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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1313462
審判番号 不服2014-17874  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-08 
確定日 2016-04-12 
事件の表示 特願2010-178022「ケイ酸含有押出物の製造方法、前記押出物、その使用、及び前記押出物を含む医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月25日出願公開、特開2010-265309〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2003年8月12日(パリ条約による優先権主張 2002年8月12日、欧州特許庁)を国際出願日とする特願2004-528493号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成22年8月6日に新たな特許出願とした分割出願であって、拒絶理由通知に応答して平成25年9月19日付けで手続補正がなされたが、平成26年4月25日付けで拒絶査定がなされたところ、同年9月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成26年9月8日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年9月8日付け手続補正を却下する。

[理由]
1. 補正後の本願発明
上記の手続補正は、平成25年9月19日付け手続補正書に記載された請求項1、すなわち、
「以下のステップ:
i)第四級アンモニウム化合物、又はアミノ酸、又もしくはアミノ酸源、又はそれらの組み合わせ物である安定化剤の存在下で、ケイ素化合物をオルトケイ酸及び/又はそれのオリゴマーに加水分解することによって、安定化されたケイ酸を形成し;
ii)ケイ酸に対する担体の負荷容量(loading capacity)以下の量で、前記安定化されたケイ酸を担体と混合し;さらに、
iii)それによって得られた混合物を押出して、押出物を形成する工程、
を含み、
前記担体が、(i) ペクチン及びアルギネートの混合物、マルトデキストリン、グルカン類及びその誘導物の混合物、デンプン及びその誘導物の混合物、またはタンパク質であるか、または(ii) (i’) 糖類、ラクトース、デンプン及びその誘導物の混合物、ペクチン及びアルギネートの混合物、またはオリゴ糖類と(ii’)セルロースとの混合物である、ケイ酸含有押出物の製造方法。」を、

「以下のステップ:
i)コリンであるか、又は、コリンとアミノ酸もしくはアミノ酸源との組み合わせ物である安定化剤の存在下で、ケイ素化合物をオルトケイ酸及び/又はそれのオリゴマーに加水分解することによって、コリンにより安定化されたケイ酸を形成し;
ii)ケイ酸に対する担体の負荷容量(loading capacity)以下の量で、前記コリンにより安定化されたケイ酸を担体と混合し;さらに、
iii)それによって得られた混合物を押出して、押出物を形成する工程、を含み、
前記担体が、ペクチン及びアルギネートの混合物、マルトデキストリン、グルカン類及びその誘導物の混合物、またはデンプン及びその誘導物の混合物である、ケイ酸含有押出物の製造方法。」
とする補正を含むものである。(補正箇所を下線部で示す。)

上記補正は、請求項1の
「第四級アンモニウム化合物、又はアミノ酸、又もしくはアミノ酸源、又はそれらの組み合わせ物である安定化剤」を、「コリンであるか、又は、コリンとアミノ酸もしくはアミノ酸源との組み合わせ物である安定化剤」に、
「安定化されたケイ酸」を、「コリンにより安定化されたケイ酸」に、
「前記担体が、(i) ペクチン及びアルギネートの混合物、マルトデキストリン、グルカン類及びその誘導物の混合物、デンプン及びその誘導物の混合物、またはタンパク質であるか、または(ii) (i’) 糖類、ラクトース、デンプン及びその誘導物の混合物、ペクチン及びアルギネートの混合物、またはオリゴ糖類と(ii’)セルロースとの混合物である」を、「前記担体が、ペクチン及びアルギネートの混合物、マルトデキストリン、グルカン類及びその誘導物の混合物、またはデンプン及びその誘導物の混合物である」に
限定し、
上記補正により請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、補正前の請求項1に記載された発明と同一であるから、
平成18年法律第55号附則第3条第1号によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下で検討する。

2. 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された引用文献1、2には、以下の事項が記載されている。

