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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1315146
審判番号 不服2014-25130  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-08 
確定日 2016-05-26 
事件の表示 特願2012-188532「多発性硬化症についての処置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月29日出願公開、特開2012-233009〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年11月18日(パリ条約による優先権主張 2004年11月19日 (US)米国)を国際出願日とする特願2007-543322号の一部を平成24年8月29日に新たな特許出願としたものであって、平成25年12月10日付け拒絶理由通知に対して、平成26年6月12日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年8月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年12月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年12月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年12月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成26年12月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の請求項1(平成26年6月12日付け手続補正書により補正された請求項1)
「多発性硬化症を有し、第1の薬剤による処置を以前に受けており、かつ、少なくとも1回の再発を経験した被験体を処置するための組成物であって、VLA-4結合抗体を含有し、該VLA-4結合抗体が、該多発性硬化症を処置するために十分な量で十分な時間の間投与されることを特徴とし、該第1の薬剤は、該被験体の中に治療的レベルでは存在せず、該VLA-4結合抗体の投与は、該第1の薬剤の非存在下で少なくとも4ヶ月間継続され、そして、該第1の薬剤は、インターフェロン、酢酸グラチラマー、フマレート、ミトキサントロン、化学療法剤、免疫グロブリン、スタチン、アザチオプリン、およびTNFアンタゴニストからなる群より選択される、組成物。」について、これを、
「多発性硬化症を有し、少なくとも6ヶ月間インターフェロンによる処置を以前に受けており、かつ、少なくとも1回の再発を経験した被験体を処置するための組成物であって、VLA-4結合抗体を含有し、該VLA-4結合抗体が、該多発性硬化症を処置するために十分な量で十分な時間の間投与されることを特徴とし、該インターフェロンは、該被験体の中に治療的レベルでは存在せず、該VLA-4結合抗体の投与は、該インターフェロンの非存在下で少なくとも4ヶ月間継続され、そして、該VLA-4結合抗体は、ナタリズマブの3つの重鎖相補性決定領域(CDR)の1つ以上、および、ナタリズマブの3つの軽鎖CDRの1つ以上を含む、組成物。」とする補正を含むものである。

2 補正の適否
上記補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1の薬剤」を「インターフェロン」に限定するとともに、インターフェロンによる処置の期間を「少なくとも6ヶ月間」に限定するものであり、また、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「VLA-4結合抗体」を「ナタリズマブの3つの重鎖相補性決定領域(CDR)の1つ以上、および、ナタリズマブの3つの軽鎖CDRの1つ以上を含む」ものに限定するものである。そして、本件補正後の請求項1に記載された発明と本件補正前の請求項1に記載された発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するか)について、検討する。

(1) 本願補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明は、前記1に記載したとおりの
「多発性硬化症を有し、少なくとも6ヶ月間インターフェロンによる処置を以前に受けており、かつ、少なくとも1回の再発を経験した被験体を処置するための組成物であって、VLA-4結合抗体を含有し、該VLA-4結合抗体が、該多発性硬化症を処置するために十分な量で十分な時間の間投与されることを特徴とし、該インターフェロンは、該被験体の中に治療的レベルでは存在せず、該VLA-4結合抗体の投与は、該インターフェロンの非存在下で少なくとも4ヶ月間継続され、そして、該VLA-4結合抗体は、ナタリズマブの3つの重鎖相補性決定領域(CDR)の1つ以上、および、ナタリズマブの3つの軽鎖CDRの1つ以上を含む、組成物。」である。(以下、この発明を「本願補正発明」という。)

