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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H04N
審判 全部無効 2項進歩性  H04N
管理番号 1315174
審判番号 無効2014-800027  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-02-18 
確定日 2016-05-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第5113954号発明「デジタル放送受信装置およびそのプログラム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 経緯

1.本件出願の経緯
本件特許第5113954号に係る出願は、平成24年8月23日(優先権主張平成24年6月11日)の出願であって、平成24年10月19日に設定登録されたものであり、登録時の請求項の数は3である。

2.本件審判の経緯
本件無効審判における手続の経緯は、概要、以下のとおりである。

平成26年 2月18日 無効審判請求書(請求人)
(甲第1ないし8号証添付)
平成26年 5月12日 答弁書(被請求人)
平成26年 6月11日 審理事項通知書(合議体)
平成26年 7月18日 口頭審理陳述要領書(請求人)
(甲第1ないし11号証添付)
平成26年 8月13日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
(乙第1号証添付)
平成26年 9月 5日 上申書(1)(被請求人)
平成26年 9月 5日 口頭審理
平成26年 9月26日 上申書(1)(請求人)
(甲第4ないし5号証抜粋、
及び甲第12号証添付)
平成26年 9月26日 上申書(2)(被請求人)
平成26年10月17日 上申書(2)(請求人)
(甲第5号証抜粋添付)
平成26年10月17日 上申書(3)(被請求人)

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明3」、あるいはこれらを総称して「本件特許発明」という)。

[本件特許発明1](請求項1)
放送波を介して送信される暗号化されたコンテンツを、限定受信方式により再生するデジタル放送受信装置であって、
異なる限定受信方式を識別するために予め定めた限定受信方式記述子とアクセス制御記述子とを記述子領域に含んだテーブル情報であるPMTおよびCATと、前記異なる限定受信方式に対応する複数のメッセージ情報であるECMおよびEMMと、前記暗号化されたコンテンツとが少なくとも多重化された前記放送波を分離する多重分離手段と、
この多重分離手段で分離されたテーブル情報から、前記アクセス制御記述子を分離し、当該アクセス制御記述子に記載されているパケット識別を抽出するアクセス制御記述子分離手段と、
このアクセス制御記述子分離手段から抽出されたパケット識別に対応するECMおよびEMMを、前記多重分離手段で分離された複数のECMおよびEMMから抽出するフィルタリング手段と、
このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって、スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段と、
この限定受信制御手段で生成されたスクランブル鍵を用いて、前記コンテンツを復号するデスクランブル手段と、
を備えることを特徴とするデジタル放送受信装置。

[本件特許発明2](請求項2)
前記PMTおよびCATには、限定受信方式ごとに異なる予め定めた限定受信方式識別子が記載されたアクセス制御記述子が含まれ、
前記アクセス制御記述子分離手段は、前記アクセス制御記述子からさらに前記限定受信方式識別子を抽出し、
前記限定受信制御手段は、自身の限定受信方式を識別する限定受信方式識別子を出力するものであって、
前記アクセス制御記述子分離手段が抽出した限定受信方式識別子と、前記限定受信制御手段が出力する限定受信方式識別子とを比較する比較手段と、
この比較手段によって両識別子が一致すると判定された場合に、前記フィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMを、前記限定受信制御手段に出力する切替信号出力手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のデジタル放送受信装置。

[本件特許発明3](請求項3)
放送波を介して送信される暗号化されたコンテンツを、限定受信方式により再生するデジタル放送受信装置において、コンピュータを、
異なる限定受信方式を識別するために予め定めた限定受信方式記述子とアクセス制御記述子とを記述子領域に含んだテーブル情報であるPMTおよびCATと、前記異なる限定受信方式に対応する複数のメッセージ情報であるECMおよびEMMと、前記暗号化されたコンテンツとが少なくとも多重化された前記放送波を分離する多重分離手段、
この多重分離手段で分離されたテーブル情報から、前記アクセス制御記述子を分離し、当該アクセス制御記述子に記載されているパケット識別を抽出するアクセス制御記述子分離手段、
このアクセス制御記述子分離手段から抽出されたパケット識別に対応するECMおよびEMMを、前記多重分離手段で分離された複数のECMおよびEMMから抽出するフィルタリング手段、
このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって、スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段、
この限定受信制御手段で生成されたスクランブル鍵を用いて、前記コンテンツを復号するデスクランブル手段、
として機能させるためのデジタル放送受信プログラム。

第3 当事者の主張

1.請求人の主張
(1)請求の趣旨
特許第5113954号発明の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された発明についての特許を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。

(2)無効理由
ア.無効理由1(29条1項3号)
本件特許の請求項1ないし3に係る各特許発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載される発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

イ.無効理由2(29条2項)
本件特許の請求項1ないし3に係る各特許発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載される発明及び甲第6号証に記載されている周知技術に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)請求の理由の要点
ア.29条1項3号について
(ア)甲第1号証ないし甲第5号証は、一連一体となって放送分野の規格及び技術について定めるものであり、一つの文献として捉えた方が実態に即しており、ARIB規格及びARIB技術資料は周知技術にすぎないことから、甲第1号証ないし甲第5号証は一つの主引用発明として取り扱われるべきものであり、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載されているから、新規性を欠く発明である(審判請求書)。

(イ)甲第1号証ないし甲第5号証が一つの文献であることを前提に、本件特許発明1ないし3は、一つの文献甲第1号証及び甲第2号証に記載される発明によって新規性を失っている(口頭審理陳述要領書)。

(ウ)本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載される発明によって新規性を失っている(口頭審理陳述要領書)。

イ.29条2項について
(ア)本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載される発明を主引用発明として、甲第1号証ないし甲第5号証に記載される発明及び甲第6号証の周知技術からすれば容易である(審判請求書)。

(イ)本件特許発明1ないし3は、主引用発明である甲第1号証に記載される発明に、甲第4号証及び甲第5号証等の記載から導ける事項を組み合わせることにより容易に想到できる(口頭審理陳述要領書)。

(ウ)甲第1号証ないし甲第5号証が一つの文献であることを前提に、本件特許発明1ないし3は、主引用発明である甲第1号証ないし甲第2号証に記載される発明に、甲第4号証及び甲第5号証等の記載から導ける事項を組み合わせることにより容易に想到できる(口頭審理陳述要領書)。

(エ)本件特許発明1ないし3は、主引用発明である甲第1号証に記載される発明に、副引用発明である甲第2号証に記載される発明を組み合わせることにより容易に想到できる(口頭審理陳述要領書)。

(4)証拠方法
甲第1号証 :ARIB TR-B14 4.7版(平成23年12月6日改定)
甲第2号証 :ARIB STD-B25 6.0版(平成23年3月28日改定)
甲第3号証 :ARIB STD-B32 2.2版(平成21年7月29日改定)
甲第4号証 :ARIB STD-B21 4.6版(平成19年3月14日改定)
甲第5号証 :ARIB STD-B10 4.9版(平成23年3月28日改定)
甲第6号証 :「デジタル放送ハンドブック(抜粋)」
(平成15年6月20日発行)(129頁、奥付)
甲第7号証の1:技術資料(放送分野)一覧表
甲第7号証の2:標準規格(放送分野)一覧表
甲第8号証 :特許第5113954号公報(本件特許公報)
甲第9号証 :「広辞苑第6版(抜粋)」
(「規格」の説明箇所、660頁、奥付)
甲第10号証 :「広辞苑第6版(抜粋)」
(「索引」の説明箇所、1111頁、奥付)
甲第11号証 :ARIB TR-B14 5.0版(平成24年9月25日改定)
(5-113,5-114頁)
甲第12号証 :「世界大百科事典第2版(抜粋)」
(「符号化」の説明箇所)

2.被請求人の主張
(1)答弁の趣旨
本件無効審判請求は成り立たない。
審判費用は請求人の負担とする。
との審決を求める。

(2)答弁の概要
ア.無効理由1について
本件特許発明1ないし3は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載される発明とは同一でないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

イ.無効理由2について
本件特許発明1ないし3は、甲第1号証ないし甲第5号証及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではないから、特許法第29条第2項の規定には該当するものではない。

(3)証拠方法
乙第1号証 :ARIB STD-B50 Version 1.1(July 3, 2012)

第4 甲第1号証ないし甲第6号証の記載事項

1.甲第1号証の記載事項
(1)「まえがき
一般社団法人電波産業会は、無線機器製造者、電気通信事業者、放送機器製造者、放送事業者及び利用者の参加を得て、各種の電波利用システムに関する無線設備の標準的な仕様等の基本的な要件を「標準規格」として策定している。
「技術資料」は、国が定める技術基準と民間の任意基準を取りまとめて策定される標準規格を踏まえて、無線設備、放送設備の適正品質、互換性の確保等を図るため、当該設備に関する測定法、解説、運用上の留意事項等を具体的に定めたものである。

本技術資料は、地上デジタルテレビジョン放送の放送局での運用及び地上デジタルテレビジョン放送受信機の機能仕様について策定されたもので、策定段階における公正性及び透明性を確保するため、内外無差別に広く無線機器製造者、電気通信事業者、放送機器製造者、放送事業者及び利用者等の利害関係者の参加を得た当会の規格会議の総意により策定されたものである。」
(まえがき 頁無し)

(2)「2 引用文書
(1) 「地上デジタルテレビジョン放送の伝送方式」標準規格 ARIB STD-B31
(2) 「デジタル放送における映像符号化、音声符号化および多重化方式」標準規格 ARIBSTD-B32
(3) 「デジタル放送に使用する番組配列情報」標準規格 ARIB STD-B10
(4) 「デジタル放送におけるデータ放送符号化方式と伝送方式」標準規格 ARIB STD-B24
(5) 「デジタル放送におけるアクセス制御方式」標準規格 ARIB STD-B25
(6) 「デジタル放送用受信装置」標準規格 ARIB STD-B21」
(地上デジタルテレビジョン放送 運用概要 1頁)

(3)「PSI Program Specific Information:番組特定情報。所要の番組を選択するために必要な情報で、PAT、PMT、NIT、CAT の4 つのテーブルからなる。MPEG システム規格、郵政省令で規定。」
(地上デジタルテレビジョン放送 運用概要 8頁)

(4)「SI Service Information:番組配列情報。番組選択の利便性のために規定された各種情報。総務省令で定義され、内容はARIB 規格として規定。ARIB 規格独自の拡張部分に加えて、MPEG-2 のPSI 情報も含まれる。」
(地上デジタルテレビジョン放送 運用概要 9頁)

(5)「1.1 まえがき
地上デジタルテレビジョン放送受信機に対する限定受信方式に関する仕様は電波産業会標準規格「デジタル放送におけるアクセス制御方式」第1部 受信時の制御方式(限定受信方式)(以下、ARIB STD-B25 第1部)で規定される。
本編は、ARIB STD-B25 第1部を基に、それを補足する形で運用上の送出運用規定と受信機仕様に対する要求仕様について規定した。したがって、本編に記載されていない事項に関してはARIB STD-B25第1部を参照願いたい。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】 限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-1頁)

