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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02C |
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管理番号 | 1314729 |
審判番号 | 不服2015-8751 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-05-12 |
確定日 | 2016-05-31 |
事件の表示 | 特願2011- 99676「フォトクロミックレンズ、及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月22日出願公開,特開2012-230317,請求項の数(11)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成23年4月27日の出願であって,平成26年7月14日付けで拒絶理由が通知され,同年9月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成27年2月3日付けで拒絶査定がされた。 本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成27年5月12日に請求されたものである。 第2 本願の請求項1に係る発明 本願の請求項1ないし11に係る発明は,平成26年9月18日提出の手続補正書による補正後の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ,請求項1に係る発明は次のとおりのものである。 「互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルム(A2)との間に,フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)を有するフォトクロミック積層体(A)と,少なくとも一方の前記光学シート又は光学フィルム(A2)上に形成される塗膜層(C)と,前記塗膜層(C)上に形成される合成樹脂層(B)とを有するフォトクロミックレンズであって, 前記塗膜層(C)が,(メタ)アクリル基を有する重合性モノマー(ただし,ケイ素原子を含む重合性モノマーは除く)(C1),及び下記式(2) (式中, R4及びR5は,それぞれ,炭素数1?3のアルキル基であり, R6,及びR7は,それぞれ,炭素数1?10のアルキレン基,炭素数3?10のポリメチレン基,又はフェニレン基であり, Xは,(メタ)アクリル基と反応しうる基であり, dは0?2の整数であり, e,及びfは,それぞれ独立に0または1の整数であり, e=1の時,f=1である。) で示される(メタ)アクリル基と反応しうる基を有する加水分解性有機ケイ素化合物(C2)を含む硬化性組成物の硬化体からなることを特徴とするフォトクロミックレンズ。」(以下,「本願発明」という。) 第3 原査定の拒絶の理由の概要 本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明と引用文献1に記載されたフォトクロミックレンズとの間の相違点は,塗膜の材料であり,引用文献1に記載されたフォトクロミックレンズにおける塗膜の材料として,本願発明の材料を用いることは,引用文献2の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるから,本願発明は,引用文献1及び2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2は,次のとおりである。 引用文献1:特開2005-215640号公報 引用文献2:特開平3-6282号公報 第4 当審の判断 1 各引用例について (1)引用文献1 ア 引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1は,本願の出願前に頒布された刊行物であって,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。) (ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 フォトクロミック化合物を含有する熱硬化性ポリウレタン樹脂層を表面に塗膜層を設けた2枚の透明なプラスチック材料で挟み込んだ積層体(A)を,透明な熱硬化性樹脂(B)よりなるレンズ体中に埋設,または,上記積層体(A)上に,上記熱硬化性樹脂(B)を積層してなるフォトクロミックレンズ。 【請求項2】 透明なプラスチック材料がポリカーボネートシートでその厚みが20μm?2mmである請求項1記載のフォトクロミックレンズ。 【請求項3】 透明なプラスチック材料に塗料を塗布後,UV硬化もしくは熱硬化して形成される塗膜層がアクリル系材料,ウレタン樹脂系材料,ポリエステル樹脂系材料,メラミン樹脂系材料,エポキシ樹脂系材料,シリコ-ン系材料から選ばれた1種以上の有機材料からなる有機皮膜であり,その膜厚が0.1?20μmであることを特徴とする請求項1記載のフォトクロミックレンズ。 