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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1314898
審判番号 不服2015-8357  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-07 
確定日 2016-06-07 
事件の表示 特願2010-516085「有機発光ダイオードディスプレイ装置のための光抽出フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月22日国際公開,WO2009/011961,平成22年10月28日国内公表,特表2010-533932,請求項の数(3)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,2008年5月9日(優先権 2007年7月13日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成23年 4月21日:手続補正書
平成24年 7月 5日:拒絶理由通知(同年同月10日発送)
平成24年10月 5日:意見書
平成24年10月 5日:手続補正書
平成25年 6月18日:拒絶理由通知(同年同月25日発送)
平成25年 9月10日:意見書
平成25年 9月10日:手続補正書
平成26年 5月14日:拒絶理由通知(最後)(同年同月20日発送)
平成26年10月16日:意見書
平成26年12月24日:拒絶査定(平成27年1月6日送達)
平成27年 5月 7日:審判請求

第2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は,平成25年9月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。

「【請求項1】
光を出力する表面を有する有機発光ダイオード(OLED)装置に用いる光抽出フィルムであって:
- 前記OLED装置から放射される光に対して実質的に透過性である可撓性基板と;
- 前記基板上に配置され,第1の屈折率を有する,抽出要素の構造化層であって,
前記抽出要素が,前記構造化層における前記基板とは反対側の面のナノ構造化表面を含むものであり,
前記ナノ構造化表面が,前記構造化層中における,粒子に基づかない形状を含むものである,前記抽出要素の構造化層と;
- 前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する材料を含む,充填材層であって,
前記充填材層は,該充填剤層のナノ構造化表面側とは反対の側に平坦面を形成して,前記ナノ構造化表面上に平坦化層を形成するものであり,
前記充填材層の平坦面が前記OLED装置の光出力表面に対向配置された場合に,前記抽出要素の実質的部分が前記OLED装置の光出力表面のエバネッセント区域内にあり,そして,
前記充填材層の平坦面が前記OLED装置の光出力表面に対向配置された場合に,前記構造化層と充填材層とが,前記光出力表面からの光の抽出を少なくとも部分的に促進するように前記OLED装置の光出力表面に十分に近接している,前記充填剤層と;
- 前記充填材層の平坦面上に配置された光結合層であって,前記OLED装置の光出力表面と前記充填材層との間に光学的結合をもたらす接着剤を含む,光結合層と;
を含み,
前記充填材層は,散乱を起こさないナノ粒子を充填したポリマー材料を含むものである,
光抽出フィルム。
【請求項2】
前記粒子に基づかない形状が、前記構造化層におけるナノスケールのパターンを含むものである、請求項1記載の光抽出フィルム。
【請求項3】
前記粒子に基づかない形状が、前記構造化層におけるホールのパターンを含む、請求項1記載の光抽出フィルム。」(以下,本願の請求項1に係る発明を「本願発明1」,本願の請求項2に係る発明を「本願発明2」,本願の請求項3に係る発明を「本願発明3」といい,これらをまとめて「本願発明」という。)

第3 原査定の理由の概要
本願発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:国際公開第2006/080299号
刊行物2:特開2006-100140号公報
刊行物3:特開2006-190573号公報(周知例)
刊行物4:特開2006-100042号公報(周知例)

第4 当審の判断
1 刊行物1の記載事項
刊行物1には,図とともに次の事項が記載されている。

(1) 「技術分野
[0001] 本発明は光機能性膜およびその製造方法に関する。本発明の光機能性膜は光を発する発光素子と組み合せて取り扱われる。
背景技術
[0002] 従来,フラットパネルディスプレイとしては,光源と組み合せて透過率変調を行う液晶ディスプレイが主流であった。しかし,液晶自体の応答速度の問題により,動画表示用途のディスプレイとしては,性能的に制約があった。一方,液晶ディスプレイと性能面や価格面で競合させるベぐ様々な自発光型ディスプレイが開発されている。液晶ディスプレイと競合できる性能や価格のディスプレイとして現状で注目されているのが,有機EL(Electro Luminescence;電界発光)ディスプレイである。

