• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04M
管理番号 1313926
審判番号 不服2015-12405  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-30 
確定日 2016-05-17 
事件の表示 特願2010-167444「開閉装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 9日出願公開,特開2012- 29165,請求項の数(3)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平22年7月26日の出願であって,平成26年4月17日付けで拒絶理由が通知され,同年6月23日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ,同年9月10日付けで最後の拒絶理由(以下「原審最後の拒絶理由」という。)が通知され,同年11月17日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,平成27年3月20日付けで平成26年11月17日付け手続補正の却下の決定(以下「原審補正の却下の決定」という。)がされるとともに拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ,これに対し,平成27年6月30日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされ,同年9月24日付けで前置報告がされ,その後,当審において平成28年1月21日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年3月15日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-3に係る発明は,平成28年3月15日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定されるものと認められる。(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項1】
軸承部を有すると共に第1筐体に固定される固定フレームと,
前記固定フレームに対して回転移動可能とされた移動プレートと,
前記移動プレートに対してスライド可能とされ,第2筐体に固定されるスライドプレートと,
前記軸承部と前記移動プレートとの間に複数配設される同一長さを有するアームと,
前記移動プレートに対して前記スライドプレートをスライドさせるスライド機構とを有し,
前記移動プレートの片側において,前記アームは2本設けられると共に前記軸承部は2個設けられ,各アームの一端は前記軸承部にそれぞれ軸承され,また他端は前記移動プレートにそれぞれ軸承されており,
前記スライド機構により前記スライドプレートが前記移動プレートに対してスライドし,前記アームの回転に伴い前記移動プレートが前記固定フレームに対して回転することにより,前記第2筐体が前記第1筐体と重なる閉位置から,前記第2筐体が前記第1筐体とフラット状態となり,前記両筐体に重なる部分がない開位置との間で移動する構成とし,
前記移動プレートと前記スライドプレートとの間に弾性手段を設け,
前記移動プレートに対して前記スライドプレートをスライドさせる際,前記弾性手段により前記移動プレートと前記スライドプレートとの間に,前記移動プレートに対して前記スライドプレートを任意位置で係止させることが可能な負荷が印加される開閉装置であって,
前記弾性手段は,ローラと前記ローラを前記スライドプレートに圧接させるばねとを有し,前記移動プレートに固定されてなることを特徴とする開閉装置。
【請求項2】
複数の前記アームは,前記軸承部と前記移動プレートとの間で互いに平行に配置されていることを特徴とする請求項1記載の開閉装置。
【請求項3】
前記アームの少なくとも一つに,前記閉位置又は開位置から前記アームを既定の反転位置まで回転させるまでは戻し方向に力を付勢し,前記反転位置を超えると進み方向に力を付勢する第1のセミオート機構を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の開閉装置。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(1)原審最後の拒絶理由
原審最後の拒絶理由には,以下の記載がある。

「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1?3について引用文献1?4
引用文献1には,スライダー520(「移動プレート」に相当する。)と,ガイド部510(「スライドプレート」に相当する。)と,リンク530(「アーム」に相当する。)と,弾性部材550(「セミオート機構」に相当する。)からなるスライドモジュールが記載されている(【0096】?【0124】段落,【図8】?【図11C】参照)。
また,引用文献2には,連結部4(「アーム」に相当する。)を複数備えたスライド装置が記載されており(【0027】?【0029】段落,【図1】?【図3】参照),引用文献1記載のスライドモジュールにおいて,連結部であるリンクを複数配設するように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。
さらに,開閉装置において,複数のプレート間に設けた弾性手段により,一方のプレートをスライドさせる際,プレート間に付加を印可するよう構成することは周知技術である(例えば,引用文献3:【0022】?【0040】段落,【図1】?【図6】,引用文献4:【0072】?【0077】段落,【図16】?【図21】参照)。

