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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C05G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C05G
管理番号 1313380
審判番号 不服2014-22305  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-04 
確定日 2016-04-04 
事件の表示 特願2008-550551「硝酸アンモニウムを含む安定化された組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月26日国際公開、WO2007/084873、平成21年 8月 6日国内公表、特表2009-528239〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年1月13日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2006年1月13日 (US)アメリカ合衆国、2007年1月12日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成20年9月19日付けで手続補正がされ、その後、平成24年6月18日付けの拒絶理由通知に対し、同年10月19日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成25年7月24日付けの最後の拒絶理由通知に対し、平成26年1月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月30日付けで、平成26年1月29日付けの手続補正に対する補正の却下の決定がなされるとともに、平成24年10月19日付けの手続補正書の特許請求の範囲に基づいて拒絶査定がされ、さらに、これに対して同年11月4日付けで拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、手続補正書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定

1 補正却下の決定の結論

平成26年11月4日付けの手続補正を却下する。

2 理由

(1)補正の内容
平成26年11月4日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を変更する補正であるところ、本件補正の前後における特許請求の範囲の記載は、それぞれ以下のとおりである。

ア 本件補正前(平成24年10月19日付け手続補正書)
「【請求項1】
硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、水酸化硝酸ネオジム、及びこれらの2種又は3種以上の組み合わせよりなる群から選択される化合物と、硝酸アンモニウムと、を含む複塩、及び
脱酸素剤及びアンモニア発生剤よりなる群から選択される少なくとも1種の分解防止剤、を含有する、肥料組成物。
【請求項2】(省略)
【請求項3】
硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、水酸化硝酸ネオジム、及びこれらの2種又は3種以上の組み合わせよりなる群から選択される化合物と、硝酸アンモニウムと、を含む複塩、を含有する第一の組成物と、脱酸素剤及びアンモニア発生剤よりなる群から選択される少なくとも1種の分解防止剤、を含有する第二の組成物と、を混合することを含む、請求項1に記載の肥料組成物を製造する方法。」

イ 補正後
「【請求項1】
硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、及び水酸化硝酸ネオジムからなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、硝酸アンモニウムと、を含む複塩、及び
活性ケイ酸、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、シュウ酸、ギ酸、酒石酸塩、カルボジアミド、ビグアニド、ジシアンジアミド、炭酸カルシウム、チオ尿素、尿素、セミカルバジド、セントラライト、ウレタン、ジフェニル、ジフェニルアミン、ナフチルアミン、アミノフェノール、安息香酸、ピロカテキン、フェニレンジアミン、ヘキサミン、(NH_(4))_(2)C_(2)O_(4)・H_(2)O、NH_(4)、LiF、酒石酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、酸化ケイ素からなる群から選択される、少なくとも1種の分解防止剤、
を含有する、肥料組成物。
【請求項2】(省略)
【請求項3】
硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、及び水酸化硝酸ネオジムからなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、硝酸アンモニウムと、を含む複塩、を含有する第一の組成物と、
活性ケイ酸、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、シュウ酸、ギ酸、酒石酸塩、カルボジアミド、ビグアニド、ジシアンジアミド、炭酸カルシウム、チオ尿素、尿素、セミカルバジド、セントラライト、ウレタン、ジフェニル、ジフェニルアミン、ナフチルアミン、アミノフェノール、安息香酸、ピロカテキン、フェニレンジアミン、ヘキサミン、(NH_(4))_(2)C_(2)O_(4)・H_(2)O、NH_(4)、LiF、酒石酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の分解防止剤、を含有する第二の組成物と、
を混合することを含む、請求項1に記載の肥料組成物を製造する方法。」
(当審注:下線は、補正箇所を把握しやすくするため、当審が付したものである。以下同様である。)

(2)本件補正の適否について
本件補正は、審判請求と同時にされた特許請求の範囲についてする補正であるから、特許法第17条の2第5項各号のいずれかの事項を目的とするものに限られる。
そこで、本件補正の目的について検討する。

