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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1315112
審判番号 不服2015-5496  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-24 
確定日 2016-06-20 
事件の表示 特願2013-537942「多入力多出力送信アップリンクにおける外側および内側電力制御ループためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月18日国際公開,WO2012/064781,平成25年12月19日国内公表,特表2013-545407,請求項の数(30)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2011年11月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年11月8日 米国,2011年11月7日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成26年4月30日付けで拒絶理由が通知され,同年7月15日付けで手続補正がなされたが,平成27年1月26日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年3月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成27年3月24日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
(補正事項1)
本件補正は,平成26年7月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1,15,18,21中に記載された「前記電力制御命令が,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御するように適合される」を,「前記電力制御命令が,単一の内側ループ電力制御を利用して,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御するように適合される」と限定するものである。
([当審注]:上記の下線部は補正箇所を示す)

(補正事項2)
本件補正は,平成26年7月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項6,17,20,26中の「第1の電力制御命令」に関し,「前記第1の電力制御命令が,単一の内側ループ電力制御を利用して,前記一次ストリームの前記電力および前記二次ストリームの電力を制御するように適合される」との限定を付すものである。

(補正事項3)
本件補正前の請求項5,16,19,25を削除し,それに伴い請求項の項番を繰り上げるものである。

2 補正の適否
(補正事項1,2について)
補正事項1も,補正事項2と同様に,本願明細書の【0122】?【0125】,【0136】,【0140】の記載に基づいて,「第1の電力制御命令」に関して,「前記第1の電力制御命令が,単一の内側ループ電力制御を利用して,前記一次ストリームの前記電力および前記二次ストリームの電力を制御するように適合される」との限定を付すものといえる。したがって,補正事項1及び2は,特許法第17条の2第3項及び同第4項に違反するところはなく,同第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)補正発明
補正発明は,平成27年3月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「第1のユーザ機器から多入力多出力(MIMO)アップリンクの第1のストリームを受信するステップであって,前記第1のストリームが,一次データチャネルおよび一次パイロットチャネルを含む,ステップと,
前記第1のユーザ機器から前記MIMOアップリンクの第2のストリームを受信するステップであって,前記第2のストリームが,二次パイロットチャネルを含む,ステップと,
前記一次パイロットチャネルに対応する信号対干渉比を求めるステップと,
前記求められた信号対干渉比と信号対干渉比の目標との比較に従って,電力制御命令を生成するステップであって,前記電力制御命令が,単一の内側ループ電力制御を利用して,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御するように適合される,ステップと,
1つの送信時間間隔(TTI)において2つのハイブリッド自動再送要求(HARQ)処理を単一のHARQエンティティで実行するステップであって,前記第1のストリームのための第1のHARQ処理と前記第2のストリームのための第2のHARQ処理とを含む,ステップと
を含む,方法。」

(2)引用発明及び公知技術
(引用発明)
原査定の拒絶の理由に引用された.Nokia Siemens Networks, Nokia,Options for uplink closed loop TX diversity & beamforming([当審仮訳]:アップリンク閉ループ送信ダイバーシティ及びビームフォーミングのためのオプション),3GPP TSG-RAN WG1 Meeting #62 R1-104914,3GPP,2010年8月27日(以下,「引用例」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「Beamforming
Beamforming refers to schemes in which the E-DPCCH & E-DPDCH are transmitted simultaneously from both UE antennas, with a phase offset applied between the antennas. Similarly to TX antenna diversity, beamforming may be implemented as a single pilot based scheme or using dual pilots.」(3葉末行?4葉4行)
([当審仮訳]:
ビームフォーミング
ビームフォーミングは,E-DPCCH及びE-DPDCHが,アンテナ間に印加される位相オフセットを持って,UEの両方のアンテナから同時に送信される方式をいう。送信アンテナダイバーシティと同様に,ビームフォーミングは,単一のパイロットベースのスキームとして,又はデュアル・パイロットを使用して,実装され得る。)

イ 「Dual pilot beamforming
Where dual pilot beamforming is applied, 2 DPCCHs are transmitted; one on each antenna branch whilst the E-DPCCH and E-DPDCH are transmitted over both antenna branches with a TX weight applied on each branch. The availability of 2 pilots enables the Node B to continuously calculate the optimal TX weights and signal these to the UE.

