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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C12Q
管理番号 1314631
審判番号 訂正2016-390039  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2016-03-11 
確定日 2016-05-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5773872号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5773872号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5773872号は、平成21年9月8日を出願日として出願された特願2011-525630号の請求項1?9に係る発明について、平成27年7月10日に特許権の設定登録がされ、その後、平成28年3月11日に訂正審判の請求がされたものである。

第2 請求の趣旨
本件請求の趣旨は、特許第5773872号の明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。
請求人が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
1.訂正事項1
本件特許の訂正前の明細書(以下、「訂正前明細書」ともいう)の発明の名称「組成物および方法」とあるのを「皮膚色素沈着の調節のための組成物および方法」に訂正する。

第3 当審の判断
1.訂正の目的について
本件特許の外国語でされた国際特許出願(PCT/GB2009/051139)について2010年4月20日付で作成された国際調査報告において、国際調査機関は発明の名称を「COMPOSITIONS AND METHODS」から「COMPOSITIONS AND METHODS FOR MODULATING SKIN PIGMENTATION」に変更した。
訂正事項1は、国際調査機関による発明の名称の変更にともなって、訂正前明細書の発明の名称の翻訳文を整合させるためのものであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。

2.新規事項の追加について
本件の願書に添付した明細書には「本発明は、皮膚におけるメラニン色素沈着を研究および調節するのに有用な組成物および方法に関する。本発明は、これらに限定しないが、特に、メラニン細胞からケラチン細胞への、潜在的にはケラチン細胞からケラチン細胞へのメラニンの転移を調節することができる組成物、こうした組成物を同定するための分析、および皮膚色素沈着の調節方法に関する。」との記載があり(段落【0001】)、本件訂正は願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかであるから、同法同条第5項の規定に適合するものである。

3.特許請求の範囲の実質的な拡張又は変更について
訂正事項1は、上記1.で述べたとおり、発明の名称における誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、訂正前の特許請求の範囲の内容を実質的に変更するものではない。
したがって、本件訂正は、同法同条第6項の規定に適合するものである。

4.訂正後の請求項1?9に係る発明の独立特許要件について
訂正事項1は発明の名称の訂正であり、実質的に本願発明の内容に影響を及ぼすものではなく、訂正後の請求項1?9に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする理由は見出せない。
よって、本件訂正は、同法同条第7項の規定に適合するものである。

第4 むすび
したがって、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
皮膚色素沈着の調節のための組成物および方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚におけるメラニン色素沈着を研究および調節するのに有用な組成物および方法に関する。本発明は、これらに限定しないが、特に、メラニン細胞からケラチン細胞への、潜在的にはケラチン細胞からケラチン細胞へのメラニンの転移を調節することができる組成物、こうした組成物を同定するための分析、および皮膚色素沈着の調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メラニン細胞は、表皮および毛球の基底層に沿って分布する神経堤誘導細胞である。これらの細胞は、メラノソームと呼ばれるメラニン細胞特異的細胞小器官内でメラニン色素を合成する。皮膚および毛髪に色素沈着させるためには、このメラニンをメラニン細胞から隣接するケラチン細胞へ転移させなければならない。哺乳類の皮膚および毛髪/羊毛/毛皮の色は、一連の異なる分子および化合物により複数の管理点で規定される多数の工程を含むプロセスにおけるメラニンの量および質(褐/黒ユーメラニンまたは赤/黄フェオメラニン)によって決まる。ここ数十年、メラニン合成およびメラノソーム生物発生/成熟の分子的調節についての我々の理解にはかなりの進歩が見られた。しかしながら、我々の知識には、このプロセスが最終的に皮膚表面でおよび毛髪繊維に沿って認められる色素沈着のレベルを調節するため主要な臨床的/美容的関心である、メラニン転移がどのように調節されるかということを中心とする大きなギャップがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本出願では、ヒト皮膚メラニン細胞からヒト皮膚ケラチン細胞へのメラニン転移を調節する新規機序について記載する。この機序は、このプロセスを用量依存的に刺激するBMP6の作用を含む。
【0004】
骨形成タンパク質(BMP)は、分泌されたシグナル伝達分子であり、TGF-βスーパーファミリーに属する。それらは、細胞増殖、分化、運動、接着、および細胞死において重要な役割を果たす(Hogan,1996)。これまで20を超える異なるBMPファミリーメンバーについて説明されており、それぞれ特定のBMP受容体との相互作用によってその生物活性を発揮する(Wozney et al.,1988)。BMPシグナル伝達は、BMPタイプ、拮抗薬の存在、標的組織の成長段階、および標的細胞受容体タイプに応じて複数のレベルで行われる(Botchkarev,2003)。BMPは、2つの膜貫通受容体ファミリー、複合BMP受容体(BMPR)Iおよび単一BMPRIIを結合する(Hogan,1996)。興味深いことに、シグナル伝達を開始するには、BMPは両受容体を結合し、BMP-RIIによるBMPRIにおける細胞内ドメインのリン酸化反応を誘導し、細胞内シグナル変換を活性化しなければならない。
【0005】
BMPは皮膚成長の強力な調節因子であり、正常な出生後の皮膚における表皮恒常性、毛包成長、およびメラニン形成の調節にも重要な役割を果たす(Botchkarev,2003)。メラニン細胞は、胚形成中に表皮および毛包へ転移し、その後ケラチン細胞の周りにメラニンを合成および分布する神経堤誘導細胞である(Halaban et al.,2003)。興味深いことに、いくつかのBMPRI受容体、BMPRIA(ALK3;Seq ID 4)、BMPRIB(ALK6;Seq ID 2)、およびActR-I(ALK2)があり(Kawabta et al.,1998)、神経前駆細胞では、ALK3によるシグナル伝達はそれらの増殖を誘導するが、ALK6はそれらの分化を誘導し(Panchision et al.,2001)、受容体発現が細胞へのBMP作用を決めることを示す。
【0006】
メラニン細胞生物学におけるBMP4の役割は、Gilchrestグループにより、この特定のBMPファミリーメンバーが、メラニン細胞における律速酵素(チロシナーゼ)の発現および活性を阻害することにより正常なヒトメラニン細胞におけるメラニン形成のオートクリン阻害因子として作用することを示す研究において初めて示された(Yaar et al.,2006)。
【0007】
しかしながら、メラニン細胞生物学(例えば、メラニン形成および/またはメラニン転移)への他のBMPタンパク質の関与はこれまで報告されていない。メラニン細胞におけるメラニン形成(すなわちメラニン合成)の調節についてはかなり知られているが、メラノソームがメラニン細胞からケラチン細胞へどう転移するかについての我々の知識はまだ非常に限られている。細胞食作用の役割に加えて、ケラチン細胞のプラズマ膜と相互作用することができる糸状仮足によるメラノソーム転移を裏付ける証拠が増えている(Scott et al.,2002、Singh et al.,2008)。重要なことには、メラニン細胞の樹状突起の側面および先端から生じる糸状仮足と適合し、内腔にメラノソームを含有する構造は、ヒト皮膚in situおよびin vitroにおいてすでに報告されている(Scott et al.,2002)。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様によれば、対象の皮膚および/または毛髪のメラニン色素沈着の調節方法であって、対象にALK6(SEQ ID 2)またはCdc42の活性または発現を調節することができる物質を含む組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0009】
本発明の好適な実施形態では、その物質はALK6の活性を調節することによってCdc42の発現を調節する。
【0010】
本発明の好適な実施形態では、その方法は対象の皮膚および/または毛髪の外表面への組成物の塗布を含む。
【0011】
皮膚の色素沈着を調節するためには、主に2つのアプローチ:メラニン形成の調節およびメラニン転移の調節がある。本発明は、これらのアプローチの一方、他方または両方を含むことができる。しかしながら、本発明者らがメラニン転移を効果的に標的とすることができることを見出したので、メラニン転移を調節する方法はとくに興味深い。メラニン形成よりさらに「下流」のプロセスであることを考えると、悪影響を回避するという点でより魅力的な標的である。
【0012】
適切には、その方法は、皮膚および/または毛髪のメラニン色素沈着のレベルを調節することにより皮膚および/または毛髪の色を美容のために明るくするまたは暗くするのに有用な美容方法である。
【0013】
