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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1313318
審判番号 不服2015-5036  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-16 
確定日 2016-04-26 
事件の表示 特願2013-504500「分散記憶システムおよび分散記憶方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月20日国際公開、WO2012/124178、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月16日を国際出願日(国内優先権主張日;平成23年3月16日(以下、「優先日」という。))とする出願であって、出願後の手続きの経緯の概要は次のとおりである。

拒絶理由通知 (起案日)平成26年6月19日
意見 (提出日)平成26年7月22日
拒絶査定 (起案日)平成27年1月30日
同 謄本送達 (送達日)平成27年2月3日
審判請求 (提出日)平成27年3月16日

第2 本願発明
本願の請求項1?請求項17に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
複数のオブジェクトデータを分散して記憶する複数のデータ記憶ノードを備え、
前記複数のオブジェクトデータは、それぞれ、データ座標によって特徴付けられるとともにデータ識別子によって一意に識別され、
前記複数のデータ記憶ノードは、それぞれ、前記データ座標と同一の空間におけるノード座標を割り当てられ、
前記複数のオブジェクトデータは、オブジェクトデータを特徴付けるデータ座標からの距離が相対的に短いノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを前記複数のデータ記憶ノードの中から第1のデータ記憶ノードとして複数選択した後、該複数の第1のデータ記憶ノードの中から該オブジェクトデータを識別するデータ識別子に基づいて決定したデータ記憶ノードに、それぞれ記憶されることを特徴とする分散記憶システム。
【請求項2】
前記複数のオブジェクトデータのそれぞれを特徴付けるデータ座標、および、前記複数のデータ記憶ノードのそれぞれに割り当てられたノード座標は、前記複数のオブジェクトデータを定量的に評価する複数の評価軸を座標軸とするユークリッド空間における座標であることを特徴とする、請求項1に記載の分散記憶システム。
【請求項3】
オブジェクトデータからの距離が所定の距離以内のノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを前記複数のデータ記憶ノードの中から第1のデータ記憶ノードとして複数選択することを特徴とする、請求項1または2に記載の分散記憶システム。
【請求項4】
オブジェクトデータからの距離が短いノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを該距離の短いものから順に所定の数だけ前記複数のデータ記憶ノードの中から第1のデータ記憶ノードとして選択することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の分散記憶システム。
【請求項5】
オブジェクトデータを識別するデータ識別子をシードとして生成した複数の擬似乱数を前記複数の第1のデータ記憶ノードのそれぞれに割り当てるとともに、該オブジェクトデータのデータ座標と前記複数の第1のデータ記憶ノードのそれぞれに割り当てられたノード座標との距離に応じて算出されたウェイトに、割り当てられた擬似乱数を掛け合わせた値が最大のデータ記憶ノードを前記複数の第1のデータ記憶ノードの中から抽出し、抽出したデータ記憶ノードを該オブジェクトデータを格納すべきデータ記憶ノードとして決定することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の分散記憶システム。
【請求項6】
前記ウェイトは、前記複数のオブジェクトデータのそれぞれを特徴付けるデータ座標と、前記複数のデータ記憶ノードのそれぞれに割り当てられたノード座標との距離が短くなるに従って増大することを特徴とする、請求項5に記載の分散記憶システム。
【請求項7】
前記複数のデータ記憶ノードは、それぞれ、前記複数のオブジェクトデータを特徴付けるデータ座標の分布に応じてノード座標が割り当てられていることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の分散記憶システム。
【請求項8】
