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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06N |
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管理番号 | 1314825 |
審判番号 | 不服2013-11499 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-02 |
確定日 | 2016-06-09 |
事件の表示 | 特願2010-251249「器用さ獲得装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月17日出願公開、特開2012- 94093〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯の概要 本件審判請求に係る出願(以下「本願」と記す。)は 平成22年10月22日付けの出願であって、 平成22年11月25日付けで審査請求がなされ、 平成24年12月6日付けで拒絶理由通知(平成24年12月18日発送)がなされ、 平成25年1月31日付け(平成25年2月1日特許庁受付)で意見書が提出され、 平成25年3月18日付けで拒絶査定(平成25年3月26日謄本発送)がなされたものである。 本件審判請求は、「原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」との趣旨で、 平成25年6月2日付け(平成25年6月3日特許庁受付)でなされたものである。 2.本願発明の認定 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」と記す。)は、明細書及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次の事項によって特定されるものと認める。 <本願発明> 「本発明は、処理するデータ全てに快・不快指標値を付与して、デジタルデータ化してなり、処理要求(目的)を満たす学習データには、より大きい(高い、上位)快指標値を付与し直して、整理・統合した後、データ保存(記憶)してなり、最も大きい快指標値を持つデータを選択的に使用して、出力装置に指令を出す自律型学習システム、で動作することを特徴とする、器用さ獲得装置。」 3.先行技術 本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、上記平成24年12月6日付けの拒絶理由通知において引用された、下記引用文献には、それぞれ、下記引用文献記載事項が記載されている。(下線は当審付与。) <引用文献1> 特開2009-230169号公報(平成21年10月8日出願公開) <引用文献記載事項1-1> 「【0001】 この発明は、提示された前提条件の下で、最適な操作パラメータセットを決定するパラメータ決定支援装置に関するものである。」 <引用文献記載事項1-2> 「【0013】 図3は対象装置の模擬器から結果評価を収集して事例レコードを生成する場合のパラメータ決定支援装置の部分構成例を示す説明図である。 図において、環境設定部11は対象装置の模擬器である模擬部13に対して、任意の前提条件として、環境情報属性(模擬部13が動作する前の周囲の状況や、模擬部13自身の状況を記述している情報であり、実際に計測が可能な情報が該当する)を設定する処理を実施する。 操作パラメータ設定部12は対象装置の模擬器である模擬部13に対して、任意の操作パラメータセットを設定して、模擬部13の動作開始を指示する処理を実施する。 なお、環境設定部11及び操作パラメータ設定部12から模擬器起動手段が構成されている。 【0014】 模擬部13は環境設定部11により設定された前提条件の下で、操作パラメータ設定部12により設定された操作パラメータセットに対応する動作を開始する対象装置の模擬器である。 結果評価部14は模擬部13が動作を開始した後の模擬部13の周囲の状態、あるいは、その状態を時間内で集計したものを評価し、その結果評価と、環境設定部11により設定された前提条件と、操作パラメータ設定部12により設定された操作パラメータセットとを含む事例レコード(図2(a)を参照)を生成して、その事例レコードを図1の事例蓄積部1に出力する処理を実施する。なお、結果評価部14は事例レコード生成手段を構成している。」 <引用文献記載事項1-3> 「【0016】 図4は対象装置(実器)から結果評価を収集して事例レコードを生成する場合のパラメータ決定支援装置の部分構成例を示す説明図である。 