・・・(中略)・・・

[0005] 有機ELディスプレイは,光の取出し方の違いから,基板側から光を取り出すボトムエミッション型構造と,基板の反対側から光を取り出すトップエミッション型構造とに分類される。ボトムエミッション型構造は,2つの電極のうちの少なくとも基板側の電極が透明電極であり,他方の電極が光反射性であるか,あるいはその電極の外側に光反射層が形成された構造を有する。これに対して,トップェミッション型構造は,透明電極と光反射層の位置が逆転しており,基板側に反射層が形成された構造を有する。[0006] 通常,発光層中の蛍光体力も放射された光は,蛍光体を中心として全方位に出射されるので,表示面の反対側に出射された光は,その光路上に設けられた反射板(典型的には反射電極)により鏡面反転させて,全方位に出射された光を表示面の方向に取り出せるようにしている。その過程で,光は,陰極,正孔輸送層,電子輸送層,陽極,ブロッキング層,ガラス基板などの複数の異なった機能を有する層(以下,「媒質」ともいう。)を経由して空気中へ放射される。
[0007] ここで,異なる媒質の境界面における,光の屈折角と媒質の屈折率との関係は,スネルの法則に従う。スネルの法則によると,屈折率n1の媒質から屈折率n2の媒質へ光が進行する場合,入射角θ1と屈折角θ2の間に,n1×sinθ1=n2×sinθ2なる関係が成り立つ。n1>n2が成り立つ場合,θ2=90°となる入射角θ1=sin^(-1)(n2/n1)は臨界角としてよく知られている。入射角が臨界角よりも大きい場合,光は媒質間の境界面において全反射されることとなる。
[0008] したがって,等方的に光が放射される有機EL素子において,この臨界角よりも大きな角度で界面に入射する光は,境界面において全反射し,隣接する層に光が入射できなくなる。隣接する層に入射できない光は,その層内で全反射を繰り返し,閉じ込められた状態になる。
[0009] このことは,発光層で放射される光のうち,素子内部の複数の層を透過する過程で素子外部へ出射されずに閉じ込められる光が存在し,見かけ上の発光効率の低下原因となることを意味する。一般に,有機EL素子の発光層で得られる放射光は,大部分が全反射によって素子内部に閉じ込められ,有効な放射光として利用されるのは,全体の17%から20%程度であることが知られている〔Advanced Material 6(1994)491等を参照〕。

・・・(中略)・・・

[0012] また,有機EL素子では,素子の構成や使用する有機材料,電極構成等に起因する様々な制約があり,電界発光の量子効率には限界がある。現状の有機EL素子では,発光層での輝度を高めるために,有機EL層に流入させる電流の密度を大きくする必要がある。しかし,電流密度を大きくすると,有機EL層の劣化が早まり,輝度が経時的に急激に低下する。したがって,表示の明るさ優先すると素子の寿命が短くなるという問題があり,実際に電流密度を上げて輝度を上げることができない。
[0013] さらに,実際の自発光素子においては,光を発する層から放射されたすベての光を利用できていないのも現実である。これは,屈折率が1以上の媒体から光が発生し,屈折率が高い層から低い層へと光が入射する場合に,ある角度以上の入射光成分は,臨界角を超えるので,界面で全反射され,界面を透過し,隣接する層に入射できないという現象があるからである。
[0014] 有機ELを一例として説明すると,発光層,透明電極層,素子基板といった素子を構成する個々の層の屈折率がいずれも1.5以上と高いので,発光層内部で発生し,空間的に全方位に放射される光が,素子を構成する層の様々な界面のうち屈折率に0.1以上の差がある界面(特に,駆動用電極と素子基板との界面や素子基板と空気との界面)で全反射され,導波成分として取り出すことができない。この現象は,発光する部位の屈折率が1.5以上の層である無機ELや半導体デバイス,あるいは基板上に形成され,屈折率が1以上の蛍光色素等を用いて,素子内部で発生する近紫外光や紫外光を可視光に変換する素子においても,同様に発生する。発光層の屈折率をnE,光を取り出す雰囲気の屈折率をnA(通常は空気であり,屈折率は約1である)とすると,光の利用効率の概算は[Arcsin(nA/nE)/90]^2で表される。したがって,液体や固体から光が発する限り,光量効率が32%(屈折率1.3の水から空気への取出し効率の概算値)を超えることは困難である。

・・・(中略)・・・

[0020] 有機ELではないが,LEDの技術において,素子表面にナノメートルサイズの凹凸構造を形成することにより取出し効率を高める技術が提案されている(特許文献4を参照)。この先行技術においては,ナノメートルサイズの凹凸形状によりもたらされる3つの効果が考えられる。

・・・(中略)・・・

[0023] 3つ目は,界面のエバネッセント領域による光取り出し効果である。光が高屈折率の層から低屈折率の層に入射する場合,臨界角を超える光は全反射されて低屈折率の層に入射できないというのが古典的な光学的な考え方である。しかし,光をエネルギとして捉えると,高屈折率の層に接する低屈折率の層の内部には,光のエネルギが到達可能な領域が存在することが知られている。この領域がエバネッセント領域と呼ばれている。エバネッセント領域内で,光のエネルギのベクトルを変化させるもの(具体的には界面)が存在すると,その界面において光は反射や屈折されて光路が変化し,低屈折率の層に入射する光成分が生じる。しかし,この先行技術の構成においては,2つの層間に存在する界面が1つであるので,光がエネルギ的に界面を越えて低屈折率層側に入ったとしても,その光がその光路を変化させるような界面に到達できる可能性は低くエバネッセント領域での光取出し効果を十分に期待できない。

