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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1315213
審判番号 不服2014-7556  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-23 
確定日 2016-05-30 
事件の表示 特願2009-288001「熱硬化型ダイボンドフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月 5日出願公開,特開2010-171402〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成21年12月18日(優先権主張平成20年12月24日)の出願であって,平成25年7月31日に手続補正書が提出され,同年8月27日付けで拒絶の理由が通知され,同年10月23日に意見書及び手続補正書が提出され,同年11月6日付けで最後の拒絶の理由が通知され,平成26年1月7日に意見書が提出されたが,同年1月22日付けで拒絶査定がなされ,その後,同年4月23日に拒絶査定不服審判が請求され,平成27年7月3日付けで当審において拒絶の理由を通知し,同年8月31日に意見書及び手続補正書が提出され,同年10月16日付けで当審において最後の拒絶の理由を通知し,同年12月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
平成27年12月14日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の請求項1及び請求項10の「80℃?140℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が10kPa?10MPaの範囲内であり,175℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が0.1MPa?3MPaの範囲内であり」を,補正後の請求項1及び請求項10の「80℃?140℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が10kPa?10MPaの範囲内であり」とするものである。

本件補正の適法性について,審判請求人は,平成27年12月14日に提出した意見書において,「この補正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものです。『175℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が0.1MPa?3MPaの範囲内であり,』という限定に対して,拒絶理由通知書において『発明の課題と……の実質的な関係を理解することができず,発明の課題の解決手段を理解することができない』と指摘されております。」と主張する。

そこで検討すると,平成27年10月16日付けの最後の拒絶の理由の,「理由 2)」は,「本件出願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものであり,「・備考」として,「明細書には,熱硬化工程の前にワイヤーボンディングを行う工程を含む発明において,175℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が0.1MPa?3MPaであることによって,半導体チップに対するワイヤーボンディングの際にも十分な接着力を維持させることができ,その結果,ダイボンドフィルム上に接着固定した半導体チップに対してワイヤーボンディングを行う際にも,超音波振動や加熱によるダイボンドフィルムと被着体との接着面でのずり変形を防止し,ワイヤーボンディングの成功率を向上させること(【0014】等),及び,熱硬化前の封止において,半導体チップが封止樹脂の注入の際に押し流されるのを防止することができること(【0015】等)等は記載されているものの,『熱硬化工程の後にワイヤーボンディングを行う工程を含む』発明において,『175℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が0.1MPa?3MPa』という発明特定事項を選択したことによる技術的意義は,何ら記載されていない。また,前記技術的意義が出願時の技術常識に基づいて自明であるとも認められない。」こと,したがって,「当業者は,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,『熱硬化工程の後にワイヤーボンディングを行う工程を含』み,かつ,『175℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が0.1MPa?3MPa』ことを発明特定事項として含む,請求項1及び請求項10,並びに,これらの請求項を引用する請求項に係る発明について,発明の課題と,前記『175℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が0.1MPa?3MPa』であることを特定したこととの実質的な関係を理解することができず,発明の課題の解決手段を理解することができないから,本願は発明の技術上の意義が不明であり,委任省令要件違反に該当するものと認められる。」ことを指摘するものである。

そうすると,本件補正は,拒絶理由において示した,「発明の課題と,前記『175℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が0.1MPa?3MPa』であることを特定したこととの実質的な関係を理解することができず,発明の課題の解決手段を理解することができない」とする拒絶の理由について,補正前の請求項1及び請求項10の「80℃?140℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が10kPa?10MPaの範囲内であり,175℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が0.1MPa?3MPaの範囲内であり」を,補正後の請求項1及び請求項10の「80℃?140℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が10kPa?10MPaの範囲内であり」とすることによって,補正前の請求項1及び請求項10が有していた,請求項自体の記載内容が明細書の記載との関係において不合理が生じ,あるいは,請求項に記載した発明が技術的に正確に特定されず不明りょうであるという不備を正したものであると認められる。

したがって,本件補正は,審判請求人が意見書において主張するように,明りょうでない記載の釈明を目的とした補正といえる。
すなわち,本件補正は,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものであるから,特許法第17条の2第5項の規定に違反しない。
また,本件補正が,特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反することがないことも明らかである。
したがって,本件補正は適法なものといえるから,本願の請求項1-10に係る発明は,平成27年12月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりのものである。

「【請求項1】
熱硬化型ダイボンドフィルムで半導体チップを被着体にダイボンドするダイボンド工程と,
前記ダイボンド工程の後に前記熱硬化型ダイボンドフィルムを熱硬化する熱硬化工程と,
前記熱硬化工程の後にワイヤーボンディングを行う工程とを含み,
前記熱硬化型ダイボンドフィルムは,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,アクリル共重合体及びフィラーを少なくとも含み,80℃?140℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が10kPa?10MPaの範囲内であり,ポリイソシアネート化合物を含まない,半導体装置の製造方法。」

3 引用例とその記載事項,及び,引用発明
ア 引用例1:特開2008-81734号公報
平成27年10月16日付けで当審において通知した拒絶の理由で引用した,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である引用例1には,「接着シート,一体型シート,半導体装置,及び半導体装置の製造方法」(発明の名称)について,図1ないし図8とともに,次の記載がある。(なお,下線は当合議体において付したものである。以下同じ。)

(1a)「【請求項1】
硬化前の70℃でのずり弾性率測定において,ひずみ量1%の貯蔵弾性率G_(1),ひずみ量10%の貯蔵弾性率G_(10)の比G_(1)/G_(10)が1.2?100であり,硬化前の70℃での剪断速度0.1(s^(-1)),ひずみ量0.4%の条件で測定した溶融粘度が100Pa・s?25万Pa・sであることを特徴とする接着シート。
【請求項2】
熱硬化性成分及び高分子量成分を合わせて40?85体積%と,フィラー15?60体積%とを含む組成物を含有することを特徴とする請求項1記載の接着シート。
【請求項3】
樹脂100重量部とフィラー40?180重量部とを含む樹脂組成物を含有し,前記樹脂が分子量800以上のエポキシ樹脂を含む熱硬化性成分60?85重量%と,重量平均分子量が10万?100万で,かつTgが-50?50℃である架橋性官能基を含む高分子量成分15?40重量%とを含むことを特徴とする請求項1記載の接着シート。
【請求項4】
硬化前の70℃での剪断速度0.1(s^(-1)),ひずみ量0.4%の条件で測定したずり粘度η_(1)と,剪断速度100(s^(-1)),ひずみ量0.4%の条件で測定したずり粘度η_(2)との比η_(1)/η_(2)が50以下であることを特徴とする請求項1?3いずれか一項に記載の接着シート。
【請求項5】
硬化前の25℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が200?3000MPaであり,80℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が0.1?10MPaである請求項1?4いずれか一項に記載の接着シート。
【請求項6】
請求項1?5いずれか一項に記載の接着シートとダイシングテープとを貼り合わせた一体型シート。
【請求項7】
ウエハ,請求項1?5いずれか一項に記載の接着シート,ダイシングテープの順に0℃?120℃で貼り合わせる工程,
ウエハ,接着シート及びダンシングテープを同時に切断し,接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程,
前記接着シート付き半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001?1MPaで接着する工程と,
を含む半導体装置の製造方法。
【請求項8】
ウエハと請求項6に記載の一体型シートの接着シート側とを0℃?120℃で貼り合わせる工程,
ウエハと一体型シートを同時に切断し,一体型シートの接着シートとダイシングテープ間で剥離して接着シート付き半導体チップを得る工程,
前記接着シート付き半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001?1MPaで接着する工程と,
を含む半導体装置の製造方法。」

