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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D |
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管理番号 | 1313427 |
審判番号 | 不服2014-22542 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-11-05 |
確定日 | 2016-04-14 |
事件の表示 | 特願2010-239084「抗菌フィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月17日出願公開、特開2012- 91089〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年10月25日の出願であって、平成26年4月17日付けで拒絶理由が通知され、同年6月20日付けで手続補正がされると同時に意見書が提出されたが、同年7月29日付けで拒絶査定がされ、同年11月5日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ、平成27年2月5日付けで上申書が提出され、同年8月27日付けで平成26年11月5日付けの手続補正が却下されて拒絶理由が通知され、同年10月30日付けで手続補正がされると同時に意見書が提出されたものである。 第2 本願発明の認定 本願の請求項1ないし3に記載された発明は、平成27年10月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものであると認める。 「【請求項1】 鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウムを含む金属組成物からなる抗菌剤を繊維製ろ材に添着し、 前記抗菌剤をろ材に対して、4×10^(-5)g/m^(2)以上となるように添着したことを特徴とする抗菌フィルタ。」 第3 当審で通知した拒絶理由の概要 当審から平成27年8月27日付けで通知した拒絶理由の概要は次のとおりであり、以下の「第4」で、請求人の主張を踏まえ、その妥当性について当審の判断を示す。 (理由1)本願発明は、「抗菌剤」の「添着」量について明確でなく、また、発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでもないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合せず、また、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合しない。 (理由2)本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された以下の引用文献1に記載された発明及び周知例1,2に記載される周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特開2007-215988号公報 周知例1:特開2002-1024号公報 周知例2:特開2010-168578号公報 第4 当審の判断 1.理由1について A)当審の検討と判断 本願発明の「抗菌剤をろ材に対して、4×10^(-5)g/m^(2)以上となるように添着した」点について、その根拠は、以下に示す本願明細書の【表1】(【0014】)の「試料名 A?C」「試料名 D」のそれぞれの「抗菌剤付着量」である「4×10^(-5)g/m^(2)」「8×10^(-5)g/m^(2)」にあるといえる。 そこで、「抗菌剤付着量」の技術的な意味についてみてみる。 本願明細書【0007】には「本発明の抗菌フィルタは、鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウムを含む金属組成物からなる抗菌剤を繊維製ろ材に添着してなるものであ」ると記載されることから、上記「抗菌剤付着量」は、「抗菌剤」中の「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウムを含む金属組成物」の付着量を指すものといえる。 そして、上記【表1】の実験結果は、【0013】に記載されるように、「株式会社サンワード商会製の抗菌剤TioTio原液(固形分0.004%、鉄17μg/ml(17ppm)、アルミニウム24μg/ml(24ppm)、カリウム0.22μg/ml(0.22ppm)、チタン0.08μg/ml(0.08ppm)を50g/m^(2)の転写量で前記ろ材試料に転写し、抗菌フィルタ用ろ材試料A?Fを作成した。また、前記抗菌剤で無処理の無処理品をGとし」て「JIS L1902に準拠して黄色ぶどう状球菌についての抗菌性について試験」された結果である。 さらに、【表1】から、「試料A?F」は「TioTio濃度(%)」がそれぞれ相違し、「無処理品G」を除いて、その濃度は「0.5%(固形0.002%)」、「1.0%(固形0.004%)」、「2.0%(固形0.008%)」、「4.0%(固形0.016%)」である。 