本件補正の請求項1、3についての補正は、
ア 硝酸アンモニウムとともに複塩に含まれる化合物の選択肢「硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、水酸化硝酸ネオジム」の内、「硝酸カリウム」を削除、
イ 硝酸アンモニウムとともに複塩に含まれる化合物について、「これらの2種又は3種以上の組み合わせよりなる群から選択され」とされていたものを、「群から選択される少なくとも一つ」と変更、
ウ 少なくとも1種の分解防止剤の選択肢について、「脱酸素剤及びアンモニア発生剤よりなる群から選択される」とされていたものを、「活性ケイ酸、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、シュウ酸、ギ酸、酒石酸塩、カルボジアミド、ビグアニド、ジシアンジアミド、炭酸カルシウム、チオ尿素、尿素、セミカルバジド、セントラライト、ウレタン、ジフェニル、ジフェニルアミン、ナフチルアミン、アミノフェノール、安息香酸、ピロカテキン、フェニレンジアミン、ヘキサミン、(NH_(4))_(2)C_(2)O_(4)・H_(2)O、NH_(4)、LiF、酒石酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、酸化ケイ素からなる群から選択される」と変更、
を含むものである。
このうち、上記(2)ウについて検討すると、本願明細書の段落【0013】に、「分解防止剤は、脱酸素剤、特に金属ハロゲン化物、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属硝酸塩及びこれらの混合物により特徴付けられ得るものを含む、1種又は2種以上の金属塩を含む。特定の態様において、該金属塩を形成する金属は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属、好ましくは周期律表の第3周期又は第4周期のアルカリ金属又はアルカリ土類金属、更に詳細には、カリウム、マグネシウム、カルシウム、及びこれらの組み合わせより選択されることが好ましい。ハロゲン化カリウム(特にKCl)、MgSO_(4)、CaCO_(3)、MgCO_(3)、ドロマイト(CaMgCO_(3))、Mg(NO_(3))_(2)、及びこれら2種又は3種以上の組み合わせが特に好ましい。本願出願人らは、特定の好ましい態様において、分解防止剤の選択される群に、塩化リチウム、及び特にフッ化リチウムが含まれないことが好ましいことを見出した。」と、記載されていることから、補正後の請求項1、3に記載の「硫酸マグネシウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト」は、「脱酸素剤」の具体例であることが理解される。また、本願明細書には、アンモニア発生剤の具体例として、特定の化合物名が直接的に記載されていないが、段落【0014】に、「アンモニウム塩(特に酒石酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム及びこれらの組み合わせを含むが、特定の好ましい態様においては安息香酸アンモニウムを除く)」と記載されているところ、アンモニウム塩は、強塩基との反応によりアンモニアを発生しうる化合物であり、また、アンモニウム塩以外のアンモニア発生剤と推測しうる化合物が例示されていないことから、これらをアンモニア発生剤と捉えるとすると、補正後の請求項1、3に記載の「酒石酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム」は「アンモニア発生剤」の下位概念であるということになる。しかしながら、補正後の請求項1、3に記載の「活性ケイ酸、シュウ酸、ギ酸、酒石酸塩、カルボジアミド、ビグアニド、ジシアンジアミド、炭酸カルシウム、チオ尿素、尿素、セミカルバジド、セントラライト、ウレタン、ジフェニル、ジフェニルアミン、ナフチルアミン、アミノフェノール、安息香酸、ピロカテキン、フェニレンジアミン、ヘキサミン、(NH_(4))_(2)C_(2)O_(4)・H_(2)O、NH_(4)、LiF、酸化ケイ素」は、本願明細書に分解防止剤の一例として記載されているものの、「脱酸素剤及びアンモニア発生剤よりなる群から選択される少なくとも1種の分解防止剤」の具体例として記載されたものでないから、これらの化合物の選択肢としての追加は、補正前の請求項1、3に係る発明を特定するために必要な事項である「脱酸素剤及びアンモニア発生剤よりなる群から選択される少なくとも1種の分解防止剤」を具体例に限定するものでなく、本件補正の目的が、補正前の発明特定事項をさらに限定するためのもの、すなわち、いわゆる「限定的減縮」にあたるということはできない。よって、請求項1、3についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
また、請求項1、3についての補正は、特許法第17条の2第5項に掲げる請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものでもない。

(3)むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成24年10月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】
硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、水酸化硝酸ネオジム、及びこれらの2種又は3種以上の組み合わせよりなる群から選択される化合物と、硝酸アンモニウムと、を含む複塩、及び
脱酸素剤及びアンモニア発生剤よりなる群から選択される少なくとも1種の分解防止剤、を含有する、肥料組成物。」

2 原査定の拒絶の理由の概要

これに対して、原査定の拒絶の理由である理由2は、要するに、
「請求項1ないし3に係る発明は、平成25年7月24日付け拒絶理由通知で引用文献1ないし9として引用された刊行物に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」
というものである。

3 引用例の記載事項及び引用例に記載された発明

(3-1)本願の優先権主張日前に頒布された刊行物
・安藤淳平,他2名,“硝安系化成肥料中の化合物とその挙動”,日本化学会誌,1974年,No.9,1617?1622頁
(原査定の引用文献2。以下、「引用例」という。)