(1b)「【背景技術】
【0002】
近年,半導体パッケージの小型化に伴い,半導体チップと同等サイズであるCSP(Chip Size Package),さらに,半導体チップを多段に積層したスタックドCSPが普及している(例えば,特開2001-279197号公報,特開2002-222913号公報,特開2002-359346号公報,特開2001-308262号公報,特開2004-72009号公報参照)。これらの例として,図1に示す配線4などに起因する凹凸を有する基板3上に半導体チップA1を積層したパッケージ,又は,図2に示す同サイズの半導体チップA1を2つ以上使用するパッケージであって,ワイヤ2などに起因する凹凸を有する半導体チップ上にさらに別の半導体チップを積層するパッケージなどがある。このようなパッケージには,凹凸を埋込み,かつ上部の半導体チップとの絶縁性を確保することが可能な接着シートが求められている。図1及び図2中,b1は接着剤である。
【0003】
配線,ワイヤ等の凹凸の充てんには,通常,凹凸の高さより接着シートの厚さを厚くすること,接着シートの溶融粘度を低減し,充てん性を改善することが求められる。しかしながら,一方で,厚さが厚く,溶融粘度が低い接着シートは,積層時にチップ端部から樹脂が流動し,はみだしやすいという問題があった。
【0004】
以上の点から,配線やワイヤ等に起因する凹凸の充てん性が優れ,また,凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少ない,さらには耐熱性や耐湿性を満足する接着シートを得ることが望まれている。」

(1c)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
配線やワイヤ等に起因する凹凸の充てん性が優れ,また,凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少ない,さらには耐熱性や耐湿性を満足する接着シート,一体型シート,半導体装置,及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。」

(1d)「【0023】
η_(1)/η_(2)の値は,フィラーの配合量,フィラーの平均粒径などで調整することが可能である。η_(1)/η_(2)を50以下にするには,好ましくは平均粒径が0.1?5μm,さらに好ましくは0.3?3μm以下のフィラーを,接着シートに10?70重量%添加する。そして,最も好ましくは,平均粒径1μm以下のフィラーを25?55重量%添加する。フィラーの平均粒径を小さくするとη_(1)/η_(2)は大きくなるが,フィラーの平均粒径が0.1μm未満の場合は溶融粘度が上昇しすぎる傾向にある。また,フィラーの平均粒径が5μm超である場合はη_(1)/η_(2)が小さくなり,充てん性が悪化する傾向にある。
本発明の接着シートは,硬化前(Bステージ状態)の25℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が200?3000MPaであると,ダイシング性が優れる点で好ましく,500?2000MPaであるとダイシング性に優れ,かつウエハとの密着性が優れる点でより好ましい。また,硬化前(Bステージ状態)の80℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が0.1?10MPaであると,80℃でウエハにラミネートが可能である点で好ましく,0.5?5MPaであると,特にウエハへの密着性が高い点でより好ましい。」

(1e)「【0024】
また,本発明の接着シートは,硬化後(Cステージ状態)の170℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率は,良好なワイヤボンディング性を得るために好ましくは20?600MPaであり,より好ましくは40?600MPa,さらにより好ましくは40?400MPaである。」

(1f)「【0030】
本発明の接着シートは樹脂及びフィラーを含む樹脂組成物を含有する。樹脂100重量部に対して,フィラーを好ましくは40?180重量部,より好ましくは60?120重量部配合する。フィラーの配合量が180重量部超である場合は,流動性が極端に低下する傾向にある。前記樹脂は熱硬化性成分と高分子量成分とを含んでなる。熱硬化性成分と高分子量成分の含有量は,熱硬化性成分が60?85重量%,高分子量成分15?40重量%であることが好ましい。熱硬化性成分が60重量%未満である場合は粘度が高く,流動性に劣る傾向にあり,逆に85重量%超では流動性が高すぎる傾向にある。
本発明において用いられる高分子量成分としては,エポキシ基,アルコール性水酸基,フェノール性水酸基,カルボキシル基などの架橋性官能基を有するポリイミド樹脂,(メタ)アクリル樹脂,ウレタン樹脂,ポリフェニレンエーテル樹脂,ポリエーテルイミド樹脂,フェノキシ樹脂,変性ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられるが,これらに限定されるものではない。高分子量成分として,例えば,グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートなどの官能性モノマと(メタ)アクリル酸モノマを含有するモノマを重合して得た,エポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体などが好ましい。エポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体としては,例えば,エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体,エポキシ基含有アクリルゴムなどを使用することができ,エポキシ基含有アクリルゴムがより好ましい。アクリルゴムは,アクリル酸エステルを主成分とし,主として,ブチルアクリレートとアクリロニトリルなどの共重合体や,エチルアクリレートとアクリロニトリルなどの共重合体などからなるゴムである。」

(1g)「【0034】
本発明において用いられる熱硬化性成分としては,半導体チップを実装する場合に要求される耐熱性および耐湿性を有するエポキシ樹脂を含むことが好ましい。なお,本発明において,「エポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性成分」には,エポキシ樹脂硬化剤も含まれるものとする。エポキシ樹脂は,硬化して接着作用を有するものであれば特に限定されない。ビスフェノールA型エポキシ樹脂,ビスフェノールF型エポキシ樹脂,ビスフェノールS型エポキシ樹脂などの二官能エポキシ樹脂,フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂などを使用することができる。また,多官能エポキシ樹脂,グリシジルアミン型エポキシ樹脂,複素環含有エポキシ樹脂または脂環式エポキシ樹脂など,一般に知られているものを適用することができる。」

