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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01T
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01T
管理番号 1313807
審判番号 不服2015-11232  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-15 
確定日 2016-05-10 
事件の表示 特願2013- 98715「放射能測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日出願公開、特開2014-219280、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年5月8日を出願日とする特願2013-98715号であって、平成26年9月8日付けで拒絶理由が通知され、同年11月12日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、平成27年3月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成28年1月28日付けで拒絶理由が通知され、同年3月16日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本願発明(本件補正後の請求項1及び請求項2に係る発明)
本件補正後の請求項1及び請求項2に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
試料から放出される放射線を検出する放射線検出器と、
前記放射線検出器の検出効率の情報を記憶する記憶手段と、
前記放射線検出器によって検出された前記放射線のエネルギースペクトルのピーク領域および該ピーク領域周辺のベース領域を、領域設定用スペクトルのピークの位置、幅、および高さ、またはベースの位置および幅の情報に基づいて設定し、設定した前記ピーク領域および前記ベース領域に基づいて前記ピーク領域のピーク面積を算出するピーク面積算出手段と、
前記ピーク面積算出手段によって算出された前記ピーク面積と、前記記憶手段に記憶された前記検出効率の情報と、を用いて、前記試料の放射能分析を行なう分析手段と、
前記試料の類似試料から放出される放射線を過去に前記放射線検出器によって検出して得たエネルギースペクトルの検出データを記憶する疑似試料スペクトル記憶部と、
少なくとも前記疑似試料スペクトル記憶部に記憶されている前記エネルギースペクトルの検出データによって、前記領域設定用スペクトルを生成する領域設定用スペクトル生成手段と、
を備えることを特徴とする放射能測定装置。
【請求項2】
前記領域設定用スペクトル生成手段は、過去に生成した前記領域設定用スペクトルに今回に前記放射線検出器によって検出された前記放射線のエネルギースペクトルを積算することによって今回の前記領域設定用スペクトルを生成し、
前記ピーク面積算出手段は、前記今回の前記領域設定用スペクトルに基づいて前記ピーク領域および前記ベース領域を設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の放射能測定装置。」

第3 原査定の拒絶理由について
1 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由は、要するに、本願発明1及び2は、いずれも、次の引用文献一覧における引用文献1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするものである。
<引用文献一覧>
1.特開2012-237618号公報
2.特開2002-181947号公報
3.特開昭63-243896号公報
4.特開2004-61210号公報

2 原査定の拒絶理由の判断
(1)原査定の拒絶理由の引用文献1?4の記載事項
ア 引用文献1(特開2012-237618号公報)に記載された事項
引用文献1には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
a「【0001】
本発明は、廃棄物収納容器に収納された放射性廃棄物の放射能を測定する放射能定量測定装置に関する。」

b「【0015】
本発明の実施の形態である放射能定量測定装置1のシステム構成について、図1?図4を参照して説明する。
【0016】
本実施の形態における放射能定量測定装置1は、図1に示すように、制御装置2と、廃棄物収納容器3を載置して回転する容器回転台4と、載置された廃棄物収納容器3を搬送して前記容器回転台4上に載置する容器搬送台5と、前記容器回転台4に載置された廃棄物収納容器3の外端が内接するように想定した球状空間の外周に沿って前記廃棄物収納容器3の中心位置Xに向けてガンマ線検出器6の複数のガンマ線検出ヘッドを経線方向に配列して設置する検出器支持台7と、前記容器回転台4に載置された廃棄物収納容器3の重量を測定する重量測定装置8を備える。
【0017】
前記制御装置2は、CPUなどの演算手段20と、インターフェイス21と、制御処理プログラムや演算処理プログラムを記憶する記憶手段22を備える。そして、前記記憶手段22は、前記演算手段20と連係する処理プログラムによって、ガンマ線検出器6から出力するガンマ線検出信号を取り込む検出信号取得処理手段23と、容器搬送台5に載置された廃棄物収納容器3の搬送及び重量測定等の放射能測定準備を制御する測定準備制御処理手段24と、容器回転台4の回転を制御する台回転制御処理手段25と、検出信号取得処理手段23によって取り込み、弁別処理した検出信号をもとに、ガンマ線検出器6におけるガンマ線検出ヘッド毎のガンマ線係数率計算ならびにガンマ線係数率の平均化処理、プロットポイント計算処理等を行ない放射能量を定量化する放射能定量処理手段26と、放射能定量化手段26で演算したプロットポイントに対応したウラン量定量化計算のための基準値を保存しておく放射能定量化基準値処理手段27とを備える。」

