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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1313990
審判番号 不服2015-5414  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-23 
確定日 2016-04-28 
事件の表示 特願2010- 83641「電池タブの製造方法と電池タブ及びそれを備えるフープ材」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月27日出願公開、特開2011-216343〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年3月31日の出願であって、平成25年12月19日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月25日に意見書及び手続補正書が提出され、更に、同年9月25日付けで2回目の拒絶理由が通知され、同年12月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、上記2回目の拒絶理由によって、同年12月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年3月23日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、更に、同年7月15日に上申書が提出されたものである。

第2 本願発明
平成27年3月23日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」は適法になされたものであるから、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
先端部が外部に突出するように電池外装体に挟持され、前記挟持部分がヒートシールされる電池タブが直列に複数連結されて長尺帯状であり、隣接する前記電池タブを切断線に沿って切断し切り離す金属部材であって、
前記電池タブの表面は化成処理層により被覆されるコーティング領域と、
前記化成処理層により被覆されない非コーティング領域と、を有し、
前記コーティング領域が、前記金属部材の片側端面から所定幅で帯状に形成されていることを特徴とする金属部材。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由1は、本願の請求項1及び2に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願2010-43780号(以下、「先願」という。特開2011-181300号公報参照。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないというものである。

第4 先願明細書等の記載事項
1 先願明細書等には、「非水電解質蓄電デバイス用のリード部材及びその製造方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。

(1a) 「【0010】
本発明による非水電解質蓄電デバイス用リード部材の製造方法は、帯状のアルミニウム導体の一方の側縁を所定の幅で、片側又は両面に導電性メッキを施した後、アルミニウム導体の幅方向の中央部分に耐腐食用の表面処理層を形成し、次いで、アルミニウム導体を所定の横幅寸法でカットしてメッキおよび表面処理層が形成されたリード導体の個片を作製し、この後、表面処理層が形成された部分に絶縁樹脂フィルムをリード導体の両面から貼り合わせることを特徴とする。」(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)

(1b) 「【発明を実施するための形態】
【0013】
図1により本発明によるリード部材が用いられる非水電解質蓄電デバイスの概略を説明する。図1(A)は、非水電解質電池の外観を示す図、図1(B)は正極側のリード部材の封着状態を示す図である。図中、1は非水電解質電池、2は封入体、2aは最内層フィルム、2bは金属箔層、2cは最外層フィルム、3は正極側のリード部材、4は負極側のリード部材、5は絶縁樹脂フィルム、6はシール部、7はメッキ層、8は表面処理層、9は電極板リードを示す。
・・・(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)
【0015】
非水電解質電池1は、正極板と負極板をセパレータを介して積層した積層電極群と電解液を、金属箔を含む多層フィルムからなる封入体2に収納し、図1(A)に示すように、正極板に接続したリード部材3、負極板に接続したリード部材4を、絶縁樹脂フィルム5を介して封入体2のシール部6から密封封止した状態で取り出して構成される。封入体2の多層フィルムは、後述するように、少なくとも金属箔の両面に樹脂フィルムを貼り合わせて形成される。
【0016】
封入体2は、非水電解質電池1の外装ケースとなるもので、例えば、矩形状の2枚の多層フィルム周辺のシール部6を、熱溶着によりシールすることにより密封される。リード部材3,4は、絶縁樹脂フィルム5が予め熱溶着により接合されている。この絶縁樹脂フィルム5と封入体2の多層フィルムとが熱融着されてリード部材3,4と多層フィルムとが密封される。
・・・
【0021】
上記のアルミニウムからなるリード部材3は、図2に示すように、上述したように平形のリード導体の中央部に、導体横幅の両側から張り出すように導体両面から絶縁樹脂フィルム5を貼り合わせて構成される。そして、このリード導体は、絶縁樹脂フィルム5の上方側に露出する導体部分3a、絶縁樹脂フィルム5で被覆される部分3b、絶縁樹脂フィルム5の下方側に露出する導体部分3cの、3つの領域を有している。上方の導体部分3aは、外部装置との電気接続を行うための端子となる部分であり、下方の導体部分3cは、非水電解質電池内の電極板リードに接続され、かつ、電解液に浸される部分である。中間の被覆される部分3bは、リード導体が密封封止される部分である。(当審注:【0021】における「部分3b」は「導体部分3b」の誤記と認められるから、以下、「導体部分3b」と記載する。)
【0022】
本発明におけるアルミニウムからなるリード部材3は、上記の外部装置との電気接続を行うための端子となる上方の導体部分3aで、その少なくとも一部ないしは片面に導電性のメッキ層7が形成される。また、絶縁樹脂フィルム5が貼り合わされる導体部分3bには、耐腐蝕性の表面処理層8が形成される。電極板に接続され電解液に浸される下方の導体部分3cは、特に処理は行われずアルミニウムの金属が露出された状態であってもよい。しかし、導電性のメッキ層7の一部が導体部分3b内に多少張り出る形態、また、表面処理層8が導体部分3aおよび3cに張り出る形態、あるいは表面処理層8がリード導体全体を覆う形態で合ってもよい。この場合、導電性のメッキ層7の上に重なるように表面処理層8が施されていてもよい。
【0023】
メッキ層7は、例えば、亜鉛、ニッケル、錫などの半田接続が可能な導電性のもので形成され、また、必要に応じて特許文献3に開示のように第3リン酸ソーダ溶液で表面処理をしてもよい。
非水電解質蓄電デバイスに対する耐蝕性の表面処理層8は、耐フッ化水素酸のための化成処理層で形成することができる。
・・・
【0026】
図3は、上述のアルミニウムからなるリード部材の製造方法の一例を示す図である。10は、リード導体3’の基材となる帯状のアルミニウム導体で、図3(A)に示されるように、導体の一方の側縁を所定の幅で、片側又は両面に予め導電性のメッキ11を連続形成したものを圧延方向に添ってロール状に巻き取られたものを使用する。アルミニウム導体10は、図3(B)に示すように、リード導体3’の横幅寸法でカットして、メッキが施されたリード導体3’の個片が作製される。なお、アルミニウム導体10の圧延方向がリード導体3’の幅方向となる。
【0027】
次いで、図3(C)に示すように、アルミニウム導体10からカットされたリード導体3’は、その中央の導体部分に図2で説明した表面処理層8を形成する。この表面処理層は、例えば、特許文献2に開示のポリアクリル酸またはポリアクリル酸とポリアクリル酸アミドを含む樹脂成分と、金属塩とを含む処理液を、グラビアコータあるいは噴霧により塗布し、加熱乾燥することにより形成することができる。なお、グラビアコータを用いた塗布は、導体エッジ部分での塗布に難があり、リード導体3’の厚さが大きい場合は、噴霧による塗布が好ましい。
切断後の導体個片が小さい場合などは、導体を切断する前に長尺のアルミニウム導体10に表面処理層8を形成して、それから導体を個片に切断するのがよい。この場合も処理液を塗布または噴霧することにより導体を表面処理できる。」

