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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1314700
審判番号 不服2015-21132  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-30 
確定日 2016-05-09 
事件の表示 特願2014-187171号「位置制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年8月13日出願公開、特開2015-144803号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
本願は、平成26年2月1日に出願した特願2014-18105号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成26年9月16日に新たな特許出願としたものであって、平成27年10月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後、当審において、平成28年1月8日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月13日に審判請求人から意見書及び手続補正書が提出されるとともに、平成28年2月2日、2月3日、2月17日にそれぞれ意見書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1?17に係る発明は、平成28年1月13日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲1?17に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
磁性材料から形成され、体内で磁界によって移動できるヘッドに磁界を付与可能な電磁石と、前記電磁石が付与する磁界によって前記ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きとを制御可能な移動制御部とを有する移動装置と、
前記ヘッド又は先端が開口した状態で前記ヘッドに取り付けられ、前記先端の開口部を介して液体を注入又は吸引可能な管の先端側の位置に存在するマークの位置を求め、前記マークの位置に基づいて前記ヘッドの位置を検出可能な位置検出装置と、
を備え、
前記移動装置の移動制御部は、前記電磁石が付与する磁界によって前記ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きを調節して、前記管が目的位置に対してほぼ真っ直ぐに挿し込まれるように前記ヘッドの進行方向制御を行うことが可能な移動制御部であり、
本願出願日時点の技術水準において末期がんと診断される患者の体に存在するがん細胞のうち検出可能なものほぼ全ての不活性化を行うための仕組みを備えた、
位置制御システム。」

第2 当審で通知した拒絶理由の概要
当審において、平成28年1月8日付けで通知した拒絶理由は、特許法第36条第6項第2号(【理由1】)、第36条第6項第1号(【理由2】)及び第29条第2項(【理由3】)を根拠とするものであり、その概要は、以下のとおりである。

1 特許法第36条第6項第2号(【理由1】)
請求項1には「末期がん患者の体に存在するがん細胞のうち検出可能なものほぼ全ての不活性化を行うための仕組みを備えた」点が記載されている。そして、当該発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかである。
したがって、請求項1の記載から発明を明確に把握することができない。よって、請求項1及び同請求項を引用する請求項2?17に係る発明は明確でない。

2 特許法第36条第6項第1号(【理由2】)
上記1の「末期がん患者の体に存在するがん細胞のうち検出可能なものほぼ全ての不活性化を行うための仕組み」に係る発明特定事項が「がん細胞クラスターの中心に抗がん剤を注入して、一旦がん細胞を不活性化した後、所定時間を置いてから再び抗がん剤を注入する一連の動作を、がん細胞が消滅するまで繰り返すこと」以外のものを意味する場合には、かかる意味内容のものは、段落【0064】?【0076】を含む本願明細書の発明の詳細な説明には一切記載されているとは認められない。
よって、請求項1及び同請求項を引用する請求項2?17に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

3 特許法第29条第2項(【理由3】)
本件出願の請求項1、3?13、15に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された特開2010-179116号公報に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3 当審の判断(特許法第36条第6項第1号について)
1 明細書のサポート要件
特許法第36条第6項第1号は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること(以下「明細書のサポート要件」という。)を規定するものであり、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、以下、特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載を確認し、発明の詳細な説明の記載から、本願発明の解決しようとする課題と課題を解決するための手段について検討することとする。

2 特許請求の範囲の記載について
本願の特許請求の範囲の請求項1には、「磁性材料から形成され、体内で磁界によって移動できるヘッドに磁界を付与可能な電磁石と、前記電磁石が付与する磁界によって前記ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きとを制御可能な移動制御部とを有する移動装置と、前記ヘッド又は先端が開口した状態で前記ヘッドに取り付けられ、前記先端の開口部を介して液体を注入又は吸引可能な管の先端側の位置に存在するマークの位置を求め、前記マークの位置に基づいて前記ヘッドの位置を検出可能な位置検出装置とを備え、前記移動装置の移動制御部は、前記電磁石が付与する磁界によって前記ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きを調節して、前記管が目的位置に対してほぼ真っ直ぐに挿し込まれるように前記ヘッドの進行方向制御を行うことが可能な移動制御部であ」る「位置制御システム」において、「本願出願日時点の技術水準において末期がんと診断される患者の体に存在するがん細胞のうち検出可能なものほぼ全ての不活性化を行うための仕組みを備えた」ものが記載されている。

3 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
本願明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題及び課題解決手段、並びに、がん細胞の不活性化に関する記載は、以下のとおりである。なお、下線は、理解の便のため当審にて付したものである。