(6)「CAT Conditional Access Table:限定受信テーブル。有料放送を構成する関連情報のうち個別情報を伝送するTS パケットのパケットID(識別子)を指定。」
「ECM Entitlement Control Message:番組情報(番組に関する情報とデスクランブルのための鍵など)および制御情報からなる共通情報。」
「EMM Entitlement Management Message:加入者毎の契約情報および共通情報の暗号を解くためのワーク鍵を含む個別情報。」
「PMT Program Map Table:番組を構成する各符号化信号を伝送するTS パケットのパケットID および有料放送の関連情報のうち共通情報を伝送するTS パケットのパケットID を指定する。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】 限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-3頁)

(7)「4.8 限定受信方式記述子
4.8.1 機能
- CAT に記載された場合はEMM を伝送するTS パケットID を特定する。
- CAT に複数の限定受信方式記述子が記述される場合がある。
- PMT に記載された場合はECM を伝送するTS パケットID を特定する。
- PMT に複数の限定受信方式記述子が記載される場合がある。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】 限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-11頁)

(8)「5.1 受信機の構成
図5-1にCASに関わるハードウェア構成を示す。ここでは、あくまで仕様を説明するためのモデル構成であり、実際の構成は受信機の設計による。

図 5-1 受信機の基本構成

(1) チューナー部
- 制御部からの制御で放送信号の受信と選択を行い、伝送信号のパケット処理、エラー訂正処理を行う。
(2) デスクランブラ
- 制御部からの制御で、MULTI2 方式による特定パケットのデスクランブルを行う。
- ARIB STD-B25 第1部の下記を参照。
第2 章 2.2.2.4 デスクランブラ
第4 章 4.8 スクランブルの有無の判定
参考2 3.4 デスクランブラ
参考2 3.10 ECM の受信とデスクランブラ制御
(3) TS デコード部
- TS 多重された信号から必要なパケットを分離し、放送番組信号の選択、各種多重データ(各種SI データ、ECM、EMM 等)の分離を行う。
(4) 映像音声デコード部
- 映像、音声のデコードを行いモニタに出力する。
(5) 表示部
- ユーザーに対するメニュー、リスト、IC カード情報、自動表示メッセージ、メール、IC カードテスト、IC カード応答時のエラー等を表示するための画面提示手段、ユーザーインタフェースを搭載する。
(6) キー入力部
- リモコンからのキー入力処理を行う。
(7) 制御部
- 受信機全体の制御を行う。特に CAS に関しては、IC カードとの通信、放送信号から分離した各種データの処理、デスクランブラの制御、時刻カウント、表示処理制御、キー入力処理がある。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】 限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-32,33頁)

(9)「5.6 有効な限定受信方式(ICカードと放送波におけるCA_system_idの整合性確認)
- 複数の限定受信方式が運用される場合があるが、限定受信方式の区別は CA_system_idによって行う。
- 有効な限定受信方式とは、電源オン時、または IC カードの挿入時にIC カードとの初期設定条件コマンド/レスポンスによって得られるCA_system_id とPSI/SI で送られるCA_system_id とが一致したものを有効とする。
- 複数の CA_system_id がCAT やPMT に記載されている場合でもIC カードとのコマンド/レスポンスで得られたCA_system_id と整合した値であれば、本編で定める受信機処理を行う。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】 限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-35,36頁)

(10)「5.10.2 関連規格
詳細に関しては下記を参照のこと。
- ARIB STD-B25 第1 部
第3 章 3.2.5 メッセージ情報(EMM/ECM)」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】 限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-40頁)

(11)「A.1.2 複数限定受信方式の運用について
地上デジタルテレビジョン放送のコンテンツ保護について本書では、ARIB STD-B25第1部準拠の限定受信方式を利用した方式を規定したが、将来において、これよりもコンテンツ保護に適したコンテンツ保護専用方式が登場した場合に、それを導入できるように複数の限定受信方式を運用可能な規定とした。規定の記載にあたっては、コンテンツ保護専用方式導入時に複
数の限定受信方式記述子を運用しても、放送開始当初の受信機でも誤動作をおこさないために記載する目的を主として、コンテンツ保護専用方式に関する規定は、今後の検討結果次第であるため、記載せず複数の限定受信方式記述子、CAサービス記述子がCAT、PMTに配置可能な旨を規定した。
放送開始時点で販売される受信機においては、ARIB STD-B25第1部準拠の限定受信方式のみが搭載されることが想定される。将来において、コンテンツ保護専用方式の導入が行われる場合、この受信機においてもコンテンツ保護を目的とした無料番組の視聴を可能とするため下記の運用イメージのように、ARIB STD-B25第1部準拠のECMとコンテンツ保護専用方式準拠
のECMの両方で同一のKsの伝送を行う運用としなければならない。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】 限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-62頁)

(12)「[限定受信方式]
日本のデジタル放送における限定受信方式は、その基本形式が省令の形で定められている。その基本要素を列挙すると以下のとおりである
a) コンテンツはMULTI2と呼ばれる暗号方式によって、TSレベルでスクランブルされる。
b) スクランブルを解除する鍵はECMと呼ばれるテーブルで暗号化されて送出される。
c) ECMの暗号を解くための鍵はワーク鍵とよばれ、受信者別の識別子をもつEMMと呼ばれるテーブルで暗号化されて送出される。
d) 受信者別の識別子をもつEMMは、受信機内の受信者別の暗号鍵で復号される。
e) CATと呼ばれるテーブルは限定受信方式記述子をもち、この記述子は具体的な限定受信方式を示すCA_system_idとEMMが送出されるPIDを明らかにする。
f) PMTと呼ばれるテーブルも同じく限定受信方式記述子をもち、この記述子は具体的な限定受信方式を示すCA_system_id と、ECMとデスクランブルすべきES_PIDの関係を明らかにする。
限定受信方式とは上記の基本的な構成に基づくものである。

[ARIB STD-B25 第1部準拠方式]
省令に示される限定受信方式を、より具体的な方式にまとめられたものがARIB STD-B25第1部であるが、関連情報に対する暗号方式が特定されていないこともあり、個別の限定受信方式を示すものではない。したがって限定受信方式の集合体である。しかしながらARIB規格は時代の推移によって改定されてゆくものであるから、何をもってARIB STD-B25 第1部準拠方式かをあらためて整理しておく必要がある。本書では、将来STD-B25 第1部が改定されても決して変わることのない部分は何かを以下の点であると想定した。
a) 省令が示す限定受信方式に該当する部分
b) セキュリティモジュールとして、電気的にISO7816に準拠したICカードを用いた低速インタフェース方式であること
c) ICカードのコマンド/レスポンスのうち現行の初期設定コマンドに完全準拠するもの

[CA_system_id]
個別の限定受信方式を示す識別子である。
(図A-2における限定受信方式の範囲での識別子)」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】 限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-64,65頁)

(13)「上記の4つの概念と、将来導入されるかもしれない、放送におけるコンテンツ保護方式の関係を図A-2 に示す。

図A-2 可能性のある放送におけるコンテンツ保護方式の位置づけ

本書では、将来策定されるかもしれない放送におけるコンテンツ保護方式を上記4つの場合に分類・想定し、各場合において、それまでに流布した受信機が可能な限り問題なく使用され続けるように、運用規格を策定した。

case1:これは、まったく未知の方式であり現時点でその備えをすることは不可能であり、また省令・ARIB規格の根本的策定を伴うものである。さらに本書の役割である限定受信方式の運用規格の範疇を超えるものである。したがって、このようなケースにおいては、それまでに流布した受信機が可能な限り問題なく使用され続けるようにするために、新たな規格の策定がその責務を負わねばならないと考える。

case2:この場合は、複数の限定受信方式が存在することになるので、その事が受信機の誤動作につながることのないように本書で規格化する。この場合はその方式の登場に際して新たな追加規格が策定されねばならない。

case3:この場合は、case2と同様に複数の限定受信方式が存在することになるので、その事が受信機の誤動作につながることのないように規格化する。本書では、この場合にはその方式の登場に際して新たな規格の策定が不要であるように配慮した。
この場合に備えて、本書ではCA_system_idの具体的な番号の指定は行っていない。

case4:この場合は、地上デジタルテレビジョン放送のコンテンツ保護の方式が、BS/広帯域CSデジタル放送におけるコンテンツ保護と同様の運用をされることを意味し、特に大きな技術的懸念要素はない。

以上、地上デジタルテレビジョン放送の限定受信方式の運用規定を策定するに当たり、将来の放送におけるコンテンツ保護方式が新たに策定されるための備えとして検討した基本的考え方を述べるものである。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】 限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-65,66頁)

(14)「1.1 まえがき
地上デジタルテレビジョン放送受信機に対する限定受信方式に関する仕様は電波産業会標準規格「デジタル放送におけるアクセス制御方式」(以下、ARIB STD-B25)で規定される。
無料番組を対象とするコンテンツ保護方式には、ARIB STD-B25 第1部 受信時の制御方式(限定受信方式)に規定する方式とARIB STD-B25 第3部 受信時の制御方式(コンテンツ保護方式)に規定する方式があるが、本編第二部はARIB STD-B25 第3部に規定する方式について、それを補足する形で運用上の送出運用規定と受信機仕様に対する要求仕様について規定した。したがって、本編第二部に記載されていない事項に関してはARIB STD-B25第3部を参照願いたい。
なお、本編第二部は、ARIB STD-B25 第3部に基づき、コンテンツ保護を伴う無料番組を対象とした方式(CA_system_id=0x000E 以下RMP方式)に関する記載である。従って、ARIBSTD-B25 第1部に基づき、コンテンツ保護を伴う無料番組を対象とした方式の運用を実施する場合の記載については、本編第一部に記載されている方式(CA_system_id=5 以下CA5方式)を参照願いたい。RMP方式とCA5方式の同時運用(サイマルクリプト運用)については、本編第二部に記載している。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】 RMP方式運用規定及び受信機仕様 5-79頁)

(15)「サイマルクリプト運用 1つの番組に対して複数の限定受信(CAS)方式を並列運用する運用形態。種類が異なるCAS 方式のECM やEMM を番組に付加して並列送信する。受信機は、いずれか一方のCAS 方式に対応していれば受信可能となる。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】 RMP方式運用規定及び受信機仕様 5-82頁)

(16)「4.6 限定受信方式記述子
4.6.1 機能
- CAT に記載された場合は、CA_system_id に対応したEMM を伝送するTS パケットIDを特定する。
- PMT に記載された場合は、CA_system_id に対応するECM を伝送するTS パケットIDを特定する。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】 RMP方式運用規定及び受信機仕様 5-87頁)

(17)「4.14 サイマルクリプト運用
- コンテンツ保護を伴う無料放送を ARIB STD-B25 第1 部に準拠する方式(以下、CA5方式)とARIB STD-B25 第3 部に準拠する方式(以下、RMP 方式)の2 方式でサイマルクリプト運用する場合に、送出側が遵守すべき運用事項を定める。