Again, in SHO a solution needs to be considered further as to which Node B a UE should follow. Furthermore, Node Bs may need to have explicit knowledge of which weights the UE has used. (However in practice, the Node B at which the RX SINR target is met is likely to be the Node B that decodes the current HARQ transmission successfully whilst at other Node B where the SINR target is not met, E-DPCCH and E-DPDCH decoding is likely to be anyhow unsuccessful even with the correct weights. Thus signalling of the weights around other Node Bs may not be essential).

It should be noted that unlike the dual pilot antenna switching case, there is not necessarily an increased DPCCH overhead. The channel estimate for the E-DPDCH demodulation is formed from both of the DPCCHs, and thus the traffic to pilot ratio can be set with respect to the total DPCCH power. This implies an approximate halving of the power per DPCCH compared with no TX diversity.

Two approaches could be considered to power control. In the first, the two antenna branches are transmitted with equal power, and a single power control loop based on the composite SINR is maintained; this leads to different RX SINR at the two antenna branches. A second alternative would be to maintain two power control loops; one for each antenna branch. Such an approach would lead to equal RX SINR but different TX power.

The first approach to power control would lead to an UL TX diversity scheme that most closely resembles DL TxAA and which could naturally be extended to a dual stream MIMO scheme similar to D-TxAA in the downlink. 」(4葉末行?5葉下から5行)
([当審仮訳]: )
デュアル・パイロット・ビームフォーミング
デュアル・パイロット・ビームフォーミングが適用される場合,各アンテナブランチに1つずつで2つのDPCCHが送信され,一方,E-DPCCH及びE-DPDCHは各ブランチに適用される送信重みを有する両方のアンテナブランチを介して送信される。2つのパイロットが利用できることは,ノードBが連続的に最適な送信重みを計算してUEに通知することを可能にする。

再びいうが,ソフトハンドオーバ(SHO)では,さらにUEはどのノードBに従うべきかについての解決策が考慮される必要がある。また,ノードBは,UEが使用している重みの明示的な知識を持っている必要があるかもしれない。 (しかし実際には,受信SINRの目標が満たされているノードBは,現在のHARQ送信を正常に復号するノードBである可能性が高く,そうでないノードBではSINR目標が満たされておらず,正しい重みでもE-DPCCH及びE-DPDCHの復号はどうしても失敗しそうである。したがって,他のノードB周りの重みのシグナリングは必須ではないかもしれない。)

デュアル・パイロット・アンテナ切替の場合とは異なり,DPCCHのオーバーヘッドは必ずしも増加しないことに留意すべきである。E-DPDCHの復調のためのチャネル推定値は両方のDPCCHから形成され,したがって,パイロットに対するトラフィックの比は全DPCCH電力について設定することができる。これは,送信ダイバーシティがない場合と比較して,DPCCH当たりの電力がおよそ半分となることを意味する。

電力制御に対して2つのアプローチが考えられる。第1では,2つのアンテナブランチは同じ電力で送信され,複合SINRに基づく単一の電力制御ループが維持される。これは,2つのアンテナブランチで異なる受信 SINRをもたらす。第2の代替案は,各アンテナブランチのためのそれぞれ1つの,2つの電力制御ループを維持する。このようなアプローチは受信SINRは同じであるが送信電力が異なることにつながる。

電力制御に対する第1のアプローチは,DL TxAAに最もよく似たアップリンク送信ダイバーシティにつながり,ダウンリンクにおけるD-TxAAに似たデュアル・ストリームMIMO方式に当然に拡張することができる。)


