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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1314008
審判番号 不服2015-3927  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-28 
確定日 2016-04-25 
事件の表示 特願2011-106211「感熱記録体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月 6日出願公開、特開2012-236319〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成23年5月11日に出願した特許出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成26年 8月19日:拒絶理由通知(同年同月26日発送)
平成26年10月24日:意見書
平成26年11月27日:拒絶査定(同年12月2日送達)
平成27年 2月28日:審判請求


2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの、以下のものである。
「傾斜したスライド面上に、少なくとも1層以上の塗料を吐出させ、前記スライド面から前記塗料をカーテン状に案内するエッジガイドで自然落下させて、移動する基材上に塗工膜を積層するカーテン塗工による感熱記録体の製造方法であって、
前記エッジガイドに供給される潤滑液の表面張力と前記塗料の表面張力との差の絶対値を、4mN/m以下とする、
ことを特徴とする感熱記録体の製造方法。」


3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・・(中略)・・・
・請求項1,2
・引用文献1?9
・・・(中略)・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2010-240640号公報
2.特開2010-64047号公報
3.特開2008-238160号公報
4.国際公開第01/076884号(実施例12,14等)
5.特開2011-51334号公報
6.特開2010-94981号公報
7.特開2009-208363号公報
8.特開2008-260275号公報
9.特開平7-163930号公報([0006],[0014],図等)」


4 刊行物の記載事項及び引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-64047号公報(以下、「引用例1」という。)」には、「塗工製品、塗工方法、感熱記録材料および塗工装置」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。

ア 「【特許請求の範囲】
・・・(中略)・・・
【請求項2】
少なくとも1層以上の塗布液をスリットから吐出し、該吐出された塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に塗布するカーテン塗布工程と、
塗布された前記塗布液を乾燥することにより塗膜を形成する工程と、
を備えた塗工方法であって、
前記連続走行するウェブの表面平滑度が300秒以上であることを特徴とする塗工方法。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1層以上の塗布液をスリットから吐出し、該吐出された塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に塗布するカーテン塗布工程を含む工程により製造された塗工製品、そのための塗工方法、感熱記録材料および塗工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、感熱記録材料を製造するに当り、ウェブ上にアンダー層(断熱及びウェブの目止め等)、感熱記録層、保護層と順次1層ずつ、ブレード塗布方法、ワイヤーバー塗布方法、ロッドバー塗布方法等により塗工を行ってきた。しかし、最近は、カーテン塗布方法による多層同時塗工が行われるようになってきた。
【0003】
カーテン塗布方法は、写真フィルム等の写真感光材料等の製造によく用いられている塗布方法であり、塗布液をノズルスリットから吐出し、該吐出された塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に衝突させながら塗布膜を形成させる方法や、塗布液をスリットから吐出し、該吐出された塗布液を、スライド面上において移動させ、その塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に衝突させながら塗布膜を形成させる方法がある。また、多層塗工においては、各々の機能の違う塗布液を各々のノズルスリットから吐出し、該吐出された塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に衝突させながら塗布膜を形成させる方法や、各々の機能の違う塗布液をスリットから吐出し、該吐出された塗布液をスライド面上で積層し、その積層した塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に衝突させながら塗布膜を形成させる方法がある。そして、これらの方法では、カーテン塗布液膜のウェブ走行方向と反対側にバキュウム装置が有り、その装置では、カーテン塗布液膜のウェブ転液部での空気同伴現象抑制の為にウェブに同伴してくる空気を吸引し、空気同伴による製造品の泡欠陥(転液部で空気が混合し、そのまま泡が残る。)等を抑制している。
【0004】
しかし、上記カーテン塗布方法においては、連続走行するウェブの表面凹凸間の微小の空気を除去することができず、乾燥時に表面に膜が張り、その空気が表面から抜けようとして、クレーター(噴火口形状痕)という噴火口に似た膜表面を突き破ったような穴が発生しやすい。図4(a)は、従来の1層ずつ塗工する方法による塗膜表面であり、同図(b)はカーテン塗布による塗膜表面、同図(c)はクレーターの拡大図である。そして、クレーターにより、製造品の保存特性品質が悪くなってしまい、生産ができなくなってしまうおそれがある。つまり、従来の各層を1層ずつ塗工する方法に比べ、カーテン塗布方法ではクレーターの発生が多くなる傾向があり、それが製品の歩留まりを低下させるために問題となっていた。
・・・(中略)・・・
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、カーテン塗布方法により感熱記録材料等の塗工製品を製造する際に、最上層塗膜表面のクレーター(噴火口形状痕)の発生を抑制する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の(1)から(13)の特徴を有する。
・・・(中略)・・・
【0010】
(2) 少なくとも1層以上の塗布液をスリットから吐出し、該吐出された塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に塗布するカーテン塗布工程と、
塗布された前記塗布液を乾燥することにより塗膜を形成する工程と、
を備えた塗工方法であって、
前記連続走行するウェブの表面平滑度が300秒以上であることを特徴とする塗工方法。」

