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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1314350
異議申立番号 異議2016-700072  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-29 
確定日 2016-05-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第5757495号「びらん性多発性関節炎の治療のためのTNF阻害剤の使用」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5757495号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5757495号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は,平成18年5月16日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2005年5月16日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成27年6月12日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人(以後,「申立人」という。) 特許業務法人藤央特許事務所及び新井誠一により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第5757495号の請求項1ないし3の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3 申立理由の概要
申立人 特許業務法人藤央特許事務所は,甲第1?25号証(以下,申立番号と甲号証の番号によって,「甲1-1」などという。)を提出し,請求項1ないし3に係る特許は,甲1-1に記載された発明と同一であり,また,甲1-2,甲1-5,甲1-6に記載された発明及び甲1-3,甲1-4,甲1-16,甲1-18又は甲1-19に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の規定に違反してなされたものであるから,請求項1ないし3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。また,請求項1ないし3に係る特許は特許法第36条第4項第1号,同第6項第1号及び第2号の規定に違反してなされたものであるから,請求項1ないし3に係る特許を取り消すべきものである旨も主張している。
甲1-1:Ann Rheum Dis,2005年7月7日東京大学医学図書館受入,Vol.64,No.7(Suppl.I)[FRI0212](Ann Rheum Dis 2005;64(Supple III) 320)
甲1-2:日本臨床免疫学会会誌,第27巻第4号,平成16年8月31日発行,236頁
甲1-3:Arthritis & Rheumatism,2004,Vol.50,No.12,p.4097,L6
甲1-4:British Journal of Dermatology 2004,Vol.151,pp.492-496(甲1-4)
甲1-5:J.Clin.Invest.,2003,Vol.111,pp.821-831
甲1-6:特表2000-507810号公報
甲1-7:The EMBO Journal,1991,Vol.10,No.13,pp.4025-4031
甲1-8:The Journal of Immunology,1997,Vol.159,pp.2867-2876
甲1-9:PCT/US2006/019982の優先権証明書の表紙と米国特許仮出願第60/681,645号の発明者補正要求
甲1-10:米国特許出願11/435844号についての譲渡登録
甲1-11:Seminars in Arthritis and Rheumatism,1973,Vol.3,No.1,pp.55-78
甲1-12:Rheumatology,2003,Vol.42,pp.1460-1468
甲1-13:ARTHRITIS & RHEUMATISM,2004,Vol.50,No.7,pp.2264-2272
甲1-14:CENTER FOR DRUG EVALUATIONAND REASEARCH, APPROVAL PACKAGE FOR:APPLICATION NUMBER STN 103795/5102 Approved Labeling, ENBREL^(R)(etanercept)
甲1-15:ヒュミラ皮下注40mgシリンジ0.8mL(アダリムマブ)第2部 CTDの概要 2.5臨床に関する概括評価および2.7 臨床概要 アボット ジャパン株式会社 (平成22年1月20日付承認に対応した申請資料概要 独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ http://www.pdma.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/GeneralList/3999426G1にて2016年1月27日閲覧)
