優先権主張2011年11月21日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成26年4月11日に特許権の設定登録がなされたものである。
その後、平成27年7月30日に本件判定が請求され、これに対し、同年8月26日付けで被請求人に判定請求書副本を送達したところ、同年10月28日付けで被請求人から判定請求答弁書が提出されるとともに同年11月5日付けで判定請求答弁書及び委任状訳文を補正する手続補正書が提出され、同年11月9日付けで請求人から判定請求書を補正する手続補正書が提出された。
そして、平成27年12月14日付けで請求人に対して審尋をしたところ、平成28年1月4日付けで請求人から回答書が提出され、同年1月12日付けで被請求人に対して審尋をしたところ、同年2月15日付けで被請求人から回答書が提出され、同年3月2日付けで手続補正指令書(方式)が被請求人に送付され、同年3月14日付けで被請求人から手続補正書(方式)が提出されたものである。

第3 本件特許発明
本件特許発明は、特許第5518268号に係る願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、構成要件ごとに分説すると次のとおりである。(以下、分説した構成要件を「構成要件A」などという。)

A フッ素樹脂と、これと種類の異なる樹脂の混合物からなる、
B 引裂き性を有する熱収縮チューブであって、
C 周期30s、振幅10gの正弦振動応力を加え、5℃/minの速度で昇温させ、175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔElossが正の値をとることを特徴とする
D 引き裂き性を有する熱収縮チューブ。

第4 当事者の主張
1 請求人の主張の概要
請求人は、判定請求書、平成28年1月4日付け回答書において、イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属することについて以下のとおり主張している。
(1)イ号物件の構成は次のとおりである。(判定請求書の「6 請求の理由 ○4(原文の丸数字は、本文では○4のように表示する。)」。また、分説した構成を「構成a」などという。以下同様。)

a 少なくともフッ素樹脂を含む、2種類の樹脂の混合物からなる、
b 途中でちぎれることなく引き裂くことができ、熱収縮率が31%であるチューブであって、
c 周期30s、振幅10gの正弦振動応力を加え、5℃/minの速度で昇温させ、175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔElossが0.06μJであること
d 構成bに同じ

(2)イ号物件の構成aは本件特許発明の構成要件Aと一致し、イ号物件の構成bは本件特許発明の構成要件Bと一致し、イ号物件の構成cは本件特許発明の構成要件Cと一致し、イ号物件の構成dは本件特許発明の構成要件Dと一致する。
よって、本件特許発明の構成要件とイ号物件の構成の対比において相違するところはないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属する(判定請求書「6 ○5、○6」)

(3)イ号物件は、中華人民共和国において開催されたMEDTEC中国展(開催日:2015年4月20?21日)において、被請求人の説明員から、商品名FluoroPEELZのサンプルとして入手したものである。新しく開発した、良く裂けるふっ素ポリマー熱収縮チューブであり、収縮率が1.4:1との説明があった。サンプルに専用の包装はなく、型番、ロット番号等の表示はなかった。(平成28年1月4日付け回答書の「1」)

(4)被請求人はFluoroPEELZの「損失エネルギーの変化」を測定することができない旨主張するが、「損失エネルギー」の測定方法は当業者にとって技術常識であるし、平成28年1月4日付け回答書に記載した「[詳細なテスト方法]」を参照すれば、被請求人においても損失エネルギーの変化量ΔElossを算出することは可能と考えられる。(平成28年1月4日付け回答書「2」)

2 被請求人の主張の概要
被請求人は、判定請求答弁書及び平成28年2月15日付け回答書において、イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属しないことについて以下のとおり主張している。
(1)イ号物件について
請求人は、イ号物件としてどのようなサンプルをどこから入手して測定サンプルとしたのかまったく説明していないし、そのサンプルのロット番号どころか、サンプルを入手した国さえも説明していないから、イ号説明書を考慮しても、請求人が何を判定請求の対象としているのか理解することができない。(判定請求答弁書「7.2」)