あるいは、その方法は、対象に一定の光防護を提供するのに用いることができる。メラニンが紫外線の損傷作用の多くから皮膚を保護することは周知である。従って、対象の皮膚におけるメラニンの量を増加させることは、日光誘発性損傷、例えば癌または早期老化を引き起こす可能性のある細胞の変異を低減するのに重要であり得る。
【0014】
別の代替方法では、その方法は、皮膚の異常な色素沈着に関連する病状を治療するのに用いることができる。こうした治療は治癒的であってもよく、症状を軽減するために用いられてもよい。治療することができる皮膚の異常な色素沈着に関連する疾病または病状としては、色素沈着過度(例えば、メラズマ(肝斑)、クロアズマ(肝斑)、老年性黒子、日光黒子、そばかす、炎症後色素沈着過度)および色素沈着減少(例えば、白斑、炎症後色素沈着減少)ならびに皮膚損傷の結果としての色素沈着喪失が挙げられる。
【0015】
1つの実施形態では、その物質は正常な生理的レベルに対してALK6の活性または発現を増加させることができる、すなわちALK6作用薬である。特定の実施形態では、その物質は、メラニン転移を増加させるようにALK6の活性または発現を増加させることができる。ALK6活性の増加は皮膚および/または毛髪におけるメラニンの増加をもたらす。
【0016】
別の実施形態では、その物質は正常な生理的レベルに対してALK6の活性または発現を減少させることができる、すなわちALK6拮抗薬である。特定の実施形態では、その物質は、メラニン転移を減少させるようにALK6の活性または発現を減少させることができる。ALK6活性の減少は皮膚および/または毛髪におけるメラニンの減少をもたらす。
【0017】
1つの実施形態では、本発明の方法は、BMP6ポリペプチド(受入番号NM_001718;Seq ID 1)またはその断片もしくは変異体を含む組成物の塗布を含むが、該断片または変異体は機能的に活性である。
【0018】
断片または変異体は、ALK6を野生型BMP6と同じくらい効率的に少なくとも50%活性化することができる場合に機能的に活性であるということができるが、低活性レベルもまた有用であり得る。より好適には、こうした断片または変異体は、野生型BMP6の少なくとも75%活性、とくに野生型BMP6の90%活性でなければならない。とくに、この文脈において「活性」とは、後述の分析におけるメラニン細胞からケラチン細胞へのメラニンの転移を刺激する能力を意味することができる。
【0019】
「機能的に活性な」BMP6断片または変異体は、後述の分析を用いて決定されるように、メラニン形成またはメラニン転移を増加させる能力を示す。BMP6タンパク質、変異体および断片の機能的活性は、当業者に知られ(Current Protocols in Protein Science(1998)Coligan et al.,eds.,John Wiley & Sons,Inc.,Somerset,New Jersey)、さらに後述するような各種方法により決定することができる。
【0020】
ここでの目的のため、機能的に活性な断片としては、ドメインが所望の活性を有する場合、結合ドメインのようなBMP6の構造ドメインを1つ以上含む断片を挙げることができる。タンパク質ドメインはPFAMプログラムを用いて同定することができる(Baterman A.,et al.,Nucleic Acids Res,1999,27:260-2)。いくつかの実施形態では、好適な断片は、BMP6活性ドメインの少なくとも25個の連続したアミノ酸、好適には少なくとも50個、より好適には75個、もっとも好適には少なくとも100個の連続したアミノ酸を含む、機能的に活性な、ドメイン含有断片である。さらに好適な実施形態では、断片は機能的に活性なドメイン全体を含む。
【0021】
機能的に活性な断片または変異体は、BMP6コード化核酸によりコード化されるものを含む、組み換え型BMP6ポリペプチドおよびこれらの機能的に活性な断片または変異体を含む。
【0022】
機能的に活性なBMP6ポリペプチドは、理論的にはBMP6前駆体タンパク質(受入番号P22004)(SEQ ID 1)を含むことができる。成熟BMP6ポリペプチドはそのアミノ酸374?513個を含むと考えられる。
【0023】
機能的に活性な断片は、BMP6前駆体(SEQ ID 1)のアミノ酸382?513、388?513および412?513を含むポリペプチドを含むことができる。
【0024】
「BMP6コード化核酸」の語は、BMP6ポリペプチドをコード化するDNAまたはRNA分子を指す。
【0025】
好適には、BMP6ポリペプチドもしくは核酸またはこれらの変異体もしくは断片はヒト由来であるが、これらの同族体または誘導体とすることもできる。
【0026】
好適には、これらの前記変異体または断片は、ヒトBMP6またはBMP6をコード化する配列(NM001718)と少なくとも70%の配列同一性、好適には少なくとも80%、より好適には85%、さらにより好適には90%、もっとも好適には少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0027】
本明細書で用いる対象配列、または対象配列の特定部分に対する「配列同一性パーセント(%)」は、プログラムWU-BLAST-2.0al9(Altschul et al.,J.Mol.Biol.(1997)215:403-410)によりすべて初期値に設定した検索パラメーターを用いて生成される最大配列同一性パーセントを達成するため必要に応じて配列および導入ギャップを整列した後の、対象配列(またはその特定部分)におけるヌクレオチドまたはアミノ酸と同一の候補誘導配列におけるヌクレオチドまたはアミノ酸の割合と定義される。HSP SおよびHSP S2パラメーターは動的値であり、特定の配列の組成物および特定のデータベースの組成物に応じてプログラムそのものにより設定され、これに対して興味のある配列が検索されている。同一性%の値は、配列長さで割った一致する同一のヌクレオチドまたはアミノ酸の数により割り出され、これにより同一性パーセントが報告されている。「アミノ酸配列類似性パーセント(%)」は、アミノ酸配列同一性%を割り出すのと同じ計算を行うことにより割り出されるが、計算は同一アミノ酸に加えて保存アミノ酸置換を含む。
【0028】
保存アミノ酸置換は、アミノ酸をタンパク質の折り畳みまたは活性に大きな影響を及ぼさないように類似特性を有する別のアミノ酸と置き換えるものである。互いに置き換えることができる芳香族アミノ酸としてはフェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンがあり;置き換え可能な疎水性アミノ酸としてはロイシン、イソロイシン、メチオニン、およびバリンがあり;置き換え可能な極性アミノ酸としてはグルタミンおよびアスパラギンがあり;置き換え可能な塩基性アミノ酸としてはアルギニン、リシンおよびヒスチジンがあり;置き換え可能な酸性アミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸があり;置き換え可能な小アミノ酸としてはアラニン、セリン、トレオニン、システインおよびグリシンがある。
【0029】
あるいは、核酸配列は、SmithおよびWatermanの局所相同性アルゴリズム(Smith and Waterman,1981,Advances in Applied Mathematics 2:482-489;database:European Bioinformatics Institute;Smith and Waterman,1981,J.of Molec.Biol.,147:195-197;Nicholas et al.,1998,”A Tutorial on Searching Sequence Databases and Sequence Scoring Methods”(www.psc.edu)およびその引用文献;W.R.Pearson,1991,Genomics 11:635-650)により整列される。このアルゴリズムは、Dayhoff(Dayhoff:Atlas of Protein Sequences and Structure,M.O.Dayhoff ed.,5 suppl.3:353-358,National Biomedical Research Foundation,Washington,D.C.,USA)により開発され、Gribskov(Gribskov,1986,Nucl.Acids Res.14(6):6745-6763)により標準化された得点マトリックスを用いることによりアミノ酸配列に適用することができる。Smith-Watermanアルゴリズムは、得点に初期パラメーター(例えば、ギャップ開放ペナルティは12、ギャップ伸張ペナルティは2)を用いる場合に用いることができる。生成されたデータから、「一致」値は「配列同一性」を反映する。
【0030】
対象核酸分子の誘導核酸分子は、BMP6をコード化する核酸配列にハイブリダイズする配列を含む。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーションおよび洗浄中の温度、イオン強度、pH、およびホルムアミドのような変性剤の存在により調節することができる。通常用いられる条件は、容易に入手可能な手順書(例えばCurrent Protocol in Molecular Biology,Vol.1,Chap.2.10,John Wiley & Sons,Publishers(1994);Sambrook et al.,Molecular Cloning,Cold Spring Harbor(1989))に記載されている。
【0031】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸分子は高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下でBMP6のヌクレオチド配列を含有する核酸分子へハイブリダイズすることができるが、その条件とは:6倍単一強度クエン酸塩(SSC)(1倍SSCは0.15MのNaCl、0.015Mのクエン酸Na;pH7.0)、5倍デンハルト溶液、0.05%ピロリン酸ナトリウムおよび100g/mのニシン精子DNAを含む溶液中での65℃で8時間から一晩の、核酸を含有するフィルターのプレハイブリダイゼーション;6倍SSC、1倍デンハルト溶液、100μg/mlの酵母tRNAおよび0.05%ピロリン酸ナトリウムを含有する溶液中での65℃で18?20時間のハイブリダイゼーション;ならびに0.1倍SSCおよび0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含有する溶液中での65℃で1時間のフィルターの洗浄である。