(1h)「【0036】
エポキシ樹脂硬化剤としては,通常用いられている公知の硬化剤を使用することができ,例えば,アミン類,ポリアミド,酸無水物,ポリスルフィド,三フッ化ホウ素,ビスフェノールA,ビスフェノールF,ビスフェノールSのようなフェノール性水酸基を1分子中に2個以上有するビスフェノール類,フェノールノボラック樹脂,ビスフェノールAノボラック樹脂又はクレゾールノボラック樹脂等のフェノール樹脂などが挙げられる。」

(1i)「【0060】
図5は,接着シート付き半導体チップをワイヤボンディングされた半導体チップに接着する際の工程の一例を示す概略図である。
【0061】
本発明においては,接着シート付き半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに接着する際に,基板の配線,半導体チップのワイヤ等に起因する凹凸を加熱することが好ましい。加熱温度は60?240℃であることが好ましく,100?180℃であることがより好ましい。加熱温度が60℃未満である場合は,接着性が低下する傾向があり,240℃を超える場合は,基板が変形し,反りが大きくなる傾向がある。加熱方法としては,凹凸を有する基板又は半導体チップを予め加熱した熱板に接触させる方法,凹凸を有する基板又は半導体チップに赤外線又はマイクロ波を照射する方法,凹凸を有する基板又は半導体チップに熱風を吹きかける方法等が挙げられる。
【0062】
本発明においては,特定の樹脂組成を有する接着シートは配線回路及びワイヤの充てん性と上下の半導体チップとの絶縁性に優れる。
【0063】
また,本発明の接着シートは,配線回路及びワイヤの凹凸部の充てん性が良好であり,また,半導体装置の製造において,ウエハと接着シートを同時に切断するダイシング工程でダイシングの速度を速くすることができる。そのため,本発明の接着シートによれば,半導体装置の歩留の向上,製造速度の向上をはかることが可能となる。
【0064】
さらに,本発明の接着シートは,半導体装置の製造における半導体チップと基板や下層の半導体チップなどの支持部材との接着工程において,接着信頼性に優れる接着シートとして使用することができる。即ち,本発明の接着シートは,半導体搭載用支持部材に半導体チップを実装する場合に必要な耐熱性,耐湿性,絶縁性を有し,かつ作業性に優れるものである。」

(1j)図1,図2,図5は,いずれも引用例1に記載された発明の実施態様を示す図であって,発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,これらの図から,接着シートでダイボンドした半導体チップに,ワイヤ2が,ワイヤボンディングされている構造を見て取ることができる。

イ 引用発明
上記記載から,引用例1には,請求項1を引用する請求項3を引用する請求項5を引用する請求項6を引用する請求項8に係る発明として,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていることが認められる。

「ウエハと一体型シートの接着シート側とを0℃?120℃で貼り合わせる工程,
ウエハと一体型シートを同時に切断し,一体型シートの接着シートとダイシングテープ間で剥離して接着シート付き半導体チップを得る工程,
前記接着シート付き半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001?1MPaで接着する工程と,
を含む半導体装置の製造方法であって,
前記一体型シートは,接着シートとダイシングテープとを貼り合わせた一体型シートであり,
前記接着シートは,
(a)硬化前の70℃でのずり弾性率測定において,ひずみ量1%の貯蔵弾性率G_(1),ひずみ量10%の貯蔵弾性率G_(10)の比G_(1)/G_(10)が1.2?100であり,硬化前の70℃での剪断速度0.1(s^(-1)),ひずみ量0.4%の条件で測定した溶融粘度が100Pa・s?25万Pa・sであり,
(b)樹脂100重量部とフィラー40?180重量部とを含む樹脂組成物を含有し,前記樹脂が分子量800以上のエポキシ樹脂を含む熱硬化性成分60?85重量%と,重量平均分子量が10万?100万で,かつTgが-50?50℃である架橋性官能基を含む高分子量成分15?40重量%とを含み,
(c)硬化前の25℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が200?3000MPaであり,80℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が0.1?10MPaである接着シートである,
半導体装置の製造方法。」

ウ 引用例2:特開2000-144082号公報
平成27年10月16日付けで当審において通知した拒絶の理由で引用した,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である引用例2には,「熱硬化性接着剤組成物,接着剤,および接着剤の製造方法」(発明の名称)について,次の記載がある。

(2a)「【0023】上記の様な性能を制御する接着剤の弾性率は,250℃における貯蔵弾性率(G´)により規定されるのが望ましい。しかしながら,本発明の接着剤は,加熱により硬化反応が進行するので,通常この温度では一定の弾性率を示さない。そこで,接着剤の貯蔵弾性率を次のように定義する。すなわち,使用前(熱圧着前等,被着体上へ適用する前)の接着剤を試料とし,動的粘弾性測定装置を用い,試料の温度を90℃から300℃まで,昇温速度5℃/分にて昇温させ,剪断速度6.28rad/秒にて測定した時の250℃における値であると定義する。
【0024】この定義による接着剤の貯蔵弾性率は,通常1×10^(4)?1×10^(7)Pa,好適には2×10^(4)?1×10^(6)Paの範囲である。この貯蔵弾性率が小さすぎると,熱圧着操作における流動を防止する効果が低下し,反対に大きすぎると,瞬間的な熱圧着(たとえば30秒以下)操作での接着(仮接着)が不良になるおそれがある。この様な仮接着が不良であると,接着した部品を後工程(たとえば,ポストキュア工程)へ運搬する時に,部品が基材から脱着する。」

エ 引用例3:特開2001-107009号公報
平成27年10月16日付けで当審において通知した拒絶の理由で引用した,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である引用例3には,「熱硬化性接着剤組成物及びそれを用いた接着構造」(発明の名称)について,図1ないし図8とともに,次の記載がある。

(3a)「【0024】架橋の形成は熱硬化性接着剤組成物の流動性の制御を可能にする。本明細書において,流動性は,以下のように150℃での測定で得られた貯蔵弾性率(G')により定義される。使用前(熱圧着前等,被着体上へ適用する前)の接着剤組成物を試料とし,動的粘弾性測定装置を用いて,試料の温度を80℃から280℃まで,昇温速度5℃/分で昇温し,剪断速度6.28rad/秒で貯蔵弾性率を測定する。そして,得られるチャート(温度対貯蔵弾性率)上で,150℃における貯蔵弾性率の値を,「接着剤組成物の貯蔵弾性率」とする。このように定義された貯蔵弾性率(G')は,好適には10^(2)?10^(6)Paである。弾性率が約10^(6)Paを上回ると被着体への濡れ不足による接着力の低下を招くおそれがある。また,弾性率が約10^(2)Paを下回ると過度に流れてはみ出し,また,それに伴う接着力の低下を招くおそれもある。」