・・・(中略)・・・

発明が解決しようとする課題
[0025] 本発明は,既存技術や先行技術では飛躍的に解決できなかった光取り出し向上を実現することを目的とする。より具体的には,本発明の目的は,自発光素子の特性に影響を与えることなく取り出された輝度を向上させることが可能な素子構造を提供することにある。」

(2)「課題を解決するための手段
[0028] 図1は,界面での光のエネルギ(強度)を1としたときの界面からの距離と,光の持つエネルギ(強度)との関係を示すグラフである。それぞれのプロットされた線は,界面への光の入射角度に対する,界面からの距離で検出(取出し)可能な光のエネルギを表す。プロットされたデータは,エバネッセント領域での光(近接場光)のエネルギを求めるための式として一般に公知の式から導き出される(大津元一,小林潔著,「近接場光の基礎」,オーム社を参照)。
【図1】

[0029] 図1に示すように,界面から100nm以下の領域では,界面での光のエネルギの約15%以上のエネルギが到達する。言い換えれば,界面から100nm以下の領域では,本来なら全反射し,入射する成分がないために取り出すことができない光であっても,光としてのエネルギを有する。したがって,エネルギとして存在し得る位置で光の出射方位を変化させることができれば,その位置でのエネルギに相当する光を取り出すことが可能になる。
[0030] 本発明は,この光学現象を積極的に素子内で発現させることで,光取り出し効率を向上させている。具体的には,本発明の発光素子は,可視光などの光を発する発光層と,前記発光層から出射された光の光路上に配置された単層ないし複数層の光機能性膜(以下,「屈折率複合構造層」あるいは単に「構造層」ともいう。)とを有する。
[0031] 屈折率複合構造層は,下記(1)?(4)の特性を有する屈折率複合構造体(以下,単に「構造体」ともいう。)を含む。(1)内部構造が屈折率の異なる2種類以上の相からなり,(2)前記2種類以上の相のうち少なくとも1つの相は,1nm以上,かつ可視波長光域の波長の4分の1(例えば可視光の最短波長を400nmとすると100nm)以下の大きさの構造単位から構成され,(3)構造層の平均屈折率が,1よりも高くかつ発光体と前記光機能性膜との間に存在する複数の層のうちガス層(真空状態または大気圧よりも低圧状態が好ましい)を含む層以外の層の屈折率よりも低く(4)構造層の厚さ方向の内部構造は,前記光機能性膜に接する他層との界面からエネルギ的に光が入射可能な近接場領域内において,前記2種類以上の相が接する界面を複数有する。屈折率複合構造層が単層の場合には,光が入射する他層との界面付近に構造体が形成され,屈折率複合構造層が複数層の場合には,光が入射する側の層に構造体が形成される。
[0032] 構造単位の大きさは,1nm以上100nm以下が好ましく,5nm以上100nm以下がさらに好ましい。
[0033] 前記構造体は前記2種類以上の相のうち一方の相により形成された小胞状構造体であっても良い。この場合,前記構造単位は前記小胞状構造体を構成する壁の厚さおよび/または前記壁と前記壁に対向する壁との間隙の大きさである。「小胞状構造体」とは,細胞の細胞壁やシャボン玉の泡の塊のように,空間が膜構造により区切られた構造体をいう。小胞を区切る壁は,典型的には穴がないが,穴を有していても良い。
[0034] なお,本明細書及び特許請求の範囲等において,「Aおよび/またはB」は「AおよびBの少なくとも一方」と同じ意味を表す。
[0035] また,前記構造体は前記2種類以上の相のうち一方の相により形成されたネットワーク状構造体であっても良い。この場合,前記構造単位は,前記ネットワーク状構造体を構成する繊維の径,前記繊維間の距離および前記ネットワーク状構造体により形成される間隙の大きさからなる群のうち少なくとも1つである。
[0036] さらに,前記構造体は前記2種類以上の相のうち一方の相により形成された塊状構造体であっても良い。この場合,前記構造単位は前記塊状構造体の径または前記塊状構造体同士の間隙の大きさである。
[0037] 構造体は屈折率の異なる少なくとも2種類の相を有しており,少なくとも2種類の相のうち一方の相は,他方の相よりも屈折率が低い。以下,屈折率がより低い相を低屈折率相(第1相)と呼び,屈折率がより高い相を高屈折率相(第2相)と呼ぶ。なお,屈折率複合構造層が3種類以上の相を有するときは,高屈折率相よりも屈折率がより高い相,低屈折率相よりも屈折率がより低い相が存在し得る。」