(1)発明の課題及び課題解決手段について
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間や動物の体内の対象部位に対して薬剤等の液体を注入し、又は細胞質基質等の液体を吸引するための注入・吸引システムを構成する位置制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍内部に薬剤を送り届ける場合、一般的には、カテーテルを静脈に挿入し、カテーテルから薬剤を静脈に注入して行われる。しかし、血管の少ない腫瘍には薬剤が行き渡りにくく、抗がん剤の効果を上げることは難しい。
【0003】
このため、管形状を有する躯体と、躯体に装着され、生体組織を切開する切開部材とを備えたカテーテルが提案されている(例えば、特許文献1参照。)」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のカテーテルは、外径が1mm程度の大きさを有するため、腫瘍に至るまでの細胞を破壊するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、体内の対象部位に対し、細胞をなるべく破壊せずに抗がん剤等の液体を注入し、細胞質基質等の液体を吸引することが可能な注入・吸引システムを構成する位置制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、磁性材料から形成され、体内で磁界によって移動できるヘッドに磁界を付与可能な電磁石と、前記電磁石が付与する磁界によって前記ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きとを制御可能な移動制御部とを有する移動装置と、前記ヘッド又は先端が開口した状態で前記ヘッドに取り付けられ、前記先端の開口部を介して液体を注入又は吸引可能な管の先端側の位置に存在するマークの位置を求め、前記マークの位置に基づいて前記ヘッドの位置を検出可能な位置検出装置と、を備え、前記移動装置の移動制御部は、前記電磁石が付与する磁界によって前記ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きを調節して、前記管が目的位置に対してほぼ真っ直ぐに挿し込まれるように前記ヘッドの進行方向制御を行うことが可能な移動制御部である位置制御システムを提供する。」

