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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
管理番号 1314965
審判番号 不服2014-26187  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-22 
確定日 2016-05-20 
事件の表示 特願2013-185442「グリース組成物及び軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月19日出願公開、特開2013-253257〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成19年3月26日になされた特許出願(特願2007-79734号)の一部を平成25年9月6日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成25年 9月 6日 上申書
平成26年 6月11日付け 拒絶理由通知
平成26年 8月14日 意見書・手続補正書
平成26年 9月12日付け 拒絶査定
平成26年12月22日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成27年 1月 6日付け 手続補正指令
平成27年 2月12日 手続補正書(請求理由補充書)
平成27年 2月19日付け 審査前置移管
平成27年 3月 4日付け 前置報告書
平成27年 3月 6日付け 審査前置解除
平成27年 6月 8日 上申書
平成27年12月21日付け 拒絶理由通知
平成28年 2月22日 意見書

第2 原審の拒絶査定の概要
原審において、平成26年6月11日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「 理 由

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1-7:引用文献1-3
・備考
引用文献1-3には、基油と増ちょう剤を含むグリース組成物において、基油がエステル系合成油を含み、エステル系合成油の含有量が、基油全体の20質量%以上であり、増ちょう剤が本願請求項1に記載の一般式(I)で示されるジウレア化合物を含む、グリース組成物、が記載されている(引用文献1の請求項1,【0011】-【0013】,【0017】-【0024】,【0029】-【0030】,【0035】-【0036】,実施例3/引用文献2の請求項1-4,2頁左上欄13行-19行,3頁左上欄13行-4頁右下欄20行,5頁左下欄3行-右下欄3行,合成例2,実施例3/引用文献3の請求項1,【0001】,【0007】-【0019】,実施例3)。
本願請求項1に係る発明と引用文献1-3に記載の発明とを対比すると、前者はアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を含む構成であるのに対して、後者は当該構成を有していない点で相違する。
上記相違点について検討するに、引用文献1-3には、グリース組成物が更にアミン系酸化防止剤を含有することが記載されているところ(引用文献1の【0029】/引用文献2の5頁左下欄3行-15行/引用文献3の【0018】-【0019】)、引用文献3の【0019】に記載されているように、アミン系酸化防止剤として、アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤は周知であり、また、本願発明において、アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を含有するという構成によって奏される効果は格別でない。そうすると、引用文献1-3に係る発明において、アミン系酸化防止剤として周知であるアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を更に含有する構成とし、本願請求項1に係る発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
・・(中略)・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2003-306687号公報
2.特開平3-079698号公報
3.特開平9-059661号公報」

<拒絶査定>
「この出願については、平成26年 6月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
出願人は平成26年8月14日付けの意見書において「確かに、アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤は周知の酸化防止剤である。しかし、引例3の段落0019の記載に基づいて言えるのは、アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤が周知の酸化防止剤の一つである、ということまでであり、多数存在する「周知の」酸化防止剤の中から特定の酸化防止剤であるアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を選択する契機となる記載が当該段落にある、と言うことはできない。」
と主張している。
しかし、引用文献1-3には、アミン系酸化防止剤を含み得ることが示唆されており(引用文献1の【0029】/引用文献2の5頁左下欄3行-13行/引用文献3の【0018】-【0019】)、また出願人が認めるようにアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤は周知の酸化防止剤である。そして、アミン系酸化防止剤の中から当該周知のアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を単に選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないから、多数存在する「周知の」酸化防止剤の中から特定の酸化防止剤であるアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を選択する契機となる記載が当該段落にない、とは認められない。