4 本願発明1の進歩性について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明との対応関係
「フィルム」とは,合成樹脂などの高分子成分などを薄い膜状に成型したものという程度の意味で用いられる用語である。
また,「シート」とは,薄くて広いものという程度の意味で用いられる用語である。
そして,「(b)樹脂100重量部とフィラー40?180重量部とを含む樹脂組成物を含有し,前記樹脂が分子量800以上のエポキシ樹脂を含む熱硬化性成分60?85重量%と,重量平均分子量が10万?100万で,かつTgが-50?50℃である架橋性官能基を含む高分子量成分15?40重量%とを含」む,引用発明の「接着シート」は,合成樹脂などの高分子成分などを薄く広く成型したものといえる。
そうすると,引用発明の「接着シート」は,「フィルム」の一種といえる。
さらに,引用発明の「接着シート」は,「半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001?1MPaで接着する」ものであり,当該「半導体チップ」は,「ダイ」の一種といえるから,引用発明の「接着シート」は,「ダイ」を接着する「フィルム」,すなわち,「ダイボンドフィルム」といえる。
してみれば,引用発明の「接着シート付き半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001?1MPaで接着する工程」は,本願発明1の「ダイボンドフィルムで半導体チップを被着体にダイボンドするダイボンド工程」に一致する。

イ 引用発明の「重量平均分子量が10万?100万で,かつTgが-50?50℃である架橋性官能基を含む高分子量成分」と,本願発明1の「アクリル共重合体」とは,いずれも「高分子量成分」である点で一致する。
そうすると,引用発明の「接着シート」と,本願発明1の「ダイボンドフィルム」とは,いずれも「エポキシ樹脂」,「高分子量成分」,及び,「フィラー」を含む点で一致する。

ウ 引用発明の「接着シート」の「80℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が0.1?10MPa」と,本願発明1の「80℃?140℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が10kPa?10MPaの範囲内」は,「80℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が0.1?10MPaの範囲内」である点で一致する。

エ 一致点と相違点
上記ア-ウの対応関係に基づくと,本願発明1と引用発明の一致点と相違点は次のとおりである。

<一致点>
「ダイボンドフィルムで半導体チップを被着体にダイボンドするダイボンド工程を含み,
前記ダイボンドフィルムは,エポキシ樹脂,高分子量成分及びフィラーを少なくとも含み,80℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が0.1?10MPaの範囲内である,半導体装置の製造方法。」

<相違点>
・相違点1:本願発明1の「ダイボンドフィルム」が,「熱硬化型ダイボンドフィルム」であり,本願発明1が,「ダイボンド工程の後に前記熱硬化型ダイボンドフィルムを熱硬化する熱硬化工程」を含むのに対して,引用発明の「接着シート」は,「分子量800以上のエポキシ樹脂を含む熱硬化性成分」を含むと特定されているものの,当該「分子量800以上のエポキシ樹脂を含む熱硬化性成分」を含む接着シートを,「熱硬化型」のダイボンドフィルムとして使用すること,及び,引用発明が,「ダイボンド工程の後に前記ダイボンドフィルムを熱硬化する熱硬化工程」を含むことが特定されていないこと。

・相違点2:引用発明では,「熱硬化工程の後にワイヤーボンディングを行う工程」を含むことが特定されていないこと。

・相違点3:引用発明では,「接着シート」が,「フェノール樹脂」を含むこと,「高分子量成分」として「アクリル共重合体」を含むこと,及び,「ポリイソシアネート化合物」を「含まない」ことが特定されていないこと。

・相違点4:本願発明1では,80℃?140℃における熱硬化前の貯蔵弾性率を10kPa?10MPaの範囲内であると特定しているのに対して,引用発明では,硬化前の80℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率を0.1?10MPaと特定している点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
・相違点1について
引用発明は,「硬化前の70℃でのずり弾性率測定」,「硬化前の25℃での動的粘弾性測定」のように,特に「硬化前」であることを明記して「接着シート」の特性を特定するものであり,さらに,引用発明の「接着シート」が,「熱硬化性成分」を有するものであることに照らして,引用発明の「接着シート」を,「熱硬化型」のダイボンドフィルムとして使用することを前提としていること,すなわち,引用発明が,「ダイボンド工程の後に前記ダイボンドフィルムを熱硬化する熱硬化工程」を行うことを前提としていることは当業者において明らかといえる。
このことは,引用例1の上記摘記(1e)の「また,本発明の接着シートは,硬化後(Cステージ状態)の170℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率は,良好なワイヤボンディング性を得るために好ましくは20?600MPaであり,より好ましくは40?600MPa,さらにより好ましくは40?400MPaである。」との記載からも明らかといえる。
そうすると,引用発明において,「ダイボンド工程の後に前記ダイボンドフィルムを熱硬化する熱硬化工程」を付加すること,すなわち,引用発明の「接着シート」を,「熱硬化型」のダイボンドフィルムとして使用することは,当業者が容易になし得たことといえる。

・相違点2について
引用例1の上記摘記(1e)には,「また,本発明の接着シートは,硬化後(Cステージ状態)の170℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率は,良好なワイヤボンディング性を得るために好ましくは20?600MPaであり,より好ましくは40?600MPa,さらにより好ましくは40?400MPaである。」と記載されている。
さらに,引用例1の上記摘記(1j)で認定したように,引用例1の図1,図2,図5は,いずれも引用例1に記載された発明の実施態様を示す図であって,発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,これらの図から,接着シートでダイボンドした半導体チップに,ワイヤ2を,ワイヤボンディングした構造を見て取ることができる。
してみれば,上記各記載から,引用発明において,「熱硬化工程の後にワイヤーボンディングを行う工程」を付加することは,引用例1において,引用発明の実施態様の一つとして明示的に例示された実施態様の一つであると理解される。
そうすると,引用発明において,「熱硬化工程の後にワイヤーボンディングを行う工程」を付加することは,当業者が容易になし得たことである。

・相違点3について
ア 引用例1の上記摘記(1g)には,「なお,本発明において,『エポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性成分』には,エポキシ樹脂硬化剤も含まれるものとする。」と記載されている。
そうすると,上記記載から,「(b)樹脂100重量部とフィラー40?180重量部とを含む樹脂組成物を含有し,前記樹脂が分子量800以上のエポキシ樹脂を含む熱硬化性成分60?85重量%と,重量平均分子量が10万?100万で,かつTgが-50?50℃である架橋性官能基を含む高分子量成分15?40重量%とを含」む,引用発明の接着シートが,「エポキシ樹脂硬化剤」も含むものであることは明らかである。
さらに,引用例1の上記摘記(1h)には,「エポキシ樹脂硬化剤としては,通常用いられている公知の硬化剤を使用することができ,例えば,アミン類,ポリアミド,酸無水物,ポリスルフィド,三フッ化ホウ素,ビスフェノールA,ビスフェノールF,ビスフェノールSのようなフェノール性水酸基を1分子中に2個以上有するビスフェノール類,フェノールノボラック樹脂,ビスフェノールAノボラック樹脂又はクレゾールノボラック樹脂等のフェノール樹脂などが挙げられる。」ことが記載されている。
そうすると,引用発明の接着シートにおいて,エポキシ樹脂硬化剤として,「通常用いられている公知の硬化剤」である「フェノール樹脂」を含むものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