・欧州特許出願公開第1110909号明細書(引用文献1)(原文は英語のため、翻訳文で示す。)
(a-1)
「 当業者であれば、本発明に係るケイ素調製物が、当該ケイ素調製物の意図する用途に依存して広いケイ素含量範囲にわたるオルトケイ酸を含有し得ることは理解するであろう。・・・(略)・・・したがって、ケイ素調製物は、大部分の意図される食物、飼料、医薬および化粧用途に好適な投与様式で使用し得る。・・・(略)・・・
本発明に係るケイ素調製物は、経口またはいずれかの好適な様式で投与し得る。経口投与が好ましく、ケイ素調製物は錠剤、水性分散剤、分散性の粉剤もしくは顆粒剤、乳剤、硬質もしくは軟質カプセル剤、シロップ剤、エリクシル剤またはゲル剤の形態を有し得る。投与形態は、これらの医薬もしくは化粧組成物を製造するための当該技術分野で知られているいずれかの方法を用いて調製し得、添加剤として甘味剤、香味剤、着色剤、保存料などを含み得る。担体材料および賦形剤には、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウム;顆粒化剤および崩壊剤、粘結剤などが含まれ得る。ケイ素調製物は、いずれかの不活性固形希釈剤または担体材料と混合してゼラチンカプセルに含ませ得、あるいは、成分が水もしくは油性の媒質と混合された軟質のカプセルの形態を有し得る。水性分散剤には、懸濁化剤、分散化剤または湿潤化剤と組合せたケイ素調製物が含まれ得る。油性懸濁剤には、植物油のごとき懸濁化剤が含まれ得る。ゲル処方は、米国特許第5,922,360号に記載されている教示に従って調製し得る。」
([0010]-[0013])

(a-2)
「固形担体または固形担体の組み合わせは:
i)天然および半合成繊維、
・・・(略)・・・
xii)セルロースまたはマイクロクリスタリン・セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースもしくはセルロースガムのごときその誘導体、
・・・(略)・・・
xv)デンプンおよびその誘導体
・・・(略)・・・
よりなる群から選択し得る。」
([0015])

(a-3)
「実施例B
担体(65%)マイクロクリスタリン・セルロースを、濃オルトケイ酸とグリセリンとの35%の混合物と混合する(実施例Aを参照されたい)。攪拌を続けている間に脱イオン水を添加して、適当な品質の粒状化材料を得る。プラスチック塊をバスケット(basket)押出機(Caleva Model 10, Sturminster Newton, Great Britain)を用いて750rpmで押出した。押出しストランドを球状化する(Caleva Model 120 spheronizer)。得られたペレットを乾燥させて最終水含量を5%未満とする。典型的なペレットのサイズは、800-1200μmである。ペレットはサイズ00の硬質ゼラチンカプセルに封入する。各カプセルには、担体結合したオルトケイ酸の形態で5mgの元素ケイ酸に相当する0.54gのペレットが含まれる。マイクロクリスタリン・セルロースの負荷容量(loading capacity)は、45%のオルトケイ酸まで増加させ得る。
・・・(略)・・・
実施例D
担体(65%)、マイクロクリスタリン・セルロースおよびフラクタンの混合物(3:1)を、濃オルトケイ酸とグリセリンとの混合物35%と混合する(実施例Aを参照されたい)。混合を続けている間に脱イオン水を添加して、適当な品質の粒状化材料を得る。プラスチック塊をバスケット押出機(Caleva Model 10, Sturminster Newton, Great Britain)を用いて750rpmで押出す。押出しストランドを球状化する(Caleva Model 120 spheronizer)。得られたペレットを乾燥させて最終水含量を5%未満とする。典型的なペレットのサイズは、800-1400μmである。ペレットは錠剤に圧縮するか、または動物飼料、食物、食物補給物、化粧調製物または医薬調製物の製造における原料として用いる。」
([0019]-[0021])

