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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04N
管理番号 1314245
審判番号 不服2016-4501  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-25 
確定日 2016-05-24 
事件の表示 特願2015-231867「送信装置、送信方法、受信装置および受信方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月14日出願公開、特開2016- 54543、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成26年1月17日(優先権主張平成25年8月9日)に出願した特願2014-7306号の一部を、数次の分割を経て平成27年11月27日に新たな特許出願としたものであって、平成27年12月17日(起案日)付けで拒絶の理由が通知され、それに応答して平成28年1月19日付けで手続補正がなされたが、平成28年2月15日(起案日)付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成28年3月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成28年1月19日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のビデオストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のビデオストリームを生成する画像符号化部を備え、
上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記第1のビデオストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入され、
上記画像符号化部で生成された上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを含むと共に、上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームにそれぞれ対応して、各ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報を含み、さらに、上記第1のビデオストリームに対応して該第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入された第1のデスクリプタと、上記第2のビデオストリームに対応して上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを合わせたビデオストリームのレベル指定値が挿入された第2のデスクリプタを含む多重化ストリームを送信する送信部を備える
送信装置。
【請求項2】
上記画像符号化部は、
上記低階層側および上記高階層側のそれぞれにおいて、各ピクチャの符号化画像データに、各ピクチャの符号化画像データのデコード間隔を等間隔とするためのデコードタイミングを与えるタイムスタンプを付与する
請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
画像符号化部が、動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のビデオストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のビデオストリームを生成する画像符号化ステップを有し、
上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記第1のビデオストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入され、
送信部が、上記画像符号化ステップで生成された上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを含むと共に、上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームにそれぞれ対応して、各ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報を含み、さらに、上記第1のビデオストリームに対応して該第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入された第1のデスクリプタと、上記第2のビデオストリームに対応して上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを合わせたビデオストリームのレベル指定値が挿入された第2のデスクリプタを含む多重化ストリームを送信する送信ステップを有する
送信方法。
【請求項4】
動画像データを構成する各ピクチャの画像データが階層符号化されて生成された、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のビデオストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のビデオストリームを含むと共に、上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームにそれぞれ対応して、各ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報を含み、さらに、上記第1のビデオストリームに対応して該第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入された第1のデスクリプタと、上記第2のビデオストリームに対応して上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを合わせたビデオストリームのレベル指定値が挿入された第2のデスクリプタを含む多重化ストリームを受信する受信部を備え、
上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記第1のビデオストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入されており、
上記階層範囲情報と、上記第1のデスクリプタおよび第2のデスクリプタに挿入されているビデオストリームのレベル指定値に基づいて、上記受信された多重化ストリームに含まれる上記第1のビデオストリーム、あるいは上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームの双方から、最下位の階層から所望の階層までのピクチャの符号化画像データを取り出し、復号化処理を行う処理部をさらに備える
受信装置。
【請求項5】
受信部が、動画像データを構成する各ピクチャの画像データが階層符号化されて生成された、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のビデオストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のビデオストリームを含むと共に、上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームにそれぞれ対応して、各ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報を含み、さらに、上記第1のビデオストリームに対応して該第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入された第1のデスクリプタと、上記第2のビデオストリームに対応して上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを合わせたビデオストリームのレベル指定値が挿入された第2のデスクリプタを含む多重化ストリームを受信する受信ステップを有し、
上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記第1のビデオストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入されており、
処理部が、上記階層範囲情報と、上記第1のデスクリプタおよび第2のデスクリプタに挿入されているビデオストリームのレベル指定値に基づいて、上記受信された多重化ストリームに含まれる上記第1のビデオストリーム、あるいは上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームの双方から、最下位の階層から所望の階層までのピクチャの符号化画像データを取り出し、復号化処理を行う処理ステップをさらに有する
受信方法。」

