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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M |
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管理番号 | 1315326 |
審判番号 | 不服2014-22257 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-11-04 |
確定日 | 2016-06-03 |
事件の表示 | 特願2011-529250「潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月 8日国際公開、WO2010/039602、平成24年 2月16日国内公表、特表2012-504174〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、特許法第184条の3第1項の規定により、2009年 9月25日(パリ条約による優先権主張:2008年9月30日(US)米国)の国際出願日にされたものとみなされる特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。 平成23年 5月26日 翻訳文提出 平成24年 9月24日 出願審査請求 平成25年11月 6日付け 拒絶理由通知 平成26年 2月10日 意見書・手続補正書 平成26年 7月 1日付け 拒絶査定 平成26年11月 4日 本件審判請求 第2 本願に係る発明について 本願に係る発明は、平成26年 2月10日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明は、以下の事項により特定されるものである。 「(a)主要量の潤滑性粘度を有する油および(b)組成物の全質量に対して、0.2質量%乃至4質量%の式(I)の油溶性チタン化合物を含むが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない内燃機関用潤滑油組成物: 【化1】 式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、およびR^(4)は独立にC_(1)?C_(20)のアルコキシ基である。」(以下、「本願発明」という。) 第3 原審の拒絶理由 原査定の拒絶の理由は、「平成25年11月 6日付け拒絶理由通知書に記載した理由2」であって、要するに、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 <<引用文献>> 1.特開2004-149762号公報 第4 当審の判断 1.刊行物に記載された事項 本審決で引用する刊行物は、以下のとおりである。 刊行物1:特開2004-149762号公報 (原査定における「引用文献1」) 上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。 (1-a) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 鉱油系潤滑油基油、合成系潤滑油基油又はこれらの混合物からなる基油に、(a)油溶性で硫黄原子を含まない有機モリブデン化合物をMo量で150?3000ppm、(b)硫黄化合物添加剤を硫黄量で200?4000ppm、及び(c)油溶性ホウ酸化合物、油溶性チタン酸化合物、油溶性有機酸化合物、及び油溶性有機酸金属塩の中から選ばれる1種又は2種以上を含有しており、(c)成分の含有割合を油溶性ホウ酸化合物はホウ素量で20?3000ppm、油溶性チタン酸化合物はチタン量で20?3000ppm、油溶性有機酸化合物は含有量で0.03?4質量%、油溶性有機酸金属塩は硫酸灰分量で0.02?1.2質量%の範囲にし、必要に応じて(d)ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン量で0.08質量%以下含有していることを特徴とするエンジン油組成物。」 (1-b) 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、摩擦低減効果に優れるエンジン油組成物に関する。また、本発明のエンジン油組成物は、ガソリンエンジン、ディ-ゼルエンジン用潤滑油として利用できるとともに、2輪自動車用4-サイクルエンジン油にも利用できる。 …(中略)… 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、上記観点からなされたもので、リンを含有しないエンジン油組成物、またはリンの含有量を低減したエンジン油組成物であって、摩擦低減効果に優れるエンジン油組成物を提供することを目的とする。 さらに、本発明は、リンの含有量とエンジン油組成物としての硫酸灰分量を低減したエンジン油組成物であって、摩擦低減効果の持続性に優れるエンジン油組成物を提供することを目的とする。」 (1-c) 「【0015】 …(中略)… 油溶性で硫黄原子を含まない有機モリブデン化合物の具体的な例としては、下記一般式(2)で表されるモリブデン酸の第二級アミン塩が挙げられる。 【0016】 【化2】 (式中、xは1?3の整数、yは4?11の整数、zは0?6の整数、nは1?4の整数であり、R^(4)及びR^(5)はそれぞれ炭素数3?30の炭化水素基である。nが複数の場合、第二級アミンは同一のものでも異なるものでもよい。) 