前記複数のデータ記憶ノードにオブジェクトデータを書き込むとともに、前記複数のデータ記憶ノードに記憶されたオブジェクトデータを読み出すクライアントノードをさらに備えていることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の分散記憶システム。
【請求項9】
前記クライアントノードは、オブジェクトデータを特徴付けるデータ座標からの距離が相対的に短いノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを前記複数のデータ記憶ノー
ドの中から第1のデータ記憶ノードとして複数選択するとともに、該複数の第1のデータ記憶ノードの中から該オブジェクトデータのデータ識別子に基づいて決定したデータ記憶ノードに、該オブジェクトデータを書き込むことを特徴とする、請求項8に記載の分散記憶システム。
【請求項10】
前記クライアントノードは、オブジェクトデータを特徴付けるデータ座標からの距離が相対的に短いノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを前記複数のデータ記憶ノードの中から第1のデータ記憶ノードとして複数選択するとともに、選択した複数の第1のデータ記憶ノードに対して該オブジェクトデータの読み出し命令を送出することを特徴とする、請求項8または9に記載の分散記憶システム。
【請求項11】
前記クライアントノードは、オブジェクトデータを特徴付けるデータ座標からの距離が相対的に短いノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを前記複数のデータ記憶ノードの中から第1のデータ記憶ノードとして複数選択するとともに、該複数の第1のデータ記憶ノードの中から該オブジェクトデータを識別するデータ識別子に基づいて決定したデータ記憶ノードに対して、該オブジェクトデータの読み出し命令を送出することを特徴とする、請求項8または9に記載の分散記憶システム。
【請求項12】
データ座標によって特徴付けられるとともにデータ識別子によって一意に識別される複数のオブジェクトデータを分散して記憶する分散記憶方法であって、
前記データ座標と同一の空間におけるノード座標を複数のデータ記憶ノードのそれぞれに割り当てる工程と、
前記複数のオブジェクトデータのそれぞれを特徴付けるデータ座標からの距離が相対的に短いノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを、前記複数のデータ記憶ノードの中から第1のデータ記憶ノードとして複数選択する工程と、
前記複数の第1のデータ記憶ノードの中から前記複数のオブジェクトデータのそれぞれを識別するデータ識別子に基づいて決定したデータ記憶ノードに、該オブジェクトデータを記憶させる工程と、を含むことを特徴とする分散記憶方法。
【請求項13】
前記複数のオブジェクトデータのそれぞれを特徴付けるデータ座標、および、前記複数のデータ記憶ノードのそれぞれに割り当てられたノード座標は、前記複数のオブジェクトデータを定量的に評価する複数の評価軸を座標軸とするユークリッド空間における座標であることを特徴とする、請求項12に記載の分散記憶方法。
【請求項14】
オブジェクトデータからの距離が所定の距離以内のノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを前記複数のデータ記憶ノードの中から第1のデータ記憶ノードとして複数選択する工程を含むことを特徴とする、請求項12または13に記載の分散記憶方法。
【請求項15】
オブジェクトデータからの距離が短いノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを該距離の短いものから順に所定の数だけ前記複数のデータ記憶ノードの中から第1のデータ記憶ノードとして選択する工程を含むことを特徴とする、請求項12ないし14のいずれか1項に記載の分散記憶方法。
【請求項16】
オブジェクトデータのデータ識別子をシードとして生成した複数の擬似乱数を前記複数の第1のデータ記憶ノードのそれぞれに割り当てる工程と、
前記オブジェクトデータのデータ座標と前記複数の第1のデータ記憶ノードのそれぞれに割り当てられたノード座標との距離に応じて算出されたウェイトに、割り当てられた擬似乱数を掛け合わせた値が最大のデータ記憶ノードを前記複数の第1のデータ記憶ノードの中から抽出する工程と、
抽出したデータ記憶ノードを、前記オブジェクトデータを格納すべきデータ記憶ノード
として決定する工程と、を含むことを特徴とする、請求項12ないし15のいずれか1項に記載の分散記憶方法。
【請求項17】
前記複数のオブジェクトデータを特徴付けるデータ座標の分布に応じて、前記複数のデータ記憶ノードのそれぞれにノード座標を割り当てる工程を含むことを特徴とする、請求項12ないし16のいずれか1項に記載の分散記憶方法。」