引 用 文 献 等 一 覧

1.特開2007-166621号公報
2.特開2008-301244号公報
3.特開2009-060569号公報
4.特開2007-159127号公報」

(2)原審補正の却下の決定
原審補正の却下の決定には,以下の記載がある。

「請求項1についての補正は限定的減縮を目的としている。この場合,補正後の請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
しかしながら,先に通知した引用文献4の段落[0073]-[0077]及び[図16]-[図21]によれば,圧縮バネ190の弾性力により負荷が印加される第2プレート140は,フリーストップ区間180において停止させることが可能であることが開示されており,このフリーストップ区間180においては任意の位置で停止可能であることは明らかである。
してみれば,先に通知した引用文献1に開示された発明において,先に通知した引用文献2,4に開示された発明を適用し,補正後の請求項1に係る発明のように構成することは,当業者が容易に想到し得たものと認められる。」

(3)前置報告
前置報告には,以下の記載がある。

「・請求項 1-3
・引用文献等 1,2,4,5
先に通知した引用文献4には,第1プレート120と第2プレート140との間にスライドハウジング160(補正後の請求項1に係る発明の「弾性手段」に相当)を設け,第1プレート120に対して第2プレート140をスライドさせる際,スライドハウジングにより第1プレート120と第2プレート140との間に,第1プレート120に対して第2プレート140をフリーストップ区間において任意位置で停止させることが可能な弾性力が作用する開閉装置であって,スライドハウジング160は,ローラ180と,ローラ180を第2プレート140のカムプロファイルに接触させる圧縮バネ190とを有し,第1プレート120に固定されてなることを特徴とする開閉装置が開示されている(特に,段落[0058]-[0077]及び[図11]-[図21]を参照されたい)。
先に通知した引用文献1に開示された発明と,引用文献4に開示された発明とは,いずれもスライド機構に関する発明であり,しかも,引用文献1に開示された発明のような回転を伴うことにより,2つの筐体をフラットな状態とするスライド機構において,弾性手段により伸長位置と収縮位置との間の任意位置で安定させることは,例えば,新たに引用された引用文献5に開示されているように周知であるから,引用文献1に開示された発明に,引用文献4に開示された発明を適用することに格別の技術的困難性はない(特に,引用文献5の第13頁第26-37行,第18頁第10-16,27,28行目を参照されたい)。
してみれば,引用文献1に開示された発明において,スライダー520(補正後の請求項1に係る発明の「移動プレート」に相当)とガイド部510(補正後の請求項1に係る発明の「スライドプレート」に相当)との間に,引用文献4に開示された発明のようなスライドハウジングとカムプロファイルを設けて任意位置で停止させることを可能とするように構成することは,当業者であれば容易に想到し得たものである。
なお,引用文献1に開示された発明に,引用文献4に開示された発明を適用するにあたり,スライダー520には,カムプロファイルかスライドハウジングかが固定される必要があるところ,引用文献1に開示された発明のスライダー520とガイド部510のスライド方向の長さを考慮すれば,スライドハウジングをスライダー520に固定することは,当業者が自明に採用し得る事項である。

したがって,当該補正後の請求項1に係る発明は,引用文献1,2,4に開示された発明と引用文献5に開示された周知技術とに基づいて,当業者が容易に想到し得たものであって,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。」