また、出願人は「酸化防止剤としてアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を選択することによる効果を、以下の比較実験結果により示す。以下の比較実験では、引例1において必須成分として用いられているフェノチアジンと、引例1の実施例で用いられているフェニルα-ナフチルアミンとを用いた。」、「本発明のグリース組成物は、引例1の必須酸化防止剤であるフェノチアジンや、それと共に用いられているフェニルα-ナフチルアミンと比較すると、外輪回転試験、軸受潤滑寿命試験ともに軸受寿命は長くなった。特に、軸受潤滑寿命試験による軸受潤滑寿命は2倍弱延びた。この効果は、引例の開示から予想できる範囲を超える顕著な効果であると思科する。」と主張している。
しかしながら、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という)の【0012】には「本発明のグリース組成物には、必要に応じて一般にグリース組成物に使用される任意の添加剤が使用可能である。例えば、アミン系、フェノール系に代表される酸化防止剤…などが挙げられる。」と記載されている。当該記載より、本願実施例1-4のグリース組成物は、アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤が任意の添加剤として用いられていたに過ぎず、当初明細書等には、酸化防止剤としてアミン系とフェノール系等の他の酸化防止剤とが、全く同等のものとして例示的に記載されていただけである。そして、アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を含有するという構成によって奏される効果について、当初明細書等に示した実施例1-4および比較例1-4のいずれもアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を含有するのであるから、当初明細書等の記載から当該酸化防止剤の存否による差は判断できない。加えて、当初明細書等には、アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤が、フェノチアジンやフェニルα-ナフチルアミン等の他の酸化防止剤と比較し、軸受寿命の点で有利な効果を奏する旨の記載もされていないし、本願明細書の記載から当業者が上記効果を推論することもできない。したがって、意見書で主張された上記効果は当初明細書等の記載に基づくものでないから参酌しない。
・・(中略)・・
以上のことから、本願請求項1-8に係る発明は、依然として、引用文献1-3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2003-306687号公報
2.特開平3-079698号公報
3.特開平9-059661号公報」

第3 当審がした拒絶理由通知の概要
当審は、平成27年12月21日付けで以下の内容からなる拒絶理由通知を行った。
<拒絶理由通知>
「 理 由

理由1.この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


[1]理由1
本願の請求項1?7に係る発明は、アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を含むグリース組成物の発明である。
しかしながら、本願明細書の段落【0013】?【0019】において実施されている実施例では、本願明細書の段落【0015】に『添加剤A:アミン系酸化防止剤(アルキルジフェニルアミン)』と記されているが、アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤(アルキルジフェニルアミン)の具体的な化学構造(当審注:アルキル基は具体的にどのような化学構造を有し、窒素原子又はフェニル基に対し、具体的にどの位置に結合したものか不明である。)が明らかにされておらず、どのような化合物を使用したものであるのか明らかにされていない。
以上から、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?7に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。

<当審の付言>
1.本願発明の「アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤」がいかなる化合物(または組成物)であるか,必要に応じて挙証の上、意見書等において,明確になるよう説明して下さい。
2.原審における引例3【0019】に記載された「アルキレーテッドジフェニルアミン」及び「4,4′-ジオクチルジフェニルアミン」は,本願発明でいう「アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤」該当するものであるか否かにつき,意見書等において説明して下さい。
3.本願の特許請求の範囲及び明細書の各記載には,上記のとおりの不備があるから,原審における引用発明との正確な対比判断ができないので,本願発明に係る特許性の判断については,留保します。すなわち、この拒絶理由に対する応答後,原査定の理由についても改めて検討されることとなります。」(下線は当審が付した。)

第4 当審の判断
当審がした上記拒絶理由通知に対して、平成28年2月22日に請求人(出願人)より意見書の提出があったところ、当審は、平成26年12月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、原査定の拒絶理由と同一の理由が成立するか否かにつき以下再度検討する。

I.本願特許請求の範囲に記載された事項
上記手続補正書により補正された本願の特許請求の範囲には、その請求項1ないし7に項分け記載された「グリース組成物」に関する事項が記載されている。
そのうち、請求項1には、以下の事項が記載されている。
「基油と増ちょう剤を含むグリース組成物において、基油がエステル系合成油を含み、エステル系合成油の含有量が、基油全体の20質量%以上であり、増ちょう剤が下記一般式(I)で示されるジウレア化合物を含み、さらにアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を含むことを特徴とするグリース組成物。
(I) R^(1)-NHCONH-R^(2)-NHCONH-R^(3)
式中、R^(2)は炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R^(1)およびR^(3)は、同一または異なる基であり、シクロへキシル基、または炭素数8?22の直鎖又は分岐アルキル基を示し、シクロへキシル基と炭素数8?22の直鎖又は分岐アルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合は、60?95%である。」
(以下、請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。)