【0032】
他の実施形態では、中程度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件が用いられるが、その条件とは:35%ホルムアルデヒド、5倍SSC、50mMのトリス-HCL(pH7.5)、5mMのEDTA、0.1%PVP、0.1%フィコール、1%BSA、および500μg/mlの変性サケ精子DNAを含有する溶液中での40℃で6時間の核酸を含有するフィルターの前処理;35%ホルムアルデヒド、5倍SSC、50mMのトリス-HCl(pH7.5)、5mMのEDTA、0.02%PVP、0.02%フィコール、0.2%BSA、100μg/mlのサケ精子DNA、および10(重量/体積)%硫酸デキストランを含有する溶液中での40℃で18?20時間のハイブリダイゼーション;その後の2倍SSCおよび0.1%SDSを含有する溶液中での55℃で1時間の2回の洗浄である。
【0033】
あるいは、低ストリンジェンシー条件を用いることができるが、その条件とは:20%ホルムアルデヒド、5倍SSC、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5倍デンハルト溶液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性せん断サケ精子DNAを含む溶液中での37℃で8時間から一晩のインキュベーション;同じ緩衝液中での18?20時間のハイブリダイゼーション;ならびに1倍SSC中での約37℃で1時間のフィルターの洗浄である。
【0034】
別の実施形態では、その方法は、BMP6に結合し、不活性化することができる化合物を含む組成物の塗布を含む。従って、本発明はBMP6の拮抗薬に関するものであり得る。例えば、化合物は、BMP6に結合することができる抗体またはその断片であってもよい。
【0035】
とくにBMP6ポリペプチドを結合する抗体は、既知の方法を用いて生成することができる。好適には、その抗体はBMP6ポリペプチドの哺乳類オルソログ、より好適にはヒトBMP6に特有である。抗体は、ポリクロナール、モノクロナール(mAb)、ヒト化またはキメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab’)_(2)断片、FAb発現ライブラリーにより生成される断片、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、および上記のいずれかのエピトープ結合断片であってもよい。例えば、BMP6ポリペプチドの抗原性の通常のスクリーニングにより、またはタンパク質の抗原性領域を選択する理論的方法(Hopp and Wood(1981),Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:3824-28;Hopp and Wood,(1983)Mol.Immunol.20:483-89;Sutcliffe et al.,(1983)Science 219:660-66)をBMP6のアミノ酸配列に適用することにより、とくに抗原性を有するBMP6のエピトープを選択することができる。説明されている標準手順(Harlow and Lane,supra;Goding(1986)Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(2d ed)Academic Press,New York;ならびに米国特許第4,381,292号;4,451,570号;および4,618,577号)により、10^(8)M^(-1)、好適には10^(9)M^(-1)?10^(10)M^(-1)またはそれより強い親和性を有するモノクロナール抗体を作成することができる。
【0036】
抗体は、BMP6の粗細胞抽出物またはほぼ精製したその断片に対して生成することができる。BMP6断片を用いる場合、それらは好適にはBMP6タンパク質の連続したアミノ酸少なくとも10個、より好適には少なくとも20個を含む。BMP6特異抗原および/または免疫原は、免疫反応を刺激する担体タンパク質に結合することができる。例えば、対象ポリペプチドはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)担体に共有結合され、共役体は免疫反応を向上させる完全フロインドアジュバント中で乳化される。実験用ウサギまたはマウスのような適切な免疫系は従来の手順に従って免疫される。
【0037】
BMP6特異抗体の存在は、対応する固定化BMP6ポリペプチドを用いる固相酵素結合免疫吸着分析(ELISA)のような適切な分析によって評価される。放射免疫分析または蛍光分析のような他の分析を用いることもできる。
【0038】
BMP6ポリペプチド特異的キメラ抗体は、異なる動物種からの異なる部分を含有するように作成することができる。例えば、ヒト免疫グロブリン定常領域はマウスmAbの各種領域と結合していてもよく、抗体はその生物学的活性をヒト抗体から、その結合特異性をマウス断片から誘導する。キメラ抗体は、それぞれの種からの適切な領域をコード化する遺伝子を組み換えることにより生成される(Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(1984)81:6851?6855;Neuberger et al.,Nature(1984)312:604-608;Takeda et al.,Nature(1985)31:452-454)。
【0039】
キメラ抗体の一形態であるヒト化抗体は、組み換えDNA技術によりマウス抗体の相補性決定領域(CDR)(Carlos,T.M.,J.M.Harlan,1994,Blood 84:2068-2101)をヒトフレームワーク領域および定常領域に移植することにより生成することができる。ヒト化抗体はマウス配列およびヒト配列を含有し、よって抗体特異性を保持しながら免疫原性をさらに低減または解消する(Co MS,and Queen C.1991 Nature 351:501-501;Morrison SL.1992 Ann.Rev.Immun.10:239-265)。ヒト化抗体およびそれらの生成方法は当技術分野では周知である(米国特許第5,530,101号、5,585,089号、5,693,762号、および6,180,370号)。
【0040】
アミノ酸架橋によってFv領域の重鎖および軽鎖断片を結合することにより形成される組み換え型一本鎖ポリペプチドであるBMP6特異的一本鎖抗体は、当技術分野で知られる方法により生成することができる(米国特許第4,946,778号;Bird,Science(1988)242:423-426;Huston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1988)85:5879-5883;およびWard et al.,Nature(1989)334:544-546)。
【0041】
他の好適な抗体生成技術は、リンパ球の抗原ポリペプチドへのin vitro露出またはあるいはファージもしくは類似ベクターの抗体ライブラリーの選択を含む(Huse,et al.,Science(1989)246:1275-1281)。
【0042】
本発明のポリペプチドおよび抗体は、改良の有無にかかわらず用いることができる。しばしば、抗体は、検出可能なシグナルを提供する、または標的タンパク質を発現する細胞に対して毒性がある物質を共有または非共有結合することにより標識される(Menard S,et al.,Int J.Biol Markers(1989)4:131-134)。さまざまな標識および共役技術が知られ、科学および特許文献の両方において広く報告されている。適切な標識としては、放射性核種、酵素、物質、共同因子、阻害因子、蛍光部分、蛍光発光ランタニド金属、化学発光部分、生物発光部分、磁性粒子、等が挙げられる(米国特許第3,817,837号;3,850,752号;3,939,350号;3,996,345号;4,277,437号;4,275,149号;および4,366,241号)。また、組み換え型免疫グロブリンを生成することができる(米国特許第4,816,567号)。細胞質ポリペプチドに対する抗体を送達し、膜透過性タンパク質毒素との共役によりそれらの標的に到達させることができる(米国特許第6,086,900号)。
【0043】
別の実施形態では、その方法は、ALK6に結合し、その活性を活性化または阻害することができる化合物を含む組成物の塗布を含む。例えば、こうした化合物は、ALK6に結合することができる抗体またはその断片であってもよい。こうしたものとして、本発明は、ALK6の作用薬または拮抗薬を含むことができる。例えば、抗体はALK6を結合し、BMP6の結合を防止し、よってBMP6がALK6を活性化し、メラニン形成またはメラニン転移を促進するのを防止することができる。抗体生成の周知技術の詳細については上述している。
【0044】
別の実施形態では、その方法は、ALK6もしくはCdc42またはその機能部分をコードするDNAまたはRNAとの相互作用によってALK6またはCdc42の発現を調節することができる核酸を含む組成物の塗布を含む。好適な実施形態では、核酸はRNA分子、とくにALK6またはCdc42をコード化するmRNAに対する標的アンチセンス相互作用またはRNA干渉をすることができるRNA分子である。例えば、Cdc42 mRNAを標的とする好適なRNAi分子は、5’-GAUAACUCACCACUGUCCATT-3’および5’-UGGACAGUGGUGAGUUAUCTT-3’オリゴリボヌクレオチドであり;または5’-GACUCCUUUCUUGCUUGUUTT-3’および5’-AACAAGCAAGAAAGGAGUCTT-3’オリゴリボヌクレオチド、もしくは他のこうした適切な特定の配列を用いてCdc42を阻害することができる。ALK6またはCdc42に対するRNAiを示す他の適切な配列を決定することは、当業者の技術の範囲内である。
【0045】