甲1-16:DN0828V4 CR24-02731(No.3799)NEW,HUMIRA^(R)(adalimumab)
甲1-17:「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」(平成4年6月29日付 薬新薬第43号 厚生省薬務局新医薬品課長通知
甲1-18:Journal of Dermatological Treatment,2005,Vol.16,pp.350-352
甲1-19:ARTHRITIS & RHEUMATISM,January 2005,Vol.52,No.1,pp.280-282
甲1-20:国際公開第WO2004/082635
甲1-21:レミケード点滴静注用100 審議結果報告書 平成21年12月3日,医薬食品局審査管理課
甲1-22:特願2008-512613号意見書(平成27年3月30日付)
甲1-23:日本臨床検査医学会編「診断群別臨床検査のガイドライン2003」平成15年12月15日第1版発行,92-95頁
甲1-24:World Health Organization「ICD-10 Tenth Rivision Volume 1 Second Edition」2004年
甲1-25:米国特許出願公開第2003/0235585号公報

また,申立人 新井誠一は,甲第1?19号証(以下,申立番号及び甲号証の番号によって「甲2-1」などという。)を提出し,請求項1ないし3に係る発明は,甲2-1,甲2-2に記載された発明と同一であり,また,甲2-1?甲2-11に記載された発明に基づき,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の規定に違反してなされたものであるから,請求項1ないし3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲2-1:Arthritis & Rheumatism,2004,Vol.50,No.12,p.4097,L6
甲2-2:Annals of the Rheumatic Diseases,March 2005,Vol.64,Suppl.II,pp.ii78-ii82
甲2-3:ARTHRITIS & RHEUMATISM,2004,Vol.50,No.5,pp.1400-1411
甲2-4:国際公開第WO2004/082635
甲2-5:ARTHRITIS & RHEUMATISM,2004,Vol.50,No.7,pp.2264-2272
甲2-6:Arthritis & Rheumatism,2004,Vol.50,No.9,S450,1135
甲2-7:ARTHRITIS & RHEUMATISM,April 2005,Vol.52,No.4,pp.1227-1236
甲2-8:Quaterly Journal of Medicine,1987,New Series 62,No.238,pp.127-141
甲2-9:J.Rheumatol.,March 2005,Vol.32,pp.511-515
甲2-10:Annals of the Rheumatic Diseases,March 2003,Vol.62,pp.68-70
甲2-11:日本臨床免疫学会会誌,第27巻第4号,平成16年8月31日発行,236頁
甲2-12:British Journal of Rheumatology,1991,Vol.30,No.4,pp.245-250
甲2-13:ARTHRITIS & RHEUMATISM(Arthritis Care & Research),2003,Vol.49,No.4,pp.541-545
甲2-14:Rev.Rhum.[Eng.Ed.],1996,Vol.63,No.1,pp.17-23
甲2-15:ARTHRITIS & RHEUMATISM,2003,Vol.48,No.1,pp.35-45
甲2-16:特願2008-512613号 平成24年5月22日付け意見書
甲2-17:特願2008-512613号 平成25年3月28日付け手続補正書(審判請求書)
甲2-18:特願2008-512613号 平成27年3月30日付け意見書
甲2-19:日本消化器病学会雑誌,2003,Vol.100,pp.1357-1363

4 新規性及び進歩性の判断の基準日について
本件特許出願のように優先権主張を伴う出願についての特許法第29条第1項及び第2項の判断の基準日は,優先日であるが,申立人 特許業務法人藤央特許事務所は,本件特許には優先権主張の効果は認められないことから,本件特許の新規性の判断の基準は,国際出願日である2006年5月16日であると主張しているので,まず,この点について検討する。