第3.原査定の理由の概要
本願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献)
引用文献1:Sam Narasimhan et al.,Consideration of buffer management issues HEVC scalability, [online],Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 14th Meeting: Vienna, Austria, AT, 25 July - 2 Aug. 2013,
引用文献2:Rickard Sjoberg et al.,High-Level Syntax for Bitstream Extraction, [online],Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 7th Meeting: Geneva, CH, 21-30 November, 2011,
引用文献3:Information technology --Generic coding of moving pictures and associated audio information: Systems AMENDMENT 3: Transport of HEVC video over MPEG-2 systems,2012-05-24,p.5,

本願発明と引用文献1記載の発明との相違点である、第1のビデオストリームのSPSのNALユニットに第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入されること(相違点1)、多重化ストリームに、各ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大及び最小の値を示す階層範囲情報と、第1のビデオストリームに第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入された第1のデスクリプタと、第2のビデオストリームに第1のビデオストリームおよび第2のビデオストリームを合わせたビデオストリームのレベル指定値が挿入された第2のデスクリプタを含むこと(相違点2)は、それぞれ、引用文献2及び引用文献3記載の技術から当業者が容易になし得ることである。

第4.当審の判断
1.引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である「Consideration of buffer management issues HEVC scalability」(HEVCのスケーラビリティのバッファ管理の問題の考慮事項)の「1. Introduction」(1.序論)には、次に掲げる事項が記載されている(なお、括弧内に当審で作成した日本語仮訳を添付する)。

「1. Introduction
1.1 Buffer model considerations
The scalability model as introduced in SVC (and also used in MVC) uses AVC base layer and adds scalable enhancements to achieve temporal, SNR and spatial improvements. Typical SVC applications targetted use cases where bit rate savings were achieved over simulcast of ‘base layer and enhancement without scalability’. MVC provided view enhancements using a similar model.」
(1.序論
1.1バッファモデルの考慮事項
SVCで導入された(また、MVCにおいても同様に用いられた)ようなスケーラビリティモデルは、AVCベースレイヤを使用し、また、時間的、SNR、空間的な改善を達成するために、スケーラブルなエンハンスメントを追加します。目標とする典型的なSVCアプリケーションは、「ベースレイヤとスケーラビリティのないエンハンスメント」の同時放送上で、ビットレートの節約が達成されるケースを使用します。MVCは同様のモデルを使用してビューのエンハンスメントを提供しました。)

「Some of the application use cases required transmission of AVC base layer stream to base layer decoder while the enhancement layer was transmitted seperately where the SVC/MVC decoder assembled the base and enhancement layers before decoding the enhanced data.」
(いくつかのアプリケーションは、エンハンスメントレイヤが別に送信される間、ベースレイヤデコーダにAVCベースレイヤストリームの送信が要求されるケースを使用します。そして、その時、SVC/MVCデコーダは、エンハンスメントデータを復号化する前に、ベース及びエンハンスメントレイヤを組み立てます。)





「The base layer video stream may use different profile and level than the [base + enhancement layer] (uaually this being higher level than base layer) and each required a different CPB size and bit rate for HRD buffer management. The video standard (and in turn systems) did not specify an independent buffer size and rate for each enhancement layer and the specification defined a scheme where the base layer and [base + enhancement layer] buffers had to be managed in parallel to make sure they did not overflow or underflow. This management was required at both the encoding end as well as decoders. The HRD model for SVC and MVC did not address such parallel CPB management of base layer and [base + enhancement layer]. The HRD model defined how to extract base layer video from the full SVC/MVC access unit and then manage the base layer.」
(ベースレイヤビデオストリームは、[ベース+エンハンスメントレイヤ](通常、ベースレイヤよりもハイレベルである)とは異なるプロファイルとレベルを使用することができ、それぞれがHRDバッファ管理のための異なるCPBサイズとビットレートが要求されます。ビデオ規格(と同様にシステム)は、各エンハンスメントレイヤのための独立したバッファサイズとレートを指定しませんでした。そして、仕様は、ベースレイヤと[ベース+エンハンスメントレイヤ]のバッファが確実にオーバーフローまたはアンダーフローしないようするために並行して管理されなければならない時のスキームを定義しました。この管理は、復号化側と同様に、符号化端の両方で必要とされました。SVCとMVCのためのHRDモデルは、ベースレイヤと[ベース+エンハンスメントレイヤ]の並列CPB管理のようなものに対応していませんでした。HRDモデルは、完全なSVC/MVCアクセスユニットからベースレイヤビデオを抽出し、そして、ベースレイヤを管理する方法を定義しました。)