図において、環境計測部21は対象装置である機能部23が動作を開始する前の機能部23の周囲の状況を示す環境情報を計測する処理を実施する。 操作パラメータ設定部22は機能部23に対して、任意の操作パラメータセットを設定するとともに、環境計測部21により計測された環境情報を前提条件として設定し、機能部23の動作開始を指示する処理を実施する。 なお、環境計測部21及び操作パラメータ設定部22から対象装置起動手段が構成されている。 【0017】 機能部23は操作パラメータ設定部22により設定された前提条件の下で、操作パラメータ設定部22により設定された操作パラメータセットに対応する動作を開始する対象装置である。 結果計測部24は機能部23が動作を開始した後の機能部23の周囲の状態、あるいは、その状態を時間内で集計したものを計測する処理を実施する。 結果評価部25は結果計測部24の計測結果を評価し、その結果評価と、操作パラメータ設定部22により設定された前提条件及び操作パラメータセットとを含む事例レコード(図2(b)を参照)を生成して、その事例レコードを図1の事例蓄積部1に出力する処理を実施する。 結果計測部24及び結果評価部25から事例レコード生成手段が構成されている。」 <引用文献記載事項1-4> 「【0021】 前提条件空間構築部2は、ユーザから結果評価の選択指示や、閾値の指示を受け付けると、事例蓄積部1に記録されている複数の事例レコードの中から、選択対象の結果評価を収集する(ステップST2)。 ただし、ユーザの指示を受け付けないように設定することが可能であり、ユーザの指示を受け付けない場合、あるいは、ユーザの指示がない場合には、事例蓄積部1から全ての結果評価を収集するようにする。 このような場合、閾値については、収集した結果評価の属性の統計量から決定するようにする。例えば、全結果評価の属性の平均値や中央値を閾値に決定する。 なお、結果評価の属性が有限個の値からなる場合には、全体で一つの閾値ではなく、個々の結果評価毎に、一つの閾値を決定するようにしてもよい。」 <引用文献記載事項1-5> 「【0033】 推奨パラメータ提示部4は、上記のようにして、事例コードを選択すると、ユーザから結果評価の属性群に対する重み付けベクトルの指示を受け付けるようにする。 推奨パラメータ提示部4は、選択した各事例コードに含まれている結果評価の属性と重み付けベクトルとの内積を一元化結果評価値として算出し、その一元化結果評価値を当該事例レコードに付加する(ステップST12)。 ただし、重み付けベクトルの指示をユーザから受け付けないように設定することが可能であり、ユーザの指示を受け付けない場合、あるいは、ユーザの指示がない場合には、デフォルト値を予め設定して、例えば、全ての重みを“1”として、一元化結果評価値を算出するようにしてもよい。」 <引用文献記載事項1-6> 「【0035】 推奨パラメータ提示部4は、ユーザから選択数の指示を受け付けると、一元化結果評価値が高い順に、その選択数分の事例レコードを選択し、その事例レコードに含まれている操作パラメータセットを推奨操作パラメータセットとしてユーザに提示する(ステップST13)。 例えば、選択数が“1”であれば、一元化結果評価値が最も高い事例レコードx2が選択され、選択数が“2”であれば、一元化結果評価値が最も高い事例レコードx2と、事例レコードx1が選択される。 なお、選択数の指示をユーザから受け付けないように設定することが可能であり、ユーザの指示を受け付けない場合、あるいは、ユーザの指示がない場合には、デフォルトの選択数(例えば、記録されている事例レコードの半数)を予め設定するようにしてもよい。」 <引用文献記載事項1-7> 「【0038】 ここでは、推奨パラメータ提示部4の処理内容が図7?8で示されているものについて示したが、図9で示されているものであってもよい。 即ち、推奨パラメータ提示部4は、ユーザから結果評価の属性群及び類似度に対する重み付けベクトルの指示を受け付けると、事例蓄積部1に記録されている事例レコードx1,x2,x3毎に、当該事例レコードに含まれている結果評価の属性と、上記類似度と、上記重み付けベクトルとの内積を一元化結果評価値として算出し、その一元化結果評価値を当該事例レコードに付加する(ステップST31)。 推奨パラメータ提示部4は、ユーザから選択数の指示を受け付けると、図7のステップST13の処理と同様に、一元化結果評価値が高い順に、その選択数分の事例レコードを選択し、その事例レコードに含まれている操作パラメータセットを推奨操作パラメータセットとしてユーザに提示する(ステップST32)。」 <引用文献2> 頼光正典,「ロボット行動学習への事例ベースの適用」,情報処理学会研究報告 Vol.2000 No.66 IPSJ SIG Notes,社団法人情報処理学会,2000年7月19日,第2000巻,p.85-90」 <引用文献記載事項2-1> 「あらまし 本論文は、リアルタイム環境下での学習に事例べースを適用する方法について論じている。ロボットの行動学習は、行動主義的な人工知能の典型的な問題であり、強化学習、GAや帰納推論などを利用した学習方法が適用されている。一方、事例べース推論は、獲得・経験した事例を多くの処理を必要とせず蓄積・適用が可能である点からリアルタイムに適した行動学習の方法である。学習内容では事前に知識を準備している強化学習には劣るが、事例べースの利用には、事前知識なしで行動の事例を簡単に獲得できる利点がある。本研究では、「事例の一般化度合い」、「事例の問題カバー度合い」と「事例の個数」の観点からロボットの行動学習への適用方法について論じる。また、評価には、ロボカップのシミュレーションリーグのプラットフォームを利用している。」 <引用文献記載事項2-2> 「1. はじめに ロボットの用途は、従来の産業分野だけでなく、AIBO[1]に見られるようなエンタテイメント分野などにも広がっている。利用される局面が広がるに従って、その利用方法は多種多様である。つまり、予めその利用環境を詳細に見極めることは非常に難しいと言える。このような状況への対応として、ロボットの行動学習に対する研究が進められている。一方、人工知能の研究スタイルの1つとして、従来の「記号処理的AI」のように知識を記号を利用して、明確な形で表現する表象主義的なAIから、環境とは独立した身体を持つエージェントを考え、環境からエージェントへの刺激と反射行動から知的な行動を獲得する「行動主義的AI」が独立した方法として確立した[2]。このパラダイムでは、多様な環境情報とエージェントの内部状態(過去の環境情報や行動履歴を含む)の条件と、ロボットの実行可能な行動を結びつけることにより、行動知識を獲得する。行動学習の方法として、種々の条件下での行動が適切な場合に、報酬を与えることで、その行動を強化する(環境に適したと判断し、利用しやすくする)強化学習[3]がもっとも有効な方法として利用されている。強化学習では、学習対象の知識(ルール)を予め準備し、そのルールへの報酬と、行動系列(ルールの実行系列)への報酬により、学習対象のルールの利用に関する知識(ルールの優先順位やルール系列)が獲得される。非常に簡便な方法であり、ロボット(エージェント)の行動に対して、適切な報酬を与えることで学習が進められる。報酬は即座に、知識の利用に反映されるため、リアルタイムの学習に適している。また、有限の知識を準備しているので、行動の推論に対する計算量も予め制限できる。ただ、学習に利用する事前知識を準備しなくてはならない。 強化学習の他に、利用される学習方法には、GA(遺伝的アルゴリズム)[4]がある。GAは、単純な遺伝子操作(交差、突然変異など)と、その遺伝子の発現状態(ここでは、ロボットの行動)の環境適合度による選択(適者生存)により、行動を学習する方法である。進化の過程が進むに従って、行動の優れたロボット(エージェント)が生まれてくる。この学習は、遺伝子の能力が高水準に収束するまで、多くの遺伝子の能力を調べるのに多くの計算量が必要である。計算量の関係からリアルタイムの学習には向かないため、学習過程はオフライン(ロボットの行動外)で行われる。 本研究では、ロボットの行動学習に、リアルタイムで知識を獲得でき、事前知識を必要とせず、また、有限の知識で行動でき、より良い行動を残していく方法として、行動学習に利用できる事例べース推論[5]を活用した学習方式を提案する。」 <引用文献記載事項2-3> 「2.2 リアルタイム性を持つ事例べース 事例べース推論をリアルタイムでの行動学習に利用するために、下記の機能を持つ枠組みを検討した。 (1) 事例の個数の制限 (2) 修正不要な事例表現 (3) 単純な評価(報酬基準)を適用できる事例獲得系 事例の個数を制限するには、「事例べースの事例個数を制限」「制限個数内で、より良い事例との入れ替え」「不要事例の消去機能」「事例の適用範囲の動的変更」による対応が考えられる。修正不要な事例表現を実現するにはロボットの行動の単純化と行動パラメータ学習の分離(有効なパラメータ値を1つだけ利用する)することで、できるだけ変更することなしに事例を利用できるようにすることが考えられる。事例を蓄積すべきかどうかを判断するための事例評価方法を考えた場合に、事例の単純化とその評価も単純化しなければならない。ロボットの行動学習において、ロボットの行動系を細かな部分機能に分解し、各機能がどのような条件で起動されるかを表現することで、その行動規則を単純化することが考えられる。」 <引用文献記載事項2-4> 「3.6 事例の消去 蓄積された事例の数は、事例検索と選択の時間に影響する(正の相関を持つ)。その為、あまり有効でない事例は、消去されるべきである。本システムでは、その事例を適用したが、ロボットの行動評価が悪い場合(効果が有効でない場合)には、その事例が消去されるようにしている。事例に対して、その行動評価により、正負の評価点を与え、その累積和がある値以下になると事例は消去される。」 4.引用発明の認定 (1)引用文献1は上記引用文献記載事項1-1のとおり「提示された前提条件の下で、最適な操作パラメータセットを決定するパラメータ決定支援装置」を説明する文献である。 (2)上記引用文献記載事項1-2、1-3等から、前記「パラメータ決定支援装置」は「任意の前提条件及び操作パラメータセットを対象装置の模擬器に設定して、該模擬器を動作させる、あるいは、任意の操作パラメータセットを対象装置に設定して、該対象装置を動作させることで、操作パラメータセット及び結果評価を含む事例レコードを生成して事例レコード記録手段に出力」するものであると言える。 (3)上記引用文献記載事項1-4等記載の如く前記「パラメータ決定支援装置」においては「事例蓄積部1に記録されている複数の事例レコードの中から、選択対象の結果評価を収集する」ことがなされるところ、該引用文献記載事項1-4には「ユーザの指示がない場合には、事例蓄積部1から全ての結果評価を収集するようにする」ことが記載されている。 したがって、前記「パラメータ決定支援装置」において「該事例レコード記録手段に記録されている全ての事例レコードが選択され」る態様が記載されていると言える。 (4)上記引用文献記載事項1-5等から、前記「パラメータ決定支援装置」は「該選択された各事例レコードに含まれている結果評価の属性と重み付けベクトルとの内積を一元化結果評価値として算出し、その一元化結果評価値を当該事例レコードに付加」するものであると言える。 (5)上記引用文献記載事項1-6等から、前記「パラメータ決定支援装置」において「一元化結果評価値が最も高い事例レコードを選択してその事例レコードに含まれている操作パラメータセットを推奨操作パラメータセットとする」態様も読み取ることができる。 (6)よって、引用文献1には、下記の事項により特定される発明(以下「引用発明」と記す。)が記載されていると認められる。 <引用発明> 「提示された前提条件の下で、最適な操作パラメータセットを決定するパラメータ決定支援装置であって 任意の前提条件及び操作パラメータセットを対象装置の模擬器に設定して、該模擬器を動作させる、あるいは、任意の操作パラメータセットを対象装置に設定して、該対象装置を動作させることで、操作パラメータセット及び結果評価を含む事例レコードを生成して事例レコード記録手段に出力し、 該事例レコード記録手段に記録されている全ての事例レコードが選択され、 該選択された各事例レコードに含まれている結果評価の属性と重み付けベクトルとの内積を一元化結果評価値として算出し、その一元化結果評価値を当該事例レコードに付加し、 一元化結果評価値が最も高い事例レコードを選択してその事例レコードに含まれている操作パラメータセットを推奨操作パラメータセットとする パラメータ決定支援装置。」 5.対比 以下に、本願発明と引用発明とを比較する。 (1)引用発明は「パラメータ決定支援装置」であるところ、当該「パラメータ」は「任意の前提条件及び操作パラメータセットを対象装置の模擬器に設定して、該模擬器を動作させる、あるいは、任意の操作パラメータセットを対象装置に設定して、該対象装置を動作させること」で得られる情報を基に「推奨操作パラメータセット」を決定することで得られるものであり、これは本願発明における「器用さ」の「獲得」に相当すると解し得るものである。 したがって、引用発明と本願発明とは「器用さ獲得装置」と言えるものである点で共通すると言える。 なお、「器用さ獲得」との用語の技術的な定義は必ずしも明確なものではなく、ロボットなどにおける行動学習を意味するものとも解することもできるところ、行動学習は当業者にとっては周知慣用の技術思想であるから、仮にこのような解釈をしても本審決の結論に影響するものではない。 (2)引用発明における「一元化結果評価値」は、本願発明における「快・不快指標値」に対応付けられるものであるところ、引用発明においては「一元化結果評価値が最も高い事例レコードを選択してその事例レコードに含まれている操作パラメータセットを推奨操作パラメータセットとする」ものである点、及び、本願発明の詳細な説明の段落【0012】の「本発明は人工的に器用さ獲得機能を可能とするため、各データについて、目的達成できる度がどの程度かを、個別データ毎に持たせることを特徴とする。