c「【0048】
〔ステップS9 ガンマ線計数率計算処理〕
放射能定量処理手段26を機能させてエネルギーに応じて弁別された信号から構成されるガンマ線スペクトルから2つのエネルギー(1001keV、766keV)の計数率を計算する。計数率の計算は関数適合法によって行う。例えば、検出器支持台7に3個のガンマ線検出ヘッド61、62、63を設置して1周360度を12分轄で測定する場合には、12×3=36のガンマ線スペクトルが得られる。ガンマ線スペクトルそれぞれから2つのエネルギー(1001keV、766keV)の計数率を関数適合法によって計算する。
【0049】
ここで、関数適合法について、「ゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメトリー -コベル法と関数適合法の比較-」(新潟県保健環境科学研究所年報第15巻2000 山崎 興樹、殿内 重正)を参照して説明する。
【0050】
ガンマ線は、励起状態にある原子核がより低い準位に遷移する際に両準位のエネルギー差を持って放出される。このエネルギーは、準位の寿命との不確定性及び原子核の反跳によるドップラー効果により、放出時既に本質的な幅を持ち、検出器に入射した後は、生成電荷の統計的ゆらぎや検出器漏洩電流、前置増幅器のノイズなどにより統計的な幅が加わる。このため観測されるスペクトルは線スペクトルではなくピーク中心の両側に広がりを持った形状となる。そこで、このようなピークの広がりに対して形状関数を仮定し、最小二乗法により実測ピークに適合させ、ピーク面積の計算を行うものである。特に、パソコン上で動作するスペクトル解析プログラムが準備、実用化されている。スペクトル形状関数としてピーク部分にはガウス関数を、ベースライン部分には1次式を採用し、非線型最小二乗法により関数適合を行なう関数形を以下に示す。」

イ 引用文献2(特開2002-181947号公報)に記載された事項
引用文献2には次の事項が記載されている。(下線は当審において付した。)
a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は放射線測定装置に関し、特に放射線測定装置のエネルギー校正処理に関する。」

b「【0009】この構成では、単位測定期間のエネルギースペクトルから、注目する核種の光電ピークなどの指標点が自動検出できない場合、それより長い拡張期間のエネルギースペクトル上で指標点の検出処理を行うので、指標点を検出できる可能性が高まり、指標点に基づくエネルギー校正処理の機会が増える。また、単位測定時間のエネルギースペクトルで指標点が見つかれば、その指標点に基づき校正処理を行えるので、できるだけ現在に近い測定結果に基づく校正ができる。
【0010】また、本発明に係る装置は、放射線を検出し、単位測定期間ごとに検出放射線のエネルギースペクトルを求めるスペクトル測定手段と、単位測定期間ごとのエネルギースペクトルのデータを時系列順に保管するスペクトル保管手段と、前記スペクトル測定手段で求めた今回のエネルギースペクトル上で所定の指標点の有無を判定し、その指標点が検出できればそのエネルギー値を特定する基本判定手段と、前記基本判定手段において今回のエネルギースペクトル上で前記指標点が検出できなかった場合、その所定点が検出されるまで、今回のエネルギースペクトルに対して、前記スペクトル保管手段に保管されたエネルギースペクトルを過去に遡って順次積算し、得られた積算スペクトル上で前記指標点のエネルギー値を特定する拡張判定手段と、前記指標点のエネルギー値に基づいて装置のエネルギー校正を行う校正手段とを備える。
【0011】この装置では、単位測定期間のエネルギースペクトル上で指標点が検出できない場合、保管している過去のエネルギースペクトルを所定期間分だけ今回のスペクトルに足し込み、得られた積算スペクトルに対して指標点の検出処理を行う。その積算スペクトルでも指標点が検出できない場合は、更に過去に遡って所定期間分のスペクトルを足し込み、指標点検出を繰り返す。そして、指標点が検出できれば、それに基づいてエネルギー校正処理を行う。この構成によれば、指標点を検出するのに必要最小限のスペクトル積算しか行わなくて済むので、できるだけ現在に近い測定結果をベースにして校正処理を行うことができる。」

