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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1313507
審判番号 不服2015-5508  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-24 
確定日 2016-04-06 
事件の表示 特願2013-518357号「ディーゼルエンジン及び排気後処理システム、並びにディーゼルエンジンの排気ガス処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年1月5日国際公開、WO2012/002973、平成25年 9月12日国内公表、特表2013-535603号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年7月2日を国際出願日とする出願であって、平成24年12月28日に国内書面が提出され、平成25年2月28日に国際出願翻訳文提出書が提出され、平成25年2月28日に特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書が提出され、平成26年7月4日付けで拒絶理由が通知され、平成26年10月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年11月17日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年3月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年3月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年3月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、下記(1)に示す記載から、下記(2)に示す記載へと補正された。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
ディーゼルエンジン(21)の排気ガスを処理する方法であって、
前記エンジンを作動させて、ディーゼル微粒子フィルタ(27)を介して排気ガスを送るステップと、
前記エンジンを作動させて1組目の排気特性を得ると共に、少なくとも前記ディーゼル微粒子フィルタ(27)を所定の加熱温度よりも高温に加熱することを含む1つの条件が達成されるまで、NO_(2)ベースの能動的なディーゼル微粒子フィルタ(27)の再生が行われるように、燃料を前記ディーゼル微粒子フィルタ(27)の上流において前記排気ガス中に燃料を第1の噴射率で噴射するステップと、
前記少なくとも1つの条件を達成した後、前記排気ガス中に噴射する燃料の燃料噴射率を低下させて前記エンジンを作動させ、少なくとも前記ディーゼル微粒子フィルタ(27)を所定の再生温度未満に冷却することを含む第2の条件が達成されるまで行って2組目の排気特性を得ることによって、前記NO_(2)ベースのディーゼル微粒子フィルタ(27)の再生を行うステップであって、前記1組目及び2組目の特性のうち少なくとも1つの特性が異なるステップと、
を含む方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
ディーゼルエンジン(21)の排気ガスを処理する方法であって、
前記エンジンを作動させて、ディーゼル微粒子フィルタ(27)を介して排気ガスを送るステップと、
前記エンジンを作動させて1組目の排気特性を得ると共に、少なくとも前記ディーゼル微粒子フィルタ(27)を所定の加熱温度よりも高温である能動的O_(2)再生が生じ易い温度範囲の下限未満又は下限付近であるが能動的NO_(2)再生が生じ易い範囲に加熱することを含む1つの条件が達成されるまで、NO_(2)ベースの能動的なディーゼル微粒子フィルタ(27)の再生が行われるように、燃料を前記ディーゼル微粒子フィルタ(27)の上流において前記排気ガス中に燃料を第1の噴射率で噴射するステップと、
前記少なくとも1つの条件を達成した後、前記排気ガス中に噴射する燃料の燃料噴射率を低下させて前記エンジンを作動させ、少なくとも前記ディーゼル微粒子フィルタ(27)を所定の再生温度未満に冷却することを含む第2の条件が達成されるまで行って2組目の排気特性を得ることによって、前記NO_(2)ベースのディーゼル微粒子フィルタ(27)の再生を行うステップであって、前記1組目及び2組目の特性のうち少なくとも1つの特性が異なるステップと、
を含む方法。」(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した「所定の加熱温度よりも高温」であることが、「能動的O_(2)再生が生じ易い温度範囲の下限未満又は下限付近であるが能動的NO_(2)再生が生じ易い範囲」である旨を限定するものである。
よって、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正によって補正された請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.刊行物の記載等
原査定の理由に引用され、本願の国際出願日前に頒布された刊行物である特開2005-61363号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

1a)「【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置され排気中のパティキュレートを捕集するトラップフィルタを備えた排気浄化手段と、
前記トラップフィルタの温度を検出する温度検出手段と、
前記トラップフィルタの目詰まり度合いから前記トラップフィルタの再生時期を判断する再生時期判断手段と、
前記内燃機関を制御する制御手段とを有し、
前記制御手段は、
前記内燃機関を通常に制御する通常モードと、
前記トラップフィルタの再生のために前記内燃機関の燃料噴射量を増大する強制再生モードとを備え、
前記再生時期判断手段が前記トラップフィルタの再生時期であると判断し、かつ、前記温度検出手段により検出される前記トラップフィルタの温度が予め定められた第1の設定温度より低い時に、前記強制再生モードによる制御を行い前記トラップフィルタの温度を第2の設定温度まで上昇させ、前記トラップフィルタの温度が前記第2の設定温度まで上昇した時に、前記通常モードによる制御を行うことを特徴とする排気浄化装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