イ 引用例1の上記摘記(1f)には,「本発明において用いられる高分子量成分としては,エポキシ基,アルコール性水酸基,フェノール性水酸基,カルボキシル基などの架橋性官能基を有するポリイミド樹脂,(メタ)アクリル樹脂,ウレタン樹脂,ポリフェニレンエーテル樹脂,ポリエーテルイミド樹脂,フェノキシ樹脂,変性ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられるが,これらに限定されるものではない。高分子量成分として,例えば,グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートなどの官能性モノマと(メタ)アクリル酸モノマを含有するモノマを重合して得た,エポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体などが好ましい。」と記載されている。
すなわち,引用例1には,引用発明の「高分子量成分」として,「エポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体」が「好ましい」と記載されているのであるから,引用発明の「高分子量成分」として,「アクリル共重合体」を用いることは当業者が適宜なし得たことである。

ウ 引用発明が,「ポリイソシアネート化合物」を「含む」ことは特定されていない。
しかも,引用例1の記載全体を参酌しても,引用発明が,「ポリイソシアネート化合物」を「含む」ことを特徴とする発明であるとも認められない。
してみれば,引用発明が「ポリイソシアネート化合物」を「含まない」ことは,本願発明1と,引用発明との比較における実質的な相違点であるとは認められない。
なお,仮に,引用発明が「ポリイソシアネート化合物」を「含まない」ことが実質的な相違点であるとしても,「ポリイソシアネート化合物」を「含む」ことを発明特定事項として規定していない引用発明において,「ポリイソシアネート化合物」を「含まない」ものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

エ そうすると,上記アないしウで検討したように,上記相違点3の各条件は,実質的な相違点でないか,あるいは,当業者が適宜なし得たことである。

・相違点4について
ア 引用例2の上記摘記(2a)には,「この定義による接着剤の貯蔵弾性率は,通常1×10^(4)?1×10^(7)Pa,好適には2×10^(4)?1×10^(6)Paの範囲である。この貯蔵弾性率が小さすぎると,熱圧着操作における流動を防止する効果が低下し,反対に大きすぎると,瞬間的な熱圧着(たとえば30秒以下)操作での接着(仮接着)が不良になるおそれがある。この様な仮接着が不良であると,接着した部品を後工程(たとえば,ポストキュア工程)へ運搬する時に,部品が基材から脱着する。」と記載されている。
さらに,引用例3の上記摘記(3a)には,「このように定義された貯蔵弾性率(G')は,好適には10^(2)?10^(6)Paである。弾性率が約10^(6)Paを上回ると被着体への濡れ不足による接着力の低下を招くおそれがある。また,弾性率が約10^(2)Paを下回ると過度に流れてはみ出し,また,それに伴う接着力の低下を招くおそれもある。」と記載されている。
そうすると,上記記載から,接着剤において,熱圧着操作時における貯蔵弾性率が小さすぎる(例えば,1×10^(4)Pa(10kPa)未満,あるいは,1×10^(2)Pa(0.1kPa)未満である)と,当該熱圧着操作における流動を防止する効果が低下し,過度に流れてはみ出し,それに伴い接着力の低下を招くおそれがあること,及び,
反対に,熱圧着操作時における貯蔵弾性率が大きすぎる(例えば,1×10^(7)Pa(10MPa)を超える,あるいは,1×10^(6)Pa(1MPa)を超える)と,瞬間的な熱圧着操作での仮接着が不良になり接着した部品を後工程(たとえば,ポストキュア工程)へ運搬する時に,部品が基材から脱着し,また,被着体への濡れ不足による接着力の低下を招くことがあることは,本願の優先権の主張の日前に知られていた,一般的な技術的な知見であると認められる。

イ 一方,引用例1の上記摘記(1b)の「このようなパッケージには,凹凸を埋込み,かつ上部の半導体チップとの絶縁性を確保することが可能な接着シートが求められている。」,「配線,ワイヤ等の凹凸の充てんには,通常,凹凸の高さより接着シートの厚さを厚くすること,接着シートの溶融粘度を低減し,充てん性を改善することが求められる。しかしながら,一方で,厚さが厚く,溶融粘度が低い接着シートは,積層時にチップ端部から樹脂が流動し,はみだしやすいという問題があった。」,「配線やワイヤ等に起因する凹凸の充てん性が優れ,また,凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少ない,さらには耐熱性や耐湿性を満足する接着シートを得ることが望まれている。」との記載,及び,上記摘記(1i)の「本発明の接着シートは,半導体装置の製造における半導体チップと基板や下層の半導体チップなどの支持部材との接着工程において,接着信頼性に優れる接着シートとして使用することができる。即ち,本発明の接着シートは,半導体搭載用支持部材に半導体チップを実装する場合に必要な耐熱性,耐湿性,絶縁性を有し,かつ作業性に優れるものである。」との記載から,引用発明においても,半導体チップと基板や下層の半導体チップなどの支持部材との接着工程における接着信頼性が優れていること,すなわち,積層時にチップ端部から樹脂が流動したり,はみだしたりすることなく,また,配線やワイヤ等に起因する凹凸の充てん性に優れたものであり,かつ作業性に優れたものであることが望まれていることが理解できる。

ウ さらに,引用例1の上記摘記(1i)における「本発明においては,接着シート付き半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに接着する際に,基板の配線,半導体チップのワイヤ等に起因する凹凸を加熱することが好ましい。加熱温度は60?240℃であることが好ましく,100?180℃であることがより好ましい。」との記載から,引用発明は,60?240℃,あるいは,100?180℃の温度で,接着シート付き半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに接着することが想定されているものと理解できる。