(a-4)
「実施例F
3人の健常な対象(2人の女性、1人の男性、22-34歳)を、署名を伴なうインフォームドコンセントの後に含めた。実験開始前の3ヶ月以内はいずれの者もSi補給物を摂取しなかった。各絶食した対象に、各補給物またはプラセボの1週間の洗出し期間内に、以下のクロスオーバー・プロトコールでSiをp.o.で与えた:安定化オルトケイ酸(オルトケイ酸、米国特許第5,922,360号に記載のごとき、20g Si/lを含有する0.5mlのBioSil)の形態の10mgのSi、担体結合したオルトケイ酸(実施例Dの調製物のカプセル剤)の形態の10mgのSi、コロイド状シリカ(重合したオルトケイ酸)の形態の20mgのSi、植物分解性のシリカ(Si-蓄積植物であるツクシ(Equisetum arvense)の標準化された乾燥抽出物)の形態の20mgのSi、またはプラセボ(10mlのミネラルウォーター)。・・・(略)・・・
血清ケイ素濃度は、液体オルトケイ酸および担体結合したオルトケイ酸の両方の補給後にベースライン値から顕著に増大した(図1、オルトケイ酸=OSA)が、コロイド状シリカまたは植物分解性のシリカのごとき重合オルトケイ酸形態の補給後には増大しなかった。担体結合したオルトケイ酸の動力学吸収特性は、液体オルトケイ酸と比較してより遅い放出作用を示している。総バイオアベイラビリティーは担体結合したオルトケイ酸および液体オルトケイ酸について同様であるが、プラセボと比較してこれらの生成物に顕著な差異は認められなかったため、重合形態のオルトケイ酸はバイオアベイラブルでない(図2、オルトケイ酸=OSA)。担体結合したオルトケイ酸の生成日から1年後に繰返したバイオアベイラビリティー実験では結果に顕著な差異はなく、これは、担体結合したオルトケイ酸がバイオアベイラビリティーを顕著に損失することなく長期にわたって化学的に安定であることを実証している。」
([0024])

・特表平09-508349号公報(引用文献2)
(b-1)
「 1.安定化剤を用いて安定化され、有機ケイ素化合物を実質的に含まないオルトケイ酸を含有する調製物。
・・・(略)・・・
3.安定化剤が第四アンモニウム化合物である請求項2記載の調製物。
・・・(略)・・・
6.第四アンモニウム化合物がコリンである請求項5記載の調製物。
7.安定化剤がプロリンおよびセリンなどのアミノ酸である請求項2記載の調製物。
8.i)安定化剤含有溶液を準備し、
ii)該安定化剤含有溶液に無機ケイ素化合物を溶解させ、
iii)ケイ素化合物をオルトケイ酸に加水分解すること
からなる請求項1?7のいずれか1項記載の調製物の製造方法。
・・・(略)・・・
14.請求項1?7のいずれか1項記載の調製物、および/または、請求項8?13のいずれか1項記載の調製物、および薬理学的に許容される希釈剤を含有する生物学的調製物。」
(【特許請求の範囲】)

(b-2)
「 生物学的調製物は、植物、動物およびヒトにオルトケイ酸を投与するという目的のために、この調製された調製物から製造することができ、これによって、ケイ素の生物学的利用能は、非常に改良される。前記て調製された溶液は、生物学的調製物として、例えば、爪の着色剤などとして塗布することができる。ケトナゾールによる治療が如何なる改善も与えなかった場合、3週間1日当たり2%Si溶液0.5mlの使用量により、真菌類感染が消失した(3人の患者)。例えば、リンゴ酸などの食用酸を添加すると、ウマへの投与に非常に適している調製物が得られる。
固体担体、例えば、ウシの餌を添加する場合、ウシにケイ素を投与するための安定形態でオルトケイ酸を含有するウシの餌のペレットは、圧縮することができる。シュガー/マルトースを固体担体として用いると、錠剤およびゲル剤を形成することができる。
グルクロン酸緩衝液の使用を介して、クリーム基剤による調製物を形成することができる。ここで、pHは、4未満であり、該クリーム剤は、局所的皮膚適用に適している。
生物学的適用のための調製物を得るために、全ての種類の希釈剤を用いることができることは明らかであろう。かかる希釈剤としては、エタノールなどの低級アルカノール、ジクロロメタン、酢酸エチル、グリセリンおよびポリアルコール類を挙げることができる。」
(第6頁第23行-第7頁第13行)