2 原査定の理由の判断
(1)引用文献の記載事項
(引用例1)
原査定の拒絶の理由で引用された特開2007-166621号公報(以下「引用例1」という。)には,特に第3実施形態に関連して図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0096】
図8は,本発明に係るスライドモジュールの第3実施形態を示す斜視図である。
【0097】
図8に示すように,本発明に係るスライドモジュールの第3実施形態は,スライダー520,ガイド部510及びリンク530によって構成される。
【0098】
前記ガイド部510は,前記本体部100またはカバー部200の何れ側に備わっても構わないが,本実施形態では,本体部100に備わる場合を説明する。
【0099】
前記ガイド部510は,前記本体部100の内部に提供され,前記カバー部200の水平移動経路を形成する。前記スライダー520は,前記ガイド部510に移動可能に結合され,前記カバー部200のスライド移動時に水平往復運動をする。前記リンク530は,一側が前記スライダー520に結合され,他側が前記カバー部200に結合され,前記カバー部200の垂直方向移動時に回転する(図8,図9A及び図9Bを参照)。
【0100】
一層詳しく説明すると,前記ガイド部510は,プレート形態であり,両側面にレールが形成される。そして,前記スライダー520は,前記ガイド部510のレールにそれぞれ結合される。ここで,前記スライダー520は,前記ガイド部510のレールにそれぞれ結合されるように二つによって構成される。しかし,本発明において,前記スライダー520は,一つであり,前記ガイド部510のレールに結合されるように,前記ガイド部510を取り囲む形態で構成される。
【0101】
前記リンク530は,一端が前記スライダー520に軸541によって結合され,前記リンク530の他端は,前記カバー部200に軸542によって結合される。前記リンク530が前記スライダー520及びカバー部200に軸541,542によって結合されるので,前記リンク530は,前記スライダー520及びカバー部200に対して回動可能になる。もちろん,当業者の水準で回動可能な構成であれば,全て採用可能である。
【0102】
前記軸541,542は,前記スライダー520と前記カバー部200にそれぞれ形成され,前記リンク530と結合されることもあり,前記リンク530に形成され,前記スライダー520と前記カバー部200にそれぞれ結合されることもある。また,前記軸541,542は,別途に備わることで,前記リンク530の上部を前記カバー部200に結合させ,前記リンク530の下部を前記スライダー520に結合させることもできる。
【0103】
そして,前記カバー部200が垂直方向移動をするとき,前記リンク530を回転させるために,前記軸541,542は,前記カバー部200の側面方向及び前記スライダー520の移動方向に垂直な方向に形成される。」

イ 「【0109】
一方,前記リンク530が90゜回転し,リンク530が本体100の上面と平行な状態になると,前記リンク530を反時計方向に回転させてカバー部200を元の位置に復帰させるには非常に大きな力が要求される。
【0110】
したがって,通話のためのカバー部200のスライド移動が完了したとき,すなわち,前記カバー部200が前記本体部100を開放する方向に垂直移動したとき,前記リンク530は,本体100の上面と所定角を維持することが好ましい。具体的に,前記リンク530と本体の上面とがなす角は,鋭角であることが好ましく,30゜であることが一層好ましい。
【0111】
また,前記リンク530が過度に回転すると,前記カバー部200が垂直移動するとき,前記本体部100との衝撃が発生し,前記カバー部200と前記本体部100が損傷する恐れがある。
【0112】
前記本体部100には,前記リンク530が前記本体部100と所定角をなし,前記リンク530の過回転を防止するために,前記リンク530が所定角度以上回転することを防止する第1回転防止部140が形成される。そして,前記カバー部200には,前記リンク530が所定角度以上回転することを防止する第2回転防止部250が形成される(図11A,図11B及び図11Cを参照)。」

ウ 「【0117】
以下,上記のような本発明に係るスライドモジュールによって前記カバー部200のスライド移動が行われる過程を説明する。
【0118】
図11A?図11Cは,図9A及び図9Bに示したスライドモジュールによってカバー部200のスライド移動が行われる過程を示す図である。
【0119】
図11A及び図11Bに示すように,使用者が通話などの機能を実行するために前記カバー部200に外力を加えると,前記ガイド部310に沿ってスライダー320及びリンク330が水平方向に移動し,これによって,カバー部200が水平方向に移動する。
【0120】
その後,図11B及び図11Cに示すように,前記カバー部200の下部が本体部100の傾斜面130に位置し,前記リンク530が前記第1傾斜段140bに接すると,前記第1傾斜段140bの傾斜方向に前記リンク530が回転する。」

