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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H04J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04J
管理番号 1315091
審判番号 不服2015-12011  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-24 
確定日 2016-06-14 
事件の表示 特願2013-118247「多入力多出力システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月28日出願公開,特開2013-240058,請求項の数(7)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2004年11月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2003年11月4日 米国,2004年11月3日 米国)を国際出願日とする出願である特願2006-538499号の一部を,平成23年3月30日に新たな特許出願とした特願2011-75944号の一部を,平成25年6月4日に更に新たな特許出願としたものであって,平成26年10月10日付けで拒絶理由が通知され,平成27年1月21日付けで手続補正がされたが,同年2月13日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年6月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正がされ,その後,当審において同年12月21日付けで拒絶理由が通知され,平成28年3月18日付けで手続補正がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1-7に係る発明は,平成28年3月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定されるものと認められる。
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「多入力多出力(MIMO)パケット用の時分割トレーニングパターンを送信するための方法であって,
レガシーヘッダの受信のための自動利得制御を定める第1の複数の短シンボルを含む前記レガシーヘッダを送信することと,
MIMOヘッダを送信することと
を備え,前記MIMOヘッダは,
前記MIMOヘッダの受信のための自動利得制御を容易にする第2の複数の短シンボルと,
複数の長シンボルと,
を備え,
前記MIMOヘッダを送信することは,複数のアンテナを用いて前記第2の複数の短シンボルおよび前記複数の長シンボルを送信することを備え,前記第2の複数の短シンボルは,予め定めた短ビンの組の間で,少なくとも短ビンの第1の組および短ビンの第2の組に分割され,前記複数の長シンボルは,予め定めた長ビンの組の間で,少なくとも長ビンの第1の組および長ビンの第2の組に分割され,前記複数のアンテナの第1のアンテナは,前記短ビンの第1の組に関連付けられ,前記複数のアンテナの第2のアンテナは,前記短ビンの第2の組に関連付けられ,前記第1のアンテナは,前記第2のアンテナによって用いられる前記長ビンの第1の組および前記長ビンの第2の組の第2の順序とは互いに異なる,前記長ビンの第1の組および前記長ビンの第2の組の第1の順序を用いる,方法。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
【理由1】
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1,6-7
・引用文献1-3
[備考]
引用文献1(特に 2.3 MIMO Preamble Design Fig.2参照)には,MIMOパケット用の時分割トレーニングパターンを送信する発明であって,AGCに用いるレガシー互換のための短シンボルを含むプリアンブルを送信する発明が記載されていると認められる。
請求項1に係る発明と,引用文献1に記載された発明とは,次の点で相違する。
(相違点1)
請求項1に係る発明は,「MIMOヘッダの受信のための自動利得制御を容易にする第2の複数の短シンボルを含む前記MIMOヘッダを送信する」ことが記載されているのに対して,引用文献1にはそのような記載がない点
(相違点2)
請求項1に係る発明は,「前記第2の複数の短シンボルは,予め定めた短ビンの組に分割され,前記複数のアンテナの各々は,前記短ビンのサブセットに関連付けられている」のに対して,引用文献1には,アンテナが周波数ビンのサブセットに関連づけられていることは記載されていない点
上記相違点について検討すると,
(相違点1)
引用文献2(特に,II. SDM-COFDM SYSTEM CONFIGURATION Figure 2 参照)には,MIMOパケット用の時分割トレーニングパターンを送信する発明であって,AGCに用いる短シンボルを含むプリアンブルを送信する技術が記載されていると認められる。
引用文献1に記載された発明は,MIMO伝送を行うものであるから,引用文献1に記載された発明に,引用文献2に記載された技術を適用し,レガシー互換のためのみならず,MIMO伝送のための短シンボルを送信することは当業者が容易に想到し得たことである。
(相違点2)
引用文献3に記載されているように(【0113】-【0117】,【図7】参照),MIMO-OFDMにおいて,各アンテナにパイロットキャリアを関連する技術が記載されており,各アンテナに関連づけられるパイロットキャリアはパイロットキャリア全体のサブセットであると認められる。
引用文献1に記載された発明に,引用文献3に記載された技術を適用し,複数のアンテナの各々にプリアンブルを送信する周波数ビンのサブセットを関連づけることは当業者が容易に想到し得たことである。
よって,請求項1に係る発明は,引用文献1-3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たことである。
また,同様の理由により,請求項6-7に係る発明は,引用文献1-3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たことである。

