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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1313984
審判番号 不服2015-1759  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-29 
確定日 2016-04-28 
事件の表示 特願2010-289046「偏光板用離型ポリエステルフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月19日出願公開、特開2012-137567〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成22年12月27日の出願であって、平成26年3月19日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月11日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月7日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月28日に意見書が提出されたが、同年12月17日付けで拒絶査定がなされたところ、平成27年1月29日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願の原査定の拒絶の理由の概要
(1)平成26年10月7日付けで通知された拒絶の理由1は以下のとおりである。
1.(明確性要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

●理由 1について
(1)請求項 1
補正後の請求項1では、「離型層の粘着テープNo.31Bによる剥離力」、「粘着テープNo.31Bテープによるシリコーン系成分の移行性評価接着率」と規定しているが、当該「粘着テープNo.31B」は、一般名称や学術用語ではないから、同項の記載だけでは発明を特定できない。
そこで、本願明細書の内容を参照すると、当該「粘着テープNo.31B」は、日東電工株式会社製の粘着テープの商品名であるものと認められる。
しかし、日東電工株式会社の粘着テープのデータシート(下記参考文献)を参照すると、「粘着テープNo.31B」には、引き剥がし粘着力が異なる2種類のテープが存在している。
本願の明細書には、当該「粘着テープNo.31B」の引き剥がし粘着力が異なる2種類のテープのうち、どちらを使用したのかが記載されていないから、補正後の請求項1の記載では、発明を明確に特定することができない。
(適宜、特許・実用新案 審査基準第I部第1章2.2.2.3(2)○5(注)参照)
(2)請求項 1
補正後の請求項1では、「剥離力(明細書中に記載の方法による)が15mN/cm以下」、「シリコーン系成分の移行性評価接着率(明細書中に記載の方法による)が90%以上」と規定しているが、本願の明細書のどこに記載されたどのような方法なのかが特定できないから、補正後の請求項1の記載では発明を明確に特定することができない。
(適宜、特許・実用新案 審査基準第I部第1章2.2.2.3(5)○6参照)
引 用 文 献 等 一 覧
1.「電気絶縁用ポリエステル基材粘着テープ No.31シリーズ」, 日東電工株式会社, Product Data Sheet NO.31B, [online], [平成26年10月7日検索], インターネット<URL : http://www.nitto.com/jp/ja/others/products/group/file/datasheet/NJ_NO.31series_JA.pdf> (参考文献)


(2)平成26年12月17日付け拒絶査定の内容は以下のとおりである。
この出願については、平成26年10月 7日付け拒絶理由通知書に記載した理由1(第36条)によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
・理由 1(第36条第6項)について
(1)請求項 1
先の拒絶理由通知における「補正後の請求項1では、『離型層の粘着テープNo.31Bによる剥離力』、『粘着テープNo.31Bテープによるシリコーン系成分の移行性評価接着率』と規定しているが、当該『粘着テープNo.31B』は、一般名称や学術用語ではないから、同項の記載だけでは発明を特定できない。そこで、本願明細書の内容を参照すると、当該『粘着テープNo.31B』は、日東電工株式会社製の粘着テープの商品名であるものと認められる。しかし、日東電工株式会社の粘着テープのデータシート(下記参考文献)を参照するに、『粘着テープNo.31B』には、引き剥がし粘着力が異なる2種類のテープが存在している。本願の明細書には、当該『粘着テープNo.31B』の引き剥がし粘着力が異なる2種類のテープのうち、どちらを使用したのかが記載されていないから、補正後の請求項1の記載では、発明を明確に特定することができない。(適宜、特許・実用新案 審査基準第I部第1章2.2.2.3(2)○5(注)参照)」という指摘に対し、平成26年10月28日付け意見書において、「剥離力の測定は、当業界においては、本願当初明細書に記載の方法が一般的であり、例えば、下記の特許公報に本願発明と同様の記載があります。」と主張されている。しかし、測定方法として一般的であったとしても、発明を明確に特定できるものであるとはいえない。
また、同日付け意見書において、「剥離力は、粘着層表面と離型層表面とが接する界面での剥離現象に基づくものであり、両者を構成する組成に依存するところが大きく、粘着層の厚みの寄与はないことを付言いたします。」と主張されているが、問題視しているのは「引き剥がし粘着力」の違いであって、「粘着層の厚み」ではない。
日東電工株式会社製粘着テープNo.31Bには、「引き剥がし粘着力」が異なる2種類のテープがあり、「引き剥がし粘着力」が異なっているのであるから、2種類のテープを比較した際に、剥離力が全く同一の値になるとは考え難い。してみると、どちらのテープを採用したかによって、請求項1に係る発明に該当したり、該当しなかったりすることが起こりうるのであるから、同項の記載では、発明を明確に特定することはできない。
(2)請求項 1
先の拒絶理由通知における「補正後の請求項1では、「剥離力(明細書中に記載の方法による)が15mN/cm以下」、「シリコーン系成分の移行性評価接着率(明細書中に記載の方法による)が90%以上」と規定しているが、本願の明細書のどこに記載されたどのような方法なのかが特定できないから、補正後の請求項1の記載では発明を明確に特定することができない。(適宜、特許・実用新案 審査基準第I部第1章2.2.2.3(5)○6参照)」という指摘に対しては、意見書での釈明がなく、補正もなされていないから、拒絶の理由は解消しない。
引 用 文 献 等 一 覧
1.「電気絶縁用ポリエステル基材粘着テープ No.31シリーズ」, 日東電工株式会社, Product Data Sheet NO.31B, [online], [平成26年10月7日検索], インターネット<URL : http://www.nitto.com/jp/ja/others/products/group/file/datasheet/NJ_NO.31series_JA.pdf>(先の拒絶理由通知書の参考文献)