(2) 引用例の記載事項
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である「Expert Rev Neurother,2004年7月,Vol.4,No.4,pp.571-580.」(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているので、当審による訳文で示す。)
(ア) 表題
「ナタリズマブ:MSに対する選択的接着分子阻害剤であるα_(4)-インテグリンアンタゴニスト」
(イ) 要約部
「ナタリズマブ(アンテグレン(登録商標)、エラン社;バイオジェンアイデック社)は、選択的接着分子阻害剤における最初のα_(4)-インテグリンアンタゴニストであり、多発性硬化症に対する第III相の臨床試験中である。ナタリズマブ300mgを静脈注射した後の排泄半減期は6?9日であるが、静脈注射の約1か月後、末梢血リンパ球の表面に発現したα_(4)-インテグリン受容体の80%以上が飽和している。したがって、ナタリズマブは、1か月に1回、300mg用量で投与される。再発寛解型多発性硬化症又は二次性進行性多発性硬化症の患者に、6か月以上、ナタリズマブを投与した場合とプラセボを投与した場合を比較する、先の有効性についての試験結果は、新規ガドリニウム増強病変形成の顕著な(?90%)低下と、再発した患者数の50%の低減を示した。臨床試験において、ナタリズマブは好適な安全性プロファイルを示した。ナタリズマブの単剤療法、及びナタリズマブと筋注インターフェロン-β-1aの併用療法についての重要な第III相試験が、再発寛解型多発性硬化症患者で行われている。ナタリズマブは、多発性硬化症に対する重要な治療手段の一つになる可能性がある。」(571頁)

(ウ) 導入部
a 「多発性硬化症(MS)は、・・・中枢神経系の慢性疾患である。」(571頁左欄1?2行)
b 「インターフェロン(IFN)-β-1a(アボネックス(登録商標)、バイオジェン社;レビフ(登録商標)、セローノ社)、IFN-β-1b(・・・)、酢酸グラチラマー(・・・)及びミトキサントロン(・・・)が疾患修飾薬(DMAs)である。これらの薬剤は・・・MSの主要な症状を防ぐか遅らせるように作用する[1、3]。米国及びヨーロッパでは、IFN-βは再発寛解型MSの標準的な第一選択治療薬で、酢酸グラチラマーも必ずしも第一選択薬ではないが使用されている[1、8]。これらの薬剤は、MRIでみられる新規なGd+病変の発生を減少させ、また、新たな再発の頻度を低減することが示されており、IFN-βは障害進行を減少させることが示されている[9-14]。
MS治療に使用する当局の承認は受けていないものの、さらなる選択肢として、免疫グロブリン、アザチオプリン(・・・)、メトトレキサート、シクロスポリン、及びシクロホスファミド(・・・)がある。これらの薬剤は、IFN-β又は酢酸グラチラマーによる治療に反応しない再発寛解型の患者のためのものと一般的に考えられている[3]。」(571頁右欄19行?572頁左欄17行)

(エ) 臨床試験
a 第II相試験
(a) 「全体的に、プラセボと比較してナタリズマブ治療では、MRIにより視覚化される炎症性病変が大幅に減少し、再発した患者は少数であることが第II相試験で実証された。公表された第II相臨床試験の結果を表2にまとめている[16、17]。」(574頁右欄8?12行)
(b) 「もう一つのプラセボを対照とした無作為化二重盲検第II相(b)試験が、米国、カナダ及び英国における26の施設で行われた[16]。・・・。全部で213人の再発寛解型多発性硬化症患者又は二次性進行性多発性硬化症患者を、3mg/kgのナタリズマブを月1回6か月間静脈注射する群(n=68)、6mg/kgのナタリズマブを月1回6か月間静脈注射する群(n=74)、又はプラセボを月1回6か月間静脈注射する群(n=71)に無作為化した。」(575頁左欄29行?右欄5行)
(c) 「6か月経過後の新規なGd+病変(主要評価項目)の平均数は、プラセボ群、ナタリズマブ3mg/kg群、及び6mg/kg群で、それぞれ、9.6、0.7及び1.1であった(p<0.001、各処置群対プラセボ処置群)[16]。これは、プラセボと比較した場合、ナタリズマブ3mg/kg群で93%、6mg/kg群で88%の新規な病変の減少を表す。・・・新規なGd+病変の減少は、再発寛解型MS患者及び二次性進行性MS患者の両者で明らかであった。・・・
臨床パラメータでは統計学的に有意な差がみられる程、強力ではなかったが、ナタリズマブは予後の改善を実証した。ナタリズマブ処置群では、プラセボ群と比較して再発を経験する患者数が約50%減少した(プラセボ群では38%が再発を経験し、各ナタリズマブ処置群では19%が再発を経験した。p=0.02、各処置群対プラセボ処置群。)[16]。」(575頁右欄10?35行)