第3 原審拒絶の理由の概要
1.拒絶理由
『この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
請求項1,12
引用文献1-2
引用文献1(請求項1,段落【0084】,【0090】-【0091】)には、「複数の端末から提供された地域情報を、地域別・ジャンル別に保存する装置」が記載されている。
引用文献1における「地域情報」「地域およびジャンル」「地域情報のタイトル」が、本願の「オブジェクトデータ」「データ座標」「データ識別子」に相当する。
引用文献1においては、複数のデータを分散して記憶することについては記載がないものの、引用文献2(段落【0070】-【0071】)には、「複数のマシンから構成された分散記憶システムであって、記憶されるデータの情報に基づいて、複数のストレージノードを選択し、その後記憶されるデータの情報に基づいて、選択した複数のストレージノードの中から、実際に記憶させるストレージノードを選択する」技術が開示されている。
してみると、引用文献1に記載された発明において、引用文献2に記載のような分散記憶システムを適用し、地域やジャンル、地域情報のタイトルといった情報に基づいて、格納するストレージノードを割当てるようにすることで、本願のごとく構成することは、当業者が容易になし得たことである。

請求項2,13
引用文献1-2
引用文献1においても、地域情報には地域とジャンルという複数の属性が付されており、引用文献2においても、ストレージノードの絞り込みを行うために、ストレージノードにどのような情報を格納するかに関する属性が付されている。
そして、これら属性をどのように用いて絞り込みを行うかは、当業者が適宜選択し得る設計的事項であるところ、本願のごとく「ユークリッド空間における座標」として各属性を管理し、絞り込みを行うようにすることに、格別の技術的困難性は認められない。

請求項3,14
引用文献1-2
引用文献2において、複数のストレージノードが選択される際には、格納されるデータの情報に基づいて選択がなされており、これは本願の「オブジェクトデータからの距離が所定の距離以内のノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを・・・複数選択する」ことに相当する。

請求項4,15
引用文献1-2
引用文献2においては、割り当てられている複数のストレージノードが全て選択されているが、これを近いものから順に所定数選択するようにすることに、格別の技術的困難性は認められない。

請求項7,17
引用文献1-2
各ストレージノードの格納容量に限界がある以上、地域情報に付された地域およびジャンルに関する情報の分布に応じて、各ストレージノードの対応範囲を変化させるようにすることは、当業者が当然考慮する事項である。

請求項8
引用文献1-2
引用文献2において、ストレージノードへのリード・ライト要求を発行するホストコンピュータが開示されている。

請求項9-11
引用文献1-2
引用文献2には特段の言及がないものの、ホストコンピュータがアクセスノードとしても機能するように構成することに、格別の技術的困難性は認められない。

<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項5,6,16に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2002-092198号公報
2.特開2005-235171号公報
…(後略)…』

2.拒絶査定
『この出願については、平成26年6月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
出願人は、平成26年7月22日付けの意見書において、「引例1,2のいずれにおいても、データの保存先を決定する指標(基準)は単一です。しかしながら、・・・本願発明は、「データ座標」、「データ識別子」という複数の異なる指標(基準)を用いて、保存先の記憶ノードの候補を限定した後、実際の保存先を決定する構成を有し、かかる構成により上述の顕著な効果を奏するもの」である旨主張し、本願が進歩性を有する旨主張している。

しかしながら、先の拒絶理由通知書において引用した引用文献1(請求項1,段落【0084】,【0090】-【0091】)には、「複数の端末から提供された地域情報を、地域別・ジャンル別に保存する装置」が記載されている。
引用文献1における「地域情報」「地域およびジャンル」「地域情報のタイトル」が、本願の「オブジェクトデータ」「データ座標」「データ識別子」に相当する。
引用文献1においては、複数のデータを複数の指標に基づいて分散して記憶することについては記載がないものの、先の拒絶理由通知書において引用した引用文献2(段落【0070】-【0071】)には、「複数のマシンから構成された分散記憶システムであって、記憶されるデータのうち、先頭の文字に基づいて、複数のストレージノードを選択し、その後記憶されるデータのうち、二番目の文字に基づいて、選択した複数のストレージノードの中から、実際に記憶させるストレージノードを選択する」技術が開示されており、すなわち、情報の一つ目の指標に基づいて対象となるノードを限定し、二つ目の指標に基づいて、限定された対象ノード群の中から実際に情報を記憶するノードを決定することが記載されている。
してみると、引用文献1に記載された発明において、記憶効率を向上させるという一般的な課題を解決するために、引用文献2に記載のような分散記憶システムを適用し、地域やジャンルという一つ目の指標を用いて対象となるストレージノードを限定し、地域情報のタイトルといった情報に基づいて、格納するストレージノードを割当てるようにすることで、本願のごとく構成することは、当業者が容易になし得たことである。

よって、出願人の意見は採用できず、請求項1-4,7-15,17に係る発明は、依然として引用文献1および2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
…(後略)…』