(3) 「[0102]図6は,既存の発光素子全般に対して貼り付けるなどにより後付けで適用するための構成例を示す図である。図6(a)?図6(c)に示す構成例は,屈折率複合構造層(5)の一方面側に粘着材(接着材)層(9)を有する。また,図6(a)に示す構成例は,屈折率複合構造層(5)の他方面側に第2の粘着材(接着材)層(8)を有する。図6(a)?図6(c)に示す構成例は,ターゲットの素子に貼り付けるまで粘着材(接着材)層(9)を保護するために,離型性のあるフィルム等を粘着材(接着材)層(9)に貼り付けた状態で供給される。第2の粘着材(接着材)層(8)は,基材(11)から屈折率複合構造層(5)が剥離しないようにする機能を有する。典型的には,第2の粘着材(接着材)層(8)の接着強度が粘着材(接着材)層(9)の接着強度よりも高い。

【図6】


[0103] 粘着材(接着材)層(9)および第2の粘着材(接着材)層(8)は,光硬化型や熱硬化型の接着剤(アクリル系樹脂やエポキシ系樹脂等)や粘着剤を含み,粘着性(接着性)を有する。使用する接着剤や粘着剤は,ターゲットの素子の表面部材,屈折率複合構造層(5),基材(11)等に対して,含浸や膨潤,伸縮,反りや割れといった影響を与えないものが望ましい。
[0104] 図6(b)に示す構成例は,基材(11)上に屈折率複合構造層(5)を直接形成したものであり,基材(11)と屈折率複合構造層(5)との間に第2の粘着材(接着材)層(8)が介在していない。図6(c)に示す構成例は,屈折率複合構造層(5)が強度的に十分な場合の構成例であり,基材(11)がない。
[0105] 図6(a)に示す構成例は,基材(11)上に接着剤や粘着剤を塗布して粘着材(接着材)層(8)を形成した後,後述の実施形態に示す方法により屈折率複合構造層(5)を形成し,さらに接着剤や粘着剤を塗布して粘着材(接着材)層(9)を形成することにより作成することができる。図6(b)に示す構成例は,粘着材(接着材)層(8)を形成しないことを除いて,図6(a)に示す構成例と同様の方法により作成することができる。
[0106] 図6(a)および図6(b)に示す構成例の汎用性の高い供給形態は,既存の発光素子に貼り合わせ,押し付けまたは載せて使うフィルムや板状材である。例えば,基材(11)としてポリカーボネートなどからなる光透過性フィルムを用いて,ターゲットの素子に粘着材(接着材)層(9)を介して貼り付けることができる。
[0107] 既存の素子に対して本発明のフィルムまたは板状材を適用する場合,光取出し面が平面や平板を一軸方向に曲げた形状などの単純な曲面である発光素子に限られる。既存の発光素子が平面や単純な曲面でない複雑な形状表面を有する場合には,さらに工夫が必要となる。例えば,LEDのように一部の自発光素子は,光取出し効率の向上のために,あるいはある光学特性を得るために,何らかの形状加工が既に施され,成形されている。既存の自発光素子の光取し効率を改善するために,フィルムや板状材の形状のまま適応したのでは,光取り出し効率の向上が得られないだけでなく既存の自発光素子が持っていた光機能性を損なうことがあり得る。このような場合,既存の自発光素子の形状に接合し,かつ自発光素子の機能(例えば,既存の自発光素子に含まれるレンズによる光機能性)を再現できるように,光取り出し効率を向上させる屈折率複合構造体を有する何らかの成型物を適切に成型する必要がある。但し,必ずしも既存の自発光素子の形状をスケールアップしただけでは,同じ光機能性が得られるとは限らないので,既存の自発光素子の機能に応じ適切な形状設計が必要になる場合もあり得る。
[0108] なお,成型物は既存の自発光素子の形状に密着していても良いが,成型物と自発光素子との距離が数nm?数十nm程度存在していても良い。この程度の距離であれば,効果的に光取り出し効率を向上させる本発明の屈折率複合構造体により,自発光素子からの光を近接場光として光を導くことができる。

・・・(中略)・・・

[0118] 図7は,図6で示す素子を既存の発光素子(例えば,蛍光灯,CRT,PDP,ELといった光を取り出す構成の素子や光源などの発光体全般)(10)に取り付けた後の素子構成の状態を概念的に示す図である。具体的には,図7(a)?図7(c)は図6(a)?図6(c)に示すに示すフィルムや板状材,成型物をそれぞれ発光素子(10)に貼り付けた状態を示している。図7(a)?図7(c)に示す構成は,粘着材(接着材)層(8),(9)を無視して考えると,図2から図5で図示した構成に等しいものと見なすことができ,発光素子(10)からの光(7)を効率良く取り出すことができる。」

【図7】


(4) 「産業上の利用可能性
[0220] 本発明は多くの自発光素子に適用可能であり,いずれの自発光素子においても光取出し効率の向上効果が得られる。自発光素子は発光体,光源,表示素子として現在使われており,具体的には,蛍光管,蛍光表示管,CRT,FED,PDP,白色や青色LEDなどの発光ダイオード,有機EL素子,無機EL素子,液晶表示装置などに用いられるバックライトが挙げられる。」