3 本願の特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲には請求項1が記載されているところ、その請求項1の記載は、
「ポリビニルアルコールを含有する塗布液をポリエステルフィルムの片面に塗布して得られた塗布層を有し、当該塗布層上に、25℃における粘度が150?250mPa・sである無溶剤系付加反応硬化型シリコーンを含有する塗布剤を塗布して設けられた離型層を有する離型フィルムであり、当該離型層中の無溶剤系付加反応硬化型シリコーンの含有量が0.5?5.0重量部であり、離型層の粘着テープNo.31Bによる剥離力(明細書中に記載の方法による)が15mN/cm以下であり、かつ、粘着テープNo.31Bテープによるシリコーン系成分の移行性評価接着率(明細書中に記載の方法による)が90%以上であり、離型フィルムのMOR値が1.5?3.0であることを特徴とする偏光板用離型ポリエステルフィルム。」(以下、「本願発明」という。)である。

4 本願の発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には次の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【0063】
本発明における、剥離力とは、両面粘着テープ(日東電工製「No.31B」)を離型層面に貼り付け、室温にて1時間放置した後に、基材フィルムと剥離角度180°、任意の引張速度でテープを剥離したときに引張試験機で測定した値を言う。本発明において特定の剥離力を調整する方法は、離型層中の組成を選択することにより達成することができるが、その他の手段も採用でき、主にシリコーン離型層の離型剤の種類を、所望の剥離力に応じて変更することが好ましく、さらには、剥離力は用いる離型剤の塗布量に大きく依存するため、その離型剤の塗布量を調整する方法がさらに好ましい。本発明の離型フィルムにおける剥離力は10?15mN/cmの範囲である。当該剥離力が10mN/cm未満の場合、剥離力が軽くなりすぎて本来剥離する必要がない場面においても容易に剥離する不具合を生じる。本発明におけるポリエステルフィルムにおける上記剥離力を達成させる手段は、25℃における粘度が5?1000mPa・sである無溶剤系付加反応硬化型シリコーンを一定量配合したシリコーンを塗布膜として、ポリエステルフィルムの外層に積層することである。
【0064】
本発明における離型層のシリコーン系成分の移行性評価接着率とは、フィルムで挟んで温度60℃、圧力1MPaの条件で2時間プレスしたときの、粘着テープ(日東電工(株)製「No.31B」)を用いた剥離力を測定し、処理前との剥離力の比を取った値で示される。剥離力は(株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」を使用し、引張速度0.3(m/分)の条件下、180°剥離を行った。当該移行性評価接着率は、90%以上である必要がある。移行性評価接着率が90%よりも低い場合、移行成分が異物等の不具合となったり、巻き取り時に離型コート面と反対面へ移行して、先の工程で当該離型フィルムを剥離する際に不具合を生じたりする。」