第4 当審の判断
1.引用文献
(1)原審の拒絶査定の理由である平成26年6月19日付けの拒絶理由において引用された特開2002-092198号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線部は当審が付与した。)
A.「【請求項1】ネットワークを介して接続された複数の情報利用者の端末から提供された地域情報を取得し、取得した地域情報に基づいて地域情報を提供する地域情報提供装置であって、
前記情報利用者の端末に対して地域情報の提供を募集する募集手段と、
前記情報利用者の端末から提供された地域情報を地域別に記憶する地域別情報記憶手段と、
前記地域情報を提供した前記情報利用者に対して、該地域情報に対する対価を還元する対価還元手段と、
前記地域別情報記憶手段に記憶された地域情報を前記情報利用者に対して公開する情報公開手段と、
を備えることを特徴とする地域情報提供装置。
【請求項2】前記募集手段は、前記情報利用者端末に対して前記地域情報をジャンル別に募集するジャンル別募集手段を更に備え、
前記地域別情報記憶手段は、前記情報利用者端末から提供された地域情報を地域毎のジャンル別情報として記憶するジャンル別記憶手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載の地域情報提供装置。
…(中略)…
【0008】本発明の課題は、限定された地域情報のように、ネットワーク上に存在しない地域情報、或いは、検索エンジンにより検索が困難な地域情報を、限定された地域の情報に詳しいネットワークの利用者が情報提供することにより、ネットワーク上で緻密な地域情報を提供することが可能な地域情報提供装置、及び記憶媒体を提供することである。」

B.「【0041】図10は、情報ページファイル17gが記憶する情報ページを示す図である。情報ページは、地域・ジャンル選択ページ(図9参照)において選択された「地域」及び「ジャンル」に対応する情報のタイトル、内容、提供日等からなるリストと、絞込みキーワードを入力する入力欄と、「OK」の指示ボタンとを備え、リストからのタイトル選択後、或いは、キーワードの入力後に「OK」の指示ボタンが押下されると、この押下信号をCPU11が検出して、選択された「タイトル」、或いは、「キーワード」に対応するページを情報利用者端末2に送信する。
…(中略)…
【0084】また、情報利用者により提供された情報は、地域、及びジャンル別で分類されるので、情報利用者は希望した地域、及びジャンルの各情報を自由に閲覧できる。
…(中略)…
【0088】また、情報利用者が提供する情報は、情報DB17kに保存するだけではなく、情報利用者端末2が常時インターネットSに接続している場合、情報利用者端末2側で情報内容と情報IDとを保存し、地域情報提供サーバ1の情報DB17kでは、情報ID、ユーザID、地域、ジャンル等を記憶することにしても良い。この場合は、データを分散して保存することができるため、地域情報提供サーバ1側の記憶容量を少なくできる。
【0089】また、情報利用者から提供された夫々の情報の著作権は、地域情報提供サーバ1側にあることにして、提供された夫々の情報を記憶するDBを第三者に販売すうすることにより情報提供サービスを運営することにしても良い。
【0090】
【発明の効果】請求項1及び7記載の発明によれば、ネットワークを介して接続された情報利用者の端末に対して地域情報の提供を募集し、情報利用者から提供された地域情報を地域別に記憶し、該地域情報を提供した情報利用者に対して該地域情報に対する対価を還元して、提供された地域情報を公開することができるので、ネットワークを利用して膨大な情報をスムーズに集めることができるとともに、情報利用者は、提供する地域情報の価値に見合った対価を期待でき、情報利用者の積極的な地域情報の提供を期待できる。また、情報利用者は、地域別に分類された地域情報の閲覧が容易にできる。
【0091】請求項2記載の発明によれば、情報利用者から提供される地域情報をジャンル別に募集し、ジャンル別に記憶することにより、提供された地域情報を分類する手間が省ける。また、情報利用者に対してジャンル別に分類された地域情報を公開することができる。」

(2)引用文献1に記載された事項を検討する。
(A)前記A.の記載、および、前記B.の『「地域」及び「ジャンル」に対応する情報のタイトル』との記載から、「地域及びジャンルに対応する情報のタイトル」が前記情報と関連していることをよみとることができる。この点を加味すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1発明」と呼ぶ。)が記載されている。