(5) 「 請求の範囲
[1] 下記(1)?(4)の特性を有する構造体を含む光機能性膜。
(1)内部構造が屈折率の異なる2種類以上の相からなり,
(2)前記2種類以上の相のうち少なくとも1つの相は,1nm以上,かつ可視波長光域の波長の4分の1以下の大きさの構造単位から構成され,
(3)平均屈折率が1よりも高く発光体と前記光機能性膜との間に存在する複数の層のうちガス相を含む層以外の層の屈折率よりも低く,
(4)厚さ方向の内部構造は,前記光機能性膜に接する他層との界面からエネルギ的に光が入射可能な近接場領域内において,前記2種類以上の相が接する界面を複数有する。
・・・(中略)・・・
[10] 光を発する発光層を有する発光素子に貼り合わせ,押し付けまたは載せて使うフィルムであって,
前記発光層から出射された光が素子外へと出射する光路上に配置された請求項1に記載の光機能性膜を1層以上有するフィルム。
(以下略)」

(6) 上記(1)?(5)からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されている。なお,段落番号は,引用発明の認定に活用した引用例1の記載箇所を示すために併記したものである。また,刊行物1の「屈折率複合構造層」,「光機能性膜」及び「構造層」はいずれも同じ構成要素を示しているところ(段落[0030]),混乱を避けるために,以下,「屈折率複合構造層」で統一する。

「光を発する発光層を有する発光素子に貼り合わせて使うフィルムであって(特許請求の範囲[10]),
基材上に屈折率複合構造層を直接形成し,(段落[0104]),
基材としてポリカーボネートなどからなる光透過性フィルムを用いて,ターゲットの素子に粘着材(接着剤)層を介して貼り付けるものであり(段落[0106]),
ターゲットの素子を有機EL素子とし(段落[0220]),
前記屈折率複合構造層は,下記(1)?(4)の特性を有するものである,フィルム
(1)内部構造が屈折率の異なる2種類以上の相からなり,(2)前記2種類以上の相のうち少なくとも1つの相は,1nm以上,かつ可視波長光域の波長の4分の1(例えば可視光の最短波長を400nmとすると100nm)以下の大きさの構造単位から構成され,(3)屈折率複合構造層の平均屈折率が,1よりも高くかつ発光体と前記屈折率複合構造層との間に存在する複数の層のうちガス層(真空状態または大気圧よりも低圧状態が好ましい)を含む層以外の層の屈折率よりも低く(4)屈折率複合構造層の厚さ方向の内部構造は,前記屈折率複合構造層に接する他層との界面からエネルギ的に光が入射可能な近接場領域内において,前記2種類以上の相が接する界面を複数有する。(段落[0031])」

2 刊行物2の記載事項
刊行物2には,図とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【0010】
図1は,本発明の第1態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図である。図1では,有機EL表示装置1を,その表示面,すなわち前面または光出射面,が下方を向き,背面が上方を向くように描いている。