(1c) 「【図3】



第5 当審の判断
1 先願明細書等に記載された発明
(1) 上記(1b)の【0026】には、リード導体3’の基材となる帯状のアルミニウム導体10は、リード導体3’の横幅寸法でカットして、リード導体3’の個片が作製されることが記載されている。

(2) 上記(1b)の【0021】には、リード導体は、絶縁樹脂フィルム5の上方側に露出する導体部分3a、絶縁樹脂フィルム5で被覆される導体部分3b、絶縁樹脂フィルム5の下方側に露出する導体部分3cの、3つの領域を有していること、及び、導体部分3aは、外部装置との電気接続を行うための端子となる部分であることが記載されている。

(3) 上記(1b)の【0022】には、「リード部材3は、上記の外部装置との電気接続を行うための端子となる上方の導体部分3aで、その少なくとも一部ないしは片面に導電性のメッキ層7が形成される」と記載されているから、リード部材3の上方の導体部分3aは、その少なくとも一部ないしは片面に導電性のメッキ層7が形成されているものである。
また、同【0022】には、「絶縁樹脂フィルム5が貼り合わされる導体部分3bには、耐腐蝕性の表面処理層8が形成される」と記載されており、上記(1b)の【0023】には、「耐腐蝕性の表面処理層8は、耐フッ化水素酸のための化成処理層で形成することができる」と記載されているから、導体部分3bには、化成処理層が形成されているといえる。

(4) 上記(1b)の【0016】には、「絶縁樹脂フィルム5と、非水電解質電池の外装ケースとなる封入体2の2枚の多層フィルムとが熱融着されてリード部材3と前記多層フィルムとが密封される」ことが記載されている。
ここで、上記「リード部材3」は、上記(1b)の【0021】によれば、リード導体の中央部に、導体横幅の両側から張り出すように導体両面から絶縁樹脂フィルム5を貼り合わせて構成されるものであるところ、上記(2)によれば、導体部分3bは、絶縁樹脂フィルム5で被覆される部分であるから、リード部材3は、リード導体と、当該リード導体の導体部分3bを被覆している絶縁樹脂フィルム5とから構成されるものであるといえる。
また、上記(1b)の【0021】には、「中間の被覆される導体部分3bは、リード導体が密封封止される部分である」と記載されているから、リード導体は、絶縁樹脂フィルム5で被覆される導体部分3bにおいて密封封止されるものであるといえる。
そうすると、上記「絶縁樹脂フィルム5と、非水電解質電池の外装ケースとなる封入体2の2枚の多層フィルムとが熱融着されてリード部材3と前記多層フィルムとが密封される」との事項から、リード導体は、絶縁樹脂フィルム5で被覆される導体部分3bにおいて、絶縁樹脂フィルム5と、非水電解質電池の外装ケースとなる封入体2の2枚の多層フィルムとが熱融着されて密封封止されるものであるといえる。