4.14.1 ECMの送出
コンテンツ保護を伴う無料番組ではECM を次のように送出する。
- コンテンツ保護を伴う無料番組においては、サイマルクリプト運用のために、CA5 方式のECM とRMP 方式の2 種類のECM を並行して送出する。
- CA5 方式のECM とRMP 方式のECM の両方で同一のKs の伝送を行う。
- PMT には、CA5 方式の限定受信方式記述子とRMP 方式の限定受信方式記述子を記載すること。CA5 方式、RMP 方式の記載順については規定しない。
- 番組内のコンポーネントにスクランブル ES とノンスクランブルES とが混在する場合を考慮し、PMT におけるCA5 方式とRMP 方式の限定受信方式記述子の配置を以下のように定める。
1) それぞれの限定受信方式記述子を PMT の第1 ループに必ず1 つ配置する。この場合、番組内のすべてのコンポーネントに対しそれぞれのECM が適用される。
2) それぞれの限定受信方式記述子を PMT の第2 ループには配置しない。
ただし、デフォルトES 群以外でノンスクランブル運用する場合に限り、CA_PID フィールドに無効なECM_PID=0x1FFF を記述したそれぞれの限定受信方式記述子を配置する。なお、第2 ループに配置するCA5 方式とRMP 方式の限定受信方式記述子が指し示すES は同一である。

4.14.2 EMMの送出
1TS 内でどのような種類の放送を運用するかにより、以下のように送出が変わる。
なおコンテンツ保護を伴う無料放送のためのEMM は、各アクセス制御方式の運用によって送出する場合と送出しない場合がある。RMP 方式のEMM は必ず送出されるが、CA5 方式のEMM は運用によって送出しない場合がありうる。

(1) コンテンツ保護を伴う無料番組を運用する放送局の送り方
(1-1)RMP 方式のEMM だけを送る場合(CA5 方式のEMM を送らない場合)
- CAT にはRMP 方式の限定受信方式記述子のみを記載して送出する。
- EMM を送出する時間帯に特に制限はなく、ノンスクランブルの時間帯も含めて、通常は常時繰り返して送出される。
- 伝送形式は TypeA とし、伝送レートは320kbit/s 以下とする(送出頻度については32ms 単位に1.28kB±100%の範囲で送出する)。その他の送出仕様については、本編第二部に記載の運用事項に従う。

(1-2) CA5 方式とRMP 方式の両方のEMM を送る場合
- CAT には両方式の限定受信方式記述子を記載すること。CA5 方式、RMP 方式の記載順については規定しない。
- 両方式の EMM は並行して送出する。それらのEMM を送出する時間帯に特に制限はなく、ノンスクランブルの時間帯も含めて、通常は常時繰り返し送出される。
- 伝送形式は TypeA とし、両方式で同一とする。
- 伝送レートは CA5 方式とRMP 方式の両方の合計で320kbit/s 以下とする(送出頻度については、CA5 方式とRMP 方式の両方の合計が本編第一部4.11 に記載する送出頻度を超えないものとする。すなわち、それら2 方式のTS パケットを合わせて32ms 単位に1.28kB±100%の範囲で送出する)。
- その他の送出仕様については、CA5 方式のEMM は本編第一部に記載の運用事項に従い、RMP 方式のEMM は本編第二部に記載の運用事項に従うものとする。同一受信機へのEMM 送信間隔を1 秒以上とする条件などは、同一方式のEMM の中で遵守される。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】 RMP方式運用規定及び受信機仕様 5-112,113頁)

(18)「5.1 受信機の構成
- 図 5-1にRMP 方式に関わるハードウェア構成を示す。ここでは、あくまで仕様を説明するためのモデル構成であり、実際の構成は受信機の設計による。

図 5-1 受信機の基本構成

(1) チューナ部
- 制御部からの制御で放送信号の受信と選択を行い、伝送信号のパケット処理、エラー訂正処理を行う。
(2) デスクランブラ
- 制御部からの制御で、MULTI2 方式による特定パケットのデスクランブルを行う。
- コンポーネントのスクランブルの判定は、TS パケットヘッダ中の
transport_scrambling_control フィールドにしたがうこと。
- ARIB STD-B25 第3 部の下記を参照。
第2 章 2.2.4 デスクランブラ
(3) TS デコード部
- TS 多重された信号から必要なパケットを分離し、放送番組信号の選択、各種多重データ(各種SI データ、ECM、EMM 等)の分離を行う。
(4) 映像音声デコード部
- 映像、音声のデコードを行いモニタに出力する。
(5) 表示部
- ユーザに対するデバイス ID 情報、ECM/EMM 復号化時のエラー等を表示するための画面提示手段、ユーザインタフェースを搭載する。
(6) キー入力部
- リモコンからのキー入力処理を行う。
(7) 制御部
- 受信機全体の制御を行う。
(8) RMP モジュール
- TS デコード部より出力されるECM、EMM を入力とし、ECM の暗号復号処理機能、EMM の暗号復号処理機能、デバイス鍵更新処理機能、デバイス鍵更新アルゴリズム、不揮発性メモリ機能等を有することで、デスクランブルに必要な情報をデスクランブラに出力する機能を有するRMP 方式にかかわる仮想的な機能モジュール。
- RMP モジュールは表5-1 に示す共通データおよび表5-2 示す局個別データを保持し、管理する機能を有する。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】 RMP方式運用規定及び受信機仕様 5-114,115頁)

(19)「5.4 有効な限定受信方式
- 複数の限定受信方式が運用される場合があるが、限定受信方式の区別は CA_system_idによって行う。
- 本編第二部で規定する RMP 方式のCA_system_id の値は0x000E である。
- 本編第二部で定める受信処理を行う場合、複数の CA_system_id がCAT やPMT に記載されている場合でも、本編第二部で規定するCA_system_id と整合した値であれば、有効な限定受信方式と判断する。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】 RMP方式運用規定及び受信機仕様 5-115頁)

(20)「5.17.3.1 ソフトウェア実装
受信機内でRMP 方式をソフトウェアによって実装する例を以下に示す。ここでいうソフトウェアとは、命令やデータからなるコンピュータプログラムコード(ただし、5.17.3.2 ハードウェア実装に組み込まれたものを除く)によってRMP 方式を実現したものをいう。」
(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】 RMP方式運用規定及び受信機仕様 5-129,130頁)

2.甲第2号証の記載事項
(1)「第1章 一般事項
1.1 目的
本標準規格は、デジタル放送にて使用されるアクセス制御方式において、受信時に制御を行う方式(以下限定受信方式と呼ぶ)に関し、スクランブル、関連情報の仕様及びそれに関わる受信機仕様について規定することを目的とする。」
(第1 部 受信時の制御方式(限定受信方式) 1頁)

(2)「図3-1 に一般的な限定受信方式の概念図を示す。

図3-1 限定受信方式」
(第1 部 受信時の制御方式(限定受信方式) 17頁)

(3)「参考2 受信機本体機能仕様の解説
本項では第一部機能仕様に記載されている受信機本体の機能仕様を解説する。各機能仕様項目に対してのモデル化された受信機の動作を記述することによって均一な仕様理解を提供することを目的とする。 本項の構成は、モデル化された受信機に関する用語の定義他を第1 節及び第2 節で行い、第3 節にて、機能仕様についてのモデル化された受信機の動作を記述する。なお、モデル化された受信機は機能仕様の説明のためであり、受信機の設計、製造を拘束するものではない。動作についても詳細動作や過渡的な動きよりむしろ、本来の受信機の動作を中心に記載している。受信機設計/製造に関してはその点十分に留意して頂きたい。

1. 受信機の構成
図A2-1 にCA システムに関わる受信機のモデル構成を示す。図はあくまでも仕様を説明するためのモデル構成であり、実際の構成は受信機の設計による。
(1) チューナ部
制御部からの制御で、必要な放送信号の受信と選択を行い、伝送信号のパケット処理、エラー訂正処理を行う。
(2) デスクランブラ
制御部からの制御で、MULTI2 方式による特定パケットのデスクランブルを行う。
(3) DEMUX 部
TS 多重された信号から必要なパケットを分離し、放送番組信号の選択、各種多重データ(各種SI データ、ECM、EMM 等)の分離を行う。
(4) 映像音声デコード部
映像音声のデコードを行い、モニタに出力する。
(5) 表示部
ユーザに対するメニュー、リスト、メッセージ等の表示制御を行いモニタに出力する。
(6) キー入力部
ユーザからの入力としてリモコンキー又はキーボードの入力処理を行う。
(7) 制御部
受信機全体の制御を行う。特にCA に関しては、IC カードとの通信、放送信号から分離した各種データの処理、デスクランブラの制御、電話モデム制御(視聴情報収集センタとの通信処理)、時刻カウント、表示制御処理、キー入力処理がある。」
(第1 部 受信時の制御方式(限定受信方式) 201頁)

(4)「

図A2-1 受信機の基本構成」
(第1 部 受信時の制御方式(限定受信方式) 202頁)

(5)「3.10 ECM の受信とデスクランブラ制御
3.10.1 ECM の受信
● スクランブル有の番組を受信選択する場合、放送信号中のPMT からECM のPID を得て、ECM の受信を行う。
● 受信した暗号化されたECM は「ECM 受信コマンド/レスポンス」でIC カードに与えることにより復号し、スクランブル鍵、視聴制御情報等を受ける。

3.10.2 デスクランブラ制御
● 得られた視聴制御情報から選択した番組(ストリーム)が視聴可能であるならば、デスクランブラにデスクランブルするTS ストリームのパケットID と、スクランブル鍵を与える。」
(第1 部 受信時の制御方式(限定受信方式) 215頁)

(6)「3.11.3 EMM の受信
3.11.3.1 EMM のフィルタリング
● トランスポートストリーム選択中、CAT にEMM のPID 指定がある場合にはEMM を受信する(ただし、蓄積受信機能を有する受信機で記録されたストリームを再生している場合は、再生信号中のEMM は取得しない。また、再生信号中のCAT で指定されるEMM のPID は、放送波からのEMM の受信には使用しない)。」
(第1 部 受信時の制御方式(限定受信方式) 217頁)

(7)「第1章 一般事項
1.1 目的
本標準規格第3 部は、デジタル放送にて使用されるアクセス制御方式において、受信時に制御を行う方式のうち、特に無料放送受信用のコンテンツ保護専用方式(以下本コンテンツ保護方式と呼ぶ)に関し、スクランブル、関連情報の仕様及びそれに関わる受信機仕様について規定することを目的とする。」
(第3 部 受信時の制御方式(コンテンツ保護方式) 335頁)

(8)「3.2.1 システムの基本原理
図 3-1 にシステムの基本原理を示す。
本システムは、CAS(Conditional Access System)の一般的な3 重鍵方式を基礎とする。番組コンテンツは、放送局でスクランブル鍵(Ks)を鍵としてスクランブルされ、受信機でデスクランブルされて視聴者に提示される。また放送局から受信機へ、受信機共通の関連情報としてECM、受信機識別単位(デバイスID 単位)の関連情報としてEMM を伝送する。EMM は、予め受信機に設定された個別のデバイス鍵(Kd)を鍵として暗号化して伝送し、受信機にワーク鍵(Kw)を設定する。ECM はワーク鍵(Kw)を用いて暗号化し、スクランブルを解くためのスクランブル鍵(Ks)を伝送する。受信機では、得られたスクランブル鍵(Ks)を用いてデスクランブルを行う。
本システムでは、コンテンツ保護の仕組みへの最適化を図るため、図 3-1 の基本原理を次節以降で述べるように拡張する。
また本システムでは、受信機識別(デバイスID)は受信機固有のID ではなく、受信機機種、受信機メーカを識別するデバイスID とする。