RNAiは、配列が抑制遺伝子と相同である二本鎖RNA(dsRNA)により開始される、動物および植物における配列特異的転写後遺伝子抑制プロセスである。C.エレガンス、キイロショウジョウバエ、植物、およびヒトの抑制遺伝子に対してRNAiを用いることに関連する方法が知られている(Fire A,et al.,1998 Nature 391:806-811;Fire,A.Trends Genet.15,358-363(1999);Sharp,P.A.RNA interference 2001.Genes Dev.15,485-490(2001);Hammond,S.M.,et al.,Nature Rev.Genet.2,110-1119(2001);Tuschl,T.Chem.Biochem.2,239-245(2001);Hamilton,A.et al.,Science 286,950-952(1999);Hammond,S.M.,et al.,Nature 404,293-296(2000);Zamore,P.D.,et al.,Cell 101,25-33(2000);Bernstein,E.,et al.,Nature 409,363-366(2001);Elbashir,S.M.,et al.,Genes Dev.15,188-200(2001);国際公開第01/29058号;同第99/32619号;Elbashir SM,et al.,2001 Nature 411:494-498;Novina CD and Sharp P.2004 Nature 430:161-164;Soutschek J et al 2004 Nature 432:173-178)。
【0046】
核酸調節因子は、研究試薬、診断用薬、および治療薬としてよく用いられる。例えば、特定の遺伝子の機能を解明するのに、優れた特異度で遺伝子発現を阻害することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いることが多い(例えば、米国特許第6,165,790号参照)。核酸調節因子は、例えば、生物学的経路の各種メンバーの機能を識別するのにも用いられる。例えば、アンチセンスオリゴマーは、動物および人間の病状の治療における治療部分として用いられ、多数の臨床試験において安全かつ有効であることが示されている(Milligan JF,et al,Current Concepts in Antisense Drug Design,J Med Chem.(1993)36:1923-1937;Tonkinson JL et al.,Antisense Oligodeoxynucleotides as Clinical Therap eutic Agents,Cancer Invest.(1996)14:54-65)。
【0047】
1つの実施形態では、その方法は、後述するALK6またはCdc42に影響を及ぼす物質の同定方法により同定される組成物の塗布を含む。
【0048】
本発明の好適な実施形態では、その物質はALK6の拮抗薬である。本発明に用いるのに適切であり得るいくつかのALK6拮抗薬としては、スクレロスチン、コーディン等およびホリスタチン関連タンパク質(FSRP)が挙げられる。とくに好適な実施形態では、拮抗薬はスクレロスチン(SEQ ID 3)である。
【0049】
小分子は、酵素機能でタンパク質の機能を調節することがしばしば好ましく、および/またはタンパク質相互作用ドメインを含有する。当技術分野では「小分子」化合物と称される化学剤は、一般的には最大10,000、好適には最大5,000ダルトン、より好適には最大1,000、もっとも好適には最大500ダルトンの分子量を有する有機非ペプチド分子である。このクラスの調節因子としては、化学的に合成した分子、例えば、組み合わせ化学ライブラリーからの化合物が挙げられる。合成化合物は、ALK6タンパク質の既知または推定特性に基づいて合理的に設計または同定することができ、または化合物ライブラリーをスクリーニングすることにより同定することができる。このクラスの適切な代替調節因子は、天然物、とくに植物または菌類のような有機体からの二次代謝産物であり、化合物ライブラリーをALK6調節活性スクリーニングすることにより同定することもできる。化合物の生成および調達方法は当技術分野では周知である(Schreiber,SL,Science(2000)151:1964-1969;Radmann J and Gunther J,Science(2000)151:1947-1948)。
【0050】
後述するスクリーニング分析から同定される小分子調節因子を、候補臨床化合物を設計、最適化、および合成することができるリード化合物として用いることができる。候補小分子調節剤の活性は、さらに後述する反復二次機能の有効化、構造決定、ならびに候補調節因子の改良および試験によって数倍向上させることができる。また、候補臨床化合物は、とくに臨床的および薬理学的特性に関して生成される。例えば、医薬開発のため試薬はin vitroおよびin vivo分析を用いて誘導体化および再スクリーニングし、活性を最適化し、毒性を最小化することができる。
【0051】
ALK6の拮抗薬は、メラニン細胞からケラチン細胞へのメラニンの転移を阻害し、これにより皮膚および/または毛髪の色素沈着を低減することができるものであってもよい。一方で、ALK6の作用薬は、メラニン細胞からケラチン細胞へのメラニンの転移を促進し、これにより皮膚および毛髪の色素沈着を増加させることができるものであってもよい。美容の観点からするとこれらの作用の両方が望ましくあり得、さらにこうした作用からの医学的利点があり得る。例えば、現在西欧および米国(ならびにその他の地域)では、美容上の理由で日焼けした外観を有することが望ましい。アジアのいくつかの国では、美容上の理由で比較的色白な外観を有することが望ましい。さらに、メラニンが日光の損傷作用からの皮膚の保護に関わることを考えれば、保護の観点から皮膚のメラニン含量を増加させることが望ましくあり得る。
【0052】
対象は哺乳類、好適には霊長類、とくにヒトであることが好ましい。
【0053】
別の態様では、本発明は、対象の皮膚および/または毛髪の色素沈着の調節に用いるALK6またはCdc42の活性または発現を調節することができる物質を含む組成物を提供する。適切な物質の詳細については上述しており、調節は美容または治療目的であってもよい。
【0054】
とくに好適な物質としては、BMP6または機能的に活性なその変異体あるいは断片、およびスクレロスチンが挙げられる。
【0055】
別の態様では、本発明は、皮膚の異常な色素沈着に関連する疾病の治療用の薬剤の製造におけるALK6またはCdc42の活性または発現を調節することができる物質を含む組成物の使用を提供する。こうした治療は治癒的であってもよく、症状を軽減するためのものであってもよい。
【0056】
本発明による組成物は、皮膚への局所塗布に適していることが一般的に望ましい。溶液、懸濁液、ジェル、クリーム、または軟膏等のような、いずれかの一般的な局所製剤を用いることができる。こうした局所製剤の調製については、例えばGennaro et al.(1995)Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishingが示すように、薬剤製剤技術分野において説明されている。局所塗布について、組成物は、粉末またはスプレーとして、とくにエアロゾル形態で投与することもできる。
【0057】
さらなる態様によれば、本発明は、物質のメラニン細胞からケラチン細胞への、または潜在的にはケラチン細胞からケラチン細胞へのメラニンの転移を調節する能力の評価方法を提供するが、その方法は:
-試験物質を用意する工程;および
-試験物質のALK6と相互作用する能力を決定する工程
を含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、その方法は、物質のALK6に結合する能力を決定することを含む。ALK6は細胞上にあってもよく、支持体上に備わっていてもよい。
【0059】
好適には、その方法は、ALK6を発現する細胞を用意し、試験物質の該細胞により発現したALK6、とくに細胞の表面上に発現したALK6と相互作用する能力を決定することを含む。
【0060】
好適には、ALK6を発現する細胞はメラニン細胞である。
【0061】
試験物質のALK6と相互作用する能力を決定することにより、メラニン転移またはメラニン形成の調節に有効である可能性を有する物質を同定することが可能である。
【0062】
好適には、本発明の方法は、試験物質のALK6の活性および/または発現を調節する能力を決定することを含む。
【0063】
1つの実施形態では、その方法は、試験物質のALK6を活性化する能力を決定すること、すなわち試験物質がALK6の作用薬であるかを決定することを含むことができる。
【0064】
代替実施形態では、その方法は、試験物質のALK6を不活性化する能力を決定すること、すなわち試験物質がALK6の拮抗薬であるかを決定することを含むことができる。
【0065】
試験物質がALK6の活性を調節することができるかを当業者が決定することができる方法は多数ある。例えば、ALK6活性化により生じる下流シグナル伝達分子に対する試験物質の作用を決定することが可能である。あるいは、ALK6活性化により生じるmRNAまたはタンパク質の発現に対する試験物質の作用を決定することが可能である。これは、例えば、a)R-Smad(受容体調節Smad、Smad-1、-5、-8)の動員およびその後ALK6に結合する際のそのリン酸化反応;b)抑制型Smad(I-Smad)、例えばSmad6および7によるR-Smadの活性化の阻害;またはc)Smurf(Smadユビキチン化調節因子)によるALK6の選択的分解を決定することを含むことができる。
【0066】
当業者が物質のALK6の発現を増加させる能力を決定することができる方法も多数ある。例えば、当業者は細胞中のALK6 mRNAレベルを(例えば定量的rtPCRを用いて)定量的に測定することができ、または細胞の表面上のタンパク質発現を(例えば免疫蛍光測定技術、ELISA、二次元電気泳動または質量分光法を用いて)定量的に測定することができる。
【0067】
1つの実施形態では、その方法は、試験物質のCdc42の発現または活性化、好適にはCdc42の発現への作用を決定することにより、試験物質のALK6と相互作用する能力を決定する工程を含むことができる。Cdc42の発現の決定方法は、細胞中または細胞上のCdc42タンパク質の量を測定すること、またはCdc42タンパク質合成の前駆体、例えばCdc42をコードするmRNAの量を測定することを含む。Cdc42タンパク質の発現レベルまたはCdc42 mRNAレベルを測定するのに必要な技術は、当業者には明らかである。タンパク質レベルを測定する技術は、免疫染色(例えば、免疫蛍光、ウエスタンブロッティング)、ELISA、二次元電気泳動または質量分光法を含むことができる。mRNAレベルを測定する技術は、ノーザンブロッティング、逆転写PCR、定量PCR、マイクロアレイまたはAffymetrix(登録商標)チップを含むことができる。
【0068】