(3-2)引用例の記載事項
引用例には以下の記載がされている。
(ア)前書き
「硝酸アンモニウム,硫酸アンモニウム,塩化カリウムおよびリン酸アンモニウムを原料としてつくる化成肥料中では,その配合割合により多量の複塩 2NH_(4)NO_(3)・(NH_(4))_(2)SO_(4 )を生成し,共存するカリウム塩の量に応じてこの複塩の NH_(4 )の最高 40% 程度までがKで置換される(この複塩とその固有体を以下Bと呼ぶ)。Bは水分が存在しなければ 150℃ 程度まで安定であるが,水分の存在下では 80℃ 以上で次第に硝酸塩と硫酸塩に分解し,分解生成物は室温で貯蔵中にふたたびBを形成する。Bの密度や生成熱はKの固溶度に応じて大きな差がある。Kの比較的少ない製品 20-11-11 では,室温でのBの生成は発熱と体積増加をともない,粒の崩壊の原因となる。Kが比較的多い 15-20-15 では,Bの生成はわづかな吸熱と体積減少をともない,反応も遅いので粒の崩壊は起こらない・・」(1617頁前段1?8行)

(イ)2 化成肥料の試料
「送付を受けたスエーデン産の試料は S-1, S-2 の 2 種で,N-P_(2)O_(4)-K_(2)O は前者は 20-11-11, 後者は 16-16-16 であり,フィンランド産の試料は F-1 で 15-20-15 でいずれも 3?5 mm の粒状である。 S-1, F-1 は湿式リン酸をアンモニア化したスラリー, S-2 は粉状リン安を用い,これらに硝酸アンモニウム,硫酸アンモニウム,および塩化カリウムを加えて 80℃ 程度で造粒し 100℃ 程度で乾燥したものである。S-1 は水分は 0.3% で,固結性は少ないが,1?2 箇月間の貯蔵中は徐々に粉化する傾向があり,この粉化は吸湿によって促進される。工場の実例では製造直後の水分 0.3% のものはカサ比重 1.05 で粒の強度は 1 個あたり 3 kg 程度であるが, 2?3 日放置した場合に山積みの表面の部分は吸湿して水分が 0.8% となるとカサ比重は 0.95 となり強度が 0.2 kg 以下になり,かなり粉化した。著者らのところに送られた試料はポリエチレンのビンに密封されており,吸湿はしていないが一部粉化したものである。S-2 は水分 0.6% を含むが強度低下はなく,若干の固結性をもつ。F-1 は水分は 0.5% で膨張や強度低下はないが,吸湿しなくとも工場で貯蔵の初期にかなり強く固結する性質があり,著者のところに送られたものは固結した試料である。」(1617頁左欄20行?右欄14行)

(ウ)3 実験方法
「・・
化成肥料の試料についてX線定量分析を行なった結果を表 1 に示す。試料は,S-2-2 を除いていずれも製造後約 1 箇月を経過したものである。表 1 の中の III-(NH_(4),K)NO_(3) はIII型 NH_(4)NO_(3) の NH_(4) の一部をKが置換した固溶体で,表中の (75:25) は固溶体中の NH_(4) とKのモル比を示す。NH_(4)NO_(3)・2KNO_(3) は複塩であって以下この複塩およびその固溶体をCと略記する。(NH_(4),K)_(4)(NO_(3))_(2)SO_(4) は複塩 (NH_(4))_(4)(NO_(3))_(2)SO_(4) (すなわち,2NH_(4)NO_(3)・(NH_(4))_(2)SO_(4)) の NH_(4) の一部をKが置換した固溶体(B)である。」(1618頁左欄19?26行)

(エ)表1


」(1618頁左欄24行以下)

(3-3)引用例記載の発明
(A)上記(ウ)、(エ)によれば、引用例には、S-2-1 及び S-2-2 として、複塩であるNH_(4)NO_(3)・2KNO_(3) と、KCl を有する化成肥料( fertilizer )が開示されているといえる。

上記(A)の検討事項より、引用例には、
「複塩 NH_(4)NO_(3)・2KNO_(3) 、及び KCl 、を有する化成肥料。」(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

4 対比・判断

本願発明と引用例記載の発明とを対比する。

○引用例記載の発明の「化成肥料」も NH_(4)NO_(3)・2KNO_(3) 、KCl という複数の成分を含有するものであるから組成物であり、本願発明の「肥料組成物」に相当する。