【請求項4】 塗膜層がアクリル系材料,ウレタン樹脂系材料,ポリエステル樹脂系材料から選ばれた1種以上の有機材料からなる有機皮膜であり,その膜厚が1?10μmであることを特徴とする請求項1記載のフォトクロミックレンズ。 ・・・(中略)・・・ 【請求項10】 透明な熱硬化性樹脂(B)がチオウレタン系重合組成物である請求項1記載のフォトクロミックレンズ及び請求項7記載のフォロクロミックレンズの製造方法。」 (イ) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,光照射により吸収スペクトルが可逆的に変化する現象,すなわちフォトクロミズムを示すレンズに関するものであり,さらに詳しくは,発色感度が高く,消色速度が速く,かつ繰り返し寿命が長いフォトクロミックレンズに関するものである。 【背景技術】 【0002】 近年,眼鏡用レンズにおいては,ガラス製レンズに比べて軽量であること,および割れにくさの点で安全性が高いことから,合成樹脂製レンズが賞用されるようになってきている。そしてこれに伴い,ガラス製レンズに対して従来施されている付加的機能を合成樹脂製レンズについても付与することの要求も大きくなってきており,特に強い光が当ったときにはその光の透過を抑制するよう呈色若しくは変色し,暗所に置かれたときには色が消失する特性,即ち調光性を有することが強く要請されている。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 フォトクロ性能を現出する為には,フォトクロミック物質が,光の照射に伴う色調変化性能を維持し,レンズ基材の重合性組成物に溶出しないことが要求される。この為には,フォトクロミック物質をマトリックス中に分散させた調光層を2枚の透明な樹脂フィルムで保護する方法が最適である。しかし,この方法の場合,レンズ基材の重合性組成物により,保護樹脂フィルムが着色,変形したり,重合性組成物との接着性不良等の問題が発生していた。 【課題を解決するための手段】 【0011】 上記の問題を解決するため,フォトクロミック化合物を分散させる樹脂として,熱硬化性ポリウレタン樹脂を選択して,調光層を形成し,該調光層を表面に塗膜層を設けた2枚の透明なプラスチックシ-トで挟んで保護層とし,この積層体を重合性組成物に埋設せしめ,この状態で当該重合性組成物を重合させることによって,フォトクロミックの応答性および耐久性に優れ,しかも調光層の保護層の着色および変形がなく,また,保護層と重合性組成物との接着性にも優れたフォトクロミックレンズが得られることを見出し,本発明を完成した。 【発明の効果】 【0012】 本発明のフォトクロミックレンズは,光による発色および消色速度が速く,しかも,耐久性にも優れているので,従来から知られているガラス製のフォトクロミックレンズと同様に使用することでき,割れにくいので安全性の点で,特にスポーツ用のフォトクロミックレンズとして有用である。」 (ウ) 「【発明を実施するための最良の形態】 【0013】 本発明は,フォトクロミック化合物を含有する熱硬化性ポリウレタン樹脂層を表面に塗膜層を設けた2枚の透明なプラスチック材料で挟み込んだ積層体(A)を,透明な熱硬化性樹脂(B)よりなるレンズ体中に埋設,または,上記積層体(A)上に,上記熱硬化性樹脂(B)を積層してなるフォトクロミックレンズである。 【0014】 本発明で使用される透明なプラスチック材料はポリカーボネート系樹脂,非晶性ポリオレフィン系樹脂,ポリアクリレ-ト系樹脂,ポリスルフォン系樹脂,トリアセチルセルロ-ス系樹脂,ポリエステル系樹脂等が挙げられるが機械的強度,光応答性の特性からポリカ-ボネ-ト系樹脂が好ましい。・・・(中略)・・・ 【0015】 本発明で用いられる透明なプラスチックシ-トの表面に塗布する材料はアクリル系材料,ウレタン樹脂系材料,ポリエステル樹脂系材料,メラミン樹脂系材料,エポキシ樹脂系材料,シリコ-ン系材料の1種以上から選ばれた有機材料からなる有機皮膜であり,レンズ材との接着性,耐溶剤性からその主成分となる材料はアクリル系材料,ウレタン樹脂系材料,ポリエステル樹脂系材料が好ましく,特に紫外線硬化型ポリウレタン(メタ)アクリレ-ト,ポリエステル(メタ)アクリレ-ト及びこれらの混合塗料が好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0025】 本発明において,塗料を塗布後,形成される塗膜層を持つ透明プラスチィク樹脂積層体(A)を得るには,スプレー,浸漬,カーテンフロー,ロールコーティング等公知の方法を用いて塗布した後,低圧水銀灯,中圧水銀灯,高圧水銀灯,超高圧水銀灯,キセノンランプ,ガリウムランプ,メタルハライドランプ等の紫外線を照射することによって速やかに硬化させることができる・・・(中略)・・・ 【0028】 本発明のフォトクロミック化合物を含有する熱硬化性ポリウレタン樹脂層としては,ポリウレタンプレポリマーと硬化剤からなる2液型の熱硬化性ポリウレタン樹脂である。 ・・・(中略)・・・ 【0041】 本発明の熱硬化性樹脂(B)を形成する液状の重合性組成物は特に制限はなく,通常の樹脂レンズの材料となるモノマーの組成物をそのまま用いることができる。