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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1313602
審判番号 不服2014-15612  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-07 
確定日 2016-04-20 
事件の表示 特願2010-515221「単細胞の分化万能性幹細胞の培養」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月 8日国際公開、WO2009/006399、平成22年10月 7日国内公表、特表2010-532172〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年6月30日(パリ条約による優先権主張2007年7月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年10月16日付け及び平成26年3月11日付けで手続補正がなされたが、平成26年3月11日付けの手続補正は平成26年3月28日付けで却下され、同日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成26年8月7日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成26年8月7日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年8月7日付の手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項18は、
「膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現することのできる分化万能性幹細胞を維持するための方法において、
(a)分化万能性幹細胞のクラスターを入手する工程と、
(b)前記分化万能性幹細胞を単細胞として放出する工程と、
(c)単細胞の前記分化万能性幹細胞を組織培養基質上に蒔く工程と、
を含み、
前記分化万能性幹細胞が、トリプシン、TrypLE(商標)SELECT、TrypLE(商標)EXPRESS、およびトリプシン/EDTAから成る群から選択される酵素による処理によって、単細胞として放出される、方法。」
から、
「膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現することのできるヒトの分化万能性幹細胞を維持するための方法において、
(a)ヒトの分化万能性幹細胞のクラスターを入手する工程と、
(b)前記分化万能性幹細胞を単細胞として放出する工程と、
(c)単細胞の前記分化万能性幹細胞を支持細胞のない組織培養基質上に蒔く工程と、
を含み、
前記分化万能性幹細胞が、トリプシン、TrypLE(商標)SELECT、TrypLE(商標)EXPRESS、およびトリプシン/EDTAから成る群から選択される酵素による処理によって、単細胞として放出される、方法。」
へと補正された。

2 補正の適否
上記補正は、請求項18に記載した発明を特定するために必要な事項である「分化万能性幹細胞」を「ヒトの」ものに、「組織培養基質」を「支持細胞のない」ものに、それぞれ限定するものであって、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項18に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

(1)引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用されたSTEM CELLS, vol.25, pp.1690-1696 (March 22, 2007)(以下、「引用文献1」という。)には、次のとおりの記載がある。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。以下、同様。
(1-1)「伝統的に、ヒト胚性幹細胞は、細胞クラスターまで機械的破砕又は酵素的分解を行うことにより、増殖される。スケールアップや、蛍光活性化細胞選別、エレクトロポレ-ション、及びクローン選択のような様々な実験操作においてヒト胚性幹細胞の取扱いを容易にするために、単細胞酵素的増殖に基づく新しい安定的な培養システムを開発することが重要である。ここに、我々は、樹立され、機械的破砕を経て継代されたヒト胚性幹細胞が、単細胞への酵素的分解を経て増殖することに、速やかに適応出来ることを報告する。この培養システムの安定性を示すために、我々は、酵素を用いて40代まで継代しても、ヒト胚性幹細胞が未分化で、分化万能性を有し、遺伝的に正常な状態を保持することを示す。我々は、また、組換えトリプシンを用いた方が、ブタトリプシンを用いた場合よりもクローンの生存率が高いことを示す。そして、我々は、通常用いられているマウス胎児由来繊維芽細胞からなる支持細胞よりもヒト包皮繊維芽細胞からなる支持細胞の方が、単細胞継代後の自発的分化を抑制する能力の点で優れていることを報告する。重要なことに、この培養システムは適用範囲が広いから、様々な実験操作にヒト胚性幹細胞を利用できるだけでなく、その信頼性の高い大規模培養を容易にするであろう。」(第1690頁要約)
(1-2)「ヒト胚性幹細胞の単細胞酵素分解培養システムへの移行
手作業で継代されたヒト胚性幹細胞を単細胞酵素分解培養システムに移行するために、細胞を1×リン酸緩衝液(PBS)(Invitrogen)で一度洗浄し、その後、0.5mlの1×TrypLE Select(1mM EDTAを含む。TrypLE Select; Invitrogen)又は1×トリプシン/EDTA(0.25%トリプシン、1mM EDTA; Invitrogen)を各IVFディッシュに加え、37℃で3-5分間反応させた。ヒト胚性幹細胞のコロニーが支持細胞層から盛り上がってきたら、細胞シートをピペットで単細胞懸濁液にまでばらした。遠心分離(400g5分間)の後、上清を除き、ヒト胚性幹細胞のペレットをVitroHES培地に再懸濁し、単細胞懸濁液を高密度ヒト包皮繊維芽細胞層(70,000ヒト包皮繊維芽細胞/cm^(2))を有するIVFディッシュ上に播種した。この第一継代は、1:2?1:8の播種比で行った。」(第1691頁左欄第32?45行)
(1-3)「単細胞酵素分解培養システムでのヒト胚性幹細胞の継続的培養と増殖
ヒト胚性幹細胞は、高密度ヒト包皮繊維芽細胞層と4ng/ml hrbFGF含有VitroHES培地を用いた上述の培養システムで、増殖した。37℃4-6分間の1×TrypLE (Invitrogen)又は1×トリプシン/EDTA(Invitrogen)による酵素的分解の後、単細胞が高密度ヒト包皮繊維芽細胞層(70,000ヒト包皮繊維芽細胞/cm^(2))上に、1:4?1:40の常套の比率で播種された。培養培地は2-3日ごとに4ng/ml hrbFGF含有新鮮VitroHESで交換された。それぞれのヒト胚性幹細胞株の増殖速度に応じて、細胞は6-12日ごとに継代した。」(第1691頁左欄第46?56行)
(1-4)「最初の単細胞酵素分解継代の後、未分化で均質なコロニーと分化した細胞も含む不均質なコロニーとが見出された。しかし、1-2代酵素的に継代した後、ヒト胚性幹細胞は新しい培養環境に適応し、分化したヒト胚性幹細胞コロニーは出現しなくなった。」(第1692頁右欄第5?10行)