II.引用文献に記載された事項
上記原査定で引用された引用文献3(特開平9-59661号公報、以下「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。

(a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】40℃での動粘度が45?450mm^(2)/secの合成油を基油とし、増ちょう剤として次の一般式(I)
【化1】


(式中のR^(1)は炭素数6?15の芳香族系炭化水素基、R^(2)およびR^(3)は炭素数6?20の脂肪族炭化水素基、炭素数6?12のシクロヘキシル誘導体基または炭素数6?12の芳香族炭化水素基を示し、R^(2)とR^(3)の全量中に占めるシクロヘキシル誘導体基の割合は、20?90モル%であり、R^(2)およびR^(3)は同一であっても異なっていてもよい)で表されるジウレア化合物を10?24wt%含有することを特徴とするグリース組成物。」

(b)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はグリース組成物に関するもので、詳細には、ブラシ付きのいわゆる整流子モータで使用温度が80℃を超えるもの、あるいはdmn値が30万を超えて使用されるもの、例えば前者の例では自動車の電動ファンモータ等に使用される軸受、後者の例ではクリーナモータに使用される軸受等に封入するために適するグリース組成物に関する。また自動車のオルタネータ等に使用される軸受に封入する場合にも効果がある。」

(c)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、フッ素化合物系のグリースは高価格であり、近年のコスト削減の要求に対応できない。また、密封シールを装着した場合も、高温、あるいは、高速での使用によりシールリップの摩耗が促進されるため早期に防塵性を無くしてしまう問題を生ずる。さらに、実開昭56-27856号公報のようにモータの形状を工夫して防塵性を高めようとしても、高温によるグリースの劣化を防止することはできない。本発明は、上記した問題を解決し、軸受に封入することにより、優れた高温耐久性、高速性、防塵性を付与することができ、かつ低価格なグリース組成物を提供することを目的とする。」

(d)
「【0007】以下、本発明に係るグリース組成物を詳細に説明する。本発明のグリース組成物に使用される基油は、合成油であり特に限定されないが、高温安定性を考え、合成炭化水素油、合成エーテル油もしくは合成エステル油またはこれらの混合物であることが好ましく、より好ましくは合成炭化水素油である。合成炭化水素油としては、ポリ-α-オレフィン油、α-オレフィンとエチレンとのコオリゴマー合成油等が挙げられる。合成エーテル油としては、ジフェニル、トリフェニル、テトラフェニルのC_(12)?C_(20)の(ジ)アルキル鎖が誘導された、フェニルエーテル油等が挙げられる。特に高温高速耐久性を考慮すれば、(ジ)アルキルポリフェニルエーテル油が好ましい。
【0008】合成エステル油としては特に限定されないが、二塩基酸と分枝アルコールの反応から得られるジエステル油、芳香族系三塩基酸と分枝アルコールの反応から得られる芳香族エステル油、多価アルコールと一塩基酸の反応から得られるヒンダードエステル油が好適に用いられる。耐熱性(使用条件が高温高速下)を考慮すると芳香族エステル油、ヒンダードエステル油の中から選択され、単独または混合して用いるのが特に好ましい。ジエステル油としては、ジオクチルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)、ジオクチルアゼレート(DOZ)、ジブチルセバケート(DBS)、ジオクチルセバケート(DOS)、メチル・アセチルリシノレート(MAR-N)等が挙げられる。芳香族エステル油としては、トリオクチルトリメリテート(TOTM)、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等が挙げられる。
【0009】ヒンダードエステル油としては、以下に示す多価アルコールと一塩基酸を適宜反応させて得られるものが挙げられる。多価アルコールに反応させる一塩基酸は単独でもいいし、複数用いてもよい。さらに、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステルとして用いても良い。多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン(TMP)、ペンタエリスリトール(PE)、ジペンタエリスリトール(DPE)、ネオペンチルプリコール(NPG)、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール(MPPD)等が挙げられる。一塩基酸としては、主にC_(4)からC_(18)の一価脂肪酸が用いられる。具体的には、例えば酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、エナント酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、牛脂脂肪酸、スレアリン酸、カプロレイン酸、ウンデシレン酸、リンデル酸、ツズ酸、フィゼテリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、アスクレピン酸、バクセン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、サビニン酸、リシノール酸などがある。
【0010】本発明のグリース組成物に使用される基油の、40℃での動粘度は45?450mm^(2)/secであるが、好ましくは100?300mm^(2)/secである。40℃での基油動粘度が45mm^(2)/secより低いとグリースの高温安定性が劣り、450mm^(2)/secより高いものは、耐熱性の良好な合成炭化水素油は無く、基油として一般的でない。」