申立人 特許業務法人藤央特許事務所の主張は,より具体的には,パリ条約による優先権は,パリ条約4条C(1)の規定により,パリ条約の同盟国に正規に特許出願をした者またはその承継人が一定の期間中有するものであるところ,本件特許の国際出願が当該優先権主張の基礎としている米国特許仮出願60/681,645号の出願をした者は,発明者であるホフマン,レベッカ,エス及びウェインバーグ,マークであり,本件特許の国際出願の出願人はアボット バイオテクノロジー リミテッドであるので,優先権主張の基礎となった出願をした者と本件特許の国際出願をした者は一致しておらず,また,甲1-10によれば,アボット バイオテクノロジー リミテッドへの出願人の地位の承継は,ホフマン,レベッカ,エスからは2006年9月18日,ウェインバーグ,マークからは2006年10月5日に行われており,本件特許の出願人は,本件特許の国際出願日である2006年5月16日には,上記仮出願の承継人でもなかったので,本件特許には優先権主張の効果は認められないというものである。
そこで,申立人 特許業務法人藤央特許事務所の上記主張を検討すると,上記仮出願の出願をした者と本件特許の国際出願の出願人との不一致の他に,申立人が,本件特許の出願人は本件特許の国際出願がされた2006年5月16日の時点で上記仮出願の承継人ではなかった根拠として挙げているのは,甲1-10のみである。甲1-10の2ページには,財産との標題のもと,出願の欄に11435844と記載されていることから,甲1-10が示す譲渡登録の対象となったのは,11/435844米国特許出願であると認められる。しかし,上記米国特許出願は,本件特許の国際出願と同様に上記仮出願に基づく優先権主張を伴う,一連の米国特許出願のうちのひとつにすぎず,当該米国出願の承継の日が,本件特許の国際出願日の後であっても,そのことが,上記仮出願について,出願人の地位の承継がされていなかったことを示すものではない。むしろ,本件特許の国際出願のように,会社が出願人である場合には,通常は,出願人は発明者から特許を受ける権利の承継を受けているものであって,本件において,国際出願の出願人が,優先権主張の基礎となった上記仮出願の出願人と表記上一致していないとしても,当該仮出願の出願をした者は2名とも本件特許の国際出願の発明者として名を連ねており,国際出願に際し,当時未公開であった当該仮出願の明細書を優先権証明書として提出していることから,何らかの形で承継を受けていたとの推定が働く。そして,本件特許の国際出願については,当該推定を覆すような特段の事情は見当たらず,申立人が主張するように,パリ条約4条C(1)に規定する者が行った優先権主張ではないとの理由で優先権主張を無効とすることはできない。
そうすると,本件特許に係る発明についての新規性及び進歩性の判断は,上記仮出願の日である2005年5月16日を基準として行うこととなる。そして,上記3の証拠のうち,甲1-1の発行日は2005年7月であり,また,提出された証拠からは,甲1-18が2005年の何月に発行されたものであるか特定できないから,両甲号証は,上記の新規性及び進歩性の判断の基準日である2005年5月16日の前に頒布されたものとは認められない。したがって,これらを証拠とする特許法第29条の特許異議申立て理由によっては,請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。

5 判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
ア.対比・判断
(ア)請求項1に係る発明と甲2-1,甲2-2に記載された発明とを対比すると,当該刊行物のいずれにも,乾癬性関節炎の患者におけるびらん性多発性関節炎を治療するために,アダリムマブを用いる点が記載されていない。
申立人 新井誠一は,本件明細書の【0173】段落の記載及び甲2-8?甲2-10,甲2-12?甲2-14の記載から,本願出願当時,PsA患者の多くがびらん症状や多発性関節炎を呈し,PsA患者にはびらん性多発性関節炎を有する患者が相当数含まれることが周知であったことを根拠に,甲2-1,甲2-2に,PsA患者の多発性関節炎がびらん性か否かについて明記されていなくても,びらん性多発性関節炎の治療が記載されているに等しいと述べ,請求項1に係る発明は,甲2-1,甲2-2に記載された発明であると主張している。しかし,PsA患者にはびらん性多発性関節炎を有する患者が相当数含まれるとしても,そのことと,甲2-1,甲2-2に記載された発明において,乾癬性関節炎の患者に用いられたアダリムマブが,びらん性多発性関節炎を治療するためのものであることとは,別の問題であって,甲2-1,甲2-2には,アダリムマブの投与がびらん性多発性関節炎を治療する目的のためであることは記載されておらず,びらん性多発性関節炎に対する治療効果を示すことも記載されていないのであるから,甲2-1,甲2-2には,びらん性多発性関節炎の治療が記載されているという申立人 新井誠一の主張は誤りである。
したがって,請求項1に係る発明は,甲2-1,甲2-2に記載された発明と同一であるとはいえない。
(イ)請求項2及び3に係る発明について
上記(ア)のとおり,請求項1に記載された発明が,甲2-1,甲2-2に記載された発明と同一であるとはいえないのであるから,請求項1に係る発明をさらに限定して特定した発明である請求項2及び3に係る発明も,甲2-1,甲2-2に記載された発明と同一であるとはいえないことは明らかである。