(b-3)
「 調製例
コリン塩酸塩(UCB)を真空下で乾燥させる(100℃/6時間)。コリン塩酸塩を乾燥塩酸で処理する。40℃以下に維持されている温度で、形成されたコリン溶液に塩酸ケイ素(1mol/mol)を添加する。
加水分解のために、冷却しつつ、該溶液に水(氷/氷水)を添加する。ここで、該温度は、-20℃?-30℃の範囲内に保持される。
次いで、水酸化ナトリウムを添加することによって、オルトケイ酸を含有する溶液を中和する。ここで、0℃以下の温度への冷却が起こる。pH中和は、約1.3に達する。
次いで、活性炭による精製を行い、次いで、形成された沈殿物および活性炭を濾去する。
真空下で蒸留した後、ケイ素3重量%、コリン塩酸塩70重量%および水(残量)を含有する調製物を得る。
液体マトリックスとしてグリセロールを用いるFAB/MSにより、コリン等方性について典型的な、M/Z104(℃)での分子カチオンおよびM/Z243/245でのMC-内転についてのスペクトルが得られる。このスペクトルは、コリンについてのスペクトルと同一である。
コリン/アルコールグループを示す調製物のNMRスペクトル 元素分析により、コリン24±2重量%およびN9±1重量%が得られる。これは、窒素に対するコリンの比1:1を示す。
次いで、2.7?3.0への中和を行う。
該調製物は、室温で貯蔵すると、2年間を超えて安定である。

製剤化例
製剤化例A
生物学的調製物は、オルトケイ酸の形態でのケイ素3重量%、コリン塩酸塩70重量%、水(残量)を含有し、pH2.7?3.0である。この液体は、経口および皮膚用投与に適している。
製剤化例B
前記で調製した生物学的調製物をウシの餌と混合し、最終的に0.001?0.005重量%の濃度でオルトケイ酸としてケイ素を含有する。この混合物をペレットに圧縮することができ、これをウシに投与する。
製剤化例C
調製物Aをシュガーおよび/またはマルトースと混合し、Si 0.1?0.2重量%の含量でオルトケイ酸の形態でケイ素を含有する錠剤に圧縮する。」
(第7頁第14行-第8頁第19行)