a 前記アの段落【0097】より,引用例1には, 「スライダー520,ガイド部510及びリンク530によって構成され」た「スライドモジュール」の発明が記載されている。
b 前記「スライダー520」について,前記ウの段落【0120】を参照すると,図11Bの状態から前記「リンク530」が回転することで図11Cの状態となることから,前記「スライダー520」は、カバー部200に形成された軸542を中心として回転する前記「リンク530」を介して相対的に「回転移動可能」とされていることが読み取れる。
c 前記「ガイド部510」について,前記アの段落【0098】には,「本体部100」に備わること,前記ウの段落【0119】には,前記「スライダー520」に対して水平方向に移動することが記載されている。
d 前記「リンク530」について,前記アの段落【0101】の,「一端が前記スライダー520に軸541によって結合され」,「他端は,前記カバー部200に軸542によって結合される」点の記載からみて,前記「リンク530」は,前記「カバー部200の軸542」と前記「スライダー520」との間に配設されていることが明らかである。また,前記「リンク530」は,図8等からみて,左右同じ長さのものが合計2本配設されているといえる。
e 前記アの段落【0100】より,「前記ガイド部510は,プレート形態であり,両側面にレールが形成され」,「前記スライダー520は,前記ガイド部510のレールに結合される」ことで,前記cのとおり,前記「ガイド部510」と前記「スライダー520」とが互いに水平方向へ移動するものといえ,前記「レール」と該「レールに結合」される部分を合わせて「前記スライダー520に対して前記ガイド部510を水平方向へ移動させるための機構」ということができる。
ここで,「水平方向へ移動させる」ことについて,前記ガイド部510に形成されたレールと,前記ガイド部スライダー520とが結合しながら水平方向に移動することであるから,一方が他方に対して「スライドさせる」ことといえる。
f 前記dより,前記「スライダー520」の片側において,前記「リンク530」が設けられるとともに「軸542」が設けられ,前記「リンク530」の他端は前記「軸542」に結合され,また一端は前記「スライダー520」の「軸541」に結合されることが,明らかである。
g 図11Aから図11Cまでの前記「スライドモジュール」の動作について検討すると,図11Aから図11Bは,前記ウの段落【0119】と前記eより,前記「スライダー520」に対して前記「ガイド部510」をスライドした状態といえる。また,図11Bから図11Cは,前記ウの段落【0120】と前記bより,前記「リンク530」の回転に伴い,前記「スライダー520」が前記「カバー部200」に対して回転した状態といえる。さらに,図11Aの状態を,「前記本体部100が前記カバー部200と重なる位置」ということができ,図11Cの状態を,「前記本体部100が前記カバー部200と一部重なるもののフラット状態となる位置」ということができ,さらに,前記2つの位置の間で前記本体部100が移動する構成を備えるといえる。

前記aないしgを総合すると,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 カバー部200に対して回転移動可能とされたスライダー520と,
前記スライダー520に対してスライド可能とされ,本体部100に備わるガイド部510と,
前記カバー部200の軸542と前記スライダー520との間に2本配設される同一長さを有するリンク530と,
前記スライダー520に対して前記ガイド部510をスライドさせるための機構とを有し,
前記スライダー520の片側において,前記リンク530が設けられるとともに前記軸542が設けられ,前記リンク530の他端は前記軸542に結合され,また一端は前記スライダー520の軸521に結合され,
前記スライダー520に対して前記ガイド部510をスライドし,前記リンク530の回転に伴い前記スライダー520が前記カバー部200に対して回転することにより,前記本体部100が前記カバー部200と重なる位置から,前記本体部100が前記カバー部200と一部重なるもののフラット状態となる位置との間で移動する構成を備えた
スライドモジュール。」

(引用例2)
原査定の拒絶の理由で引用された特開2008-301244号公報(以下「引用例2」という。)の段落【0027】-【0029】,図1-3等には,以下の事項が記載されている。