とくに、本発明は、メラニン形成またはメラニン転移に影響を及ぼすようにALK6と相互作用することができる物質に関する。従って、試験物質のメラニン形成またはメラニン転移への作用を決定することがとくに望ましい。これを達成する方法、例えば物質のメラニン細胞からケラチン細胞へ、または潜在的にはケラチン細胞からケラチン細胞へ転移したメラノソーム数への作用を決定することについて、本出願において詳しく説明する。これは、本出願に記載する免疫染色技術を用いて達成することができる。
【0069】
本発明の方法は、BMP6を用意する工程を含むことができる。その方法においてBMP6を用意することにより、試験物質のALK6の活性をその生物学的配位子存在下で調節する能力を決定することが可能である。こうした方法は、化合物のBMP6と競合してALK6と相互作用する能力を評価するので、生理学的条件で用いるのにより有用であり得る。
【0070】
さらなる態様では、本発明は、物質のメラニン細胞からケラチン細胞へ、または潜在的にはケラチン細胞からケラチン細胞へのメラニンの転移を調節する能力の評価方法を提供するが、その方法は:
-試験物質を用意する工程;
-Cdc42を発現する細胞を用意する工程;ならびに
-試験物質のCdc42の活性および/または発現を調節する能力を決定する工程
を含む。
【0071】
好適には、Cdc42を発現する細胞はメラニン細胞またはケラチン細胞、より好適にはメラニン細胞である。
【0072】
その方法は、試験物質で処理した細胞におけるCdc42の活性および/または発現を対照細胞におけるCdc42の活性および/または発現と比較することを含むことができる。
【0073】
Cdc42の発現レベルは、当業者には明らかである多くの方法により測定することができる。本発明の実施形態では、発現は、免疫蛍光、ウエスタンブロッティングを用いて、またはCdc42 mRNAのレベルを測定することにより決定することができる。上記のとおり、他の適切な方法は当業者には明らかである。
【0074】
ここで本発明の実施形態について、ほんの一例として、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】表皮ケラチン細胞および表皮メラニン細胞のBMP6インキュベーションin vitroに対する細胞毒性の評価結果を示す。A.正常なヒト表皮ケラチン細胞培養(女性-68;p2)を10ng/mlおよび100ng/mlのBMP6で24時間、48時間および72時間処理した。B.正常なヒト表皮メラニン細胞培養(i)女性-68;p4および(ii)女性-42;p3を10ng/mlおよび100ng/mlのBMP6で72時間処理した。細胞毒性を細胞死および細胞病理学的形態変化により評価した。細胞毒性作用は見られない。
【図2】正常なヒト表皮メラニン細胞におけるBMP6およびALK6タンパク質発現の検出結果を示す。A.ヒト表皮メラニン細胞(F39-MC)におけるBMP6タンパク質発現を確認する(i)BMP6(緑);(ii)チロシナーゼ(赤);ならびに(iii)BMP6およびチロシナーゼの組み合わせ画像の二重免疫標識。(iv)は対応する明視野像を示す。B.(i)BMP6(緑)、(ii)ALK6(赤)、ならびに(iii)ヒト表皮メラニン細胞(F39-MC)におけるBMP6およびALK6の共局在化を示すものの二重免疫標識。(iv)は対応する明視野像を示す。
【図3】表皮メラニン細胞-ケラチン細胞共培養における用量依存的BMP6刺激性メラノソーム転移の定量分析の結果を示す。A.BMP6の上昇する濃度で刺激された適合するメラニン細胞-ケラチン細胞共培養(F39 MC-KC)に24時間二重免疫蛍光を行った(1、10、50、100および500ng/ml)。抗gp100抗体(緑)および抗サイトケラチン抗体(赤)での二重免疫標識は、ケラチン細胞へ転移した蛍光スポットの数の著しい用量依存的増加を示した。細胞核はDAPIで染色した。B.異なる処理群それぞれについてランダムに選択した5つの顕微鏡視野(視野1つ当たり細胞合計20個)における転移メラノソームの定量化。値は、非刺激対照レベルと比較したケラチン細胞1個当たりのgp100陽性スポットの数の割合増加として表した。平均は、^(*)=P<0.05、^(**)=P<0.01、および^(***)=P<0.001での3つの独立した実験の±SEMである。
【図4】BMP6が表皮メラニン細胞におけるCdc42およびALK6(BMP6受容体)発現を上方調節するかを決定する実験および結果を示す。正常なヒト表皮メラニン細胞培養(女性39y-MC)におけるCdc42 mRNA発現のRT-PCR分析。A.100ng/mlのBMP6での指示時間の処理。B.指示用量での2時間のBMP6処理。Cdc42 mRNAをRT-PCRにより検出した。同程度装填の内部対照としてGAPDHを用いた。C.正常なヒト表皮メラニン細胞培養(女性42y-EM)を100ng/mlのBMP6の有無にかかわらず12時間処理した。ALK6(緑)を免疫標識し、(i)未処理対照と比較した(ii)BMP6影響下でのALK6発現の増加を示す。対応する明視野像(下のパネル)。
【図5】Cdc42発現の誘導が背側の糸状仮足形成およびメラノソーム転移を増加させることを示す実験の結果を示す。A.(ii)構成的に活性な(CA)ヒトGFP-Cdc42(61L)でトランスフェクトしたFM55細胞の背側表面は背側糸状仮足数の大幅な増加をもたらし、(iii)優勢阻害(DN)ヒトGFP-Cdc42(15A)でトランスフェクトした細胞は(i)GFP単独存在下での糸状仮足と比較して背側糸状仮足を阻害した。囲み領域の高倍率図(下のパネル)。電界放射SEM(FEI、Quanta 400)を用いて10keVの加速電圧で生成したSEM画像。B.(左のパネル)トランスフェクトFM55細胞-ケラチン細胞共培養に二重免疫蛍光を行った。(i)FM55およびケラチン細胞における単独GFP(ii)FM55およびケラチン細胞における構成的に活性な(CA)ヒトGFP-Cdc42(61L)ならびに(iii)FM55およびケラチン細胞の共培養における優性阻害(DN)ヒトGFP-Cdc42(15A)。抗gp100抗体(緑)および抗サイトケラチン抗体(赤)での二重免疫標識は、異なる構成物存在下でケラチン細胞へ転移した蛍光スポットの数の明らかな増加を示した。細胞核をDAPIで染色した。B.(右のパネル)異なる処理群それぞれについてランダムに選択した5つの顕微鏡視野(視野1つ当たり細胞合計20個)における転移メラノソームの定量化。値は、非刺激対照レベルと比較したケラチン細胞1個当たりのgp100陽性スポットの数の割合増加として表した。平均は、^(***)P<0.001での3つの独立した実験の±SEMである。補足1:トランスフェクトFM55細胞の選択をGFP発現(緑)により確認した。メラニン細胞の同一性を確認するため、トランスフェクト細胞をメラニン細胞特異的抗HMB-45/gp100(赤)で免疫標識した。細胞核をDAPIで染色した。
【図6】選択的BMP6拮抗薬(スクレロスチン)を用いるBMP6誘導性メラノソーム転移の阻害を示す実験の結果を示す。A.適合するメラニン細胞-ケラチン細胞共培養(女性36y MC-KC)に組み換え型ヒトBMP6(100ng/ml)存在または非存在下でその選択的拮抗薬、組み換え型ヒトスクレロスチン(400ng/ml)の添加の有無にかかわらず24時間二重免疫蛍光を行った。抗gp100抗体(緑)および抗サイトケラチン抗体(赤)での二重免疫標識は、基準レベルと比較してBMP6存在下でケラチン細胞へ転移した蛍光スポットの数の明らかな増加を示し、それは選択的拮抗薬スクレロスチンを共培養に添加すると著しく減少した。細胞核をDAPIで染色した。B.異なる処理群それぞれについてランダムに選択した5つの顕微鏡視野(視野1つ当たり細胞合計20個)における転移メラノソームの定量化。値は、非刺激対照レベルと比較したケラチン細胞1個当たりのgp100陽性スポットの数の割合増加として表した。平均は、^(**)P<0.01、^(***)P<0.001での3つの独立した実験の±SEMである。
【図7】選択的BMP6拮抗薬(スクレロスチン)を用いるBMP6誘導性Cdc42およびALK6受容体発現の阻害を示す実験の結果を示す。A.Cdc42 mRNA発現のRT-PCR分析:正常なヒト表皮メラニン細胞(女性42y-EM)を組み換え型ヒトBMP6(100ng/ml)存在または非存在下でその選択的拮抗薬、組み換え型ヒトスクレロスチン(400ng/ml)の添加の有無にかかわらず2時間培養した。Cdc42 mRNAをRT-PCRにより検出し、同程度の装填の内部対照としてGAPDHを用いた。B.正常なヒト表皮メラニン細胞(女性42y-EM)を組み換え型ヒトBMP6(100ng/ml)存在または非存在下、その選択的拮抗薬、組み換え型ヒトスクレロスチン(400ng/ml)の添加の有無にかかわらず12時間培養した。ALK6(緑)を免疫標識し、スクレロスチンの影響下でのBMP6誘導性ALK6発現の阻害を示す。対応する明視野像(下のパネル)。
【図8】選択的BMP6拮抗薬(スクレロスチン)を用いるBMP6誘導性糸状仮足形成の阻害を示す実験の結果を示す。正常なヒト表皮メラニン細胞(女性42y-EM)を組み換え型ヒトBMP6(100ng/ml)存在または非存在下でその選択的拮抗薬、組み換え型ヒトスクレロスチン(400ng/ml)の添加の有無にかかわらず72時間培養した。電界放射SEM(FEI、Quanta 400)を用いて10keVの加速電圧で生成したSEM画像。
【図9】BMP6の、ヒト表皮メラニン形成、チロシナーゼ活性ならびにmRNAおよびタンパク質レベルでのチロシナーゼの発現への作用を示す実験の結果を示す。A.正常なヒト表皮メラニン細胞(F62;p4)を組み換え型ヒトBMP6(100ng/ml)存在または非存在下でその選択的拮抗薬、組み換え型ヒトスクレロスチン(400ng/ml)の添加の有無にかかわらず72時間処理した。細胞は、異なる薬での処理後メラニンレベルの明らかな変化を示した。水酸化ナトリウムを溶かした後、メラニン含量を分光光度法(475nm)で測定した。結果を非刺激対照レベルと比較したメラニン含量(pg/細胞)の変化として表した。平均は、^(*)P<0.05、^(**)P<0.01での3つの独立した実験の±SEMである。B.正常なヒト表皮メラニン細胞(女性62y;p4)を組み換え型ヒトBMP6(100ng/ml)存在または非存在下でその選択的拮抗薬、組み換え型ヒトスクレロスチン(400ng/ml)の添加の有無にかかわらず72時間処理した。下のパネル:チロシナーゼ活性の評価のため、抽出タンパク質を電気ブロットし、細胞膜をL-DOPAで染色した。上のパネル:バンド強度および値の濃度測定走査を非刺激対照レベルと比較した増加倍数として表した。平均は^(**)P<0.01での3つの独立した実験の±SEMである。C.正常なヒト表皮メラニン細胞(女性62y;p4)を組み換え型ヒトBMP6(100ng/ml)存在または非存在下でその選択的拮抗薬、組み換え型ヒトスクレロスチン(400ng/ml)の添加の有無にかかわらず72時間処理した。上のパネル:チロシナーゼmRNAをRT-PCRにより検出し、同程度の装填の内部対照としてGAPDHを用いた。下のパネル:チロシナーゼタンパク質をウエスタンブロッティングにより検出し、同程度の装填の内部対照としてアクチンを用いた。