(5) 上記(1b)の【0027】には、「切断後の導体個片が小さい場合などは、導体を切断する前に長尺のアルミニウム導体10に表面処理層8を形成して、それから導体を個片に切断するのがよい」と記載されており、この記載の具体的な態様として、上記(1a)には、「アルミニウム導体の幅方向の中央部分に耐腐食用の表面処理層を形成し、次いで、アルミニウム導体を所定の横幅寸法でカットしてメッキおよび表面処理層が形成されたリード導体の個片を作製し」と記載されているから、「長尺のアルミニウム導体10」の幅方向の中央部分には、「耐腐食用の表面処理層8」が形成されるものである。
ここで、上記「長尺のアルミニウム導体10」は、上記(1)によれば、帯状でもあるから、長尺帯状であるといえる。また、上記「耐腐食用の表面処理層8」は、上記(3)によれば、化成処理層であるといえる。
そうすると、長尺帯状のアルミニウム導体10の幅方向の中央部分には、化成処理層が形成されていると認められる。
なお、上記「長尺帯状のアルミニウム導体10の幅方向の中央部分には、化成処理層が形成されている」の「幅方向」について、上記(1c)の図3(A)及び(C)を参照すると、リード導体を切断した後に表面処理層8(化成処理層)が形成された状態を示す図3(C)において、各リード導体3’に表面処理層8(化成処理層)が形成されている部分は、図3(A)に示されている「圧延方向」に対して垂直の方向の中央部であるといえるところ、製造方法を変更して、リード導体を切断する前に表面処理層8(化成処理層)を形成する際においても、上記中央部に表面処理層8(化成処理層)を形成するものであるといえるから、上記「幅方向」とは、「圧延方向」に対して垂直の方向、すなわち、「長尺帯状のアルミニウム導体10」の長手方向に対して垂直の方向である。

(6) 以上の検討事項を整理すると、先願明細書等には、以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「リード導体3’の横幅寸法でカットして、前記リード導体3’の個片が作製される長尺帯状のアルミニウム導体10であって、
前記リード導体3’は、絶縁樹脂フィルム5の上方側に露出する導体部分3a、前記絶縁樹脂フィルム5で被覆される導体部分3b、前記絶縁樹脂フィルム5の下方側に露出する導体部分3cを有し、
前記導体部分3aは、外部装置との電気接続を行うための端子となる部分であって、その少なくとも一部ないしは片面に導電性のメッキ層7が形成されており、
前記導体部分3bには、化成処理層が形成されており、
前記リード導体3’は、前記絶縁樹脂フィルム5で被覆される前記導体部分3bにおいて、前記絶縁樹脂フィルム5と、非水電解質電池の外装ケースとなる封止体2の2枚の多層フィルムとが熱溶着されて密封封止されるものであり、
前記アルミニウム導体10の幅方向の中央部分に前記化成処理層が形成されているアルミニウム導体10。」

2 対比
本願発明と先願発明とを対比する。
(1) 先願発明の「非水電解質電池の外装ケースとなる封止体2の2枚の多層フィルム」は、本願発明の「電池外装体」に相当する。

(2) 先願発明において、「絶縁樹脂フィルム5の上方側に露出する導体部分3a、前記絶縁樹脂フィルム5で被覆される導体部分3b、前記絶縁樹脂フィルム5の下方側に露出する導体部分3cを有」する「リード導体3’」のうち、「絶縁樹脂フィルム5の上方側に露出する導体部分3a」は、「外部装置との電気接続を行うための端子となる部分」であるから、「リード導体3’」は、「導体部分3a」が「非水電解質電池の外装ケースとなる封止体2の2枚の多層フィルム」の外部に突出するように、当該「多層フィルム」に挟持されるものであるといえる。
そして、先願発明の「リード導体3’」の「導体部分3b」は、「前記絶縁樹脂フィルム5で被覆される」部分であって、「前記リード導体3’は、前記絶縁樹脂フィルム5で被覆される前記導体部分3bにおいて、前記絶縁樹脂フィルム5と、非水電解質電池の外装ケースとなる封止体2の2枚の多層フィルムとが熱溶着されて密封封止されるもの」であるから、「リード導体3’」は、「絶縁樹脂フィルム5」を介して、「非水電解質電池の外装ケースとなる封止体2の2枚の多層フィルム」に挟持され、その挟持部分でヒートシールされるものであるといえる。
したがって、先願発明の「リード導体3’」は、「導体部分3a」が「非水電解質電池の外装ケースとなる封止体2の2枚の多層フィルム」の外部に突出するように、「導体部分3b」が「絶縁樹脂フィルム5」を介して、「非水電解質電池の外装ケースとなる封止体2の2枚の多層フィルム」に挟持され、その挟持部分でヒートシールされるものであると認められる。
一方、本願発明の「先端部が外部に突出するように電池外装体に挟持され、前記挟持部分がヒートシールされる電池タブ」について、本願明細書【0018】には、「化成処理が施されたコーティング領域24aによりタブフィルム7との接着性を安定化させる」と記載され、また、同【0002】には、「正極及び負極の各々に接続された負極電池タブ2a及び正極電池タブ2bは外装体6外側に突出させた状態でタブフィルム7を介して外装体6に挟持される」と記載されているから、本願発明の「電池タブ」は、「先端部が外部に突出するように」、タブフィルム7を介して「電池外装体に挟持され、この挟持部分がヒートシールされる」態様を含んでいるものと認められる。
ここで、先願発明の「絶縁樹脂フィルム5」は、本願発明が含んでいる態様の「タブフィルム7」に相当する。
したがって、先願発明の「絶縁樹脂フィルム5の上方側に露出する導体部分3a、前記絶縁樹脂フィルム5で被覆される導体部分3b、前記絶縁樹脂フィルム5の下方側に露出する導体部分3cを有し」、「前記導体部分3aは、外部装置との電気接続を行うための端子となる部分であって、その少なくとも一部ないしは片面に導電性のメッキ層7が形成されており」、「前記絶縁樹脂フィルム5で被覆される前記導体部分3bにおいて、前記絶縁樹脂フィルム5と、非水電解質電池の外装ケースとなる封止体2の2枚の多層フィルムとが熱溶着されて密封封止される」「リード導体3’」は、本願発明の「先端部が外部に突出するように電池外装体に挟持され、前記挟持部分がヒートシールされる電池タブ」に相当する。