【図1】

【0011】
この有機EL表示装置1は,アクティブマトリクス型駆動方式を採用した下面発光型の有機EL表示装置であり,絶縁基板10として,例えば,ガラス基板のような透明基板を含んでいる。この絶縁基板10上では,複数の画素がマトリクス状に配列している。各画素は,例えば,一対の電源端子間で直列に接続された駆動制御素子20及び有機EL素子40と,画素スイッチ(図示せず)とを含んでいる。駆動制御素子20は,その制御端子が画素スイッチを介して映像信号線(図示せず)に接続されており,映像信号線から供給される映像信号に対応した大きさの電流を有機EL素子40へ出力する。また,画素スイッチの制御端子は走査信号線(図示せず)に接続されており,走査信号線から供給される走査信号によりON/OFFが制御される。なお,これら画素には,他の構造を採用することも可能である。
【0012】
基板10上には,アンダーコート層12として,例えば,SiNx層とSiOx層とが順次積層されている。アンダーコート層12上には,例えばチャネル及びソース・ドレインが形成されたポリシリコン層である半導体層13,例えばTEOS(TetraEthyl OrthoSilicate)などを用いて形成され得るゲート絶縁膜14,及び例えばMoWなどからなるゲート電極15が順次積層されており,それらはトップゲート型の薄膜トランジスタ(以下,TFTという)を構成している。この例では,これらTFTは,駆動制御素子20や画素スイッチのTFTとして利用している。また,ゲート絶縁膜14上には,ゲート電極15と同一の工程で形成可能な走査信号線(図示せず)がさらに設けられている。
【0013】
ゲート絶縁膜14及びゲート電極15上には,例えばプラズマCVD法などにより成膜されたSiOxなどからなる層間絶縁膜17が設けられている。層間絶縁膜17上にはソース・ドレイン電極21が設けられており,それらは,例えばSiNxなどからなるパッシベーション膜18で埋め込まれている。ソース・ドレイン電極21は,例えば,Mo/Al/Moの三層構造を有しており,層間絶縁膜17に設けられたコンタクトホールを介してTFTのソース・ドレインに電気的に接続されている。また,層間絶縁膜17上には,ソース・ドレイン電極21と同一の工程で形成可能な映像信号線(図示せず)がさらに設けられている。
【0014】
パッシベーション膜18上には,光取り出し層30が設けられている。ここでは,光取り出し層30として,パッシベーション膜18上に回折格子を配置している。この光取り出し層30は,光透過性の第1領域31と,第1領域31が形成する凹部を埋め込み且つ第1領域31とは屈折率が異なる第2領域32とで構成されている。
【0015】
光取り出し層30は,この例では,後述する有機EL素子40が放出する光の回折を生じさせる。そのため,この光取り出し層30に比較的大きな入射角で入射した光の一部は,より小さな屈折角で光取り出し層30を出射する。その結果,有機EL素子40が放出する光のうち,絶縁基板10などに比較的小さな入射角で入射する光の割合が増加する。したがって,絶縁基板10などにおける全反射に起因して外部に取り出すことができない光の割合を低減することができる。
【0016】
光取り出し層30上には,平坦化層35が設けられている。平坦化層35は,有機EL素子40に平坦な下地を提供している。
【0017】
この平坦化層35は,光透過性であり,光取り出し層30の第1領域31及び有機EL素子40の第1電極41と比較して屈折率がより小さい。例えば,平坦化層35は,透明樹脂からなる。また,この平坦化層35の厚さは,後述する有機EL素子40の発光層が放出する光が第1電極41と平坦化層35との界面に臨界角よりも大きな入射角で入射したときに生じるエバネッセント波のしみ出し深さの最大値未満である。なお,「エバネッセント波のしみ出し深さ」は,上記界面におけるエバネッセント波のエネルギーを1としたときに,エバネッセント波のエネルギーが1/eにまで減少する深さを意味する。
【0018】
平坦化層35上には,光透過性の第1電極41が互いから離間して並置されている。第1電極41は,この例では陽極であり,例えば,ITO(Indium Tin Oxide)のような透明導電性酸化物などからなる。第1電極41は,パッシベーション膜18,光取り出し層30及び平坦化層35に設けられた貫通孔を介してドレイン電極21に電気的に接続されている。
【0019】
平坦化層35上には,さらに,隔壁絶縁層50が設けられている。この隔壁絶縁層50には,第1電極41に対応した位置に貫通孔が設けられている。隔壁絶縁層50は,例えば,有機絶縁層であり,フォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。
【0020】
隔壁絶縁層50の貫通孔内で露出した第1電極41上には,発光層を含んだ有機物層42が設けられている。発光層は,例えば,発光色が赤色,緑色,または青色のルミネセンス性有機化合物を含んだ薄膜である。この有機物層42は,発光層以外の層をさらに含むことができる。例えば,有機物層42は,第1電極41から発光層への正孔の注入を媒介する役割を果たすバッファ層をさらに含むことができる。また,有機物層42は,正孔輸送層,正孔ブロッキング層,電子輸送層,電子注入層などもさらに含むことができる。
【0021】
隔壁絶縁層50及び有機物層42上には,光反射性の第2電極43が設けられている。第2電極43は,この例では,各画素共通に連続して設けられた陰極である。第2電極43は,パッシベーション膜18,光取り出し層30,平坦化層35及び隔壁絶縁層50に設けられたコンタクトホール(図示せず)を介して,映像信号線と同一の層上に形成された電極配線に電気的に接続されている。それぞれの有機EL素子40は,これら第1電極41,有機物層42,及び第2電極43で構成されている。」

(2) 「【0024】
ところで,有機EL素子40の発光層は,全方位に光を放出する。そのため,第1電極41と平坦化層35との界面には,この界面に略垂直な方向に伝搬する光だけでなく,この界面の法線に対して比較的大きな角度を為して伝搬する光も入射する。
【0025】
上記の通り,この有機EL表示装置1では,平坦化層35は,有機EL素子40の第1電極41と比較して屈折率がより小さい。そのため,第1電極41と平坦化層35との界面に臨界角よりも大きな入射角で光が入射すると,平坦化層35中に近接場光であるエバネッセント波が生じる。
【0026】
平坦化層35が厚い場合,先のエバネッセント波は,上記の界面で伝搬光へと変換される。すなわち,平坦化層35が厚い場合,伝搬光からエバネッセント波への変換とその逆変換とが同一界面で生じる。換言すれば,有機EL素子40の発光層が放出する光のうち,第1電極41と平坦化層35との界面に臨界角よりも大きな入射角で入射した光は,先の界面で全反射される。そのため,この光を光取り出し層30に入射させることはできない。
【0027】
本態様に係る有機EL表示装置1では,上記の通り,平坦化層35を第1領域31よりも低屈折率とするとともに,平坦化層35の厚さを非常に薄くして,第1電極41と第1領域31との距離を十分に短くしている。そのため,このエバネッセント波を,平坦化層35と第1領域31との界面で伝搬光へと変換させることができる。すなわち,光が平坦化層35をトンネルする「フォトントンネリング」を生じさせることができる。したがって,本態様によると,平坦化層35が厚い場合と比較して,より高い光の取り出し効率を実現することができる。