「The transport part of SVC/MVC had to support the STD management independently for base and [base + enhancement layer] as STD does not have the ability to extract base layer data from full SVC access units and this capability would have required the base layer decoders to support the larger buffer sizes that included the base and enhancement layer data.
The STD extension in systems requires a virtual re-assembly buffer and the management of multiple buffers after re-assembly (see figure below).
This has made the STD more complex for SVC and MVC transport and makes re-multiplexing very difficult, complex and not implementable with legacy re-multiplexers. The defined compression of enhancement layer required variable bit rate and buffer allocation between base layer and enhancement layer to achieve best results. For example, if it was required to use a higher buffer size and rates for base layer, the equivalent was adjusted in enhancement layer and vice versa. However, the buffer size and rates for base layer or [base + enhancement] layer could never exceed the maximum limits for the level specified.」
(SVC/MVCの伝送部は、完全なSVCアクセスユニットからベースレイヤデータを抽出する能力を持たないSTDについて、ベースと[ベース+エンハンスメントレイヤ]の独立したSTD管理をサポートしなければなりませんでした。そして、この能力は、ベース及びエンハンスメントレイヤデータが含まれるような、より大きなバッファサイズをサポートするベースレイヤデコーダを必要としました。システムにおけるSTDの拡張は、仮想的再組み立てバッファ及び再組み立て後の複数バッファの管理を必要とします(下図参照)。これは、SVCとMVC伝送のためにSTDをより複雑にし、再多重化を非常に困難に、複雑に、従来の再マルチプレクサで実現可能ではないようにしました。エンハンスメントレイヤの定義された圧縮は、最良の結果を達成するために、ベースレイヤとエンハンスメントレイヤとの間の可変ビットレートとバッファの割り当てを必要としました。例えば、もし、ベースレイヤのためにより高いバッファサイズとレートを使用する必要があった場合は、同僚のものがエンハンスメントレイヤにおいて調整されました。そして、逆も同様です。しかし、ベースレイヤまたは[ベース+エンハンスメント]レイヤのバッファサイズやレートは、指定されたレベルの最大制限を超えることはありませんでした。)

「The following diagram shows an example of the system buffer model for HEVC layered coding and this is the same as that specified for SVC and MVC.」
(次の図は、HEVC階層符号化のためのシステムバッファモデルの例を示しており、これは、SVCとMVCのために指定されたものと同じです。)





2.引用発明
上記の記載事項によれば、引用文献1には、HEVCの時間的スケーラビリティモデルに関し、符号化側から、ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータがそれぞれ別のPIDを有するビデオサブストリームに分離されて送信され、復号化側において、復号化を行う前にベースレイヤとエンハンスメントレイヤの再組み立てが行われるHEVCの階層符号化システムモデルが記載されている。

すなわち、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。なお、引用発明の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成(a)、構成(b)などと称する。

(引用発明)
(a)符号化側から、ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータがそれぞれ別のPIDを有するビデオサブストリームに分離されて送信され、
(b)復号化側において、復号化を行う前にベースレイヤとエンハンスメントレイヤの再組み立てが行われる
(c)HEVCの階層符号化システムモデル。

3.請求項1に係る発明について
(1)本願発明1
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は、次のとおりである。なお、本願発明1の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成(A)、構成(B)などと称する。