図 3-1 システムの基本原理」
(第3部 受信時の制御方式(コンテンツ保護方式) 349頁)

3.甲第3号証の記載事項
(1)「3.7 記述子の構成

* 第2 章参照。各記述子を使用可能な伝送方式を○で示す。

別記第1 限定受信方式記述子の構成

注1 記述子タグの値は、限定受信方式記述子を示す0x09 とする。
2 記述子長は、これより後に続くデータバイト数を書き込む領域とする。
3 限定受信方式識別子は、限定受信方式の種類を識別するために使用する領域とする。
4 限定受信PID は、関連情報を含むTS パケットのPID を書き込む領域とする。
5 本記述子は、CAT の記述子領域又はPMT の記述子1 若しくは記述子2 の領域で伝送するものとする。

別記第2 限定再生方式記述子の構成

注1 記述子タグの値は、限定再生方式記述子を示す0xF8 とする。
2 記述子長は、これより後に続くデータバイト数を書き込む領域とする

3 限定再生方式識別子は、限定再生方式の種類を識別するために使用する領域とする。
4 限定再生PID は、関連情報を含むTS パケットのPID を書き込む領域とする。
5 本記述子は、CAT の記述子領域又はPMT の記述子1 若しくは記述子2 の領域で伝送するものとする。

別記第3 部分受信記述子の構成

注1 記述子タグの値は、部分受信記述子を示す0xFB とする。
2 記述子長は、これより後に続くデータバイト数を書き込む領域とする。
3 サービス識別子は、部分受信部で伝送される放送番組の放送番組番号を識別するのに使用する領域とする。
4 本記述子は、地上デジタル音声放送及び地上デジタルテレビジョン放送において、部分受信部が存在する場合のみ使用するものとし、NIT の記述子2 の領域で伝送されるものとする。」
(第3部 伝送信号の多重化方式 177,178頁)

(2)「3.8 識別子の構成


(第3部 伝送信号の多重化方式 184頁)

4.甲第4号証の記載事項
「6.6.2.2 伝送方式
デジタルコピー制御記述子及びコンテント利用記述子は、標準方式第3条第2項及び平成11年郵政省告示第865号(2.6GHz帯の周波数の電波を使用する衛星デジタル音声放送においては、衛星デジタル音声放送に関する電技審答申)に定める伝送制御信号の記述子を書き込む領域において伝送するものとする。
なお、BSデジタル放送用受信機等においては、伝送制御信号の記述子を書き込む領域により伝送された信号は、その記述子タグ(descriptor_tag)が、当該受信機が既に対応済みの記述子に割り当てられている記述子タグと異なっていれば、無視されるよう民間標準規格において規定されている。したがって、記述子タグを、デジタルコピー制御記述子については、既存の民間標準規格と合致するようにし、コンテント利用記述子については、民間規格を含めた他の既存の記述子とは異なる値とすれば、BSデジタル放送用受信機等に不具合を与えることはない。」
(付録-1 285頁)

5.甲第5号証の記載事項
「3. 番組配列情報の拡張
今後の放送展開や受信者の番組視聴慣習等により、より効果的でユーザフレンドリーな番組配列情報を実現するため、さらに工夫の余地もあるものと見られる。このような場合には、関係者の審議を経て、必要に応じたテーブルおよび記述子の追加あるいは記述子の伝送テーブルの追加など、規格の拡張を行なうこともある。これらの拡張に際しては従来規格との互換性を考慮する必要があるが、受信機においては拡張信号によって従来機能に支障が生じないような設計が必要である。」
(第2 部 番組配列情報における基本情報のデータ構造と定義 240頁)

6.甲第6号証の記載事項
「3.3 記述子
記述子のデータ構造は図4.35に示すようなMPEG-2 Systems で規定される記述子(ディスクリプタ)構造を用いており,先頭の8 ビットの記述子タグで各記述子を識別する.

図4.35 記述子の構造」
(3 章 番組配列情報の規格 129頁)

第5 当審の判断

1.甲第1号証ないし甲第5号証について
甲第1号証ないし甲第5号証は、一般社団法人電波産業会(以下、「ARIB」という。)が策定した、放送分野、特に地上デジタルテレビジョン放送に関する技術資料および標準規格の文書であり、それぞれは次のものである。

甲第1号証:地上デジタルテレビジョン放送運用規定 技術資料 ARIB TR-B14 4.7版
甲第2号証:デジタル放送におけるアクセス制御方式 標準規格 ARIB STD-B25 6.0版
甲第3号証:デジタル放送における映像符号化、音声符号化及び多重化方式 標準規格 ARIB STD-B32 2.2版
甲第4号証:デジタル放送用受信装置 標準規格(望ましい仕様) ARIB STD-B21 4.6版
甲第5号証:デジタル放送に使用する番組配列情報 標準規格 ARIB STD-B10 4.9版

ここで、甲第1号証は、『まえがき』において『「技術資料」は、国が定める技術基準と民間の任意基準を取りまとめて策定される標準規格を踏まえて、無線設備、放送設備の適正品質、互換性の確保等を図るため、当該設備に関する測定法、解説、運用上の留意事項等を具体的に定めたものである。 本技術資料は、地上デジタルテレビジョン放送の放送局での運用及び地上デジタルテレビジョン放送受信機の機能仕様について策定されたもので、(後略)』と説明され(上記第4の1.(1))、『2 引用文書』の欄の引用文書には、甲第2号証ないし甲第5号証があげられている(上記第4の1.(2))。
また、例えば、甲第1号証の『第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様』の『1.1 まえがき』の欄には、『本編は、ARIB STD-B25 第1部を基に、それを補足する形で運用上の送出運用規定と受信機仕様に対する要求仕様について規定した。したがって、本編に記載されていない事項に関してはARIB STD-B25第1部を参照願いたい。』と記載されている(上記第4の1.(5))。
このように、甲第1号証の「技術資料」は、甲第2号証ないし甲第5号証などの「標準規格」を引用し、その「標準規格」の内容に基づいて地上デジタルテレビジョン受信機等の設備の仕様を定めたものであって、各文書は密接に関連したものであり、各文書が定めた事項が一体となって地上デジタルテレビジョン技術の仕様を定めたものといえる。
しかしながら、各文書は、その文書名にも表されるように、地上デジタルテレビジョン放送の技術における役割、及び記述される内容は異なっており、それぞれの改定日、版数からもわかるように、別途個別に作成された文書であるから、甲第1号証ないし甲第5号証は、別途独立した個別の文献であることは明白である。
また、ARIBのホームページにおいて、甲第1号証が「技術資料(放送分野)一覧表」(甲第7号証の1)に、甲第2号証ないし甲第5号証が「標準規格(放送分野)一覧表」(甲第7号証の2)に列記されてはいるものの、これらはARIBが策定した技術資料及び標準規格の一覧であり、一覧に載っているということが、各文書が一つの文献であるとの理由になるとはいえない。
以上のことから、請求人の「甲第1号証ないし甲第5号証が一つの文献として捉えた方が実態に即しており、一つの主引用発明として取り扱われるべきものである」という主張は採用できない。

よって、請求人の甲第1号証ないし甲第5号証が一つの文献であることを前提とした、29条1項3号及び29条2項についての主張(上記第3の1.(3)のア(ア)、(イ)、及び第3の1.(3)のイ(ウ))は成立しない。

ただし、請求人の主張は、甲第1号証ないし甲第5号証の「技術資料」及び「標準規格」は当業者が既に理解している周知技術であるから、甲第1号証の「技術資料」に記載される発明は、甲第2号証ないし甲第5号証の周知技術で補って認定することができるという主張ととらえることができる。
したがって、請求人の主張は、この甲第2号証ないし甲第5号証の周知技術で補って認定される甲第1号証に記載される発明を主引用発明とした主張であると理解して、以下判断する。

2.主引用発明
(1)本件特許発明1に対応した甲第1号証に記載された発明
a.甲第1号証は、限定受信方式の地上デジタルテレビジョン受信機仕様を記載したものであり(上記第4の1.(1)及び(5))、甲第1号証の第五編【第一部】には、受信機の仕様を説明するモデル構成として具体的な構成要素が記載されているから(上記第4の1.(8))、甲第1号証には、デジタル放送受信機の発明が記載されていると認められる。
そして、当該デジタル放送受信機は、『放送信号を受信し、MULTI2と呼ばれる暗号化方式によってTSレベルでスクランブルされたコンテンツを限定受信方式により再生するデジタル放送受信機』である(上記第4の1.(8)及び(12))。

b-1.当該デジタル放送受信機は、MULTI2 方式による特定パケットのデスクランブルを行うデスクランブラ、TS多重された信号から各種多重データ(各種SIデータ、ECM、EMM等)の分離を行うTSデコード部、分離された映像、音声のデコードを行いモニタに出力する映像音声デコード部、受信機全体の制御、放送信号から分離した各種データの処理、デスクランブラの制御などを行う制御部を有する(上記第4の1.(8))。
限定受信方式では、放送信号にTSレベルでスクランブルされたコンテンツ、ECMおよびEMM、限定受信方式記述子が記載されたテーブルであるPMTおよびCATが含まれており(上記第4の1.(12))、ECMおよびEMMはメッセージ情報であり(上記第4の1.(10))、PMTおよびCATは、SIデータ内のPSIデータに含まれている(上記第4の1.(3)ないし(4))。
なお、甲第3号証の記述を参照すれば、限定受信方式記述子はPMTおよびCATの記述子領域に記載されること、記述子の名称と記述子タグの値は対応するものであり、「限定受信方式記述子」と称することができる記述子は記述子タグが限定受信方式記述子を示している記述子であることは周知の事項である(上記第4の3.(1))。
したがって、当該デジタル放送受信機のTSデコード部は、記述子タグが限定受信方式記述子を示す限定受信方式記述子が記述子領域に記載されたテーブルであるPMTおよびCATと、メッセージ情報であるECMおよびEMMと、TSレベルでスクランブルされたコンテンツとが多重化された放送信号を分離するものである。

b-2.そして、甲第1号証の第五編【第一部】には、CA_system_idにより区別される複数の限定受信方式を運用可能とすることが記載され(上記第4の1.(9)及び(11))、CA_system_idは、限定受信方式を示す識別子であり(上記第4の1.(12))、甲第3号証の記述を参照すれば、この識別子は限定受信方式記述子の内部に記載される限定受信方式の種類を識別するための限定受信方式識別子であることは周知の事項である(上記第4の3.(1))。
また、第五編【第二部】には、複数の限定受信方式に関して、ARIB STD-B25 第1部 受信時の制御方式(限定受信方式)に規定する方式(CA_system_id=5 以下CA5方式)と、ARIB STD-B25 第3部 受信時の制御方式(コンテンツ保護方式)に規定する方式(CA_system_id=0x000E 以下RMP方式)を並列運用(サイマルクリプト運用)することが記載されている(上記第4の1.(14)ないし(15))。
さらに、サイマルクリプト運用を行う場合には、CA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子が記載されたPMTおよびCAT、CA5方式とRMP方式のECMおよびEMMが送出されることが記載されている(上記第4の1.(17))。
すなわち、甲第1号証には、限定受信方式識別子により区別されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子をPMTおよびCATに記載すること、CA5方式とRMP方式のECMおよびEMMを送出することが示されている。