引 用 文 献 等 一 覧
1.Jianhua Liu et al.,A MIMO system with backward compatibility for OFDM based WLANs,2003年 6月15日,pp.130-134
2.Yusuke ASAI et al.,Precise AFC scheme for performance improvement of SDM-COFDM,Vehicular Technology Conference, 2002. Proceedings. VTC 2002-Fall. 2002 IEEE 56th ,2002年,vol.3,pp.1408-1412
3.特開2003-304216号公報

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1には,以下の事項が記載されている。
「A MIMO system with backward compatibility for OFDM based WLANs
ABSTRACT
Orthogonal frequency-division multiplexing (OFDM) has been selected as the basis for the new IEEE 802.11a standard for high-speed wireless local area networks (WLANs). We consider doubling the data rate of the IEEE 802.11a system by using a multi-input multi-output (MIMO) system with two transmit and two receive antennas. We propose a preamble design for this MIMO system that is backward compatible with its single-input single-output (SISO) counterpart as specified by the IEEE 802.11a standard. Based on this preamble design, we devise a sequential method for the estimation of the carrier frequency offset (CFO), symbol timing, and channel response. We also provide a simple soft-detector to obtain the soft-information for the Viterbi decoder. Both the sequential parameter estimation method and the soft-detector are ideally suited for real-time implementations. The effectiveness of our methods is demonstrated via numerical examples.」(130ページ左欄1?16行)
([当審仮訳]:
OFDMベースのWLANsのための後方互換性を備えるMIMOシステム
要約
直交周波数分割多重(OFDM)は,高速無線ローカルエリアネットワーク(WLANs)のための新たなIEEE802.11a規格の基礎として選択されている。2つの送信アンテナと2つの受信アンテナを有する多入力多出力(MIMO)システムを使用して,IEEE802.11aのシステムのデータレートを倍増することを検討する。IEEE802.11a規格によって特定される単一入力単一出力(SISO)相手との後方互換性があるMIMOシステムのためのプリアンブル設計を提案する。このプリアンブル設計に基づいて,キャリア周波数オフセットの推定(CFO),シンボルタイミング及びチャネル応答のためのシーケンシャルな方法を考案する。また,ビタビ復号器のための軟情報を取得するため,単純なソフト検出器を提供する。逐次パラメータ推定方法及びソフト検出器の両方は,理想的にはリアルタイム実装に適している。本方法の有効性は数値例により実証されている。)