ここで、上記【0013】の記載から、「抗菌剤TioTio」には「固形分」として「鉄」「アルミニウム」「カリウム」「チタン」が含まれ、他の成分は含まれないから、「試料A?F」に「付着」する「抗菌剤」の「固形分」が、「鉄」「アルミニウム」「カリウム」「チタン」であり、「試料A?F」の「固形」分の「%」に「抗菌剤TioTio」の「転写量」である「50g/m^(2)」を乗じれば、「試料A?F」の「ろ材試料」への「抗菌剤付着量」となるはずである。 そこで、計算すると以下のようになり、「抗菌剤付着量(計算値)」と「抗菌剤付着量(表1の記載)」とは一致せず、技術常識からみて、いずれの「抗菌剤付着量」も誤り(ありえない数値)とはいえないから、当該「抗菌剤付着量」を特定する本願発明は明確でない。 a)「試料A?C」(固形0.008%) 「抗菌剤付着量(計算値)」=50g/m^(2)×0.00008 =400×10^(-5)g/m^(2) 「抗菌剤付着量(表1の記載)」=4×10^(-5)g/m^(2) b)「試料D」(固形0.016%) 「抗菌剤付着量(計算値)」=50g/m^(2)×0.00016 =800×10^(-5)g/m^(2) 「抗菌剤付着量(表1の記載)」=8×10^(-5)g/m^(2) c)「試料E」(固形0.004%) 「抗菌剤付着量(計算値)」=50g/m^(2)×0.00004 =200×10^(-5)g/m^(2) 「抗菌剤付着量(表1の記載)」=2×10^(-5)g/m^(2) d)「試料F」(固形0.002%) 「抗菌剤付着量(計算値)」=50g/m^(2)×0.00002 =100×10^(-5)g/m^(2) 「抗菌剤付着量(表1の記載)」=1×10^(-5)g/m^(2) よって、本願発明は明確でないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2項の規定に適合せず、また、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しない。 B)請求人の主張について 請求人は、平成27年10月30日付け意見書において、『拒絶理由通知におきまして、「抗菌剤付着量(計算値)」「抗菌剤付着量(表1の記載)」が一致しないとのご指摘を頂きましたので、下記の通り説明させて頂きます。 本願明細書【0013】段落には「抗菌剤TioTio原液」との記載がありますが、これは100%のTioTio原液を指すのではなく、水によって100倍希釈された水溶液を指します。すなわち、転写量50g/m^(2)は100倍希釈液の転写量を示しています。これにより、計算値と表1記載の値に100倍の誤差が生じております。従いまして、表1に記載の抗菌剤付着量は正確な値であってこの記載に基づく請求項1記載の発明は明確なものですので、特許法第36条6項第2号を満たすものであり、また、発明の詳細な説明に関しましても、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていると思料致します。なお、本願明細書の誤記によってこのような誤解を招く記載となっていると思われます』旨を主張する。 上記主張は、【表1】(【0014】)でみれば、「TioTio濃度(%)」の数値が、表記の値の1/100であるものが正しい値であると主張しているものと解され、確かに、請求人の上記主張のとおり、【表1】(【0014】)の「TioTio濃度(%)」の数値がそれぞれ1/100にされれば(例えば、「試料名A」において「2.0」を「0.02」とし、「固形0.008%」を「固形0.00008%」とする。)、「抗菌剤付着量g/m^(2)」は【表1】に記載されたとおりの数値(「試料名A」において「4×10^(-5)g/m^(2)」)となる。 しかしながら、【0013】や【0014】に誤記があったとする上記主張は、当該誤記と解し得る根拠を何ら示すものではない。 すなわち、誤記と判断する本願明細書の記載上の根拠が明らかでなければ、例えば、【表1】の「抗菌剤付着量g/m^(2)」の数値は正しく、「TioTio濃度(%)」の数値が誤記であったとも、反対に、「TioTio濃度(%)」の数値が正しく、「抗菌剤付着量g/m^(2)」の数値が誤記であったとも解することが可能だから、本願明細書の記載から当業者は上記主張のとおりの誤記があったものと判断することはできない。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできず、上記A)のように判断する。 2.理由2について (1)引用文献1の記載事項 引用文献1(特開2007-215988号公報)には次の記載がある。 ア)「【0018】また、本発明は、鉄、アルミニウムとカリウムを含む金属組成物、前記金属組成物に四水酸化チタン塩酸塩を配合した組成物および水を含有する水性組成物に関する。」 イ)「【0020】さらに、前記記載の水性組成物からなる抗菌剤に関する。」 