その具体例としては,メチルメタアクリレート等のメタアクリレート類,アクリレート類,ジエチレングリコールビスアリルカーボネート,ジアリルフタレート等のアリル基を有するモノマー,臭素若しくは塩素で置換された各種のメタクリレート類,アクリレート類,アリル化合物,さらには,内部にウレタン結合をもつウレタンアクリル系重合組成物,イソシアネートとチオールとを組み合せたチオウレタン系重合組成物,その他を挙げることができる。 しかしながら,表面に塗膜層を設けた2枚の透明なプラスチック材料からなるシートと該シートの間に介在するフォトクロミック化合物を含有する熱硬化性ポリウレタン樹脂層からなる積層体(A)との相性から,チオウレタン系重合組成物が好ましい。」 イ 引用文献1に記載された発明 前記ア(ア)及び(イ)で摘記した記載から,引用文献1には,次の発明が記載されていると認められる。 「フォトクロミック化合物を含有する熱硬化性ポリウレタン樹脂層を,表面に塗膜層を設けた2枚の透明なプラスチック材料で挟み込んだ積層体(A)上に,透明な熱硬化性樹脂(B)を積層してなるフォトクロミックレンズであって, 前記塗膜層の材質として,アクリル系材料,ウレタン樹脂系材料,ポリエステル樹脂系材料,メラミン樹脂系材料,エポキシ樹脂系材料,シリコ-ン系材料の1種以上から選ばれた有機材料を用いた, フォトクロミックレンズ。」(以下,「引用発明」という。) (2)引用文献2 ア 引用文献2の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2は,本願の出願前に頒布された刊行物であって,当該引用文献2には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献2記載の技術の認定に特に関係する箇所を示す。) (ア) 「(産業上の利用分野) 本発明はプライマー組成物,特にはポリカーボネートのような熱可塑性プラスチック成形品の表面に接着性,耐久性,耐候性のすぐれたシリコーン系耐摩耗性被膜を成形させるためのプライマー組成物に関するものである。 (従来の技術) 熱可塑性プラスチック,特にポリカーボネート樹脂は透明性にすぐれており,軽量で耐衝撃性にもすぐれていることからガラスに代る構造材料として広く使用されているが,このものは摩耗し易いし,有機溶剤に侵され易く,しかも経時変化によって着色,劣化するという欠点がある。 そのため,この成形品についてはその表面を熱硬化性樹脂で被覆することが提案されており,これらの中ではオルガノポリシロキサンで被覆したものが耐摩耗性,耐溶剤性のすぐれたものになるということがらオルガノポリシロキサンが有用なものとされているが,このオルガノポリシロキサン系塗膜による被覆はポリカーボネート樹脂などの熱可塑性プラスチック表面への均一な接着性,表面での耐候性,耐久性が不充分であるために,下塗り剤を塗布したのち,オルガノポリシロキサン系塗膜を施す方法が提案されている。 そして,この下塗り剤としては,1)熱可塑性アクリル系プライマー(特開昭52-138565号公報参照),2)アミノ基などの官能基を有するアクリル樹脂系プライマー(特開昭53-138476号公報参照),3)アミノ基またはヒドロキシ基などの官能基を有するアルコキシシランと環状酸無水物との反応物よりなるシリコーン系プライマー(特開昭53-81533号公報参照),4)エポキシシランの加水分解物とアミノシランとの混合物よりなるシリコーン系プライマー(特開昭54-63176号公報参照),5)官能基含有熱可塑性アクリル樹脂と紫外線吸収剤よりなるアクリル系プライマー(特表昭55-500809号公報参照),6)熱硬化性アクリル・エマルジョンと紫外線遮蔽性化合物よりなるアクリル系プライマー(特開昭55-160033号公報参照),7)アミノシラン,エポキシシランおよび酸無水物の反応物よりなるシリコーン系プライマー(特開昭56-16573号公報参照),8)アクリル系モノマーとエポキシメタクリレートおよびヒドロキシ・ベンゾフェノン系紫外線吸収剤との反応物よりなる熱可塑性アクリル系プライマー(特開昭57-23661号公報参照),9)メラミン系架橋剤含有熱硬化性アクリル樹脂と紫外線吸収剤よりなるアクリル系プライマー(特公昭60-53701号公報参照)などが知られている。 (発明が解決しようとする課題) しかし,これらのプライマー塗布は必ずしも満足すべき効果を与えず,例えば上記1),2)の場合には基材への接着性はかなり改善されるものの,アミノ基などのような活性水素基を含有するものが存在するとその部分から吸湿するために耐水接着性がわるくなり,耐候性も殆んど改善されないという不利があり,3),4)については基材への接着性はかなり改善されるが活性水素基が残存していると耐水接着性が不充分となり,アミノ基を含有しているために黄変し易く,耐候性はむしろ悪くなる場合もあり,さらにOH基,-COOH基を含んでいることから容易にアルコキシ基と反応するためにプライマー液が経時変化によって増粘して塗布しにくくなり,重合度の上昇で接着性が低下するという欠点がある。また,この5)については耐候性はかなり改善されるが長期の耐候性にはなお不充分で,耐候性をよくするために厚塗りすると耐摩耗性のポリオルガノポリシロキサン塗膜が軟らかくなって耐摩耗性が低下し,紫外線吸収剤を増量していくと被覆が白化したり,接着不良になるという不利があり,6)についてはエマルジョンであるために水に対する溶解性の点から紫外線吸収剤の種類が限定され,したがって有効な紫外線吸収剤を選択することができず,耐候性改善も満足すべきレベルに達せず,さらにはアクリル樹脂が熱硬化性であるために接着性が劣るものになるという傾向がある。