(本願発明1)
(A)動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のビデオストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のビデオストリームを生成する画像符号化部を備え、
(B)上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記第1のビデオストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入され、
(C)上記画像符号化部で生成された上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを含むと共に、上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームにそれぞれ対応して、各ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報を含み、さらに、上記第1のビデオストリームに対応して該第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入された第1のデスクリプタと、上記第2のビデオストリームに対応して上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを合わせたビデオストリームのレベル指定値が挿入された第2のデスクリプタを含む多重化ストリームを送信する送信部を備える
(D)送信装置。

(2)対比
本願発明1と上記引用発明とを対比する。

a.本願発明1の構成(A)について
引用発明の構成(a)は、HEVCの階層符号化システムモデルにおいて、「符号化側から、ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータがそれぞれ別のPIDを有するビデオサブストリームに分離されて送信され」るものである。

ここで、HEVCの階層符号化の「ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータ」は、HEVCが動画像圧縮符号化標準規格であるから、動画像を階層符号化したデータである。
そして、動画像の符号化は、動画像データを構成する各ピクチャの画像データを符号化することであることは技術常識であるから、引用発明のHEVCの階層符号化の「ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータ」は、『動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し』て生成されたデータといえる。

また、引用発明のHEVCの階層符号化の「ベースレイヤデータ」は、階層符号化における『低階層側のピクチャの符号化画像データ』であるといえ、「エンハンスメントレイヤデータ」は、階層符号化における『高階層側のピクチャの符号化画像データ』といえる。
そして、引用発明は、符号化側において、「ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータ」をそれぞれ別のPIDを有する「ビデオサブストリームに分離」して送信するものであるから、『ベースレイヤデータを持つ第1のビデオストリームと、エンハンスメントレイヤデータを持つ第2のビデオストリームを生成する』ものといえる。

これらのことから、引用発明は、符号化側において、動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のビデオストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のビデオストリームを生成するものといえる。
そして、引用発明は、そのような処理を行う画像符号化部を符号化側に備えているといえる。

したがって、引用発明の構成(a)は、本願発明1の構成(A)の「動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のビデオストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のビデオストリームを生成する画像符号化部を備え」という構成と一致するものである。

b.本願発明1の構成(B)について
引用発明のHEVCの階層符号化システムモデルは、ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータのビデオサブストリームの構造や、その他のデータについては何ら特定されていないものである。
よって、引用発明は、本願発明1の構成(B)の「上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記第1のビデオストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入され」という構成を有しているか特定されていない点で本願発明1と相違する。

c.本願発明1の構成(C)について
引用発明は、構成(a)において、符号化側から、ベースレイヤデータのビデオサブストリームとエンハンスメントレイヤデータのビデオサブストリームを送信しているから、引用発明は、符号化側に、その送信を行う送信部を備えているといえる。
そうすると、引用発明は、本願発明1の構成(C)と「上記画像符号化部で生成された上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを含むストリームを送信する送信部を備える」ものである点で一致するものといえる。
しかしながら、送信部が送信するストリームに関し、本願発明1は、多重化ストリームであるのに対し、引用発明は、多重化ストリームであるとは特定されていない点、そして、そのストリームに関し、本願発明1は「上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームにそれぞれ対応して、各ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報を含み、さらに、上記第1のビデオストリームに対応して該第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入された第1のデスクリプタと、上記第2のビデオストリームに対応して上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを合わせたビデオストリームのレベル指定値が挿入された第2のデスクリプタを含む」ものであるのに対し、引用発明はそのようなものであるとは特定されていない点で相違する。

d.本願発明1の構成(D)について
引用発明は、上述のc.において検討したとおり、符号化側において、ベースレイヤデータのビデオサブストリームとエンハンスメントレイヤデータのビデオサブストリームを送信するものであるから、引用発明の符号化側は送信装置といえる。
よって、引用発明は、本願発明1の構成(D)を有しているものである。

e.以上をまとめると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のビデオストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のビデオストリームを生成する画像符号化部を備え、
上記画像符号化部で生成された上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを含むストリームを送信する送信部を備える
送信装置。

[相違点1]
引用発明は、「上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記第1のビデオストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入され」という構成を有しているか特定されていない点。