ウ)「【0022】本発明によれば、アルミニウム、鉄およびカリウム、より好ましくはチタンを含有することにより、高い消臭効果、抗菌効果および防カビ効果を持続的に発揮させ得る水性組成物を提供することができる。」 エ)「【0032】アルミニウムは、本発明で使用する金属組成物を、例えば消臭剤等の用途で壁面等の対象物に噴霧して固着させる場合のバインダーとしての役割を果たす。すなわち、前記金属組成物中では硫酸アルミニウムなどの水溶性のアルミニウム化合物の状態で存在しているが、対象物上に噴霧された後、乾燥することにより水不溶性の酸化アルミニウムなどに変化して対象物上に多孔性の薄膜を形成し、鉄などの必須金属成分を対象物上に固着させる。このアルミニウム膜による有効成分の固着により、消臭、抗菌や防カビの効果を持続的に発揮することができるのである。」 オ)「【0033】本発明における必須金属成分である鉄、アルミニウムおよびカリウムの含有量は、鉄100ppmに対してそれぞれ100?300ppmおよび1?20ppmの濃度比であることが好ましい。より好ましくは、鉄100ppmに対してアルミニウム200ppm以下であり、150ppm以下でもよい。カリウムの含有量は鉄100ppmに対して1?10ppmであることが好ましい。」 カ)「【0037】本発明の水性組成物におけるチタンの配合量は、鉄100ppmに対して最終濃度として0.2?50ppmであることが好ましく、0.5?20ppmであることがさらに好ましい。」 キ)「【0043】本発明の水性組成物は、噴霧、塗布および含浸などの方法により、対象物に固着させて使用することができる。前記対象物としては、衣料品や壁紙などがあげられるが、特に制限されるものではない。また、前記のとおり、本発明の水性組成物は暗所でも効果発現することから、室内で使用するものに対しても効果が期待できる。」 ク)「【0044】本発明の水性組成物の噴霧または塗布などによる使用量は、水性組成物中の必須金属成分の濃度により異なるが、鉄の濃度が20±5ppmである水性組成物の場合は、付与面積あたり5?20mL/m^(2)であることが好ましく、8?10mL/m^(2)であることがさらに好ましく、使用場所の構造や汚染状況に応じて、使用量を加減することができる。」 (2)引用発明の認定 i)上記引用文献1の記載事項ア)イ)ウ)から、「抗菌剤」を構成するのは「鉄、アルミニウムとカリウムを含む金属組成物、前記金属組成物に四水酸化チタン塩酸塩を配合した組成物」と水とを含む水性組成物であり、同エ)から、「抗菌剤」中の「アルミニウム」が、「対象物上に噴霧された後」で「乾燥すること」により、「アルミニウム」自身を含む「必須金属成分を対象物上に固着させる」ものであるから、結果として、「アルミニウム、鉄、カリウム、チタン」が「対象物上に固着」して「消臭、抗菌や防カビの効果」を奏するものであり、同キ)から、当該「対象物」でなるものが種々の用途に用いられるものといえる。 ii)同キ)ク)の記載から、「水性組成物」である「抗菌剤」は、「8?10mL/m^(2)」の「付与面積あたり」の「使用量」で「対象物」に付与され乾燥されて、「アルミニウム、鉄、カリウム、チタン」が「対象物に固着」されるといえる。 iii)すると、「対象物」でなるものに着目し、本願発明の記載に則して整理すると、引用文献1には、 「鉄、アルミニウムとカリウムを含む金属組成物、前記金属組成物に四水酸化チタン塩酸塩を配合した組成物と水とを含む水性組成物からなる抗菌剤を対象物に付与して、乾燥して、アルミニウム、鉄、カリウム、チタンを対象物に固着したものであって、 水性組成物からなる抗菌剤を付与面積あたり8?10mL/m^(2)の使用量となるように付与した対象物でなるもの。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (3)本願発明と引用発明との対比 i)本願発明の「抗菌剤」は、本願明細書【0008】【0010】【0013】等の記載から、「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウムを含む金属組成物からなる抗菌剤」を含む水溶液にして使用され、乾燥されて「ろ材」上に「添着」されるものといえる。 すると、本願発明の「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウムを含む金属組成物からなる抗菌剤を繊維製ろ材に添着」されるものは「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウム」である。 これに対して、引用発明の「鉄、アルミニウムとカリウムを含む金属組成物、前記金属組成物に四水酸化チタン塩酸塩を配合した組成物と水とを含む水性組成物からなる抗菌剤を対象物に付与して、乾燥して、アルミニウム、鉄、カリウム、チタンを対象物に固着した」においても、結果として「対象物」に添着されるのは、「アルミニウム、鉄、カリウム、チタン」である。 