(2)がん細胞の不活性化について
ア 「【0064】
(1)抗がん治療
まず、患者をX線CT装置、MRI(磁気共鳴画像)装置、PET(陽電子放射断層撮影)装置等を用いて撮影し、患部の三次元画像を取得する。なお、治療が終わるまでの間、通常のがん放射線治療時と同様に、体を動かないように金具などを用いてしっかりと固定しておくとよい。
【0065】
次に、医師は、得られた患者の三次元画像を見て患部、すなわち、対象部位に対して立体的なマーキングを行う。マーキングは、コンピュータにより自動的に行ってもよい。現在の画像処理技術水準では、高精度な自動検出はできないが、医師の手によるマーキングはせいぜいミリメートル単位の精度であり、それに準ずる精度があればよいので、コンピュータによる自動検出でも十分である。立体的なマーキングは、例えば、ある方向から見た画像に対してマーキングを行い、それに直交する方向から見た画像に対してマーキングを行い、両者のマーキング位置を三次元座標上に合成してもよい。
【0066】
次に、医師は、移動装置40の操作部450を操作して、注入・吸引装置100の微細ヘッド20の移動すべき三次元位置、例えば上記マーキングの範囲の中心付近の位置を指示する。制御部440は、操作部450により指示された三次元位置に基づき、電磁石400と第1乃至3の回転駆動部420A?420Cを制御して微細ヘッド20に働く磁力の大きさ及び向きとを制御し、微細ヘッド20を体内に挿入し、微細ヘッド20を指示された三次元位置である対象部位の方向に移動させる。なお、医師による操作は、コンピュータが自動的に行ってもよい。
【0067】
X線CCDセンサ500の画面内にある値以上の放射線を出す画素が見つかるまで、X線CCDセンサ500の移動とスキャンを繰り返す。見つかったら、それ以後も、その画素の移動を追跡するようにX線CCDセンサ500を移動させてスキャンを繰り返す。ある値以上の放射線を出す画素は、通常はCCD中の全画素中1画素しかなく、それを検索する処理を行うだけなので、CTなどの画像形成計算と異なり、非常に計算量が少ないため、リアルタイムスキャンが可能である。X線CCDセンサ500の移動とスキャンは、コンピュータが自動的に行ってもよい。
【0068】
次に、医師は、位置検出装置50により微細ヘッド20の位置を確認する。微細ヘッド20が目的の位置に到達したことを確認すると、ポンプにより抗がん剤を極細管30を介して対象部位に注入する。図6Aに示すように、複数のがん細胞1000は、がん細胞クラスター(細胞が連なってできた塊)1100を構成しており、図6Bに示すように、一つのがん細胞クラスター1100の中心に抗がん剤1200を注入することで、がん細胞クラスター1100内のがん細胞1000は、不活性化する。なお、微細ヘッド20が目的の位置に到達したことの確認は、コンピュータが自動的に行ってもよい。
【0069】
抗がん剤の注入が終了すると、体外に出ている極細管30の部分を摘まんで真っ直ぐ引っ張ることで、微細ヘッド20を体内から引き抜く。微細ヘッド20を引き抜くとき、手前に引き抜く代わりに、極細管30の根元を切り離し、微細ヘッド20に磁界を付与して奥へ引っ張り出してもよい。
【0070】
このとき、次の治療対象のがん細胞1000の位置がその直前の治療部位に近い場合は、極細管30を全て引き抜かずに体外側へ少し引っ張るだけにして、そこから次の治療対象のがん細胞1000の位置に移動させてもよい。
【0071】
複数箇所のマーキング範囲が存在する場合、残りのマーキング範囲全てに対して上記動作を繰り返す。
【0072】
なお、上記動作により一旦がん細胞1000を不活性化した後、対象のがん細胞の分裂の早さなどに応じて長さが決まる所定の時間(例えば、数週間?数ヶ月)を置いてから、再び上記動作をがん細胞1000が完全に消滅するまで繰り返してもよい。がん細胞が小さく、患者を撮影して得られた画像からはがん細胞を確認できない場合でも、がん細胞が確認できる大きさに成長し、かつ、できるだけ再び末期化する、すなわち、太い血管を侵食する前に不活性化することを繰り返せば、比較的大きながん細胞しか検出できない現状においても、患者の体内に存在する全てのがん細胞を除去することができる。なお、繰り返す回数は、対象のがん細胞の分裂速度や全身への拡散のしやすさなどの状態によって異なる。
【0073】
また、がん細胞の分裂速度は、早いものでも1ヶ月に2倍の大きさになる程度、すなわちがん細胞の分裂は、1ヶ月に1回程度である。また、前述の通り、本実施の形態は、がん細胞を細胞単位ではなく細胞クラスター単位で不活性化処理ができるため、本実施の形態によるがん細胞の不活性化処理ペースががん細胞の分裂ペースに追いつかないということは少ないと考えられる。なお、追いつかない場合でも、がんの進行を遅らせる効果はある。
【0074】
また、抗がん剤1200を注入する時、微細ヘッド20を操作部450により指示された三次元位置付近に存在する細胞の外部、すなわち、細胞膜の外側に移動させてもよい。微細ヘッド20、すなわち極細管30の先端が細胞膜に入り込んでいるか否かは、例えば、細胞膜の内外で注入や吸引に必要な圧力に差がある(細胞質基質と間質液との粘性の違いなどによる)ことを利用して、極細管30を通じて抗がん剤を注入するためのポンプに圧力計を取り付けて極細管30の内部に加わる圧力の大きさを調べ、その圧力の大きさが細胞膜の内部のものか外部のものかを判別して、極細管30の先端が細胞の細胞膜に入り込んでいるかいないかを判断してもよい。また、その場合、もし極細管30の先端が細胞膜に入り込んでいれば、少しずつ、例えば、極細管30の先端が位置する辺りの細胞の平均的な全長の数分の1?2分の1程度の長さずつ極細管30の先端を前進又は後退させながら圧力を計り直してもよい。極細管30の先端が細胞の細胞膜の外側に位置していれば、注入した抗がん剤が拡散しやすくなる。
【0075】
また、図7Aに示すように、互いに近い位置に存在する複数のがん細胞クラスター1100をまとめて1つのクラスター1300として不活性処理してもよい。この場合、まとめた1つのクラスター1300の中心に抗がん剤1200を注入し、そこから抗がん剤1200を撒く。複数のがん細胞クラスター1100をまとめて不活性処理することで、患者への負担が少なく、大幅に処理を高速化できる。
【0076】
また、上記がん治療では、薬剤として抗がん剤を用いたが、抗がん剤以外の薬剤を用いてもよい。また、薬剤は対象部位に応じたものを用いるのが好ましい。例えば対象部位のがん細胞が骨肉種である場合、抗がん剤の代わりに骨肉種を溶かすことができる塩酸等の薬剤を用いてもよい。この場合、骨肉種に至る経路上に存在する骨を、本装置100を用いて溶かしながら微細ヘッド20を進行させてもよい。また、治療対象が骨肉種と骨肉腫以外のがん細胞の両方を含む場合、骨肉種用と骨肉腫以外のがん細胞用として微細ヘッド20と極細管30とポンプの組を2台分用意して使い分けてもよい。また、対象部位のがん細胞内の遺伝子の働きを変化させる薬剤を用いてもよい。」

4 検討
以下、本願発明、すなわち「本願出願日時点の技術水準において末期がんと診断される患者の体に存在するがん細胞のうち検出可能なものほぼ全ての不活性化を行うための仕組み」を備えた位置制御システムが発明の詳細な説明に記載されたものであるか検討する。

