ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B28B 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B28B |
---|---|
管理番号 | 1314654 |
審判番号 | 不服2014-16586 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-08-21 |
確定日 | 2016-05-11 |
事件の表示 | 特願2012-541751「炭化珪素構造体およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月10日国際公開、WO2012/060101〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、2011年(平成23年)11月2日(優先権主張 2010年11月2日,2011年10月17日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成25年12月9日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月17日に意見書及び手続補正書が提出され、同年2月18日に手続補足書が提出され、同年3月28日付けで拒絶査定されたが、同年8月21日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、平成27年10月1日に上申書が提出されたものである。 第2.原査定の理由 平成26年3月28日付けの拒絶査定は、 「この出願については、平成25年12月 9日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、 平成25年12月9日付け拒絶理由通知書によれば、理由1,2は、 「1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものであり、下記の点として、 「・・・本願発明の製造方法は、明細書([0032])程度の記載しかなく、室温で安定なSiO_(2)とCO_(2)をどのようにして反応させるのか、十分に裏付けられているとはいえない。してみると、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないし、発明の詳細な説明に開示された内容を本願発明の範囲まで拡張ないし一般化できるともいえない。」と指摘されている。 第3.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1は、平成26年2月17日に提出された手続補正書によって補正された次のとおりのものである(以下、当該請求項1に記載された発明を、「本願発明」という)。 「 【請求項1】 枠型の中に封入された酸化珪素からなる酸化珪砂に二酸化炭素を注入し、常温において反応させて生成した一定の形状を有する炭化珪素を含むブロック体に形成したことを特徴とする炭化珪素構造体。」 第4.本願明細書の発明の詳細な説明の記載 本願発明の、型枠の中に封入した「酸化珪素からなる酸化珪砂」に「二酸化炭素」を注入し、「常温において反応させ」ることで「生成した一定の形状を有する炭化珪素を含むブロック体」を形成するという発明特定事項に関連する主要な記載を摘記すると以下のとおりである。 a 「【0001】 本発明は、酸化珪素に二酸化炭素を反応させて形成した炭化珪素の構造体に関し、特に、酸化珪素からなる酸化珪砂を枠型に入れて二酸化炭素を注入し、常温において反応させて形成した一定の形状を有するブロック体からなる建築用材となる炭化珪素構造体とその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 建築技術が飛躍的に進歩する昨今、強度、耐摩耗性、耐薬品性、応力緩和特性、弾性回復性等に優れた建築用材が開発され、利用されている。 ・・・ 【0007】 ・・・ 特に二酸化炭素放出という観点からは、その抑制が充分であるとはいえなかった。 そこで、剛性、強度、耐衝撃性等を有し、かつ、その製造過程等において自然環境について充分考慮した建築用材の開発が望まれていた。 ・・・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は上記問題を解決するために、建築用材として利用される炭化珪素のブロック体からなる構造体、および、ブロック体の製造工程で二酸化炭素を消費し、酸素を放出する自然環境に充分配慮したブロック体からなる炭化珪素構造体の製造方法を提供する。 」 b「 【課題を解決するための手段】 【0010】 上記の目的を達成するために本発明に係る炭化珪素構造体は、枠型の中に封入された酸化珪素からなる酸化珪砂に二酸化炭素を注入し、常温において反応させて形成した一定の形状を有する炭化珪素を含むブロック体に形成した構成である。 ・・・ 【0012】 また、炭化珪素構造体の製造方法は、枠型の中に酸化珪素からなる酸化珪砂を封入し、これに二酸化炭素を注入して常温において反応させ、これより建築用資材として用いられる一定の形状を有する炭化珪素ブロック体を形成する工程からなる構成である。 【0013】 また、炭化珪素構造体は、枠型の中に封入された酸化珪素からなる酸化珪砂に二酸化炭素を注入し、常温において反応させ、さらに、有機系素材からなる硬化剤を注入および/または塗布して一定の形状を有するブロック体に形成した構成である。 また、枠型の中に封入された酸化珪素からなる酸化珪砂に二酸化炭素および珪酸ソーダ(珪酸ナトリウム)を注入し、常温において反応させて生成した一定の形状を有する炭化珪素を含むブロック体に形成した構成である。 ・・・ 【0015】 また、枠型の中に封入された酸化珪素を含有する石炭灰に二酸化炭素および珪酸ソーダ(炭酸ナトリウム)を注入し、常温において反応させて生成した一定の形状を有する炭化珪素を含むブロック体に形成した構成である。 また、炭化珪素構造体は、枠型の中に封入された酸化珪素を含有する石炭灰に二酸化炭素および珪酸ソーダ(炭酸ナトリウム)を注入し、さらに有機系素材からなる硬化剤を注入および/または塗布して一定の形状を有するブロック体に形成した構成でもある。 ・・・」 c「【発明の効果】 【0016】 本発明は、上記詳述した通りの構成であるので、以下のような効果がある。 1.枠型の中に封入された酸化珪素からなる酸化珪砂に二酸化炭素を注入するため、あらゆる形状、大きさの簡単に崩れることのない一定の形状を維持した炭化珪素構造体を形成することが可能となる。また、酸化珪砂に二酸化炭素を注入し常温において反応させて炭化珪素を形成するため、反応後に形成される物質としては炭化珪素以外に酸素を形成することから自然に配慮した、強固かつ耐熱性に優れたブロック体からなる炭化珪素構造体が提供できる。 ・・・ 【0018】 6.上記ブロック体からなる炭化珪素構造体は、製造方法が簡便であり、枠型に酸化珪砂を封入し、これに二酸化炭素を注入するだけの工程で、環境に配慮した二酸化炭素を排出しない製造方法を提供することができる。 ・・・ 9.また、上記ブロック体は、酸化珪砂に二酸化炭素と合わせて珪酸ソーダを注入するため、より堅強なブロック体を構成することができる。 」 d 「 【発明を実施するための最良の形態】 【0024】 以下、本発明に係る炭化珪素構造体を、図面に示す実施例に基づいて詳細に説明する。 ・・・ 【0025】 本発明に係る炭化珪素構造体1は、構造体形成用枠体10と、酸化珪砂20と、二酸化炭素30により生成するものであり、さらに、必要に応じて防水加工部材50により防水加工される。 ・・・ 【0027】 酸化珪砂20は、酸化珪素(SiO2)からなる砂状体からなる。枠体に封入された酸化珪砂20は酸化珪素であって、ブロック体に形成される炭化珪素構造体1の反応前の状態である。反応後は固化し炭化珪素構造体1からなるブロック体となり、建築用材に供される。 【0028】 二酸化炭素30は、通常の炭酸ガス(CO2)であり、本発明では、酸化珪素(SiO2)に注入されて反応を起こし、酸化珪素から酸を結合反応させて除去して、炭化珪素(SiC)を生成する媒体の役目を果たす。 ・・・ 【0029】 図1で示すように、直方体形状の炭化珪素構造体形成用枠体10の中に、酸化珪砂20が封入される。 ・・・ 【0031】 ・・・ その後、図2で示すような二酸化炭素注入用蓋31が被せられる。この二酸化炭素注入用蓋31には二酸化炭素注入孔32である開口が設けられている。 ・・・ 【0032】 直方体形状の炭化珪素構造体形成用枠体10の中に封入された酸化珪砂20に、炭酸ガスボンベ(図示せず)等を使用して、二酸化炭素注入孔32より二酸化炭素30が注入される。これにより、化学反応を起こし、硬度、耐熱性および化学的安定性に優れた物質である炭化珪素が形成され、ブロック体からなる炭化珪素構造体1が形成される。