上記ア,イの記載及び図面並びに当該分野の技術常識を参酌すると,
上記アの記載によれば,UEがビームフォーミングを行ってアップリンク送信を行うことについて記載されており,ノードBが当該アップリンク送信を受信することは明らかである。そして,上記イの1段落目の記載及び図面によれば,ビームフォーミングはデュアル・パイロット・ビームフォーミングであって,アップリンク送信では,DPCCH1は第1のアンテナから送信され,DPCCH2は第2のアンテナから送信され,E-DPDCHは第1及び第2の両方のアンテナから送信されることが見て取れる。そして,当該構成によりノードBは2つのパイロットが利用できるのであり,DPCCH1,DPCCH2がそれぞれパイロットを含むものであることは当業者に明らかである。ここで,DPCCH1及びw1で重み付けされたE-DPDCH等を含むものを「第1のストリーム」と称し,DPCCH2及びw2で重み付けされたE-DPDCH等を含むものを「第2のストリーム」と称し,DPCCH1,w1で重み付けされたE-DPDCH,DPCCH2,w2で重み付けされたE-DPDCHをそれぞれ「一次パイロットチャネル」,「一次データチャネル」,「二次パイロットチャネル」,「二次データチャネル」と称することは任意である。
したがって,引用例には,「UEからデュアル・パイロット・ビームフォーミングを行うアップリンクの第1のストリームを受信し,ここで,前記第1のストリームが,一次データチャネルおよび一次パイロットチャネルを含む」こと,及び「前記UEから前記アップリンクの第2のストリームを受信し,ここで,前記第2のストリームが,二次データチャネルおよび二次パイロットチャネルを含む」ことが記載されていると認められる。

また,上記イの4段落目の記載によれば,電力制御の第1のアプローチでは,複合SINRに基づく単一の電力制御ループが維持され,2つのアンテナブランチで同じ電力で送信され,それにより2つのアンテナブランチで異なる受信SINRをもたらされるものである。ここで,SINRはパイロットに基づいて求められるものであること,送信電力制御(TPC)が電力制御命令によりなされることは,当業者における技術常識である。また,複合SINRに基づく単一の電力制御ループが維持され,2つのアンテナブランチで同じ電力で送信されるのであるから,複合SINRに基づいて電力制御命令が生成されていることは明らかであり,当該電力制御命令が,単一電力制御ループを利用して,第1のストリームの電力および第2のストリームの電力を制御していることも明らかである。
したがって,引用例には,「前記パイロットチャネルに対応する複合SINRを求め,前記求められた複合SINRに基づいて電力制御命令を生成し,ここで,前記電力制御命令が,単一電力制御ループを利用して,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御する」ことが記載されていると認められる。

以上を総合すると,引用例には,
「UEからデュアル・パイロット・ビームフォーミングを行うアップリンクの第1のストリームを受信し,ここで,前記第1のストリームが,一次データチャネルおよび一次パイロットチャネルを含む,
前記UEから前記アップリンクの第2のストリームを受信し,ここで,前記第2のストリームが,二次データチャネルおよび二次パイロットチャネルを含む,
前記パイロットチャネルに対応する複合SINRを求め,
前記求められた複合SINRに基づいて電力制御命令を生成し,ここで,前記電力制御命令が,単一電力制御ループを利用して,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御する,方法。」

(公知技術)
原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-348011号公報(以下,「公知例1」という。)には,「ソフトハンドオーバー時における送信電力オフセット制御周期決定方法および無線制御装置」として,図面とともに以下の事項が記載されている。