エ そうすると,60?240℃,あるいは,100?180℃の温度で,接着シート付き半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに接着することが想定されており,かつ,半導体チップと基板や下層の半導体チップなどの支持部材との接着工程における接着信頼性が優れていること,すなわち,積層時にチップ端部から樹脂が流動したり,はみだしたりすることなく,また,配線やワイヤ等に起因する凹凸の充てん性に優れたものであり,かつ作業性に優れたものであることが望まれている引用発明に,上記アで検討した本願の優先権の主張の日前に知られていた,一般的な技術的な知見を適用すること,すなわち,熱圧着操作時における接着剤の貯蔵弾性率が小さすぎる(例えば,1×10^(4)Pa(10kPa)未満,あるいは,1×10^(2)Pa(0.1kPa)未満である)と,熱圧着操作における流動を防止する効果が低下し,過度に流れてはみ出し,それに伴い接着力の低下を招くおそれがあり,反対に大きすぎる(例えば,1×10^(7)Pa(10MPa)を超える,あるいは,1×10^(6)Pa(1MPa)を超える)と,瞬間的な熱圧着操作での仮接着が不良になり接着した部品を後工程(たとえば,ポストキュア工程)へ運搬する時に,部品が基材から脱着し,被着体への濡れ不足による接着力の低下を招くことがあるという,本願の優先権の主張の日前に知られていた,一般的な技術的な知見に基づいて,引用発明の接着シートの,前記熱圧着操作時における貯蔵弾性率を,当該接着シートを使用する際の熱圧着操作時の温度,配線やワイヤ等に起因する凹凸の程度等の具体的な条件に応じて,実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは,当業者が適宜なし得たことである。

オ すなわち,引用例1には,「加熱温度は60?240℃であることが好ましく,100?180℃であることがより好ましい。」として,接着シート付き半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに接着する際の加熱温度が例示されているのであるから,引用発明の「接着シート付き半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001?1MPaで接着する工程」において,当該接着時に,チップ端部から樹脂が流動したり,はみだしたりすることなく,また,配線やワイヤ等に起因する凹凸の充てん性に優れたものであり,かつ作業性に優れたものとするために,前記「60?240℃であることが好ましく,100?180℃であることがより好ましい」とされる温度範囲に含まれる,例えば,「80℃?140℃」における熱硬化前の貯蔵弾性率の下限と上限を,引用発明の,80℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率である「0.1?10MPa」という値,及び,上記引用例2-3に例示された貯蔵弾性率の好適な数値範囲を参酌して,上記相違点4で特定される程度のものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

カ しかも,本願発明1の「?140℃」という数値限定により,本願発明1が,引用例1-3に記載された発明に対して,課題が異なり,異質である効果を奏するとはいえず,また,「140℃」という値に臨界的な意義を見いだすこともできない。
すなわち,本願の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。
(本a)「【0006】
ここで,従来のダイボンドフィルムは,ダイボンド工程の際のダイボンド温度(例えば,80?140℃)下での貯蔵弾性率が高いため,前記被着体に対し十分な濡れ性を示さず,接着力が小さくなる場合がある。その結果,工程内又は各工程間の搬送中に加えられる振動や被着体の湾曲により,半導体チップが被着体から脱落するという問題がある。」

(本b)「【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者等は,前記従来の課題を解決すべく,熱硬化型ダイボンドフィルムについて検討した。その結果,貯蔵弾性率を所定の数値範囲に制御することにより,当該熱硬化型ダイボンドフィルムが,半導体装置を製造する為の所定の各工程において良好な濡れ性及び接着性を示すことを見出し,本発明を完成させるに至った。」

(本c)「【0013】
前記構成であると,80℃?140℃における貯蔵弾性率を10kPa?10MPaにすることにより,熱硬化型ダイボンドフィルム(以下,「ダイボンドフィルム」という場合がある。)を介して半導体チップをBT基板やリードフレーム等の被着体にダイボンドする際に,当該被着体に対し十分な濡れ性を示し,接着力の低下を防止する。その結果,ダイボンド後の搬送中に加えられる振動や被着体の湾曲により,半導体チップが被着体から脱落するのを防止することができる。」

(本d)「【0028】
本発明のダイボンドフィルム3は,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,アクリル共重合体及びフィラーを少なくとも含み構成される。前記ダイボンドフィルム3の80℃?140℃における熱硬化前の貯蔵弾性率は,10kPa?10MPaの範囲内であり,好ましくは10kPa?5MPa,より好ましくは10kPa?3MPaである。前記貯蔵弾性率を10kPa以上にすることにより,フィルムとしての機械的強度を増し自己支持性を確保することができる。その一方,前記貯蔵弾性率を10MPa以下にすることにより,被着体に対する濡れ性を確保し,接着力の維持が図れる。その結果,ダイボンド後の搬送中に加えられる振動や被着体の湾曲により,半導体チップが被着体から脱落するのを防止することができる。」

(本e)「【0132】
(80℃,140℃,175℃における貯蔵弾性率の測定)
各実施例及び比較例の熱硬化型ダイボンドフィルムから,厚さ200μm,長さ25mm(測定長さ),幅10mmの短冊状にカッターナイフで切り出し,固体粘弾性測定装置(RSAIII,レオメトリックサイエンティフィック(株)製)を用いて,-50?300℃における貯蔵弾性率を測定した。測定条件は,周波数1Hz,昇温速度10℃/minとした。80℃,140℃,175℃における貯蔵弾性率E1’,E2’,E3’の値を下記表1に示す。」

(本f)「【0134】
(室温における剪断接着力の測定)
前記実施例及び比較例に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムについて,半導体素子に対する剪断接着力を以下の通り測定した。
【0135】
先ず,各熱硬化型ダイボンドフィルムを,貼り付け温度40℃にて半導体チップ(縦10mm×横10mm×厚さ0.5mm)に貼り付けた。次に,BGA基板上に,ダイボンド温度120℃,ボンディング圧力0.1MPa,ボンディング時間1秒の条件下でダイアタッチした。次に,ボンドテスター(デイジ社製,dagy4000)を用いて,室温下における剪断接着力をそれぞれ測定した。結果を下記表1に示す。
【0136】
(175℃における剪断接着力の測定)
前記実施例及び比較例に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムについて,半導体素子に対する剪断接着力を以下の通り測定した。
【0137】
前記室温下における剪断接着力の測定の場合と同様にして,BGA基板上に,各実施例及び比較例に係る熱硬化型ダイボンドフィルムを介して半導体チップ(縦10mm×横10mm×厚さ0.5mm)をダイアタッチした。次に,ボンドテスター(デイジ社製,dagy4000)を用いて,175℃における剪断接着力をそれぞれ測定した。結果を下記表1に示す。」