二酸化炭素30の注入時間は任意であるが、この実施例では二酸化炭素30との反応効率や二酸化炭素30の外部への飛散という点を考慮して、上記枠体の体積であれば、二酸化炭素30の注入時間は20秒前後であるが反応速度によって更に注入することも考えられる。 なお、本発明の炭化珪素の生成の化学反応は、以下の通りである。 SiO2+CO2→SiC+2O2 なお、炭化珪素構造体1の形成時に起きる化学反応により、酸素(O2)が形成され空気中に排出することになる。二酸化炭素(炭酸ガス)の注入と酸素の排出という自然環境に優しい化学反応が発生するため、建築用材である炭化珪素構造体1の形成は、二酸化炭素の削減という効果を派生する。 ・・・ 【0040】 更なる別の実施例として、上記各種枠体の中に封入された酸化珪砂20に対して二酸化炭素30を注入する際に、同時に珪酸ソーダ36(珪酸ナトリウム)を注入し、常温において反応させて炭化珪素構造体1を形成する事が可能である。珪酸ナトリウムは水溶性の物質であって、この濃水溶液は水ガラスと呼ばれる粘性の強い液体であり、粘度調整用の添加剤としての用途を有するものである。二酸化炭素30と合わせて珪酸ナトリウムを酸化珪砂20に注入することで、より強固な一定の形状を有する炭化珪素構造体1を形成することが可能となった。なお、炭化珪素構造体1に対して更に有機系素材からなる硬化剤40を注入および/または塗布することも可能である。これにより、更に表面が崩れにくい強固な炭化珪素構造体1を形成することが可能となる。 【0041】 硬化剤40としては、エポキシ樹脂、ウレタンまたは漆等が利用可能と考えられる。 ・・・ また、注入および/または塗布量も炭化珪素構造体1の用途に合わせて適宜調整することが可能であるが ・・・ 炭化珪素構造体1が有する珪砂の素材感を失わない程度に注入および/または塗布量を調整するのが望ましい。 【0042】 更に、炭化珪素構造体1を構成する実施例として、枠型の中に酸化珪素を含有する石炭灰を封入して、これに二酸化炭素30および珪酸ソーダ36(炭酸ナトリウム)を注入し、常温において反応させて炭化珪素を生成し一定の形状を有する炭化珪素構造体1のブロック体に形成することが可能である。 ・・・ 【0044】 酸化珪素を含有する石炭灰に二酸化炭素30および珪酸ソーダ36(炭酸ナトリウム)を注入し化学反応させることにより、組成物質の1つとしてメタケイ酸ナトリウムが生成される。メタケイ酸ナトリウム(いわゆるシリカゲル)は固体に近い状態を保持し、また、多孔質構造を有することから、触媒としての役割を果たす。このメタケイ酸ナトリウムが炭化珪素の粒子を結合する役割を果たすため、炭化珪素構造体の圧縮強度および引張強度を増大させることが可能となる。 【0045】 上記化学反応により、酸素のほか、炭酸ナトリウムや水も合わせて組成される。これらは、自然環境に対し負荷を与える性質を持つ物質ではないため、自然環境に配慮した構造体の製造が可能となる。 ・・・」 e 「 」 f 「 」 第5.当審の判断 当審は、本願は、原査定の理由1,2によって、拒絶をすべきものと判断する。 その理由は、以下のとおりである。 1.特許法第36条第4項1号違反(実施可能要件違反)について (1) まず、本願の特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書等」という。)では、「酸化珪砂」という用語が使用されているが、「酸化珪砂」という用語は、技術用語として使用されるものではない。 これに対し、「炭化珪素構造体1が有する珪砂」(摘記d(【0041】)等)と「珪砂」という用語も使用されているが、 「珪砂」とは、「けいさ 珪砂 : セキエイ粒を主とする砂. SiO_(2 )90%以上を含み、ほかにチョウ石、ジルコン、ジテッ鉱などを含む.」(化学大辞典 縮刷版 1997年9月20日 縮刷版第36刷発行)とされ、酸化珪素を主成分とするものである。 そうすると、本願明細書等においても「酸化珪素からなる酸化珪砂」(本件発明,【0001】等)、及び「酸化珪砂20は、酸化珪素(SiO_(2))からなる砂状体からなる。」(【0027】)と記載され、「酸化珪砂」は「酸化珪素」、すなわち「SiO_(2)」で構成されることが記載されているから、本願明細書等の「酸化珪砂」は、「珪砂」を意味するものと認められる。 (2) 本願明細書の発明の詳細な説明では、酸化珪砂に二酸化炭素を注入し、常温において反応して生成した炭化珪素を含む本願発明のブロック体を得ることに関して具体的な実験例等の開示はない。 