【発明を実施するための形態】
【0076】
(序論)
メラニン転移の生物学についての研究中、本発明者らは、このプロセスにおける骨形成タンパク質(BMP)ファミリーのメンバーの潜在的な役割を研究した。本出願では、ヒト皮膚メラニン細胞からヒト皮膚ケラチン細胞へのメラニン転移を調節する新規機序について記載する。これは、このプロセスを用量依存的に刺激することができるBMP6の作用を含む。また、選択的BMP6拮抗薬(スクレロスチン)の添加は、ヒトメラニン細胞の走査電子顕微鏡(SEM)分析により証明されるように、BMP6誘導性メラノソーム転移を阻害し、(糸状仮足と呼ばれる)ナノ管のBMP6誘導性生成を阻害する。BMP6が糸状仮足形成を誘導する分子機序を分析し、BMP6がヒトメラニン細胞における(細胞分裂周期42)Cdc42の発現を用量依存的に刺激することが、逆転写分析を用いて見出された。メラニン細胞の糸状仮足形成およびメラノソーム転移におけるCdc42の動員は、トランスフェクトした構成的に活性な(CA)Cdc42および優性阻害(DN)Cdc42を有するFM55細胞のSEM分析を用いて確認された。CA-Cdc42は背側糸状仮足形成を誘導するが、DN-Cdc42は背側糸状仮足を阻害する。
【0077】
BMP6は、約15Kdの計算分子量を有する132アミノ酸の成熟ポリペプチドを生成するように切断される前駆体分子として合成されると予測される。BMP6(前駆体)は、ヒトの染色体6p24に限局する、長さ513アミノ酸の、57kDのタンパク質である。BMP6の成熟形態は、ポリペプチド鎖1つ当たり3つの潜在的なN結合型グリコシル化部位を含有する。活性BMP6タンパク質分子はおそらく二量体である。成熟形態へのBMP6の処理は、関連タンパク質TGFβの処理と類似の方法による二量化およびN末端領域の除去を含む(Gentry et al.,Mol.Cell.Biol.8:4162(1988))。ヒトBMP6前駆体は、GenBankデータベース(受入番号-P22004)に規定され、UniprotKB/Swiss-Prot(SEQ ID NO:1参照)に組み込まれている。成熟ポリペプチドはSEQ ID NO:1のアミノ酸374?513を含むと考えられる。他の活性BMP6ポリペプチドとしては、SEQ ID NO:1のアミノ酸382?513、388?513、412?513を含むポリペプチドが挙げられる。
【0078】
BMPは、ほとんどすべての正常な細胞の表面上に見られ、I型およびI型受容体からなる受容体複合体に結合することにより機能する。BMPR-Iは、単量体として存在する場合、BMPを低親和性に結合する。一方で、BMPR-IおよびBMPR-IIがヘテロ二量体として存在する場合、それらのBMP親和性は大幅に増加する(Hogan,1996)。分泌されると、BMP二量体は、I型およびII型受容体の両方に協同的に結合することにより、シグナル伝達を開始する。BMP6の各単量体は、I型およびII型受容体の両方に接続することができる。よって、四量体受容体複合体の組み立てはシグナルを細胞内に導入するのに不可欠である。
【0079】
II型受容体は、配位子結合の際にI型受容体をリン酸転移する構成的に活性なキナーゼである。一方で、I型受容体は、リン酸化反応により細胞内物質を活性化し、よって細胞内シグナルの特異性を決定する。BMP6を含むBMPは、BMPR-IA(ALK3;Seq ID 4)およびBMPR-IB(ALK6;Seq ID 2)を含む2つのタイプのI型受容体に結合することができる。BMPR-IAおよびBMPR-IBは構造的に類似しているが、異なる空間的および時間的発現パターンを示す。
【0080】
BMP6がその特異的な同族受容体、ALK6(受入番号O00238)の発現を誘導することも見出された。選択的BMP6拮抗薬スクレロスチンは、メラニン細胞におけるCdc42発現とともに、このBMP6誘導性ALK6発現を阻害し、Cdc42はBMP6シグナル伝達の考えられる増幅ループに関与することを示した。これらの発見はともに、メラニン細胞BMP受容体から生じるCdc42シグナルがケラチン細胞へのメラノソーム転移を調節する糸状仮足形成に関与することを示す。
【0081】
スクレロスチン(SOST)のアミノ酸配列は、GenBankデータベース(受入番号-Q9BQB4)に規定され、UniprotKB/Swiss-Prot(SEQ ID NO:3参照)に組み込まれている。SOSTのC末端領域(SEQ ID 3のアミノ酸169?203)はSOST二量化において役割を果たす。SOSTのN末端領域(SEQ ID 3のアミノ酸23?58)はBMP6上のI型およびII型受容体結合部位の両方と相互作用し、コア領域(SEQ ID 3のアミノ酸134?146)の一部はII型受容体結合部位と相互作用することができ、これらのSOST領域に特異的な抗体はBMPのSOSTへの結合を阻害または低下することができる。
【0082】
最後に、BMP6がメラニン細胞における律速酵素(チロシナーゼ)の発現および活性を刺激することによりメラニン形成を誘導することができることも示された。
【0083】
本出願では、BMP6がメラニン細胞とケラチン細胞との、潜在的にはケラチン細胞とケラチン細胞との間のメラニン転移を調節することができることを初めて示した。これは、少なくとも部分的には、Cdc42の作用によって起こる。BMP拮抗薬、ならびにそれらの構造および作用に基づく分子を、哺乳類の皮膚および毛髪の色素沈着の新規調節因子として用いることができる。
【実施例】
【0084】
(材料および方法)
細胞培養:適合する表皮ケラチン細胞および表皮メラニン細胞の分離および培養
インフォームドコンセントおよび地元の研究倫理委員会の承認とともに、選択的な美容整形手術後の、皮膚フォトタイプII(女性68y、39y、36y)および皮膚フォトタイプVI(女性42y)を有する正常で健康な白人ドナーからヒト腹部皮膚を得た。
【0085】
すべての細胞培養試薬は、とくに指定のない限り、Invitrogen Ltd.(スコットランド、ペーズリー)から得た。皮膚試料をRPMI1640培地に回収し、手術後5時間以内に処理した。表皮メラニン細胞培養を前述のように構築し(Kauser et al.,2003)、1%FBS、1倍濃度非必須アミノ酸混合物、ペニシリン(100U/ml)/ストレプトマイシン(100μg/ml)、2mMのL-グルタミン、5ng/mlの塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、および5ng/mlのエンドセリン-1(Sigma、英国ドーセット州プール)を添加したK-SFMおよびEagleの最小必須培地(EMEM)の混合物中で増殖させた。完全に適合する表皮ケラチン細胞(すなわち同じ皮膚試料からのもの)を前述のように構築し(Kauser et al.,2003)、25μg/mlのウシ下垂体抽出物(BPE)、0.2ng/mlのrEGF、ペニシリン(100U/ml)/ストレプトマイシン(100μg/ml)、および2mMのL-グルタミンを添加したケラチン細胞無血清培地(K-SFM)で増殖させた。培地を1日おきに補充した。ケラチン細胞およびメラニン細胞の初代培養を、それぞれ抗サイトケラチン抗体(Abcam、英国ケンブリッジ)およびメラニン細胞特異的NKI/beteb抗体(Monosan、オランダ、ウデン)からgp100までを用いて同定した。
【0086】
共培養研究のため、メラニン細胞(継代4)およびケラチン細胞(継代2)を8ウェルLab-Tek(登録商標)チャンバースライド(ICN Biomedicals,Inc.、米国オハイオ州オーロラ)上に1×10^(4)細胞/ウェルの細胞密度およびケラチン細胞10個に対してメラニン細胞1個の比で播種した。共培養をK-SFMおよびMEMの混合物(共培地)に一晩(16時間)保持して細胞接着させた後、培地を補充してさらに24時間置いた。
【0087】
共培養を血清飢餓培地(すなわち、ウシ胎児血清およびウシ下垂体抽出物が不足しているもの)で16時間インキュベートし、成長因子の外因性供給源を除去した後、100ng/mlの組み換え型ヒトBMP6(R&D System、英国オックスフォードシャー州)および400ng/mlの組み換え型ヒトスクレロスチン(R&D System、英国オックスフォードシャー州)の作用を24時間評価した。
【0088】
(BMP6用量の評価)
表皮メラニン細胞(MC)および表皮ケラチン細胞(KC)を、血清を添加した完全MEMメラニン細胞およびK-SFMケラチン細胞培地で6ウェルプレート上に播種し、24時間置いた。細胞を10ng/mlおよび100ng/mlのBMP6を添加した無血清培地(いわゆる飢餓培地)に移し、24時間、48時間、および72時間置いた。細胞毒性を細胞死および細胞病理学的形態変化により評価した。
【0089】
約1×10^(4)個のMCをLab-tek(登録商標)8ウェルチャンバースライドの各ウェル中に播種し、24時間置いて接着させた。次に細胞を無菌PBSで3回洗浄し、350μlの飢餓、無血清メラニン細胞培地を添加し、37℃および5%CO_(2)で24時間インキュベートした。次に細胞を無菌PBSで3回洗浄し、100ng/mlのBMP6の有無にかかわらず12時間インキュベートした。次に細胞を無菌PBSで3回軽く洗浄し、氷冷メタノールにおいて-20℃で10分間定着させた。免疫細胞化学的分析を行うまでスライドを-20℃で保存した。
【0090】
(ウエスタンブロット分析)
融合性T225フラスコ中のMCをトリプシン処理し、完全培地を有するT25フラスコ中に播種し、一晩接着させた。処理の24時間前に培地を飢餓培地に取り替え、24時間置いた。細胞を無菌PBSで3回洗浄し、飢餓培地のみまたは100ng/mlのBMP6を添加して異なる時間(1?24時間)インキュベートした。異なる実験では、細胞を異なる濃度のBMP6で12時間処理した。
【0091】