b 第III相試験
(a) 「ナタリズマブ単独での安全性と有効性を確認するために計画されたAFFIRM、及び、ナタリズマブと筋注IFN-β-1aの併用での安全性と有効性を確認するために計画されたSENTINELという、再発寛解型多発性硬化症患者に対する二つの第III相臨床試験が進行中である。これらの2年間の試験は、それぞれ、2004年末及び2005年初めに終了する計画である。」(576頁左欄17?22行)
(b) 「AFFIRMは、2年を越えて再発寛解型MS患者に対するナタリズマブの有効性及び安全性プロファイルを評価するために計画されたプラセボを対照とした二重盲検パラレル国際共同試験である[24]。MSと診断(マクドナルド基準が1-4)[25]され、EDSSのベースラインスコアが0.0-5.0(両端含む)で、過去12か月以内に一度以上の再発を経験し、かつ、MSと合致するMRI病変を有する18?50歳の患者を対象とした。除外基準は、一次進行性MS、二次進行性MS、又は進行性再発性MS患者、無作為化から50日以内に再発した患者か前回の再発から不安定な患者;6か月以上IFN-β又は酢酸グラチラマーによる治療を受けている患者、過去6か月以内に、IFN-β、酢酸グラチラマー、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキセート、又は免疫グロブリンによる治療を受けた患者;1年以内にシクロホスファミド又はミトキサントロンによる治療を受けた患者であった。総計942人の患者を、ナタリズマブ300mg又はプラセボを、116週にわたり、4週間に1回静脈注射する群に無作為化(2:1)した[24]。
AFFIRMの主要有効性評価項目は、1年経過時点での再発の割合と、2年経過時点でのEDSSで判定した持続的障害進行である[24]。1年経過時点での副次的評価項目は、Gd+病変数、新規又は広がったT2高信号病変、及び再発のない患者の割合である。2年経過時点での副次的評価項目は、再発の割合、T1低信号病変数、T2高信号病変の体積、及び多発性硬化症の機能的要素(MSFC)スケールで判定した障害進行である[バイオジェンアイデック社保有データ]。」(576頁左欄23?50行)

(c) 「SENTINELは、少なくとも12か月間の筋注IFN-β-1a治療の間に病状が急に進行した(登録の12か月以内における1回以上の再発と定義)再発寛解型MS患者集団に対する、筋注IFN-β-1aによる標準治療法にナタリズマブを加えた場合の有効性及び安全性プロファイルを決定するために計画されたプラセボを対照とした二重盲検パラレル多施設国際共同試験である[26]。総計1196人の患者を、既に行っているIFN-β-1a療法(毎週1回、30μgの筋注)に加え、ナタリズマブ300mg又はプラセボを、116週にわたり、4週間に1回静脈注射する群に1:1で無作為化した。MSと診断(マクドナルド基準が1-4)[25]され、EDSSのベースラインスコアが0.0-5.0(両端含む)で、無作為化前に12か月以上の筋注IFN-β-1aによる治療を受け、かつ、MSと合致するMRI病変を有する18?55歳の患者を対象とした。一次進行性MS、二次進行性MS、若しくは進行性再発性MS患者、無作為化から50日以内に再発した患者か前回の再発から不安定な患者、又は、無作為化の12か月以内に筋注IFN-β-1a以外のIFNによる治療を受けた患者、無作為化の3か月以内に経口酢酸グラチラマーによる治療を受けた患者は除外した[26、バイオジェンアイデック社保有データ]。
SENTINELの主要有効性評価項目は、1年経過時点での再発の割合と、2年経過時点でのEDSSで判定した持続的障害進行である。1年経過時点での副次的評価項目は、新規又は広がったT2高信号病変、Gd+病変数、及び再発のない患者の割合である。2年経過時点での副次的評価項目は、再発の割合、T2高信号病変の体積、T1低信号病変数、及びMSFCスケールで判定した障害進行である[バイオジェンアイデック社保有データ]。」(576頁右欄1?31行)