審査段階の補正却下の決定において引用されたNat.Biotechnol., vol.19, p.971-974 (2001)(以下、「引用文献2」という。)は、「未分化ヒト胚性幹細胞の、支持細胞無しでの増殖」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
(2-1)「これまでの研究では、未分化ヒト胚性幹細胞を維持するにはマウス胚由来繊維芽細胞からなる支持細胞が必要であることが示されていた。今回、我々は、未分化細胞を少なくとも130代の集団倍化の間維持できる支持細胞なしで成功したヒトES細胞培養システムを示す。このシステムでは、ヒト胚性幹細胞は、マウス胚由来繊維芽細胞の馴化培地中でマトリゲル又はラミニン上で培養される。ヒト胚性幹細胞は、支持細胞上又は支持細胞無しで、ラミニン特異的受容体を形成するであろうインテグリンα6及びβ1を発現し続けた。支持細胞無しの条件において、ヒト胚性幹細胞集団は、正常な核型、安定な増殖率及び高いテロメラーゼ活性を保った。支持細胞上で培養された細胞と同様に、支持細胞無しで維持されたヒト胚性幹細胞は、OCT-4、hTERT、アルカリホスファターゼ及びSSEA-4、Tra1-60及びTra1-81を含む表面マーカーを発現した。それに加えて、支持細胞と直接接触することなく維持されたヒト胚性幹細胞は、SCID/ベージュマウスにおいてテラトーマを形成し、インビトロにおいて三胚葉の細胞に分化した。したがって、この培養システムにおいて、細胞はヒト胚性幹細胞の基本的性質を保持しており、大規模な生産に適しているといえる。」(第971頁要約)
(2-2)「マウス胚性幹細胞の培養においては、支持細胞層はLIFというサイトカインを培地に添加することで代替できる。しかし、LIFはヒト胚性幹細胞の培養においてはこのような効果を有さず、ヒト胚性幹細胞の誘導及び維持には支持細胞が必要なようだ。残念ながら、このことはヒト胚性幹細胞の大規模生産にとって技術的な障壁である。この困難性を軽減するために、我々はヒト胚性幹細胞を維持し増殖するための支持細胞なしの培養システムを開発した。」(第971頁左欄下から17?9行)
(2-3)「未分化なヒト胚性幹細胞コロニーが支持細胞上のヒト胚性幹細胞培養物から収穫され、マウス胎児由来繊維芽細胞馴化培地中、マトリゲル又はゼラチンで被覆したプレート上に播種された。播種した後の日において、マトリゲル上に細胞は付着し、支持細胞層上のヒト胚性幹細胞コロニーよりも質的に密ではない小さなコロニーを形成した。その後数日のうちにこれらのコロニーはサイズ及び細胞数が増加し、質的にもっと密になった。」(第971頁左欄下から4行?同頁右欄2行)