各細胞抽出物からの総タンパク質40mgを還元SDS-8%-PAGE中で電気泳動させ、PVDF膜(Millipore Corporation、マサチューセッツ州ベッドフォード)上にブロットした。膜を5%乳PBS/0.075%Tween20を用いて室温で2時間ブロックした後、一次抗体を用いて4℃で一晩プローブした。分子量ラダー(Magik Marker、Invitrogen)を5%乳PBS/0.075%Tween20中でインキュベートし、膜ストリップをロッキングプラットフォーム上で1mlの5%乳PBS/0.075%Tween20(陰性対照)、または1mlのウサギ抗チロシナーゼ(200:1の5%乳PBS/0.075%Tween20中ポリクロナール抗体)および1mlのヤギ抗アクチン(1000:1の5%乳PBS/0.075%Tween20中ポリクロナール抗体)を用いて4℃で一晩インキュベートした。大規模な洗浄後、ブロットをセイヨウワサビペルオキシダーゼ共役二次抗体で2時間インキュベートした。次に分子量ラダーを5%乳PBS/0.075%Tween20中に希釈した1mlのHRP-ヤギ抗ヒトIgG(H+L)(Zymed、米国)(500:1)でインキュベートし、膜ストリップをロッキングプラットフォーム上で1mlの抗ウサギIgGセイヨウワサビペルオキシダーゼ結合抗体(HRP)二次抗体(Amersham Biosciences、英国)(1:700で5%乳PBS/0.075%Tween20中に希釈)において室温で2時間インキュベートした。洗浄手順を繰り返し、膜ストリップをLumiGLO(登録商標)試薬および過酸化物(BioLab Ltd、英国)において室温で2分間インキュベートした。ブロットストリップをKodak XRA X線フィルム(Kodak、英国)にさまざまな露出時間で露出した後、バンドが現れるまで現像液(Kodak、英国)中で現像し、水道水ですすぎ、フィルムが青くなるまで定着液(Kodak、英国)中で定着させた後、水道水ですすぎ、乾燥させることにより、化学発光シグナルを検出した。次に、解析ソフトウェア(Image Master Total Lab バージョン1.11)を用いるタンパク質発現レベルの半定量評価のための濃度測定分析のため、膜を標識し、走査した。
【0092】
(免疫蛍光染色)
氷冷メタノール中で定着させた細胞をPBS中で洗浄した後、タンパク質発現の検出のため10%ロバ血清でブロックした。二重標識実験のため、第1の一次抗体として、BMP6(Abcam、英国ケンブリッジ)、BMPR-IB/ALK6(R&D Systems、英国オックスフォードシャー州)またはNKi/Beteb(1:30)(Monosan、オランダ、ウデン)を塗布して4℃で一晩置いた後、FITC共役二次抗体(1:100)を用いて室温で1時間インキュベートした。第2の一次抗体として、サイトケラチン(1:100)(Abcam、英国ケンブリッジ)またはβ-アクチン(1:100)(Santa Cruz、米国)を塗布して室温で1時間置いた後、TRITC共役二次抗体(1:100)(Jackson Immunoresearch Laboratories,Inc.、米国ウエストグローブ)を塗布した。DAPI(Vector Labratories、カリフォルニア州バーリンゲーム)を用いて細胞核を染色した。冷却型浜松デジタルカメラで対物100倍または40倍を用いて画像をキャプチャし、Paint Shop Pro(Jasc Software Ver.7、米国カリフォルニア州)を用いて後処理した。陰性対照は、一次抗体を省略し、二次抗体ホストからの非免疫血清で置き換え、二次抗体を含んだ。
【0093】
(メラノソーム転移の定量分析)
適合するメラニン細胞-ケラチン細胞共培養を異なる用量のBMP6で刺激し、非刺激細胞と比較した。3つの独立した実験において100倍の倍率(油浸)で1ウェル当たり5つのランダムな顕微鏡視野の受容ケラチン細胞内の蛍光gp100陽性スポットを数えることにより、メラノソーム転移の評価を行った。メラニン細胞にも関連し得るメラニン顆粒を数えることを回避するため、我々はメラニン細胞と直接接触しないケラチン細胞内のgp100陽性スポットのみを数えた。
【0094】
(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR))
1、50、100および500ng/mlのBMP6で4時間または100ng/mlのBMP6で指定時間処理した1×10^(6)個のメラニン細胞から総RNAを得た(図4A)。いくつかの実験のため、メラニン細胞を400ng/mlのスクレロスチンの有無にかかわらず100ng/mlのBMP6の存在または非存在下でも処理した。RNA試料をデオキシリボヌクレアーゼ(QIAGEN、英国)で処理した後、濃度を測定した。次に逆転写用Superscript IIIファーストストランド合成キット(Invitrogen、カリフォルニア州)を用いて第1ストランドcDNAを合成した。その反応におけるRNAの最終濃度は、すべての試料について1μg/100μlだった。QIAGEN Fast Cycling PCRキット(QIAGEN、英国)を用いて製造業者より説明される条件下でPCRを行った。簡潔には、以下のサイクル条件を用いる:95℃で15分間(段階1);96℃で15秒間;プライマーアニーリング15秒間(Cdc42は42?65℃、チロシナーゼは58℃、およびGAPDHは60℃);72℃で25秒間(段階2)×30サイクル。RT-PCR反応に用いるプライマーは表1に示すが、Sigma-Genosys、英国から入手した。PCR生成物を1倍TAE緩衝液中の1%アガロースゲルで分離し、臭化エチジウムで染色した。1KbのDNA Plus DNAラダー(Invitrogen、カリフォルニア州)をDNAマーカーとして用いる。
【0095】
【表1】

【0096】
(トランスフェクション)
優性阻害ヒトGFP-Cdc42(15A)、構成的に活性なGFP-Cdc42(61L)およびpEGFP-C3のGFPは、Richard E.Cheney(ノースカロライナ大学、チャペルヒル)の気前の良い寄贈品だった。ベクターはジェネティシン(G418)への耐性を与えるネオマイシン遺伝子を含んでいた。約5×10^(5)個の中程度に色素沈着したFM55細胞を、トランスフェクションの前日10%FBSを添加したRPMI培地において16時間6ウェルプレートで70?80%の密集度まで増殖させた。FM55細胞をLipofectamine 2000トランスフェクション試薬(Invitrogen、米国カリフォルニア州カールスバッド)を用いてトランスフェクトした。簡潔には、1.6mlのOpti-MEM低血清培地中で3.2μgのcDNA構成物を8μlのLipofectamine 2000トランスフェクション試薬と混合した。細胞をトランスフェクション混合物で12時間インキュベートし、1倍PBSで3回洗浄し、10%FBSを含有する未使用RPMI中で48時間インキュベートした。トランスフェクト細胞を1.6mg/mlのG418を用いて15日間かけて選択した。次に1×10^(4)個の安定なトランスフェクト細胞を8ウェルLab-Tek(登録商標)チャンバースライドにおいて10%FBSを添加したRPMI培地存在下で24時間培養した。24時間後、FM55細胞の(糸状仮足を含む)形状の立体構造を保存するため、安定にトランスフェクトした細胞を0.1Mのカコジル酸ナトリウム(Agar、英国)中に緩衝させた1%グルタルアルデヒド(Sigma、英国)において37℃ですぐに定着させ、SEM分析のために処理した。8ウェルLab-Tek(登録商標)チャンバースライド上の平行な細胞も、氷冷メタノールにおいて-20℃で10分間定着させ、PBS中で洗浄した後、gp100免疫蛍光研究のため10%ロバ血清でブロックし、トランスフェクションおよび選択を確認した(補足1)。共培養研究のため、安定にトランスフェクトしたFM55細胞およびケラチン細胞(継代2)を8ウェルLab-Tek(登録商標)チャンバースライド上に1×10^(4)細胞/ウェルの細胞密度および10個のケラチン細胞に対して1個のFM55という比で播種した。共培養をK-SFMおよびMEM(共培地)の混合物中に一晩(16時間)保持し、細胞を接着させた後、培地を補充してさらに24時間置いた。次に、メラノソーム転移効率を試験するgp100およびサイトケラチンの二重免疫蛍光研究のため、細胞を氷冷メタノールにおいて-20℃で10分間定着させ、PBS中で洗浄した後、10%ロバ血清でブロックした。
【0097】
(細胞形態の走査電子顕微鏡評価)
400ng/mlのスクレロスチンの有無にかかわらず100ng/mlのBMP6の存在または非存在下で72時間処理した表皮メラニン細胞および安定に選択トランスフェクトされたF55細胞を0.1Mのカコジル酸ナトリウム(Agar、英国)中に緩衝させた1%グルタルアルデヒド(Sigma、英国)において37℃で定着させた。次に細胞を媒染剤として用いられる1%四酸化オスミウム(Agar、英国)および1%タンニン酸(Agar、英国)中で後定着させ、一連の20?70%のアルコールによって脱水し、0.5%酢酸ウラニル中で染色した後、90および100%のアルコール中でさらに脱水した。ヘキサメチル-ジシラザン(Sigma、英国)中で最終脱水した後、空気乾燥させた。乾燥後、試料を金スパッター(EMITECH、K550)(Blazer20mA)において金で10分間コーティングした。試料を電界放射型SEM(FEI、Quanta400)下、10keVの加速電圧で観察した。
【0098】
(メラニン分析)
500μg/mlの合成メラニン(Sigma、英国)を1Mの水酸化ナトリウム(NaOH)(BOH Ltd、英国)中で調製し、超音波水槽中で20分間溶解させた。この原液から、各種メラニン標準液を100μg/ml?1μg/mlの1MのNaOH中で調製した。メラニン標準液をピペットで96ウェルプレートに取り、試験試料中のメラニン含量の評価について較正曲線を作成した。400μlの1MのNaOHを各細胞ペレットに添加し、ヒートブロック(100℃)上で15分間溶解させた。ペレットを激しく渦撹拌し、可溶化したペレットをピペットで同じ96ウェルプレートに取った。試料の光学密度をDYNEX REVELATION 4.02プログラム上495nmで読んだ。各試験試料のメラニン含量を較正曲線から読んだ。
【0099】
(チロシナーゼ活性の評価のための非変性SDS-PAGEを用いるDOPAオキシダーゼ検出)