[相違点2]
送信部が送信するストリームに関し、本願発明1は、多重化ストリームであるのに対し、引用発明は、多重化ストリームであるとは特定されていない点。

[相違点3]
送信部が送信するストリームに関し、本願発明1は「上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームにそれぞれ対応して、各ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報を含み、さらに、上記第1のビデオストリームに対応して該第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入された第1のデスクリプタと、上記第2のビデオストリームに対応して上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを合わせたビデオストリームのレベル指定値が挿入された第2のデスクリプタを含む」ものであるのに対し、引用発明はそのようなものであるとは特定されていない点。

(3)相違点の判断
a.相違点1について
引用発明において採用されているHEVCは、その前身であるH.264/AVCをベースとし、続いて検討された動画像圧縮符号化の標準規格であり、動画像の符号化データをNALユニット構造とすること、SPSのNALユニットを設けること、SPSにはビデオストリームのレベル指定値を記述することは、H.264/AVCで既に規定されている周知の技術である。
そして、動画像データを階層符号化した符号化データの場合には、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2である「High-Level Syntax for Bitstream Extraction」(ビットストリーム抽出のためのハイレベル構文)に、「2 Proposed Basic Design」(2 提案された基本設計)の「Each coded sequence contains one base SPS that represents the base layer of the coded video sequence. Enhancement layers are represented by respective enhancement SPSs. An enhancement SPS contains a reference to its respective reference SPS, as well as information that is particular for the respective layer, such as temporal_id and level_idc.」(4頁4?7行)(仮訳:それぞれの符号化されたシーケンスは、符号化されたビデオシーケンスのベースレイヤを表す一つのベースSPSが含まれています。エンハンスメントレイヤは、それぞれのエンハンスメントSPSによって表されます。エンハンスメントSPSは、それぞれの参照SPSへの参照情報と同様に、temporal_idとlevel_idcのような、それぞれのレイヤのための特定の情報とが含まれています。)、「3.2.1 Syntax」内の「level_idc」、「3.2.3 Semantics」の「level_idc indicates the level to which the coded video sequence associated with the current sequence parameter set conforms.」(仮訳:level_idcは現在のシーケンスパラメータセットに関連する符号化されたビデオシーケンスが準拠するレベルを示している。)と記載されているように、階層符号化の各レイヤに、そのビデオシーケンスに対応したSPSを設け、SPSに各レイヤのビデオシーケンスのレベル指定値を記述することが公知の技術である。
したがって、引用発明にこれらの技術を適用し、相違点1に係る「上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記第1のビデオストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入され」という構成を持たせることは、当業者が容易に想到し得ることである。

b.相違点2について
動画像圧縮符号化における符号化データの配信技術において、複数のビデオストリームを多重化して送信することは普通に行われている慣用技術であり、引用発明において、符号化側が送信する複数のビデオサブストリームを、多重化した多重化ストリームとし、相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

c.相違点3について
動画像圧縮符号化における符号化データの配信技術において、ビデオストリームの属性情報を記述したデスクリプタを多重化ストリームに含めて伝送することは周知の技術であり、HEVCのデスクリプタについて、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3である「Information technology --Generic coding of moving pictures and associated audio information: Systems AMENDMENT 3: Transport of HEVC video over MPEG-2 systems」(情報技術-動画像と関連するオーディオ情報のジェネリックコーディング:システム 改正3:MPEG-2システム上のHEVCビデオの伝送)に、「2.6.96 HEVC video descriptor」の「Syntax」内の「level_idc, temporal_id_min, temporal_id_max」、及び「2.6.97 Semantic definition of fields in HEVC video descriptor」の「level_idc - This 8-bit field indicates the level, as defined in the HEVC specification. temporal_id_min - This 3-bit field indicates the minimum value of the temporal_id syntax element in the NAL unit header, as defined in the HEVC specification, for the associated Elementary Stream. temporal_id_max - This 3-bit field indicates the minimum value of the temporal_id syntax element in the NAL unit header, as defined in the HEVC specification, for the associated Elementary Stream.」(仮訳:level_idc -この8ビットのフィールドは、HEVC仕様で定義されているように、レベルを示します。temporal_id_min -この3ビットのフィールドは、関連するエレメンタリストリームに対して、HEVC仕様で定義されているように、NALユニットヘッダにおけるtemporal_id構文要素の最小値を示しています。temporal_id_max - この3ビットのフィールドは、関連するエレメンタリストリームに対して、HEVC仕様で定義されているように、NALユニットヘッダにおけるtemporal_id構文要素の最小(「maximum(最大)」の誤記であると認定できる)値を示しています。)と記載されているように、ビデオストリームに含まれる符号化データに関するtemporal_id_minとtemporal_id_max、すなわち、階層符号化における符号化画像データの階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報、及びlevel_idc、すなわちレベル指定値を挿入することが公知の技術である。

