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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2010800088 審決 特許
無効2014800135 審決 特許
無効2012800042 審決 特許
無効2011800071 審決 特許
無効2012800032 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 無効としない A61K
管理番号 1314712
審判番号 無効2014-800083  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-05-29 
確定日 2016-03-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第3547755号発明「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3547755号の請求項1?9に係る発明についての出願は、平成7年8月7日(優先権主張 平成6年8月8日、スイス)を国際出願日とする出願であって、平成16年4月23日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人は平成26年5月29日に、上記請求項1?9に係る発明の特許を無効にすることについて、本件特許無効審判を請求し、被請求人は平成26年9月9日に審判事件答弁書を提出した。また、参加申請人は平成26年9月5日受理の参加申請書を提出し、平成26年12月9日付けで参加申請人の本件審判への参加を許可すべきものとする旨の参加許否の決定がなされた。そして、平成27年3月20日に行われた第1回口頭審理において、請求人は、平成27年3月11日付け口頭審理陳述要領書及び平成27年3月20日付け上申書に沿って第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述をし、被請求人は平成27年3月6日付け口頭審理陳述要領書に沿って第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述をし、参加人は平成27年3月6日付け口頭審理陳述要領書に沿って第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述をした。

第2 特許請求の範囲の記載
本件特許第3547755号(以下、単に「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし9の記載は、次のとおりである(以下、請求項の番号に応じて、請求項1に係る発明を「本件特許発明1」などという。)。

【請求項1】
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり、医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである、腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
【請求項2】
オキサリプラティヌムの濃度が約2mg/ml水であり、水溶液のpHが平均値約5.3である、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
オキサリプラティヌム水溶液が+74.5゜ないし+78.0゜の範囲の比旋光度を持つ、請求項1または請求項2記載の製剤。
【請求項4】
すぐ使用でき、密封容器に入れられたオキサリプラティヌム水溶液の形である、請求項1ないし3の何れか1項記載の製剤。
【請求項5】
容器がオキサリプラティヌム50ないし100mgの単位有効用量を含み、それが注入で投与できることを特徴とする、請求項4記載の製剤。
【請求項6】
容器が医薬用ガラスバイアルであり、少なくともバイアルの内側に広がる表面が上記溶液に不活性な栓で閉じられていることを特徴とする、請求項4または請求項5記載の製剤。
【請求項7】
上記溶液と上記栓の間の空間に不活性ガスが充填されていることを特徴とする、請求項6記載の製剤。
【請求項8】
上記容器が輸液用可撓性袋またはアンプルであることを特徴とする、請求項4または請求項5記載の製剤。
【請求項9】
容器が注射用マイクロポンプを持つ輸液装置の構造部分であることを特徴とする、請求項4または請求項5記載の製剤。

第3 請求人の主張
これに対して、請求人は、「特許第3547755号にかかる特許請求の範囲の請求項1ないし9の各請求項に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の書証を提出し、本件特許が無効とされるべき理由として、以下の無効理由1(特許法第36条第6項第2号及び特許法第123条第1項4号)及び無効理由2(特許法第36条第6項第1号及び特許法第123条第1項第4号)を主張している。

1 無効理由1(明確性要件)
本件特許発明1?本件特許発明9は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであって、特許法第123条第1項第4号に該当する。

2 無効理由2(サポート要件)
本件特許発明1?本件特許発明9は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていないものであって、特許法第123条第1項第4号に該当する。

(証拠方法)
甲第1号証 本件特許第3547755号の特許公報
甲第2号証 本件特許に係る出願(特願平8-507159号)に係る平成16年1月21日提出の意見書
甲第3号証 平成16年(ネ)第1589号 特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件 判決
甲第4号証 平成14年(ワ)第6178号 特許権侵害差止等請求事件 判決
(以上、審判請求書に添付。)
甲第5号証 本件特許に係る出願(特願平8-507159号)に係る平成15年7月11日付け拒絶理由通知書
甲第6号証 本件特許に係る審判事件(無効2009-800029号)に係る平成21年6月8日提出の審判事件答弁書
甲第7号証 国際公開第96/04904号
甲第8号証 特開平3-24017号公報
(以上、平成27年3月11日付け口頭審理陳述要領書に添付。)

第4 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がないと主張し、証拠方法として以下の書証を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証 新村出 編、「広辞苑 第四版」、1991年11月15日第1刷発行、岩波書店、第1361頁及び奥付
乙第2号証 大木道則 外3名 編、「化学大辞典」、1989年10月20日第1刷発行、東京化学同人、第1183頁及び奥付
(以上、平成26年9月9日付け審判事件答弁書に添付。)