b-3.甲第1号証の第五編【第二部】に記載される受信機のモデル構成は、サイマルクリプト運用を行う場合のRMP方式の限定受信方式に対応したデジタル放送受信機として認定でき、TSデコード部などの限定受信方式の放送信号を受信する主要な構成において、上記b-1.で認定した第五編【第一部】に記載されるデジタル放送受信機と共通するものである(上記第4の1.(18))。
そして、上記b-1.において認定したデジタル放送受信機を、上記b-2.で認定したサイマルクリプト運用に対応したものとして認定し直すと、当該デジタル放送受信機のTSデコード部は、『記述子タグが限定受信方式記述子を示し、限定受信方式識別子により区別されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子とが記述子領域に記載されたテーブルであるPMTおよびCATと、CA5方式とRMP方式のメッセージ情報であるECMおよびEMMと、TSレベルでスクランブルされたコンテンツとが多重化された放送信号を分離する』ものといえる。

c-1.限定受信方式においては、CATに記載された複数の限定受信方式記述子からCA_system_idに対応したEMMが送出されるPIDを特定し、PMTに記載された複数の限定受信方式記述子からCA_system_idに対応したECMが送出されるPIDを特定する(上記第4の1.(7),(12)及び(16))。
甲第1号証の受信機の制御部は、受信機全体の制御、放送信号から分離した各種データの処理、デスクランブラの制御などを行うものであるから、このPIDを特定する処理は、制御部において実行されるものと認定できる。
また、上記b-2.で認定したように、甲第1号証の受信機においては、複数の限定受信方式記述子は記述子タグが限定受信方式記述子を示すCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子である。
そして、当該制御部は、TSデコード部の各種多重データの分離を制御するものであるから、当該制御部は、『TSデコード部で分離されたPMTおよびCATのテーブルからCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子を分離し、その限定受信方式記述子からECMおよびEMMが送出されるPIDを抽出し、その抽出されたPIDによりECMおよびEMMを分離』するものといえる。

c-2.さらに、当該制御部はデスクランブラを制御するものであって、デスクランブラは後述するようにECMおよびEMMから得られるコンテンツのスクランブルを解除する鍵を必要とするものであるから、当該制御部は、コンテンツのスクランブルを解除する鍵の情報を有するECMおよびEMMを抽出しているといえる。そして、コンテンツは特定の限定受信方式で暗号化されているから、抽出されるECMおよびEMMは特定の限定受信方式記述子に対応するものであるといえ、当該制御部は『分離されたCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMから、特定の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMを抽出する』ものといえる。

d-1.限定受信方式においては、コンテンツのスクランブルを解除する鍵はECMと呼ばれるテーブルで暗号化されて送出され、ECMの暗号を解くための鍵はワーク鍵と呼ばれ、受信者別の識別子をもつEMMと呼ばれるテーブルで暗号化されて送出される(上記第4の1.(12))。
そして、甲第2号証の記述も参照すれば、受信機では、『抽出されたECMおよびEMMによって、コンテンツのスクランブルを解除する鍵を生成するもの』であることは周知事項であり(上記第4の2.(8))、その処理は受信機の制御部にて行われるものと認定できる。

d-2.さらに、MULTI2と呼ばれる暗号化方式によってTSレベルでスクランブルされたコンテンツは、コンテンツのスクランブルを解除する鍵により暗号化が解除されるものであるから、当該デジタル放送受信機のデスクランブラは、『コンテンツのスクランブルを解除する鍵によりTSレベルでスクランブルされたコンテンツの暗号化を解除する』ものといえる。

以上のことから、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1A発明」という)が記載されていると認定できる。

[甲1A発明]
放送信号を受信し、MULTI2と呼ばれる暗号化方式によってTSレベルでスクランブルされたコンテンツを限定受信方式により再生するデジタル放送受信機であって、
記述子タグが限定受信方式記述子を示し、限定受信方式識別子により区別されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子とが記述子領域に記載されたテーブルであるPMTおよびCATと、CA5方式とRMP方式のメッセージ情報であるECMおよびEMMと、TSレベルでスクランブルされたコンテンツとが多重化された放送信号を分離するTSデコード部と、
TSデコード部で分離されたPMTおよびCATのテーブルからCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子を分離し、その限定受信方式記述子からECMおよびEMMが送出されるPIDを抽出し、その抽出されたPIDによりECMおよびEMMを分離し、分離されたCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMから、特定の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMを抽出する制御部とを有し、
制御部は、抽出されたECMおよびEMMによって、コンテンツのスクランブルを解除する鍵を生成するものであって、
さらに、コンテンツのスクランブルを解除する鍵によりTSレベルでスクランブルされたコンテンツの暗号化を解除するデスクランブラを有する、
デジタル放送受信機。

(2)本件特許発明2に対応した甲第1号証に記載された発明
a.甲第1号証には、CAT やPMT に記載されるCA_system_id が、受信機のICカードやRMPモジュールが保持するCA_system_id と整合した値であれば、有効な限定受信方式と判断して受信処理を行うことが記載されており、この処理は制御部で行われるものと認められる(上記第4の1.(8),(9),(18)及び(19))。
ここで、上記2.(1)b-2.において認定したように、CA_system_idは限定受信方式識別子であり、PMTおよびCATにCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子が記載される。
そして、CA_system_id、すなわち限定受信方式識別子は、CA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に含まれているものである(上記第4の1.(12))。
よって、制御部の処理対象となるCA_system_idは、『PMTおよびCATに記載されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に含まれる限定受信方式識別子』といえる。

b.受信機のICカードやRMPモジュールが保持するCA_system_id とは、「受信機が保持する限定受信方式識別子」といえるので、甲第1号証の制御部は、上記a.で認定した限定受信方式識別子が、『受信機が保持する限定受信方式識別子と整合した値であれば、有効な限定受信方式と判断して受信処理を行う』ものといえる。

以上のことから、甲第1号証には、「甲1A発明」に限定事項が追加された次の発明(以下、「甲1B発明」という)が記載されていると認定できる。

[甲1B発明]
甲1A発明のデジタル放送受信機において、
制御部は、PMTおよびCATに記載されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に含まれる限定受信方式識別子が、受信機が保持する限定受信方式識別子と整合した値であれば、有効な限定受信方式と判断して受信処理を行う、
デジタル放送受信機。

(3)本件特許発明3に対応した甲第1号証に記載された発明
甲第1号証は、RMP方式を受信機内でソフトウェア実装してコンピュータプログラムコードによって実現することが記載されており(上記第4の1.(20))、デジタル信号のパケット処理、暗号復号化処理などをソフトウェアで実行することも周知の技術であるから、上記2.(1)において認定した甲1A発明であるCA5方式とRMP方式の限定受信方式に対応したデジタル放送受信機において、限定受信方式の再生に係る処理手段をコンピュータプログラムコードによって実現することが記載されているものと捉えることができる。
よって、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1C発明」という)が記載されていると認定できる。

[甲1C発明]
放送信号を受信し、MULTI2と呼ばれる暗号化方式によってTSレベルでスクランブルされたコンテンツを限定受信方式により再生するデジタル放送受信機において、コンピュータを、
記述子タグが限定受信方式記述子を示し、限定受信方式識別子により区別されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子とが記述子領域に記載されたテーブルであるPMTおよびCATと、CA5方式とRMP方式のメッセージ情報であるECMおよびEMMと、TSレベルでスクランブルされたコンテンツとが多重化された放送信号を分離するTSデコード部、
TSデコード部で分離されたPMTおよびCATのテーブルからCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子を分離し、その限定受信方式記述子からECMおよびEMMが送出されるPIDを抽出し、その抽出されたPIDによりECMおよびEMMを分離し、分離されたCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMから、特定の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMを抽出する制御部、
制御部は、抽出されたECMおよびEMMによって、コンテンツのスクランブルを解除する鍵を生成するものであり、
さらに、コンテンツのスクランブルを解除する鍵によりTSレベルでスクランブルされたコンテンツの暗号化を解除するデスクランブラ、
として機能させるためのデジタル放送受信プログラム。

3.副引用発明
(1)甲第2号証に記載された発明
上記第4の2.(1)ないし(8)の記載によれば、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という)が記載されていると認定できる。

[甲2発明]
限定受信方式に関するデジタル放送の受信機であって、
放送信号を受信し、TS多重された信号から必要なパケットを分離し、スクランブル鍵でスクランブルされた番組コンテンツ、各種多重データ(各種SIデータ、ECM、EMM等)の分離を行うDEMUX部と、
分離された各種多重データ中のPMTからECMのPIDを得てECMを取得し、CATにEMMのPID指定がある場合にはEMMを取得し、
ECMおよびEMMから得られるスクランブル鍵をデスクランブラに与える制御部と、
与えられたスクランブル鍵を用いて、番組コンテンツのデスクランブルを行うデスクランブラとを有する、
デジタル放送受信機。

(2)甲第3号証に記載された発明
上記第4の3.(1)ないし(2)の記載によれば、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という)が記載されていると認定できる。

[甲3発明]
限定受信方式記述子の構成は、記述子タグ(8ビット)、記述子長(8ビット)、限定受信方式識別子(16ビット)、‘111’(3ビット)、限定受信PID(13ビット)、データ(8×Nビット)からなること。
記述子タグの値は、限定受信方式記述子を示す0x09 とすること。
限定受信方式識別子は、限定受信方式の種類を識別するために使用する領域とすること。
限定受信方式記述子は、CAT の記述子領域又はPMT の記述子1 若しくは記述子2 の領域で伝送するものとすること。
記述子タグ及び限定受信方式識別子は識別子であること。

(3)甲第4号証に記載された発明
上記第4の4.の記載によれば、甲第4号証には、次の発明(以下「甲4発明」という)が記載されていると認定できる。

[甲4発明]
BSデジタル放送用受信機等において、コンテント利用記述子の記述子タグを他の既存の記述子と異なるものにすることでBSデジタル放送用受信機等に不具合を与えないこと。

(4)甲第5号証に記載された発明
上記第4の5.の記載によれば、甲第5号証には、次の発明(以下「甲5発明」という)が記載されていると認定できる。

[甲5発明]
今後の放送展開等の必要に応じて記述子の追加を行う際には従来規格との互換性を考慮し、従来機能に支障が生じないようにすることが必要であること。

(5)甲第6号証に記載された発明
上記第4の6.の記載によれば、甲第6号証には、次の発明(以下「甲6発明」という)が記載されていると認定できる。

[甲6発明]
MPEG-2 Systems の規定では、記述子の構成は、記述子タグ(8ビット)、記述子長(8ビット)、データ(8×Nビット)からなり、先頭の8 ビットの記述子タグで各記述子を識別すること。