ウ 「【0003】
【従来の技術】近年のインターネット関連技術の発達に伴い,インターネットで音楽配信などの種々のサービスを提供できるようになってきている。このようなサービスでは,下り回線の伝送量が非常に多くなる。第3世代移動通信システムの国際規格を検討する3GPP(3rd Generation Partnership Project)では,下り回線の伝送量が多いサービスを実現するために,下り回線におけるパケットアクセス方式の1つとしてとして,1つの下りチャネルを複数の移動局で共有するダウンリンクシャドチャネル(DSCH:Downlink Shared Channel,以下DSCHと略記)が採用されている。図12は,移動パケット通信システムにおいて,DSCHを用いてパケット伝送を行う場合の従来技術を説明するための図である。同図に示すように,下り回線(基地局A310から移動局A410に向かう回線でダウンリンクとも呼ばれる)においては,移動局A410宛のデータを送信するためのDSCH(太線)と,該DSCHに付随し,上記移動局A410と無線制御情報をやり取りするための物理チャネルA-DPCH(A-DPCH:Associated-Dedicated Physical Channel(点線),以下,本例では,ADCHと略記する)の2本の無線チャネルが別々に用いられており,また,上り回線(移動局A410から基地局A310に向かう回線でアップリンクとも呼ばれる)においては,移動局A410からのデータと制御用の情報が1本の物理チャネル(DCH:Dedicated Control Channel(実線),以下,DCHと略記)に多重されて基地局A310との通信が行われる。下り回線におけるADCHは,制御用の信号のみを送信するため,比較的低速な回線速度に設定され,上り回線におけるDCHは,制御用の信号と,ユーザデータも共に送信するため,下りのADCHよりは,高速な回線速度が設定される。また,DSCHに関しては,高速なデータ通信を行えるようにADCHと比較すると高速な回線速度が設定される。
(中略)
【0006】さて,無線アクセス方式の1つであるCDMA(Code Division Multiple Access)のように,符号を用いてチャネルを構成する移動パケット通信システムにおいては,システム容量の低下を防止することができるという観点から,送信電力制御が重要な要素技術となっている。例えば,ITU(国際電気通信連合)で策定されたIMT-2000(International Mobile Telecommunications 2000)で採用されたW-CDMAシステムにおいては,高速送信電力制御と呼ばれる技術が適用される。図14は,このW-CDMAシステムにおけるパケット伝送(DSCHを用いてのパケット伝送)時の送信電力制御の動作を説明するための図である。図14において,移動局A410では,基地局A310から送信されるADCHの信号電力対干渉電力比(以下,SIRと略記)を計算(測定)し,その結果とあらかじめ定められている目標値(=ターゲット値)とを比較する。その比較で,目標値より低ければ,基地局A310に対して,ADCHの送信電力を増加させるように,DCHにて,送信電力コマンドを送信する。逆にADCHのSIRが目標値よりも大きければ,ADCHの送信電力を下げるように送信電力コマンドをDCHにて送信する(同図丸1?丸4のステップ)。
【0007】また,基地局A310では,DCHのSIRを計算(測定)し,移動局A410と同様に,あらかじめ定められた目標値(ターゲット値)とDCHのSIRとを比較し,ADCHにて送信電力制御コマンドを送信する(同図丸5?丸8のステップ)。このようにして,移動局A410と基地局A310は,互いの送信電力を調整し合い,常に最適な送信電力を保つよう動作する。また,DSCHの送信電力は,ADCHの送信電力値にあらかじめ定められた値(オフセット値)を乗算した値に基づき制御される。これは,ADCHの送信電力が移動局A410から送信される送信電力制御コマンドに基づき,常に最適に制御されていると考えられ,また,ADCHとDSCHが同時に送信されるため,基地局と移動局間の無線回線状態はADCHとDSCHで同一とみなせるので,このような制御方法となっている。なお,オフセット値は複数の基地局を制御する無線回線制御措置から該当の基地局へと通知される。」(2ページ2欄?3ページ4欄)
([当審注]:表記上の事情で,丸囲いの数字(例えば,1。)は「丸1」と表記する。)

上記ウの記載及び当該分野の技術常識を参酌すると,「送信電力制御について,ADCHのための送信電力コマンドを送信し,DSCHの送信電力値についてADCHの送信電力値にオフセットを乗算した値に基づき制御することにより,ADCHの送信電力コマンドでADCH及びDSCHの両方が制御されること。」は公知であると認められる(以下,「公知技術1」という。)。

原査定の拒絶の理由に引用された特表2010-523042号公報(以下,「公知例2」という。)には,「セルラー通信ネットワークのための方法及び構成」として,図面とともに以下の事項が記載されている。

エ 「【0003】
物理層においてEULは,例えばE-DPCCH(E-DCH Dedicated Physical Control Channel)及びE-DPDCH(E-DCH Dedicated Physical Data Channel)を導入している。E-DPDCHは,E-DCH伝送チャネルを伝達するために使用され,E-DPCCHは,E-TFCI(E-DCH Transport Format Combination Indicator)のようなE-DCHに関連付けられる制御情報を伝達するために使用される。DPCCHは,チャネル評価のために使用されるパイロットシンボルを伝達するために使用される。
【0004】
アップリンクにおけるデータレートを増加させるため,16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)を基礎とするより高次の変調方式(HOM:higher order modulation)がアップリンクのE-DCHに導入されている。16QAMの導入により,EULに関する3GPP仕様のリリース6に対してデータレートは倍増し,ピークのデータレートは11.5Mbps(符号化レートは1に等しい)まで可能となっている。データチャネル,つまりE-DPDCHの送信電力は,使用される伝送フォーマットに依存し,DPCCH電力に対して相対的に調節される。DPCCH電力は,外部ループ(outer loop)の電力制御によって設定されたSIR目標に達するよう,内部の電力制御ループによって設定される。
【0005】
開ループの電力制御とは,UE(User Equipment)の送信機がその出力電力を特定の値に設定する能力である。それは,UEがネットワークにアクセスしようとしている際,初期のアップリンク及びダウンリンクの送信電力を設定するために使用される。アップリンクにおける内部ループ(inner loop)の電力制御(高速閉ループ電力制御(fast closed loop power control)とも呼ばれる)は,受信されるアップリンクのSIR(Signal-to-Interference Ratio)を所与のSIR目標に保つために,UEの送信機がダウンリンクにおいて受信する1以上のTPC(Transmit Power Control)コマンドに従いその出力電力を調節する能力である。」(5?6ページ)