3. 対比・判断
引用文献2には、コリン塩酸塩を乾燥塩酸で処理して得られるコリン溶液に塩酸ケイ素を添加し、加水分解することによって、オルトケイ酸を形成し、ケイ素3重量%、コリン塩酸塩70重量%、水(残量)を含有する調製物を得る方法、そして、製剤化例として、当該調製物を、シュガーおよび/またはマルトースと混合し、圧縮して、Si 0.1?0.2重量%の含量でオルトケイ酸の形態でケイ素を含有する錠剤を形成する方法が具体的に記載され(摘記事項(b-3))、コリンは、オルトケイ酸を安定化するものであること(摘記事項(b-1))、シュガーおよび/またはマルトースが担体であること(摘記事項(b-2))も記載されている。
このため、当該文献には、「安定化剤であるコリン存在下で、塩酸ケイ素をオルトケイ酸に加水分解することによって、コリンにより安定化されたオルトケイ酸を形成し; コリンにより安定化されたオルトケイ酸を担体と混合し; さらに、それによって得られた混合物を圧縮して、Si 0.1?0.2重量%の含量でオルトケイ酸の形態でケイ素を含有する錠剤を形成する工程、を含み、 前記担体がシュガーおよび/またはマルトースである、オルトケイ酸含有錠剤の製造方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
ここで、引用発明の「コリンにより安定化されたオルトケイ酸」「オルトケイ酸含有錠剤」における「オルトケイ酸」は、本願補正発明の「ケイ酸」に相当し、引用発明の「塩酸ケイ素」は、本願発明の「ケイ素化合物」に含まれる。また、引用発明の、担体「シュガーおよび/またはマルトース」の「負荷容量」の値は不明であるが、崩壊することなく適切に錠剤を形成できていること、最終的に得られた錠剤のケイ素含有量が0.1?0.2重量%であって、この値は本願明細書の実施例に記載のペレットのケイ素含有量よりも低い値であることからみて、引用発明の錠剤におけるケイ酸の量は、「ケイ酸に対する担体の負荷容量以下の量」であると認められる。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、「安定化剤であるコリン存在下で、ケイ素化合物をオルトケイ酸に加水分解することによって、コリンにより安定化されたケイ酸を形成し; ケイ酸に対する担体の負荷容量以下の量で、コリンにより安定化されたケイ酸を担体と混合する工程、を含む、ケイ酸を含有する固形製剤の製造方法」である点で一致し、
本願補正発明は、「混合物を押出して、押出物を形成する工程、を含み、前記担体が、ペクチン及びアルギネートの混合物、マルトデキストリン、グルカン類及びその誘導物の混合物、またはデンプン及びその誘導物の混合物である、ケイ酸含有押出物の製造方法」であるのに対して、
引用文献2に記載の発明は、「混合物を圧縮して、錠剤を形成する工程、を含み、前記担体が、シュガーおよび/またはマルトースである、オルトケイ酸含有錠剤の製造方法」である点
で、相違する。

上記相違点について検討する。
引用文献2には、植物、動物およびヒトにオルトケイ酸を投与する目的のために、安定化されたオルトケイ酸含有調製物から生物学的調製物を製造することができ、これによって、ケイ素の生物学的利用能は、非常に改良されると記載され(摘記事項(b-2))、生物学的調製物として、溶液だけでなく、ウシの餌のペレット、錠剤のような固形製剤化の例が、実施例としても具体的に記載されていることから(摘記事項(b-2)(b-3))、当該文献では、安定化されたオルトケイ酸含有調製物を、投与に適した剤形に適宜製剤化できることが示唆されているといえる。
そして、引用文献1にも、引用文献2と同じく、安定化されたオルトケイ酸の製剤化について、食物、飼料、医薬および化粧用途に好適な投与様式で使用し得るものであって、経口投与の場合は、錠剤、水性分散剤、粉剤、顆粒剤などの剤形を有し得ることが記載され(摘記事項(a-1))、実施例で、濃オルトケイ酸と担体のマイクロクリスタン・セルロースとの混合物を押出し、当該押出物を球状化する方法で得られる球状顆粒の製剤化例、及び、当該球状顆粒のヒトに投与したときの生物学的利用能の高さが記載されている(摘記事項(a-3)(a-4))。このため、引用発明の固形製剤の剤形について、ヒトの投与に適する剤形として、押出物を形成する工程を含む方法で得られる、引用文献1に記載の球状顆粒とすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、球状顆粒とする際に、これに適した担体を用いるのは、当然行うことであるところ、一般に、医薬品工業の、押出し造粒工程を含む球状顆粒の造粒では、賦形剤としてコーンスターチ(すなわち、デンプン)が、乳糖とともに二大賦形剤として周知であって、水膨潤性、主薬安定性、安全性、価格という点で優れ、汎用されている(必要であれば、日本粉体工業協会,「造粒便覧」,株式会社オーム社,1975年,第421-431頁,特に第422-423頁の「2・3・3 賦形剤」参照)。そして、引用文献1には、使用できる固形担体の例として、実施例に記載のマイクロクリスタン・セルロースと並んで、デンプンなども記載されているから(摘記事項(a-2))、当該文献の記載をみれば、実施例の球状顆粒の製造で使用されるマイクロクリスタン・セルロースだけでなく、広範な物質の中の1つであるデンプンも、球状顆粒に最適な担体であることは、当業者は自ずと理解できたといえる。そうすると、引用発明の担体として、球状顆粒に最適である、マイクロクリスタン・セルロースやデンプンを採用することも、当業者が適宜なし得たことである。
(なお、本願補正発明における「グルカン類」なる用語は、セルロースを含む用語であると認められるから(必要であれば、化学大辞典編集委員会,「化学大辞典3 縮刷版」,共立出版株式会社,1978年,第135頁 参照)、マイクロクリスタン・セルロースも本願補正発明の担体に含まれると認められる。)