よって、本願発明も引用発明も共に「対象物」に添着されるのは、「アルミニウム、鉄、カリウム、チタン」であるから、本願発明と引用発明とは、「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウム」を「対象物」に「添着」するものである点で一致する。 ii)本願発明の「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウム」を添着した「繊維製ろ材」でなる「抗菌フィルタ」と、引用発明の「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウム」を添着した「対象物でなるもの」は、「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウム」を添着した「対象物でなるもの」である点で一致する。 iii)以上から、本願発明と引用発明とは、 「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウムを添着した対象物でなるもの」の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウム」が添着される「対象物でなるもの」について、本願発明では「繊維製ろ材」でなる「抗菌フィルタ」であるのに対して、引用発明では「対象物でなるもの」について特定されていない点。 <相違点2> 「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウム」の「対象物」への添着量について、本願発明では「抗菌剤をろ材に対して、4×10^(-5)g/m^(2)以上となるように添着」するものであるのに対して、引用発明では「水性組成物からなる抗菌剤を付与面積あたり8?10mL/m^(2)の使用量となるように付与した」ものである点 (4)相違点の検討 A)相違点1について 例えば、周知例1、2の以下の記載を参照。 周知例1には、「織布又は不織布からなるフィルター」に「抗菌性粒子を含む分散液」を「含浸」等して「抗菌フィルター」とすることが示され、 周知例2には、「繊維構造体」に「抗ウイルス性塗料を塗布乾燥」し「空調用フィルタ」とすることが示され、これらの記載から、抗菌剤を繊維製ろ材に付与して抗菌性を持たせたフィルタとすることは周知技術といえる。 ○周知例1:特開2002-1024号公報 ・「【0001】・・・溶液状の抗菌剤を利用して織布又は不織布からなるフィルターに抗菌効果を付加した抗菌フィルター・・・」 ・「【0033】・・・抗菌性粒子を含む分散液で、フィルターを含浸又は塗布することにより、フィルターを構成する繊維の細かな網目に抗菌性粒子を担持させ、抗菌性を付加する。」 ・「【0034】含浸又は塗布する方法としては、浸漬法、ディッピング法、ローラ法、エアーナイフ法、スプレー法等の公知の方法を特に限定なく使用できる・・・」 ○周知例2:特開2010-168578号公報 ・「【0002】従来、病院、養護施設等の建物、備品、医療機器等に、菌やウイルスの感染防止のため、抗菌剤、消毒剤、抗ウイルス剤が使用されている。・・・」 ・「【0011】・・・抗ウイルス性塗料を塗布乾燥してなることを特徴とする繊維構造体である。繊維構造体は、公知のものを用いることができ、例えば、空調用フィルタ、ネット、網戸用ネット、寝具、衣類、マスクとすることができる。また、本発明の抗ウイルス性塗料は、例えば、フィルムまたはシート、に塗布することもできる。さらに、パネル、建装材、内装材といった成形体に塗布できる。」 そして、引用文献1の記載事項キ)には「本発明の水性組成物は、噴霧、塗布および含浸などの方法により、対象物に固着させて使用することができる。前記対象物としては、衣料品や壁紙などがあげられるが、特に制限されるものではない」と記載されるように、引用発明の「抗菌剤」は適用対象物が限定されるものではなく、抗菌を要するものであれば適用できるから、引用発明において、上記周知技術のように、「対象物でなるもの」を「繊維製ろ材」でなる「抗菌フィルタ」とすることに格別の困難性は見いだせない。 よって、上記相違点1に係る本願発明の特定事項に想到することは、当業者が容易に成し得たことである。 B)相違点2について 引用文献1の記載事項ク)には「本発明の水性組成物の噴霧または塗布などによる使用量は・・・鉄の濃度が20±5ppmである水性組成物の場合は、付与面積あたり・・・8?10mL/m^(2)であることがさらに好まし」いことが記載されている。 また、同オ)には「本発明における必須金属成分である鉄、アルミニウムおよびカリウムの含有量は、鉄100ppmに対してそれぞれ100?300ppmおよび1?20ppmの濃度比であることが好ましい。より好ましくは、鉄100ppmに対してアルミニウム200ppm以下であり・・・カリウムの含有量は鉄100ppmに対して1?10ppmであることが好ましい。」と記載され、さらに、同オ)には「本発明の水性組成物におけるチタンの配合量は、鉄100ppmに対して最終濃度として・・・0.5?20ppmであることがさらに好ましい。」と記載される。 