第5 当審の判断
1 請求人の主張する無効理由1(明確性要件)について
特許請求の範囲の請求項1の記載は前記第2に示したとおりであるところ、請求人は、「オキサリプラティヌムの水溶液からなり、」について、「からなる」との文言は多義的に解釈されうるものであって、本件特許発明1の製剤は、オキサリプラティヌム及び水以外の第3成分を排除しているとも、オキサリプラティヌム及び水以外の第3成分を含んでもよいとも、解釈されるものであるので、本件特許発明1は明確でなく、同様に本件特許発明2?9も明確でない旨主張するとともに、仮に、本件特許発明1?9の製剤がオキサリプラティヌム及び水以外の第3成分を排除していないことが特許請求の範囲の文言上明確であったとしても、明細書はオキサリプラティヌム及び水以外の第3成分を排除するものとして記載されており、そのことは本件特許の審査段階で平成15年7月11日付け拒絶理由通知(甲第5号証)に対して提出された平成16年1月21日付け意見書(甲第2号証)における被請求人の主張及び本件特許の国際出願時の明細書(甲第7号証)の記載によっても裏付けられるものであるから、特許請求の範囲の記載は明確でない旨主張する。
しかしながら、「からなる」が、直前に列挙される要素を構成要素とするという意味で用いられる表現であって、その他の要素を構成要素としないという意味で用いられる表現ではないことは、例えば、「からなる」の直前に「のみ」を付加した「のみからなる」が、直前に列挙される要素を構成要素とし、その他の要素を構成要素としないという意味で用いられる表現であることとの対比からも、当業者は理解することができる。
したがって、特許請求の範囲の記載は明確であって、本件特許発明1?9は明確でないとすることはできない。
ここで、明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、「この製剤は他の成分を含まず、原則として、約2%を超える不純物を含んではならない。」(甲第1号証第3頁第2?3行)との記載があって、約2%を超えない量の不純物を含む製剤が開示されており、実施例3の安定性試験(甲第1号証第4頁第14?40行)の結果を示す表(甲第1号証第5頁)においても不純物の存在する製剤が記載されており、また、「一つの変法では、酸素含量を減少させるため水に窒素を吹き込むことができる。」(甲第1号証第3頁第42?43行)との記載があって、溶存酸素、溶存窒素の存在する製剤も開示されていることから、明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1?9に係る製剤であってオキサリプラティヌム及び水以外の成分を含む製剤が開示されていると認められる一方、「からなる」について上記理解に反する定義等は記載されていない。
したがって、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「からなる」についての上記理解を誤りとすることはできず、本件特許発明1?9は明確でないとすることはできない。
さらに、請求人の提出した書証のいずれも、本件の特許請求の範囲の記載に係る「からなる」についての上記理解を否定するものではなく、明細書の発明の詳細な説明による上記開示内容を否定するものでもないので、請求人の提出した書証のいずれからも、特許請求の範囲の記載が明確でないとすべき根拠は見出せない。
よって、本件特許発明1?9は明確でないとすることはできない。