ウ 「【発明の効果】
・・・(中略)・・・
【0025】
また、本発明の塗工方法によれば、連続走行するウェブの表面平滑度を300秒以上としたことにより、最上層塗膜表面のクレーター(噴火口形状痕)の個数が1mm^(2)中に20個以下である塗工製品(例えば、上記感熱記録材料)を容易に製造できる。なお、本発明の塗工方法は、ウェブの表面平滑度(つまり、ある圧力空気の一定量が表面粗から抜ける時間)を大きくすることにより空気同伴によるクレーターの発生を抑制している点で、ウェブの表面粗さを大きくすることによってクレーターの発生を抑制している上記特許文献4とは異なる技術思想に立脚するものである。また、本発明の塗工装置は、上記塗工方法を実施する目的に適したものである。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の塗工製品は、その最上層塗膜表面のクレーター(噴火口形状痕)の個数が1mm^(2)中に20個以下である。この塗工製品は、以下に説明するカーテン塗布工程を含む塗工方法により製造することができる。
【0027】
まず、図1および図2を参照して、カーテン塗布工程の概略とそれに用いるカーテン塗布装置の構成例について説明する。図1に例示したカーテン塗布装置は、塗布液をカーテン塗工ヘッド1のノズルスリットから吐出し、該吐出された塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイド2でカーテン塗布液膜3として自由落下させ、連続走行するウェブ5上に衝突させながら塗布膜を形成させる。ウェブ5は、バックアップロール6の回転によって図1中矢印で示す方向に走行する。カーテン塗布液膜3のウェブ走行方向と反対側には、バキュウム装置4が設けられている。このバキュウム装置4は、カーテン塗布液膜3のウェブ転液部7での空気同伴現象抑制の為にウェブ5に同伴してくる空気を吸引し、空気同伴による製造品の泡欠陥(ウェブ転液部7で空気が混合し、そのまま泡が残る)等を抑制する。
【0028】
図2は別の例を示しており、このカーテン塗布装置は、塗布液をスライドカーテン塗工ヘッド8のスリットから吐出し、該吐出された塗布液を、スライド部エッジガイド10で規制しつつスライド面9上において移動させ、さらに塗布液をカーテンエッジガイド11でカーテン状に案内してカーテン塗布液膜12として自由落下させ、連続走行するウェブ14上に衝突させながら塗布膜を形成させる。この場合もウェブ14は、バックアップロール15の回転によって図2中矢印で示す方向に走行する。カーテン塗布液膜12のウェブ走行方向と反対側には、バキュウム装置13が設けられ、カーテン塗布液膜12のウェブ転液部16での空気同伴現象抑制の為にウェブ14に同伴してくる空気を吸引し、空気同伴による製造品の泡欠陥(ウェブ転液部16で空気が混合し、そのまま泡が残る)等を抑制する。
【0029】
なお、多層塗工においては、各々の機能の違う塗布液を各々のノズルスリットから吐出し、該吐出された塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に衝突させながら塗布膜を形成させる方法や、各々の機能の違う塗布液をスリットから吐出し、該吐出された塗布液をスライド面上で積層し、その積層した塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に衝突させながら塗布膜を形成させる方法が可能である。
【0030】
また、本実施の形態では、カーテン塗布工程の前に連続走行するウェブに下引き層を塗布する工程を設けることが好ましい。さらに、本実施の形態では、カーテン塗布工程の前に連続走行するウェブに対してキャレンダー加工を行うキャレンダー工程を設けることが好ましい。
【0031】
図3に、本発明の塗工方法の実施に適した塗工装置の一構成例を示した。この塗工装置では、図3中、矢印方向に連続走行するウェブ21に対して、下引き層を塗布する下引き層形成部22、キャレンダー加工を行うキャレンダー加工部23およびカーテン塗布を行うカーテン塗布部24が、ウェブ21の走行方向上流側から下流側へ向けて順に配置されている。なお、図3では説明の便宜上、ウェブ21を直線状に描いている。また、下引き層形成部22では、後述するように、塗膜を掻き落とし塗膜重量を計量するような塗布方法を採用することが好ましい。また、キャレンダー加工部23は、加熱ロール等の加熱・加圧手段を備えた公知のキャレンダー装置を備えている。なお、下引き層形成部22およびキャレンダー加工部23は必ずしも設けなくてもよい。
【0032】
本発明の塗工方法では、連続走行するウェブの表面平滑度を300秒以上とする。これによって、ウェブ表面のカーテン塗布装置のバキュウム装置で捕りきれない微小の空気同伴を抑制することができ、クレーター個数を1mm^(2)中に20個以下に抑制できる。ウェブの表面平滑度を上記範囲とするために、下引き層の形成やキャレンダー加工などが効果的である。なお、本発明において、ウェブに下引き層が形成されている場合、「ウェブの表面平滑度」とは、下引き層の表面平滑度を意味する。
・・・(中略)・・・
【0042】
本発明の塗工方法は、例えば感熱記録ラベルや感熱記録磁気紙などに代表される感熱記録材料の製造過程に好ましく適用できる。
【0043】
本発明の感熱記録材料は、連続走行するウェブ上に感熱発色層、第一保護層、または、感熱発色層、第二保護層を順次積層し、カーテン塗工法により同時塗布で形成することができる。これにより、工数低減、設備導入コスト低減、多層化が容易なため、各層を機能分離できる。
【0044】
本発明の感熱記録材料は、連続走行するウェブ上に感熱発色層、第一保護層、第二保護層を順次積層し、カーテン塗工法により同時塗布で形成することができる。これにより、工数低減、設備導入コスト低減、多層化が容易なため、各層を機能分離できる。
【0045】
本発明の感熱記録材料は、連続走行するウェブ上に感熱発色層、第一保護層を順次積層し、カーテン塗工法により同時塗布で形成された感熱記録材料の表面に連続して第二保護層をブレード塗布方法、ワイヤーバー塗布方法、ロッドバー塗布方法のような塗膜を掻き落とし塗膜重量を計量するような塗布方法で形成することができる。
【0046】
以下、本発明の塗工方法により感熱記録材料を製造する場合の塗布液の粘度、第二保護層、第一保護層、感熱発色層、ウェブおよびバック層について順に説明する。」