(3) 先願発明の「リード導体3’」の「導電体部材3b」は、「化成処理層が形成されて」いるから、リード導体3’の表面は化成処理層により被覆されるコーティング領域を有しているといえる。また、リード導体の表面は、化成処理層8により被覆されない非コーティング領域も有しているといえる。
したがって、先願発明の「前記導体部分3bには、化成処理層が形成されて」いることは、本願発明の「前記電池タブの表面は化成処理層により被覆されるコーティング領域と、
前記化成処理層により被覆されない非コーティング領域と、を有し」ていることに相当する。

(4) 先願発明の「長尺帯状のアルミニウム導体10」は、「リード導体3’の横幅寸法でカットして、前記リード導体3’の個片が作製される」ものであるから、アルミニウム導体10は、リード導体3’が直列に複数連結されて長尺帯状であり、隣接するリード導体3’を、前記リード導体3’の横幅寸法に対応する切断線に沿って切断され切り離されるものであるといえる。
したがって、先願発明の「リード導体3’の横幅寸法でカットして、前記リード導体3’の個片が作製される長尺帯状のアルミニウム導体10」は、本願発明の「電池タブが直列に複数連結されて長尺帯状であり、隣接する前記電池タブを切断線に沿って切断し切り離す金属部材」に相当する。

(5) 以上から、本願発明と先願発明とは、「先端部が外部に突出するように電池外装体に挟持され、前記挟持部分がヒートシールされる電池タブが直列に複数連結されて長尺帯状であり、隣接する前記電池タブを切断線に沿って切断し切り離す金属部材であって、
前記電池タブの表面は化成処理層により被覆されるコーティング領域と、
前記化成処理層により被覆されない非コーティング領域と、を有する金属部材。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

[相違点]
「コーティング領域」について、本願発明は、「金属部材の片側端面から所定幅で帯状に形成されている」のに対して、先願発明は、「アルミニウム導体10の幅方向の中央部分に形成されている」点。

3 相違点についての判断
(1) 一般の非水電解質電池における、封止体によってヒートシールされるリード導体は、封止体から突出して、外部装置との電気接続を行うための端子となる部分(以下、「端子部」という。)、封止体によってヒートシールされる部分(以下、「ヒートシール部」という。)、封止体内部において電解液に浸される部分(以下、「外装体内部」という。)の3つの領域からなるものであるところ、接着性の向上、耐フッ化水素性の向上のために、リード導体の、少なくともヒートシール部に、化成処理層を形成することは周知の技術である(例えば、下記周知例1?4参照。)。また、化成処理層が電気抵抗の増大をもたらすものであることは技術常識である(例えば、下記周知例3の(ア)の【0023】参照。)から、リード導体のうち、少なくとも端子部には、化成処理を施さないようにすることが通常採り得る態様であるといえる。
そして、リード導体に化成処理層を形成する態様としては、ヒートシール部のみに化成処理層を形成する態様(以下、「態様1」という。)、及び、ヒートシール部及び外装体内部に化成処理層を形成するという態様、すなわち、リード導体の片側端面から所定幅で形成する態様(以下、「態様2」という。)は、いずれも、当業者にとって周知の技術である(態様1については、例えば、下記周知例1?2参照。態様2については、例えば、下記周知例3?4参照。)。