一般式(2)において、R^(4)及びR^(5)は炭素数3?30の炭化水素基であり、4個の炭化水素基は同一でも、異なっていてもよい。炭素数3?30の炭化水素基としては、例えば、炭素数3?30のアルキル基、炭素数3?30のアルケニル基、炭素数3?30のシクロアルキル基、炭素数6?30のアリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基などを挙げることができる。炭素数3?30の炭化水素基の具体例としては、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基、各種オクテニル基、各種ノネニル基、各種デセニル基、各種ウンデセニル基、各種ドデセニル基、各種トリデセニル基、各種テトラデセニル基、各種ペンタデセニル基、シクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ヘプチルシクロヘキシル基、フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基、メチルベンジル基、フェニルエチル基、ナフチル基、ジメチルナフチル基などを挙げることができる。 本発明において、硫黄原子を含まない有機モリブデン化合物は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。 …(中略)… 【0021】 …(中略)… ジチオカルバメートとしては、一般式(5)のジチオカルバメートが挙げられる。 【0022】 【化5】 〔式中、R^(10)、R^(11)、R^(12)及びR^(13)は炭素数1?20のアルキル基、AはS_(n)-(CH_(2))_(m) -S_(n)(式中、mは1?6の整数であり、nは1?4の整数である)、又はS-CH_(2)CH(CH_(3))-Sを示す。〕 上記一般式(5)のR^(10)?R^(13)のアルキル基は、直鎖であってもよいし、分岐を有してもよく、好ましくは炭素数1?20のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基等を挙げることができる。 【0023】 上記一般式(5)のジチオカルバメートの具体例としては、メチレンビス(ジメチルジチオカルバメ-ト)、メチレンビス(ジエチルジチオカルバメ-ト)、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメ-ト)、ビス(ジメチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジエチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジアミルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジオクチルチオカルバモイル)ジスルフィド等が挙げられる。 本発明で用いるジチオカルバメートは、1種用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。ジチオカルバメートとしては、特に、一般式(5)において、mが1又は2のタイプのジチオカルバメートが摩擦低減効果持続性の点でより好ましい。その中でもメチレンビスジアルキルカルバメートがさらに好ましい。 …(中略)… 【0025】 本発明においては、(c)成分として、油溶性ホウ酸化合物、油溶性チタン酸化合物、油溶性有機酸化合物、及び油溶性有機酸金属塩の中から選ばれる1種又は2種以上を用いる。 …(中略)… 【0026】 …(中略)… 油溶性チタン酸化合物としては、チタン酸を有機化合物で誘導体化した種々の化合物が使用できる。好適な油溶性チタン酸化合物としては、炭素数2?20の炭化水素基で誘導体化されたオルトチタン酸テトラアルキルが挙げられる。その具体例としては、炭素数2?20のアルキル基を4つ有するオルトチタン酸テトラアルキル、炭素数6?18のアリール基を4つ有するオルトチタン酸テトラアリール、炭素数7?18のアルキルアリール基又はアリールアルキル基を4つ有するオルトチタン酸テトラアルキルアリール又はチタン酸テトラアリールアルキルなどが挙げられる。炭素数2?20の炭化水素の具体例としては、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基、各種オクテニル基、各種ノネニル基、各種デセニル基、各種ウンデセニル基、各種ドデセニル基、各種トリデセニル基、各種テトラデセニル基、各種ペンタデセニル基、シクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ヘプチルシクロヘキシル基、フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基、メチルベンジル基、フェニルエチル基、ナフチル基、ジメチルナフチル基などを挙げることができる。これらの油溶性チタン酸化合物のうち、好ましくはオルトチタン酸テトラアルキルであり、そのアルキル基がプロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、又は2-エチルヘキシル基のものが特に好ましい。 【0027】 また、アミン、アミド、イミドなどの化合物とチタン酸を反応させて油溶性にしたものも用いることができる。例えば、エンジン油の分散剤として広く用いられているポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸アミド、ポリアルケニルカルボン酸アミドなどにチタン酸を反応させたものも好適に用いることができる。