(2)各構成要件について
上記のとおり、本件判定請求におけるイ号物件は特定されておらず、判定請求の対象が不明であるが、少なくとも、イ号物件が構成要件B、C、Dを充足すると判断することができないことは明らかである。(判定請求答弁書「7.3」ないし「7.5」)
ア 構成要件Cについて
判定請求書において請求人は、イ号物件のΔElossが0.06μJである旨主張するが、判定請求書においても、イ号説明書においても、平成28年1月4日付け回答書においても、そのデータ「0.06μJ」がどのように得られたのか理解できる程度に十分な記載がないから、イ号物件が構成要件Cを充足すると判断することはできない。(判定請求答弁書「7.3」及び平成28年2月15日付け回答書「7.2」ないし「7.6」)

イ 構成要件BおよびDについて
本件特許発明は、特殊な器具を使用しなくても容易に引き裂き可能であることが求められるが(本件明細書の段落【0004】)、引き裂き強度の上限を明確にしておらず、「引き裂き性」の定義が明確でないから、イ号物件が構成要件BおよびDを充足するとはいえない。(判定請求答弁書「7.4」)

第5 判断
1 イ号物件について
判定請求書に添付された「イ号説明書」には、製品パッケージや取扱説明書等が添付されておらず、商品名、型番、ロット番号等も不明であるから、「イ号説明書」で説明されるイ号物件が、被請求人の「FluoroPEELZ」と称される製品であるのか否か、必ずしも明らかではない。
しかし、請求人は上記「第4 1(3)」のように主張するし、被請求人のインターネット上のホームページにおける「FluoroPEELZ」に関するページ(証拠書類1)から、サンプルを容易に入手できるので(証拠書類1の第1頁上部に「REQUEST A SAMPLE」とのボタンがあり、第2頁末尾に「Request a sample today」との欄がある。)、イ号物件が、被請求人が世界中の様々な国(日本国以外)で販売している「FluoroPEELZ」と称される製品のサンプルであると仮定して、以下検討する。

(1)イ号説明書に記載されている事項
イ号説明書及び証拠書類1ないし15には、下記の事項が記載されている。
ア イ号物件は、フッ素樹脂であるFEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂)からなる従来のものと特性が矛盾しないものである。(証拠書類1第2頁第5行の「With dwell times and recovery temperatures consistent with traditional FEP heat shrink.」との記載。)

イ DSC測定(示差走査熱量測定)の結果において、イ号物件は、261.4℃のピークと、219.1℃のピークとを有する。(証拠書類4)

ウ FT-IR(フーリエ変換型赤外分光法)の結果において、イ号物件は、No.1のピーク(波数1200cm^(-1))、No.2のピーク(波数1150cm^(-1))、No.3のピーク(波数990cm^(-1))、No.4のピーク(波数980cm^(-1))、No.5のピーク(波数900cm^(-1))、No.6のピーク(波数820cm^(-1))を有する。(証拠書類7)

エ イ号物件は、引き裂き可能である。(証拠書類1第1頁右上の「Introducing FluoroPEELZ」と表示された写真、証拠書類13、請求人が提出した平成28年1月4日付け回答書に添付された「FluoroPEELZのカタログ(被請求人のウェブサイト)」第1頁右側の写真。)

オ イ号物件について、加圧窒素を供給して破壊しない程度にできるだけ大きく拡張を行った後にその大きさを測定し、次いで200℃20minの条件で加熱して熱収縮させ、熱収縮後の大きさも同様に測定し、測定された加熱前後の大きさから熱収縮率を求める方法(本件明細書(甲第1号証)の段落【0032】に記載された方法)で求めた熱収縮率は31%である。(イ号説明書「5)」)

カ イ号物件はチューブである。(証拠書類1右上の「Introducing FluoroPEELZ」と表示された写真、証拠書類13、請求人が提出した平成28年1月4日付け回答書に添付された「FluoroPEELZのカタログ(被請求人のウェブサイト)」第1頁右側の写真。)