(オ) 結論
「ナタリズマブは、新しいSAM阻害剤における最初のα_(4)-インテグリンアンタゴニストであり、白血球がCNSへ移動するのを阻害する。第II相臨床試験では、ナタリズマブは、新規なGd+病変の出現及び新たな病変の体積を減らし、新規なGd+病変のない患者の割合を増加させることがはっきりと示された[16、17]。また、ナタリズマブは、再発する患者の割合を低下し、患者の幸福感を好転するという臨床結果の改善を生じる[16]。これらの研究は、ナタリズマブが一般的に安全で、プラセボによる副作用プロファイルと同様のプロファイルに十分に忍容であることを示す[16、17]。
進行中の大規模な臨床試験は、ナタリズマブの単剤療法、及びナタリズマブと筋注IFN-β-1aの併用療法の両者の有効性を評価している。この第III相併用療法の試験は、MS治療において異なる作用機序を有する併用療法は優れた有効性を提供するであろうという仮説を試験するであろう。これらの試験の結果は、再発したMS患者の治療におけるナタリズマブの役割を特定するために必要な情報を提供するであろう。」(577頁右欄19?38行)

イ 引用例2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「"ANTEGREN One-Year Data from Phase III AFFIRM Study Showed Compelling Results in Meeting Primary Endpoint in Multiple Sclerosis",[online],2004年11月8日,[平成23年6月24日検索],インターネット<http://www.thefreelibrary.com/ANTEGREN+One-Year+Data+from+Phase+III+AFFIRM+Study+Showed+Compelling...-a0124245420>」(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。(原文は英語で記載されているので、当審による訳文で示す。)

(ア) 表題
「AFFIRM第III相臨床試験おけるアンテグレンの1年間のデータは、多発性硬化症に対する主要評価項目を満たす注目せずにはいられないような結果を示した。」