「2.3. MIMO Preamble Design
For the IEEE 802.11a based SISO system, the short training symbols can be used to detect the arrival of the packet, set up AGC, compute a coarse CFO estimate, and obtain a coarse symbol timing, whereas the long training symbols can be used to calculate a fine CFO estimate, refine the coarse symbol timing, and estimate the SISO channel.
The MIMO system considered herein has two transmit and two receive antennas. Two packets are transmitted simultaneously from the two transmit antennas. We design two preambles, one for each transmit antenna. We assume that the receiver antenna outputs suffer from the same CFO and has the same symbol timing. To be backward compatible with the SISO system, we use the same short training symbols as in the SISO preamble for both of the MIMO transmit antennas, as shown in Fig. 2.
Channel estimation for MIMO systems has attracted much research interest lately. Orthogonal training sequences tend to give the best performance (see e.g., [6] and the references therein). We also adopt this idea of orthogonal training sequences in our preamble design. In the interest of backward compatibility, we use the same T1 and T2 as for the SISO system for both of the two transmit antennas before the SIGNAL field, as shown in Fig. 2. After the SIGNAL field, we use T1 and T2 for one transmit antenna and -T1 and -T2 for the other. This way, when the simultaneously transmitted packets are received by a single SISO receiver, the SISO receiver can successfully detect up to the SIGNAL field, which is designed to be the same for both transmit antennas. The reserved bit in the SIGNAL field can tell the SISO receiver to stop its operation whenever a MIMO transmission follows or otherwise to continue its operation. The long training symbols before and after the SIGNAL field are used in the MIMO receivers for channel estimation.」(131ページ右欄9行?末行)
([当審仮訳]:
2.3.MIMOプリアンブルデザイン
IEEE802.11aベースのSISOシステムでは,短トレーニング・シンボルは,パケットの到着を検出し,AGCを行い,粗いCFO推定値を計算し,粗いシンボルタイミングを取得設定するために使用することができ,一方,長トレーニング・シンボルは,微細なCFO推定値を計算し,粗いシンボル・タイミングを改善し,SISOチャネルを推定するために使用することができる。
ここで検討するMIMOシステムは,2つの送信アンテナと2つの受信アンテナを持っている。2つのパケットは,2つの送信アンテナから同時に送信される。各送信アンテナについてそれぞれ1つずつの,2つのプリアンブルを設計する。受信アンテナの出力が同じCFOを被り,同一のシンボルタイミングを有すると仮定する。図2に示すように,SISOシステムとの下位互換性を有するよう,MIMOの両送信アンテナのために,SISOプリアンブルと同じ短トレーニング・シンボルを使用する。
MIMOシステムのためのチャネル推定は,最近多くの研究の関心を集めている。直交トレーニング・シーケンスは,最高の性能を発揮する傾向がある(例えば,[6]及びその中の参考文献参照。)。また,本プリアンブル設計に直交トレーニング・シーケンスのこのアイデアを採用している。図2に示すように,後方互換性のため,SIGNALフィールドの前に,2つの送信アンテナの双方のためにSISOシステムの場合と同じT1とT2を使用している。SIGNALフィールドの後,一方の送信アンテナのためのT1及びT2を使用し,他方の送信アンテナのために-T1及び-T2を使用している。このようにすると,同時に送信されたパケットが単一のSISO受信機によって受信されると,SISO受信機はSIGNALフィールドまで正常に検出することができる。これは,両方の送信アンテナで同じであるように設計されている。SIGNALフィールド内のリザーブ・ビットは,MIMO伝送が続く場合はその動作を停止し,そうでない場合はその動作を継続するよう,SISO受信機に伝えることができる。SIGNALフィールドの前後の長トレーニング・シンボルは,MIMO受信機においてチャネル推定のために使用される。)


以上の記載によれば,MIMOシステムにおいて,IEEE802.11a との後方互換性(すなわち,レガシー互換。)のために,IEEE802.11a と同様のAGC等のために使用される短トレーニング・シンボル及びSISOチャネルの推定等のために使用される長トレーニング・シンボル・ブロック1,及び2つの送信アンテナ双方のための長トレーニング・シンボル・ブロック2からなる時分割トレーニングパターンを有するプリアンブルを備えるパケットを送信することが見てとれる。ここで,「IEEE802.11a と同様のAGC等のために使用される短トレーニング・シンボル及びSISOチャネルの推定等のために使用される長トレーニング・シンボル・ブロック1」を含む部分は,IEEE802.11a と同様のヘッダであるから,「レガシーヘッダ」といえ,また,「2つの送信アンテナ双方のための長トレーニング・シンボル・ブロック2」を含む部分は,MIMOシステム特有のものであるから,MIMOヘッダといえる。
したがって,刊行物1には
「MIMOパケット用の時分割トレーニングパターンとして,AGCに用いるレガシー互換のための短シンボルを含むレガシーヘッダ,複数の長シンボルを含むMIMOヘッダを含むプリアンブルを送信する方法。」
の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2には,以下の事項が記載されている。
「Precise AFC scheme for performance improvement of SDM-COFDM
ABSTRACT
The SDM (space division multiplexed) - COFDM (coded orthogonal frequency division multiplexing) system has been proposed to improve frequency utilization efficiency by using a simple feedforward ICI (interchannel interference) canceller to multiply the estimated propagation inverse matrix of a MIMO (multi-input multi-output) channel. However, when a carrier frequency offset between the transmitter and receiver exists, the orthogonality of the subcarrier between the SDM signals becomes lost and the performance degrades. This paper proposes a new AFC (automatic frequency control) scheme which makes it possible to use a common carrier frequency by averaging the estimated frequency error of each receiver. Computer simulation shows that the proposed AFC scheme improves SDM-COFDM PER performance in frequency selective fading environments.」
([当審仮訳]:
SDM-COFDMの性能向上のための正確なAFC方式
要約
SDM(空間分割多重)-COFDM(符号化直交周波数分割多重)方式は,MIMO(多入力多出力)チャネルの推定された伝搬逆行列を乗算するために,単純なフィードフォワードICI(チャネル間干渉)キャンセラを用いることにより,周波数利用効率を向上させることが提案されている。しかしながら,送信機と受信機との間にキャリア周波数オフセットが存在する場合,SDM信号のサブキャリアの直交性が失われ,パフォーマンスが低下する。この論文は,各受信機の推定された周波数誤差を平均化することにより,共通のキャリア周波数を使用することを可能にする新たなAFC(自動周波数制御)方式を提案する。コンピュータシミュレーションは,提案されたAFC方式は周波数選択性フェージング環境下でのパフォーマンスPER SDM-COFDMを改善することを示している。)