1b)「【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の排気浄化装置の一実施形態を示すもので、この実施形態では、本発明が、ディーゼルエンジンを搭載したトラック等の車両に適用される。
図1において、符号11は、トラック等の車両に配置されるディーゼルエンジンを示している。
【0019】
このディーゼルエンジン11の排気マニホールド13には、排気通路を形成する排気管15が接続されている。
排気管15には、排気中のパティキュレートを捕獲する排気浄化手段17が配置されている。
この排気浄化手段17は、ケーシング19を有しており、ケーシング19内には、酸化触媒21およびトラップフィルタ23が収容されている。」(段落【0018】及び【0019】)

1c)「【0023】
そして、この制御手段31は、ディーゼルエンジン11に配置されるコモンレール式の燃料噴射装置33からの燃料噴射量を制御する。
制御手段31は、再生時期判断手段35,第1のマップ37および第2のマップ39を有している。
再生時期判断手段35は、第1の圧力センサ27および第2の圧力センサ29からの信号を入力し、トラップフィルタ23の入口側の圧力と出口側の圧力との差圧を演算することにより、トラップフィルタ23の目詰まりの度合いを検出する。
【0024】
そして、トラップフィルタ23の目詰まりの度合いが、予め定められた値を超えた時に、トラップフィルタ23の再生時期であると判断する。
第1のマップ37には、ディーゼルエンジン11を通常に制御する通常モードIが設定されている。
第2のマップ39には、トラップフィルタ23の再生のためにディーゼルエンジン11の燃料噴射量を増大する強制再生モードIIが設定されている。
【0025】
そして、制御手段31は、図2に示すように、再生時期判断手段35がトラップフィルタ23の再生時期であると判断し、かつ、温度センサ25により検出されるトラップフィルタ23の温度が予め定められた第1の設定温度T2より低い時に、強制再生モードIIによる制御を行いトラップフィルタ23の温度を第2の設定温度T1まで上昇させ、トラップフィルタ23の温度が第2の設定温度T1まで上昇した時に、通常モードIによる制御を行う。」(段落【0023】ないし【0025】)

1d)「【0026】
すなわち、図2において、横軸には経過時間が、縦軸にはトラップフィルタ内温度Tがとられている。
そして、再生時期判断手段35がトラップフィルタ23の再生時期であると判断し、かつ、温度センサ25により検出されるトラップフィルタ23の温度Tが、予め定められた第1の設定温度T2、例えば、640℃より低い時に、先ず、強制再生モードIIによる制御を行い、トラップフィルタ23の温度を、第2の設定温度T1、例えば、650℃まで上昇させる。
【0027】
そして、トラップフィルタ23の温度が第2の設定温度T1まで上昇した時に、通常モードIによる制御を行う。
そして、通常モードIによる制御を、例えば、5分間行うと、トラップフィルタ23内温度が第1の設定温度T2より低くなるため、制御手段31は、強制再生モードIIによる制御を行う。
【0028】
このように、制御手段31は、強制再生モードIIによる制御と、通常モードIによる制御を交互に行う。
そして、トラップフィルタ23内のパティキュレートの燃焼により、トラップフィルタ23の入口側の圧力と出口側の圧力との差圧が、予め定められた値以下になると、再生時期判断手段35によるトラップフィルタ23の再生時期であるとの判断が解除され、通常モードIのみによる制御に復帰する。」(段落【0026】ないし【0028】)