「ネットワークを介して接続された複数の情報利用者の端末から提供された地域情報を取得し、取得した地域情報に基づいて地域情報を提供する地域情報提供装置であって、
前記情報利用者の端末に対して地域情報の提供を募集する募集手段と、
前記情報利用者の端末から提供された地域情報を地域別に記憶する地域別情報記憶手段と、
前記地域情報を提供した前記情報利用者に対して、該地域情報に対する対価を還元する対価還元手段と、
前記地域別情報記憶手段に記憶された地域情報を前記情報利用者に対して公開する情報公開手段と、
を備え、
前記募集手段は、前記情報利用者端末に対して前記地域情報をジャンル別に募集するジャンル別募集手段を更に備え、
前記地域別情報記憶手段は、前記情報利用者端末から提供された地域情報を地域毎のジャンル別情報としてタイトルを関連づけて記憶するジャンル別記憶手段を更に備える地域情報提供装置。」

(3)同じく原審の拒絶理由において引用された特開2005-235171号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線部は当審が付与した。)
C.「【0070】
固有の位置
代替の実施形態は、コンテンツアドレスの少なくとも一部を使用して、記憶システムのデータユニットの記憶位置の少なくとも1つの側面の算出する技術を用いる(ここでは固有の位置と呼ぶ)。図5に固有の位置を使用した例証的記憶システム507を示す。記憶システム507は、複数のアクセスノード503a、503b、503c、複数のストレージノード505a、505b、505c、505d、505e、505fを含んでいる。ストレージノードは、ストレージノードの各グループがコンテンツアドレスの一範囲に割り当てられるようにグループに分割されてもよい。図5の実施例において、ストレージノード505aおよび505bは、文字「A」-「I」で始まるコンテンツアドレスを割り当てられ、ストレージノード505cおよび505dは、文字「J」-「R」で始まるコンテンツアドレスを割り当てられ、ストレージノード505eおよび50Sfは、文字「S」-「Z」で始まるコンテンツアドレスを割り当てられている。図5では、ストレージノードの各グループは、2つのストレージノードを含んでいる。ただし、1つのストレージノードグループは、単に1つのストレージノードを含んでいても、または3つ以上のストレージノードを含んでいてもよいことは理解されたい。さらに、ストレージノードの各グループは、等しい数のストレージノードを含んでいる必要はない。一実施形態において、ストレージノードの各グループは、コンテンツアドレスのその割り当てられた範囲に対応するデータユニットを記憶する。アクセスノード503は、コンテンツアドレスのどの範囲がストレージノードの各グループに割り当てられるかについての情報を保持し、そのため、アクセス要求に応答して、データユニットにアクセスする適切なストレージノードを選択することができる。
【0071】
例えば、アクセスノード503aが、ホスト501aからコンテンツアドレスが文字「J」で始まるデータユニットを書き込む要求を受け取ると、そのアクセスノードは、ストレージノード505cまたは505dのいずれかを選択してデータを記憶する。一実施形態において、アクセスノード503aは、これらの2つのストレージノードの1つを、コンテンツアドレスの他の部分に基づいて選択する。例えば、アクセスノード503aは、コンテンツアドレスの第2番目の文字を調べて、選択されたグループ内の適切なストレージノードを選択する。例えば、ストレージノード505eは、コンテンツアドレスが「A」-「M」の第2番目の文字を有するデータユニットを記憶し、ストレージノード505dは、コンテンツアドレスが「N」-「Z」の第2番目の文字を有するデータユニットを記憶してもよい。本発明はこの点で限定されるものではないので、コンテンツアドレスの任意の1つまたは2つ以上の文字が、複数のストレージノードのグループ内の適切なストレージノードを選択するために使用されてもよいことは理解されたい。」

(4)引用文献2に記載された事項を検討する。
(4.1)前記C.の「データユニット」は、「オブジェクトデータ」といえるものである。また、前記C.の「記憶システム」は、「記憶システム507は、複数のアクセスノード503a、503b、503c、複数のストレージノード505a、505b、505c、505d、505e、505fを含んでいる」との記載から、「データユニットを分散して記憶する複数のストレージノード」であるものをよみとることができ、このストレージノードは「複数のオブジェクトデータを分散して記憶する複数のデータ記憶ノード」といえるものである。