次に、本願補正発明の効果について、請求人は、審判請求書において、担体としてデンプンを用いた場合の製造例を記載し、「上述した追加の製造例によって、本願明細書の製造例Aにおいて、微結晶セルロースの代わりにデンプンを使用した場合にも、押出物を得ることができ、狭い粒径範囲を有する吸湿性ではないペレットを得ることができ、そのペレットが高い濃度のオルトケイ酸含有量を有することが確認された。このペレットは、本願明細書の配合物A?Cで確認された効果と同様の効果、すなわち、長期保存条件下での低い吸湿性(本願明細書段落0020および表3)、液体形態のオルトケイ酸調製物に匹敵する生物学的利用能(本願明細書段落0023、表4、および表5)、および骨塩密度の増加効果(本願明細書段落0026?0028)を有する蓋然性が高いと考えられる。 」と主張する。
しかしながら、本願明細書では、デンプン等の本願補正発明で特定する担体を用いた実施例がなく、狭い粒径範囲を得られること、長期保存条件下での低い吸湿性、液体形態のオルトケイ酸調製物に匹敵する生物学的利用能、および骨塩密度の増加効果を示すことを確認していないし、審判請求書に記載の「追加の製造例」では、吸湿性、生物学的利用能、骨塩密度の増加効果を、実際に確認していない。このため、当該主張は、予測の域を超えない。
一方、引用文献1では、マイクロクリスタン・セルロースおよびフラクタンの混合物を担体とした球状顆粒が、液体形態のオルトケイ酸調製物に匹敵する生物学的利用能を有すること、長期にわたって化学的に安定であることが、実際に確認され(摘記事項(a-3)(a-4))、高分子化又はゲル化しないことが示されており、先で述べた通り、引用文献1の記載から、マイクロクリスタン・セルロースと同様に、デンプンを担体としても球状顆粒を得られることも、当業者の技術常識から明らかである。また、引用文献2でも、コリンで安定化されたオルトケイ酸含有調製物を、投与に適した剤形に適宜製剤化できることが示唆されており、固形製剤でも、オルトケイ酸が高分子化又はゲル化しない状態である蓋然性が高いことは、引用文献2の記載から当業者が理解できたことである。このため、上記相違点に係る構成を採用したことで、本願補正発明が引用発明に比べて格別顕著な効果を奏したとはいえない。

なお、請求人は、引用文献1について、平成25年9月19日付け意見書で、「担体として非常に広範な物質が例示されています(引用文献1の明細書の段落0021)が、消化困難な担体も消化されやすい担体も同等に列挙されています。加えて、引用文献1の実施例Dには、オルトケイ酸調製物を、固体担体と混合し、押出機で押出した後球状化することが記載されていますが、ここで用いられている担体は、セルロースおよびフラクタンの混合物であり、ヒトにとって消化困難な担体です。」と主張しているが、そもそも本願補正発明の方法で得られる押出物は、ヒトに限定されない動物類も適用対象とするものであるから、「ヒトにとって消化困難」か否かということが、本願補正発明における担体の特定と、どのような関係があるのか理解できない。そして、当該主張が、引用文献1には、本願補正発明の担体に該当しない担体が多く列挙されていることを指摘するのであれば、本願補正発明の担体を採用することが容易であることは、先に述べた通りであって、当該指摘によっては、上記判断は覆らない。