1e)「【0029】
図3は、上述した排気浄化装置の動作を示すフローチャートである。
先ず、ステップS1において、強制再生時期であるか否かが判断される。この判断は再生時期判断手段35により行われる。
そして、強制再生時期である時には、ステップS2において、温度センサ25により検出されるトラップフィルタ23の温度Tが、予め定められた第1の設定温度T2より低いか否かが判断される。
【0030】
そして、低い時には、ステップS3において、強制再生モードIIによる制御に切り替えられ、トラップフィルタ23の温度が上昇される。
次に、ステップS4において、トラップフィルタ23の温度が第2の設定温度T1になったか否かが判断される。
そして、第2の設定温度T1になっている時には、ステップS5において、通常モードIによる制御が行われる。
【0031】
次に、ステップS6において、トラップフィルタ23の温度Tが、予め定められた第1の設定温度T2より低いか否かが判断される。
そして、低い場合には、ステップS7において、トラップフィルタ23の目詰まりが解消したか否かが判断される。
この実施形態では、トラップフィルタ23の目詰まりが解消したとの判断は、トラップフィルタ23の入口側の圧力と出口側の圧力との差圧が、予め定められた値以下になった時に行われる。
【0032】
そして、トラップフィルタ23の目詰まりが解消した時には、ステップS8において、再生時期判断手段35によるトラップフィルタ23の再生時期であるとの判断が解除され、通常モードIのみによる制御に復帰される。
上述した排気浄化装置では、再生時期判断手段35がトラップフィルタ23の再生時期であると判断し、かつ、温度検出手段により検出されるトラップフィルタ23の温度が予め定められた第1の設定温度T2より低い時に、強制再生モードIIによる制御を行いトラップフィルタ23の温度を第2の設定温度T1まで上昇させ、トラップフィルタ23の温度が第2の設定温度T1まで上昇した時に、通常モードIによる制御を行うようにしたので、トラップフィルタ23の強制再生を非常に簡易な制御により行うことができる。
【0033】
すなわち、上述した排気浄化装置では、トラップフィルタ23の強制再生中にトラップフィルタ23の温度を常時所定の温度に維持しようとすることなく、酸化触媒21やトラップフィルタ23の熱容量を利用し、強制再生モードIIと通常モードIとを繰り返すことによりパティキュレートを燃焼するようにしたので、制御が非常に容易なものになる。
また、排気ガス流量や必要な投入熱量を制御するために必要なセンサー等が不要になり、コストを低減することが可能になる。」(段落【0029】ないし【0033】)

上記1a)ないし1e)並びに図1ないし図3から次のことが分かる。

1f)上記1a)及び1b)並びに図1の記載から、刊行物に記載された排気浄化装置は、ディーゼルエンジン11の排気を排気管15に配置されたトラップフィルタ23を介して、排気中のパティキュレートを捕捉することにより、ディーゼルエンジン11の排気浄化を行うことが分かる。

1g)上記1d)並びに図2及び図3の記載から、刊行物に記載された排気浄化装置は、トラップフィルタ23の温度が第1の設定温度T2より低いときに、強制再生モードIIによる制御によって、第2の設定温度T1となるまで上昇させ、トラップフィルタ23の温度が第2の設定温度T1まで上昇すると、トラップフィルタ23の温度が第1の設定温度T2より低くなるまで通常モードI による制御を行うことが分かる。

1h)上記1c)の記載から、刊行物に記載された排気浄化装置において、強制再生モードIIによる制御は、ディーゼルエンジン11の燃料噴射量を増大させるものであることが分かる。

以上の1a)ないし1h)並びに図1ないし図3の記載を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ディーゼルエンジン11の排気浄化を行う方法であって、
ディーゼルエンジン11を運転して、トラップフィルタ23を介して排気を送る段階と、
トラップフィルタ23の温度が第2の設定温度T1となるまで、トラップフィルタ23の再生が行われるように、強制再生モードIIによる制御によって燃料噴射量を増大させる段階と、
トラップフィルタ23の温度が第2の設定温度T1となった後、通常モードI による制御によりディーゼルエンジン11を運転して、トラップフィルタ23が第1の設定温度T2より低くなるまで行って、トラップフィルタ23の再生を行う段階と、
を含む方法。」