上記ウの【0006】及び上記エの記載並びに当該分野の技術常識を参酌すると,「パイロットチャネルに対応する信号対干渉比を求め,前記求められた信号対干渉比と信号対干渉比の目標との比較に従って,内部ループ(inner loop)の電力制御の電力制御命令を生成すること。」は公知であると認められる(以下,「公知技術2」という。)。

原査定の拒絶査定時の周知例としてあげられた特表2007-505589号公報(以下,「公知例3」という。)には,「移動通信システム及びその信号処理方法」として,図面とともに以下の事項が記載されている。

オ 「【0022】
図3を参照し,本発明の一例に係る動作フローチャートを説明する。本例において,1つの搬送ブロックのみが,TTI毎にマルチプレキシングチェーンに到達し,1つのCRCが1つの入力搬送ブロックに付加され,エラーが生じると全体搬送ブロックがTTIの間に再伝送される。さらに,TTI毎に1つの搬送ブロックだけがマルチプレキシングチェーンに到達するので,空間分割ブロック(後述する)が,入力ブロックを多数のデータストリームの同時伝送のために多数のブロックに分割することに用いられる。即ち,チャネルコーディング後,コーディングされたブロックが空間分割ブロック内のNストリームに分割される。ここで,Nは1つのTTIの間の多数の伝送アンテナを通じて同時に伝送されたデータストリームの数を表す。ハイブリッド-ARQ機能ユニットは,各データストリームに対する個別MCS(Modulation Code Scheme)制御に対するレートマッチングを遂行する。また,本例は1つの搬送ブロックがあるだけなので,アップリンクACK/NACK信号は1つ必要なだけである。また,1つの搬送ストリームの性能が多数のストリームの組み合わせられた性能により決定されるので,各ストリームに対するMCSを決定するのは困難になる。
(中略)
【0067】
搬送ブロックが1つのレートマッチングブロックを通過するために,全てのストリームのコードレートは同じもので終了する。即ち,変調スキーム及びマルチコードの数は図4Aでストリーム当り別個に制御できるが,ストリームごとに別個に制御されることはできない。本例において,チャネル化コードセット及びストリーム当りの変調スキームと,搬送ブロックのサイズは上位層からシグナリングされる。単一HARQ関連情報は現在のHSDPAでのように充分である。
【0068】
図4Bにおいて,空間分割はレートマッチングよりも前に処理される。上位層は変調スキーム及び各ストリームのマルチコードの数を選択する。また,上位層は物理層に各レートマッチングブロックに対する入力ビットの数を通知する。レートマッチングが別個に遂行されるので,コードレートは各ストリームに対して別個に制御される。さらに,搬送ブロックのサイズは分割されたビットの和から誘導される。本例において,チャネル化コードセット,変調スキーム及びレートマッチングブロックに対する入力ビットの数は上位層にシグナリングされる。さらに,単一HARQ関連情報は全てのストリームで共有できる。
【0069】
図6を参照すれば,図3のプロセスの代案的な配列が図示されている。このような代案において,N搬送ブロックはTTI毎にマルチプレキシングチェーンに到達する。ここで,Nは同時に伝送されたデータストリームの数を表す。したがって,各分割されたブロックは独立的な伝送制御を可能にする別個の付加CRCを備える。その後,空間分配ブロック310は受信された分割ブロックをNブランチに分配し,各分割されたブロックは図3のように,HS-DSCHに対する同一のマルチプレキシングチェーンを通過する。さらに,搬送ブロックのエラー分割ブロックのみ(全ての分割ブロックではなく)を再伝送させればよいので,再伝送プロセスは効率的に遂行される。しかしながら,ストリームごとにアップリンクACK/NACK信号が再伝送プロセスに必要である。CQI定義の観点において,同一CQIマッピングテーブルを各データストリームに用いることができる。また,空間分配ブロック310の後で,マルチプレキシングチェーンは修正せずに多数回使用できる。しかしながら,HS-DSCH伝送に要求される情報量はN倍増加する。
【0070】
次に,図3,4A,4B,図5に示された各マルチプレキシング代案とノードBとUE間の要求されたシグナリングの特徴は以下の表3に要約される。
(中略)
【0072】
本発明は,図3及び6に図示された2つの代案を比較するためにリンクレベルシミュレーションを遂行し,スループットを測定する。代案は4Tx及びRxアンテナを有するVBLAST受信器及びCR(Code Re-use)MIMO送信器に適用される。」(6ページ,14?15ページ)