4.本件特許発明1について
(1)無効理由1(29条1項3号)について
a.対比
本件特許発明1と甲1A発明とを対比する。

(a)甲1A発明の「放送信号を受信し、MULTI2と呼ばれる暗号化方式によってTSレベルでスクランブルされたコンテンツを限定受信方式により再生するデジタル放送受信機」は、本件特許発明1の「放送波を介して送信される暗号化されたコンテンツを、限定受信方式により再生するデジタル放送受信装置」と一致するものである。

(b)本件特許発明1の「多重分離手段」と甲1A発明の「TSデコード部」を対比する。
(b-1)甲1A発明の「記述子タグが限定受信方式記述子を示し、限定受信方式識別子により区別されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子とが記述子領域に記載されたテーブルであるPMTおよびCAT」について検討すると、「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」は、それぞれ、記述子タグが限定受信方式記述子を示し、限定受信方式識別子によって異なる限定受信方式を識別する機能を有する限定受信方式に係る記述子である。
一方、本件特許発明1の「異なる限定受信方式を識別するために予め定めた限定受信方式記述子とアクセス制御記述子とを記述子領域に含んだテーブル情報であるPMTおよびCAT」について検討すると、本件特許発明1の「限定受信方式記述子」は、「限定受信方式記述子」と称しているから、記述子タグが限定受信方式記述子を示し、限定受信方式識別子によって異なる限定受信方式を識別する機能を有する限定受信方式に係る記述子であり、甲1A発明のCA5方式またはRMP方式の「限定受信方式記述子」と一致するものといえる。
これに対し、本件特許発明1の「アクセス制御記述子」は、「限定受信方式記述子」とは名称が異なっている。ここで、上記2.(1)b-1.において検討したように、記述子の名称と記述子タグの値は対応するものであるから、「アクセス制御記述子」は「限定受信方式記述子」とは記述子タグが異なる記述子と認められ、記述子タグを異ならせることにより、異なる限定受信方式を識別する機能を有する記述子といえる。すなわち、本件特許発明1の「アクセス制御記述子」は、記述子タグを異ならせることにより異なる限定受信方式を識別する機能を有する限定受信方式に係る記述子である。
なお、この点は、本件特許発明の明細書においても、段落【0033】の「なお、アクセス制御記述子は、限定受信方式記述子で特定される限定受信方式とは異なる他の限定受信方式を特定するための記述子である。」、段落【0037】の「図3(a)に示すように、アクセス制御記述子は、記述子タグD1と、記述子長D2と、限定受信方式識別子D3と、伝送情報D4と、パケット識別(PID)D5と、データD6とで構成される。」、及び段落【0039】の「このアクセス制御記述子と限定受信方式記述子とでは、記述子タグD1,E1の値が異なるため、両方の記述子がPMTやCATの記述子領域に並列して記載されている場合であっても、それぞれの記述子を区別することができる。」と説明されている事項である。
以上のことから、甲1A発明の「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」、本件特許発明1の「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」は、いずれも、異なる限定受信方式を識別する機能を有する『限定受信方式に係る記述子』というものである点において一致する。
そして、甲1A発明の受信機は、CA5方式とRMP方式の2つの限定受信方式記述子を予め定めてPMTおよびCATに記載していることから、本件特許発明1と甲1A発明は、共に「異なる限定受信方式を識別するために予め定めた複数の限定受信方式に係る記述子を記述子領域に含んだテーブル情報であるPMTおよびCAT」を有している点で一致するといえる。
しかしながら、『複数の限定受信方式に係る記述子』が、本件特許発明1では、互いに記述子タグが異なる「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」であるのに対し、甲1A発明では、互いの限定受信方式識別子が異なる「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」である点において相違する。

(b-2)甲1A発明の「CA5方式とRMP方式のメッセージ情報であるECMおよびEMM」と本件特許発明1の「前記異なる限定受信方式に対応する複数のメッセージ情報であるECMおよびEMM」は、上記(B-1)において検討したように、本件特許発明1と甲1A発明において『複数の限定受信方式に係る記述子』が異なることに伴い、両者のECMおよびEMMが対応する『複数の限定受信方式に係る記述子』は異なるものであるが、両者は「前記異なる限定受信方式に対応する複数のメッセージ情報であるECMおよびEMM」を有している点では一致するものである。

(b-3)甲1A発明のTSデコード部は、「PMTおよびCATと、ECMおよびEMMと、TSレベルでスクランブルされたコンテンツとが多重化された放送信号を分離する」ものであり、本件特許発明1の多重分離手段は、「PMTおよびCATと、ECMおよびEMMと、前記暗号化されたコンテンツとが少なくとも多重化された前記放送波を分離する」ものである。
したがって、甲1A発明のTSデコード部は本件特許発明1の多重分離手段と同様の機能を有する手段といえ、甲1A発明と本件特許発明1は、「PMTおよびCATと、ECMおよびEMMと、前記暗号化されたコンテンツとが少なくとも多重化された前記放送波を分離する多重分離手段」である点で一致する。

(c)本件特許発明1の「アクセス制御記述子分離手段」と甲1A発明の「制御部」を対比する。
甲1A発明の制御部は、「TSデコード部で分離されたPMTおよびCATのテーブルからCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子を分離し、その限定受信方式記述子からECMおよびEMMが送出されるPIDを抽出」する機能を有している。
甲1A発明は、上述した『複数の限定受信方式に係る記述子』が本件特許発明1と異なることに伴い「アクセス制御記述子」を分離する「アクセス制御記述子分離手段」を有していない点で本件特許発明1と相違するものの、甲1A発明の「CA5方式の限定受信方式記述子」、「RMP方式の限定受信方式記述子」、及び本件特許発明1の「アクセス制御記述子」は、上述したように『限定受信方式に係る記述子』というものである点で一致するものであり、各々を『特定の限定受信方式に係る記述子』ととらえれば、甲1A発明の制御部は、本件特許発明1と「この多重分離手段で分離されたテーブル情報から、特定の限定受信方式に係る記述子を分離し、当該特定の限定受信方式に係る記述子に記載されているパケット識別を抽出する特定の限定受信方式に係る記述子分離手段」を有しているという点において共通する。

(d)本件特許発明1の「フィルタリング手段」と甲1A発明の「制御部」を対比する。
甲1A発明の制御部は、「その抽出されたPIDによりECMおよびEMMを分離し、分離されたCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMから、特定の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMを抽出」する機能を有しており、デジタル信号を抽出する機能はフィルタリングといえる。
そして、上述したように甲1A発明は「アクセス制御記述子分離手段」を有していないものであるが、「特定の限定受信方式に係る記述子分離手段」を有する点で本件特許発明1と共通するものであるから、甲1A発明の制御部は、本件特許発明1と「この特定の限定受信方式に係る記述子分離手段から抽出されたパケット識別に対応するECMおよびEMMを、前記多重分離手段で分離された複数のECMおよびEMMから抽出するフィルタリング手段」を有しているという点において共通する。

(e)本件特許発明1の「限定受信制御手段」と甲1A発明の「制御部」を対比すると、甲1A発明の制御部は、「抽出されたECMおよびEMMによって、コンテンツのスクランブルを解除する鍵を生成する」機能を有しているから、本件特許発明1と「このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって、スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段」を有しているという点において共通する。

(f)本件特許発明1の「デスクランブル手段」と甲1A発明の「デスクランブラ」を対比すると、甲1A発明のデスクランブラは「コンテンツのスクランブルを解除する鍵によりTSレベルでスクランブルされたコンテンツの暗号化を解除する」ものであり、コンテンツのスクランブルを解除する鍵は、本件特許発明1の限定受信制御手段に相当する甲1A発明の制御部が生成したものであるから、当該デスクランブラは、本件特許発明1の「この限定受信制御手段で生成されたスクランブル鍵を用いて、前記コンテンツを復号するデスクランブル手段」に相当するものといえる。

b.一致点・相違点
以上の対比結果をまとめると、本件特許発明1と甲1A発明の一致点・相違点は次のとおりである。

[一致点]
放送波を介して送信される暗号化されたコンテンツを、限定受信方式により再生するデジタル放送受信装置であって、
異なる限定受信方式を識別するために予め定めた複数の限定受信方式に係る記述子を記述子領域に含んだテーブル情報であるPMTおよびCATと、前記異なる限定受信方式に対応する複数のメッセージ情報であるECMおよびEMMと、前記暗号化されたコンテンツとが少なくとも多重化された前記放送波を分離する多重分離手段と、
この多重分離手段で分離されたテーブル情報から、特定の限定受信方式に係る記述子を分離し、当該特定の限定受信方式に係る記述子に記載されているパケット識別を抽出する特定の限定受信方式に係る記述子分離手段と、
この特定の限定受信方式に係る記述子分離手段から抽出されたパケット識別に対応するECMおよびEMMを、前記多重分離手段で分離された複数のECMおよびEMMから抽出するフィルタリング手段と、
このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって、スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段と、
この限定受信制御手段で生成されたスクランブル鍵を用いて、前記コンテンツを復号するデスクランブル手段と、
を備えることを特徴とするデジタル放送受信装置。

[相違点1]
PMTおよびCATに含まれる『複数の限定受信方式に係る記述子』が、本件特許発明1では、互いに記述子タグが異なる「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」であるのに対し、甲1A発明では、互いの限定受信方式識別子が異なる「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」である点。

[相違点2]
相違点1に伴い、両者のECMおよびEMMは、対応する『複数の限定受信方式に係る記述子』が異なる点。

[相違点3]
相違点1に伴って、『特定の限定受信方式に係る記述子』を分離する『特定の限定受信方式に係る記述子分離手段』が、本件特許発明1では、「アクセス制御記述子」を分離する「アクセス制御記述子分離手段」であるのに対し、甲1A発明はそのようなものではない点。

[相違点4]
相違点1に伴って、『特定の限定受信方式に係る記述子分離手段』からの情報を用いる「フィルタリング手段」が、本件特許発明1では、「アクセス制御記述子分離手段」からの情報を用いるのに対し、甲1A発明はそのようなものではない点。

c.判断
上記相違点について検討すると、相違点2ないし4は相違点1に伴って付随的に生じた相違であるから、まず相違点1について検討する。

請求人は、本件特許発明1の「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」は、互いに異なる限定受信方式を識別できる記述子の関係に過ぎないとする。そして、甲1A発明の互いに異なる限定受信方式を識別できる「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」のうち、一方の「CA5方式の限定受信方式記述子」は本件特許発明1の「限定受信方式記述子」に相当し、他方の「RMP方式の限定受信方式記述子」は、甲第2号証の記述(上記第4の2.(7))、甲第11号証の記述を参照すると「RMP方式のアクセス制御記述子」との言い換えが可能であることから、本件特許発明1の「アクセス制御記述子」に相当するものである旨を主張している。
しかしながら、本件特許発明1の「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」の相違は、単に記述子に冠する名称の相違のみに止まるものではない。
すなわち、従来の限定受信方式記述子が『限定受信方式識別子』を異ならせることで、異なる限定受信方式を識別するものであったのに対し、本件特許発明1の「アクセス制御記述子」は、上記4.(1)a.(b-1)においても検討したように、『記述子タグ』を従来の限定受信方式記述子と異ならせることによって、異なる限定受信方式を識別するようにしたものである。このように、本件特許発明1の「アクセス制御記述子」は、上記従来の限定受信方式記述子とその構成を異にする記述子であることから、「限定受信方式記述子」と区別する「アクセス制御記述子」とその名称を異にしているのである。
翻って、甲1A発明の「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」は、それぞれの『限定受信方式識別子』をCA5方式、RMP方式に対応させることにより、異なる限定受信方式を識別することのできる限定受信方式記述子である。
以上のとおりであるから、本件特許発明1の「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」と、甲1A発明の「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」は、明らかにその構成が異なるものである。