キ イ号物件について、「ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置TMA4000」を用い、周期30s、振幅10gの正弦振動応力を加え、5℃/minの速度で昇温させ(本件明細書(甲第1号証)の段落【0026】、【0027】)、175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔElossは、0.06μJである。(証拠書類12)

(2)イ号物件
上記(1)によれば、イ号物件は、以下のとおりのものと特定できる(以下、分説された各構成を「構成(a)」などという。)。

(a) フッ素樹脂であるFEPからなる従来のものと特性が矛盾せず、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果において、261.4℃のピークと、219.1℃のピークとを有するとともに、FT-IR(フーリエ変換型赤外分光法)の結果において、No.1のピーク(波数1200cm^(-1))、No.2のピーク(波数1150cm^(-1))、No.3のピーク(波数990cm^(-1))、No.4のピーク(波数980cm^(-1))、No.5のピーク(波数900cm^(-1))、No.6のピーク(波数820cm^(-1))を有し、
(b) 引き裂き可能であり、加圧窒素を供給して破壊しない程度にできるだけ大きく拡張を行った後にその大きさを測定し、次いで200℃20minの条件で加熱して熱収縮させ、熱収縮後の大きさも同様に測定し、測定された加熱前後の大きさから求められた熱収縮率が31%である、チューブであって、
(c) 「ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置TMA4000」を用い、周期30s、振幅10gの正弦振動応力を加え、5℃/minの速度で昇温させ、175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔElossは0.06μJである、
(d) チューブ。

2 イ号物件の各構成要件の充足性について
(1)構成要件Aについて
ア 「フッ素樹脂と、これと種類の異なる樹脂の混合物」について
本件明細書(甲第1号証)の段落【0009】には、
「上記チューブ(4)であって、主のフッ素樹脂以外のフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体又はポリフッ化ビニリデンを含有するチューブ(7)によって、より良好な引き裂き性と熱収縮性が得られる。
上記チューブ(4)であって、主のフッ素樹脂と、主のフッ素樹脂以外の樹脂との配合比が質量比で、98:2?70:30であるチューブ(8)によって、より良好な引き裂き性と熱収縮性が得られる。(下線は当審において付与。以下同様。)」
との記載がある。
また、本件明細書(甲第1号証)の段落【0021】には「・・・主のフッ素樹脂と組合せるフッ素樹脂としては、これに限定されるものではない。主のフッ素樹脂と組合せる樹脂としては、1)融点が近く、2)非相溶であれば、フッ素樹脂以外の樹脂でもよいが、主のフッ素樹脂と基本的構造が類似しながら、凝集エネルギー等の面で差が出せるフッ素樹脂がより好ましいと言える。」との記載がある。
したがって、構成要件Aにおける「これと種類の異なる樹脂」とは、主たる「フッ素樹脂」とは種類の異なるフッ素樹脂又はフッ素樹脂以外の樹脂を意味するものと解され、構成要件Aにおける「フッ素樹脂と、これと種類の異なる樹脂の混合物」とは、主たる「フッ素樹脂」と、該主たる「フッ素樹脂」とは種類の異なるフッ素樹脂又はフッ素樹脂以外の樹脂との、混合物を意味するものと解される。

イ イ号物件について
(ア)イ号物件の名称は「FluoroPEELZ」であるところ(証拠書類1、請求人が提出した平成28年1月4日付け回答書に添付された「FluoroPEELZのカタログ(被請求人のウェブサイト)」)、「fluoro」の語句は、字義的に「『フッ素性の、フッ化の』の意の連結形(新英和大辞典、研究社、第六版)」を意味するものと解されるから、イ号物件は、フッ素性の物質からなるものと理解することができる。