本願明細書の発明の詳細な説明に記載されている内容は、以下のとおりである。
まず、発明の課題として、上記3(1)のとおり、体内の対象部位に対し、細胞をなるべく破壊せずに抗がん剤等の液体を注入することが可能な注入システム等を構成する位置制御システムを提供することが記載されている。
そして、かかる課題を解決する手段としては、概略、体内で移動できるヘッドに磁界を付与可能な電磁石と、ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きとを制御可能な移動制御部とを有する移動装置と、ヘッドの位置を検出可能な位置検出装置とを備え、移動装置の移動制御部は、液体を注入可能な管が目的位置に対してほぼ真っ直ぐに挿し込まれるようにヘッドの進行方向制御を行うことが可能な移動制御部である位置制御システムが記載されている。
また、上記3(2)のとおり、がん細胞の不活性化について、概略、「極細管を介してがん細胞クラスターの中心に薬剤を注入して、一旦がん細胞を不活性化した後、所定時間を置いてから再び薬剤を注入する一連の動作を、がん細胞が消滅するまで繰り返すこと」が記載されている。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された位置制御システムであって、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に照らして、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものは、「体内で移動できるヘッドに磁界を付与可能な電磁石と、ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きとを制御可能な移動制御部とを有する移動装置と、ヘッドの位置を検出可能な位置検出装置とを備え、移動装置の移動制御部は、液体を注入可能な管が目的位置に対してほぼ真っ直ぐに挿し込まれるようにヘッドの進行方向制御を行うことが可能な移動制御部である位置制御システム」であって、「極細管を介してがん細胞クラスターの中心に薬剤を注入して、一旦がん細胞を不活性化した後、所定時間を置いてから再び薬剤を注入する一連の動作を、がん細胞が消滅するまで繰り返す」手段を備えたものであると認められる。
しかしながら、上記「極細管を介してがん細胞クラスターの中心に薬剤を注入して、一旦がん細胞を不活性化した後、所定時間を置いてから再び薬剤を注入する一連の動作を、がん細胞が消滅するまで繰り返す」手段が「本願出願日時点の技術水準において末期がんと診断される患者の体に存在するがん細胞のうち検出可能なものほぼ全ての不活性化を行うための仕組み」とはいえないことは、技術常識に照らして、およそ両者が同義のものとはいえないことからみて明らかである。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、その余の記載を併せてみても、「末期がん」についても「末期がんと診断される患者の体に存在するがん細胞」の「検出」についても、「がん細胞の・・・ほぼ全ての不活性化」についても記載も示唆もない。
以上から、「本願出願日時点の技術水準において末期がんと診断される患者の体に存在するがん細胞のうち検出可能なものほぼ全ての不活性化を行うための仕組み」は本願明細書の発明の詳細な説明には記載されているとはいえない。したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載した発明とはいえない。

この点について、審判請求人は、平成28年1月13日付け意見書において、次のとおり主張している(なお、平成28年2月2日、2月3日、2月17日付け各意見書における主張も平成28年1月13日付けのものと同じである。)。

(1)「末期がんとは、一般に、『他臓器へ次々と転移し、(本願出願日時点の技術水準において)根治する見込みがほとんどないがん』のことを指す。」(同意見書1ページ15?16行)

(2)「末期がん治療の難しい点は、『いかにして全身に多数散らばったがん細胞クラスターを不活性化するか』にある。・・・何故、末期がんになると完治が難しくなるかと言えば、ひとえに、全身に多数散らばったがん細胞クラスターの全てを切除などの処置により不活性化するには、全身を細切れにしなければできないから(患者を死なせることなく全て不活性化することが難しいから)に他ならない。」(同意見書1ページ28?35行)

(3)「しかし、本願発明は、極細管をほぼ真っ直ぐに抜き差しするなどの特徴によって体をあまり傷付けないため、何度でも体への管の出し入れができるので、全身に多数散らばったがん細胞クラスターのほぼ全てを不活性化することができる。さらに、所定時間を置いてから再び同様の治療を行うことにより、その直前の治療によって発見できなかった、まだ小さかったがん細胞クラスターも治療することができるという特徴もある。つまり、本願発明は、末期がんを完治させることができるわけである。」(同意見書1ページ36?41行)

(4)「本願発明は注入する液体として抗がん剤のみを用いると限定してはいない(本願請求項1、本願明細書0076など参照)。本願発明はがん細胞クラスターのみにピンポイントで液体を撒くこと等が可能であるため、例えば、本願明細書0076に記載の通り、塩酸などを用いてもよいわけである。」(同意見書1ページ下から3行?2ページ1行)

(5)「末期がんの完治は・・・容易なことではない(周知慣用の技術ではない)。よって、それらの組み合わせにより末期がんの完治等の新たな技術的効果が得られるので、それらの組み合わせ、すなわち、『自動操縦システムなどにより極細管をほぼ真っ直ぐに抜き差しして、がん細胞クラスターの中心に抗がん剤を注入し、一旦がん細胞を不活性化した後、所定時間を置いてから再び抗がん剤を注入すること』等は、当業者が容易になし得ることではない。」 (同意見書2ページ26?32行)

しかしながら、いずれの主張も「本願出願日時点の技術水準において末期がんと診断される患者の体に存在するがん細胞のうち検出可能なものほぼ全ての不活性化を行うための仕組み」が本願明細書の発明の詳細な説明に記載あるいは示唆されていることを主張するものではない。したがって、審判請求人の上記主張は失当である。