(e)
「【0011】 本発明のグリース組成物の増ちょう剤は前記一般式(I)で示されるジウレア化合物からなるものである。前記一般式(I)のR^(1)は炭素数6?15の芳香族系炭化水素基であり、その具体例としては、
【0012】
【化3】


【0013】であるが、熱安定性、酸化安定性に優れた特性を有する構造ならば特に限定されない。前記一般式(I)のR^(2)およびR^(3)は炭素数6?20の脂肪族炭化水素基、炭素数6?12のシクロヘキシル誘導体基または炭素数6?12の芳香族炭化水素基を示す。
【0014】炭素数6?20の脂肪族炭化水素基の具体例としては、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、オクタデシニル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、へプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、エイコセニル基、エチルヘキシル基などで表される直鎖または側鎖構造からなるものなどである。
【0015】炭素数6?12のシクロヘキシル誘導体基の具体例としては、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、イソプロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、アミルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘキシル基等が挙げられるが、好ましくはシクロヘキシル基である。
【0016】炭素数6?12の芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、t-ブチルフェニル基、ベンジル基などで、特に1価の芳香族炭化水素基が適している。
【0017】一般式(I)中のR^(2)とR^(3)は同一であっても異なっていてもよい。また、一般式(I)中のR^(2)とR^(3)の全量中に占めるシクロヘキシル誘導体基の割合は、20?90モル%であり、好ましくは30?70モル%である。前記一般式(I)で示されるジウレア化合物からなる増ちょう剤のグリース中の含有量は10?24wt%、好ましくは11?18wt%である。増ちょう剤の含有量を前記の範囲としたのは、軸受に封入した場合に軸受内部において転動体の両側に程よくグリースを保持させ、かつ、せん断安定性を適度に有することでブラシの磨耗粉等の異物の転走面への侵入を防ぐ、いわゆるグリースシールの効果を得るためである。・・(後略)」

(f)
「【0018】本発明のグリース組成物に対して、さらにその優れた性能を高めるため、必要に応じて公知の添加剤を使用することができる。この添加剤としては例えば、金属石けん、ベントン、シリカゲルなどの他の増ちょう剤;アミン系、フェノール系、イオウ系、ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)系などの酸化防止剤;塩素系、イオウ系、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデンなどの極圧剤;脂肪酸、植物油などの油性剤;石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤;ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤;ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などが挙げられ、これらを単独または2種以上組あわせて添加することができる。
【0019】特に、アミン系及びZnDTP系などの酸化防止剤を添加することが、さらに高温安定性に優れたものとなるので好ましい。アミン系酸化防止剤の具体例としては、N-フェニル-α-ナフチルアミン、N-フェニル-β-ナフチルアミン、N-オクチル-β-ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤、あるいはN,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のジアリール-p-フェニレンジアミン系酸化防止剤、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-シクロヘキシル-p-フェニレンジアミン等のアリールアルキル-p-フェニレンジアミン系酸化防止剤、あるいはジフェニルアミン、アルキレーテッドジフェニルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤、あるいはフェニレンジアミン、フェノチアジン等の種々のアミン系酸化防止剤が挙げられる。」