そして、本件特許発明1は、この「アクセス制御記述子」を導入することにより、従来の限定受信方式記述子とは独立して、新たな限定受信方式に対応することができるため、一部の既存の受信装置において、サイマルクリプト運用への対応を省略してしまっているためにコンテンツを再生できないという問題が解決されるという効果を奏するものである。

次に相違点2ないし4について検討すると、相違点2ないし4は、相違点1に伴って付随的に生じた相違であるから、これらの相違点2ないし4においても、甲1A発明は本件特許発明1と明らかに異なるものである。

以上のとおり判断されるから、本件特許発明1は甲1A発明と相違するものであり、甲1A発明として認定した以外の、他の甲第1号証の記載を見ても本件特許発明1が記載されていると認めることもできないから、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

d.小括
以上の検討によれば、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明であるということはできないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。

(2)無効理由2(29条2項)について
a.対比及び一致点・相違点
本件特許発明1と甲1A発明との対比及び一致点・相違点は、上記4.(1)a.及びb.に記載したとおりである。

b.判断
上記相違点について検討すると、相違点2ないし4は相違点1に伴って付随的に生じた相違であるから、まず相違点1に関し、本件特許発明1の「限定受信方式記述子」と記述子タグが異なる「アクセス制御記述子」が、当業者にとって容易想到の「特定の限定受信方式に係る記述子」であるか否かについて検討する。

相違点1に係る本件特許発明1の「限定受信方式記述子」と記述子タグが異なる「アクセス制御記述子」を設けることは、甲2発明ないし甲6発明には示されておらず、甲2発明ないし甲6発明から直接「アクセス制御記述子」を導き出すことはできない。

次に、甲第1号証ないし甲第6号証の記載から、「アクセス制御記述子」が容易想到であるか否かについて検討する。

本件特許発明1は、本件特許発明の明細書の段落【0004】?【0011】に記載されるように、ARIBの規格では限定受信方式識別子により区別される複数の限定受信方式を並列運用するためのサイマルクリプト方式を策定していたが、従来のデジタル放送受信装置にこのサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在するという問題を解決するためになされたものである。

これに対し、甲第1号証には、上記第4の1.(12)ないし(13)に記載のとおり、将来導入されるかもしれない放送におけるコンテンツ保護方式に関して記載があり、case3として、複数の限定受信方式の登場に際して新たな規格の策定を不要とするように、甲第2号証のARIB STD-B25において既に規格化された限定受信方式のCA_system_idにより対応することが記載されている。
また、case2として、甲第2号証のARIB STD-B25において規格化されていない限定受信方式を将来導入する場合には、その事が受信機の誤動作につながることのないように、その方式の登場に際して新たな追加規格が策定されねばならないことが記載されている。
しかしながら、これらの記載のように、甲第1号証には、規格化されていない限定受信方式を将来導入する場合には、新たな追加規格の策定が必要であるという示唆はあるものの、新たな追加規格の具体的な提案は示されていない。
つまり、甲第1号証には、限定受信方式識別子、すなわちCA_system_idによりサイマルクリプト方式に対応すること以上の記載はないから、甲1A発明は、本件特許発明1の課題である、従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在するという課題に対応することは考慮されていないものである。

甲第4号証には、BSデジタル放送用受信機等において、コンテント利用記述子の記述子タグを他の既存の記述子と異なるものにすることでBSデジタル放送用受信機等に不具合を与えないこと、甲第5号証には、今後の放送展開等の必要に応じて記述子の追加を行う際には従来規格との互換性を考慮し、従来機能に支障が生じないようにすることが必要であることが開示されている。
しかしながら、これらの記載からは、記述子を追加する場合には記述子タグが異なる記述子であれば既存のデジタル放送受信機に不具合を与えないという技術事項は読み取れるものの、本件特許発明1の課題である、従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在するという課題への対応を考慮しているものではない。

さらに、その他の甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証にも、本件特許発明1の課題である、従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在するという課題への対応を考慮することは開示されていない。

なお、審判請求人は、『進歩性に係る「論理付け(動機付け)」は、種々の観点、広範な観点から行うことが可能であり、「課題の共通性」に限られるものではない。技術者が設計上、効率性を追求すること、様々な状況に配慮すること等は、多々行われている範疇に含まれる設計的事項であり、このような設計的事項は技術者であれば自発的に考慮するものであり、何ら課題が必要とされるべきものではない。本件における課題は、サイマルクリプト運用によっては既存の受信機の中でコンテンツを再生できない受信機が存在するという明らかな不具合であって、サイマルクリプト運用の試験を行いさえすえば誰であっても認識できるものであり、その原因が一部の既存の受信機においてサイマルクリプト運用への対応を省略してしまっていることであることも、不具合を認識した当業者であれば当然に気付くことができるものにすぎない。』といった旨の主張をしている。
しかしながら、請求人も述べているように、発明は効率性の追求など何らかの課題があって、それを解決しようとするという動機付けによりなされるものである。
そして、サイマルクリプト運用によっては既存の受信機の中でコンテンツを再生できない受信機が存在するという不具合はサイマルクリプト運用の試験を行いさえすれば誰であっても認識できる課題であるとの主張は、実際に既存の受信機を解析した結果、不具合の存在する受信機が現実に広く存在していたことを示す証拠などを示して証明されたものではない以上、請求人の主張は採用できない。
また、その不具合の原因が一部の既存の受信機においてサイマルクリプト運用への対応を省略したことであることは不具合を認識した当業者であれば当然に気付くことができるとの主張も、実際に原因の調査を実施した証拠などが示されていない以上、請求人の推測にすぎないものと認められる。

以上のように、甲第1号証ないし甲第6号証には、従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在するという問題に対応するために既存の規格を改変しなければならないという課題が見出されていない以上、甲1A発明において、記述子タグが異なる「アクセス制御記述子」を設けようとする必然性は存在しないといえる。
さらに、「アクセス制御記述子」を設けることが、当業者の通常の創作能力の発揮による設計の最適化であるとか、設計の変更が技術の単なる寄せ集めともいえないことから、当業者が上記相違点1に係る「アクセス制御記述子」を容易に導き出すことができたものとはいえない。
よって、相違点1は、甲1A発明、甲2発明ないし甲6発明から、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

相違点2ないし4は相違点1に付随して生じた相違であるため、相違点1が容易に想到し得たものではないと判断されることから、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

c.小括
以上のとおり判断されるから、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第6号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、特許法第29条第2項の規定に該当せず、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。

5.本件特許発明2について
(1)無効理由1(29条1項3号)について
a.対比
本件特許発明2は本件特許発明1を含み、甲1B発明は甲1A発明を含むものである。そして、本件特許発明2と甲1B発明を比較する際、本件特許発明1と甲1A発明に係る構成の一致点、相違点は、上記4.(1)b.に示した一致点、相違点と同じであるから、本件特許発明2が本件特許発明1に対し、さらに有する構成について、以下、甲1A発明を含む甲1B発明との対比を行う。

(a)本件特許発明2と甲1B発明における「PMTおよびCAT」について検討する。
甲1B発明に含まれる甲1A発明には「限定受信方式識別子により区別されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子とが記述子領域に記載されたテーブルであるPMTおよびCAT」という構成があるから、甲1B発明のPMTおよびCATには、限定受信方式識別子により区別されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子が含まれている。
上記4.(1)b.で認定した相違点1に伴い、本件特許発明2ではPMTおよびCATには「アクセス制御記述子」が含まれるのに対し、甲1B発明では「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」が含まれる点において相違するが、上記4.(1)a.(b-1)及び(c)においても検討したように、「アクセス制御記述子」及び「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」は、『特定の限定受信方式に係る記述子』である点において共通するものであるから、甲1B発明は、本件特許発明2と「前記PMTおよびCATには、限定受信方式ごとに異なる予め定めた限定受信方式識別子が記載された特定の限定受信方式に係る記述子が含まれ」る点において一致するものといえる。

(b)本件特許発明2の「アクセス制御記述子分離手段」と甲1B発明の「制御部」を対比する。
甲1B発明の「制御部は、PMTおよびCATに記載されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に含まれる限定受信方式識別子が、受信機が保持する限定受信方式識別子と整合した値であれば、有効な限定受信方式と判断して受信処理を行う」ということは、PMTおよびCATに記載されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に含まれる限定受信方式識別子の値と、受信機が保持する限定受信方式識別子の値とが整合しているか判断するものであるから、PMTおよびCATに記載されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子から限定受信方式識別子を抽出し、受信機が保持する限定受信方式識別子を出力し、両限定受信方式識別子の値を比較するという手順を実行しているものといえる。
上記4.(1)a.(c)において検討したように、甲1B発明に含まれる甲1A発明は「アクセス制御記述子」を分離するものではないため「アクセス制御記述子分離手段」を有していない点で本件特許発明1と相違するが、甲1B発明に含まれる甲1A発明の「制御部」と本件特許発明1の「アクセス制御記述子分離手段」は「特定の限定受信方式に係る記述子分離手段」という点において一致する。
そして、甲1B発明の制御部は、上述したように、CA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子から限定受信方式識別子を抽出するものであるから、本件特許発明2と「特定の限定受信方式に係る記述子分離手段は、前記特定の限定受信方式に係る記述子からさらに前記限定受信方式識別子を抽出し、」という構成を有しているという点において共通する。

(c)本件特許発明2の「限定受信制御手段」及び「比較手段」と甲1B発明の「制御部」を対比する。
上記4.(1)a.(e)において検討したように、甲1B発明に含まれる甲1A発明の「制御部」は本件特許発明1と「このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって、スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段」を有しているという点において共通する。
そして、上記(b)において検討したように、甲1B発明の制御部は、PMTおよびCATに記載されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子から限定受信方式識別子を抽出し、受信機が保持する限定受信方式識別子を出力し、両限定受信方式識別子の値を比較するという手順を実行しているものといえることから、甲1B発明の「制御部」は、「アクセス制御記述子」を分離しておらず「アクセス制御記述子分離手段」を有していない点で本件特許発明2と相違するものの、本件特許発明2と「前記限定受信制御手段は、自身の限定受信方式を識別する限定受信方式識別子を出力するものであって」、「前記特定の限定受信方式に係る記述子分離手段が抽出した限定受信方式識別子と、前記限定受信制御手段が出力する限定受信方式識別子とを比較する比較手段」を有しているという点において共通する。