オ 「【実施例】
【0104】
次に実施例、比較例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって何ら制約されるものではない。
【0105】
[実施例1]
(1)下引き層塗布液[A液]の調製
・プラスチック球状微小中空粒子(塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体(塩化ビニリデン/アクリロニトリルのモル比=6/4)、固形分濃度27.5%、平均粒径3μm、中空率90%)…36部
・スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(製品名:スマーテックスPA-9159(日本エイアンドエル社製)、固形分濃度47.5%)…31部
・水…97部
【0106】
(2)感熱発色層塗布液[D液]の調製
[B液]
・2-アニリノ-3-メチル-6-(ジ-n-ブチルアミノ)フルオラン…20部
・イタコン酸変性ポリビニルアルコール(変性率1モル%)の10%水溶液…20部
・水…60部
【0107】
[C液]
・4-ヒドロキシ-4′-イソプロポキシジフェニルスルホン…20部
・イタコン酸変性ポリビニルアルコール(変性率1モル%)の10%水溶液…20部
・シリカ…10部
・水…50部
【0108】
上記組成を、それぞれ平均粒径が1.0μm以下になるようにサンドミルを用いて分散し、染料分散液[B液]、顕色剤分散液[C液]を調製した。続いて、[B液]と[C液]を1:7の割合で混合し、固形分濃度を30%に調整し、攪拌して、感熱発色層塗布液[D液]を調製した。この感熱発色層塗布液[D液]は、粘度250mPa・s、静的表面張力38mN/mであった。なお、静的表面張力は、FACE自動表面張力計CBVP-A3型(協和界面科学株式会社製)で測定した。
【0109】
(3)第一保護層塗布液[E液]の調製
・ジアセトン変性ポリビニルアルコール(変性率4モル%)の10%水溶液…120部
・アジピン酸ジヒドラジドの10%水溶液…10部
上記組成の材料を混合し攪拌して第一保護層塗布液[E液]を調製した。この第一保護層塗布液[E液]は、粘度300mPa・s、静的表面張力35mN/mであった。
【0110】
(4)第二保護層塗布液[G液]の調製
・水酸化アルミニウム(平均粒径0.6μm、昭和電工社製:ハイジライトH-43M)…20部
・イタコン酸変性ポリビニルアルコール(変性率1モル%)の18%水溶液…11部
・水…35部
上記組成の材料を、サンドミルを用いて24時間分散し、[F液]を調製した。
【0111】
[G液]
・上記[F液]…150部
・ジアセトン変性ポリビニルアルコール(変性率4モル%)の18%水溶液…60部
・アジピン酸ジヒドラジドの10%水溶液…10部
・水…10部
【0112】
上記組成の材料を混合し攪拌して第二保護層塗布液[G液]を調製した。この第二保護層塗布液[G液]は、粘度330mPa・s、静的表面張力35mN/mであった。
【0113】
次に、原紙支持体(坪量約60g/m^(2)の上質紙)に下引き層塗布液[A液]を乾燥後の付着量が2.0g/m^(2)となるようにロッドバーで塗工乾燥し、その後、連続して、そのウェブ(水分6%、平滑度400秒)表面に、感熱発色層塗布液[C液]、第一保護層塗布液[D液]、第二保護層塗布液[F液]を、乾燥後の付着量がそれぞれ3.0g/m^(2)、1.0g/m^(2)、1.0g/m^(2)となるように、カーテンコーターで600m/minの速度で同時塗布し、初期0.3秒間を100℃、その後、1.7秒間を150℃、さらに1秒間を80℃で乾燥し、感熱記録材料を作製した。そして、その感熱記録材料表面を走査型電子顕微鏡で観察し、目視でクレーター個数(1mm×1mmの範囲)を測定した。
【0114】
その結果を表1に示す。また、その保存特性の耐可塑剤性を評価した結果を、併せて表1に示す。なお、平滑度は、王研式透気度平滑度試験機(熊谷理機工業株式会社製)で0.1kgf/cm^(2)の圧縮空気を使用し測定した。
【0115】
<耐可塑剤性テスト方法>
感熱記録材料表面に150℃のホットスタンプを1秒間接触させて発色させた後、感熱発色層面側に塩化ビニルラップを3枚重ね合わせ、40℃、ドライ環境で5kgf/100cm^(2)の荷重をかけて15時間保管し、保管後の画像濃度をマクベス濃度計(RD-914型、マクベス社製)で測定した。
・・・(中略)・・・
【0137】
【表1】