「第一部材1と第二部材2とを重合面方向にスライド自在に構成し,固定側となる前記第一部材1とスライド側となる前記第二部材2とを,スライド自在に,片側2本の連結部4で連結すること。」

(引用例3)
原査定の拒絶の理由で引用された特開2009-60569号公報(以下「引用例3」という。)の段落【0022】-【0040】,図1-6等(特に段落【0028】-【0029】,図3)には,以下の事項が記載されている。

「固定体11に対して可動体12が移動する開閉装置において,ばね18に付勢された押圧体17先端のリング16Bが,揺動体14の傾斜部14Dに弾接し可動体12は右方向へ付勢され,かつ平坦部14Cの左下端が可動体12の突起部12Bに弾接することにより,前記可動体12は右方向に移動した状態で静止されること。」

(引用例4)
原査定の拒絶の理由で引用された特開2007-159127号公報(以下「引用例4」という。)の段落【0060】,【0072】-【0077】,図16-図21等には,以下の事項が記載されている。

「携帯端末機用スライド開閉装置において,第1プレート120と,該第1プレートとスライド可能に結合されカムプロファイルを設けた第2プレート140と,前記第1プレート120に固定されたスライドハウジング160と,前記スライドハウジングに支持された圧縮バネ190により付勢され,前記カムプロファイルに接触して回転するローラ180を備え,前記カムプロファイルにはフリーストップ区間148が設けられ,前記第1プレート120に対して前記第2プレート140をスライドさせる際,前記フリーストップ区間148では,前記ローラ180が前記圧縮バネ190の弾性力により前記カムプロファイルに付勢されることで,スライドを停止させること。」

(引用例5)
前置報告で引用された国際公開第2007/119127号(以下「引用例5」という。)の18頁8行-28行等において,以下の事項が記載されている。

「弾性手段による付勢力により,互いにスライド移動する第1筐体と第2筐体を,収縮位置と伸長位置を含む任意の位置で静止させること。」

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a 引用発明の「スライダー520」と本願発明の「移動プレート」は,「回転移動可能とされた」点で共通する。
b 引用発明の「ガイド部510」と本願発明の「スライドプレート」は,「前記移動プレート(スライダー)に対してスライド可能とされ」る点で共通する。
さらに,引用発明の「カバー部200」及び「本体部100」と、本願発明の「第1筐体」及び「第2筐体」は、それぞれ機能、構成に相違する点はあるもののいずれも一対の「筐体」である点で共通し、それぞれの前者を「一方の筐体」,後者を「他方の筐体」と称することは任意である。
そうすると,引用発明の「ガイド部510」と本願発明の「スライドプレート」は,「他方の筐体に固定される」点でも共通する。
c 引用発明の「カバー部200の軸542」は,これを中心に「リンク530」が回転するから「軸承部」といえる。そうすると,引用発明の「リンク530」と本願発明の「アーム」は,「軸承部と前記移動プレート(スライダー)との間に複数配設される同一長さを有する」点で共通する。
d 引用発明の「前記スライダー520に対して前記ガイド部510をスライドさせるための機構」は,本願発明の「前記移動プレートに対して前記スライドプレートをスライドさせるスライド機構」に相当する。
e 前記cより,引用発明の「前記スライダー520の片側において,前記リンク530が設けられるとともに前記軸542が設けられ,前記リンク530の他端は前記軸542に結合され,また一端は前記スライダー520の軸521に結合され」と,本願発明の「前記移動プレートの片側において,前記アームは2本設けられると共に前記軸承部は2個設けられ,各アームの一端は前記軸承部にそれぞれ軸承され,また他端は前記移動プレートにそれぞれ軸承されており」は,「アーム」の本数,「軸承部」の個数は別として,「前記移動プレートの片側において,前記アームが設けられると共に前記軸承部が設けられ,アームの一端は前記軸承部にそれぞれ軸承され,また他端は前記移動プレートにそれぞれ軸承されており」で共通する。
f 引用発明の「前記スライダー520に対して前記ガイド部510をスライドし」は,前記dの前記「機構」によることが明らかであるから,本願発明の「前記スライド機構により前記スライドプレートが前記移動プレートに対してスライドし」に相当する。
引用発明の「前記リンク530の回転に伴い前記スライダー520が前記カバー部200に対して回転することにより」は,本願発明の「前記アームの回転に伴い前記移動プレートが前記固定フレームに対して回転することにより」に相当する。
引用発明の「前記本体部100が前記カバー部200と重なる位置」と本願発明の「前記第2筐体が前記第1筐体と重なる閉位置」は、前記bより,「前記他方の筐体が一方の筐体と重なる閉位置」である点で共通する。
また、前記bより,引用発明の「前記本体部100が前記カバー部200と一部重なるもののフラット状態となる位置」と本願発明の「前記第2筐体が前記第1筐体とフラット状態となり,前記両筐体に重なる部分がない開位置」は,「前記他方の筐体が前記一方の筐体とフラット状態となる開位置」である点で共通する。
そして,引用発明と本願発明は前記「閉位置」と「開位置」「との間で移動する構成」である点で共通する。
g そうすると,引用発明の「スライドモジュール」は,本願発明の「開閉装置」に含まれるといえる。