(4.2)前記C.の「ストレージノードの各グループは、コンテンツアドレスのその割り当てられた範囲に対応するデータユニットを記憶する。アクセスノード503は、コンテンツアドレスのどの範囲がストレージノードの各グループに割り当てられるかについての情報を保持し、そのため、アクセス要求に応答して、データユニットにアクセスする適切なストレージノードを選択することができる・・・ 例えば、アクセスノード503aが、ホスト501aからコンテンツアドレスが文字「J」で始まるデータユニットを書き込む要求を受け取ると、そのアクセスノードは、ストレージノード505cまたは505dのいずれかを選択してデータを記憶する。一実施形態において、アクセスノード503aは、これらの2つのストレージノードの1つを、コンテンツアドレスの他の部分に基づいて選択する。例えば、アクセスノード503aは、コンテンツアドレスの第2番目の文字を調べて、選択されたグループ内の適切なストレージノードを選択する」との記載から、「記憶されるデータのうち、先頭の文字「J」に基づいて、複数のストレージノードを選択し、その後記憶されるデータのうち、二番目の文字に基づいて、選択した複数のストレージノードの中から、実際に記憶させるストレージノードを選択する」技術をよみとることができ、この技術は、換言すれば、「情報の一つ目の指標に基づいて対象となるノードを限定し、二つ目の指標に基づいて、限定された対象ノード群の中から実際に情報を記憶するノードを決定する」技術であるといえる。

2.対比
本願の請求項1に係る発明(以下、請求項に係る発明を「請求項1発明」などと呼ぶ。)と引用文献1発明とを対比する。
(1)引用文献1発明の「地域情報」は、請求項1発明の「オブジェクトデータ」に相当する。

(2)引用文献1発明の前記「地域情報」は、「ジャンル」や「地域」情報によって特徴づけられるとみることができるので、前記「ジャンル」ないし「地域」情報は請求項1発明の「オブジェクトデータを特徴付けるデータ座標」に相当する。

(3)引用文献1発明の「タイトル」は、図10の絞り込みキーワードに入力することにより実質的に一意に地域情報が識別され検索されると解されることから、この「タイトル」は請求項1発明の「データ識別子」に相当する。

(4)引用文献1発明の「地域情報提供装置」(図1の地域情報提供サーバ)は請求項1発明の「データ記憶ノード」に相当する。

前記(1)?(4)の対比をふまえると、引用文献1発明と請求項1発明とは、次の点で一致し、そして、次の点で相違する。

〈一致点〉
「複数のオブジェクトデータを記憶するデータ記憶ノードを備え、
前記複数のオブジェクトデータは、それぞれ、データ座標によって特徴付けられるとともにデータ識別子によって一意に識別され、
前記複数のオブジェクトデータは、データ記憶ノードに、それぞれ記憶されることを特徴とする記憶システム。」

〈相違点1〉
請求項1発明は、複数のオブジェクトデータを「分散して」記憶する「複数の」データ記憶ノードを備えている「分散記憶システム」であるのに対し、引用文献1発明はそのような構成を備えていない点。

〈相違点2〉
請求項1発明は、「複数の」データ記憶ノードは、「それぞれ、前記データ座標と同一の空間におけるノード座標を割り当てられ」ているのに対し、引用文献1発明は、そのような構成を備えていない点。

〈相違点3〉
請求項1発明は、複数のオブジェクトデータを「オブジェクトデータを特徴付けるデータ座標からの距離が相対的に短いノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを前記複数のデータ記憶ノードの中から第1のデータ記憶ノードとして複数選択した後、該複数の第1のデータ記憶ノードの中から該オブジェクトデータを識別するデータ識別子に基づいて決定した」データ記憶ノードに、それぞれ記憶されるのに対し、引用文献1発明は、そのような構成を備えていない点。