(イ)イ号物件の構成(a)の「DSC測定(示差走査熱量測定)の結果において、261.4℃のピークと、219.1℃のピークとを有する」ことは、261.4℃と219.1℃の2つの吸熱ピークを有することを意味し、イ号物件は、261.4℃に融点を有する「物質A」と219.1℃に融点を有する「物質B」の混合物であると解される。
イ号物件の「FluoroPEELZ」との名称(上記(ア))及びイ号物件の構成(a)の「フッ素樹脂であるFEPからなる従来のものと特性が矛盾」しないことは、上記「物質A」または「物質B」が「フッ素樹脂であるFEP」であることを示唆している。
ここで、上記「物質A」が「フッ素樹脂であるFEP」であると仮定すると、上記「物質A」の融点261.4℃の近傍に融点を有する「FEP」として「FEP NP-120」が知られており(証拠書類2、証拠書類5。融点264℃ないし265℃。)、「FEP NP-120」のFT-IRの結果(証拠書類9)におけるピーク(No.1ないしNo.4のピーク)は、イ号物件のFT-IRの結果(証拠書類7)におけるピークの一部(No.1ないしNo.4のピーク)と一致するから、上記「物質A」がフッ素樹脂である「FEP NP-120」であると解することに不合理はない。
また、イ号物件のFT-IRの結果(証拠書類7)におけるピークのうち、上記「物質A(FEP NP-120)」のピークと一致しなかったピーク(No.5、No.6のピーク)は、上記「物質B」のピークと解される。FT-IRの結果にNo.5、No.6のピークを有し、上記「物質B」の融点219.1℃の近傍に融点を有する物質として、フッ素樹脂である「THV815GZ」が知られているから(証拠書類3、証拠書類10。融点225℃)、上記「物質B」はフッ素樹脂である「THV815GZ」と理解することができる。
そして、「物質A」を「FEP NP-120」とし、「物質B」を「THV815GZ」とした、「物質A」と「物質B」の混合物のDSC測定の結果(証拠書類6)は、イ号物件のDSC測定の結果(証拠書類4)と、大きく異なるものではなく、「物質A」と「物質B」の混合物のFT-IRの結果(証拠書類11)は、イ号物件のFT-IRの結果(証拠書類7)と、大きく異なるものではない。

(ウ)したがって、イ号物件は、「物質A(フッ素樹脂である「FEP NP-120」)」と「物質B(フッ素樹脂である「THV815GZ」)」の混合物であると評価することができる。

ウ 小括
よって、イ号物件は、主たる「フッ素樹脂」(FEP NP-120)と、該主たる「フッ素樹脂」とは種類の異なるフッ素樹脂(THV815GZ)の混合物であると評価することができるから、本件特許発明の構成要件Aを充足する。

(2)構成要件Bについて
ア 引裂き性
(ア)「引裂き性を有する」について
本件明細書(甲第1号証)の段落【0004】には「引き裂きチューブは、特殊な器具を使用しなくても容易に引き裂き可能」であることが「求められている。」と記載されているから、少なくとも、人間の手で引き裂き可能であれば、引裂き性(あるいは引き裂き性)を有するものと解される。

(イ)イ号物件について
a 被請求人のインターネット上のホームページにおける「FluoroPEELZ」に関するページ(証拠書類1)の第1頁上段には「One simple linear tear is all it takes.」との記載があり、請求人が提出した平成28年1月4日付け回答書に添付された「FluoroPEELZのカタログ(被請求人のウェブサイト)」)第1頁左下の図には「FluoroPEELZ Peelable heat shrink allows for easy removal with one simple, linear tear.」との記載がある。
「tear」の語句は、字義的に「裂け目、破れ目、引き裂けた穴、ほころび、引裂き、破損(新英和大辞典、研究社、第六版)」との意味を有するものと解されるから、イ号物件は「引裂き」が形成され得るものと理解することができ、引き裂き可能なものであるといえる。

b イ号物件が人間の手で引き裂き可能であることは、証拠書類1第1頁右上の「Introducing FluoroPEELZ」と表示された写真、請求人が提出した平成28年1月4日付け回答書に添付された「FluoroPEELZのカタログ(被請求人のウェブサイト)」第1頁右側の写真等から明らかである。