c「【0027】さて、S14の判定でROIの計数値(又は計数率)が許容範囲未満だった場合、及びS18でピーク検出できなかったと判定された場合、本実施形態では、RAMディスク26に保存してある1つ前の測定期間のエネルギースペクトルを取り出し(S24)、これを今回の測定期間のエネルギースペクトルに対して積算した上で(S28)、S14以下の処理を繰り返す。」

d「【0035】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、単位測定期間のエネルギースペクトルから光電ピーク等の指標点が見つからなかった場合には、過去のスペクトルを加算するなどしてより長い期間のスペクトル上で指標点を探すようにしたので、指標点が見つかる可能性がより向上する。これにより、実測スペクトルの指標点に基づく精度の高いエネルギー校正を実行できる機会が増大するという効果が得られる。また、本発明では、積算スペクトルから指標点が検出できなければ更に過去に遡ってスペクトルを積算し、指標点が検出できたところで処理をうち切るという方式により、できるだけ現在に近い時点のスペクトルデータに基づいてエネルギー校正が行える。」

ウ 引用文献3(特開昭63-243896号公報)に記載された事項
引用文献3には次の事項が記載されている。
「バックグランド測定時
第3図(A)にはバックグランド測定時の操作手順が示されている。放射線検出器13を所定の測定位置に移動させ、このとき位置検出器15により得られた測定位置データをiとする。次に、この位置にて所定時間放射線測定を行ない、得られた測定値(積算計数値)をnとする。
こうして得られた計数値n及び移動位置データiは移動位置対放射線検出手段22に送られた後バックグランド放射線性記憶手段23により記憶される。バックグランド放射線性記憶手段23では、計数値nは移動位置データ、iに相当する記憶領域にB G (i)として記憶される。同様の操作を移動が終了するまで他の移動位置においても繰り返す。」(第3ページ左上欄第18行?右上欄第12行)

エ 引用文献4(特開2004-61210号公報)に記載された事項
引用文献4には次の事項が記載されている。
「【0013】
基準試料データは、例えば、基準試料となるCo-60のFWHM(半値幅分解能)値データ、10分の1幅の分解能値データ、50分の1幅などの分解能値データなどが挙げられる。
ここで、半値幅分解能とは、図3に示すように、MCA20で変換された所定の試料スペクトルデータのピークP点のカウントの1/2位置での幅を表している。例えば、Co-60の半値幅分解能は、1.7004keV、Co-57の半値幅分解能は、740.08eVなどとなる。
評価結果データ1922は、評価プログラム1911に従って求めた放射能検出器の性能評価の評価結果を評価時期に関連付けたものである。」

(2)引用発明の認定
引用文献1の記載事項から引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「廃棄物収納容器3の中心位置Xに向けて複数のガンマ線検出ヘッドを経線方向に配列するガンマ線検出器6と、
検出信号取得処理手段23によって取り込み、弁別処理した検出信号をもとに、ガンマ線検出器6におけるガンマ線検出ヘッド毎のガンマ線係数率計算ならびにガンマ線係数率の平均化処理、プロットポイント計算処理等を行ない放射能量を定量化する放射能定量処理手段26とを備える記憶手段22と、を備え、
放射能定量処理手段26を機能させてエネルギーに応じて弁別された信号から構成されるガンマ線スペクトルから2つのエネルギー(1001keV、766keV)の計数率を計算し、計数率の計算は関数適合法によって行い、関数適合法について、説明すると、ガンマ線は、励起状態にある原子核がより低い準位に遷移する際に両準位のエネルギー差を持って放出され、観測されるスペクトルは線スペクトルではなくピーク中心の両側に広がりを持った形状となり、そこで、このようなピークの広がりに対して形状関数を仮定し、最小二乗法により実測ピークに適合させ、ピーク面積の計算を行うものである放射能定量測定装置1。」