「SDM-COFDM System Configuration
Figure 1 shows the configuration of an SDM-COFDM in with two transmit antennas and two receiving antennas. Two information data sequences are encoded individually by convolutional encoders. The preambles are added to the encoded data and mapped into each subcarrier. The frame format of the system is shown in Figure 2 (a).
(中略)
The details of the preamble are shown in Fig. 2(b). The notations ‘preamble A’, ‘preamble B’ and ‘preamble C’ are the same as those used in the standardized body of HIPERLAN/2. The notation ‘C64’ means ‘preamble C’ of HIPERLAN/2 and ‘C32’ is the latter half of ‘C64.’ The notations ‘-C64’ and ‘-C32’ are the inverse-signed signals of ‘C64’ and ‘C32.’ The repetition parts of received signals, ‘C64’, are used for (H^(i))^(-1). Repeated preambles are averaged in order to compensate channel estimation error due to noise. 」(1408ページ右欄27?33行,1409ページ左欄25?33行)
([当審仮訳]:
SDM-COFDMシステム構成
図1は,2つの送信アンテナと2つの受信アンテナとでSDM-OFDMの構成を示している。2つの情報データ系列を畳み込み符号器によって個別に符号化される。プリアンブルは,符号化データに付加し,各サブキャリアにマッピングされる。システムのフレームフォーマットは,図2(a)に示される。
(中略)
プリアンブルの詳細は,図2(b)に示される。表記「プリアンブルA」,「プリアンブルB」及び「プリアンブルC」は,HIPERLAN/2の標準化されたボディで使用されるものと同じである。表記「C64」はHIPERLAN/2「プリアンブルC」を意味し,「C32」は 「C64」の後半分である。表記「-C64」及び「-C32」は,「C64」及び「C32」の逆符号付きの信号である。受信された信号の繰り返し部分,「C64」は,(H^(i))^(-1)のために使用される。繰り返されたプリアンブルがノイズによるチャネル推定誤差を補償するために平均化される。)


以上の記載によれば,2つの送信アンテナと2つの受信アンテナ(すなわち,MIMO。)のSDM-OFDMの構成に係るパケットのプリアンブルについて記載されており,AGCに用いるPreamble Aは短トレーニング・シンボルに対応し,チャネル推定に用いる複数のPreamble Cは長トレーニング・シンボルに対応し,全体として時分割トレーニングパターンを構成していることは明らかである。
したがって,刊行物2には
「MIMOパケット用の時分割トレーニングパターンとして,AGCに用いる短シンボル及び複数の長シンボルを含むプリアンブルを送信する。」
との発明(以下,「公知技術1」という。)が記載されていると認められる。