ここで、本願発明1の「第1のビデオストリーム」及び「第2のビデオストリーム」について確認すると、本願発明1の構成(A)にあるように、「第1のビデオストリーム」は低階層側のピクチャの符号化画像データを有し、「第2のビデオストリーム」は高階層側のピクチャの符号化画像データを有している。そして、「第1のビデオストリーム」は単独で復号化が可能な『通常の』ストリームであるが、「第2のビデオストリーム」は「第1のビデオストリーム」と組み合わされない限り復号化できず、単独では復号化が可能ではない『通常でない』ストリームであるといえる。

そうすると、引用発明に上記公知の技術を適用し、通常のストリームである「第1のビデオストリーム」に関連して、多重化ストリームに「第1のビデオストリームに対応して、ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報」、及び「第1のビデオストリームに対応して該第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入された第1のデスクリプタ」を含ませることは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。

一方、通常のストリームとは異なる「第2のビデオストリーム」に関連して、多重化ストリームにどのような情報を含ませるかということについて、引用文献3には何ら記載されていない。そして、通常とは異なるストリームへの対応は様々な方法が想定でき、例えば、多重化ストリームに含ませる情報は通常のストリームと同様のものとしておき、ストリームの分析により復号化の処理を可能とすることや、多重化ストリームに含ませる情報を通常のストリームとは異なるものとしておき、復号化の処理を簡単にすることなど、様々な方法を選択することが可能である。
そして、その対応方法として、多重化ストリームに含ませる情報を、相違点3に係る「第2のビデオストリームに対応して、ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報」及び「第2のビデオストリームに対応して上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを合わせたビデオストリームのレベル指定値が挿入された第2のデスクリプタ」とすることについて、様々な対応方法から、その対応方法を選択する積極的な理由を、引用文献1ないし3の記載事項から見出すことはできない。
よって、引用発明に上記構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

このように、引用文献3には、上記相違点に係る発明の構成は開示されておらず、本願発明1が、引用発明に引用文献3記載の技術を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1ないし3に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.請求項2ないし5に係る発明について
本願の請求項2ないし5に係る発明は、上記[相違点3]に係る請求項1の「上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームにそれぞれ対応して、各ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報を含み、さらに、上記第1のビデオストリームに対応して該第1のビデオストリームのレベル指定値が挿入された第1のデスクリプタと、上記第2のビデオストリームに対応して上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを合わせたビデオストリームのレベル指定値が挿入された第2のデスクリプタを含む多重化ストリーム」という技術事項を含むものであるから、同様の理由により、引用文献1ないし3に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし5に係る発明は、引用文献1ないし3に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の拒絶理由によっては拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-05-10 
出願番号 特願2015-231867(P2015-231867)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 嘉宏  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 清水 正一
戸次 一夫
発明の名称 送信装置、送信方法、受信装置および受信方法  
代理人 特許業務法人大同特許事務所  
代理人 佐々木 榮二  
代理人 宮田 正昭  
代理人 山田 英治  
代理人 澤田 俊夫  

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