(3) 本願発明1と引用発明との対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「廃棄物収納容器3の中心位置Xに向けて複数のガンマ線検出ヘッドを経線方向に配列するガンマ線検出器6」が、本願発明1の「試料から放出される放射線を検出する放射線検出器」に相当する。

(イ)引用発明の「ガンマ線係数率」は、「ガンマ線検出器6」によって検出された検出信号(検出値)から放射線量を定量化(測定)するためのパラメータであるから、本願発明1の「検出効率」に相当する。よって、引用発明の「検出信号取得処理手段23によって取り込み、弁別処理した検出信号をもとに、ガンマ線検出器6におけるガンマ線検出ヘッド毎のガンマ線係数率計算ならびにガンマ線係数率の平均化処理、プロットポイント計算処理等を行ない放射能量を定量化する放射能定量処理手段26とを備える記憶手段22」が、本願発明1の「前記放射線検出器の検出効率の情報を記憶する記憶手段」に相当する。

(ウ)引用発明において「ピークの広がりに対して形状関数を仮定し、最小二乗法により実測ピークに適合させ、ピーク面積の計算を行う」にあたっては、本願発明1の「放射線のエネルギースペクトルのピーク領域および該ピーク領域周辺のベース領域」に相当するものを設定してピーク面積を算出するものであることは明らかであるから、引用発明の(「ガンマ線」について)「観測されるスペクトルは線スペクトルではなくピーク中心の両側に広がりを持った形状となり、そこで、このようなピークの広がりに対して形状関数を仮定し、最小二乗法により実測ピークに適合させ、ピーク面積の計算を行う」こと(手段)と、本願発明1の「前記放射線検出器によって検出された前記放射線のエネルギースペクトルのピーク領域および該ピーク領域周辺のベース領域を、領域設定用スペクトルのピークの位置、幅、および高さ、またはベースの位置および幅の情報に基づいて設定し、設定した前記ピーク領域および前記ベース領域に基づいて前記ピーク領域のピーク面積を算出するピーク面積算出手段」とは、「前記放射線検出器によって検出された前記放射線のエネルギースペクトルのピーク領域および該ピーク領域周辺のベース領域を設定し、設定した前記ピーク領域および前記ベース領域に基づいて前記ピーク領域のピーク面積を算出するピーク面積算出手段」である点で一致する。

(エ)引用発明の「ガンマ線検出器6におけるガンマ線検出ヘッド毎のガンマ線係数率計算ならびにガンマ線係数率の平均化処理、プロットポイント計算処理等を行ない放射能量を定量化する」こと、及び「放射能定量処理手段26を機能させてエネルギーに応じて弁別された信号から構成されるガンマ線スペクトルから2つのエネルギー(1001keV、766keV)の計数率を計算し、計数率の計算は関数適合法によって行い、関数適合法について、説明すると、ガンマ線は、励起状態にある原子核がより低い準位に遷移する際に両準位のエネルギー差を持って放出され、観測されるスペクトルは線スペクトルではなくピーク中心の両側に広がりを持った形状となり、そこで、このようなピークの広がりに対して形状関数を仮定し、最小二乗法により実測ピークに適合させ、ピーク面積の計算を行うものである」こと(手段)が、本願発明1の「ピーク面積算出手段によって算出された前記ピーク面積と、前記記憶手段に記憶された前記検出効率の情報と、を用いて、前記試料の放射能分析を行なう分析手段」に相当する。