(イ) 「バイオジェンアイデック社(・・・)及びエラン社(・・・)は、本日、第III相アンテグレン(登録商標)(ナタリズマブ)AFFIRM試験の1年間のデータが、再発割合の減少に関する主要評価項目を満たしたことを発表した。この942人の再発寛解型多発性硬化症(RRMS)患者を対象とした国際的な試験において、ナタリズマブは、プラセボと比較して、再発の割合を66%低減し、これは統計的に有意である。また、すべての副次的評価項目も満たした。これらのデータは、週末の会合でナタリズマブの第III相MSプログラムに参加している研究者らに示された。ナタリズマブは、MS治療薬として承認を得るために審査中である。
このAFFIRM試験は、MSの障害進行及び再発割合に対するナタリズマブの効果を評価する2年間の試験である。1年目の主要評価項目は再発の割合であった。2年目の結果は2005年の前半に得られるとこれらの会社は予想している。
ナタリズマブで処置された患者の少なくとも5%に生じた有害事象は、頭痛、疲労及び関節痛で、この数値は、プラセボで処置された患者のものよりも2%多い。感染症全体は両者の処置群で同様であった。重篤な感染症は、プラセボで処置された患者の1%で、ナタリズマブで処置された患者の2%で生じた。重篤な過敏症様の反応が、ナタリズマブで処置された患者の約1%に生じた。
バイオジェンアイデック社開発部門の執行副社長のバート アデルマン氏、MDは、『これらのデータは、1年の時点で、ナタリズマブが再発割合を劇的に低減したことを実証しています。』と述べた。『新たな作用機序を有するナタリズマブは、MS治療における重要な一歩になる可能性があると我々は信じています。』
エラン社研究開発部門長で執行副社長のラーズ エックマン氏は、『ナタリズマブは、MS患者の生活を異なるものとする可能性を秘めています。』と述べた。『我々は、できるだけ早くナタリズマブを必要とする患者が使用できるように規制当局と緊密に協力しています。』
AFFIRM臨床試験は、942人の患者による2年間の無作為化された多施設でのプラセボを対照とした二重盲検試験で、MSの障害進行及び再発割合について、ナタリズマブの単独治療の効果を評価するものである。1年経過時点での副次的評価項目は、新規又は新たに広がったT2高信号病変数、ガドリニウム強調病変数、再発のない患者の割合である。試験に登録されるためには、患者は再発型のMSと診断されなければならず、かつ、この1年の間に少なくとも1回の再発を経験していなければならない。月1回、300mgのナタリズマブ(n=627)かプラセボ(n=315)が静脈注射されるように、患者は無作為化された。
AFFIRM臨床試験の研究代表者で、アムステルダム自由大学医療センター神経学教授、多発性硬化症センター臨床及び科学部門長であるクリス ポルマン氏、MD、PhDは、『これは、注目せずにはいられないような結果が1年間で得られた、世界中の99施設における厳密でしっかりと運営された臨床試験です。』と述べた。『ナタリズマブは、MS患者に対し有望な新しい治療の選択肢になる可能性があり、かなりの満たされていないニーズに対処できることを、これらのデータは示唆しています。』
バイオジェンアイデック社及びエラン社は、二つの進行中の第III相試験の1年目のデータに基づいて、米国、欧州、カナダ及びオーストラリアで、MS治療薬としてのナタリズマブの承認を求める書類を提出した。・・・
第二の第III相試験であるSENTINELは、約1200人の再発寛解型MS患者による2年間の無作為化された多施設でのプラセボを対照とする二重盲検試験で、障害進行及び再発の割合について、ナタリズマブとアボネックス(登録商標)(インターフェロンβ-1a)との組合せの効果を、アボネックス単独の場合の効果と比較するものである。」(第1?9段落)