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物3には,以下の事項が記載されている。
「【0113】(実施の形態3)この実施の形態のOFDM通信装置の特徴は,図7に示すように,各アンテナから送信されるOFDM信号の特定のサブキャリアをパイロットキャリアとすると共に,あるアンテナからパイロットキャリアが送信されているサブキャリアに対応する,他のアンテナのサブキャリアをヌル信号とした点である。これにより,実施の形態1や実施の形態2の効果に加えて,OFDM信号のピーク電力を抑圧できるといった効果を得ることができる。
【0114】図7の例では,既知信号を送信するサブキャリア数を4つとし,各アンテナからそれぞれ既知信号が重畳された2つのパイロットキャリアを送信し,各アンテナからこれら2つのパイロットキャリアに対応して2つのヌル信号を送信するようになっている。ここでヌル信号の送信電力は0となるため,2つのサブキャリアをヌル信号とした分だけ,各OFDM信号の送信時のピーク電力を低減できる。
【0115】これを実現するためのOFDM通信装置の送信系の構成を,図8を用いて説明する。図3との対応部分に同一符号を付して示す図8において,送信系150はデータ1にパイロットキャリア(既知信号)を挿入するパイロットキャリア挿入部151及びヌル信号挿入部152を有する。また送信系150はデータ2にパイロットキャリア(既知信号)を挿入するパイロットキャリア挿入部154及びヌル信号挿入部153を有する。ヌル信号挿入部153はパイロットキャリア挿入部151が既知信号を挿入した位置にヌル信号を挿入する。ヌル信号挿入部152はパイロットキャリア挿入部154が既知信号を挿入した位置にヌル信号を挿入する。
【0116】以上の構成によれば,各アンテナから送信されるOFDM信号の特定のサブキャリアをパイロットキャリアとすると共に,あるアンテナからパイロットキャリアが送信されているサブキャリアに対応する,他のアンテナのサブキャリアをヌル信号としたことにより,実施の形態2の効果に加えて,各アンテナから送信されるOFDM信号のピーク電圧を低減することができる。
【0117】(実施の形態4)この実施の形態のOFDM通信装置の特徴は,図9に示すように,実施の形態3での特徴に加えて,データを送信しているサブキャリアのうち特定のサブキャリアについては,1本のアンテナのみからデータを送信し,他のアンテナからはヌル信号を送信するようにした点である。これにより実施の形態3の効果に加えて,伝送効率をほとんど低下させずに,他のデータより良好な誤り率特性が要求されるデータの誤り率特性を向上させることができる。」(11ページ20欄?12ページ21欄)

【図7】


以上の記載によれば,既知信号を送信するサブキャリア数を4つとし,各アンテナからそれぞれ既知信号が重畳された2つのパイロットキャリアを送信することが記載されており,図7(a)ではサブキャリア(-k)とサブキャリア(k)の組がパイロットキャリアとなり,同(b)ではサブキャリア(-k+2)とサブキャリア(k-2)の組がパイロットキャリアとなることが見てとれる。
したがって,刊行物3には
「4つのパイロットキャリア(サブキャリア(-k,-k+2,k-2,k))が,サブキャリア(-k,k)の組と,サブキャリア(-k+2,k-2)の組に分割され,2つのアンテナの各々が,分割されたパイロットキャリアの組を送信する。」
との発明(以下,「公知技術2」という。)が記載されていると認められる。

本件の最先の優先日前に頒布されたDias, A. Ribeiro et al.,MTMR channel estimation and pilot design in the context of space-time block coded OFDM-based WLANs,Proceedings of IST Mobile and Wireless Telecommunications Summit,2002年(以下,「刊行物4」という。)には,以下の事項が記載されている。


」(2葉目右欄29?46行)
([当審仮訳]:
IV. LS推定のためのパイロットデザイン
単一のパイロットシンボルの使用は,たとい2回繰り返しても,LS推定器におけるランクの制約を緩和することはできない。これは,マルチアンテナ送信の場合に重要となってくる。このセクションでは,必ずしも同一である必要のない連続したパイロットの伝送を可能にすることによって,パイロットの設計において追加の自由度を導入する。ここでは,OFDMパイロットシンボルの数が送信アンテナNの数に等しいと仮定する。これをモデル化するため,時間の次元を追加することにより導入される行列のいくつかを拡張する必要がある。
((5)式は省略)
ここで,X_(n)^((l))は,l番目のOFDMパイロットシンボルの間にアンテナnから送信されたパイロットシンボルの対角行列である。同様に,(数式省略)であり,ここで,Y^((l))はOFDMパイロットシンボルの間に受信された信号であり,雑音B^((l))により原形が損なわれている。)



」(3葉目右欄19?33行)
([当審仮訳]:
C.サブセット
(13)式に記述された直交性の状態は,各アンテナのための重複しないキャリアのサブセットの送信によっても得ることができる。直交性は,異なる送信アンテナのために空間領域で得られ,送信されるOFDMパイロットはキャリア対キャリアで直交しており,それは(数式省略)である。例えば,N=2では:
((15)式及び(16)式省略)
このような設計の潜在的な問題は,プリアンブル送信時の高いピーク対平均電力比につながるかもしれないということであり,これはチャネル推定の性能を劣化させる。)