2 請求人の主張する無効理由2(サポート要件)について
請求人は、発明の詳細な説明にはオキサリプラティヌムと水以外の第3成分を含む製剤は記載されておらず、当業者は、発明の詳細な説明に記載された発明の特徴は、オキサリプラティヌムの水溶液であって、第3成分によるpH調整等の安定化が行われていないことにある、と認識したはずであり、そのことは本件特許に関する別件無効審判の無効2009-800029号において提出された平成21年6月8日付け審判事件答弁書(甲第6号証)における被請求人の主張によっても裏付けられるものであるから、本件特許発明1?9の製剤がオキサリプラティヌムと水以外の第3成分を含んでもよいものならば、本件特許発明1?9は発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張する。
しかしながら、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
そして、発明の詳細な説明の記載、特に「それ故、製品の誤用のあらゆる危険性を避け、上記の操作を必要とせずに使用できるオキサリプラティヌム製剤を医療従事者または看護婦が入手できるようにするため、直ぐ使用でき、さらに、使用前には、承認された基準に従って許容可能な期間医薬的に安定なままであり、凍結乾燥より容易且つ安価に製造でき、再構成した凍結乾燥物と同等な化学的純度(異性化の不存在)および治療活性を示す、オキサリプラティヌム注射液を得るための研究が行われた。これが、この発明の目的である。」(甲第1号証第2頁第37?42行)との記載から、本件特許発明1?9の課題は「許容可能な期間医薬的に安定であり、凍結乾燥物から得られたものと同等な化学的純度および治療活性を示す、そのまま使用できるオキサリプラティヌム注射液を得ること」であると認められる。
また、発明の詳細な説明には、
「従って、この発明の目的は、オキサリプラティヌムが1ないし5mg/mlの範囲の濃度と4.5ないし6の範囲のpHで水に溶解し、医薬的に許容される期間の貯蔵後製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%を示し、溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである、腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの安定な医薬製剤である。」(甲第1号証第2頁第49行?第3頁第2行)との記載があって、これは本件特許発明1?9に対応するものであり、
「好ましくは、オキサリプラティヌムの水中濃度は約2mg/mlであり、溶液のpHは平均値約5.3である。
オキサリプラティヌムの水溶液の安定性は、+74.5゜ないし+78.0゜の範囲にある比旋光度の測定によっても確認された。」(甲第1号証第3頁第4?7行)との記載があって、これは本件特許発明2?3に対応するものであり、
「この発明の製剤は、すぐ使用でき、密封した容器に含まれたオキサリプラティヌム水溶液の形であるのが好ましい。
この発明の具体的実施態様において、この発明の製剤は、注入投与用に設計し、目的とする濃度に従って選択した量の注射剤用水中にオキサリプラティヌム50ないし100mgを含む、単位有効用量として提供される。
この用量は、薬剤用中性ガラス製の、少なくともバイアル内に広がる面がオキサリプラティヌム水溶液に対して不活性な栓で閉じられたバイアルに含まれ、所望により、上記溶液と上記栓の間の空間が不活性ガスで満たされているのが有利である。
密封したバイアルはまた、例えば、輸液用可撓性袋、アンプル、さらには注射用マイクロポンプを備えた輸液装置の構成部品であってもよい。」(甲第1号証第3頁第18?27行)との記載があって、これは本件特許発明4?9に対応するものであると認められる。
さらに、発明の詳細な説明には、
「実施例2:容器充填
次に、例えば2mg/mlの濃度のオキサリプラティヌム水溶液を、好ましくは不活性雰囲気、例えば窒素中で、滅菌した発熱物質無含有の50mlガラスバイアル中に、無菌的に充填する。
オキサリプラティヌム水溶液の安定性をよくするためには、I型の中性ガラスを用いるのが好ましい。
栓としては、例えば、テフロン製またはハロゲン化ブチル類を基礎とするエラストマー製の栓を用いることができ、これらは、少なくともバイアルの内側に広がる表面がオキサリプラティヌム水溶液に対して不活性であるように、適当なコーティング、特にふっ素化ポリマー(例えばヘルベット・ファルマ製の「オムニフレックス」タイプのもの)を持つことができる。
所望により、栓と水溶液の間の空間に、不活性ガス、例えば窒素を充填することができる。」(甲第1号証第4頁第1?13行)との記載、及び
「得られた結果は、下記の表に要約するが、使用したすべての実験条件下において、この発明によるオキサリプラティヌム水溶液の安定性が、50℃で3か月以上貯蔵した後においても、回収したオキサリプラティヌムの百分率と要求される値より少ない不純物のそれから考えて、医薬的に許容されると考えられることを示した。また、pHは安定なままであった。さらに、すべての溶液は、澄明、無色で、肉眼で見える固体粒子を含まなかった。最後に、溶液は光学的純粋のままであり(異性化なし)、測定したオキサリプラティヌムの旋光度は約+75.7゜ないし約+76.2゜の範囲、すなわち、充分必要な限界内(+74.5゜ないし+78.0゜)にあった。
室温および40℃で行った別の一連の測定においても、オキサリプラティヌム水溶液の安定性が10か月を超える期間にわたり確認された。」(甲第1号証第4頁第31?40行)との記載があって、これらの記載により当業者は本件特許発明1?9が当該発明の課題を解決できると認識できると認められる。
しかも、発明の詳細な説明には、前記1に記したとおり、本件特許発明1?9に係る製剤であってオキサリプラティヌムと水以外の成分を含む製剤についての記載もある上に、オキサリプラティヌムと水以外の成分は本件特許発明1?9を特定するための事項ではないところ、請求人の提出した書証のいずれからも、本件特許発明1?9のサポート要件として、本件特許発明1?9に係る製剤について、当該成分として明細書及び出願時の技術常識を考慮しても通常想定されるものとは認められない成分を含む製剤までの網羅的に具体的な開示が要求されるとすべき根拠は見出せず、たとえ本件特許発明1?9に係る製剤について、当該成分として明細書及び出願時の技術常識を考慮しても通常想定されるものとは認められない成分を含む製剤の具体的な開示がないとしても、発明の詳細な説明に本件特許発明1?9の全体が記載されていないとは解し得ない。
したがって、本件特許発明1?9は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明1?9の課題が解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

よって、本件特許発明1?9は発明の詳細な説明に記載したものであるということができる。

したがって、請求人の主張はいずれも認められない。

3 小括
以上のように、請求人が提示した主張及び証拠方法によっては、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとも、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないともいえないので、本件特許の請求項1ないし9に係る発明の特許が、特許法第123条第1項第4号に該当するとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許の請求項1ないし9に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については,特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-08 
結審通知日 2015-04-10 
審決日 2015-04-22 
出願番号 特願平8-507159
審決分類 P 1 112・ 537- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田名部 拓也  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 横山 敏志
渕野 留香
登録日 2004-04-23 
登録番号 特許第3547755号(P3547755)
発明の名称 オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤  
復代理人 大野 浩之  
復代理人 大野 浩之  
代理人 松任谷 優子  
代理人 膝舘 祥治  
代理人 西川 恵雄  
代理人 大野 聖二  
代理人 大野 聖二  
代理人 小國 泰弘  
代理人 松任谷 優子  
代理人 津国 肇  
代理人 小國 泰弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 大塚 康弘  
代理人 津国 肇  
代理人 膝舘 祥治  
代理人 木下 智文  

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