(2)「【0077】
(8)離型フィルムの剥離力(F)の評価
試料フィルムの離型層表面に両面粘着テープ(日東電工製「No.31B」)の片面を貼り付けた後、50mm×300mmのサイズにカットした後、室温にて1時間放置後の剥離力を測定する。剥離力は、引張試験機((株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」)を使用し、引張速度300mm/分で、180°剥離を行った。次のような基準で判断する。
○:15mN/cm以下
×:15mN/cmより大きい

・・・略・・・

【0079】
(10)離型フィルムのシリコーン低分子成分移行性の評価
試料フィルムをA4大に切り取り、離型面に75μm厚2軸延伸PETフィルム(三菱樹脂株式会社製:ダイアホイルT100-75)を重ねて温度60℃、圧力1MPaの条件で2時間プレスする。この離型面に押し当てた75μm厚フィルムを移行性評価フィルムとする。未処理のPETフィルムにも同様にして75μm厚2軸延伸PETフィルム(同)を押し当て、基準フィルムとする。それぞれのフィルムの押し当てた面に粘着テープ(日東電工(株)製「No.31B」)を貼り付けた後、50mm×300mmのサイズにカットし、室温にて1時間放置後の剥離力を測定した。剥離力は(株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」を使用し、引張速度0.3(m/分)の条件下、180°剥離を行った。
移行性評価接着率(%)=(移行性評価フィルムの剥離力/基準フィルムの剥離力)×100
得られた結果を次の基準で判断する。
○:90%以上
×:90%より小さい」

(3)「【0090】
実施例1:
〈ポリエステルフィルムの製造〉
表層の原料としてポリエステル(a)77重量%と、ポリエステル(b)23重量%を混合し、中間層の原料として、ポリエステル(a)を使用し、2台のベント付き押出機に各々供給し、290℃で溶融押出した後、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して未延伸シートを得た。次いで、100℃にて縦方向に2.8倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、次に下記塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.03g/m^(2)になるように塗布した後、テンターに導き、テンター内で予熱工程を経て120℃で5.1倍の横延伸を施した後、220℃で10秒間の熱処理を行い、その後180℃で幅方向に4%の弛緩を加え、幅4000mmのマスターロールを得た。このマスターロールの端から1400mmの位置よりスリットを行い、コアに1000m巻き取りし、ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの全厚みは38μm(層構成:表層4μm/中間層30μm/表層4μm)であった。
【0091】
なお、塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
(化合物例)
・ケン化度88モル%、重合度350のポリビニルアルコールバインダーポリマー:A
・メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリロニトリル/N-メチロールメタアクリルアミド=45/45/5/5(モル比)の乳化重合体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)バインダーポリマー:B
・架橋剤 ヘキサメトキシメラミン架橋剤:C
・粒子 コロイダルシリカ(平均粒径:70nm):D
固形分配合比:A/B/C/D=30/24/42/4
【0092】
得られたポリエステルフィルムに、下記に示す離型剤組成-Aからなる離型剤を塗布量(乾燥後)が0.12g/m^(2)になるようにリバースグラビアコート方式により塗布し、ドライヤー温度120℃、ライン速度30m/分の条件でロール状の離型ポリエステルフィルムを得た。得られた離型ポリエステルフィルムは、剥離力が12mN/cm離型フィルムで、シリコーン系成分の移行性評価接着率が95%、耐空気暴露性試験で空気暴露1日後の剥離力が13mN/cm以下、空気暴露前後の剥離力変動比は8%、さらに、MOR_C値は2.3で、OL量が0.82mg/m^(2)であった。
【0093】
<離型剤組成-A>
付加型硬化シリコーン樹脂(BY24-561 30%:東レ・ダウコーニング社製)6.7部
無溶剤系付加型硬化シリコーン樹脂(DEHEISIVE 929 固形分濃度100重量%:旭化成ワッカーシリコーン社製) 1.0部
硬化剤(V24 固形分濃度100重量%:旭化成ワッカーシリコーン社製)
0.08部
付加型白金触媒(BY24-835 固形分濃度100重量%:東レ・ダウコーニング社製) 0.30部
MEK/トルエン/n-ヘプタン混合溶媒(混合比率は1:1:1.5)
【0094】
得られたポリエステルフィルムは、下記方法で偏向板を作成し、クロスニコル下での目視検査性と剥離特性の評価を行った。得られた離型フィルムは光干渉性無く検査可能であり、かつ、偏光板綺麗に剥がれ、粘着剤が離型層に付着する現象が見られなかった。」