ア 周知例1:特開2001-307715号公報(平成25年12月19日付け拒絶理由通知の引用文献2)
(ア) 「【0006】・・・外装体5に収納されたリチウムイオン電池本体2はその周縁を密封することにより、防湿性が付与される。金属であるタブ部は、リチウムイオン電池用包装材料の最内層を金属接着性フィルムとする。前記最内層が金属に対してヒートシール性を持たない材質を用いてもよいが、その場合には、金属接着性と前記リチウムイオン電池用包装材料の最内層との双方にヒートシール性を有する接着性フィルムを介し、ヒートシールされ溶着する。タブ部は金属であるため、内容物である電解液中に発生するフッ化水素(HF)で表面腐食が起こり、タブと該タブに積層されている樹脂層との間で、デラミが起こり電解液が外部に漏れてしまうことがあった。タブとしては、厚さが50?200μm、 巾 が5?10μm程度であって、その材質としては、 AL、Ni、Cu、SUS等である。前記、タブの材質のうち、ニッケルおよびSUSは、フッ化水素酸により腐食される危険性が少なく、アルミニウムが最も腐食されやすいという問題があった。さらに、本発明者らは、タブ部に化成処理層を設けることにより、リチウムイオン電池の電解質と水分との反応で生成するフッ化水素(化学式:HF)に起因するタブ表面の溶解、腐食を防止し、かつタブとリチウムイオン電池用包装材料の最内層または接着性フィルムとの接着性(濡れ性)を向上させ、タブ部における接着力の安定化を図る課題に対して顕著な効果のあることをみいだした。
【0007】前記化成処理層は、図1(a)または図1(b)に示すように、タブ材4Mの表面の少なくとも、外装体によりヒートシールされる部位に耐フッ化水素層4Sを形成するもので、該化成処理層4Sは、前記リチウムイオン電池用包装材料の最内層または接着性フィルムと確実にヒートシールすることができる。。耐フッ化水素層の形成は、リン酸クロム、クロム酸等で化成処理(以下、リン酸クロメート処理と記載する)を行なうことにより、図1(c)または図1(d)に示すようにリチウムイオン電池用包装材料の最内層14またはタブ4に対する接着シート6とタブと4の間での接着が向上することを見出し、本発明を完成するに到った。・・・。」

(イ) 「【図1】


「本発明のリチウムイオン電池タブおよびタブ材による化成処理方法の実施例を示す、(a)リチウムイオン電池本体および外装体の斜視図、(b)X_(1)-X_(1)部断面図、(c)リチウムイオン電池本体を外装体に収納した状態でのX_(1)-X_(1)部での断面図、(d)タブ部をヒートシールした後のX_(1)-X_(1)部の断面図」である図1(a)には、タブ4のヒートシール部に対応する一部にのみ耐フッ化水素層4Sが形成されていることが見て取れる。

イ 周知例2:特開2006-128096号公報
(ア) 「【0011】
本発明によるリード線が適用される非水電解質電池は、例えば、図1に一例として示すように、一対のリード線金属2の取り出し部分をそれぞれ絶縁体6で覆って、封入体3のシール部3aから外部に取り出す形態の薄形構造で形成される。封入体3は、周縁部のシール部3aをヒートシールによる熱融着で袋状としたものである。封入体3内には、正電極、負電極、隔膜等と非水の溶媒(例えば、有機溶媒)に電解質(例えばリチウム化合物)が溶解された非水電解液とを含む単一の電気化学セルを、密封収納している。
【0012】
リード線1は、外部への電気接続のためにシール部3aから取り出され、その取り出し部分のリード線金属2は絶縁体6で被覆絶縁されて、封入体3を形成する積層フィルム4の金属箔と電気的接触が生じないようにしている。リード線1のリード線金属2は、少なくとも積層フィルム4と封着される表面に化成処理による複合皮膜層5が形成され、その外面に絶縁体6を密封接着し、絶縁体6の外面に積層フィルム4を封着している。」

(イ) 「【0021】
上述する構成で、封入体3のシール部3a及びリード線金属2の取り出し部を完全に密封接着することにより、良好な特性と長寿命を維持することが可能となる。しかし、これらの密封接着が不十分であると、外部から水分が浸入し、内部の電解液との反応によりフッ化水素酸が発生する。リード線金属2としては、上述したように、一般にアルミ、ニッケル(ニッケルメッキを含む)、銅などが用いられるが、フッ化水素酸による腐食を受けることになる。リード線金属2は、絶縁体6により表面を密封封止されているとしても、その表面は長期にわたって徐々にフッ化水素酸により腐食され、絶縁体6との密封形態が破壊され、液漏れの原因となると共に特性が低下する。
【0022】
本発明においては、リード線金属2がフッ化水素酸による腐食されるのを防止するために、リード線金属2の表面をポリアクリル酸又はポリアクリル酸とポリアクリル酸アミドを含む樹脂成分と、金属塩とを含む複合皮膜層で表面処理している。・・・。」

(ウ) 「【図2】


「本発明による非水電解質電池及びリード線の構成を説明する図」である図2には、リード線金属2のヒートシール部に対応する中央部分のみに複合皮膜層5が形成されていることが見て取れる。