(g)
「【0022】
【実施例】以下、本発明のグリース組成物を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何等限定されるものではない。〔実施例1?7および比較例1?7〕
表1および表2に示す、実施例1?7および比較例1?7のグリース組成物を試験用転がり軸受に封入し、図1に示すブラシ付きモータ(電動ファンモータ)を想定した試験機により試験をおこなった。
試験用転がり軸受 608ZZ(シールド板付き)
試験温度 145℃
回転数 6000rpm
グリース封入量 0.25g
【0023】試験項目及び試験方法:
(1)100時間回転後の封入グリース減少率;試験前後の軸受総重量の差より求めた。なお、軸受より洩れ出たグリースは拭き取ってから計量した。〔減少率={(試験前重量-試験後重量)/0.25}×100〕の計算式により求め、15wt%以下を、適合の目安とする。
(2)1000時間回転後のブラシ粉混入率;試験軸受内よりグリース全量を採取し、クロロホルムに分散させた後、遠心分離によりブラシ粉を沈降、分離する。100℃にて残留クロロホルム溶液を蒸発させたあとの、ブラシ粉の重量を測定した。〔混入率=(ブラシ粉の重量/0.25)×100〕の計算式により求め、0.4wt%以下を、適合の目安とする。
(3)焼付きまでの時間;軸受が回転不能になるまでの時間を診た。2500hr.以上を、適合の目安とする。
【0024】
【表1】


【0025】
【表2】


【0026】実施例1?7においては、いずれも試験軸受の焼付きまでの時間が2500hr.以上で長寿命を示し、グリースシール効果及びグリースの高温高速での安定性の指標となるグリース減少率、ブラシ粉混入率ともに低い値である。これに対し比較例1では、グリースの基油粘度が低いため蒸発損失が大きい。比較例2では、増ちょう剤量が過大のため流動性が悪く、軸受内部にブラシ粉が多く混入するため早期に試験軸受の焼付きが生じる。比較例3では高粘度基油によるせん断発熱が大きく、粘度500mm^(2)/s以上のものとなると、合成炭化水素油では熱安定性が劣るため、試験軸受が早期に焼付きを生じ、寿命時間が短い。比較例4では、増ちょう剤量が少ないため、グリースの流失による封入グリースの減少により、試験軸受の寿命が短い。比較例5では、増ちょう剤のシクロヘキシル基の比率が高いためグリースの流動性が悪く、比較例2と同様の理由で、試験軸受が早期に焼付きを生じ、寿命が短い。比較例6は、増ちょう剤のシクロヘキシル基の比率が低く、比較例4と同様、グリース流失により試験軸受の寿命が短い、比較例7では、比較例2と同様、封入グリースの流失は少ないものの、グリースシールの効果に劣るため、試験軸受の寿命時間が短くなっていると思われる。」

(h)
「【0027】
【発明の効果】本発明のグリース組成物は、40℃での動粘度が45?450mm^(2)/secの合成油を基油とすることにより、高温安定性が優れ耐熱性が良好なものとなる。また、増ちょう剤として一般式(I)で示されるジウレア化合物をグリース中に10?24wt%含有することにより、軸受に封入した場合の軸受内部において転動体の両側に程よくグリースを保持させ、かつ、せん断安定性を適度に有することで異物の転走面への侵入を防ぐ、いわゆるグリースシールの効果を有することができる。本発明のグリース組成物を軸受に封入することにより、低コストで、該軸受に優れた高温耐久性、高速性、防塵性を付与することができ、長寿命を示すことができる。」

III.検討

1.引用例に記載された発明
上記引用例には、「40℃での動粘度が45?450mm^(2)/secの合成油を基油とし、増ちょう剤として次の一般式(I)
【化1】


(式中のR^(1)は炭素数6?15の芳香族系炭化水素基、R^(2)およびR^(3)は炭素数6?20の脂肪族炭化水素基、炭素数6?12のシクロヘキシル誘導体基または炭素数6?12の芳香族炭化水素基を示し、R^(2)とR^(3)の全量中に占めるシクロヘキシル誘導体基の割合は、20?90モル%であり、R^(2)およびR^(3)は同一であっても異なっていてもよい)で表されるジウレア化合物を10?24wt%含有することを特徴とするグリース組成物」が記載されており(摘示(a)参照)、当該「基油」は、「高温安定性を考え、合成炭化水素油、合成エーテル油もしくは合成エステル油またはこれらの混合物であることが好まし」く、「耐熱性(使用条件が高温高速下)を考慮すると芳香族エステル油、ヒンダードエステル油の中から選択され、単独または混合して用いるのが特に好ましい」こと(摘示(d)参照)、上記「グリース組成物」には、「さらにその優れた性能を高めるため、必要に応じて公知の添加剤を使用することができ」、「この添加剤としては例えば・・アミン系、フェノール系、イオウ系、ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)系などの酸化防止剤・・などが挙げられ、これらを単独または2種以上組あわせて添加することができる」こと及び「特に、アミン系及びZnDTP系などの酸化防止剤を添加することが、さらに高温安定性に優れたものとなるので好まし」く、「アミン系酸化防止剤の具体例としては、・・ジフェニルアミン、アルキレーテッドジフェニルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤、あるいはフェニレンジアミン、フェノチアジン等の種々のアミン系酸化防止剤が挙げられる」こと(摘示(f)【0018】?【0019】参照)もそれぞれ記載されている。
してみると、上記引用例には、上記(a)ないし(h)の記載事項からみて、
「40℃での動粘度が45?450mm^(2)/secの合成炭化水素油、合成エーテル油もしくは合成エステル油またはこれらの混合物である合成油を基油とし、増ちょう剤として次の一般式(I)
【化1】