【0138】
表1に示したように、ウェブの表面平滑度が300秒以上である実施例1?11では、クレーターの発生が20個/mm^(2)以下と少なく、耐可塑剤性評価の結果も良好であった。一方、ウェブの表面平滑度が300秒未満である比較例1?4では、クレーターの発生が20個/mm^(2)を超えており、耐可塑剤性評価の結果、不良品と判定された。以上の結果より、カーテン塗布の際にウェブの表面平滑度を300秒以上とすることで、クレーターの発生を抑制でき、耐可塑剤性に優れた感熱記録材料を製造できることが確認された。」

カ 「【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】カーテン塗布装置の構成例の要部を示す斜視図である。
【図2】カーテン塗布装置の別の構成例の要部を示す斜視図である。
【図3】塗工装置の概略構成を示す説明図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

【図2】


【図3】



(2)引用発明
引用例1の段落【0028】(上記(1)エ参照。)の記載からは、カーテン塗布工程に用いるカーテン塗布装置として、「塗布液をスライドカーテン塗工ヘッド8のスリットから吐出し、該吐出された塗布液を、スライド部エッジガイド10で規制しつつスライド面9上において移動させ、さらに塗布液をカーテンエッジガイド11でカーテン状に案内してカーテン塗布液膜12として自由落下させ」るものを用いることが把握でき、段落【0042】(上記(1)エ参照。)の記載からは、塗工方法を製造過程に適用した、感熱記録ラベルや感熱記録磁気紙などの感熱記録材料の製造方法が把握されるところ、上記(1)から、引用例1には、請求項2に記載された塗工方法を製造過程に適用した感熱記録材料の製造方法であって、カーテン塗布装置としてスライド面を有するものを用いたものとして、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、引用発明の認定に際して参考にした引用例1の記載箇所を、請求項及び段落番号で付記する。

「(【請求項2】)少なくとも1層以上の塗布液をスリットから吐出し、(【0028】)該吐出された塗布液を、スライド部エッジガイド10で規制しつつスライド面9上において移動させ、さらに(【請求項2】)該吐出された塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に塗布するカーテン塗布工程と、
塗布された前記塗布液を乾燥することにより塗膜を形成する工程と、
を備えた塗工方法であって、
前記連続走行するウェブの表面平滑度が300秒以上である塗工方法を、(【0042】)製造過程に適用した、感熱記録ラベルや感熱記録磁気紙などの感熱記録材料の製造方法。」

(3)原査定の拒絶の理由に引用文献9として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-163930号公報(以下、「引用例2」という。)」には、「縁ガイド潤滑液供給装置」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。

ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、コーティング液がカーテン状に自由に落下するコーティングステーションを連続して前進する、物体または動くサポートをコーティングするための方法および装置に関する。特に、本発明は、写真フィルムおよび原紙を製造するためのカーテンコーティング方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】カーテンコーティングタイプのコーティング装置では、コーティング液の自由落下カーテン(以下、単に「カーテン」と称するもの)を動くサポートに当ててその上に層を形成することにより、動くサポートをコーティングする。この方法を実施するための装置は、ヒューズのアメリカ合衆国特許第3,508,947号に説明されており、ここでは、複数の異なる液体の多層合成物をスライドホッパ上に形成し、ここから落下させて落下カーテンを形成する。
【0003】特に多層写真材製造に用いられる、カーテンコーティング工程においては、コーティングの品質は、主に液体カーテンの特性によって決まる。スライドホッパによって、コーティング溶液の安定した層流を形成し、そのコーティング溶液から同じように安定した層流の液体カーテンを形成することが重要である。表面張力の影響下で落下するカーテンの縁が収縮するのを防ぐため、カーテン縁ガイドによってカーテンの縁を案内しなければならないことは周知である。
【0004】カーテンコーティング技術では、カーテンと縁ガイドとの間に潤滑液を導入することで、カーテンの動作が改善することはよく知られている。この改善には、潤滑液を用いることで、用いない場合より、カーテンの総流量を低く押さえる能力と、カーテンの粘性を高く保つ能力が含まれる。一般に、潤滑液は単なる水であるが、同じ目的のために低粘度の代替液を用いることもできる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】多層カーテンコーティングの外側層には、界面活性剤を加えるのが一般的である。層がホッパスライドを流れ落ちる時、界面活性剤が一定の時間をかけて大部分の液体から表面に拡散し、最上層の表面張力を下げる。潤滑液を急激に導入すると、界面活性剤が拡散する時間がないため、界面活性剤を加えても、カーテンに比べて当初の表面張力が高くなることは避けられない。これによって、表面張力による流れが作られ、これが高粘度のカーテン溶液の一部を縁ガイドの方に動かす。これによって、縁ガイド近くの有効粘性が上がり、もって壁抗力が増す。この増加した壁抗力がカーテンの縁の運動量を減らし、コーティング速度を制限し、縁の均一性を落とし、もって無駄を生じる。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明では、カーテン溶液に似た表面張力を持ち、カーテンを妨害しない縁ガイドに沿った潤滑液帯を発生する方法を提供する。これは、リップからの縦の距離を非常に短いものにし、縁の近くのカーテン速度を最大限にすることで達成される。潤滑液帯は層流でもあるため、縁の溶液流の乱れによって縁が波形になったり乱れたりする問題を回避することができる。
【0007】本発明は、自由落下カーテンの縁を横に案内する装置である。この装置は、自由落下カーテンの上部近くに設けた入口ダクトを含み、この入口ダクトは第1の端部と第2の端部で終結する。第1の端部は、カーテンの面の前にあり、第2の端部は、カーテンの面の後ろにある。この装置は、入口ダクトの第1の端部につながる第1のスライド面と、入口ダクトの第2の端部につながる第2のスライド面を含み、第1および第2のスライド面は、互いに対して下向きの角度を持っている。縁ガイドは、第1および第2スライド面の底部に位置する。潤滑液を入口ダクトに供給する手段が含まれる。」