・・・(中略)・・・

【0033】
このように,光取り出し効率を考慮すると,第1電極41と第1領域31との距離は,より短いことが望ましい。但し,上記の通り,平坦化層35は,有機EL素子40に平坦な下地を提供する役割を果たしている。そのため,第1電極41と第1領域31との距離をより短くすべく平坦化層35を過剰に薄くした場合,有機EL素子40に平坦な下地を提供することが難しくなる。一般に,平坦化層35の厚さが約50nm以上であれば,有機EL素子40に平坦な下地を比較的容易に提供することができる。」

(3) 「【0042】
そして,光取り出し層30を有機EL素子よりも下層に形成した場合であっても,有機EL素子の下地表面の平坦性を確保し,素子不良の発生を低減することが可能となる。
【0043】
尚,第1領域31の材料とパッシベーション膜18の材料とは,異なっていてもよく,或いは,同一であってもよい。後者の場合,第1領域31とパッシベーション膜18とは同一工程で形成することができる。
【0044】
また,第2領域32の材料と平坦化層35の材料とは,異なっていてもよく,或いは,同一であってもよい。後者の場合,第2領域32と平坦化層35とは同一工程で形成することができる。」

(4) 上記(1)?(3)からみて,刊行物2には,
「高い光取り出し効率を実現するためのものであって,光取り出し層30は,光透過性の第1領域31と,第1領域31が形成する凹部を埋め込み且つ第1領域31とは屈折率が異なる第2領域32とで構成され,光取り出し層30上には,有機EL素子40に平坦な下地を提供する平坦化層が設けられており,有機EL素子の発光層が放出した光が,第1電極41と平坦化層35との界面に臨界角よりも大きな入射角で入射したときに生じるエバネッセント波を,平坦化層35と第1領域31との界面で伝搬光へ変換させるものであり,第2領域32と平坦化層35の材料を同一のものとすること」(以下「刊行物2の記載事項という」。)が記載されているものと認められる。

3 対比
本願発明1と引用発明を対比すると,以下のとおりである。
(1) 引用発明の「有機EL素子」,「フィルム」,「基材」,「近接場領域内」及び「粘着材(接着剤)層」は,本願発明1の「有機発光ダイオード(OLED)装置」,「光抽出フィルム」,「基板」,「エヴァネッセント区域内」及び「光結合層」に相当する。

(2) 引用発明の「有機EL素子」は,光を出力する表面を有することは明らかであるから,引用発明の「有機EL素子」は,「光を出力する表面を有する」との要件を当然に満たす。

(3) 引用発明は,「基材」として,光透過性フィルムを用いるのであるから,引用発明の「基材」は,「OLED装置から放射される光に対して実質的に透過性である」との要件を満たす。

(4) 引用発明の「屈折率複合構造層」は,「屈折率複合構造層に接する他層との界面からエネルギ的に光が入射可能な近接場領域内において,前記2種類以上の相が接する界面を複数有する」のであるから,少なくとも何らかの「抽出要素」を有し,「抽出要素の実質的部分が前記OLED装置の光出力表面のエヴァネッセント区域内にあ」るとの要件を満たす。

(5) 引用発明は,「粘着材層」を介して自発光素子である「有機EL素子」と「フィルム」が結合されるのであるから,「粘着材層」は,当然に「有機EL素子」と「フィルム」とを光結合させているものと認められる。したがって,引用発明の「粘着材層」は,少なくとも「フィルム」の一部分と,「OLED装置の光出力表面との間に光学的結合をもたらす」点で,本願発明1と一致している。

(6) 上記(1)?(5)から,本願発明1と引用発明は,

「光を出力する表面を有する有機発光ダイオード(OLED)装置に用いる光抽出フィルムであって,
前記OLED装置から放射される光に対して実質的に透過性である基板と,
抽出要素の実質的部分が前記OLED装置の光出力表面のエヴァネッセント区域内にあり,
OLED装置の光出力表面と,光抽出フィルムの一部分との間に光学的結合をもたらす,
光抽出フィルム」