以上のとおり、本願補正発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4. むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下するものである。

第3 本願発明について
1. 本願発明
平成26年9月8日付け手続補正は、上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1?13に係る発明は、平成25年9月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1に係る発明は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
以下のステップ:
i)第四級アンモニウム化合物、又はアミノ酸、又もしくはアミノ酸源、又はそれらの組み合わせ物である安定化剤の存在下で、ケイ素化合物をオルトケイ酸及び/又はそれのオリゴマーに加水分解することによって、安定化されたケイ酸を形成し;
ii)ケイ酸に対する担体の負荷容量(loading capacity)以下の量で、前記安定化されたケイ酸を担体と混合し;さらに、
iii)それによって得られた混合物を押出して、押出物を形成する工程、
を含み、
前記担体が、(i) ペクチン及びアルギネートの混合物、マルトデキストリン、グルカン類及びその誘導物の混合物、デンプン及びその誘導物の混合物、またはタンパク質であるか、または(ii) (i’) 糖類、ラクトース、デンプン及びその誘導物の混合物、ペクチン及びアルギネートの混合物、またはオリゴ糖類と(ii’)セルロースとの混合物である、ケイ酸含有押出物の製造方法。」
(以下、「本願発明」という。」

2. 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、2、及び、その記載事項は、上記「第2 2.」に記載したとおりである。

3. 対比・判断
本願発明と引用文献2に記載の発明とは、「安定化剤であるコリン存在下で、ケイ素化合物をオルトケイ酸に加水分解することによって、安定化されたケイ酸を形成し; ケイ酸に対する担体の負荷容量以下の量で、前記安定化されたケイ酸を担体と混合する工程、を含む、ケイ酸を含有する固形製剤の製造方法」である点で一致し、
本願発明は、「混合物を押出して、押出物を形成する工程、を含み、前記担体が、(i) ペクチン及びアルギネートの混合物、マルトデキストリン、グルカン類及びその誘導物の混合物、デンプン及びその誘導物の混合物、またはタンパク質であるか、または(ii) (i’) 糖類、ラクトース、デンプン及びその誘導物の混合物、ペクチン及びアルギネートの混合物、またはオリゴ糖類と(ii’)セルロースとの混合物である、ケイ酸含有押出物の製造方法」であるのに対して、
引用文献2に記載の発明は、「混合物を圧縮して、錠剤を形成する工程、を含み、前記担体が、シュガーおよび/またはマルトースである、オルトケイ酸含有錠剤の製造方法」である点
で、相違する。
そして、この相違点については、上記「第2 3.」における相違点の検討と同様の理由から、引用文献2に記載のケイ酸を含有する固形製剤の剤形を、引用文献1に記載の、安定化されたケイ酸と担体との混合物を押出して、押出物を形成する工程を含む方法によって得られる球状顆粒とすること、また、担体として、マイクロクリスタン・セルロースやデンプンを採用することは、当業者が容易になし得たことであるといえる。
さらに、本願発明の効果についても、「第2 3.」における効果の検討と同様、引用文献1、2から予測し得た程度のものである。

したがって、本願発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4. むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願優先日前に頒布された引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。



よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2015-11-11 
結審通知日 2015-11-16 
審決日 2015-11-30 
出願番号 特願2010-178022(P2010-178022)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 哲  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 松澤 優子
渕野 留香
発明の名称 ケイ酸含有押出物の製造方法、前記押出物、その使用、及び前記押出物を含む医薬組成物  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  

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