(本g)「【0138】
(ワイヤーボンディング性の評価)
前記実施例及び比較例に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムを用い,BGA基板上にダイボンドしたミラーチップにワイヤーボンディングをした場合のワイヤーボンディング性を評価した。
【0139】
先ず,表面にAl蒸着したシリコンウェハをダイシングして,10mm角のミラーチップを作製した。このミラーチップを,熱硬化型ダイボンドフィルムを介してBGA基板上にダイボンドした。ダイボンドは,温度120℃,0.1MPa,1秒間の条件下で,ダイボンダー((株)新川製SPA-300)を用いて行った。
【0140】
次に,ワイヤーボンディング装置(ASM社製,商品名;Eagle60)を用いて,直径25μmのAuワイヤーでミラーチップの一辺にそれぞれ50回のワイヤーボンディングを行った。ワイヤーボンディング条件は,超音波出力時間2.5msec,超音波出力0.75W,ボンド荷重60g,ステージ温度は175℃とした。ワイヤーボンディング性の評価は,ミラーチップの位置ズレ及びチップの割れの発生有無を確認することで行った。位置ズレ及びチップ割れが発生していない場合を○,発生した場合を×とした。」

(本h)「【0141】
(モールド性の評価)
前記剪断接着力の測定の場合と同様にして,BGA基板上に,各実施例及び比較例に係る熱硬化型ダイボンドフィルムを介して半導体チップ(縦10mm×横10mm×厚さ0.5mm)をダイアタッチした。次に,モールドマシン(TOWAプレス社製,マニュアルプレスY-1)を用いて,成形温度175℃,クランプ圧力184kN,トランスファー圧力5kN,時間120秒,封止樹脂GE-100(日東電工(株)製)の条件下で封止工程を行った。
【0142】
その後,BGA基板上に固定されている半導体チップの状態を,超音波映像装置(日立ファインテック社製,FS200II)を用いて観察した。結果を表1に示す。尚,表1においては,半導体チップの位置ズレや剥離による浮きが無い場合を○,何れかが確認された場合を×とした。」

(本i)「【0143】
(結果)
下記表1の結果から分かる通り,実施例1?5の熱硬化型ダイボンドフィルムであると,ダイボンド後の半導体チップが搬送中にBGA基板から脱落することがない。また,ワイヤーボンディング工程の際にも,BGA基板に対してずり変形による位置ズレやチップ割れが生じず,その結果,ワイヤーボンディング工程の際にも歩留まりの向上が図れる。更に,封止樹脂による封止の際にも半導体チップが当該封止樹脂により押し流されることがなかった。これにより,本実施例に係る熱硬化型ダイボンドフィルムが半導体装置の製造に必要な貯蔵弾性率と高い接着力を併せ持つことが確認された。」

(本j)上記記載に照らして,【0144】の【表1】から,以下の事項を読み取ることができる。
(i)実施例1に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムの,80℃,140℃における貯蔵弾性率は,それぞれ,0.60MPa,0.58MPaであり,当該実施例1に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムを用いて評価した,剪断接着力は,室温において1.45,175℃において0.017であり,ワイヤーボンディング性,及び,モールド評価の結果は,いずれも○であること。

(ii)実施例2に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムの,80℃,140℃における貯蔵弾性率は,それぞれ,1.13MPa,1.00MPaであり,当該実施例2に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムを用いて評価した,剪断接着力は,室温において1.53,175℃において0.014であり,ワイヤーボンディング性,及び,モールド評価の結果は,いずれも○であること。

(iii)実施例3に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムの,80℃,140℃における貯蔵弾性率は,それぞれ,7.93MPa,8.00MPaであり,当該実施例3に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムを用いて評価した,剪断接着力は,室温において0.82,175℃において0.015であり,ワイヤーボンディング性,及び,モールド評価の結果は,いずれも○であること。

(iv)実施例4に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムの,80℃,140℃における貯蔵弾性率は,それぞれ,0.10MPa,0.20MPaであり,当該実施例4に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムを用いて評価した,剪断接着力は,室温において1.60,175℃において0.02であり,ワイヤーボンディング性,及び,モールド評価の結果は,いずれも○であること。

(V)実施例5に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムの,80℃,140℃における貯蔵弾性率は,それぞれ,1.90MPa,1.70MPaであり,当該実施例5に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムを用いて評価した,剪断接着力は,室温において1.0,175℃において0.03であり,ワイヤーボンディング性,及び,モールド評価の結果は,いずれも○であること。

(vi)比較例1に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムの,80℃,140℃における貯蔵弾性率は,それぞれ,5.0MPa,4.5MPaであり,当該比較例1に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムを用いて評価した,剪断接着力は,室温において0.2,175℃において0.009であり,ワイヤーボンディング性,及び,モールド評価の結果は,いずれも×であること。

(vii)比較例2に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムの,80℃,140℃における貯蔵弾性率は,それぞれ,0.80MPa,0.5MPaであり,当該比較例2に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムを用いて評価した,剪断接着力は,室温において1.0,175℃において0.002であり,ワイヤーボンディング性,及び,モールド評価の結果は,いずれも×であること。

(viii)比較例3に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムの,80℃,140℃における貯蔵弾性率は,それぞれ,13.30MPa,12.10MPaであり,当該比較例3に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムを用いて評価した,剪断接着力は,室温において0.13,175℃において0.01であり,ワイヤーボンディング性,及び,モールド評価の結果は,いずれも×であること。

(ix)比較例4に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムの,80℃,140℃における貯蔵弾性率は,それぞれ,0.01MPa,0.01MPaであり,当該比較例4に於いて作製した熱硬化型ダイボンドフィルムを用いて評価した,剪断接着力は,室温において2.02,175℃において0であり,ワイヤーボンディング性,及び,モールド評価の結果は,いずれも×であること。

キ そうすると,上記摘記(本a)-(本d)からは,本願発明1が解決しようとする課題及び効果は,80℃?140℃における貯蔵弾性率を10kPa?10MPaにすることにより,熱硬化型ダイボンドフィルムを介して半導体チップをBT基板やリードフレーム等の被着体にダイボンドする際に,当該被着体に対し十分な濡れ性を示し,接着力の低下を防止し,その結果,ダイボンド後の搬送中に加えられる振動や被着体の湾曲により,半導体チップが被着体から脱落するのを防止することにあり,具体的には,貯蔵弾性率を10kPa以上にすることにより,フィルムとしての機械的強度を増し自己支持性を確保し,前記貯蔵弾性率を10MPa以下にすることにより,被着体に対する濡れ性を確保し,接着力の維持が図り,その結果,ダイボンド後の搬送中に加えられる振動や被着体の湾曲により,半導体チップが被着体から脱落するのを防止しようとするものと理解される。