以上の記載によれば,複数のアンテナでパイロットキャリアを送信することに関して開示されており,(15)式から,アンテナ毎に互いに異なるキャリアのサブセットを関連付けられることが見てとれる。なお,刊行物4の上記記載をみても,キャリアのサブセットがアンテナ毎に互いに異なる順序でを関連付けられることまでは読み取れない。
したがって,刊行物4には
「複数のアンテナでパイロットキャリアを送信する際に,アンテナ毎に互いに異なるキャリアのサブセットを関連付ける。」
との発明(以下,「公知技術3」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると,
引用発明の「AGCに用いるレガシー互換のための短シンボルを含むレガシーヘッダ」は,本願発明の「レガシーヘッダの受信のための自動利得制御を定める第1の複数の短シンボルを含む前記レガシーヘッダ」に相当する。
引用発明の「MIMOヘッダ」は,MIMOシステム用のヘッダであり,複数の長シンボルを備える点で,本願発明の「MIMOヘッダ」に対応している。

したがって,本願発明と引用発明とは,
「多入力多出力(MIMO)パケット用の時分割トレーニングパターンを送信するための方法であって,
レガシーヘッダの受信のための自動利得制御を定める第1の複数の短シンボルを含む前記レガシーヘッダを送信することと,
MIMOヘッダを送信することと
を備え,前記MIMOヘッダは,
複数の長シンボル
を備える,方法。」
の点で一致している。

他方,本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
一致点のMIMOヘッダに関し,本願発明のMIMOヘッダは「前記MIMOヘッダの受信のための自動利得制御を容易にする第2の複数の短シンボル」を備えるのに対して,引用発明のMIMOヘッダは当該構成を有していない点。


(相違点2)
一致点のMIMOヘッダに関し,本願発明は「前記MIMOヘッダを送信することは,複数のアンテナを用いて前記第2の複数の短シンボルおよび前記複数の長シンボルを送信することを備え,前記第2の複数の短シンボルは,予め定めた短ビンの組の間で,少なくとも短ビンの第1の組および短ビンの第2の組に分割され,前記複数の長シンボルは,予め定めた長ビンの組の間で,少なくとも長ビンの第1の組および長ビンの第2の組に分割され,前記複数のアンテナの第1のアンテナは,前記短ビンの第1の組に関連付けられ,前記複数のアンテナの第2のアンテナは,前記短ビンの第2の組に関連付けられ,前記第1のアンテナは,前記第2のアンテナによって用いられる前記長ビンの第1の組および前記長ビンの第2の組の第2の順序とは互いに異なる,前記長ビンの第1の組および前記長ビンの第2の組の第1の順序を用い」るのに対し,引用発明は当該構成を有していない点。

(3)判断
まず相違点2について検討する。
公知技術1?3のとおり,「MIMOパケット用の時分割トレーニングパターンとして,AGCに用いる短シンボル及び複数の長シンボルを含むプリアンブルを送信する。」こと,「4つのパイロットキャリア(サブキャリア(-k,-k+2,k-2,k))が,サブキャリア(-k,k)の組と,サブキャリア(-k+2,k-2)の組に分割され,2つのアンテナの各々が,分割されたパイロットキャリアの組を送信する。」こと,「複数のアンテナでパイロットキャリアを送信する際に,アンテナ毎に互いに異なるキャリアのサブセットを関連付ける。」ことは,それぞれ公知である。
しかしながら,MIMOヘッダに関して,「前記第2の複数の短シンボルは,予め定めた短ビンの組の間で,少なくとも短ビンの第1の組および短ビンの第2の組に分割され」,「前記複数のアンテナの第1のアンテナは,前記短ビンの第1の組に関連付けられ,前記複数のアンテナの第2のアンテナは,前記短ビンの第2の組に関連付けられ」ることは,いずれの刊行物にも教示されていない。
また,MIMOヘッダに関して,「前記複数の長シンボルは,予め定めた長ビンの組の間で,少なくとも長ビンの第1の組および長ビンの第2の組に分割され」,「前記第1のアンテナは,前記第2のアンテナによって用いられる前記長ビンの第1の組および前記長ビンの第2の組の第2の順序とは互いに異なる,前記長ビンの第1の組および前記長ビンの第2の組の第1の順序を用いる」ことも,いずれの刊行物にも教示されていない。
したがって,当業者といえども相違点2を容易に想到し得たとすることはできない。

(4)小括
したがって,相違点1について判断するまでもなく,本願発明は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また,本願の請求項2に係る発明は,実質的に本願発明からレガシーヘッダに関する構成を省略したものであるが,同様に,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また,請求項3?7に係る発明は,請求項2に係る発明をさらに限定したものであるので,同様に,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
理由1 (明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由2 (実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