上記オの記載及び図面並びに当該分野の技術常識を参酌すると,
「1つのTTIにおいて,MIMOのストリーム毎にHARQ処理を行うこと。」は公知であると認められる(以下,「公知技術3」という。)。

(2)対比
補正発明と引用発明とを対比すると,
ア 引用発明の「UE」を「第1のユーザ機器」と称することは任意である。

イ 補正発明の「多入力多出力(MIMO)アップリンク」と引用発明の「デュアル・パイロット・ビームフォーミングを行うアップリンク」とは,「複数のアンテナを用いるアップリンク」である点で共通している。

ウ 補正発明の「第2のストリーム」は,二次データチャネルについて明らかにしていないが,本願の平成27年3月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2を参酌すれば,「二次パイロットチャネルおよび二次データチャネルを含む」ものを包含していることは明らかである。したがって,引用発明の「第1のストリーム」,「第2のストリーム」は,それぞれ補正発明の「第1のストリーム」,「第2のストリーム」に相当する。

エ 補正発明の「信号対干渉比と信号対干渉比」(すなわち,SIR。)と引用発明の「複合SINR」とは,「パイロットチャネルに対応する信号と干渉に関する比」である点で共通している。

オ 補正発明の「前記求められた信号対干渉比と信号対干渉比の目標との比較に従って,電力制御命令を生成するステップであって,前記電力制御命令が,単一の内側ループ電力制御を利用して,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御するように適合される,ステップ」と,引用発明の「前記求められた複合SINRに基づいて電力制御命令を生成し,ここで,前記電力制御命令が,単一電力制御ループを利用して,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御する,」とは,「前記求められた比に基づいて,電力制御命令を生成するステップであって,前記電力制御命令が,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御するように適合される,ステップ」の点で共通している。

以上を総合すると,補正発明と引用発明1とは,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「第1のユーザ機器から複数のアンテナを用いるアップリンクの第1のストリームを受信するステップであって,前記第1のストリームが,一次データチャネルおよび一次パイロットチャネルを含む,ステップと,
前記第1のユーザ機器から前記アップリンクの第2のストリームを受信するステップであって,前記第2のストリームが,二次パイロットチャネルを含む,ステップと,
前記パイロットチャネルに対応する信号と干渉に関する比を求めるステップと,
前記求められた比に基づいて,電力制御命令を生成するステップであって,前記電力制御命令が,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御するように適合される,ステップと,
を含む,方法。」

(相違点1)
一致点の「複数のアンテナを用いるアップリンク」に関して,補正発明は「多入力多出力(MIMO)アップリンク」であるのに対し,引用発明は「デュアル・パイロット・ビームフォーミングを行うアップリンク」である点。
これに伴い,補正発明は「1つの送信時間間隔(TTI)において2つのハイブリッド自動再送要求(HARQ)処理を単一のHARQエンティティで実行するステップであって,前記第1のストリームのための第1のHARQ処理と前記第2のストリームのための第2のHARQ処理とを含む,ステップ」なる構成を有するのに対し,引用発明は当該構成を有していない点。

(相違点2)
一致点の「前記パイロットチャネルに対応する信号と干渉に関する比を求めるステップ」の「比」に関して,補正発明は「前記一次パイロットチャネルに対応する信号対干渉比」であるのに対し,引用発明は「複合SINR」である点。
これに伴い,一致点の「前記求められた比に基づいて,電力制御命令を生成するステップであって,前記電力制御命令が,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御するように適合される,ステップ」に関し,補正発明は「前記求められた信号対干渉比と信号対干渉比の目標との比較に従って,電力制御命令を生成するステップであって,前記電力制御命令が,単一の内側ループ電力制御を利用して,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御するように適合される,ステップ」であるのに対し,引用発明は「前記求められた複合SINRに基づいて電力制御命令を生成し,ここで,前記電力制御命令が,単一電力制御ループを利用して,前記第1のストリームの電力および前記第2のストリームの電力を制御する」ものである点。