5 小括
以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断(特許法第29条第2項について)
1 本願発明
本願発明は、上記第1のとおり、平成28年1月13日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。

2 引用例の記載事項
当審において、平成28年1月8日付けで通知した拒絶理由において引用した、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2010-179116号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【解決手段】外科用ツールに取付けられた磁気チップが検出され、表示され、位置的に影響を与えられるシステムが記載されている。ツールには、バイオプシ針、内視鏡プローブおよび類似した装置に加えて、カテーテル、誘導ワイヤ、ならびにレーザおよびバルーンのような補助ツールが含まれている。磁気チップは、磁界を解析することによりこのチップの位置および方位がX線を使用せずに決定されることを可能にする。さらに磁気チップは、患者の身体の外部に適正な磁界を与えることにより、ツールチップが索引され、押され、回転され、および所望の位置に強制的に停止させられることを可能にする。チップ位置および方位情報ならびに動的な身体の部分の位置情報はまた、この身体の部分に関する磁気チップの位置および方位を3次元で見ることを可能にする表示を提供する。」(【要約】の【解決手段】)

(イ)「【請求項1】
身体の外部で磁界を発生する磁界ソースと、
前記磁界に応答する遠端部を有するツールと、
前記遠端部によって生成された磁界を感知する1以上の磁気センサと、
前記遠端部の位置を制御するための位置およびコマンド入力を提供するように前記磁界ソースを制御するシステム制御装置とを備えている患者の体内に挿入されるカテーテル状のツールの動きを制御するための装置。」(【請求項1】)

(ウ)「【請求項31】
閉磁気回路を形成すると共に磁界を発生するC形アーム上においてクラスタ状の配置に構成された磁気ソースと、
前記磁界に応答する遠端部を有するツールと、
前記遠端部の周囲に配置された1以上の圧電リングと、
ツール遠端部位置を制御するための位置およびコマンド入力を提供するように前記磁界を調整するシステム制御装置とを備えている体内に挿入される遠端部を有するツールの動きを制御する装置。」(【請求項31】)

(エ)「【0019】
1実施形態において、物理的カテーテルチップ(カテーテルの遠端部)は、患者の体外で発生された磁界に応答する永久磁石を含んでいる。外部磁界はチップを索引し、押し、回転させ、および所望の位置に停止させる。・・・」(段落【0019】)

(オ)「【0035】
・・・システム制御装置(SC)302はX軸制御装置および増幅器(XCA)305、Y軸制御装置および増幅器(YCA)310、ならびにZ軸制御装置および増幅器(ZCA)315の動作を調整する。・・・」(段落【0035】)

(カ)「【0057】
以下、XCA305が実際のカテーテルチップ377のX軸における動きを制御するコマンドを生成する方法を説明する。マイクロ制御装置102XはVT/CFC303および他のシステムコンポーネントからシステムバス328を介してデータを受信し、その動きを制御するコマンドを生成するときに使用する。・・・
【0058】
電磁石コイル132Xおよび138Xは、実際のカテーテルチップのX軸における位置に影響を与える磁界を生成する。」(段落【0057】?【0058】)

(キ)「【0067】
以下、YCA310が実際のカテーテルチップのY軸における動きを制御するコマンドを生成する方法を説明する。マイクロ制御装置102YはVT/CFC303および他のシステムコンポーネントからシステムバス328を介してデータを受信し、以下に説明する実際のカテーテルチップのY軸における動きを制御するコマンドを生成するときに使用する。・・・電磁石コイル132Yおよび138Yは、実際のカテーテルチップ377のY軸における位置に影響を与える磁界を生成する。」(段落【0067】)

(ク)「【0076】
以下、ZCA315が実際のカテーテルチップのZ軸における動きを制御するコマンドを生成する方法を説明する。マイクロ制御装置102ZはVT/CFC303および他のシステムコンポーネントからシステムバス328を介してデータを受信し、以下に説明する実際のカテーテルチップのZ軸における動きを制御するコマンドを生成するときに使用する。・・・電磁石コイル132Zおよび138Zは、実際のカテーテルチップ377のZ軸における位置に影響を与える磁界を生成する。」(段落【0076】)

(ケ)「【0093】
図15は、GCI装置501により使用される改良されたカテーテル構体375および誘導ワイヤ構体379を示している。カテーテル構体375は、堅牢な応答チップ377が曲がりくねった通路を通って正確に操縦されることを可能にするためにフレキシビリティが高められたフレキシブルなセクション378中に延在するカテーテル本体376を備えた管状ツールである。」段落【0093】