●理由1について
(1)特許請求の範囲では,「短シンボル」,「長シンボル」,「SIGNALシンボル」の用語が用いられているが,定義が不明である。また,単数なのか複数なのかも不明確であるため,無線LANの規格である「IEEE802.11a」,「IEEE802.11n」との対応関係も不明である。
例えば,上記「IEEE802.11n」では,ショート・プリアンブル(STF)として10個のショート・トレーニング・シンボルを8μsで送信し,ロングのプリアンブル(LTF)として2個のロング・トレーニング・シンボルを8μsで送信し,SIGNALとして1つのOFDMシンボルを用いて4μsで送信することが定められている。
そして,上記「短シンボル」が,上記「IEEE802.11n」で言う1個のショート・トレーニング・シンボルの単位であるのか,10個のショート・トレーニング・シンボルからなるシンボル列の単位であるのか,それ以外のものか不明である。
また,上記「長シンボル」が,上記「IEEE802.11n」で言う1個のロング・トレーニング・シンボルの単位であるのか,2個のロング・トレーニング・シンボルからなるシンボル列の単位であるのか,不明である。
さらに,「SIGNALシンボル」については,上記「IEEE802.11n」で言う1つのOFDMシンボルの単位であるのか否か,不明である。
したがって,請求項1?7に係る発明が不明確である。

(2)特許請求の範囲では,「短ビン」,「長ビン」の用語が用いられているが,一般的な技術用語ではなく,定義が不明確である。
したがって,請求項1?7に係る発明が不明確である。

(3)請求項1には,「前記第2の複数の短シンボルは,予め定めた短ビンの組に分割され,・・・(中略)・・・前記複数のアンテナの各々は,前記短ビンのサブセット,・・・(中略)・・・に関連付けられている」と記載されているが,「前記短ビンのサブセット」の記載では,アンテナの各々は,分割された短ビンの各組に関連付けられるのか,これ以外のサブセットに関連付けられるのか,不明確である。
請求項2の記載も同様であるから,従属請求項を含め,請求項1?7に係る発明が不明確である。

(4)請求項1には,「複数のアンテナを用いて前記第2の複数の短シンボルおよび前記複数の長シンボルを送信することを備え,・・・(中略)・・・前記複数のアンテナの各々は,前記短ビンのサブセット,およびアンテナ毎に互いに異なる順序の前記長ビンの組に関連付けられている」と記載されているが,単に「アンテナ毎に互いに異なる順序の前記長ビンの組」の記載では,関連付けられる長ビンの組が,アンテナ間,ないしは時系列の前後でいかなる関係にあるのかが明らかでなく,各アンテナに対していかなる長ビンの組が関連付けられるのか,不明確である。
具体的には,(ア)複数のアンテナの各々が同時に使用する長ビンは異なるものであるのか否か,また(イ)長シンボルが時間方向に複数存在し,複数のアンテナの各々は前記複数の長シンボルにわたって順次異なる長ビンの組を使用するのか否か,そして,(ウ)複数のアンテナの各々は順次異なる長ビンの組を使用することで,ビン全部を用いて長シンボルを送信するのか否かが不明確である。
請求項2の記載も同様であるから,従属請求項を含め,請求項1?7に係る発明が不明確である。

(5)請求項1には,「第2の複数の長シンボル」と記載されているが,「第1の複数の長シンボル」とは記載されておらず,請求項1の記載全体から見て,「第2の」の記載の意味が不明確である。単に「複数の長シンボル」としてはどうか。
請求項1に係る発明が不明確である。

(6)請求項5には,「前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナによって・・・(中略)・・・請求項3記載の方法。」と記載されているが,「第1のアンテナ」,「第2のアンテナ」が記載されているのは,請求項4であるため,請求項3を引用する旨の記載では,不明確である。
したがって,請求項5に係る発明が不明確である。