なお,この7)には上記した3),4)と同様な不利があり,8)については紫外線吸収剤が一種のラジカル安定剤となるためにこれを多量に含有したアクリル系ポリマーは作りにくく,したがって耐候性,接着性の改善が不充分になるという欠点があり,この9)についても耐候性は改善されるが接着性がよくないという不利がある。 (課題を解決するための手段) 本発明はこのような不利を解決したプライマー組成物に関するものであり,この組成物はA)アルコキシシリル基を含有するアクリル系および/またはビニル系単量体,酢酸ビニルとこれら単量体と共重合可能な他の単量体との有機共重合体100重量部,B)炭素数1?8のアルキルアクリレートおよび/またはアルキルメタクリレートの重合体もしくは共重合体10?100重量部,C)アルコキシシリル基を含有するアクリル系および/またはビニル系有機共重合体の架橋剤20?100重量部,D)紫外線吸収剤10?100重量部,を有機溶剤に溶解してなることを特徴とするものである。 すなわち,本発明者らはポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂成形品のオルガポリシロキサン(審決注:「オルガノポリシロキサン」の誤記と認める。)系塗膜被覆時における接着性,耐候性を向上させるプライマー組成物の改良について種々検討した結果,このプライマー組成物をアルコキシシリル基を含有する単量体,酢酸ビニルおよびこれら単量体と共重合可能な他の単量体との有機共重合体に,ポリアルキル(メタ)アクリレート,アルコキシシリル基含有有機共重合体の架橋剤および紫外線吸収剤とを添加したものとすると,このものは経時変化がなく接着性,耐候性の改善効果のすぐれたものとなるので,このものを塗布し硬化させたのち,無機微粒子を含有するオルガノポリシロキサン系耐摩耗性被覆を施したプラスチック成形品は耐候性,接着性にすぐれたものとなり,黄変することもなくなるということを見出し,このプライマー組成物における各成分の種類,組成比などについての研究を進めて本発明を完成させた。」(1ページ右下欄1行ないし3ページ左上欄16行) (イ) 「本発明のプライマー組成物を構成するA)成分としての有機共重合体はアルコキシシリル基を含有するアクリル系および/またはビニル系単量体,酢酸ビニルとこれらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体とされる。このものはアルコキシシリル基の導入によって上記被覆層との反応性が付与され,接着性が向上されるし,アルコキシシリル基同志の架橋によりプライマー層が熱硬化性となるので耐熱性が向上し,耐久性を付与できるが,このアルコキシシリル基を含有する単量体の含有量は2重量%以下では熱硬化性とならず,耐熱性,耐久性が改良されず,50重量%以上とすると硬くなりすぎて接着性が低下するので2?50重量%含有するものとする必要がある。 このアルコキシシリル基を含有するアクリル系単量体は一般式 で示され,R^(1)は水素原子またはメチル基,R^(2)はメチル基,エチル基,プロピル基などのアルキル基,ビニル基,イソプロペニル基,アリル基などのアルケニル基,フェニル基などのアリール基から選択される炭素数1?6の1価炭素水素基,aは1?3,bは0または1であるものとされるが,・・・(中略)・・・これらの中では取り扱いやすさ,架橋密度,反応性などから3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが好ましいものとされる。 ・・・(中略)・・・ また,このA)成分の有機共重合体については酢酸ビニルも必須成分とされており,これはポリカーボネートとの接着性を向上させるものであるが,これは酢酸ビニルの含有率が2重量%以下ではポリカーボネートとの接着性向上が期待できず,40重量%以上とすると熱可塑性が高まって耐熱性,耐久性が改良されなくなるので,有機共重合体中における酢酸ビニルの含有率は2?40重量%とすることが好ましい。 前記のアルコキシシリル基を含有するアクリル系および/またはビニル系単量体と共重合可能の単量体としてはグリシジルアクリレート,グリシジルメタクリレート,アルキルアクリレート,アルキルメタクリレート,アリルグリシジルエーテルなどがあげられるが,特にはグリシジル基を含有する単量体を共重合させれば,より一層プラスチック基体とオルガノポリシロキサン層との接着性が高くなるが,これは有機共重合体中に2?40重量%含有させることが望ましい。 さらに共重合体可能な単量体としては,炭素原子数が1?8のアルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレートがあり,これにはメチルアクリレート,メチルメタクリレート,エチルアクリレート,エチルメタクリレート,ブチルアクリレート,ブチルメタクリレート,2-エチルへキシルアクリレート,2-エチルヘキシルメタクリレートなどの例示されるが,これは他の共重合体可能な任意の単量体としてのアクリルアミド,アクリロニトリル,エチルビニルエーテル,ブチルビニルエーテル,ヘキシルビニルエーテル,スチレン,エチレングリコールジメタクリレートなどであってもよい。