(コ)「【0096】
・・・カテーテル構体375および誘導ワイヤ構体379のそれぞれの応答チップ377および381は、永久磁石のような磁気素子を備えている。チップ377および381は、電磁石132X、132Y、132Z、138X、138Yおよび138Zによって発生された外部磁束に応答する永久磁石を備えている。
【0097】
カテーテル構体375の応答チップ377は管状であり、・・・。カテーテル構体375の応答チップ377は、その内部に縦方向に配置された磁気素子の2つの端部により生成された縦方向の極性配向を有する双極子である。・・・これらの縦方向双極子は、GCI装置501による両応答チップ377および381の操作を可能にする。これは、電磁石132X、132Y、132Z、138X、138Yおよび138Zがチップ377および381に対して作用し、オペレータにより命令された所望の位置に一致するようにそれらを“索引”するからである。
【0098】
図15の(c)は、GCI装置501により使用されるカテーテル構体375および誘導ワイヤ構体379の別の改良を示しており、それにおいてカテーテル構体950は示されているように配置された付加的な2個の圧電リング951および952を備えている。装置501と組合せられた超音波検出装置は、カテーテルチップの付加的な検出様式を提供し、それによって超音波信号は2個の圧電リングを励起するように放出され、カテーテルチップが磁石377の北極軸を中心として回転する尺度を提供する。コンピュータ324を使用することにより、GCI装置501はチップ377の回転角度を規定することが可能であり、また、当業者に知られているさらに精密な方式で、圧電リング951および952が付加的な位置情報を提供して、図17Aにおいてさらに詳細に説明されるようにステレオフレーミングに関してカテーテルチップ377の位置、方位および回転を規定することができる。」(段落【0096】?【0098】)

(サ)「【0166】
上述した説明は多くの特定された事柄を含んでいるが、これは、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、その実施形態の単なる例示に過ぎないと解釈されるべきである。多くのその他の変形が本発明の技術的範囲内で可能である。たとえば、・・・誘導されるカテーテルを使用してパレット化されたソースを腫瘍に直接与えることにより体内ラジオアイソトープ治療が正確に行われることが可能であり、大きい手術を行わずに体内組織サンプルが得られることが可能であり、応答チップを備えた光ファイバ光誘導体が正確に位置されるので大きい手術を行わずにレーザ光を特定の体内の場所に与えることが可能であり、以前は困難であった脂肪吸引およびその他の皮下の外科的処置が正確に行われることができる。したがって、本発明は請求の範囲によってのみ制限される。」(段落【0166】)

上記(ア)?(サ)の記載事項、及び、【図1C】、【図13】、【図15】(a)、【図15】(c)の図示内容からみて、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「外部磁束に応答する永久磁石を備え、体内で索引される応答チップ377に作用する電磁石132X、132Y、132Z、138X、138Yおよび138Zと、前記電磁石132X、132Y、132Z、138X、138Yおよび138Zが生成する磁界によって前記応答チップ377の位置に影響を与えるX軸制御装置および増幅器(XCA)305、Y軸制御装置および増幅器(YCA)310、Z軸制御装置および増幅器(ZCA)315と、システム制御装置(SC)302と、
前記応答チップ377及び前記応答チップ377に取り付けられたカテーテル本体376の遠端部の位置に存在する圧電リング952及び圧電リング951が位置情報を提供し、前記圧電リングの位置情報に基づいて前記応答チップ377の位置を規定することができる超音波検出装置と、
を備え、
前記X軸制御装置および増幅器(XCA)305、Y軸制御装置および増幅器(YCA)310、Z軸制御装置および増幅器(ZCA)315は、前記電磁石132X、132Y、132Z、138X、138Yおよび138Zが生成する磁界によって前記応答チップ377の位置に影響を与え、カテーテル本体376が所望の位置に対して曲がりくねった通路を通って挿入されるように前記応答チップ377を索引し、押し、回転させるX軸制御装置および増幅器(XCA)305、Y軸制御装置および増幅器(YCA)310、Z軸制御装置および増幅器(ZCA)315である
GCI装置501。」