前記aないしgを総合すると,本願発明と引用発明とは,以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「回転移動可能とされた移動プレートと,
前記移動プレートに対してスライド可能とされ,他方の筐体に固定されるスライドプレートと,
軸承部と前記移動プレートとの間に複数配設される同一長さを有するアームと,
前記移動プレートに対して前記スライドプレートをスライドさせるスライド機構とを有し,
前記移動プレートの片側において,前記アームが設けられると共に前記軸承部が設けられ,アームの一端は前記軸承部に軸承され,また他端は前記移動プレートに軸承されており,
前記スライド機構により前記スライドプレートが前記移動プレートに対してスライドし,前記アームの回転に伴い前記移動プレートが前記固定フレームに対して回転することにより,前記他方の筐体が一方の筐体と重なる閉位置から,前記他方の筐体が前記一方の筐体とフラット状態となる開位置との間で移動する構成を設けた
開閉装置。」

(相違点1)
本願発明では,「第1筐体に固定される固定フレーム」を設けているのに対し,引用発明では,「固定フレーム」を設けていない点。
これに伴い,「軸承部」について,本願発明では前記「固定フレーム」に設けられているのに対し,引用発明では「カバー部200」(第1筐体)に直接設けられている点。

(相違点2)
「前記移動プレートの片側において」設けられる「アーム」が,本願発明では,「2本」であるのに対し,引用発明では「1本」である点。
これに伴い,本願発明では,移動プレートの片側に前記軸承部が2個設けられ,「各アームの一端は前記軸承部にそれぞれ軸承され,また他端は前記移動プレートにそれぞれ軸承されて」いるのに対し,引用発明では,前記片側に1本のリンク530に対応して軸542が1個設けられている点。

(相違点3)
「開位置」について,本願発明では,「前記両筐体に重なる部分がない」位置であるのに対し,引用発明では,「カバー部200と本体部100とが一部重なる」位置である点。

(相違点4)
本願発明では,「前記移動プレートと前記スライドプレートとの間に弾性手段を設け,前記移動プレートに対して前記スライドプレートをスライドさせる際,前記弾性手段により前記移動プレートと前記スライドプレートとの間に,前記移動プレートに対して前記スライドプレートを任意位置で係止させることが可能な負荷が印加され」,「前記弾性手段は,ローラと前記ローラを前記スライドプレートに圧接させるばねとを有し,前記移動プレートに固定されてなる」のに対し,引用発明では,「弾性手段」について記載がない点。