ウ 周知例3:特開2005-268038号公報(平成25年12月19日付け拒絶理由通知の引用文献5、拒絶査定の周知技術としても提示。)
(ア) 「【0020】
上記構成の非水電解質二次電池は、図4に示した2枚のアルミ・ラミネートフィルム21,22の周縁部の間に樹脂フィルム5,6を介して電極リード片3,4が挟まれ熱溶着されるので、電池容器2から突出するこれら電極リード片3,4の表面のほとんどが研磨部3a,4aとなる。従って、これらの電極リード片3,4の研磨部3a,4aを図示しない外部の端子等に接続しても、絶縁性皮膜によって電気抵抗が大きくなるようなことがなくなる。この非水電解質二次電池は、電池容器2から突出した電極リード片3,4を電池間の接続に用いたりケースの正極端子と負極端子に接続して組電池として用いることが多い。このとき、電極リード片3,4の絶縁性皮膜により電気抵抗が大きくなると、正負極端子を通じて充放電電流が流れる際に電力が無駄に消費されて発熱が生じるだけでなく、電池の内部抵抗が大きくなることにより電流供給能力等も低下する。しかしながら、電極リード片3,4の研磨部3a,4aを正負極端子に接続すれば、絶縁性皮膜による電気抵抗の増加を避けることができるので、非水電解質二次電池の電池性能を向上させることができるようになる。
【0021】
上記正極リード片3の第1の製造方法を図1に基づいて説明する。まず、図1(a)に示す短冊状のアルミニウムからなる金属片31にクロメート処理やベーマイト処理等による表面処理を施して、図1(b)に示すように、ドットハッチングで示した絶縁性皮膜で表面全体が覆われた表面処理済み金属片32を得る。次に、図1(c)に示すように、この表面処理済み金属片32の前後方向の途中部分を上下から2枚の樹脂フィルム片51,52で挟んで熱溶着することにより、図1(d)に示すように樹脂フィルム5が溶着された樹脂フィルム付金属片33を得る。そして、この樹脂フィルム付金属片33における樹脂フィルム5の溶着部より前方の樹脂フィルム非溶着部の表面を研磨することにより、図1(e)に示すように研磨部3aを形成することにより正極リード片3を完成する。
【0022】
上記正極リード片3の第2の製造方法を図2に基づいて説明する。まず、図2(a)に示す短冊状のアルミニウムからなる金属片31にクロメート処理やベーマイト処理等による表面処理を施して、図2(b)に示す表面処理済み金属片32を得る。次に、この表面処理済み金属片32の前方端部の表面を研磨して研磨部3aを形成することにより、図2(c)に示す表面研磨済み金属片34を得る。そして、図2(d)に示すように、この表面研磨済み金属片34の研磨部3aよりも後方の途中部分(非研磨部)を上下から2枚の樹脂フィルム片51,52で挟んで熱溶着することにより、図2(e)に示すように、樹脂フィルム5が溶着された正極リード片3を完成する。
【0023】
上記第1と第2の製造方法における表面処理は、金属片31を処理液(気相で処理することも可能である)に浸漬することにより、化成処理によって表面に防食性と密着性(濡れ性)の高い皮膜を形成する処理である。ただし、この皮膜は、絶縁性であるために、このまま正極リード片3として使用したのでは、上述のように外部の端子等に接続した際に電気抵抗が大きくなる。また、上記樹脂フィルム5は、ここでは2枚の方形の樹脂フィルム片51,52の間に正極リード片3を挟んで溶着したが、1枚の樹脂フィルムを二つ折りにした間に正極リード片3を挟んだり、筒状の樹脂フィルムの中に正極リード片3を通すようにしてもよい。さらに、上記表面研磨は、砥石やヤスリ、紙ヤスリ、研磨剤等を用いて、機械研削や手作業により行うことができる。
・・・
【0026】
また、上記実施形態では、表面研磨により電極リード片3,4の絶縁性皮膜を剥がす場合を示したが、これらの電極リード片3,4の表面の一部にのみ表面処理を施すようにすることにより、絶縁性皮膜が形成されない部分を設けるようにしてもよい。電極リード片3,4の表面の一部にのみ表面処理を施す方法としては、例えばマスキングによる方法と一部ディッピングによる方法がある。マスキングによる方法では、電極リード片3,4の表面の一部にマスキングを施した後に表面処理を施すことにより、このマスキングを施していない部分にのみ絶縁性皮膜を形成する。マスキングとは、表面処理の処理液に対して耐性を有し、電極リード片3,4の表面に密着するような樹脂その他の任意の素材を用い、塗布等により電極リード片3,4の表面の一部をこの素材で覆う処理をいう。この場合、マスキングは、樹脂フィルム5の溶着の前に除去してもよいし、溶着後に除去してもよく、必要がなければ除去しないまま非水電解質二次電池を完成してもよい。このマスキングを除去する場合には、化学的処理によって除去してもよいし、紫外線照射等や引き剥がし等によって除去してもよい。また、マスキングを除去しないまま非水電解質二次電池を完成した場合、電極リード片3,4に外部の端子等を接続する際に除去してもよいし、半田付けによる熱等により除去されるようにしてもよい。一部ディッピングによる方法では、電極リード片3,4の一部だけを表面処理の処理液に浸漬することにより、この処理液に浸漬した部分にのみ絶縁性皮膜を形成する。」