3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「体内で索引される応答チップ377」は、その機能及び構成からみて、前者の「体内で磁界によって移動できるヘッド」に相当し、以下同様に、「応答チップ377に作用する電磁石132X、132Y、132Z、138X、138Yおよび138Z」は「ヘッドに磁界を付与可能な電磁石」に、「前記電磁石132X、132Y、132Z、138X、138Yおよび138Zが生成する磁界」は「前記電磁石が付与する磁界」に、「前記応答チップ377の位置に影響を与えるX軸制御装置および増幅器(XCA)305、Y軸制御装置および増幅器(YCA)310、Z軸制御装置および増幅器(ZCA)315」は「前記ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きとを制御可能な移動制御部」に、「応答チップ377」「に存在する圧電リング952」は「ヘッド」「に存在するマーク」に、「カテーテル本体376の遠端部の位置に存在する」「圧電リング951」は、「管の先端側の位置に存在するマーク」に、「位置情報を提供し」は「位置を求め」に、「前記応答チップ377の位置を規定することができる超音波検出装置」は「前記ヘッドの位置を検出可能な位置検出装置」に、「前記応答チップの位置に影響を与え」は「前記ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きを調節して」に、「GCI装置501」は「位置制御システム」に、それぞれ相当する。
また、後者の「電磁石132X、132Y、132Z、138X、138Yおよび138Z」、「X軸制御装置および増幅器(XCA)305、Y軸制御装置および増幅器(YCA)310、Z軸制御装置および増幅器(ZCA)315」及び「システム制御装置(SC)302」からなるものは、前者の「移動装置」に相当する。
また、後者の「カテーテル本体376」も、先端が開口した状態で応答チップ377に取り付けられていることは明らかであるから、後者の「カテーテル本体376」と、前者の「先端が開口した状態で前記ヘッドに取り付けられ、前記先端の開口部を介して液体を注入又は吸引可能な管」とは、「先端が開口した状態で前記ヘッドに取り付けられ」た「管」である点で共通する。
また、後者の「所望の位置」は前者の「目的位置」に相当し、以下同様に、「挿入される」は「挿し込まれる」に、「索引し、押し、回転させる」は「進行方向制御を行うことが可能」に、それぞれ相当するから、後者の「カテーテル本体376が所望の位置に挿入されるように前記応答チップ377を索引し、押し、回転させるX軸制御装置および増幅器(XCA)305、Y軸制御装置および増幅器(YCA)310、Z軸制御装置および増幅器(ZCA)315」と、前者の「前記管が目的位置に対してほぼ真っ直ぐに挿し込まれるように前記ヘッドの進行方向制御を行うことが可能な移動制御部」とは、「前記電磁石が付与する磁界によって前記ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きを調節して、前記管が目的位置に対して」「挿し込まれるように前記ヘッドの進行方向制御を行うことが可能な移動制御部」である点で共通する。

してみると、両者は次の点で一致している。

(一致点)
「体内で磁界によって移動できるヘッドに磁界を付与可能な電磁石と、前記電磁石が付与する磁界によって前記ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きを制御可能な移動制御部とを有する移動装置と、
前記ヘッドに存在するマークの位置を求め、前記マークの位置に基づいて前記ヘッドの位置を検出可能な位置検出装置と、
を備え、
前記移動装置の移動制御部は、前記電磁石が付与する磁界によって前記ヘッドに働く磁力の大きさ及び向きを調節して、先端が開口した状態で前記ヘッドに取り付けられた管が目的位置に対して挿し込まれるように前記ヘッドの進行方向制御を行うことが可能な移動制御部である
位置制御システム。」

そして、両者は次の点で相違している。

(相違点1)
本願発明は、ヘッドが磁性材料から形成されるのに対し、引用発明は、ヘッドが永久磁石を備えるものである点。

(相違点2)
本願発明は、管が先端の開口部を介して液体を注入又は吸引可能であるのに対し、引用発明は、管が液体を注入又は吸引可能かどうか不明である点。

(相違点3)
本願発明は、マークがヘッド又は管の先端側の位置に存在するのに対し、引用発明は、マークがヘッド及び管の先端側の位置に存在する点。

(相違点4)
本願発明は、移動制御部について、管が目的位置に対してほぼ真っ直ぐに挿し込まれるように前記ヘッドの進行方向制御を行うことが可能であるのに対し、引用発明は、管が目的位置に対して曲がりくねった通路を通って差し込まれるようにヘッドの進行方向制御を行うことが可能である点。

(相違点5)
本願発明は、本願出願日時点の技術水準において末期がんと診断される患者の体に存在するがん細胞のうち検出可能なものほぼ全ての不活性化を行うための仕組みを備えたものであるのに対し、引用発明は、かかる仕組みを備えたものであるのかどうか不明である点。