3.判断
前記相違点について検討する。
(1)引用文献2から、「データユニットを分散して記憶する複数のストレージノード」をよみとることができ、このストレージノードは「複数のオブジェクトデータを分散して記憶する複数のデータ記憶ノード」といえるものであるから、前記〈相違点1〉の、複数のオブジェクトデータを「分散して」記憶する「複数の」データ記憶ノードを備えている「分散記憶システム」に相当する。
しかし、引用文献1発明において、前記引用文献2の事項を組み合わせる際に、引用文献1の段落【0008】に「本発明の課題は、限定された地域情報のように、ネットワーク上に存在しない地域情報、或いは、検索エンジンにより検索が困難な地域情報を、限定された地域の情報に詳しいネットワークの利用者が情報提供することにより、ネットワーク上で緻密な地域情報を提供することが可能な地域情報提供装置、及び記憶媒体を提供することである」と記載されているように、地域情報を「分散記憶システム」とすることを考慮しておらず、むしろ、地域情報の分散記憶とは対峙して地域情報を分散することなく記憶するものであり、引用文献2に「複数のオブジェクトデータを分散して記憶する複数のデータ記憶ノード」の技術が示されているからといって、直ちに引用文献1発明において引用文献2の前記技術を組み合わせること(動機づけの判断)ができるとは言えない。

(2)引用文献2には、「情報の一つ目の指標に基づいて対象となるノードを限定し、二つ目の指標に基づいて、限定された対象ノード群の中から実際に情報を記憶するノードを決定する」技術が示されているが、前記「指標」は「情報」の「指標」であって、「ノード」に割り当てられた「指標」ではない(むしろ、「データ座標」に相当する。)ことからも、前記相違点2の、「複数のデータ記憶ノードは、それぞれ、データ座標と同一の空間におけるノード座標を割り当てられ」ることを記載ないし示唆するものではない。

また、引用文献2の前記技術は「情報の一つ目の指標に基づいて対象となるノードを限定」するものであることは認められるが、この限定は、前記相違点3の如く、「オブジェクトデータを特徴付けるデータ座標からの距離が相対的に短いノード座標を割り当てられたデータ記憶ノードを前記複数のデータ記憶ノードの中から第1のデータ記憶ノードとして複数選択」するものではなく、引用文献2の前記限定が前記相違点3の如き具体的な限定を示唆するものでもない。
してみれば、引用文献1発明において、引用文献2の技術を組み合わせること(動機づけの判断)ができるとは言えず、前記相違点2、相違点3の事項は示されていないから、引用文献1発明において、前記引用文献2の技術を参酌したとしても、前記相違点1ないし相違点3の事項を具えた発明は導出することはできない。
そして、請求項1発明は、本願発明の詳細な説明の段落【0020】に記載された「本発明に係る分散記憶システムおよび分散記憶方法によると、複数のデータ記憶ノードにオブジェクトデータを均一に分散して格納するとともに、オブジェクトデータの特徴に応じて、オブジェクトデータを一部のデータ記憶ノードに偏在させることができる」、段落【0031】に記載された「本発明に係る分散記憶システムによると、複数ノードを集中的に管理および制御する特定ノードを用いない分散処理環境において、オブジェクトデータをそれぞれの性質に基づいて分散しつつ、各ノードにほぼ均等に分散して記憶することができ、また、オブジェクトデータのデータ識別子と該オブジェクトデータのデータの性質を表す複数の数値化された指標(データ座標)から該オブジェクトデータを記憶するノードを特定することができ、さらに、オブジェクトデータのデータの性質を表す複数の数値化された指標(データ座標)から該オブジェクトデータを記憶するノードを一部のノードに限定することができる。」という引用文献1、2からは予想できない顕著な効果を奏するものである。
したがって、請求項1発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

4.請求項2?請求項17に係る発明について
なお、請求項5?6及び請求項16に係る発明については、拒絶の理由が通知されていない。
請求項2?4、請求項7?11に係る発明は、請求項1を直接ないし間接的に引用している「システム」の発明に関し、請求項12に係る発明は、請求項1に係る発明と実質的に同様の構成を具えた「方法」の発明に関し、請求項13?15、請求項17に係る発明は、請求項12を直接ないし間接的に引用している「方法」の発明に関し、これらの請求項は、引用している請求項1、又は、請求項1の「分散記憶システム」と実質的に同様の事項を有する請求項12に係る「分散記憶方法」の発明と同様の事項を具えているので、請求項1、又は、請求項12に係る発明と同様のことが言えて、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願請求項1ないし4、請求項7ないし15、請求項17に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
また、他に拒絶の理由を発見できない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-04-12 
出願番号 特願2013-504500(P2013-504500)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 萩島 豪  
特許庁審判長 石井 茂和
特許庁審判官 高木 進
須田 勝巳
発明の名称 分散記憶システムおよび分散記憶方法  
代理人 加藤 朝道  

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