審査段階の補正却下の決定において引用されたLancet, vol.365, p.1636-1641(2005)(以下、「引用文献3」という。)は、「支持細胞無しで得られたヒト胚性幹細胞」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
(3-1)「背景 ヒト胚性幹細胞は、将来の再生医療において重要な役割を果たすと考えられる。しかしながら、既存のヒト胚性幹細胞株が生きた動物細胞や血清に曝されると、ヒトの健康上の危険を引き起こしうる病原体が混入する危険性がある。我々は、細胞や血清に暴露することなく胚性幹細胞株を得ることを目的とする。
方法 冷凍した卵割期の胚を解凍し、胚盤胞まで培養した。免疫手術により内部細胞塊を分離し、容易に滅菌できる、細胞外マトリックスで被覆したプレート上に播種した。6つの樹立済みのヒト胚性幹細胞株もこの血清及び支持細胞無しの培養システムで維持された。
発見 完全に細胞及び血清を含まない条件で、ヒト胚から新しい幹細胞が1株樹立された。細胞は、正常な核型と、Oct-4、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81及びアルカリホスファターゼを含む多能性マーカーを保持していた。未分化状態での増殖を6ヶ月以上させた後も、これらの細胞はインビトロでもテラトーマにおいても三胚葉全ての派生物を形成する能力を保持していた。これらの性質は、樹立済みの幹細胞株でも(30世代以上)維持された。
解釈 このシステムは、ヒト胚性幹細胞やその派生物を動物やヒトの支持細胞に曝すことを防ぎ、その結果、患者に疾患を感染させうる病原性物質の混入のリスクをなくすものである。」(第1636頁要約)
(3-2)「細胞外マトリックスの調製のために、2世代めのマウス胎児繊維芽細胞を1g/LマイトマイシンC(Sigma)により3時間の処理で有糸分裂的に不活性化したものを用いた。細胞は、5-6万細胞/cm^(2)の密度で播種し、7-21日間培養した。PBSで洗い流した後、氷冷しながら0.5%DOC含有10mmol/L Tris-HCl、pH8.0で30分処理し、PBSで5、6回洗い流し、4℃で保存するか、標準的な方法で乾燥し滅菌した。」(1637頁左欄16?25行)
(3-3)「手で摘まんだヒト胚性幹細胞のコロニーが細胞外マトリックスで被覆したプレート上に播種され、引き続き、機械的又は酵素的手法により継代された。」(第1639頁左欄第18?21行)

(2)引用発明
上記摘記事項(1-1)ないし(1-3)によれば、引用文献1には、次の通りの発明が記載されていると認められる。
「ヒト胚性幹細胞を培養する方法において、
(a)ヒト胚性幹細胞のシートを入手する工程と、
(b)前記ヒト胚性幹細胞を単細胞として放出する工程と、
(c)単細胞の前記ヒト胚性幹細胞をヒト包皮繊維芽細胞からなる支持細胞層上に蒔く工程と、
を含み、
前記ヒト胚性幹細胞が、TrypLE Select及びトリプシン/EDTAから成る群から選択される酵素による処理によって、単細胞として放出される、方法。」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明で用いる細胞は「膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現することのできるヒトの分化万能性幹細胞」であるところ、発明の詳細な説明の「幹細胞は、自己再生するとともに、子孫細胞を産生するために分化することができるような、単細胞レベルでの能力により規定される未分化細胞であり、・・・in vitroで、多様な胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)から様々な細胞系統の機能性細胞へと分化する能力によっても特徴付けられ」(段落【0053】)及び「幹細胞は発生能力に応じて、以下のように分類される。・・・(2)すべての胚性細胞型を生み出すことができることを意味する、分化万能性(pluripotent)、・・・」(段落【0054】)の記載、及び全ての実施例で、自己再生可能で、すべての胚性細胞型を生み出すことができる幹細胞として周知のヒト胚性幹細胞が用いられていることに照らすと、本願補正発明の「分化万能性幹細胞」には胚性幹細胞が含まれると解される。また、発明の詳細な説明の「単細胞の分化万能性幹細胞は、膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化してもよい。」(段落【0101】)の記載、及び、胚性幹細胞自体は未分化であって膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現することはないが、膵臓内胚葉系統に分化誘導した後には当該マーカーを発現し得るという技術常識に照らすと、本願補正発明の「膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現することのできる」とは、分化誘導を経れば当該マーカーを発現することができるという意味であると解され、結局、本願補正発明の「膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現することのできるヒトの分化万能性幹細胞」は、引用発明の「ヒト胚性幹細胞」に相違ないと認められる。
また、発明の詳細な説明の「「維持」とは、概して、細胞の成長および/または分裂を促進するが、細胞のより大きな集団を結果的に生じさせるかもしれないし、生じさせないかもしれないような条件下で、成長培地に細胞を置くことをいう。」(段落【0056】)の記載に照らせば、本願補正発明の「維持」とは、培養と同等の意味であると解される。
さらに、本願補正発明の「細胞のクラスター」とは、クラスターの語意からみて細胞塊を意味すると解され、平盤状の細胞塊である、引用発明の「細胞のシート」を含むと認められる。
以上をふまえると、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
一致点: 膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現することのできるヒトの分化万能性幹細胞を維持するための方法において、
(a)ヒトの分化万能性幹細胞のクラスターを入手する工程と、
(b)前記分化万能性幹細胞を単細胞として放出する工程と、
(c)単細胞の前記分化万能性幹細胞を培養基質上に蒔く工程と、
を含み、
前記分化万能性幹細胞が、トリプシン、TrypLE(商標)SELECT、TrypLE(商標)EXPRESS、およびトリプシン/EDTAから成る群から選択される酵素による処理によって、単細胞として放出される、方法。
相違点: 培養基質が、本願補正発明では、支持細胞のない組織培養基質であるのに対して、引用発明では、ヒト包皮繊維芽細胞からなる支持細胞層である点。