(式中のR^(1)は炭素数6?15の芳香族系炭化水素基、R^(2)およびR^(3)は炭素数6?20の脂肪族炭化水素基、炭素数6?12のシクロヘキシル誘導体基または炭素数6?12の芳香族炭化水素基を示し、R^(2)とR^(3)の全量中に占めるシクロヘキシル誘導体基の割合は、20?90モル%であり、R^(2)およびR^(3)は同一であっても異なっていてもよい)で表されるジウレア化合物を10?24wt%含有し、更に酸化防止剤を含有するグリース組成物。」
に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

2.対比・検討

(1)対比
本願発明と上記引用発明とを対比すると、引用発明における「40℃での動粘度が45?450mm^(2)/secの合成炭化水素油、合成エーテル油もしくは合成エステル油またはこれらの混合物である合成油を基油と」することは、合成エステル油単独又は合成エステル油と他の合成油との混合物を基油とする態様を含むから、本願発明における「基油がエステル系合成油を含み」に相当するものといえる。
また、引用発明における「増ちょう剤として次の一般式(I)(式自体は省略)(式中のR^(1)は炭素数6?15の芳香族系炭化水素基、R^(2)およびR^(3)は炭素数6?20の脂肪族炭化水素基、炭素数6?12のシクロヘキシル誘導体基または炭素数6?12の芳香族炭化水素基を示し、・・R^(2)とR^(3)の全量中に占めるシクロヘキシル誘導体基の割合は、20?90モル%であり、R^(2)およびR^(3)は同一であっても異なっていてもよい)で表されるジウレア化合物」は、技術常識からみて、本願発明における「増ちょう剤が下記一般式(I)で示されるジウレア化合物」及び「(I)R^(1)-NHCONH-R^(2)-NHCONH-R^(3) 式中、R^(2)は炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R^(1)およびR^(3)は、同一または異なる基であり、シクロへキシル基、または炭素数8?22の直鎖又は分岐アルキル基を示(す)」と化学式として同一であり、引用発明における「R^(2)とR^(3)の全量中に占めるシクロヘキシル誘導体基の割合は、20?90モル%であり」と本願発明における「シクロへキシル基と炭素数8?22の直鎖又は分岐アルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合は、60?95%である」とは、60?90モル%の範囲で重複するものと認められる。
さらに、引用発明における「酸化防止剤」は、本願発明における「酸化防止剤」に相当する。
そして、引用発明における「グリース組成物」は、本願発明における「グリース組成物」に相当するものと認められる。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「基油と増ちょう剤を含むグリース組成物において、基油がエステル系合成油を含み、増ちょう剤が下記一般式(I)で示されるジウレア化合物を含み、さらに酸化防止剤を含むことを特徴とするグリース組成物。
(I) R^(1)-NHCONH-R^(2)-NHCONH-R^(3)
式中、R^(2)は炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R^(1)およびR^(3)は、同一または異なる基であり、シクロへキシル基、または炭素数8?22の直鎖又は分岐アルキル基を示し、シクロへキシル基と炭素数8?22の直鎖又は分岐アルキル基の総モル数に対するシクロへキシル基のモル数の割合は、60?90%である。」
の点で一致し、下記の2点で相違する。