ク 他方,引用例1の上記摘記(1b)には,「このようなパッケージには,凹凸を埋込み,かつ上部の半導体チップとの絶縁性を確保することが可能な接着シートが求められている。」,「配線,ワイヤ等の凹凸の充てんには,通常,凹凸の高さより接着シートの厚さを厚くすること,接着シートの溶融粘度を低減し,充てん性を改善することが求められる。しかしながら,一方で,厚さが厚く,溶融粘度が低い接着シートは,積層時にチップ端部から樹脂が流動し,はみだしやすいという問題があった。」,「配線やワイヤ等に起因する凹凸の充てん性が優れ,また,凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少ない,さらには耐熱性や耐湿性を満足する接着シートを得ることが望まれている。」ことが,上記摘記(1i)には,「本発明の接着シートは,半導体装置の製造における半導体チップと基板や下層の半導体チップなどの支持部材との接着工程において,接着信頼性に優れる接着シートとして使用することができる。即ち,本発明の接着シートは,半導体搭載用支持部材に半導体チップを実装する場合に必要な耐熱性,耐湿性,絶縁性を有し,かつ作業性に優れるものである。」ことが,引用例2の上記摘記(2a)には,「この定義による接着剤の貯蔵弾性率は,通常1×10^(4)?1×10^(7)Pa,好適には2×10^(4)?1×10^(6)Paの範囲である。この貯蔵弾性率が小さすぎると,熱圧着操作における流動を防止する効果が低下し,反対に大きすぎると,瞬間的な熱圧着(たとえば30秒以下)操作での接着(仮接着)が不良になるおそれがある。この様な仮接着が不良であると,接着した部品を後工程(たとえば,ポストキュア工程)へ運搬する時に,部品が基材から脱着する。」ことが,そして,引用例3の上記摘記(3a)には,「このように定義された貯蔵弾性率(G')は,好適には10^(2)?10^(6)Paである。弾性率が約10^(6)Paを上回ると被着体への濡れ不足による接着力の低下を招くおそれがある。また,弾性率が約10^(2)Paを下回ると過度に流れてはみ出し,また,それに伴う接着力の低下を招くおそれもある。」ことが記載されている。

ケ そうすると,本願発明1の,熱硬化型ダイボンドフィルムを介して半導体チップをBT基板やリードフレーム等の被着体にダイボンドする際に,当該被着体に対し十分な濡れ性を示し,接着力の低下を防止し,その結果,ダイボンド後の搬送中に加えられる振動や被着体の湾曲により,半導体チップが被着体から脱落するのを防止するという課題は,引用例1-3に記載された発明におけるものと同様なものと解されるから,本願発明1が,引用例1-3に記載された発明に対して,課題が異なり,異質である効果を奏するとは認められない。

コ さらに,本願の明細書及び図面の記載からは,フィルムとしての機械的強度を増し自己支持性を確保し,被着体に対する濡れ性を確保し,接着力の維持が図り,その結果,ダイボンド後の搬送中に加えられる振動や被着体の湾曲により,半導体チップが被着体から脱落するのを防止するという効果が,「80℃?140℃」という温度範囲において,貯蔵弾性率の範囲の下限及び上限を,「10kPa」及び「10MPa」と特定したことによって,当該数値範囲内の全ての部分で顕著なものとなるとは認めることはできない。
また,当該数値限定の内と外でのそれぞれの効果について,量的に顕著な差異があることも,本願の明細書及び図面の記載からは認めることができない。

サ すなわち,上記(本e)-(本j)の記載から,実施例1-5,比較例1-2,及び,比較例4は,いずれも,80℃?140℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が10kPa?10MPaの範囲内であるという,本願発明1の要件を満たすものといえる。
他方,比較例3は,「80℃?140℃」という温度範囲の,下限,及び,上限のいずれにおいても,熱硬化前の貯蔵弾性率が,10MPaを超えるから,本願発明1の範囲に含まれないものといえる。
しかしながら,上記(本e)-(本j)の記載からは,「80℃?140℃」という温度範囲,及び,「10kPa?10MPa」という熱硬化前の貯蔵弾性率の範囲の両方を満たすという条件の範囲内の全ての部分で,フィルムとしての機械的強度を増し自己支持性を確保し,被着体に対する濡れ性を確保し,接着力の維持が図り,その結果,ダイボンド後の搬送中に加えられる振動や被着体の湾曲により,半導体チップが被着体から脱落するのを防止するという効果を奏するという具体的な記載,あるいは,量的に顕著な差異があることを認めることができる具体的な記載を読み取ることはできない。

シ さらに,上記摘記(本g),及び,上記摘記(本h)の記載から,本願の発明の詳細な説明の【表1】に示される,「ワイヤーボンディング性」の良否の評価は,ワイヤーボンディングを行う工程の前に,熱硬化工程が存在しない製造方法に対するものであると理解することが自然であり,また,同表の「モールド評価」の良否も,モールド工程の前に,熱硬化工程,ワイヤボンディング工程のいずれもが存在しない製造方法に対するものであると理解することが自然であるから,前記表1に開示された,実施例1-5が,比較例1-4に比べて,「ワイヤーボンディング性」及び「モールド評価」の良否において,良好であるという効果は,「熱硬化工程の後にワイヤーボンディングを行う工程」を含むことを発明特定事項とする本願発明1の効果を示すものであるとも認めることはできない。
しかも,上記サで検討したように,比較例1-2,及び,比較例4は,いずれも,80℃?140℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が10kPa?10MPaの範囲内であり,本願発明1の要件を満たすものであるところ,前記表1によれば,比較例1-2,及び,比較例4は,いずれも,「ワイヤーボンディング性」及び「モールド評価」の良否において,×と評価されてされているのであるから,80℃?140℃における熱硬化前の貯蔵弾性率が10kPa?10MPaの範囲内であるという条件が,「ワイヤーボンディング性」及び「モールド評価」の良否において,臨界的な意義を有さないことも明らかである。

ス すなわち,本願発明1の「?140℃」という数値限定によって,課題が異なり,異質である効果を奏するとはいえず,また,「140℃」という値に臨界的な意義を見いだすこともできない。
したがって,引用発明において,上記相違点4について本願発明1の構成を採用することは当業者が適宜なし得たことである。

(3)小括
以上検討したとおり,相違点1-4にかかる本願発明1の構成は,実質的なものではないか,あるいは,当業者が容易に想到し得たものであるから,本願発明1は,引用発明に引用例2-3に記載された事項を勘案することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり,本願発明1は,引用例1に記載された発明及び引用例2-3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-04 
結審通知日 2016-04-05 
審決日 2016-04-18 
出願番号 特願2009-288001(P2009-288001)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関根 崇  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 加藤 浩一
飯田 清司
発明の名称 熱硬化型ダイボンドフィルム  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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