c よって、イ号物件は引裂き性を有するといえる。

イ 熱収縮性
(ア)「熱収縮」について
本件明細書(甲第1号証)の段落【0032】を参照すると、熱収縮率は、試料に加圧窒素を供給して破壊しない程度にできるだけ大きく拡張を行った後にその大きさを測定し、次いで200℃20minの条件で加熱して熱収縮させ、熱収縮後の大きさも同様に測定し、測定された加熱前後の大きさから求めているから、構成要件Bにおける「熱収縮」性があるとは、「試料に加圧窒素を供給して破壊しない程度にできるだけ大きく拡張を行った後にその大きさを測定し、次いで200℃20minの条件で加熱して熱収縮させ、熱収縮後の大きさも同様に測定し」、「(加熱前の大きさ-加熱後の大きさ)/加熱前の大きさ」として求められた「熱収縮率」が0より大きいことを意味するものと解される。

(イ)イ号物件について
a 被請求人のインターネット上のホームページにおける「FluoroPEELZ」に関するページ(証拠書類1)には「FluoroPEELZ^(TM) Peelable Heat Shrink」との記載があり、請求人が提出した平成28年1月4日付け回答書に添付された「FluoroPEELZのカタログ(被請求人のウェブサイト)」)第2頁「FluoroPEELZ^(TM) Heat Shrink Properties」の表には「SHRINK RATIOS」として「Up to 1.65:1」との記載がある。
「shrink」の語句は、字義的に「(熱・湿気・洗濯などで)縮む、つまる(新英和大辞典、研究社、第六版)」との意味を有するものと解されるから、「heat shrink」の語句は「熱で縮む」との意味を有し、イ号物件は熱で縮むものと理解することができる。

b イ号物件は「加圧窒素を供給して破壊しない程度にできるだけ大きく拡張を行った後にその大きさを測定し、次いで200℃20minの条件で加熱して熱収縮させ、熱収縮後の大きさも同様に測定し、測定された加熱前後の大きさから求められた熱収縮率が31%で」あり(構成(b))、「試料に加圧窒素を供給して破壊しない程度にできるだけ大きく拡張を行った後にその大きさを測定し、次いで200℃20minの条件で加熱して熱収縮させ、熱収縮後の大きさも同様に測定し、測定された加熱前後の大きさから求められた熱収縮率」が0より大きい(31%=0.31)。

c よって、イ号物件は熱収縮性を有するといえる。

ウ チューブであること
(ア)「チューブ」について
「チューブ」とは管状であることを意味すると解される。

(イ)イ号物件について
イ号物件が管状であることは、証拠書類1右上の「Introducing FluoroPEELZ」と表示された写真、証拠書類13の写真、請求人が提出した平成28年1月4日付け回答書に添付された「FluoroPEELZのカタログ(被請求人のウェブサイト)」第1頁右側の写真から明らかであるから、イ号物件はチューブである。

エ 小括
よって、イ号物件は、引裂き性を有する熱収縮チューブといえるから、本件特許発明の構成要件Bを充足する。

(3)構成要件Cについて
ア 「周期30s、振幅10gの正弦振動応力を加え、5℃/minの速度で昇温させ、175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔElossが正の値をとること」について
本件明細書(甲第1号証)の段落【0026】を参照すると、「ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置TMA4000」を使用し、「周期30s、振幅10gの正弦振動応力を加え、5℃/minの速度で昇温させ」た条件でDMA(動的粘弾性)測定により粘弾性データを求め、「175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔEloss」を算出している。
よって、構成要件Cは「ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置TMA4000」を使用して測定した「周期30s、振幅10gの正弦振動応力を加え、5℃/minの速度で昇温させ、175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔElossが正の値をとること」を意味するものと解される。