相違点1:本願発明では、「エステル系合成油の含有量が、基油全体の20質量%以上であ」るのに対して、引用発明では、「40℃での動粘度が45?450mm^(2)/secの合成炭化水素油、合成エーテル油もしくは合成エステル油またはこれらの混合物である合成油を基油と」するであって、合成エステル油の含有量につき特定されていない点
相違点2:「酸化防止剤」につき、本願発明では、「アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤」であるのに対して、引用発明では、「酸化防止剤」である点

(2)各相違点に係る検討

ア.相違点1について
上記相違点1につき検討すると、引用発明においては、基油として合成エステル油単独又は合成エステル油と他の合成油との混合物を基油とする態様を含み、合成エステル油単独、すなわち合成エステル油の含有量が100%である場合をも含むのであって、さらに、上記引用例には、合成炭化水素油80%とエステル油20%との混合物を基油とした実験例が記載されている(摘示(g)「実施例3」参照)のであるから、基油として、合成エステル油を20質量%以上含有するものを使用する点は、実質的な相違点ではないか、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点ではないか、当業者が適宜なし得ることである。

イ.相違点2について
上記相違点2につき検討するにあたり、その前提となる技術事項につき検討する。

(ア)前提事項

(A)「アルキルジフェニルアミン」の化学構造について
「アルキルジフェニルアミン」なる化学(化合物)名で表現される化合物の化学構造は、技術常識からみて、大別すると2種の構造が存するといえる。
(a)アミノ窒素原子に1個のアルキル基と2個のフェニル基とが結合した第3級アミン化合物(「RN(Ph)_(2)」)
(b)アルキル基で置換されたフェニル基2個がアミノ窒素原子に結合した第2級アミン化合物(「(RPh)_(2)NH」、請求人が平成28年2月22日付け意見書で主張するもの)

(B)商品名「IRGANOX L57」及び「アルキレーテッドジフェニルアミン」について
商品名「IRGANOX L57」なる潤滑剤用酸化防止剤は、本願の出願の分割に係る原出願(特願2007-79734号)の出願日前の当業界において、周知慣用のものであったと認められる。
そして、当該「IRGANOX L57」は、オクチル化/ブチル化されたジフェニルアミンであって、「アルキレーテッドジフェニルアミン」、すなわちアルキル化されたジフェニルアミンの一種であり、その化学構造は、請求人が平成28年2月22日付け意見書で主張するとおりのもの(すなわち、上記(b)のもの)である。
また、当該「IRGANOX L57」は、類似の構造を有するジオクチルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン(オクチル化されたジフェニルアミンとジフェニルアミンとの混合物)等と比較しても、良好な耐熱耐久性及び抗酸化性を潤滑剤組成物に付与する酸化防止剤であることも、当業者の周知技術であったものと認められる。
(なお、これらの点につき必要ならば、下記参考文献参照のこと。)

参考文献:「URL:www.resikem.com.ar/admin/archivos/tecnica/211/TDS_Irganox_L_57.pdf」なるインターネットホームページで公開されている、チバ スペシャリティ ケミカルズ社が2003年6月に第2版を作成・公開したものと認められる「Ciba IRGANOX L57」に係る技術資料

(イ)検討
上記(ア)の前提事項を踏まえて相違点2につき検討すると、引用発明において例示されている「アルキレーテッドジフェニルアミン」及び「4,4’-ジオクチルジフェニルアミン」は、いずれも本願発明における「アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤」の範ちゅうに属するものであり、また、平成28年2月22日付け意見書において、本願発明に係る実施例で「アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤」として使用したと主張する「N-フェニルベンゼンアミン(審決注:「ジフェニルアミン」の誤記と認められる。)と2,4,4-トリメチルペンテンとの反応物」すなわち「IRGANOX L57」は、上記(ア)(B)に示すとおり、潤滑剤に良好な耐熱耐久性及び抗酸化性を付与することは、当業者の周知技術であるから、引用発明における「酸化防止剤」として、グリース組成物の耐熱耐久性及び抗酸化性等の物性の改善を意図し、当該当業者の周知技術に基づき、「アルキレーテッドジフェニルアミン」及び「4,4’-ジオクチルジフェニルアミン」などの「アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤」を選択使用することは、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点2は、当業者が適宜なし得ることである。