しかし,アルコキシシリル基と反応し得る単量体,例えば2-ヒドロキシエチルメタクリレート,2-ヒドロキシプロピルメタクリレート,N-メチロールアクリルアミドなとは本発明のプライマー組成物を増粘,ゲル化など経時変化させるので好ましいものではない。 このA)成分としての有機共重合体は上記したアルキコシシリル基を含有する単量体,酢酸ビニル,グリシジル(メタ)アクリレートおよびアルキル(メタ)アクリレートなどを含有する溶液にジクミルパーオキサイド,ベンゾイルパーオキサイドなどのパーオキサイド類またはアゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物などから選択されるラジカル重合用触媒を加え,加熱下に反応させることによって容易に得ることができるが,この有機重合体は後記するC)成分と反応してD)成分を固定化するためのものである。」(3ページ左上欄18行ないし4ページ右下欄8行) (ウ) 「つぎに本発明のプライマー組成物を構成するB)成分としてのポリアルキル(メタ)アクリレートは接着性を低下させることなく,プライマー溶液を増粘させるものであり,プライマー膜厚を管理する上で必須成分とされるものであるが,これはまたプラスチック基体に対するプライマー組成物の投錨効果を促進するためのものであり,これにはメチルアクリレート,メチルメタクリレート,エチルアクリレート,エチルメタクリレート,ブチルアクリレート,ブチルメタクリレートなどの重合体あるいはこれらの共重合体が例示される。なお,このB)成分の配合量は前記したA)成分100重量部に対して,10重量部以下ではプライマー膜厚が低くなりすぎて,D)成分である紫外線吸収剤の絶対含有量が少なくなって耐候性の劣るものとなり,100重量部以上とすると粘度が高くなりすぎて作業性や被膜の耐熱性,耐熱衝撃性などがわるくなり易くなるので,10?100重量部の範囲とする必要がある。」(4ページ右下欄9行ないし5ページ左上欄7行) (エ) 「また,本発明のプライマー組成物を構成するC)成分としての架橋剤は前記したA)成分を架橋させるためのものであることから,このA)成分を架橋するものであれば特に限定されるものではないが,この好ましいものとしてはアミノ官能性アルコキシシランとエポキシ官能性アルコキシシランの付加物のアミド化物あるいは部分的にシリル化されたアミノ官能性アルコキシシランとエポキシ官能性アルコキシシランの付加物のアミド化物,アミノ官能性アルコキシシランと酸無水物の付加物,アミノ官能性アルコキシシランあるいはこの加水分解物などが例示される。また,本発明のプライマー組成物は耐候性を向上させる目的で後記するD)成分としての紫外線吸収剤を比較的多量に含有するものであるが,これをプライマー樹脂中に固定するには特に上記したアミノ官能性アルコキシシラン,エポキシ官能性アルコキシシランおよびシリル化剤との反応生成物をアミド化して得られたものを使用することが好ましく,これによれば耐水性よく接着性を付与することができるし,このアミド化物は多量の紫外線吸収剤をプライマー樹脂中に接着性を損なうことなく固定化させるという作用をもっている。」(5ページ左上欄8行ないし右上欄10行) (オ) 「つぎに本発明のプライマー組成物を構成するD)成分としての紫外線吸収剤はプライマー層およびプラスチック基体を光から保護するための必須成分であり,これはサルチル酸系,ベンゾフェノン系,ベンゾトリアゾール系,シアノアクリレート系の公知のものとすればよいが,この配合量は前記したA)成分100重量部に対して10重量部以下では耐候性の改善効果がなく,100重量部以上とすると本発明における上記したA)?C)成分の混合物に相溶せず,プライマー層が白濁するので,10?100重量部の範囲とする必要がある。」(6ページ右上欄13行ないし左下欄3行) (カ) 「このようにして得られる本発明のプライマー組成物による硬化被膜を設けたプラスチックフィルム,基板などのプラスチック成形品は初期接着性,耐熱性,耐温水性,耐候性のすぐれたものとされるが,このものはこのプライマー被膜の上に公知のコロイダルシリカ,コロイダルチタニア,コロイダルアルミナなどの無機微粒子の1種または2種以上を含有するオルガノポリシロキサン組成物・・・(中略)・・・を5?70重量%添加したものを塗布し,50?140℃に加熱硬化させると,このプラスチック成形品はその表面に本発明のプライマー組成物が塗布されていることから,このプライマー被膜とオルガノポリシロキサンとの相乗作用によって,接着性,耐久性および耐摩耗性にすぐれたものになるという有利性が与えられるが,これは水またはアルコールに分散したコロイダルシリカを含有するオルガノポリシロキサンを使用すればより高い接着性が与えられる。」(7ページ右上欄1行ないし左下欄末行) (キ) 「(実施例) つぎに参考例,本発明の実施例および比較例をあげるが,例中の部,%は重量部,重量%を示したものであり,この例で得られた塗膜の性能評価は以下の方法による測定結果を示したものである。 ・・・(中略)・・・ 〔参考例1〕A)成分の合成 3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,酢酸ビニル,グリシジルメタクリレート,メチルメタクリレート,エチルアクリレートを第1表に示した配合量で混合した5種類の混合物100部に,アゾビスイソブチロニトリル0.5部を溶解し,これをジアセトンアルコール100部に80?90℃で窒素気流下に5時間かけて滴下してアルコキシシリル基含有共重合体液I?V(有効成分50%)を作った。 [参考例2〕C)成分の合成 2lのセパラブルフラスコに3-2’(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン222gとヘキサメチルジシラザン242gを仕込み,窒素気流下に120℃でこれに3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン496gを滴下し,続いて120℃で5時間加熱攪拌してシリル化されたアミノシランとエポキシシランの付加物を得た。 ついでこの反応生成物を30?50mmHg,100℃で減圧処理したところ,粘稠な化合物862gが得られたので,これにトルエン862gを仕込み,窒素気流下に室温で無水酢酸141gを滴下し,110℃で2時間加熱攪拌したのち,50℃でメタノール141gを滴下し,50℃で1時間加熱攪拌し,30?50mmHg,100℃で低沸点分を除去したところアミド化物が得られたので,これをエチルセロソルブで有効成分25%に調整してC)成分溶液とした。 〔参考例3〕コロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物の製造 1lのセパラブルフラスコにメチルトリエトキシシラン164gとイソブタノール46gを仕込み,氷冷下に攪拌しながら5℃以下でコロイダルシリカ・スノーテックス-O〔日産化学(株)製商品名,SiO_(2)含有率20%〕138gを添加し,5℃以下で2時間,さらに20?25℃で8時間攪拌したのち,エチルセロソルブ36g,2.4-ジヒドロキシベンゾフェノン1.8g,ポリエーテル変性シリコーン・KP-341[信越化学工業(株)製商品名10〕0.1g,プロピオン酸カリウム0.15gを加えたところ,コロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物が得られた。 実施例1?2,比較例1?3 前記した参考例1で得たA)成分溶液(合成液I?V)8.0部,B)成分としての平均分子量が15万のポリメチルメタクリレート2.0部,参考例2で得たC)成分溶液10部,D)成分としての2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール1.5部,エチルセロソルブ70部およびジアセトンアルコール8.5部を混合してプライマー組成物を作り,これをポリカーボネート板に浸漬法で塗布し,80℃で10分間加熱処理後,前記した参考例3で得たコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物を浸漬法で塗布し,風乾後120℃で2時間加熱し硬化させて試験片を作り,この塗膜の性能評価を行なったところ,第2表に示したとおりの結果が得られた。 」(7ページ右下欄1行ないし9ページ末行) イ 引用文献2に記載された技術的事項 前記ア(ア)ないし(キ)で摘記した記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 「ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂成形品を耐摩耗性,耐溶剤性にすぐれたものとするために,オルガノポリシロキサン系塗膜で被覆する場合,熱可塑性樹脂成形品に直接被覆すると,接着性,耐候性,耐久性が不充分なものとなってしまうが, A)前記オルガノポリシロキサン系塗膜との反応性を付与し,接着性を向上させるためのアルコキシシリル基を含有するアクリル系単量体である3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと,ポリカーボネートとの接着性を向上させるための酢酸ビニルと,前記熱可塑性樹脂成形品と前記オルガノポリシロキサン塗膜との接着性を向上させるグリシジル(メタ)アクリレートと,アルキル(メタ)アクリレートとの有機共重合体100重量部, B)接着性を低下させることなく,プライマー溶液を増粘させるための炭素数1?8のアルキルアクリレートおよび/またはアルキルメタクリレートの重合体もしくは共重合体10?100重量部, C)前記アルコキシシリル基を含有するアクリル系有機共重合体を架橋させる架橋剤として作用するとともに,紫外線吸収剤をプライマー樹脂中に接着性を損なうことなく固定化させる作用をもつ,アミノ官能性アルコキシシラン,エポキシ官能性アルコキシシランおよびシリル化剤との反応生成物をアミド化して得られたもの20?100重量部, D)プライマー層および前記熱可塑性樹脂成形品を光から保護し,耐候性を向上させるための紫外線吸収剤10?100重量部, を有機溶剤に溶解してなるプライマー組成物を,前記熱可塑性樹脂成形品に塗布し硬化させ,プライマー被膜を形成してから,無機微粒子を含有するオルガノポリシロキサン系塗膜で被覆すると, 接着性,耐久性および耐摩耗性にすぐれたものとすることができ,黄変することもなくなること。」(以下,「引用文献2記載の技術的事項」という。) 