目標達成できる指標について、快と定義し、前記快指標は指標値を設けてなり、目的達成できる度を階層化してなる。前記指標値を比較判定出来るように設けてなる。前記快指標とは逆の、目的達成出来ない度は、不快と定義する。」との記載等から見て、引用発明における「一元化結果評価値」も「快・不快指標値」と言えるものである。 引用発明においては「選択された各事例レコード」に「一元化結果評価値」が付与されるところ、この「選択された各事例レコード」は「事例レコード記録手段に記録されている全ての事例レコード」であるから、「処理するデータ全て」と言えるものである。 したがって、引用発明と本願発明とは「処理するデータ全てに快・不快指標値を付与」する点で共通すると言える。 (3)引用発明における「選択された各事例レコード」が「デジタルデータ化」されていることは自明であり、また、引用発明における「推奨操作パラメータセット」は「一元化結果評価値が最も高い事例レコード」「に含まれている操作パラメータセット」なのであるから、引用発明においても「処理要求(目的)を満たすデータには、より大きい(高い、上位)快指標値」が付与されていると言える。 そして、引用発明においては「事例レコード」は「事例レコード記録手段に記録されている」ものであり、「一元化結果評価値」を「事例レコードに付加」することは、「一元化結果評価値」が付加された「事例レコード」を「事例レコード記録手段」などの記憶手段に「データ保存(記憶)」することにほかならない。 したがって、引用発明と本願発明とは「デジタルデータ化してなり、処理要求(目的)を満たすデータには、より大きい(高い、上位)快指標値を付与して、データ保存(記憶)してな」るものである点で共通する。 (4)引用発明は「一元化結果評価値が最も高い事例レコードを選択してその事例レコードに含まれている操作パラメータセットを推奨操作パラメータセットとする」ものであり、これが何らかの出力装置に出力されることは明らかである。 したがって、引用発明と本願発明とは「最も大きい快指標値を持つデータを選択的に使用して、出力装置に指令を出すシステム、で動作する」点で共通すると言える。 (5)よって、本願発明は、下記一致点で引用発明と一致し、下記相違点を有する点で引用発明と相違する。 <一致点> 「処理するデータ全てに快・不快指標値を付与して、デジタルデータ化してなり、処理要求(目的)を満たすデータには、より大きい(高い、上位)快指標値を付与して、データ保存(記憶)してなり、最も大きい快指標値を持つデータを選択的に使用して、出力装置に指令を出すシステム、で動作する器用さ獲得装置。」 <相違点1> 本願発明は「自律型学習」システムで動作するものであり、その快指標値は付与し「直し」がされるものであり、これが付与されるデータは「学習」データである。 (これに対し、引用文献1には「自律型学習」を行う旨の直接的な言及や、「一元化結果評価値」の付与し「直し」や「学習」を行うことについての直接的な言及はなされていない。) <相違点2> 本願発明は、データを「整理・統合した後」にデータ保存(記憶)している。 (これに対し、引用文献1には、一元化結果評価値を付与する前に類似度に基づく事例レコードの選択をするものが開示されてはいるもの、一元化結果評価値が付与された事例レコードを「整理・統合した後」にデータ保存する旨の記載はない。) 6.判断 以下に、上記相違点について検討する。 (1)相違点1について ロボット等の機械に、リアルタイムに学習しながら行動する能力を持たせようとする試みは、古くより周知のものであり、そのために引用発明と同様に事例に基づいて有効なパラメータを決定する推論の適用が試みられていたことは、当業者であれば当然に心得る技術常識である(必要があれば引用文献記載事項2-1、2-2等参照)。 そして、引用発明における「操作パラメータセット」は「模擬器」や「対象装置」に「設定」されるパラメータであるから、「推奨操作パラメータセット」も当然に「模擬器」や「対象装置」に「設定」することが予定されているものであることは明らかである。 してみると、引用発明における「模擬器」や「対象装置」への「推奨操作パラメータセット」の設定などを「自律」的に行われるようにし、これによる「学習」がなされるように構成することで、リアルタイムに学習しながら行動する能力を持たせようとすることは、当業者の技術常識をもってすれば、当然に想到される事項にほかならない。 そして、その際に「一元化結果評価値」が付与し「直し」がなされるものとなり、「事例レコード」が「学習」データと言えるものとなることは必然的に採用される事項にすぎない。 