●理由2について
・請求項 1?7
請求項1では,「第2の複数の長シンボルは,長ビンの組に関連付けられており,前記複数のアンテナの各々は,前記短ビンのサブセット,およびアンテナ毎に互いに異なる順序の前記長ビンの組に関連付けられている」と記載されている。
ここで,複数の長シンボルを順次送信することに関し,発明の詳細な説明及び図面(特に図6,7A,7B参照)には,例えば,図7Aにおいて,「Long(S)705A」の送信後に,ビンを変えて「Long(S)705B」を送信することが記載されている。
そして,「Long(S)705A」,「Long(S)705B」と言った単位が,上記理由1(1)に記載した1個のロング・トレーニング・シンボルの単位であるのか,2個のロング・トレーニング・シンボルからなるシンボル列の単位であるのか,不明である。
したがって,時間方向にいかなる長シンボルの単位でビンを変えて送信を行うのかが明らかでない。
よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
請求項2?7についても同様である。

2 当審拒絶理由の判断
(1)平成28年3月18日付け意見書によって,特許請求の範囲に記載中の「短シンボル」は,IEEE802.11a規格文書に基づきPLCPプリアンブルに含まれている短シンボル(ショート・トレーニング・シンボル)t_(n)のうちの1つとして解釈可能であることが明らかになった。また,同「長シンボル」は,IEEE802.11a規格文書に基づきPLCPプリアンブルに含まれている長シンボル(ロング・トレーニング・シンボル)T_(n)のうちの1つとして解釈可能であることが明らかになった。また,同「SIGNALシンボル」はIEEE802.11a規格文書で説明されているSIGNAL単一OFDMシンボルとして解釈可能であることが明らかになった。
よって,当審拒絶理由1(1)は解消した。

(2)平成28年3月18日付け意見書によって,特許請求の範囲に記載中の「短ビン」は,上記短シンボルが送信されるサブキャリア(周波数ビン)であることが明らかになった。また,特許請求の範囲に記載中の「長ビン」は,上記長シンボルが送信されるサブキャリア(周波数ビン)であることが明らかになった。
よって,当審拒絶理由1(2)は解消した。

(3)平成28年3月18日付け手続補正書によって,本願の請求項1の,「前記第2の複数の短シンボルは,予め定めた短ビンの組に分割され,・・・(中略)・・・前記複数のアンテナの各々は,前記短ビンのサブセット,・・・(中略)・・・に関連付けられている」は「前記第2の複数の短シンボルは,予め定めた短ビンの組の間で,少なくとも短ビンの第1の組および短ビンの第2の組に分割され,・・・(中略)・・・前記複数のアンテナの第1のアンテナは,前記短ビンの第1の組に関連付けられ,前記複数のアンテナの第2のアンテナは,前記短ビンの第2の組に関連付けられ」と補正された。このことにより,当該記載の内容は明確となった。
よって,当審拒絶理由1(3)は解消した。

(4)平成28年3月18日付け手続補正書によって,本願の請求項1の「アンテナ毎に互いに異なる順序の前記長ビンの組」は「前記第1のアンテナは,前記第2のアンテナによって用いられる前記長ビンの第1の組および前記長ビンの第2の組の第2の順序とは互いに異なる,前記長ビンの第1の組および前記長ビンの第2の組の第1の順序を用いる」と補正された。このことにより,当該記載の内容は明確となった。
よって,当審拒絶理由1(4)は解消した。

(5)平成28年3月18日付け手続補正書によって,本願の請求項1の「第2の複数の長シンボル」は「複数の長シンボル」と補正された。このことにより,当該記載は明確となった。
よって,当審拒絶理由1(5)は解消した。

(6)平成28年3月18日付け手続補正書によって,本願の独立請求項である請求項2に「第1のアンテナ」及び「第2のアンテナ」が記載されることとなった。このことにより,請求項5と請求項5が引用する請求項3とは整合性は取れたものとなった。
よって,当審拒絶理由1(6)は解消した。

(7)上記(1)のとおり,IEEE802.11a規格文書を参照することにより,特許請求の範囲に記載中の「長シンボル」が少なくとも1つのロング・トレーニング・シンボルT_(n)を含むとして解釈可能であることが明らかになった。したがって,本願の発明の詳細な説明の記載は,請求項1-7の記載を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいうことはできない。
よって,当審拒絶理由2は解消した。


第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-05-31 
出願番号 特願2013-118247(P2013-118247)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04J)
P 1 8・ 536- WY (H04J)
P 1 8・ 537- WY (H04J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 速水 雄太長谷川 篤男  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 菅原 道晴
中野 浩昌
発明の名称 多入力多出力システムおよび方法  
代理人 奥村 元宏  
代理人 井関 守三  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  

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