2 本願発明について (1)対比 ア 引用発明の「2枚の透明なプラスチック材料」,「フォトクロミック化合物を含有する熱硬化性ポリウレタン樹脂層」,「塗膜層」,「熱硬化性樹脂(B)」及び「フォトクロミックレンズ」は,本願発明の「2枚の光学シート又は光学フィルム(A2)」,「フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)」,「塗膜層(C)」,「合成樹脂層(B)」及び「フォトクロミックレンズ」にそれぞれ相当する。 イ 引用発明は,「フォトクロミック化合物を含有する熱硬化性ポリウレタン樹脂層」(本願発明の「フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)」に相当する。以下,「(1)対比」欄中の引用発明の構成に付したカッコ書きは,当該構成に相当する本願発明の発明特定事項を指す。)を,表面に塗膜層を設けた「2枚の透明なプラスチック材料」(2枚の光学シート又は光学フィルム(A2))で挟み込んだ積層体(A)を有しているところ,当該積層体(A)から塗膜層を除いた部分が,本願発明の「互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルム(A2)との間に,フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)を有するフォトクロミック積層体(A)」に相当する。 ウ 引用発明では,「2枚の透明なプラスチック材料」(2枚の光学シート又は光学フィルム(A2))の表面に「塗膜層」(塗膜層(C))が設けられているから,引用発明は,「少なくとも一方の前記光学シート又は光学フィルム(A2)上に形成される塗膜層(C)」を有するという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。 エ 引用発明の「熱硬化性樹脂(B)」は,積層体(A)上に積層されたものであり,当該積層体(A)の表面には「塗膜層」が設けられているのであるから,引用発明では,「塗膜層」(塗膜層(C))上に「熱硬化性樹脂(B)」(合成樹脂層(B))が形成されているといえる。 したがって,本願発明の「合成樹脂層(B)」と引用発明の「熱硬化性樹脂(B)」は,「塗膜層(C)上に形成される」点で一致する。 オ 前記アないしエから,本願発明と引用発明は, 「互いに対向する2枚の光学シート又は光学フィルム(A2)との間に,フォトクロミック化合物を含むポリウレタン樹脂層(A1)を有するフォトクロミック積層体(A)と,少なくとも一方の前記光学シート又は光学フィルム(A2)上に形成される塗膜層(C)と,前記塗膜層(C)上に形成される合成樹脂層(B)とを有するフォトクロミックレンズ。」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点: 本願発明では,「塗膜層(C)」の材質が, 「(メタ)アクリル基を有する重合性モノマー(ただし,ケイ素原子を含む重合性モノマーは除く)(C1),及び下記式(2) (式中, R4及びR5は,それぞれ,炭素数1?3のアルキル基であり, R6,及びR7は,それぞれ,炭素数1?10のアルキレン基,炭素数3?10のポリメチレン基,又はフェニレン基であり, Xは,(メタ)アクリル基と反応しうる基であり, dは0?2の整数であり, e,及びfは,それぞれ独立に0または1の整数であり, e=1の時,f=1である。) で示される(メタ)アクリル基と反応しうる基を有する加水分解性有機ケイ素化合物(C2)を含む硬化性組成物の硬化体」 であるのに対して, 引用発明では,「塗膜層」の材質が, 「アクリル系材料,ウレタン樹脂系材料,ポリエステル樹脂系材料,メラミン樹脂系材料,エポキシ樹脂系材料,シリコ-ン系材料の1種以上から選ばれた有機材料」 である点。 (2)判断 ア 前記1(2)イで認定した引用文献2記載の技術的事項における「プライマー組成物」は,有機共重合体であるA)成分を含有しており,当該A)成分は,「3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」と,「グリシジル(メタ)アクリレート」と,「アルキル(メタ)アクリレート」とを含む組成物を重合させたものであるところ,当該「プライマー組成物」を塗布し硬化させて形成した「プライマー被膜」の材質は,その分子構造中に,「3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」に対応する繰り返し単位と,「グリシジル(メタ)アクリレート」に対応する繰り返し単位と,「アルキル(メタ)アクリレート」に対応する繰り返し単位とを有する樹脂である。 しかるに,「3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」は,本願発明の式(2)において,d及びeを0とし,fを1とし,R4を炭素数1のアルキル基(すなわちメチル基)とし,R7を炭素数3のアルキレン基(すなわちプロピレン基)とし,Xを(メタ)アクリル基と反応しうるメタクリル基とした物質に他ならず,「グリシジル(メタ)アクリレート」及び「アルキル(メタ)アクリレート」は,どちらも,本願発明の「(メタ)アクリル基を有する重合性モノマー(ただし,ケイ素原子を含む重合性モノマーは除く)(C1)」に相当するから,引用文献2記載の技術的事項における「プライマー組成物」を塗布し硬化させて形成したプライマー被膜の材質は,相違点に係る本願発明の発明特定事項中の「硬化体」に該当する物質である。 