(3)本願発明の効果について
本願発明の効果について本願明細書の発明の詳細な説明に基づき検討すると、酸化防止剤としてアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を選択的に使用すること(すなわち上記相違点2に係る事項)により、格別な効果を奏することを(他の)当業者が認識することができる記載又は示唆が存するものとは認められない。
また、上記(2)イ.(ア)(B)で示したとおり、「IRGANOX L57」などの「アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤」を使用した場合、潤滑剤に良好な耐熱耐久性及び抗酸化性などを付与できることが当業者の周知技術であるから、引用発明における「酸化防止剤」として「アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤」を使用した場合に更に良好な耐熱耐久性などが付与されるであろうことは、当業者が予期し得ることであるものと認められる。
してみると、本願発明が、引用発明に当業者の周知技術を組み合わせた場合に比して、当業者が予期し得ない程度の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

(4)小括
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.請求人の主張について
なお、請求人(出願人)は、平成26年8月14日付け意見書及び本件審判請求書(理由補充書)において、酸化防止剤としてフェノチアジン又はフェニル-α-ナフチルアミンを使用した場合を比較例とする追試対比結果を提示し、もって本願発明が顕著な効果を奏するものである旨主張している。
しかるに、上記「フェノチアジン」及び「フェニル-α-ナフチルアミン」はいずれも上記引用発明で使用することを(必須に)規定されているものではなく、引用発明に係る実施例などで使用されたものでもない。
してみると、上記追試対比結果は、本願発明が引用発明に対して優位な効果を奏することを証するものではないから、上記2.の検討結果を左右するものではない。
また、請求人は、平成28年2月22日付け意見書において、「原審の引例3の段落0019には種々の酸化防止剤が例示列挙されており、その中にはアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤も含まれるが、実施例で用いられているものは「酸化防止剤」と記載されているに留まり、アミン系なのか、フェノール系なのか、イオウ系なのか、それすら特定するヒントになる記載は見あたらない。引例1?3には、アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を選択して使用しようとする動機付けとなる記載も示唆もなく、アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤を含む本発明のグリース組成物は、引例1?3の開示から当業者が予想出来る範囲を超える高温下での軸受潤滑寿命を有するから、本発明は、引例1?3の開示を超える進歩性を有すると確信する」旨主張する(意見書「2.拒絶理由が解消した理由」の欄最終段落)ところ、上記2.(2)イ.(ア)(B)で説示したとおり、「アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤」である「IRGANOX L57」が、潤滑剤に良好な耐熱耐久性及び抗酸化性を付与することは当業者の周知技術であって、「引例3」、すなわち引用例に係る上記引用発明における「酸化防止剤」として、グリース組成物の耐熱耐久性及び抗酸化性等の物性の改善なる動機付けをもって、当該当業者の周知技術に基づき、引用例において例示されたものの中から「アルキレーテッドジフェニルアミン」及び「4,4’-ジオクチルジフェニルアミン」などの「アルキルジフェニルアミン系酸化防止剤」を選択使用することは、当業者が適宜なし得ることであるとするほかはない。
してみると、上記意見書における主張は、当を得ないものであって、上記2.の検討結果を左右するものではない。
したがって、請求人の上記各意見書及び本件審判請求書における主張は、いずれも根拠を欠き当を得ないものであって、採用することができない。

4.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではない。
したがって、本願は、請求項1に記載された事項で特定される発明が、特許法第29条の規定により、特許を受けることができるものではないから、その他の請求項に記載された発明について検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当する。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第49条第2号の規定に該当するから、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-24 
結審通知日 2016-03-28 
審決日 2016-04-08 
出願番号 特願2013-185442(P2013-185442)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C10M)
P 1 8・ 121- WZ (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲来▼田 優来岩田 行剛森 健一  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 橋本 栄和
日比野 隆治
発明の名称 グリース組成物及び軸受  
代理人 市川 さつき  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 箱田 篤  
代理人 辻居 幸一  
代理人 浅井 賢治  
代理人 山崎 一夫  
代理人 松田 七重  

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