イ 「【0008】
【実施例】本発明およびその他の利点や可能性をよりよく理解するため、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図1は、従来技術の縁ガイドを使ったカーテンコーティング縁付け工程の単純化した斜視図である。一般に、ホッパの両側に縁ガイドがあるが、図1では1つの縁ガイドのみ示す。カーテンコーティング工程では、コーティングホッパ10が、一連のスロット11から液体層(図示せず)を送り出して、やがて落下カーテン(図示せず)を形成する。液体層は互いに重なり合うようにしてスライドホッパに流れて自由落下カーテンを形成する。液体は、縁パッド12によって、コーティングホッパ10上で拘束される。液体は、ホッパリップ13を離れる時にカーテンを形成する。カーテンの縁は、縁ガイド17の非潤滑部分14と接触することになる。短い距離を落下した後、カーテンは潤滑液ダクト15を介して供給された潤滑液と接触する。一般に、潤滑液は単に水であるが、同じ目的で低粘度の代替液を用いることもできる。カーテンが過渡領域16で潤滑液と遭遇した後、カーテンの縁は縁ガイド17によってサポート18に案内される。
【0009】多層カーテンコーティングの外側層には、一般に界面活性剤を加える。層がホッパスライドを流れ落ちる時、界面活性剤は一定の時間をかけて液体の内部から表面上に拡散し、最上層の表面張力を下げる。図1に示すように、潤滑液を急激に導入すると、界面活性剤が拡散する時間がないため、界面活性剤を加えても、目的とする表面張力は、カーテンと比べて高くなることは避けられない。これによって表面張力による流れが作られ、これが高粘度のカーテン溶液の一部を縁ガイドの方に動かす。これによって、縁ガイド近くの有効粘性が上がり、もって壁抗力が増す。図2に、潤滑液を急激に導入した場合に生じる表面張力流を示す。矢印21は、潤滑液の表面張力による引き込み、矢印20は、カーテンのコーティング溶液の表面張力による引き込みを示す。図2において、矢印21は、矢印20より長く、潤滑液の張力の方が高いことを示している。
【0010】図2は、ホッパリップ13と、縁ガイド17の上部を示す正面図である。縁パッド12は、ホッパリップ13の下、数ミリメートルの、縁ガイド17の縁壁14とつながるところで終わっている。カーテンとつながるところの縁パッドと縁壁の厚みは、カーテンの厚みに相当する。層流の潤滑液は、できるだけホッパリップに近く位置でガイドに導入して、カーテン縁の非潤滑長さが最小限になるようにする。潤滑液出口寸法と、カーテンと接触するところの縁ガイドの厚みも、局所的なカーテンの厚みと同じ大きさになるよう選択する。潤滑液は縁ガイドから完全にカーテンを分けるのが理想的だが、潤滑液の表面張力がカーテンの表面張力より高いことが多いので、潤滑液の表面は収縮し、高粘度のカーテン合成物の一部を縁ガイドに引き込む。そのため、所望の潤滑効果が減少する。
・・・(中略)・・・
【0013】本発明は、縁ガイドで併合する2つの外部スライドによって縁ガイドに沿って潤滑液帯を供給する装置である。スライドは下向きだが、必ずしも縦でなくてよく、一方のスライドをカーテンの前部に向かって角度をもたせ、他方のスライドをカーテンの後部に向けて設ける。その結果、Vの字でVの各脚部がスライドを表す形状となり、Vの底部で両脚部が併合し、縁ガイドとつながる。2つのスライドは、必ずしも1つの点でつながる必要はない。
【0014】本発明は、界面活性剤の潤滑液への付加を容易にする。界面活性剤を付加することでカーテン液の潤滑液上での広がりを最小限にできるため、引き込みを最小限に抑えて、カーテンの均一性を最大限とする。本発明では、界面活性剤が潤滑液の表面を移動するために必要な時間を与え、潤滑液がカーテン縁と遭遇する前の表面張力を減少させる。これによって、カーテンと潤滑液の表面張力が、潤滑液とカーテン溶液が混合するポイントでバランスされるため、縁ガイドでの表面張力によるカーテン流と潤滑液の望ましくない効果が除かれる。
【0015】本設計によって、固体壁から縁ガイドの潤滑部分まで移動する時、カーテンが縁へ非常に平滑に移行することになる。また、潤滑された縁ガイドと混合する前にカーテンが非潤滑壁に沿って移動しなければならない距離を最小限にしながら、潤滑液流を層状に確保する。潤滑液は、スライドを流れ落ちるため、特に潤滑液に界面活性剤が含まれる部分で、流れの乱れが減少する。
【0016】潤滑液がカーテン内に入るポイントで、2つのスライドも併合し、縁ガイドに沿って1つの潤滑液帯を形成する。2つの液体スライドとカーテンの併合によって、カーテン溶液は非常に平滑に乱れなく移行する。図4から図7には、本発明の潤滑液供給装置の各種図を示す。図4は、カーテンから見た図で、カーテンの面に沿って見ている。カーテンのための縁壁50の幅Wは、コーティングをできる限り均一にするため、カーテンの厚みに近いものでなければならない。この壁50の幅がカーテンよりはるかに広いと、空気とのインターフェースが非平面状となり、コーティングが非均一となる。潤滑液は、ダクト52を介して導入する。ダクト52は、カーテンの前部53とカーテンの後部54で終結する。これら終結点53および54は、スライド面55および56とつながる。潤滑液は、供給管58(図5および図6参照)を介して供給ダクト52に供給されるが、他の手段も可能である。この2つのスライド面55および56はポイント60で併合する。このポイント60で、潤滑液が縁ガイド62と接触する。図4に示すのは、1992年11月19日付け出願のアメリカ合衆国特許出願第07/979,504号で説明される二重ワイヤ縁ガイドである。1992年11月20日付け出願のアメリカ合衆国特許出願第07/979,720号に説明される他の縁ガイドを用いることもできる。この出願では縁ガイドとして先細縁板を説明している。図7にサポートから見上げた供給装置の底面図を示す。
・・・(中略)・・・
【0019】この潤滑液供給装置を使って、水性骨ゼラチンの5層カーテンを形成した。5層のそれぞれの特性を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】表1の各層には、カーテンの均一性を目視で評価するため、カーボンブラックを同じ濃度で拡散させた。潤滑液は、視認性のため低濃度のマゼンタ染料と、華氏105度で0.8cpまで粘度を上げるためグリセロールを含む水だった。潤滑液の流量は、縁ガイドについて35cc/分だった。潤滑液に界面活性剤がないと、カーテンの2つの面は、潤滑液がメインカーテンと接するところで潤滑液の表面を越えて広がった。潤滑液の色は、カーテンの黒い合成物がワイヤガイドに移動した結果、黒くなった。潤滑液に、メインカーテンの最上および最下層と同等のレベルの界面活性剤を付加することで、広がりは停止し、潤滑液はワイヤガイドに隣接する部分でも澄んだ帯のままだった。」

ウ 「【図面の簡単な説明】
【図1】カーテンコーティング縁付け工程の単純化した略斜視図である。
【図2】従来技術の縁ガイドで発生する表面張力流を示す。
・・・(中略)・・・
【図3】縁ガイド上の乱れから生じる定常波を示す。
【図4】本発明の潤滑液入口装置の側面図である。
【図5】本発明の潤滑液入口装置の正面図である。
【図6】本発明の潤滑液入口装置の平面図である。
【図7】本発明の潤滑液入口の底面図である。
・・・(中略)・・・
【図1】


【図2】


・・・(中略)・・・
【図4】

【図5】


【図6】

【図7】




(4)引用例2に記載の技術的事項
上記(3)から、引用例2には、以下の事項(以下「引用例2に記載の技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。なお、認定に際して参考にした引用例2の記載箇所を段落番号で付記する。