エ 周知例4:特開2008-277238号公報
(ア) 「【0036】
図2は、リチウムイオン電池の負極側タブ周辺の構成を示す断面拡大図である。図1と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。外装体5は複数の層から成る積層構造を有しており、タブ4と外装体5の最内層14との双方に熱接着性を有するタブフィルム6を介し、熱接着されている。
【0037】
また、タブ4と外装体5が熱接着される部分(以下、挟持部分という)7及び外装体5の内側に配置され電解液と接触する部分には、耐フッ化水素層から成る複合皮膜層4bが形成されている。また、外装体5内に収納されたタブ4の先端には、負極(図示せず)とタブ4とを電気的に接続する負極集電体8が連結されている。なお、外装体5の詳細な構成については後述する。」

(イ) 「【0042】
次に複合皮膜層4bについて説明する。複合皮膜層4bは、リチウムイオン電池の電解質と水分との反応で生成するフッ化水素(化学式:HF)に起因するタブ表面の溶解、腐食を防止するとともに酸変性ポリオレフィン系樹脂との接着性(濡れ性)を向上させ、タブフィルム6とタブ4の剥離を防止するものである。・・・。」

(ウ) 「【0052】
複合皮膜層4bを形成する前に、ニッケル部材の表面を前記のいずれかの方法によって前処理して、オイルや酸化ニッケル皮膜等を除去後、表面を乾燥して、クロム酸塩の液を用い金属表面を化成処理することによって複合皮膜層4bが形成される。化成処理の方法は、クロム酸塩液にニッケルタブ材を浸漬する方法、タブ材にクロム酸塩液を吹き付ける方法、ロールコート法を用いて、タブ材にクロム酸塩液をコートする等の方法および/または物理的方法によって前処理をしてから端子材にクロム酸塩液を塗布乾燥して、タブの表裏面および側面に複合皮膜層4bを形成するものである。」

(2) ここで、態様1の一例である周知例1の上記(ア)の【0007】には、化成処理層は、タブ材4Mの表面の少なくとも、外装体によりヒートシールされる部位(ヒートシール部)に耐フッ化水素層4Sを形成するものであると記載されているところ、タブ(リード導体)表面のうち、ヒートシール部のみならず、外装体内部も、フッ化水素によって溶解、腐食し得るものであることは、当業者にとって自明の事項であるから、上記「少なくとも」と記載されていることは、タブ(リード導体)表面の、ヒートシール部のみだけでなく、フッ化水素によって溶解、腐食し得る外装体内部にも化成処理層を形成し得ること(態様2に対応。)を示唆していると解するのが相当である。
そうすると、周知例1は、リード導体に化成処理層を形成する領域について、態様1と態様2のいずれも同様に選択可能であることを開示しているものと認められる。
また、周知例2には、態様1が、周知例3及び4には、態様2が記載されている。

(3) 先願発明は、「化成処理層により被覆される」「コーティング領域が、アルミニウム導体の幅方向の中央部分に形成される」ものであるから、態様1のリード導体が得られるアルミニウム導体であるといえるところ、上記(1)及び(2)において検討したとおり、態様1と態様2とは、いずれも当業者に周知の事項であって、しかも、いずれも同様に選択可能であると認められるから、先願発明において、態様1のリード導体が得られるアルミニウム導体を、態様2のリード導体が得られるアルミニウム導体とすること、すなわち、化成処理により被覆されるコーティング領域を、アルミニウム導体の片側端面から所定幅で帯状に形成することにより、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、周知技術の置換である。

(4) ここで、本願発明が奏する作用効果と、先願発明が奏する作用効果、及び、態様2に係る周知技術がもたらす作用効果について検討する。

ア 本願発明は、本願明細書【0005】によれば、「電池タブの電気抵抗を抑え、電池タブにおける電気的エネルギーのロスを少しでも低減すること」を課題とするものであって、同【0018】?【0019】によれば、電池タブ表面の化成処理層により被覆されない非コーティング領域によって、外部端子が化成処理層を介在することなく電池タブと当接するため、化成処理層による電気抵抗の発生を抑え、電気的エネルギーのロスを低減することができ(以下、「作用効果A」という。)、また、電池タブ表面の化成処理層により被覆されるコーティング領域によって、タブフィルム7との接着性を安定化させるとともに、電池タブが電解液と水分との反応により発生するフッ化水素によって腐食して、ヒートシール部が剥離するのを防止することができる(以下、「作用効果B」という。)という作用効果を奏するものである。

イ 本願発明の作用効果Aについて
本願発明の作用効果Aについては、外部端子が化成処理層を介在することなく電池タブと当接することによって得られる作用効果であるといえるところ、先願発明において、「化成処理層」は、「リード導体3’」の「導体部材3b」に形成されるものであって、「導体部分3a」には形成されていないから、「導体部分3a」は、「化成処理層」により被覆されない非コーティング領域であるといえる。そして、この「導体部分3a」は、「外部装置との電気接続を行うための端子となる部分」である。
そうすると、先願発明の「リード導体3’」の非コーティング領域においては、化成処理層を介在することなく外部装置との電気接続が行われるものであるから、先願発明は、本願発明の作用効果Aと同様の作用効果を奏するものと認められる。