(3) 引用例1に記載された発明
引用例1には、ナタリズマブを再発寛解型多発性硬化症患者に6か月間投与した場合、新規なガドリニウム増強病変の形成を抑制し、再発した患者数を低減し、かつ、好適な安全性プロファイルを示したという第II相臨床試験の結果が記載されており(前記(2)ア(イ)、(エ)a及び(オ))、引用例1には、引き続いて大規模な第III相臨床試験が行われていることも記載されている(前記(2)ア(イ)、(エ)b及び(オ))ことから、引用例1には、ナタリズマブが再発寛解型多発性硬化症患者の処置に有効であることが記載されているということができる。また、引用例1に進行中であることが記載された第III相臨床試験AFFIRMは、再発寛解型多発性硬化症患者を対象としたナタリズマブ単剤での2年を越える臨床試験で、6か月以上インターフェロン-βによる治療を受けた患者は当該試験の患者には含めないものである(前記(2)ア(イ)、(エ)b(a)及び(b)並びに(オ))。そうしてみると、引用例1には、第III相臨床試験AFFIRMとして、「6か月以上インターフェロン-βによる処置を受けていない再発寛解型多発性硬化症患者を処置するための組成物であって、ナタリズマブを含有し、該ナタリズマブが該多発性硬化症を処置するために十分な量で十分な時間の間投与され、インターフェロン-βは該患者の中に治療的レベルでは存在せず、該ナタリズマブの投与は、該インターフェロン-βの非存在下で継続される、組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(4) 対比
本願明細書の段落【0115】には、「MSの個々の症例は、症状およびその後の経過についてのいくつかのパターンのうちの1つを示す。最も一般的には、MSは最初、一連の発作としてそれ自体が発症し、その後、原因不明の症状の緩和としての完全寛解または部分寛解が続き、結局は安定期の後にもとに戻る。これは再発寛解型(RR)MSと呼ばれる。」と記載されており、また、本願明細書には「被験体(例えば、ヒト被験体)」と記載されている(段落【0004】、【0019】、【0022】等)ことから、引用発明における再発寛解型多発性硬化症患者は、本願発明における、「多発性硬化症を有し、かつ、少なくとも1回の再発を経験した被験体」に包含される。また、引用発明におけるナタリズマブは、本願発明における「ナタリズマブの3つの重鎖相補性決定領域(CDR)の1つ以上、および、ナタリズマブの3つの軽鎖CDRの1つ以上を含む」ものに相当し、引用発明におけるインターフェロン-βは、本願明細書における「本明細書中に記載される方法には、炎症性障害(例えば、MS)についての治療または処置(例えば、薬剤)を以前に投与された被験体が含まれる。好ましい前処置薬は、生物製剤であり、例えば、組み換え体インターフェロンβである。このような前処置の限定ではない例としては、以下の例が挙げられる:・インターフェロン、例えば、ヒトインターフェロンβ-1a(例えば、AVONEX(登録商標)またはRebif(登録商標))・・・」との記載(段落【0059】)から、本願発明におけるインターフェロンの1種である。
そうしてみると、本願補正発明と引用発明とは、「多発性硬化症を有し、かつ、少なくとも1回の再発を経験した患者を処置するための組成物であって、ナタリズマブを含有し、該ナタリズマブが、該多発性硬化症を処置するために十分な量で十分な時間の間投与され、インターフェロン-βは該患者の中に治療的レベルでは存在せず、該ナタリズマブの投与は、該インターフェロン-βの非存在下で継続される、組成物。」で一致し、
患者が、本願補正発明ではナタリズマブの投与以前に少なくとも6か月間インターフェロン-βによる処置を受けているのに対し、引用発明ではナタリズマブの投与以前に6か月以上インターフェロン-βによる処置を受けていない点において相違し(相違点1)、また、本願補正発明では、ナタリズマブの投与は少なくとも4か月間継続されるのに対して、引用発明では、ナタリズマブの投与の期間は特定されていない点において相違する(相違点2)。