「(【0002】)複数の異なる液体の多層合成物をスライドホッパ上に形成し、ここから落下させて落下カーテンを形成する(【0003】)カーテンコーティング工程において、表面張力の影響下で落下するカーテンの縁が収縮するのを防ぐため、カーテン縁ガイドによってカーテンの縁を案内しなければならないことは周知であり、(【0004】)カーテンと縁ガイドとの間に、一般に単なる水からなる潤滑液を導入することで、カーテンの動作が改善することはよく知られているところ、(【0005】)潤滑液を急激に導入すると、界面活性剤が拡散する時間がないため、界面活性剤を加えても、カーテンに比べて当初の表面張力が高くなることは避けられず、これによって、縁ガイド近くの有効粘性が上がり、増加した壁抗力がカーテンの縁の運動量を減らし、コーティング速度を制限し、縁の均一性を落とし、もって無駄を生じる、といった課題があることから、(【0006】)カーテン溶液に似た表面張力を持ち、カーテンを妨害しない縁ガイドに沿った潤滑液帯を発生する方法を提供するものであって、(【0010】)潤滑液の表面張力がカーテンの表面張力より高い場合、潤滑液の表面は収縮し、高粘度のカーテン合成物の一部を縁ガイドに引き込むことで所望の潤滑効果が減少するものであることから、(【0013】)縁ガイドで併合する2つの外部スライドによって縁ガイドに沿って潤滑液帯を供給する装置を用い、(【0014】)潤滑液へ界面活性剤を付加することでカーテン液の潤滑液上での広がりを最小限にし、引き込みを最小限に抑えて、カーテンの均一性を最大限とし、カーテンと潤滑液の表面張力が、潤滑液とカーテン溶液が混合するポイントでバランスし、縁ガイドでの表面張力によるカーテン流と潤滑液の望ましくない効果が除かれるようにした。」


5 対比及び判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
ア 引用発明の「スライド面9」は、本願発明の「スライド面」に相当する。
イ 引用発明の「少なくとも1層以上の塗布液」は、本願発明の「少なくとも1層以上の塗料」に相当する。
ウ 引用発明の「塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ」は、本願発明の「塗料をカーテン状に案内するエッジガイドで自然落下させ」に相当する。
エ 引用発明の「連続走行するウェブ」は、本願発明の「移動する基材」に相当する。
オ 上記イ及びエから、引用発明の「少なくとも1層以上の塗布液を」「連続走行するウェブ上に塗布する」は、本願発明の「少なくとも1層以上の塗料を吐出させ」「移動する基材上に塗工膜を積層する」に相当する。
カ 引用発明の「カーテン塗布工程」は、本願発明の「カーテン塗工」に相当する。
キ 引用発明の「感熱記録ラベルや感熱記録磁気紙などの感熱記録材料の製造方法」は、本願発明の「感熱記録体の製造方法」に相当する。
ク 上記ア?キから、引用発明の「少なくとも1層以上の塗布液を」「吐出し、該吐出された塗布液を、」「スライド面9上において移動させ、さらに該吐出された塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ、連続走行するウェブ上に塗布するカーテン塗布工程」「を備えた塗工方法」「を、製造過程に適用した、感熱記録ラベルや感熱記録磁気紙などの感熱記録材料の製造方法」は、本願発明の「スライド面上に、少なくとも1層以上の塗料を吐出させ、前記スライド面から前記塗料をカーテン状に案内するエッジガイドで自然落下させて、移動する基材上に塗工膜を積層するカーテン塗工による感熱記録体の製造方法」に相当する。

(2)一致点及び相違点
上記(1)から、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「スライド面上に、少なくとも1層以上の塗料を吐出させ、前記スライド面から前記塗料をカーテン状に案内するエッジガイドで自然落下させて、移動する基材上に塗工膜を積層するカーテン塗工による感熱記録体の製造方法」

(相違点1)
「スライド面」が、本願発明では、「傾斜した」ものであることが特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