(3)判断
上記相違点について検討する。

(相違点1について)
本願明細書の【0053】及び図4によれば,補正発明の「第1,第2のHARQ処理」はE-DPDCH,S-E-DPDCHに関するものであるから,補正発明の「1つの送信時間間隔(TTI)において2つのハイブリッド自動再送要求(HARQ)処理を単一のHARQエンティティで実行するステップであって,前記第1のストリームのための第1のHARQ処理と前記第2のストリームのための第2のHARQ処理とを含む,ステップ」なる構成は,「第2のストリームがさらに二次データチャネルを含む」ことを前提としているものである。
しかしながら,引用発明のような「デュアル・パイロット・ビームフォーミングを行うアップリンク」では,第1のストリームの一次データチャネルと第2のストリームの二次データチャネルは同一のデータに係るものであるから,第1のストリームのための第1のHARQ処理と第2のストリームのための第2のHARQ処理とを行う動機付けが存在するとはいえない。

ここで,引用例には「電力制御に対する第1のアプローチは,DL TxAAに最もよく似たアップリンク送信ダイバーシティにつながり,ダウンリンクにおけるD-TxAAに似たデュアル・ストリームMIMO方式に当然に拡張することができる。」との記載があり,公知技術3のとおり,「1つのTTIにおいて,MIMOのストリーム毎にHARQ処理を行うこと。」は公知である。
しかしながら,当該事実によっても,引用発明をまずデュアル・ストリームMIMO方式に拡張した上で,更に公知技術3を適用する必要があるから,引用発明を出発点として容易になし得るとはいえない。

(相違点2について)
引用例には「複合SINR」が具体的にいかなるものか明らかにされていないが,複合SINRに基づいて生成された電力制御命令が単一電力制御ループを利用して第1および第2のストリームの電力を制御することに鑑みれば,「複合SINR」は第1および第2のストリームの双方のパイロットから求められているとも解される。そして,補正発明のように一次パイロットチャネルに対応する信号対干渉比のみと信号対干渉比の目標との比較に従って電力制御命令を生成することは,いずれの文献にも記載も示唆もされていないから,相違点2を容易になし得るとすることはできない。

したがって,補正発明は,引用発明及び公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また,平成27年3月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2?4に係る発明は補正発明を引用する発明であり,また,同請求項14,16,18に係る発明は補正発明を異なるカテゴリーとして表現した発明であり,同請求項19?21に係る発明は請求項18に係る発明を引用する発明であるから,同様に,引用発明及び公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また,同請求項5に係る発明はユーザ機器側に係る発明であって,ネットワークノード側に係る補正発明とはサブコンビネーションの関係を有するものであるところ,上記相違点1,2に係る構成に対応する構成を有するものであるから,同様に,引用発明及び公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また,同請求項15,17,22に係る発明は前記請求項5に係る発明を異なるカテゴリーとして表現した発明であり,同請求項6?13,23?30に係る発明はそれぞれ前記請求項5,22に係る発明を引用する発明であるから,同様に,引用発明及び公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また,平成27年3月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?30に係る発明については,記載要件等の拒絶理由は見出せない。

よって,本件補正の補正事項1及び2は,特許法第17の条2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(補正事項3について)
補正事項3は請求項の削除を目的とするものであり,また,特許法第17条の2第4項に違反するところはない。

3 むすび
本件補正は,特許法第17条の2第3項?第6項の規定に適合する。


第3 本願発明
本件補正は上記のとおり,特許法第17条の2第3項?第6項の規定に適合するから,本願の請求項1?30に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?30に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-06-03 
出願番号 特願2013-537942(P2013-537942)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04W)
P 1 8・ 575- WY (H04W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小林 正明  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 菅原 道晴
中野 浩昌
発明の名称 多入力多出力送信アップリンクにおける外側および内側電力制御ループためのシステムおよび方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 黒田 晋平  
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