(3)判断
上記相違点3について検討する。
本願発明は,相違点3に係る構成により,明細書に記載された「第1筐体2の上面2aの全面,及び第2筐体3の上面3aの全面を電子機器1の構成部品の設置位置として使用することができる」(段落【0022】)という効果を奏するものである。
一方,引用例1には,引用発明に対応する第3実施形態について,リンク530が所定回転角度以上回転すること防止するために,本体部100に第1回転防止部140が形成され,カバー部200に第2回転防止部250が形成されており(段落【0112】,図11A-図11C),前記本体部100とカバー部200とは,必然的に一部が重なるものといえる。
そうすると,引用発明において,前記本体部100とカバー部200とが重ならない位置に移動させることは,引用発明のスライドモジュールの構成からみて,容易に導出することはできないものといえる。
また,前記相違点3に係る構成は,前記引用例2ないし5に記載も示唆もされていない。
よって,前記相違点3に係る構成は,引用発明並びに引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到できたとはいえない。

(4)小括
したがって,本願発明は,前記相違点1,2及び4について検討するまでもなく,当業者が引用発明並びに引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また,本願の請求項2,3に係る発明は,本願発明をさらに限定したものであるので,同様に,当業者が引用発明と引用例2ないし5に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は,以下のとおりである。

「1.(サポート要件)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



1.理由1(サポート要件)について
発明の詳細な説明には,「開いた状態において必然的に第1筐体と第2筐体で重なる部分が発生し,スペースの有効利用ができないという問題点がある」(段落0004)との記載があり,この問題点を解決するために,実施の形態では,第1筐体と第2筐体が開いた状態(開位置)では両筐体に重なる部分がないようにしたもの(図7(D)等)が記載されている。
しかしながら,請求項1の記載では,「前記第2筐体が前記第1筐体とフラット状態となる開位置」が,第1の筐体と第2の筐体がフラットではあるが一部重なる位置を含み得る記載となっており,第1筐体及び第2筐体はフラット状態となり,かつ,両筐体に重なる部分がない位置であることが特定されていないため,請求項1には,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されておらず,請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。

よって,請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2,3に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。

2.理由2(明確性)について
請求項1の「前記軸承部と前記移動プレートとの間に複数配設される同一長さを有するアーム」の記載について,以下の各点で不明瞭である。
(1)「複数配設される」は,「複数」の「アーム」が「移動プレート」にどのように配設されているのかが不明瞭である。実施の形態では,移動プレートの片側に第1及び第2(複数)のアームが配設されている一方,請求項1の記載では,移動プレートの両側に1個ずつ配置したものを含んでいる。

(2)前記記載では,共通の軸承部に複数のアームが軸承されているのか,複数のアーム毎に軸承部を有するのか(請求項2に記載の事項)が不明瞭である。

よって,請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2,3に係る発明は,明確でない。」

2 当審拒絶理由の判断
(1)理由1(サポート要件)について
平成28年3月15日付け手続補正により,請求項1の「開位置」について「前記両筐体に重なる部分がない」点が特定されたことで,「開いた状態において必然的に第1筐体と第2筐体で重なる部分が発生し,スペースの有効利用ができないという問題点」(段落0004)を解決するための手段が反映され,請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
よって,当審拒絶理由の理由1は解消した。

(2)理由2(明確性)について
前記手続補正により,請求項1の「アーム」について,「前記移動プレートの片側において,前記アームは2本設けられると共に前記軸承部は2個設けられ,各アームの一端は前記軸承部にそれぞれ軸承され,また他端は前記移動プレートにそれぞれ軸承されており,」と特定されたことで,請求項1に係る発明は明確となった。
よって,当審拒絶理由の理由2は解消した。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-04-27 
出願番号 特願2010-167444(P2010-167444)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H04M)
P 1 8・ 121- WY (H04M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 永田 義仁町井 義亮  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
坂本 聡生
発明の名称 開閉装置  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