すると、これらを含む「水性組成物」である引用発明の「抗菌剤」は、鉄100ppmに対して、アルミニウムは100?200ppm、カリウムは1?10ppm、チタンは0.5?20ppmを含有濃度とするものであり、引用発明の「抗菌剤」の好ましい付与量である「8?10mL/m^(2)」における鉄の濃度20±5ppm(15?25ppm)に対応する量に上記の数値から比例計算すると、鉄15?25ppmに対して、アルミニウムは15?50ppm、カリウムは0.15?2.5ppm、チタンは0.075?5ppmを含有濃度とするものといえる。 これを重量に換算すれば次のようになる。ただし、「抗菌剤」の成分は水がほとんどなので、「8?10mL/m^(2)」=「8?10g/m^(2)」とする。 Fe:(8?10)×[(15?25)×10^(-6)]=12?25×10^(-5)g/m^(2) Al:(8?10)×[(15?50)×10^(-6)]=12?50×10^(-5)g/m^(2) K:(8?10)×[(0.15?2.5)×10^(-6)]=0.12?2.5×10^(-5)g/m^(2) Ti:(8?10)×[(0.075?5)×10^(-6)]=0.06?5.0×10^(-5)g/m^(2) よって、引用発明において、「抗菌剤」を「8?10mL/m^(2)」付与したものは、単位面積あたりで、 (12+12+0.12+0.06)?(25+50+2.5+5)×10^(-5)g/m^(2) =24.18?82.5×10^(-5)g/m^(2) の鉄、アルミニウム、カリウム、チタンが付与されていることになり、これは本願発明の「4×10^(-5)g/m^(2)以上」にあたるといえる。 そうであれば、相違点2は実質的な相違点ではない。 C)請求人の主張について 請求人は、平成27年10月30日付け意見書において、引用発明での「抗菌剤」の添着量については直接の反論はせず、『本願発明は、鉄、アルミニウム、カリウムおよびチタンを含有する抗菌剤を4×10^(-5)g/m^(2)以上となるように繊維製ろ材に添着したことにより、黄色ブドウ球菌、大腸菌以外にも肺炎桿菌やMRSA、緑膿菌にも効果があることが実証されています。すなわち、本願発明は基材の劣化が起こらない程度の低濃度でありながら、多くの種類の菌に対して抗菌活性を有するような抗菌剤の好ましい添着量を試験研究の結果知見したものであって、このような効果は引用文献1や周知例1、周知例2記載の発明から示唆されるものではありません。』旨を主張する。 上記主張について検討するに、確かに引用文献1では、「肺炎桿菌やMRSA、緑膿菌」について、引用発明の「抗菌剤」成分である「アルミニウム、鉄、カリウム、チタン」が抗菌活性を示すことまでは記載がない。 しかしながら、本願発明は、特定の細菌に対するフィルタとして特定したものでも、また、「鉄、アルミニウム、チタンおよびカリウムを含む金属組成物からなる抗菌剤」の添加量の上限が特定されているものでもないから、「肺炎桿菌やMRSA、緑膿菌」以外の細菌に対して抗菌性を有するものや、「基材の劣化が起こらない程度の低濃度」とはいえない程度の濃度の「抗菌剤」を添着するものを含むものといえる。 そうすると、本願発明の上記「抗菌剤」成分が「フィルター」に適用されることにより奏される効果も、引用文献1及び周知例の記載から予測される範囲をでるものではなく、格別のものとはいえない。 すなわち、本願発明は「基材の劣化が起こらない程度の低濃度でありながら、多くの種類の菌に対して抗菌活性を有するような抗菌剤の好ましい添着量」としたものである旨の請求人の主張は、請求項1の記載に基づくものではないから採用できない。 よって、上記A)B)のとおり判断する。 (5)結言 以上によれば、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 むすび 以上から、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、また、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の規定に適合しない。 また、本願発明は、引用文献1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-02-05 |
結審通知日 | 2016-02-09 |
審決日 | 2016-02-26 |
出願番号 | 特願2010-239084(P2010-239084) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B01D)
P 1 8・ 536- WZ (B01D) P 1 8・ 537- WZ (B01D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 目代 博茂 |
特許庁審判長 |
真々田 忠博 |
特許庁審判官 |
大橋 賢一 中澤 登 |
発明の名称 | 抗菌フィルタ |
代理人 | 小松 悠有子 |
代理人 | 辻田 幸史 |
代理人 | 清水 善廣 |
代理人 | 阿部 伸一 |
代理人 | 清水 善廣 |
代理人 | 辻田 幸史 |
代理人 | 小松 悠有子 |
代理人 | 阿部 伸一 |