したがって、引用発明を「自律型学習」システムで動作するものとし、快指標値を付与し「直し」されるものとし、さらに、これが付与されるデータを「学習」データとすること、すなわち、上記相違点1に係る事項を備えたものとすることは、引用文献1に接した当業者であれば、当然の如く想到する事項にすぎないものである。 (2)相違点2について ロボットの行動学習などにおいては不必要な事例を消去して単純化することなどが必要に応じて適宜採用されている(必要があれば引用文献記載事項2-3、2-4等参照)。してみれば、引用発明においても「事例レコード」を消去等して「整理・統合した後」にデータ保存すること、すなわち上記相違点2に係る事項を採用することも、当業者であれば適宜に採用し得たことである。 (3)したがって、本願発明の構成は引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。 そして「人間が持つ特徴の一つである器用さ、と同様の機能を得ることができる、器用さ獲得装置を提供する」との本願発明の課題は、引用発明あるいは引用文献2記載の技術などによって解決済みのものである。 また、「高度な工夫を必要とする処理において、作業時間短縮を実現できる。繰り返しの作業でも、総作業時間を短縮することができ、結果として、産業生産性を高めることが出来る。」「1回の学習動作で器用さが改善し、さらに何回かの学習動作でさらに器用さが改善する。前記改善された動作を記憶しておくことで、長い間練習しなくても上手に動作を遂行出来る。このようにして、器用さを獲得できる。」「脳損傷者の動作を補助する装置への活用も期待できる。」等の本願発明の効果も、当業者であれば引用発明や引用文献2記載のものの作用効果などから容易に予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。 よって、本願発明は、上記引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 7.請求人の主張等について (1)なお、請求人は、審判請求書において、拒絶査定には、そもそも理由がない、つまり、方式的「理由」項がないことをもって、特許法第52条違反がある旨主張する。 (2)しかしながら、特許法第52条は、「査定は、文書をもって行い、かつ、理由を付さなければならない。」と規定するところ、査定には理由が付されていれば足り、「理由」という項目が記載されなければならないものではない。 したがって、原査定に理由の項目の記載がないことをもって、原査定に特許法第52条違反があるとすることはできない。 (3)そして、原査定には、冒頭部分に、 「この出願については、平成24年12月 6日付け拒絶理由通知書に記載した理由A(特許法第29条第2項)によって、拒絶をすべきものです。 なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」とあり、さらに、平成24年12月6日付け拒絶理由通知書には、「理由」の項目の下に、「A.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」とあるから、原査定には、本願を拒絶すべき理由が付されていることは明らかである。 また、平成24年12月6日付け拒絶理由通知書においては、さらに 『・理由A ・引用文献一覧 1.特開2009-230169号公報 2.頼光 正典,ロボット行動学習への事例ベースの適用,情報処理学会研究報告 Vol.2000 No.66 IPSJ SIG Notes,社団法人情報処理学会,2000年 7月19日,第2000巻,pp.85-90 (注)法律又は契約等の制限により、提示した非特許文献の一部又は全てが送付されない場合があります。 ・請求項1 ・引用文献1-2 引用文献1には、 事例レコードに一元化結果評価値を付加して、記憶し、(段落【0034】等参照) 一元化結果評価値が最も高い事例レコードの操作パラメータセットを使用して、(段落【0035】-【0036】等参照) 対象装置の動作内容を設定して、動作開始を指示する発明(段落【0008】、【0013】等参照) が記載されています。 引用文献1に記載の発明の「一元化結果評価値」は、段落【0035】を参照し、その値が高い操作パラメータセットが先に表示され、また、値が高い方から選択数分の操作パラメータセットしか表示されないことを考慮すれば、より望ましい操作パラメータに対してはより高い値となると認められます。 よって、引用文献1に記載の発明の「一元化結果評価値」は、請求項1に係る発明の「快・不快指標値」に相当します。 請求項1に係る発明と引用文献1に記載の発明とを対比すると、請求項1に係る発明は、整理・統合した後、データ保存するのに対して、引用文献1に記載の発明は、整理・統合を行わずに、事例レコードを記憶している点、で相違します。 