○引用例記載の発明の「複塩 NH_(4)NO_(3)・2KNO_(3) 」は、硝酸カリウム( KNO_(3 ))と硝酸アンモニウム( NH_(4)NO_(3) )との複塩であるから、本願発明の「硝酸カリウムと、硝酸アンモニウムと、を含む複塩」に相当する。

○本願明細書の【0013】に、「前記分解防止剤は、脱酸素剤、特に金属ハロゲン化物、・・により特徴付けられ得るものを含む、1種又は2種以上の金属塩を含む。・・ハロゲン化カリウム(特にKCl)、・・が特に好ましい。」と記載されていることから、引用例記載の発明の「 KCl 」は、本願発明における脱酸素剤の一種であり、したがって、本願発明の「脱酸素剤から選択される少なくとも1種の分解防止剤」に相当するといえる。
(なお、上記(ア)に、「Kの比較的少ない製品 20-11-11 では,室温でのBの生成は発熱と体積増加をともない,粒の崩壊の原因となる。Kが比較的多い 15-20-15 では,Bの生成はわづかな吸熱と体積減少をともない,反応も遅いので粒の崩壊は起こらない」旨記載されており、引用例記載の発明でも、Kの供給源である KCl は『「複塩 2NH_(4)NO_(3)・(NH_(4))_(2)SO_(4 )」等の粒の崩壊(分解)を防止する剤』として機能しているものと推測される。)

よって、本願発明と引用例記載の発明とは、
「硝酸カリウムと、硝酸アンモニウムと、を含む複塩、及び、脱酸素剤から選択される少なくとも1種の分解防止剤、を含有する、肥料組成物。」
である点で一致するから、本願発明と引用例記載の発明との間においては、発明特定事項において差異がない。

5 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。

第4 結語
以上のとおりであるから、本願は、他の理由を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

第5 付言

1 平成27年6月5日付け上申書について

審判請求人は、上記上申書において、下記補正案を示した。
「[請求項1]
硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、及び水酸化硝酸ネオジムからなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、硝酸アンモニウムと、を含む複塩、及び
活性ケイ酸、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、シュウ酸、ギ酸、酒石酸塩、カルボジアミド、ビグアニド、炭酸カルシウム、チオ尿素、尿素、セミカルバジド、セントラライト、ウレタン、ジフェニル、ジフェニルアミン、ナフチルアミン、アミノフェノール、安息香酸、ピロカテキン、フェニレンジアミン、ヘキサミン、(NH_(4))_(2)C_(2)O_(4)・H_(2)O、LiF、酒石酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、酸化ケイ素からなる群から選択される、少なくとも1種の分解防止剤、
を含有する、肥料組成物。
[請求項2]
前記少なくとも1種の分解防止剤が、0.1重量%?2重量%の量で存在する、請求項1に記載の肥料組成物。
[請求項3]
硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、及び水酸化硝酸ネオジムからなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、硝酸アンモニウムと、を含む複塩、を含有する第一の組成物と、
活性ケイ酸、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、シュウ酸、ギ酸、酒石酸塩、カルボジアミド、ビグアニド、炭酸カルシウム、チオ尿素、尿素、セミカルバジド、セントラライト、ウレタン、ジフェニル、ジフェニルアミン、ナフチルアミン、アミノフェノール、安息香酸、ピロカテキン、フェニレンジアミン、ヘキサミン、(NH_(4))_(2)C_(2)O_(4)・H_(2)O、LiF、酒石酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の分解防止剤、を含有する第二の組成物と、
を混合することを含む、請求項1に記載の肥料組成物を製造する方法。」

当該補正案の請求項1、3は、上記「第2 2(1)イ」で補正の適否を検討した本件補正の「補正後」の請求項1、3と比して、分解防止剤の選択肢から、「ジシアンジアミド」及び「NH_(4)」が削除されたものであるが、これら2つが削除されたとしても、依然として上記「第2 2(2)」で検討したものと変わりなく、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれかの要件が満たされることはないから、当該補正案に手続補正したとしても、補正を却下するとの結論に変わりはない。