一方、摘記dによれば、珪砂を型枠の中に封入し、二酸化炭素を注入することにより、常温において SiO_(2)+CO_(2)→SiC+2O_(2 ) なる反応により炭化珪素が生成し、炭化珪素を含むブロック体からなる炭化珪素構造体が得られるという説明がなされている。 しかしながら、珪砂の主成分である二酸化珪素は、「にさんかけいそ 二酸化珪素,無水ケイ酸,シリカ ・・・ フッ化水素酸以外の酸には作用されにくいか、または全く作用が認められない.」(化学大辞典 縮刷版 同上 )とされ、常温において二酸化炭素と反応して炭化珪素が生成することはないと考えられ、常温で珪砂と二酸化炭素とが反応して炭化珪素が生成するという技術常識は存在しない。 (3) 摘記dの【0040】-【0042】によれば、「別の実施例」として、酸化珪砂に、二酸化炭素と、ケイ酸ソーダ(珪酸ナトリウム)、いわゆる水ガラスとを注入して炭化珪素構造体を形成することが記載されている。そして、【0044】によれば、「メタケイ酸ナトリウム」が生成し、炭化珪素の粒子を結合する役割を果たすとしている。 (なお、ここで【0042】の「炭酸ナトリウム」の記載は、明細書のその他の記載及び技術常識から「珪酸ナトリウム」の誤記と認められる。) しかし、珪砂と水ガラスの存在下で二酸化炭素を注入して反応させることで、珪砂を硬化させる方法は、次のように、「炭酸ガス型法 (=CO_(2)プロセス)」や「CO_(2)法」と呼称される鋳型の周知慣用の造型技術として古くから知られているものである ●「たんさんガスがたほう 炭酸--型法 ・・・ =CO_(2)プロセス 種々のモル比の水ガラス(けい酸ソーダ)を4?6%の適量、他のでん粉または重油などと合わせてけい砂を主体とする.鋳物砂に混ぜた配合砂で造型した鋳型と、炭酸ガスを通気させることにより硬化させる方法.・・・」 (図解 鋳物用語辞典 昭和48年7月30日 初版発行) ●「CO_(2)法 けい砂に4?5%のけい酸ソーダ(水ガラス)を添加した混合砂で造型し、それにCO_(2)ガスを吹き込んで硬化させる造型法である.・・・取扱いが容易なことから広く用いられている. (1) ケイ酸ソーダ(水ガラス) けい酸ソーダはけい砂と炭酸ソーダを混合して、約1000℃で溶融して作られる.用いる溶液はこれを水に溶かした濃水溶液である. ・・・ 水ガラスを混合した砂は、乾燥するにしたがって粘性をおび完全に乾燥するとけい酸ソーダにもどるので、単に乾燥するだけでも砂の強硬な粘結剤となるが、乾燥には時間を要する.CO_(2)ガスを吹き込むと炭酸ソーダ(Na_(2)CO_(3)PH_(2)O)を生じ遊離水分を奪取して硬化し、けい酸ゲル(SiO_(2)nH_(2)O)を生じてけい砂を結合する.これらの硬化は急速に起り、その硬化速度と強さはモル比が影響する.・・・」 (当審注:「Na_(2)CO_(3)PH_(2)O」の「P」は、誤記と考えられる。) ( 改訂4版 鋳物便覧 昭和61年1月20日 発行 900ページ ) そして、具体的な反応としては、 「(ii)ガス硬化鋳型 (1)CO_(2)型 けい砂に添加した粘結剤の水ガラスをCO_(2)ガスにより硬化させる鋳型で、その硬化は式(5・20)により行われる. Na_(2)O・nSiO_(2)・(mn+x)H_(2)O+CO_(2)=Na_(2)CO_(3)・xH_(2)O+n(SiO_(2)・mH_(2)O) (5・20) ここに、n:けい酸ナトリウムのモル比、m:けい酸ゲルの含水量、x:炭酸ナトリウムの結晶水のモル数、である.生成したけい酸ゲルと炭酸ナトリウムのうち、けい酸ゲルが硬化強度に大きく寄与する.・・・ 」 (改訂4版 鋳物便覧 同上 146ページ ) とされている。 (なお、査定時に提示された文献 「高橋良治,CO_(2)プロセス用粘結剤の研究,日立評論,1957年 8月,第39巻第8号,941-949頁 」 にもCO_(2)プロセスについて記載され、上記と同様の反応式が944ページに記載されている)。 そうすると、摘記dの【0040】-【0042】の記載は、CO_(2)プロセスの珪砂と水ガラスの混合材料の硬化現象を記述しているにすぎず(なお、【0044】の「メタケイ酸ナトリウム」は、「ケイ酸ゲル」の誤記であると認められる。)、当該「別の実施例」を参照しても、珪砂と二酸化炭素との反応により、炭化珪素構造体が生成することを実証するものとはいえない。 