(4)判断
引用文献2及び引用文献3の上記記載によれば、本願優先日前、ヒト胚性幹細胞の維持培養においてそれまで広く用いられていた支持細胞は病原体の混入の危険性や大規模生産に適さないという技術的問題点を有しているため、支持細胞の代わりに、マトリゲル、ラミニン、細胞外マトリックスといった代替材料を用いた培養システムが周知技術となっていたことが認められる。そして、本願の発明の詳細な説明において「組織培養基質」について特段の定義はされておらず、実施態様としてMATRIGEL(商標)growth factor-reduced MATRIGEL(商標)、フィブロネクチン、ラミニン、及びコラーゲン等が例示されていること(段落【0108】)に照らすと、引用文献2及び3に記載された支持細胞代替材料はいずれも本願補正発明でいう「組織培養基質」の範疇に入るものであると認められる。
ヒト胚性幹細胞の培養に関する引用文献1に接した当業者にとって、引用発明は支持細胞を用いるものであるから上記周知の技術的問題点を有していることに気づき、それを克服するために上記周知技術を採用することは、通常の創作能力の発揮の範囲内のことである。そして、引用文献1の上記摘記事項(1-4)及び引用文献2の上記摘記事項(2-3)から、ヒト胚性幹細胞は新しい培養環境に適応する能力を有していることが見て取れるから、引用文献1に記載された酵素的に単細胞まで分離されたヒト胚性幹細胞も支持細胞のない組織培養基質上で培養できるようになることは、当業者が予測しうる程度のことである。その他にも、本願補正発明特有の格別顕著な効果を見出すことはできない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、審判請求期間経過後の平成27年9月25日に提出した上申書の中で、補正案を提示し、補正の機会を与えるよう主張している。
しかし、そのような補正の機会を与える義務が審判合議体にないことは特許法の各規定に照らし明らかであるし、知的財産高等裁判所においても認められているところである(例えば、平成20年(行ケ)第10275号判決、平成22年(行ケ)第10190号判決、平成19年(行ケ)第10274号判決参照)。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、159条1項で準用する53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年8月7日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項18に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年10月16日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項18に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現することのできる分化万能性幹細胞を維持するための方法において、
(a)分化万能性幹細胞のクラスターを入手する工程と、
(b)前記分化万能性幹細胞を単細胞として放出する工程と、
(c)単細胞の前記分化万能性幹細胞を組織培養基質上に蒔く工程と、
を含み、
前記分化万能性幹細胞が、トリプシン、TrypLE(商標)SELECT、TrypLE(商標)EXPRESS、およびトリプシン/EDTAから成る群から選択される酵素による処理によって、単細胞として放出される、方法。」

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の2(1)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明において、「分化万能性幹細胞」をヒト以外のものも含むこととし、「組織培養基質」について「支持細胞のない」という条件を除くものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含む本願補正発明が、前記第2の2(4)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるのだから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-20 
結審通知日 2015-11-24 
審決日 2015-12-08 
出願番号 特願2010-515221(P2010-515221)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治荒木 英則  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 飯室 里美
長井 啓子
発明の名称 単細胞の分化万能性幹細胞の培養  
代理人 加藤 公延  
代理人 大島 孝文  

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