以下、上記相違点について検討する。
(相違点1について)
引用発明のヘッドも、磁界によって移動できるよう磁性を備えているという点で本願発明と共通しており、ヘッドを永久磁石を備えるものから磁性材料から形成されるものに置換する程度のことは、ヘッドの構造やヘッドの製造にあたって必要となる工程などを考慮しつつ、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について )
引用例1における「・・・誘導されるカテーテルを使用してパレット化されたソースを腫瘍に直接与えることにより体内ラジオアイソトープ治療が正確に行われることが可能であり、大きい手術を行わずに体内組織サンプルが得られることが可能であり、・・・以前は困難であった脂肪吸引およびその他の皮下の外科的処置が正確に行われることができる。」(上記記載事項(サ))の記載によれば、引用例1には、管を用いて体内に注入ないし吸引を行うことが示唆されているといえる。そして、管をどのような用途に用いるかは適宜選択し得る程度の事項であるから、引用発明における管について「先端の開口部を介して液を注入又は吸引可能」なものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(相違点3について)
引用例1には、圧電リングが「1以上」であることが記載されており(上記記載事項(ウ))、また、マークの個数は、位置検出の精度を考慮しつつ適宜決定し得る事項であるから、マークをヘッド又は管の先端側の位置に存在するものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(相違点4について)
引用発明においても、管が差し込まれる経路は外科医が任意に決定することが可能であると認められる。また、引用例1の上記記載事項(ア)、(イ)及び(サ)に接した当業者は、引用例1の「患者の体内に挿入されるカテーテル状のツールの動きを制御するための装置」を動脈や心臓治療に用いることは、実施例の1つにすぎず、「バイオプシ針」(生検針)を利用する処置、「体内ラジオアイソトープ治療」、「体内組織サンプル採取」、「脂肪吸引およびその他の皮下の外科的処置」にも使用されることを容易に理解できる。これらの処置は、カテーテル状のツールを体外から治療処置の行われる目的エリアまでほぼ真っ直ぐに体組織を貫通しながら到達させることも普通に想定されている。また、管の大部分は血管を通じて体内に挿入し、目的位置に近い部分でのみヘッドが体組織を切開しながら真っ直ぐに進むということも通常のことである。そうすると、引用例1においては、曲がりくねった経路を差し込まれるように挿入されるものだけではなく、管が目的位置に対して体組織を貫通しながら真っ直ぐ差し込まれる態様についても、示唆されているといえる。そして、管を目的位置に対してどのような経路で挿し込むかは、目的位置となる患部の部位や施術の様態に応じて適宜決定し得る事項であるから、引用発明において「管が目的位置に対してほぼ真っ直ぐに挿し込まれるように前記ヘッドの進行方向制御を行うことが可能」とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(相違点5について)
引用文献1の「・・・誘導されるカテーテルを使用してパレット化されたソースを腫瘍に直接与えることにより体内ラジオアイソトープ治療が正確に行われることが可能であり、」(上記記載事項(サ))の記載を参酌すると、引用発明1には、がん患者の体に存在するがん細胞の不活性化を行う点が、開示されているといえる。
そして、体内ラジオアイソトープ治療は、がん細胞に放射性元素を作用させて細胞の不活性化を行うものであるから、検出可能ながん細胞に対して不活性化を行うための仕組みを備えたものといえる。
また、かかる仕組みをどのような状況の患者に使用するかは、適宜選択し得るものである。さらに、引用発明1において、検出可能ながん細胞に対してどの程度不活性化を行うかは、引用発明1に記載された不活性化を行うための仕組みを使用する状況等(例えば、がんの進行状況や副作用の影響)の様々な条件に応じて、変更し得るものである。
そうすると、引用文献1の体内ラジオアイソトープ治療を使用する患者として「末期がんと診断される患者」を選択することは、当業者が適宜なし得ることであって、その際に、不活性化を行うがん細胞を「検出可能なものほぼ全て」とすることも適宜変更し得ることである。
したがって、引用発明において「本願出願日時点の技術水準において末期がんと診断される患者の体に存在するがん細胞のうち検出可能なものほぼ全ての不活性化を行うための仕組み」を備えるようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

仮に、本願発明の「本願出願日時点の技術水準において末期がんと診断される患者の体に存在するがん細胞のうち検出可能なものほぼ全ての不活性化を行うための仕組み」が、本願明細書の段落【0064】?【0076】(上記第3の3(2)参照)及び図6?7の記載を参酌して、「がん細胞クラスターの中心に抗がん剤を注入して、一旦がん細胞を不活性化した後、所定時間を置いてから再び抗がん剤を注入する一連の動作を、がん細胞が消滅するまで繰り返すこと」を意味するものとした場合について更に検討する。

がん細胞に対する抗がん剤の投与については、一般的に、複数のがん細胞から構成される腫瘍の中心に抗がん剤を投与すること、及び、抗がん剤の投与を反復して行うことが、いずれも本願出願日前に周知の技術事項である(例えば、前者については、特開2012-390号公報の段落【0054】?【0055】及び図1、7、特開2012-318号公報の段落【0054】及び図6、特表2002-502399号公報の第4ページ下から第2行を、後者については、特表2010-523104号公報の【請求項5】及び【請求項7】、特開2012-390号公報の段落【0060】?【0062】を参照されたい。)。してみれば、引用発明において、上記周知の技術事項に照らして「がん細胞クラスターの中心に抗がん剤を注入して、一旦がん細胞を不活性化した後、所定時間を置いてから再び抗がん剤を注入」することは、当業者が容易になし得ることである。

4 小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例1に記載された事項、及び上記周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしてない。
また、本願発明は、引用発明、引用例1に記載された事項、及び上記周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-15 
結審通知日 2016-03-16 
審決日 2016-03-29 
出願番号 特願2014-187171(P2014-187171)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
P 1 8・ 537- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 玲子  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 平瀬 知明
熊倉 強
発明の名称 位置制御システム  

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