イ しかしながら,引用文献2記載の技術的事項において,「A)ないしD)成分を含有するプライマー組成物」を用いてプライマー被膜を形成する理由は,ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂成形品にオルガノポリシロキサン系塗膜を直接被覆すると,接着性,耐候性,耐久性が不充分なものとなってしまうからであって,特に,A)成分中の「3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」は,オルガノポリシロキサン系塗膜との反応性を付与し,接着性を向上させるためにこれを用いているのである。 そして,引用文献2の記載からは,例え当業者といえども,引用文献2記載の技術的事項で用いている「A)ないしD)成分を含有するプライマー組成物」を硬化させたプライマー被膜が,オルガノポリシロキサン系以外の材質からなる塗膜においても,接着性,耐候性,耐久性を向上させることができると理解することはできない。 ウ これに対して,引用文献1には,引用発明の「塗膜層」が表面に形成される「2枚の透明なプラスチック材料」の好ましい材質として,ポリカ-ボネ-ト系樹脂が記載されている(【0014】を参照。)から,「2枚の透明なプラスチック材料」の材質は,引用文献2記載の技術的事項が前提とする「ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂成形品」の材質と合致するといえるが,引用発明の「塗膜層」上に形成する「熱硬化性樹脂(B)」については,これを形成する液状の重合性組成物の材質として,メチルメタアクリレート等のメタアクリレート類,アクリレート類,ジエチレングリコールビスアリルカーボネート,ジアリルフタレート等のアリル基を有するモノマー,臭素若しくは塩素で置換された各種のメタクリレート類,アクリレート類,アリル化合物,さらには,内部にウレタン結合をもつウレタンアクリル系重合組成物,イソシアネートとチオールとを組み合せたチオウレタン系重合組成物を例示した上で,チオウレタン系重合組成物が好ましいと記載されている(【0041】を参照。)のみであって,引用文献2記載の技術的事項が前提とする「オルガノポリシロキサン系塗膜」の材質に合致するような材質は記載も示唆もない。 エ そうすると,引用発明において,「塗膜層」の材質として,引用文献2記載の技術的事項の「A)ないしD)成分を含有するプライマー組成物」を硬化させたものを採用することには,何ら動機付けが存在しないといわざるを得ないから,引用発明の「塗膜層」の材質として,引用文献2記載の技術的事項の「A)ないしD)成分を含有するプライマー組成物」を硬化させたものを採用することによって,本願発明を想到することは,例え当業者といえども,容易であったとはいえない。 以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 請求項2ないし11に係る発明について (1) 引用文献1の記載(特に,【0025】の記載を参照。)から,引用発明とともに,引用発明を製造する方法についての発明をも把握することができるところ,本願の請求項6に係る発明と,当該製造方法についての発明とを対比すると,両者は,前記(2)エで認定した相違点で相違し,その余の点で一致する。 そして,本願発明と同様の理由で,本願の請求項6に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2) また,引用文献1の記載から,引用発明とともに,引用発明に用いる「積層体(A)」についての発明をも把握することができるところ,本願の請求項7に係る発明と,当該「積層体(A)」についての発明とを対比すると,両者は,前記(2)エで認定した相違点で相違し,その余の点で一致する。 そして,本願発明と同様の理由で,本願の請求項7に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) さらに,本願の請求項2ないし5,8ないし11に係る発明は,本願発明または本願の請求項7に係る発明を限定したものであるから,本願発明と同様の理由で,引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第5 むすび 以上のとおり,本願の請求項1ないし11に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,原査定の拒絶の理由によっては本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-05-17 |
出願番号 | 特願2011-99676(P2011-99676) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02C)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 薄井 義明 |
特許庁審判長 |
鉄 豊郎 |
特許庁審判官 |
清水 康司 樋口 信宏 |
発明の名称 | フォトクロミックレンズ、及びその製造方法 |