3.対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「ディーゼルエンジン11」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本件補正発明における「ディーゼルエンジン」に相当し、以下同様に、「排気浄化を行う」ことは「排気ガスを処理する」ことに、「運転して」は「作動させて」に、「トラップフィルタ23」は「ディーゼル微粒子フィルタ」に、「排気」は「排気ガス」に、「段階」は「ステップ」に、「強制再生モードIIによる制御によって燃料噴射量を増大させる」ことは「燃料を第1の噴射率で噴射する」ことに、「通常モードI による制御によりディーゼルエンジン11を運転」することは「燃料の燃料噴射率を低下させてエンジンを作動」させることにそれぞれ相当する。
そして、引用発明における「トラップフィルタ23の温度が第2の設定温度T1となる」ことと、本件補正発明における「少なくともディーゼル微粒子フィルタを所定の加熱温度よりも高温である能動的O_(2)再生が生じ易い温度範囲の下限未満又は下限付近であるが能動的NO_(2)再生が生じ易い範囲に加熱することを含む1つの条件が達成される」こととは、「少なくともディーゼル微粒子フィルタの温度が所定の温度となることを含む1つの条件が達成される」こと、という限りにおいて一致する。
また、引用発明における「トラップフィルタ23の温度が第2の設定温度T1となった後」は、本件補正発明における「前記少なくとも1つの条件を達成した後」に相当し、
さらに、引用発明における「トラップフィルタ23の再生」と、本件補正発明における「NO_(2)ベースの能動的なディーゼル微粒子フィルタの再生」は、「ディーゼル微粒子フィルタの再生」という限りにおいて一致し、
引用発明における「トラップフィルタ23が第1の設定温度T2より低くなるまで行」うことと、本件補正発明における「少なくともディーゼル微粒子フィルタを所定の再生温度未満に冷却することを含む第2の条件が達成されるまで行」うこととは、「少なくともディーゼル微粒子フィルタを所定の温度未満に冷却することを含む第2の条件が達成されるまで行」う、という限りにおいて一致する。
さらに、引用発明において、「強制再生モードII」及び「通常モードI 」のそれぞれにおいてディーゼルエンジン11を運転した場合に、「強制再生モードII」と「通常モードI 」とは燃料噴射量が異なるものであるから、それぞれのモードにおいてエンジンを作動すれば、本願補正発明における「1組目の排気特性」、「2組目の排気特性」に相当する互いに異なる排気特性が得られることは、技術常識に照らすと明らかである。

したがって、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
「ディーゼルエンジンの排気ガスを処理する方法であって、
前記エンジンを作動させて、ディーゼル微粒子フィルタを介して排気ガスを送るステップと、
前記エンジンを作動させて1組目の排気特性を得ると共に、少なくともディーゼル微粒子フィルタの温度が所定の温度となることを含む1つの条件が達成されるまで、ディーゼル微粒子フィルタの再生が行われるように、燃料を第1の噴射率で噴射するステップと、
前記少なくとも1つの条件を達成した後、燃料の燃料噴射率を低下させて前記エンジンを作動させ、少なくとも前記ディーゼル微粒子フィルタを所定の温度未満に冷却することを含む第2の条件が達成されるまで行って2組目の排気特性を得ることによって、ディーゼル微粒子フィルタの再生を行うステップであって、前記1組目及び2組目の特性のうち少なくとも1つの特性が異なるステップと、
を含む方法。」

[相違点1]
「少なくともディーゼル微粒子フィルタの温度が所定の温度となることを含む1つの条件が達成される」ことに関して、本件補正発明においては、「少なくともディーゼル微粒子フィルタを所定の加熱温度よりも高温である能動的O_(2)再生が生じ易い温度範囲の下限未満又は下限付近であるが能動的NO_(2)再生が生じ易い範囲に加熱することを含む1つの条件が達成される」ことであるのに対して、引用発明においては、「トラップフィルタ23の温度が第2の設定温度T1となる」ことである点。

[相違点2]
「少なくともディーゼル微粒子フィルタを所定の温度未満に冷却することを含む第2の条件が達成されるまで行」うことに関して、本件補正発明においては、「少なくともディーゼル微粒子フィルタを所定の再生温度未満に冷却することを含む第2の条件が達成されるまで行」うのに対して、引用発明においては「トラップフィルタ23が第1の設定温度T2より低くなるまで行」う点。