イ イ号物件について
イ号物件の構成(c)の「175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔEloss」は、「『ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置TMA4000』を用い、周期30s、振幅10gの正弦振動応力を加え、5℃/minの速度で昇温させ」た条件で測定されたものであるから、構成要件Cの「175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔEloss」と同じ条件で測定及び算出されたものである。
そして、イ号物件の「175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔEloss」は「0.06μJ」であり、正の値である。

ウ 小括
よって、イ号物件は、「ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置TMA4000」を使用して測定した「周期30s、振幅10gの正弦振動応力を加え、5℃/minの速度で昇温させ、175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔEloss」が「0.06μJ」であり、正の値であるから、本件特許発明の構成要件Cを充足する。

(4)構成要件Dについて
上記(2)で述べたとおり、イ号物件は、引き裂き性を有する熱収縮チューブといえるから、本件特許発明の構成要件Dを充足する。

3 被請求人の主張について
(1)構成要件Cに係る主張(上記「第4 2(2)ア」)について
被請求人は、温度を毎分5℃の速度で変化させる条件において、試料に正弦波の周期荷重(定周期応力)を加えても、応力-歪み線図は楕円を描かないから、そのような条件で楕円の面積すなわち損失エネルギーを算出することはできないし、175℃から185℃にかけて温度が変化したときの損失エネルギーの変化量も算出することができない旨主張する。(判定請求答弁書「7.3」及び平成28年2月15日付け回答書「7.2」ないし「7.6」)
しかし、「ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置TMA4000」を用いれば、温度を毎分5℃の速度で変化させる条件においても、周期30s、振幅10gの正弦振動応力を加えたときの、各周期の中心温度に対する損失エネルギーの値が、証拠書類12に○印で示される値や、甲第1号証の図3ないし図5に▲印で示される値のように算出されるのであるから、イ号物件について、本件明細書(甲第1号証)の段落【0026】に記載された条件で測定及び算出された「175℃から185℃にかけて温度が変化したときの、損失エネルギーの変化量ΔEloss」は、正の値をとると解するのが相当である。

(2)構成要件B、Dに係る主張(上記「第4 2(2)イ」)について
被請求人は、チューブが引き裂き性を有するとは、そのチューブの引き裂き強度がなんらかの上限よりも低いことによって定義されると解されるところ、イ号物件の引き裂き性に関し、イ号物件の引き裂き強度が上記上限よりも低いことが立証されていないから、イ号物件が引き裂き性に関して構成要件B及びDを充足することが立証されていない旨主張する。(判定請求答弁書「7.4」)
しかし、上記「第5 2(2)ア(ア)」で述べたとおり、本件明細書(甲第1号証)の段落【0004】には「引き裂きチューブは、特殊な器具を使用しなくても容易に引き裂き可能」であることが「求められている。」と記載されており、本件特許発明における「引き裂き性」は、少なくとも、人間の手で引き裂き可能であれば足りると解される。
そして、イ号物件は人間の手で引き裂き可能なものであるから(上記「第5 2(2)ア(イ)」)、イ号物件は引き裂き性を有するといえ、被請求人の上記主張は採用できない。

第6 むすび
したがって、上記「第5 1」で述べたとおり、イ号物件が、被請求人の「FluoroPEELZ」と称される製品のサンプルであると仮定した場合、イ号物件は、本件特許発明の構成要件AないしDを充足するから、本件特許発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲 イ号説明書

証拠書類1

証拠書類2

証拠書類3

証拠書類4

証拠書類5

証拠書類6

証拠書類7

証拠書類9

証拠書類10

証拠書類11

証拠書類12

証拠書類13

 
判定日 2016-03-24 
出願番号 特願2013-545986(P2013-545986)
審決分類 P 1 2・ 1- YA (F16L)
最終処分 成立  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 氏原 康宏
櫻田 正紀
登録日 2014-04-11 
登録番号 特許第5518268号(P5518268)
発明の名称 引き裂き性を有する熱収縮チューブ  
代理人 松田 浩明  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 健策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 石川 大輔  
代理人 井▲高▼ 将斗  
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