(5) 検討
ア 相違点1について
引用例1に記載され、引用発明として認定した第III相臨床試験AFFIRMは、ナタリズマブ単独での有効性を確認するために計画された臨床試験(前記(2)ア(エ)b(a))であるため、インターフェロン-βによる治療を6か月以上受けた患者に加え、酢酸グラチラマーによる治療を6か月以上受けた患者、ナタリズマブの投与前6か月以内に、インターフェロン-β、酢酸グラチラマー、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキセート、若しくは免疫グロブリンによる治療を受けた患者、又はナタリズマブの投与前1年以内にシクロホスファミド若しくはミトキサントロンによる治療を受けた患者を、試験の対象患者から除外する(前記(2)ア(エ)b(b))ことによって、この大規模臨床試験の結果から、これらの多発性硬化症治療薬の影響を排除していると理解できる。一方、引用例1には、米国及びヨーロッパではインターフェロン-βは再発寛解型多発性硬化症の標準的な第一選択治療薬であること(前記(2)ア(ウ)b)、第III相臨床試験SENTINELは、少なくとも12か月間のインターフェロン-β-1a治療の間に病状が急に進行(12か月以内における1回以上の再発)した再発寛解型多発性硬化症の患者を対象とする臨床試験であること(前記(2)ア(エ)b(c))、インターフェロン-βによる治療に反応しない再発寛解型多発性硬化症の患者に免疫グロブリン等の他の薬剤を使用すること(前記(2)ア(ウ)b)が記載されていることから、インターフェロン-βを用いて再発寛解型多発性硬化症の処置を行うこと、インターフェロン-βによる再発寛解型多発性硬化症の処置でも病状が悪化する場合があること、及びインターフェロン-βによる処置が有効でなかった場合に他の薬剤による処置を行うことは、当該技術分野における当業者に周知の事項であったものと認められる。
加えて、引用例2には、引用例1に記載され、引用発明として認定した第III相臨床試験AFFIRMの1年目の結果は、プラセボと比較して再発の割合を66%減少させるという、「多発性硬化症に対する主要評価項目を満たす注目せずにはいられないような結果」で、この結果を基に、多発性硬化症治療薬としての承認を申請したことも記載されている(前記(2)イ)。
そうしてみると、ナタリズマブ単独での有効性を確認するための発明であって、ナタリズマブの投与以前に6か月以上インターフェロン-βによる処置を受けていない引用発明における実際の医薬としての使用の態様を考えた場合に、再発寛解型多発性硬化症の第一選択薬であるインターフェロン-βで6か月以上処置された患者で、かつ、少なくとも1回の再発を経験した患者をその適用対象とすることは、当業者であれば格別の創意を要する事項とは認められない。
イ 相違点2について
多発性硬化症は慢性疾患であり(前記(2)ア(ウ)a)、例えば、引用例1に記載された第II相(b)臨床試験ではナタリズマブの投与を6か月間継続した後にその有効性を判断しており(前記(2)ア(エ)a(c))、また、第III相臨床試験では、試験開始後、1年経過の時点で有効性についての評価項目の判断を行っている(前記(2)ア(エ)b(b)及び(c)並びに前記(2)イ)ように、ナタリズマブ投与の効果が明らかになるには長期間必要なものと認められる。そうしてみると、ナタリズマブの投与の期間は特定されていない引用発明について、その投与期間を少なくとも4か月間継続すると特定することは、当業者であれば格別の創意を要する事項とは認められない。
ウ 本願補正発明の効果について
本願の明細書及び請求人が提出した書類には、本願補正発明が引用発明と比較して有利な効果を有することは示されておらず、本願補正発明にはその効果の点において進歩性が肯定される方向に働く事情はない。

(7) むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年12月8日付けの手続補正は前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年6月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりの
「多発性硬化症を有し、第1の薬剤による処置を以前に受けており、かつ、少なくとも1回の再発を経験した被験体を処置するための組成物であって、VLA-4結合抗体を含有し、該VLA-4結合抗体が、該多発性硬化症を処置するために十分な量で十分な時間の間投与されることを特徴とし、該第1の薬剤は、該被験体の中に治療的レベルでは存在せず、該VLA-4結合抗体の投与は、該第1の薬剤の非存在下で少なくとも4ヶ月間継続され、そして、該第1の薬剤は、インターフェロン、酢酸グラチラマー、フマレート、ミトキサントロン、化学療法剤、免疫グロブリン、スタチン、アザチオプリン、およびTNFアンタゴニストからなる群より選択される、組成物。」である。(以下、この発明を「本願発明」という。)

2 引用例の記載事項及び引用例1に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、前記第2の2(2)に記載したとおりであり、また、引用例1に記載された発明は、前記第2の2(3)に記載したとおりである。

3 対比・検討
本願発明は、前記第2の2で検討した本願補正発明から、インターフェロンによる処置の期間の「少なくとも6ヶ月間」との要件を削除するものであり、また、「VLA-4結合抗体」についての要件「ナタリズマブの3つの重鎖相補性決定領域(CDR)の1つ以上、および、ナタリズマブの3つの軽鎖CDRの1つ以上を含む」を削除するものであることから、本願発明は本願補正発明を包含するものである。
そうすると、前記第2の2で述べたとおり、本願補正発明が、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も、同様に、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-28 
結審通知日 2016-01-04 
審決日 2016-01-15 
出願番号 特願2012-188532(P2012-188532)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 文彦  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 齋藤 恵
大宅 郁治
発明の名称 多発性硬化症についての処置  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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