2 平成24年10月19日付け手続補正書の【手続補正2】ないし【手続補正5】の適否について

上記【手続補正2】ないし【手続補正5】では、本願明細書の発明の詳細な説明における実施例の記載に関し、「単塩硝酸アンモニウム」を「2:1ASN」に置換する補正を行っており、平成24年10月19日付け意見書において、当該補正の目的は「誤記を訂正したもの」と述べ、さらに、「分解防止剤の効果を示す実施例の組成物に用いられている硝酸アンモニウムの塩が、単塩ではなく、2:1 ASNであることは、明細書段落[0006]?[0009]において、分解防止剤を含まない2:1 ASNのデータが記載されており、そして、このデータとの比較において本願発明の組成物(分解防止剤)が評価されることが記載されていることから明らかであると思料いたします」と、また、平成26年1月29日付け意見書において、さらに、『当初の「約99.5重量%の単塩硝酸アンモニウム」の記載が誤記であり、「約99.5重量%の2:1 ASN」を意図していたことは、本願の優先権書類(米国出願番号11/622,878)の記載からも明らかであります。』と述べている。
しかしながら、本願に対する手続補正は、国際特許出願である本願の原文が記載されている国際特許出願番号「PCT/US2007/060535」(国際特許公開第2007/084873号)明細書には、「単塩硝酸アンモニウム」に相当する「single salt ammonium nitrate」が記載されているのみである。確かに、「PCT/US2007/060535」は「米国出願番号11/622,878」を優先権主張の基礎とするものであるところ、「米国出願番号11/622,878」では、「single salt ammonium nitrate」に換えて「1:2 ammoniumu sulfate nitrate」と記載されている。とするならば、「米国出願番号11/622,878」に基づいて「PCT/US2007/060535」を出願した段階で、出願人(審判請求人)は何らかの意図を持って、「1:2 ammoniumu sulfate nitrate」を「single salt ammonium nitrate」に書き換えたと見るのが自然であり、少なくとも、誤記程度の差異とみることはできない。(なお、そもそも、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面の範囲内でした補正か否かの判断において、優先権主張の基礎となった出願書類の記載が根拠とならないことは当然のことである。)
また、本願明細書の【0009】には、「特定の好ましい態様において、本発明の組成物・・により、・・2:1ASNのおよその開始温度を実質的に下回らない」ことが、【0010】には、「特定の好ましい態様において、本発明の組成物・・により、・・2:1ASNのおよその加熱速度のピーク降下(peak drop in heating rate、PDHR)を実質的に下回らない」ことが記載されており、審判請求人による上記「2:1 ASNのデータ・・との比較において本願発明の組成物(分解防止剤)が評価されることが記載されている」との釈明は、この点を指すものと解されるが、実施例として開示された具体的データを参照すると、【表1】の「2:1ASN平均」の開始温度である222.7℃を下回っていない例は、分解防止剤として、CaCO_(3)、MgSO_(4)、尿素、1,3-ジエチル-1,3-ジフェニル尿素、チオ尿素、SiO_(2)、シュウ酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウムを用いた場合だけであり、また、【表1】の「2:1ASN平均」のDTA(を用いて測定される加熱速度のピーク降下)である1.72μVを下回っていない例は、KCl、MgSO_(4)、ドロマイト、Mg(NO_(3))_(2)、酒石酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウムを用いた場合だけであり、どちらの要件も満足する実施例は、分解防止剤に、MgSO_(4)、シュウ酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウムを用いた場合だけである。すなわち、上記【手続補正2】ないし【手続補正5】による補正後の発明の詳細な説明に基づけば、適切な作用効果を有すると認められる「実施例」はわずかとなり、大半は「比較例」と評価すべきものになり、審判請求人は、当初明細書の請求項16に始まり、平成26年11月4日付け手続補正書の請求項1、3に至るまで、このような「比較例」を繰り返し権利化しようとしていたこととなってしまうことからしても、「単塩硝酸アンモニウム」が「2:1ASN」の明らかな誤記であるとの解釈には無理がある。
そして、実施例では、あくまでも、「単塩硝酸アンモニウム」が用いられており、これと各種分解防止剤との組合せの効果を測定し、少なくとも「組成物の起爆感度をANと比較して実質的に減少させる効果のある」(当初の請求項1参照)、好ましくは、「組成物の起爆感度を2:1 ASNと比較して実質的に減少させる効果のある」(当初の請求項4参照)分解防止剤を含む肥料組成物であるかを確認することを目的としていると捉えるのが自然である。
したがって、平成24年10月19日付け手続補正書の【手続補正2】ないし【手続補正5】によってなされた手続補正は、新規事項を追加するものであると判断している。
 
審理終結日 2015-11-06 
結審通知日 2015-11-09 
審決日 2015-11-24 
出願番号 特願2008-550551(P2008-550551)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (C05G)
P 1 8・ 113- Z (C05G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福山 則明  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 岩田 行剛
星野 紹英
発明の名称 硝酸アンモニウムを含む安定化された組成物  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 中田 尚志  
代理人 山本 修  

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