である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:本願発明では,抽出要素を含む光抽出フィルムの主たる構成要素は,構造化層と充填材層からなり,そのそれぞれについて下記ア,イのような特定がされているのに対して,引用発明においては,抽出要素を含む,光抽出フィルムの主たる構成要素は,複数の層から構成されるのではなく,屈折率の異なる2種類以上の相からなる屈折率複合構造層(単層)である点。

ア 本願発明1の構造化層:第1の屈折率を有する,抽出要素の構造化層であって,前記抽出要素が,前記構造化層における基板とは反対側の面のナノ構造化表面を含むものであり,前記ナノ構造化表面が,前記構造化層中における,粒子に基づかない形状を含む。

イ 本願発明1の充填材層:前記第1の屈折率とは異なる,第2の屈折率を有する材料を含む,充填材層であって,前記充填材層は,該充填剤層のナノ構造化表面とは反対の側に平坦面を形成して,前記ナノ構造化表面上に平坦化層を形成するものであり,かつ,前記充填材層は,散乱を起こさないナノ粒子を充填したポリマー材料を含む。

相違点2:本願発明は,基板が「可撓性」を有するのに対し,引用発明では,基材が可撓性を有するか否かが明らかでない点。

4 判断
まず,相違点1について検討する。
(1) 刊行物2の記載事項及び当該記載事項に基づく容易想到性
ア 刊行物2記載の「第1領域」は,本願発明1の「構造化層」に相当する。また,「第2領域32」と「平坦化層35」は材料を同一のものとするのであるから,この両者の層を併せて本願発明1の「充填材層」に相当するものということができる。
しかし,上記2(4)で認定したとおり,刊行物2において平坦化層が用いられている理由は,その上部に形成される有機EL素子に対して平坦な下地を提供するためのものである。引用発明では,有機EL素子はフィルムとは別に製造され,粘着材層によって貼り付けられるのであるから,引用発明において,有機ELに対して平坦な下地を提供するための層(平坦化層)を用いることには動機がない。換言すれば,抽出要素を構成する屈折率複合構造化層の他に,平坦化のための別の層をさらに付け加える動機がない。

イ また,刊行物1の段落[0027]には,「光の進路を変換する構造体をエバネッセント領域内に設ければ,その構造体の界面からの距離に応じて,光エネルギの取り出しが可能になることが知られている。」と記載されており,エバネッセント領域内において光の進路を変換させること自体は公知であることが示唆されている。そして,段落[0020]?[0023]では,ナノメートルサイズの凹凸構造を形成するという従来技術によってもたらされる技術効果について検討されており,特に段落[0023]において,従来技術の問題点として「2つの層間に存在する界面が1つであるので,光がエネルギ的に界面を越えて低屈折率相側に入ったとしても,その光がその光路を変化させるような界面に到達できる可能性は低く,エヴァネッセント領域での光取り出し効果を十分に期待できない」と記載されている。
本願発明1は,このような問題を受けて,「屈折率複合構造層の厚さ方向の内部構造は,前記屈折率複合構造層に接する他層との界面からエネルギ的に光が入射可能な近接場領域内において,前記2種類以上の相が接する界面を複数」設けることを必須の発明特定事項としており,そのために,発明の実施の形態としても,段落[0045]?[0050]に示されるように,粒子をランダムに積み上げたり,ミセル化を利用したり等といった,特別な製造手段が採用されているところである。してみれば,本件出願の優先権主張の日前に,刊行物2の記載事項のような,相違点1に類似した構成が公知であったとしても,このような引用発明の本質的な特徴部分ともいうべき「屈折率複合構造層」を,他の構成におきかえるような動機があったものとも認められない。

(2) 刊行物3及び刊行物4の記載事項に基づく容易想到性
刊行物3及び刊行物4は,原査定の理由において,微粒子を分散させた樹脂が周知技術であることを示すために引用されたものであり,いずれの文献
にも,相違点1に係る本願発明1の発明特定事項については記載も示唆もない。

(3) まとめ
上記(1)及び(2)のとおりであって,引用発明において,相違点1に係る本願発明1の発明特定事項のように構成することが,刊行物2ないし刊行物4の記載事項に基いて,当業者が容易になし得たものとすることはできない。
引用発明において,相違点1に係る本願発明1の発明特定事項のように構成することが,当業者が容易になし得たことといえない以上,相違点2について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明及び刊行物2ないし刊行物4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはえいない。
また,本願発明2及び3は,本願発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから,上記と同様の理由により,引用発明及び刊行物2ないし刊行物4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び刊行物2ないし刊行物4の記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-05-24 
出願番号 特願2010-516085(P2010-516085)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井亀 諭  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 西村 仁志
道祖土 新吾
発明の名称 有機発光ダイオードディスプレイ装置のための光抽出フィルム  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 胡田 尚則  
代理人 青木 篤  
代理人 出野 知  

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