(ウ)小括
以上のとおり,請求項1ないし3に係る発明は,甲2-1,甲2-2に記載された発明と同一ではないから,その特許は,特許法第29条第1項3号に違反してされたものではない。

(2)特許法第29条第2項について
(ア)請求項1について
甲2-1,甲2-2のいずれにも,乾癬性関節炎の患者におけるびらん性の関節炎の治療にアダリムマブを用いる点が記載されていないことは,既に上記(1)(ア)で指摘したとおりであるが,これらの甲号証をはじめ,甲1-1及び甲1-18を除く全ての甲号証を通じて,乾癬性関節炎の患者におけるびらん性の関節炎の治療にアダリムマブを用いる点は,記載も示唆もされていない。
申立人 特許業務法人藤央特許事務所は,さらに,甲1-2に,乾癬性関節炎の患者における抗TNF-α生物学的製剤が,びらんなどの処置エンドポイントの改善を示したとの記載がある点,及び,甲1-5に,複数のびらんを有する乾癬性関節炎の患者において,抗TNF-α剤が効果を示したとの記載があることから,抗TNF-α剤であるアダリムマブを用いることを想到し得たものであると主張し,用法用量としては,既承認の適応症であるリウマチにおける用法用量を採用することが容易である旨を主張している。しかし,甲1-2における記載は,エタネルセプト,インフリキシマブなどと共に,包括的に記載された抗TNF-α剤について,その効果を示す処置エンドポイントの例として,乾癬重症度指数,関節腔の狭小化,指炎の存在,その他の臨床学的因子とともに記載されたものであり,アダリムマブの効果として,びらんの改善を記載したものではない。また,甲1-5に記載されているのは,抗TNF-α剤であるエタネルセプトとインフリキシマブによる前駆細胞の破骨細胞への分化の抑制であり,骨破壊すなわち,びらんの進行の抑制を実際に確認したことまでが記載されたものではないから,甲1-2及び1-5には,申立人が主張する記載はない。
また,同様に,申立人 新井誠一は,甲2-2,甲2-5,甲2-6においてはPsAを対象とし,甲2-3においてはRAを対象とする試験において,放射線学的進行の抑制効果が評価されていることを指摘し,乾癬性関節炎を有する患者におけるびらん性多発性関節炎にアダリムマブを適用することが容易である旨を主張している。しかし,甲2-2,甲2-5,甲2-6において,実際にびらんや骨破壊に対する効果が確認されて記載されているのは,甲2-2では,エタネルセプトを5mgを週1回又は25mgを週2回(ii78右欄24?27行),甲2-5では,エタネルセプト25mgを週2回(p.2265左欄下から20行?下から17行),甲2-6では,インフリキシマブ5mg/kg(S450左欄下から12行?下から8行)を投与しており,いずれもアダリムマブを投与するものでなく,その投与量も本件発明における用量とも異なり,抗体の種類によって異なる量を投与した試験についての記載である。甲2-3の記載は,乾癬性関節炎とは別の疾患であるリウマチについてのものであり,技術常識に基づき,リウマチに対する結果から,直ちに乾癬性関節炎を有する患者におけるびらん性多発性関節炎に対する治療効果が予測できるともいえない。
申立人 特許業務法人藤央特許事務所は,甲1-5に,抗TNFα剤による骨破壊の阻害のメカニズムが明らかにされており,甲1-20に,エタネルセプト及びインフリキシマブと同様,抗TNF-α剤であるアダリムマブを投与し,放射線学的スコア等を測定することが記載されているから,請求項1に係る発明を当業者が容易に想到し得た旨も主張する。しかし,甲1-5には,抗TNFα剤が実際に骨破壊を抑制することまで記載されたものでない点は,既に上記で述べたとおりである。また,甲1-20には,アダリムマブについては,放射線学的スコアの測定結果等,実際に骨びらんに対する効果を示すことは記載されておらず,同申立人が指摘する箇所と思われる120頁334の記載は,単に,放射線学的評価が骨びらんの進行の指標となることを示すにとどまる記載であるから,同申立人の主張によって,請求項1に係る発明の進歩性を否定することはできない。
以上のとおり,申立人の提出した証拠及び主張を検討しても,請求項1に係る発明は,甲1-2,甲1-5,甲1-6と甲1-3,甲1-4,甲1-16,甲1-19に記載された発明から,特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲2-1?甲2-11に記載された発明から,特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(イ)請求項2及び3に係る発明について
請求項2及び3に係る発明は,請求項1に係る発明を更に限定したものであるから,上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により,甲1-2,甲1-5,甲1-6と甲1-3,甲1-4,甲1-16,甲1-19に記載された発明から,特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲2-1?甲2-11に記載された発明から,特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)小括