(4)「【0098】
【表1】



5 参考文献の記載
(1)原査定で提示した参考文献「電気絶縁用ポリエステル基材粘着テープ No.31シリーズ」には次の記載がある。




(2)上記(1)の「特性」の欄の「表1 一般特性」の記載からみて、ポリエステル粘着テープNO.31Bには、基材の厚さ、引き剥がし粘着力、引張強さ、伸び及び破壊電圧が相互に異なる2種類の仕様が存在することが明らかである。そして、引き剥がし粘着力に着目すると、「5.5N/19mm」の粘着テープNO.31B(以下「NO.31B-1テープ」という。)と、「7.0N/19mm」の粘着テープNO.31B(以下「NO.31B-2テープ」という。)との2種類が存在するといえる。

6 特許・実用新案審査基準(但し、平成27年9月に改訂される前の審査基準。)の第I部第1章2.2.2.3の記載
(1)「(2) 発明を特定するための事項に技術的な不備がある結果、発明が不明確となる場合。
・・・略・・・
○5(丸囲いの数字をこのように表記した。以下同様。) 請求項に販売地域、販売元等についての記載がある結果、全体として技術的でない事項が記載されていることとなる場合。
(注)商標名を用いて物を特定しようとする記載を含む請求項については、少なくとも出願日以前から出願当時にかけて、その商標名で特定される物が特定の品質、組成、構造などを有する物であったことが当業者にとって明瞭でないときは、発明が不明確になることに注意する。」

(2)「(5)範囲を曖昧にする表現がある結果、発明の範囲が不明確な場合。
・・・略・・・
○6 請求項の記載が、発明の詳細な説明又は図面の記載で代用されている結果、発明の範囲が不明確となる場合。
例1 :「図1に示す自動掘削機構」等の代用記載を含む請求項
(一般的に、図面は多義的に解され曖昧な意味を持つものであることから、適切でない。)
例2:引用箇所が不明な代用記載
次の例のように、発明の詳細な説明又は図面の記載を代用しても発明が明確になる場合もあることに留意する。
例:合金に関する発明において、合金成分組成の相互間に特定の関係があり、その関係が、数値又は文章によるのと同等程度に、図面の引用により明確に表せる場合。
「図1に示す点A()、点B()、点C()、点D()で囲まれる範囲内のFe・Cr・Al 及びx%以下の不純物よりなるFe・Cr・Al 耐熱電熱用合金。」」

7 請求人の主張について
(1)平成26年10月28日の意見書において請求人が主張する内容は概略以下のとおりである。
「剥離力の測定は、当業界においては、本願当初明細書に記載の方法が一般的であり、例えば、下記の特許公報に本願発明と同様の記載があります。
・特許第5554120
【0086】
〔試験例4〕(剥離力評価)
実施例および比較例で得られた剥離フィルムの剥離剤層表面に、基材がポリエステルからなる粘着テープ(日東電工社製,31Bテープ)を貼り合せた。23℃、50%R.H.の条件下で24時間養生した後、長さ150mm、幅20mmに裁断し、引っ張り試験機を用いて180°の角度で0.3m/分の速度で剥離フィルム側を剥離し、剥離するに必要な力(剥離力;mN/20mm)を測定した。結果を表1に示す。なお、本実施形態におけるセラミックグリーンシート用の剥離フィルムとして好ましい剥離力は、30?1500mN/20mmの範囲内である。
・特許第5541937
【0052】
(4)表面層の剥離強度
離型ポリエステルフィルムの表面層側の表面に、アクリル系粘着テープ(日東電工株式会社製、NO.31B)をゴムロールで貼合せ、5kgの圧着ローラーで圧着し1時間放置後、表面保護フィルムの粘着剤層側に積層されている離型フィルムを剥離除去して粘着剤面をアルミ支持板に両面テープで固定し、該アクリル系粘着テープを180°に折り返し、引張試験機にて剥離強度を測定した。なお、剥離強度の好ましい範囲は5N/25mm以上である。剥離強度が5N/25mm未満であると表面保護フィルムを剥離する粘着テープの貼り付きが悪く、表面保護フィルムを剥離できないといった不具合を生じるため好ましくない。
・特許第5514066
【0067】
(2)常態剥離力
50mm幅のアクリル系粘着テープNo.31B(日東電工社製)を離型材の剥離剤層表面にハンドローラーを用いて貼り合わせ、23℃で24時間保存した後、引っ張り試験機にてテープを180°方向に0.3m/minの速さで引っ張り、23℃雰囲気下で剥離力を測定した。
剥離力は、粘着層表面と離型層表面とが接する界面での剥離現象に基づくものであり、両者を構成する組成に依存するところが大きく、粘着層の厚みの寄与はないことを付言いたします。」