イ 一致点
上記アの(ア)ないし(エ)から、本願発明1と引用発明とは、
「試料から放出される放射線を検出する放射線検出器と、
前記放射線検出器の検出効率の情報を記憶する記憶手段と、
前記放射線検出器によって検出された前記放射線のエネルギースペクトルのピーク領域および該ピーク領域周辺のベース領域を設定し、設定した前記ピーク領域および前記ベース領域に基づいて前記ピーク領域のピーク面積を算出するピーク面積算出手段と、
前記ピーク面積算出手段によって算出された前記ピーク面積と、前記記憶手段に記憶された前記検出効率の情報と、を用いて、前記試料の放射能分析を行なう分析手段と、
を備える放射能測定装置。」
の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

ウ 相違点
(ア)相違点1
ピーク領域および該ピーク領域周辺のベース領域の設定が、本願発明1においては、「領域設定用スペクトルのピークの位置、幅、および高さ、またはベースの位置および幅の情報に基づいて」設定するのに対して、引用発明では、何に基づいて設定するのかについての特定がない点。

(イ)相違点2
本願発明1が、「試料の類似試料から放出される放射線を過去に前記放射線検出器によって検出して得たエネルギースペクトルの検出データを記憶する疑似試料スペクトル記憶部」及び「少なくとも前記疑似試料スペクトル記憶部に記憶されている前記エネルギースペクトルの検出データによって、前記領域設定用スペクトルを生成する領域設定用スペクトル生成手段」を備えるのに対して、引用発明においてはそのような特定がない点。

(4)当審の判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する
相違点2に係る「試料の類似試料から放出される放射線を過去に前記放射線検出器によって検出して得たエネルギースペクトルの検出データを記憶する疑似試料スペクトル記憶部」及び「少なくとも前記疑似試料スペクトル記憶部に記憶されている前記エネルギースペクトルの検出データによって、前記領域設定用スペクトルを生成する領域設定用スペクトル生成手段」を備える点については、引用文献2?4のいずれにも記載されていない。
そして、本願発明1は、上記の相違点2に係る構成を備えることによって、本願明細書の【0021】に記載された「γ線のピーク領域に対するベース領域」を「他の核種のγ線のピーク領域とは重畳しないように設定され」得るという顕著な効果を奏するのであるから、本願発明1は、引用発明に引用文献2?4に記載された事項を適用して、当業者が容易に想到し得るものということはできない。

(5)小活
以上のとおりであり、少なくとも相違点2に係る本願発明1の構成については、上記の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得るものということができないのであるから、相違点1については検討するまでもなく、本願発明1は、上記の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
また、同様に、本願発明1を引用する本願発明2についても、上記の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるすることはできない。
すなわち、原査定の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審の拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審で通知した拒絶理由は、要するに、本願発明1及び2は、「疑似試料スペクトル記憶部に記憶されている前記エネルギースペクトルの検出データ」を用いることなく「領域設定用スペクトルを生成する」ことも含まれることになるが、本願の発明の詳細な説明には、「疑似試料スペクトル記憶部に記憶されている」「エネルギースペクトルの検出データ」を用いずに「領域設定用スペクトルを生成する」ことについて記載も示唆もないことから、本願発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。よって、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものであるとするものである。

2 当審拒絶理由の判断
当審の拒絶理由の通知後、本願の特許請求項の範囲は、本件補正により、本願発明1及び2に補正された。
そして、本願発明1及び2は、当審の拒絶理由で述べたような、「疑似試料スペクトル記憶部に記憶されている前記エネルギースペクトルの検出データ」を用いることなく「領域設定用スペクトルを生成する」ことも含まれるものではないことは明らかである。
よって、当審で通知した拒絶理由は、本件補正により解消されたものと認められる。

第5 結論
以上のとおりであり、原査定の拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。また、当審で通知した拒絶理由についても本件補正により解消され、他に、本願を拒絶する理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-04-18 
出願番号 特願2013-98715(P2013-98715)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01T)
P 1 8・ 537- WY (G01T)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長谷川 聡一郎関根 裕  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 井口 猶二
森林 克郎
発明の名称 放射能測定装置  
代理人 志賀 正武  
代理人 西澤 和純  
代理人 鈴木 慎吾  

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