ウ 本願発明の作用効果Bについて
(ア) 本願発明の作用効果Bについては、電池タブのヒートシール部が化成処理層により被覆されていることによって得られる作用効果であるといえるところ、先願発明は、「前記絶縁樹脂フィルム5で被覆される導体部分3b」に、「化成処理層が形成され」、この「化成処理層が形成され」ている「前記導体部分3bにおいて、前記絶縁樹脂フィルム5と、非水電解質電池の外装ケースとなる封止体2の2枚の多層フィルムとが熱溶着されて密封封止される」ものであるので、リード導体のヒートシール部が化成処理層により被覆されているといえるから、先願発明は、本願発明の上記作用効果Bと同様の作用効果を奏するものと認められる。

(イ) なお、本願発明の作用効果Bに関連して、本願発明が、「電池タブが電解液と水分との反応により発生するフッ化水素によって腐食」するのを防止することができるという作用効果(以下、「作用効果C」という。)を更に奏するものであったとしても、当該作用効果Cは、電池タブのヒートシール部及び電解液に接触する部分が化成処理層により被覆されること(上記相違点に係る本願発明の特定事項に対応。)によって得られるものであるといえるところ、上記周知例3の(ア)の【0020】?【0023】、及び、上記周知例4の(ア)及び(ウ)によれば、態様2に係る周知技術も、リード導体のヒートシール部だけでなく、電解液に接触している部分も化成処理層により被覆されているといえるから、態様2に係る周知技術は、本願発明の作用効果Cと同様の作用効果をもたらすものと認められる。
なお、上記周知例3の(ア)の【0023】、及び、上記周知例4の(ア)及び(イ)には、本願発明の作用効果Cと同様の作用効果が記載されている。
したがって、本願発明が、上記相違点に係る発明特定事項を有することによって奏する作用効果は、先願発明において、態様2に係る周知技術を置換することによって得られる作用効果に等しい。

エ 以上から、本願発明が奏する作用効果は、先願発明が奏する作用効果にすぎないか、若しくは、先願発明が奏する効果と態様2に係る周知技術によってもたらされる作用効果の総和にすぎない。

(5) したがって、本願発明は、先願発明おいて、態様2に係る周知技術を置換したものにすぎず、新たな効果を奏するものではないから、上記相違点は、課題解決のための具体化手段における微差にすぎない。
よって、本願発明と先願発明は実質的に同一である。

(6) 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「3.(b)本願発明の説明」及び「3.(c)本願発明と引用発明との対比」において、本願発明が奏する作用効果について、切断線に沿って金属部材を切断し電池タブを切り離したときに、切断線に沿って形成される電池タブの切断面(端面)にはコーティング領域は形成されないため、金属部材を切断して形成される電池タブは集電体に接続される外装体内部(コーティング領域)と外部端子と接続される外装体外部(非コーティング領域)とが切断面(端面)を介してつながっており、電気抵抗の発生を抑え、電池タブにおける電気的エネルギーのロスを低減することができる(【0018】、【0019】)が、先願発明に周知技術を組み合わせても、そのような作用効果は得られない旨の主張をしている。
しかし、上記(4)アにおいて示したとおり、本願明細書には、電池タブ表面の化成処理層により被覆されない非コーティング領域によって、外部端子が化成処理層を介在することなく電池タブと当接するため、化成処理層による電気抵抗の発生を抑え、電気的エネルギーのロスを低減することができることは記載されているものの、金属部材を切断して形成される電池タブが、集電体に接続される外装体内部(コーティング領域)と外部端子と接続される外装体外部(非コーティング領域)とが切断面(端面)を介してつながっていることによって、電気抵抗の発生を抑え、電池タブにおける電気的エネルギーのロスを低減できることは記載されていない。
したがって、請求人の上記主張は、本願明細書の記載に基づくものではない。
なお、仮に、請求人の上記主張が、本願明細書の記載に基づくものであったとしても、態様2に係る周知技術を置換した先願発明の「アルミニウム導体10」を切断して作製されるリード導体3’も、切断面には化成処理層が形成されておらず、集電体に接続される外装内部と、外部端子と接続される外装体外部とは、切断面を介してつながっているといえるから、態様2に係る周知技術を置換した先願発明も、電気抵抗の発生を抑え、電池タブにおける電気的エネルギーのロスを低減することができるものであると認められる。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、先願発明と実質的に同一であって、しかも、本願の発明者が先願発明をした者と同一ではなく、また、本願の出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-22 
結審通知日 2016-03-01 
審決日 2016-03-14 
出願番号 特願2010-83641(P2010-83641)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井原 純  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 富永 泰規
河本 充雄
発明の名称 電池タブの製造方法と電池タブ及びそれを備えるフープ材  
代理人 特許業務法人 佐野特許事務所  

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