(2)審判請求書において請求人が主張する請求の理由は概略以下のとおりである。
「(b)拒絶理由について
「粘着テープNo.31B」を使用した測定方法は、無数にあり、例えば、本願発明に近い分野においては、下記の特許が成立しております。いずれの特許にも、2種類のNo.31Bのいずれかを使用したのか記載されていません。つまり、これらの特許に記載の測定方法にとっては、いずれを使用しても同じ結果が得られるということを暗に意味していると思量いたします。
特許第5550001、特許第5522200、特許第5083444、特許第5281554、特許第5441583、特許第4782046、特許第5050473、特許第4941909、特許第4707531、特許第4190336、特許第4093542、特許第3714901
拒絶査定において非特許文献として引用された資料には、2種類の厚みの異なるNo.31Bが記載されており、引き剥がし粘着力が異なっていますが、当該粘着力は、SUSとの粘着力であるとのことです(No.31Bの製造メーカーの日東電工社殿に確認済みです)。
すなわち、本願発明の剥離力の対象となる離型層とSUSとは全く異なる性状のものであって、離型層は、粘着テープから剥がれやすいものであり、一方、SUSは粘着テープとしっかり粘着するものでありますので、本願発明の測定方法において、いずれのNo.31Bを使用しても、その測定値に差は生じません(追試するにはかなりの時間を要しますが、必要であれば、両者の測定値のデータを提出する準備があることを付言いたします)。
また、本願特許請求の範囲に記載の「明細書に記載の方法による」とは、本願当初明細書の0063、0064、より具体的には、段落番号0077および0079に記載の方法によるものであります。
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであると思量いたします。」

8 当審の判断
(1)本願発明を再掲すると、本願発明が「ポリビニルアルコールを含有する塗布液をポリエステルフィルムの片面に塗布して得られた塗布層を有し、当該塗布層上に、25℃における粘度が150?250mPa・sである無溶剤系付加反応硬化型シリコーンを含有する塗布剤を塗布して設けられた離型層を有する離型フィルムであり、当該離型層中の無溶剤系付加反応硬化型シリコーンの含有量が0.5?5.0重量部であり、離型層の粘着テープNo.31Bによる剥離力(明細書中に記載の方法による)が15mN/cm以下であり、かつ、粘着テープNo.31Bテープによるシリコーン系成分の移行性評価接着率(明細書中に記載の方法による)が90%以上であり、離型フィルムのMOR値が1.5?3.0であることを特徴とする偏光板用離型ポリエステルフィルム。」のように特定され、この特定のとおり、「離型層の粘着テープNo.31Bによる剥離力」(以下単に「剥離力」という。)は「明細書中に記載の方法による」とされ、「粘着テープNo.31Bテープによるシリコーン系成分の移行性評価接着率」(以下単に「接着率」という。)は「明細書中に記載の方法による」とされている。

(2)本願発明の剥離力及び接着率の算出のために用いられる「粘着テープNo.31B」には、審判請求人も認めているとおり(上記7(2))、NO.31B-1テープとNO.31B-2テープの2種類が存在する(上記5(2))ところ、「粘着テープNO.31B」の記載のみで特定されるテープが特定の粘着力を有するものであるとはいえない(上記6(1)も参照。)。そして、NO.31B-1テープとNO.31B-2テープのうち、いずれのテープを用いて測定するかによって、得られる本願発明の剥離力及び接着率の値が変化すると考えられるから、本願発明の「粘着テープNo.31Bによる剥離力」及び「粘着テープNo.31Bテープによるシリコーン系成分の移行性評価接着率」とする記載では、剥離力及び接着力は特定できないものと認められる。
したがって、本願発明で規定された、離型層の粘着テープNo.31Bによる剥離力が15mN/cm以下であること、かつ、粘着テープNo.31Bテープによるシリコーン系成分の移行性評価接着率が90%以上であることは、当業者にとって明りょうであるとはいえず、発明の範囲が明確でない。