約1×10^(6)個の表皮メラニン細胞を3つのT75フラスコ中に播種し、37℃および5%CO_(2)で一晩インキュベートした。細胞をSDS-PAGE用に用意し、PVDF膜上にトランスブロットした。70μgの非還元タンパク質抽出物を沸騰せずにピペットで適切なウェルの8%SDS-PAGEゲルに取った。別々のタンパク質を含有するPVDF膜を1倍PBS中で1回洗浄した後、0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液中の5mMのL-DOPAにおいてL-DOPAを3回交換しながら室温で3時間インキュベートした。膜を蒸留水で洗浄することによりL-DOPA反応を停止し、膜を走査した。
【0100】
(統計分析)
群と処理との統計的有意性を、Prism v.4.00(GraphPad Software、米国イリノイ州シカゴ)を用いる一元配置ANOVAおよびダネット事後検定を用いて評価した。統計的に有意な差はアスタリスクで示す:^(**)=P<0.01、^(***)=P<0.001。
【0101】
(考察の結果)
BMP6(10および100μg/ml)は正常なヒト表皮メラニン細胞およびケラチン細胞に対する細胞毒性を示さない
BMP6がメラニン細胞またはケラチン細胞に対して毒性がある可能性を排除するため、細胞を10ng/mlおよび100ng/mlのBMP6存在下で24時間、48時間および72時間保持した。BMP6の2つの用量は、メラニン細胞およびケラチン細胞の細胞増殖または形態の変化とは関係ない(図1A、1B)。
【0102】
正常なヒト表皮メラニン細胞はBMP6タンパク質および受容体ALK6を発現する
正常なヒトメラニン細胞におけるBMP6の発現を、抗BMP6(緑、Ai)と抗チロシナーゼ抗体(赤、Aii)の二重免疫標識(黄橙、Aiii)により確認した。抗BMP6(緑、Bi)および抗ALK6(赤、Bii)抗体でのメラニン細胞の二重免疫標識は、細胞全体でBMP6およびALK6の共局在化(黄、Biii)を示した。
【0103】
用量依存的BMP6刺激性メラノソーム転移の定量分析
メラニン細胞-ケラチン細胞共培養へのBMP6処理がメラニン細胞からケラチン細胞へのメラノソーム転移の刺激を用量依存的にもたらすように(図3A、B)、ALK6受容体は有効である。よって、これはメラニン細胞-ケラチン細胞共培養系におけるメラノソーム転移に対するBMP6の作用についての初めての報告である。オートクリンおよびパラクリン作用の両方が含まれ得る。
【0104】
BMP6はヒト表皮メラニン細胞におけるCdc42メッセージ発現を上方調節する
メラノソーム転移におけるBMP6の機序的役割をより良く理解するため、我々はヒトメラニン細胞におけるCdc42の発現;糸状仮足形成の主要調節因子を研究した(Scott et al.,2002)。RT-PCR分析は、未処理対照におけるCdc42 mRNAの基礎レベルの発現と比較して、Cdc42の最大誘導が100ng/mlのBMP6での処理後2?4時間で起こった後、わずかに減少するが、最長12時間高いままであることを示した(図4A)。BMP6によるCdc42 mRNAの誘導は用量依存的に起こった(図4B)。BMP6は、正常なヒト表皮メラニン細胞におけるALK6(図4Ci)の発現の正常な基礎レベルと比較して、BMP6受容体ALK6(緑、図4Cii)の発現も刺激した(図4C)。
【0105】
背側糸状仮足を誘導することによりメラノソーム転移を刺激するCdc42の要件
2種類のRhoタンパク質変異体:GTPアーゼ活性化タンパク質(GAP)が阻害されるため、構成的にGTP結合である活性化変異体;およびグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)を滴定することにより作用する優性阻害変異体を広く用い、それらの機能を分析してきた(Feig、1999)。我々は、対照ベクターと比較すると、構成的に活性なCdc42が背側糸状仮足を誘導し、優性阻害Cdc42がF55ヒトメラノーマの背側糸状仮足を阻害することを見出した(図5A)。
【0106】
我々は次に、Cdc42タンパク質の過剰発現もメラノソーム転移に影響を及ぼし得るかを究明することに強い意欲を示した。メラニン転移へのこれらの過剰発現タンパク質の関与を試験するため、トランスフェクトFM55細胞を用いてFM55メラノーマ-ケラチン細胞共培養を24時間かけて構築した。この共培養の抗gp100抗体(緑)での免疫標識は、ケラチン細胞(白い矢印)へ転移した蛍光スポットの数の明らかな変化を示した(図5B、左のパネル)。GFP対照ベクターと比較して、構成的に活性なGFP-Cdc42はメラノソーム転移を誘導するが、優性阻害GFP-Cdc42はメラノソーム転移を阻害した(図5B、右のパネル)。Cdc42の過剰発現または阻害によるメラノソーム転移の操作はさらに、メラノソーム転移への糸状仮足の強い関与を示す。BMP6はCdc42の発現を上方調節することができるので、これはBMP6に関連するメラノソーム転移の刺激にその下流標的としてCdc42が関与し得ることを示す。これを試験するため、我々はDN-Cdc42の糸状仮足形成およびメラノソーム転移に対する阻害作用を利用した。これも同様に、ヒトCdc42に対してsiRNAを用いてヒトメラニン細胞の内因性Cdc42発現を崩壊させることにより、達成することができる。
【0107】
選択的BMP6拮抗薬(スクレロスチン)を用いるBMP6誘導性メラノソーム転移の阻害
スクレロスチン(選択的BMP6拮抗薬)がBMP6誘導性メラノソーム転移を阻害するかどうかを試験するため、我々はこの拮抗薬を正常なヒト表皮メラニン細胞-ケラチン細胞共培養において試験した。スクレロスチンの添加そのものは、基礎レベルのメラニン細胞からケラチン細胞へのメラノソーム転移を阻害した(図6A、B)。また、スクレロスチンはヒト表皮メラニン細胞-ケラチン細胞共培養におけるBMP6誘導性メラノソーム転移を阻害し、スクレロスチンを哺乳類の皮膚および毛髪色素沈着の新規調節因子として用いることができることを示した(図6A、B)。
【0108】
選択的BMP6拮抗薬(スクレロスチン)を用いるBMP6誘導性Cdc42およびALK6受容体発現の阻害
我々は、メラニン細胞からケラチン細胞へのメラノソーム転移の調節因子としてのCdc42の生理学的役割について初めて示した(図5B)。スクレロスチンのBMP6誘導性メラノソーム転移を阻害する能力は、スクレロスチンがヒトメラニン細胞におけるCdc42のBMP6誘導性発現を阻害し得ることを示した。ヒトメラニン細胞のRT-PCR分析を用い、我々は実際にスクレロスチンがCdc42のBMP6誘導性発現を下方調節することを見出した(図7A)。免疫蛍光研究を用い、我々はスクレロスチンがBMP6受容体であるALK6(緑)のBMP6誘導性発現を下方調節することも見出した(図7B)。この発見は、Cdc42がBMP6シグナル伝達の考えられる増幅ループに関与することを示す。
【0109】
選択的BMP6拮抗薬(スクレロスチン)を用いるBMP6誘導性糸状仮足形成の阻害
メラニン細胞のSEM分析は、未処理対照と比較して、多数のBMP6処理による背側糸状仮足の刺激を示す(図8iii)。スクレロスチンで処理したメラニン細胞は背側糸状仮足形成の低減を示し、一方BMP6で処理した細胞はスクレロスチン存在下で糸状仮足形成を誘導しなかった(図8ii、iv)。これらのデータは、ヒトメラニン細胞における背側糸状仮足形成の刺激についてのBMP6の要件を強く裏付ける。
【0110】
BMP6誘導性メラノソーム転移の阻害(図6)とともに、スクレロスチンによるCdc42およびALK6受容体発現の阻害(図7)および糸状仮足形成の阻害(図8)は、メラニン細胞BMP受容体から生じるCdc42シグナルがケラチン細胞へのメラノソーム転移を調節する糸状仮足形成に関与することを示す。
【0111】
ヒト表皮メラニン細胞におけるメラニン形成へのBMP6の作用
BMP6はヒト表皮メラニン細胞in vitro中のメラニン含量を(72時間後約32±9%)増加させた(図9A)。選択的BMP6拮抗薬スクレロスチンは、ヒト表皮メラニン細胞中のBMP6誘導性メラニン含量を(15±3%)抑制した(図9A)。チロシナーゼ活性(メラニン合成の可能性の指標)もBMP6により刺激されたが、スクレロスチンはチロシナーゼ活性のBMP6誘導性増加を抑制した(図9B)。
【0112】
要約:メラニン細胞におけるメラニン形成の誘導のためのシグナル伝達機序の研究は、タンパク質キナーゼAによって作用するcAMP上昇剤が、チロシナーゼの発現を増加させることによりメラニン細胞におけるメラニン形成を誘導することを示した(Bertolotto et al.,1998)。この簡略スキームを越えて、MSH、紫外線またはヒト胎盤のスフィンゴ脂質での処理により、p38 MAPKカスケードがメラニン細胞におけるメラニン形成に関与することも示された(Galibert et al.,2001;Smalley and Eisen,2000;Singh et al.,2005)。近年、BMPもメラニン形成の強力な調節因子として浮上してきている(Botchkarev,2003;Yaar et al.,2006)。BMP4はメラニン細胞における律速酵素(チロシナーゼ)の発現および活性を阻害することにより、正常なヒトメラニン細胞におけるメラニン形成のオートクリン阻害因子として作用することが見出された(Yaar et al.,2006)。我々の研究では、我々はBMP6がタンパク質および遺伝子レベルの両方でチロシナーゼの発現を刺激することにより、メラニン形成の刺激因子として作用することを見出した(図9C)。一方で、スクレロスチンは、タンパク質および遺伝子レベルの両方でヒト表皮メラニン細胞におけるBMP6誘導性チロシナーゼ発現を阻害した(図9C)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-04-14 
結審通知日 2016-04-18 
審決日 2016-05-06 
出願番号 特願2011-525630(P2011-525630)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (C12Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 福澤 洋光  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 長井 啓子
山本 匡子
登録日 2015-07-10 
登録番号 特許第5773872号(P5773872)
発明の名称 皮膚色素沈着の調節のための組成物および方法  
代理人 前田 勇人  
代理人 杉村 憲司  
代理人 前田 勇人  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 杉村 憲司  
代理人 齋藤 恭一  

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