しかし、引用文献2の「3.6 事例の消去」等には、事例を記憶する前に、事例を消去、つまり、「整理・統合」する発明が記載されています。そして、引用文献1に記載の発明と引用文献2に記載の発明は、共に事例に基づく操作の決定という共通の技術分野に属するので、引用文献1に記載の発明に引用文献2に記載の発明を適用し、引用文献1に記載の発明を、事例レコードを消去(整理・統合)した後に、事例レコードを記憶するように構成することは、当業者が容易に為し得たことです。 よって、請求項1に係る発明は、引用文献1-2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものです。』 と記載され、原査定の「備考」中には 『出願人は、平成25年2月1日付け意見書において、引用文献1に記載の装置は複数の事例レコードと推奨前提条件の類似度を座標を用いて算出し、その類似度を用いて、推奨の操作パラメータセットを決定するとしたもので、本願発明の最も大きい快指標値を持つデータを選択的に使用する装置とは異なりますと主張しています。 しかしながら、引用文献1の段落【0033】には、一元化結果評価値を結果評価の属性から算出することが記載され、段落【0012】には、結果評価の属性として単位時間当たりの見つけた数や、対象当たりの見続けられた平均時間が例として挙げられることが記載され、段落【0011】には、センサシステムにおいて、数多く見つけるモードと、見つけたものを見失わないようにするモードを切り換えられることが記載されています。 ユーザが数多く見つけるモード/見つけたものを見失わないようにするモードを選択するということは、ユーザにとって数多く見つけられること/見つけたものを見失わないことが望ましく、快いと感じているということを表しています。よって、数多く見つけるモードにおいては、単位時間当たりの見つけた数が、見つけたものを見失わないようにするモードにおいては、対象当たりの見続けられた平均時間が、望ましさ(快さ)を示す指標値であると言えます。同様に、単位時間当たりの見つけた数/対象当たりの見続けられた平均時間が例として挙げられた結果評価の属性に基づいて算出される一元化結果評価値も、望ましさ(快さ)を示す指標値であると言えますので、本願発明の「快・不快指標値」に相当します。 また、引用文献1の段落【0035】には、最も高い一元化結果評価値の事例レコードを選択することが記載されています。 また、出願人は、引用文献1には、本願発明の様な処理するデータ全てに快・不快指標値を付与する言及はありませんと主張しています。 しかしながら、引用文献1の段落【0033】,第7図を参照すれば、(事例レコードに含まれている)操作パラメータセットに一元化結果評価値を付加する処理は、分岐によってスキップされることはなく、必ず行われる処理ですし、また、段落【0035】を参照すれば、一元化結果評価値は操作パラメータセットを選択するのに必須の値であることは明らかですので、引用文献1に記載の発明の一元化結果評価値は、引用文献1に記載の発明の処理するデータである全ての操作パラメータセットに付与されています。 よって、請求項1に係る発明は、引用文献1-2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものです。』 と記載されており、本願を拒絶すべき理由の具体的内容も示されている。 (4)以上によれば、原査定には、本願を拒絶すべき理由が付されており、その具体的内容も示されているということができる。 したがって、請求人の上記主張を認めることはできない。 (5)また、請求人は、審判請求書において、本願の要旨の解釈の誤り、本願の顕著な作用効果の看過、相違点に関する判断の誤り等も縷々主張しているが、上記1.?6.で論じたとおりであるから、請求人のこれらの主張を根拠に、原審拒絶査定を取り消すことはできない。 8.むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願を拒絶すべきものとした原審の拒絶査定に誤りはない。 よって、上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-12-24 |
結審通知日 | 2015-01-06 |
審決日 | 2015-01-26 |
出願番号 | 特願2010-251249(P2010-251249) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 塚田 肇 |
特許庁審判長 |
石井 茂和 |
特許庁審判官 |
木村 貴俊 山崎 達也 |
発明の名称 | 器用さ獲得装置 |