(d)本件特許発明2の「切替信号出力手段」と甲1B発明の「制御部」を対比する。
甲1B発明の「制御部」は「PMTおよびCATに記載されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に含まれる限定受信方式識別子が、受信機が保持する限定受信方式識別子と整合した値であれば、有効な限定受信方式と判断して受信処理を行う」ものであり、受信処理を行うためには、ECMおよびEMMからコンテンツのスクランブルを解除する鍵を生成する必要があることは自明である。
また、上記4.(1)a.(d)及び(e)において検討したように、甲1B発明に含まれる甲1A発明の「制御部」は本件特許発明1の「この特定の限定受信方式に係る記述子分離手段から抽出されたパケット識別に対応するECMおよびEMMを、前記多重分離手段で分離された複数のECMおよびEMMから抽出するフィルタリング手段」及び「このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって、スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段」に対応するものであるから、甲1B発明の制御部は、「フィルタリング手段」により抽出されたECMおよびEMMを、スクランブル鍵を生成する「限定受信制御手段」に引き渡すものといえる。
従って、甲1B発明の「制御部」は、本件特許発明2と「この比較手段によって両識別子が一致すると判定された場合に、前記フィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMを、前記限定受信制御手段に出力する切替信号出力手段」を有しているという点において共通するものといえる。

b.一致点・相違点
以上の対比結果をまとめると、本件特許発明2と甲1B発明は、上記4.(1)b.に示した[一致点]、及び[相違点1]ないし[相違点4]に加え、以下の一致点・相違点を有している。

[一致点]
前記PMTおよびCATには、限定受信方式ごとに異なる予め定めた限定受信方式識別子が記載された特定の限定受信方式に係る記述子が含まれ、
前記特定の限定受信方式に係る記述子分離手段は、前記特定の限定受信方式に係る記述子からさらに前記限定受信方式識別子を抽出し、
前記限定受信制御手段は、自身の限定受信方式を識別する限定受信方式識別子を出力するものであって、
前記特定の限定受信方式に係る記述子分離手段が抽出した限定受信方式識別子と、前記限定受信制御手段が出力する限定受信方式識別子とを比較する比較手段と、
この比較手段によって両識別子が一致すると判定された場合に、前記フィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMを、前記限定受信制御手段に出力する切替信号出力手段と、
をさらに備える点。

[相違点5]
上記相違点1と関連して、『特定の限定受信方式に係る記述子』は、本件特許発明2では「アクセス制御記述子」であるのに対し、甲1B発明では「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」である点。

[相違点6]
相違点1に伴って、『特定の限定受信方式に係る記述子分離手段』が、本件特許発明2では、「アクセス制御記述子分離手段」であるのに対し、甲1B発明はそのようなものではない点。

c.判断
上記相違点について検討すると、相違点5ないし6は相違点2ないし4と同様に相違点1に伴って付随的に生じた相違である。
上記4.(1)c.の判断を援用すれば、甲1A発明を含む甲1B発明は、相違点1において本件特許発明1を引用する本件特許発明2と明らかに異なるものである。
そして、相違点2ないし6は、相違点1に伴って付随的に生じた相違であるから、相違点2ないし6においても、甲1B発明は本件特許発明2と異なるものである。

以上のとおり判断されるから、本件特許発明2は甲1B発明と相違するものであり、甲1B発明として認定した以外の、他の甲第1号証の記載を見ても本件特許発明2が記載されていると認めることもできないから、本件特許発明2は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

d.小括
以上の検討によれば、本件特許発明2が甲第1号証に記載された発明であるということはできないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。

(2)無効理由2(29条2項)について
a.対比及び一致点・相違点
本件特許発明2と甲1B発明との対比及び一致点・相違点は、上記5.(1)a.及びb.に記載したとおりである。

b.判断
上記相違点について検討すると、相違点5ないし6は相違点2ないし4と同様に相違点1に伴って付随的に生じた相違である。
上記4.(2)b.の判断を援用すれば、相違点1は、甲1A発明を含む甲1B発明、甲2発明ないしに甲6発明から、当業者が容易に想到し得たものとすることはできないものである。
そして、相違点2ないし6は、相違点1に伴って付随的に生じた相違であるから、相違点2ないし6も、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

c.小括
以上のとおり判断されるから、本件特許発明2は、甲第1号証ないし甲第6号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、特許法第29条第2項の規定に該当せず、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。

6.本件特許発明3について
(1)無効理由1(29条1項3号)について
a.対比及び一致点・相違点
本件特許発明3と甲1C発明とを対比する。

本件特許発明3は、本件特許発明1の「多重分離手段」、「アクセス制御記述子分離手段」、「フィルタリング手段」、「限定受信制御手段」及び「デスクランブル手段」を、プログラムが実行されるコンピュータで実現したものであり、甲1C発明は、甲1A発明の「TSデコード部」、「制御部」及び「デスクランブラ」を、プログラムが実行されるコンピュータとして認定したものであるから、上記4.(1)a.及びb.を援用すれば、本件特許発明3と甲1C発明の一致点・相違点は次のとおりである。

[一致点]
放送波を介して送信される暗号化されたコンテンツを、限定受信方式により再生するデジタル放送受信装置において、コンピュータを、
異なる限定受信方式を識別するために予め定めた複数の限定受信方式に係る記述子を記述子領域に含んだテーブル情報であるPMTおよびCATと、前記異なる限定受信方式に対応する複数のメッセージ情報であるECMおよびEMMと、前記暗号化されたコンテンツとが少なくとも多重化された前記放送波を分離する多重分離手段、
この多重分離手段で分離されたテーブル情報から、特定の限定受信方式に係る記述子を分離し、当該特定の限定受信方式に係る記述子に記載されているパケット識別を抽出する特定の限定受信方式に係る記述子分離手段、
この特定の限定受信方式に係る記述子分離手段から抽出されたパケット識別に対応するECMおよびEMMを、前記多重分離手段で分離された複数のECMおよびEMMから抽出するフィルタリング手段、
このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって、スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段、
この限定受信制御手段で生成されたスクランブル鍵を用いて、前記コンテンツを復号するデスクランブル手段、
として機能させるためのデジタル放送受信プログラム。

[相違点7]
PMTおよびCATに含まれる『複数の限定受信方式に係る記述子』が、本件特許発明3では、互いに記述子タグが異なる「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」であるのに対し、甲1C発明では、互いの限定受信方式識別子が異なる「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」である点。

[相違点8]
相違点7に伴い、両者のECMおよびEMMは、対応する『複数の限定受信方式に係る記述子』が異なる点。

[相違点9]
相違点7に伴って、『特定の限定受信方式に係る記述子』を分離する『特定の限定受信方式に係る記述子分離手段』が、本件特許発明3では、「アクセス制御記述子」を分離する「アクセス制御記述子分離手段」であるのに対し、甲1C発明はそのようなものではない点。

[相違点10]
相違点7に伴って、『特定の限定受信方式に係る記述子分離手段』からの情報を用いる「フィルタリング手段」が、本件特許発明3では、「アクセス制御記述子分離手段」からの情報を用いるのに対し、甲1C発明はそのようなものではない点。

b.判断
上記相違点について検討すると、相違点7ないし10は上記相違点1ないし4に対応するものある。
そして、相違点1ないし4についての上記4.(1)c.の判断を援用すれば、甲1C発明は、相違点7ないし10において本件特許発明3と異なるものである。

以上のとおり判断されるから、本件特許発明3は甲1C発明と相違するものであり、甲1C発明として認定した以外の、他の甲第1号証の記載を見ても本件特許発明1が記載されていると認めることもできないから、本件特許発明3は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

c.小括
以上の検討によれば、本件特許発明3が甲第1号証に記載された発明であるということはできないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。

(2)無効理由2(29条2項)について
a.対比及び一致点・相違点
本件特許発明3と甲1C発明との対比及び一致点・相違点は、上記6.(1)a.に記載したとおりである。

b.判断
上記相違点について検討すると、相違点7ないし10は上記相違点1ないし4に対応するものある。
そして、相違点1ないし4についての上記4.(2)b.の判断を援用すれば、相違点7ないし10は、甲1C発明、甲2発明ないし甲6発明から、当業者が容易に想到し得たものとすることはできないものである。

c.小括
以上のとおり判断されるから、本件特許発明2は、甲第1号証ないし甲第6号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、特許法第29条第2項の規定に該当せず、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当しない。

7.まとめ
(1)無効理由1(29条1項3号)について
上記1.において判断したように、請求人の甲第1号証ないし甲第5号証は一つの主引用発明として取り扱われるべきものであり、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載されているから、新規性を欠く発明であるという主張(上記第3の1.(3)のア(ア))、及び甲第1号証ないし甲第5号証が一つの文献であることを前提に、本件特許発明1ないし3は、一つの文献甲第1号証及び甲第2号証に記載される発明によって新規性を失っているという主張(上記第3の1.(3)のア(イ))は成立しない。

また、上記4.(1)、5.(1)及び6.(1)において判断したように、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載される発明によって新規性を失っているという主張(上記第3の1.(3)のア(ウ))は成立しない。

(2)無効理由2(29条2項)について
上記1.において判断したように、請求人の甲第1号証ないし甲第5号証が一つの文献であることを前提に、本件特許発明1ないし3は、主引用発明である甲第1号証ないし甲第2号証に記載される発明に、甲第4号証及び甲第5号証等の記載から導ける事項を組み合わせることにより容易に想到できるという主張(上記第3の1.(3)のイ(ウ))は成立しない。

また、上記4.(2)、5.(2)及び6.(2)において判断したように、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載される発明を主引用発明として、甲第1号証ないし甲第6号証に記載されているいずれの発明を適用しても、当業者が容易に想到し得たものとすることはできないものであるから、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載される発明を主引用発明として、甲第1号証ないし甲第5号証に記載される発明及び甲第6号証の周知技術からすれば容易であるという主張(上記第3の1.(3)のイ(ア))、主引用発明である甲第1号証に記載される発明に、甲第4号証及び甲第5号証等の記載から導ける事項を組み合わせることにより容易に想到できるという主張(上記第3の1.(3)のイ(イ))、及び主引用発明である甲第1号証に記載される発明に、副引用発明である甲第2号証に記載される発明を組み合わせることにより容易に想到できるという主張(上記第3の1.(3)のイ(エ))は、いずれも成立しない。

第6 むすび

以上のとおり、請求人が申し立てる無効理由1、無効理由2はいずれも理由がなく、特許第5113954号の請求項1ないし3に係る発明を無効とすることはできない。
よって、本件審判の請求は成り立たない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2014-12-19 
結審通知日 2014-12-24 
審決日 2015-01-06 
出願番号 特願2012-183725(P2012-183725)
審決分類 P 1 113・ 113- Y (H04N)
P 1 113・ 121- Y (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加内 慎也  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 渡邊 聡
渡辺 努
登録日 2012-10-19 
登録番号 特許第5113954号(P5113954)
発明の名称 デジタル放送受信装置およびそのプログラム  
代理人 小林 幸夫  
代理人 河部 康弘  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 弓削田 博  
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