[相違点3]
「ディーゼル微粒子フィルタの再生」に関して、本件補正発明においては、「NO_(2)ベースの能動的なディーゼル微粒子フィルタの再生」であるの対して、引用発明においては、「トラップフィルタ23の再生」である点。

[相違点4]
ディーゼル微粒子フィルタの再生を行うにあたって、本件補正発明においては、「ディーゼル微粒子フィルタの上流において排気ガス中」に燃料を噴射するのに対して、引用発明においては、具体的にどの部分に燃料を噴射するのか特定がなされていない点。

以下、上記相違点について検討する。

[相違点1ないし3について]
ディーゼル微粒子フィルタの再生を行う方法において、能動的O_(2)を利用して再生すると温度条件が著しく高く、排気後処理装置の性能や耐久性の低下につながることから、ディーゼル微粒子フィルタで捕捉した煤煙の酸化剤としてNO_(2)を用いること、そのために、ディーゼル微粒子フィルタを再生するための温度を、能動的O_(2)を利用して再生する温度より低く、能動的NO_(2)を利用する再生が生じやすい範囲の温度とすることは、本願の国際出願日前より周知(例えば、国際公開第2009/100412号の第2ページ第7行ないし第16行、第38ページ第18行ないし第20行、(日本語訳として特表2011-511897号公報の段落【0005】、段落【0077】の記載)を参照、及び、国際公開第2009/100413号の第2ページ第7行ないし第19行、(日本語訳として特表2011-511898号公報の段落【0005】、段落【0068】の記載)を参照。以下「周知技術1」という。)である。
よって、引用発明において、排気後処理装置の性能や耐久性の低下を防止するという当該技術分野における一般的な課題を解決するために上記周知技術1を適用し、トラップフィルタ23の再生を、能動的O_(2)を利用して再生する温度よりも低い温度であって、能動的NO_(2)ベースを利用する再生が生じやすい温度範囲において行い、その際に、「第2の設定温度T1」を「所定の加熱温度よりも高温である能動的O_(2)再生が生じ易い温度範囲の下限未満又は下限付近であるが能動的NO_(2)再生が生じ易い範囲」の温度とし、さらに、「第1の設定温度T2より低」い温度を、能動的NO_(2)再生における「所定の再生温度未満」の温度とすることにより上記相違点1ないし3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点4について]
ディーゼル微粒子フィルタの再生を行うための未燃燃料を供給するにあたって、ディーゼル微粒子フィルタの上流において排気ガス中に燃料を噴射することは、本願の国際出願日前より周知(例えば、特開2009-275561号公報の段落【0006】、段落【0007】、図1の記載を参照、及び、特開2009-293431号公報の段落【0006】、図1及び図4の燃料噴射弁21を参照。以下「周知技術2」という。)である。
よって、引用発明において、ディーゼル微粒子フィルタの再生を行うにあたって上記周知技術2を適用し、トラップフィルタ23の上流の排気ガス中に燃料を噴射して未燃燃料を供給することにより上記相違点4に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本件発明について
1.本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成26年10月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、平成25年2月28日に提出された国際出願翻訳文提出書における明細書の翻訳文及び図面の翻訳文の記載からみて、上記「第2[理由]1.(1)」に記載したとおりである。

2.刊行物の記載等
原査定の理由に引用された刊行物及び刊行物の記載事項並びに引用発明は、上記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本件発明は、上記「第2[理由]1.」で検討した本件補正発明における、「所定の加熱温度よりも高温である」ことの限定事項である、「能動的O_(2)再生が生じ易い温度範囲の下限未満又は下限付近であるが能動的NO_(2)再生が生じ易い範囲」である旨を削除したものに相当する。

そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記「第2[理由]3.」に記載したとおり、引用発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおり、本件発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上第3のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-04 
結審通知日 2015-11-10 
審決日 2015-11-24 
出願番号 特願2013-518357(P2013-518357)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
P 1 8・ 575- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
発明の名称 ディーゼルエンジン及び排気後処理システム、並びにディーゼルエンジンの排気ガス処理方法  
代理人 重信 和男  
代理人 溝渕 良一  
代理人 秋庭 英樹  
代理人 堅田 多恵子  
代理人 清水 英雄  
代理人 林 道広  
代理人 高木 祐一  

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