(相違点2)
本願発明では、「前記エッジガイドに供給される潤滑液の表面張力と前記塗料の表面張力との差の絶対値を、4mN/m以下」とすることが特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点1について
スリットから吐出された塗布液をスライド面上で移動させ、該塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させるカーテン塗布工程において、スライド面を傾斜させることは、本願の出願時に周知技術であったと認められる(当該周知技術について、例えば、特公昭49-24133号公報の7欄16行?20行、9欄19行?24行及び図1、特開平8-84951号公報の段落【0024】及び図1を参照。)。
引用発明は、「スリットから」「吐出された塗布液を」「スライド面9上において移動させ」るものであり、上記周知技術を考慮すると、引用発明においても、スライド面を傾斜させて塗布液の自重により塗布液をスライド面上で移動させていると考えるのが自然である。
よって、引用発明においても、スライド面は傾斜したものであると認められ、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
また、仮に上記相違点1が実質的な相違点であるとしても、引用発明に上記周知技術を適用し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
(ア)引用発明は、「少なくとも1層以上の塗布液を」「スライド面9上において移動させ、」「塗布液をカーテン状に案内するカーテンエッジガイドで自由落下させ」「るカーテン塗布工程」を有するものであるところ、引用例2に記載の技術的事項(上記4(4)参照。)は、複数の異なる液体の多層合成物をスライドホッパ上に形成し、ここから落下させて落下カーテンを形成するカーテンコーティング工程において、表面張力の影響下で落下するカーテンの縁が収縮するのを防ぐため、カーテン縁ガイドによってカーテンの縁を案内するものであるから、両者は互いに関連する技術分野に属するものである。
(イ)そして、引用例2に記載の技術的事項は、カーテンの動作を改善するために、カーテンと縁ガイドとの間に潤滑液を導入した上で、潤滑液へ界面活性剤を付加することで、カーテン液の潤滑液上での広がりを最小限にし、カーテン合成物の一部の縁ガイドへの引き込みを最小限に抑えて、カーテンの均一性を最大限とし、カーテンと潤滑液の表面張力をバランスさせて、カーテン溶液に似た表面張力を持ち、カーテンを妨害しない縁ガイドに沿った潤滑液帯を発生させることを教示しているのであるから、引用発明に、引用例2に記載の技術的事項を適用して、「カーテン状」の「塗布液」の動作を改善するために、「カーテン状」の「塗布液」と「カーテンエッジガイド」との間に潤滑液を導入した上で、潤滑液へ界面活性剤を付加することで、「カーテン状」の「塗布液」の潤滑液上での広がりを最小限にし、「カーテン状」の「塗布液」の一部の「カーテンエッジガイド」への引き込みを最小限に抑えて、「カーテン状」の「塗布液」の均一性を最大限とし、「カーテン状」の「塗布液」と潤滑液の表面張力をバランスさせて、「塗布液」に似た表面張力を持ち、「カーテン状」の「塗布液」を妨害しない「カーテンエッジガイド」に沿った潤滑液帯を発生させることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ)その際、引用発明において、「カーテン状」の「塗布液」と潤滑液の表面張力がバランスするようにして、「塗布液」に似た表面張力を持つ潤滑液帯を発生させるのであるから、「塗布液」と潤滑液の表面張力がなるべく等しくなるよう設定することは当業者が適宜なし得た事項であるところ、「塗布液」と潤滑液の表面張力の差がなるべく小さくなるよう両者の表面張力を設定することで、その差の絶対値が4mN/m以下となる範囲に収まることは、当業者が適宜なし得た事項である。
(エ)よって、引用発明に、引用例2に記載の技術的事項を適用し、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)効果
ア 本願の明細書の段落【0012】には、「本発明では、エッジガイドに供給される潤滑液の表面張力と、前記エッジガイドによってカーテン状に案内される塗料の表面張力との差の絶対値を、4mN/m以下としているので、エッジガイドに供給される潤滑液とエッジガイドによってカーテン状に案内される塗料との表面張力がバランスして幅方向に均等な厚みの安定したカーテン塗膜を形成することができる。」との記載があるが、引用例2には、「潤滑液の表面張力がカーテンの表面張力より高い」と「潤滑液の表面は収縮し、高粘度のカーテン合成物の一部」が「縁ガイドに引き込」まれてしまうこと(上記4(3)イの段落【0010】)、「カーテン溶液に似た表面張力を持ち、カーテンを妨害しない縁ガイドに沿った潤滑液帯を発生」させること(上記4(3)アの段落【0006】)、潤滑液へ「界面活性剤を付加することでカーテン液の潤滑液上での広がりを最小限にできるため、引き込みを最小限に抑えて、カーテンの均一性を最大限」にできること(上記4(3)イの段落【0014】)、界面活性剤により「カーテンと潤滑液の表面張力が」「バランス」すること(上記4(3)イの段落【0014】)等が記載されており、上記本願発明の効果は、引用発明及び引用例2の記載から当業者が予測できたものである。

イ その他、上記相違点1?2に係る本願発明の発明特定事項により奏される効果について、格別顕著な点は見いだせない。

ウ なお、潤滑液と塗料の表面張力に関して、引用例1(上記4(1)オの段落【0108】?【0109】、【0112】?【0113】を参照。)には、表面張力が35又は38mN/mの感熱発色層塗布液、第一保護層塗布液又は第二保護層塗布液を用いることが例示されており、また、潤滑液に界面活性剤を含ませることで表面張力が28mN/m?54mN/mの範囲内の値をとり得ることは周知技術である(例えば、特開2008-93656号公報の段落【0061】及び【0068】?【0069】における35mN/mの表面張力を有する塗布液に対して28mN/m及び54mN/mの表面張力を有する補助液、特開昭59-132966号公報の9頁右下欄14行、11頁左上欄16行?右上欄13行における39.2?42mN/mの表面張力を有するカーテンに対して39mN/mの表面張力を有する補助液体等を参照。)。

(5)まとめ
上記(1)?(4)のとおり、本願発明は、引用例1に記載された引用発明及び引用例2に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された引用発明及び引用例2に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-19 
結審通知日 2016-02-24 
審決日 2016-03-08 
出願番号 特願2011-106211(P2011-106211)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 佐竹 政彦
樋口 信宏
発明の名称 感熱記録体の製造方法  
代理人 嶋田 太郎  

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