以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、酸化珪砂からなる(酸化)珪砂に二酸化炭素を注入して常温において反応させて炭化珪素を生成するという本願発明について、技術常識に照らして、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。 2.特許法第36条第6項第1号違反(サポート要件違反)について 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの(知財高裁特別部判決 平成17年 (行ケ)第10042号 )とされている。 以下、この観点により検討すると、本願明細書の発明の詳細な説明には、摘記aによれば、「二酸化炭素放出という観点からは、その抑制が充分であるとはいえなかった」ところ、「剛性、強度、耐衝撃性等を有し、かつ、その製造過程等において自然環境について充分考慮した建築用材の開発が望まれていた。」という課題を解決するために、「建築用材として利用される炭化珪素のブロック体からなる構造体、および、ブロック体の製造工程で二酸化炭素を消費し、酸素を放出する自然環境に充分配慮したブロック体からなる炭化珪素構造体の製造方法を提供する。 」というものであり、摘記bによれば、「本発明に係る炭化珪素構造体は、枠型の中に封入された酸化珪素からなる酸化珪砂に二酸化炭素を注入し、常温において反応させて形成した一定の形状を有する炭化珪素を含むブロック体に形成した構成である。」(【0010】)などというものである。 しかし、上記 1 で述べたように、発明の詳細な説明には、具体的な実施例もなく、炭化珪素を含むブロック体を形成することは、何ら実証されていないから、発明の詳細な説明の記載や技術常識からみて、本願発明の炭化珪素構造体が得られ、それによってその課題を解決したことを、当業者が発明の詳細な説明の記載により裏付けられていると理解することはできない。 したがって,本願発明が,発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないし,出願時の技術常識に照らし発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。 3.請求人の主張について 平成26年8月21日に提出された審判請求書において「 ・・・ 出願人は、本発明においては炭化珪素が生成されているものと思料いたします。これを証明するため、本発明に係る生成された炭化珪素構造体の元素分析結果を現在準備しており、御庁に提出させていただく所存であります。 本発明に係るブロック体が、炭化珪素を少しでも含有している場合、単なる酸化珪砂を押し固めたものと比較しても相当な強度が得られるはずであり、本発明の目的は達しており、発明の課題を解決しているものと思料いたします。 ・・・ すなわち、上記元素分析結果により、炭化珪素を少しでも含有していることが証明された場合には、拒絶査定で挙げられた特許法第36条第4項第1号、第36条第6項第1号の拒絶理由は解消し、本願特許は登録査定を受けることが出来るものと考えられます。」と主張し、平成27年10月1日に は「現在も継続して本発明に係る生成された炭化珪素構造体の元素分析結果を準備しているところであります・・・ 出願人は、上記元素分析結果に係る資料を作成次第、上申書とともに御庁に提出する意向であります。」と記載した上申書が提出されたが、その後、炭化珪素構造体の元素分析結果等の資料の提出はなかった(応対記録参照)。 よって、本願発明のブロック体が炭化珪素を含有するという請求人の主張については何ら裏付けがなされなかったものであり、当該主張は採用することはできない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-03-03 |
結審通知日 | 2016-03-08 |
審決日 | 2016-03-22 |
出願番号 | 特願2012-541751(P2012-541751) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(B28B)
P 1 8・ 536- Z (B28B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 櫻木 伸一郎 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 萩原 周治 |
発明の名称 | 炭化珪素構造体およびその製造方法 |
代理人 | 広瀬 文彦 |