(3)本願明細書の【0098】【表1】(上記4(4))に記載されているとおり、本願の実施例1ないし8の離型フィルムの剥離力及び接着率として、それぞれ固有の結果(剥離力については11?13mN/cm、接着率については91?98%)が得られており、「引き剥がし粘着力」が異なる2種類のNO.31B-1テープとNO.31B-2テープを用いて得られた剥離力が全く同一の値になるとは認められないから、前記結果を得るために、粘着力の異なるNO.31B-1テープとNO.31B-2テープの双方を用いていないことは自明であり、いずれか一方のテープを採用したものと認められるから、本願明細書の記載を参酌しても、本願発明の剥離力及び接着率は、NO.31B-1テープとNO.31B-2テープのうち、いずれを使用して測定されたものか特定できない。

(4)さらに、本願発明の剥離力は、「明細書中に記載の方法」により得られるものであるが、本願の発明の詳細な説明には、剥離力の測定方法として、【0063】に「剥離力とは、両面粘着テープ(日東電工製「No.31B」)を離型層面に貼り付け、室温にて1時間放置した後に、基材フィルムと剥離角度180°、任意の引張速度でテープを剥離したときに引張試験機で測定した値を言う。」(上記4(1))(以下「第1の方法」という。)と、【0077】に「(8)離型フィルムの剥離力(F)の評価 試料フィルムの離型層表面に両面粘着テープ(日東電工製「No.31B」)の片面を貼り付けた後、50mm×300mmのサイズにカットした後、室温にて1時間放置後の剥離力を測定する。剥離力は、引張試験機((株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」)を使用し、引張速度300mm/分で、180°剥離を行った。」(上記4(2))(以下「第2の方法」という。)と、それぞれ記載されており、第1の方法と第2の方法とを比較すると、「フィルムをカットしたサイズ」、「引張試験器」及び「引張速度」について、第1の方法では明示がなく任意であると解されるのに対し、第2の方法ではそれぞれ「50mm×300mm」、「インテスコモデル2001型」及び「300mm/分」である点で相違している。

(5)上記(4)のように、剥離力を得るための方法として、第1の方法と第2の方法とは、相互に異なる方法として把握できるものであるから、「明細書中に記載の方法」が、第1の方法と第2の方法のうち、いずれの方法を指すのか特定できず多義的に解されるから、発明の範囲が明確でない。
仮に、審判請求人が主張するように(上記7(2))、第1の方法を具体的にしたものが第2の方法であり、第1の方法と第2の方法が実質的に同じであるとしても、「明細書中に記載の方法」の意図する範囲が、抽象的な第1の方法の範囲であるのか、それとも、具体的な第2の方法の範囲であるのかは特定することができないから、本願発明の「明細書中に記載の方法」の記載は不明りょうといわざるを得ない。

(6)また、本願発明の接着率も、剥離力と同様に、「明細書中に記載の方法」により得られるものであるが、上記4(1)及び(2)のとおり、剥離力の測定方法を前提とした方法により得られるものであり、上記(4)及び(5)で示したように、「明細書中に記載の方法」により得られる剥離力が不明であるから、「明細書中に記載の方法」により得られる剥離力も不明であるといえる。

(7)上記(1)ないし(6)のとおり、本願発明は、本願の発明の詳細な説明の記載や技術常識等を参酌しても当業者が明確に理解することができるとはいえないから、本願発明を明確であるということはできない。

(8)なお、審判請求人は、審判請求書で、NO.31B-1テープとNO.31B-2テープのうち、いずれのテープを使用しても剥離力の測定値に差が生じないと主張し、両者の測定値のデータを提出する準備があることを付言している(審判請求書3頁4?9行(上記7(2)))。
しかしながら、粘着力の異なるいずれのテープを使用しても剥離力の測定値に全く差がないということは技術常識からは考えられない。また、両測定値のデータの新たな提出については、平成26年10月28日の意見書提出時及び審判請求時の2回の提出機会があったにもかかわらず、提出されていない。

9 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-26 
結審通知日 2016-03-01 
審決日 2016-03-14 
出願番号 特願2010-289046(P2010-289046)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹村 真一郎加藤 昌伸  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 清水 康司
鉄 豊郎
発明の名称 偏光板用離型ポリエステルフィルム  

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