以上のとおり,請求項1ないし3に係る発明は,甲1-2,甲1-5,甲1-6と甲1-3,甲1-4,甲1-16,甲1-19に記載された発明から,特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲2-1?甲2-11に記載された発明から,特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,その特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(3)特許法第36条第6項第1号について
明細書の実施例に記載された試験においては,NSAIDS療法が奏功しなかった中度から重度に活性な,3以上の膨張性関節及び圧痛性関節を有するPsAの患者を無作為に割り付け,プラセボと40mgのアダリムマブを隔週で皮下投与する群に分け,24週における修正されたシャープのスコアの増加がみられた患者は,プラセボ群の28.9%に対し,アダリムマブ群では,9.0%であり,アダリムマブが乾癬性関節炎を有する患者における放射線学的進行を抑制する効果が示されている。明細書に記載された上記効果における,3以上の膨張性関節及び圧痛性関節を有するPsAすなわち,乾癬性関節炎を有する患者における多発性関節炎において,放射線学的進行が抑制された,とは,X線により検査して,びらんの進行が抑制されていたということと解され,40mgのアダリムマブを隔週で皮下投与することによる,乾癬性関節炎を有する患者におけるびらん性多発性関節炎の治療効果が裏付けられていると認められる。
申立人 特許業務法人藤央特許事務所は,「隔週投与計画」とは,患者に投与する時間間隔のことを指すから,「隔週投与計画」という文言を用いて記載された請求項1に係る発明は,投与量については特定されていないような投与を含む点で,明細書に課題を解決できると認識できるように記載された発明を超える旨を主張している。
しかし,請求項1には,「40mgの用量を隔週投与計画に従って」との記載があり,用量が特定されているものであることは明らかであるから,申立人の主張する記載不備は存在しない。
したがって,請求項1ないし3に係る発明は,明細書に記載したものであるから,その特許は特許法第36条第6項1号の規定に違反してされたものではない。

(4)特許法第36条第6項第2号について
請求項1ないし3の記載に不明確な点はない。
申立人 特許業務法人藤央特許事務所は,請求項1の記載は,治療対象が不明確であるという趣旨のことを主張しているようであるが,請求項の記載から,びらん性多発性関節炎が治療対象であることが明らかであるから,申立人の主張する記載不備は存在しない。
したがって,請求項1ないし3の記載は,発明を明確に記載したものであるから,その特許は特許法第36条第6項2号の規定に違反してされたものではない。

(5)特許法第36条第4項第1号について
上記(3)で既に述べたように,明細書には,乾癬性関節炎を有する患者におけるびらん性多発性関節炎の治療効果が裏付けられて記載されており,その記載は,請求項1ないし3に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
申立人 特許業務法人藤央特許事務所は,明細書に記載された試験は,患者集団が乾癬性関節炎の患者のみであるから,びらん性多発性関節炎に対する効果が示されておらず,実施可能要件及びサポート要件を満たさない旨を主張している。しかし,明細書には,びらん性多発性関節炎に対する治療効果が明らかにされていることは,既に上記(3)で述べたとおりであって,申立人の主張する記載不備は存在しない。
したがって,発明の詳細な説明の記載は,請求項1ないし3に係る発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから,その特許は特許法第36条第4項1号の規定に違反してされたものではない。

6 むすび
以上のとおり,特許異議申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-05-10 
出願番号 特願2008-512613(P2008-512613)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼岡 裕美  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 内藤 伸一
齋藤 恵
登録日 2015-06-12 
登録番号 特許第5757495号(P5757495)
権利者 アッヴィ バイオテクノロジー リミテッド
発明の名称 びらん性多発性関節炎の治療のためのTNF阻害剤の使用  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 大野 聖二  
代理人 梅田 慎介  
代理人 松任谷 優子  

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