この時、ポリアルケニル基の分子量は70?50000程度のものが好ましく、600?5000が特に好ましい。また、芳香族チタン酸なども好適に使用することができる。油溶性チタン化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。」 (1-d) 「【0035】 上記に示した(c)成分は、1種単独もしくは2種類以上混合して使用してもよい。 (c)成分は含有量が多過ぎると摩擦低減効果を損なう恐れがあるため、以下に示す含有量で存在させる。…(中略)…油溶性チタン酸化合物はチタン量で20?3000ppmであり、好ましくは20?1000ppmであり、また、摩擦低減効果持続性の面で、より好ましくは20?500ppmであり、さらに好ましくは20?250ppmである。…(中略)…本発明のエンジン油組成物においては、(d)成分のジアルキルジチオリン酸亜鉛を少量含有してもよいし、実質的に含有しなくてもよい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、一般式(6)で表されるものが挙げられる。 【0036】 【化6】 (式中、R^(14)、R^(15)、R^(16)及びR^(17)は、炭化水素基である) 一般式(6)において、R^(14)?R^(17)の炭化水素基は、セカンダリータイプ、プライマリータイプ等の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基、アリールタイプ等の芳香族炭化水素基などいずれの炭化水素基であってもよく、それらの混合物であってもよい。また、一般式(6)において、R^(14)?R^(17)の炭化水素基は、セカンダリータイプ、プライマリータイプ、アリールタイプが混合して結合したものでもよい。これらの炭化水素基の炭素数は、2?20の範囲が好ましく、2?10の範囲がより好ましい。 ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」 (1-e) 「【0044】 【実施例】 次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によっては何等限定されるものではない。 各実施例、各比較例のエンジン油組成物の調製に用いた基油、必須成分及び任意成分の添加剤の種類並びに各評価試験は次の通りである。 【0045】 ▲1▼基油 40℃の動粘度が35mm^(2)/sで、粘度指数125の鉱油を使用した。 ▲2▼(a)成分 モリブデン酸アミン塩(以下、Mo酸アミン塩ともいう) Mo酸の第2級アミン塩(一般式(2)において、x=1、y=2、z=0、n=2であり、R^(4)及びR^(5)がトリデシル基である。)を使用した。 …(中略)… ▲3▼(b)成分 硫黄化合物 硫黄化合物1として、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)を使用した。 …(中略)… 【0046】 …(中略)… 油溶性チタン酸化合物はオルトチタン酸テトライソプロピルを使用した。 …(中略)… 【0048】 [評価試験] (1)摩擦低減効果の評価試験 エンジン油組成物を用いて、SRV試験(往復動すべり摩擦試験)による摩擦係数を評価した。 SRV試験は振動数50Hz、振幅1.0mm、荷重400N、温度80℃、試験時間30分とした。30min経過時の摩擦係数により評価した。試験片のシリンダ、ディスクは材質SUJ-2のものを使用した。 【0049】 (実施例1?10) 前記の基油に、(a)成分のモリブデン酸アミン塩、(b)成分の硫黄化合物、(c)成分、(d)成分のZnDTPを表1及び表2の上段に示す割合(質量%)で配合し、エンジン油組成物を調製した。得られたエンジン油組成物についてSRV試験により摩擦係数を測定し、評価結果を表1及び表2の下段に示した。 なお、表中バランスとは、エンジン油組成物に配合されている各成分の合計量が100質量%になるように、基油の量を選定する意味である。 【0050】 【表1】 」 2.本願発明についての検討 (1)刊行物に記載された発明 刊行物1の摘示(1-a)、摘示(1-c)の「【0016】【化2】」及び摘示(1-e)からみて、刊行物1の摘示(1-e)における実施例3には、次の発明が記載されているものといえる。 「(i)エンジン油組成物に配合されている下記(ii)?(iv)の各成分との合計量が100質量%となる量の基油としての40℃の動粘度が35mm^(2)/sで、粘度指数125の鉱油、 (ii)エンジン油組成物の全質量に対して、モリブデン量(ppm)で700ppmとなる量のモリブデン酸の第2級アミン塩(下記一般式(2)において、x=1、y=2、z=0、n=2であり、R^(4)及びR^(5)がトリデシル基である。)、 (iii)エンジン油組成物の全質量に対して、S量(ppm)で1500ppmとなる量の硫黄化合物としてのメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、 (iv)エンジン油組成物の全質量に対して、Ti量(ppm)で100ppmとなる量の油溶性チタン酸化合物としてのオルトチタン酸テトライソプロピル、 からなるエンジン油組成物: 」(以下、「引用発明」という。) (2)対比・検討 ア 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「40℃の動粘度が35mm^(2)/sで、粘度指数125の鉱油」、「オルトチタン酸テトライソプロピル」及び「エンジン油組成物」は、それぞれ、本願発明の「潤滑性粘度を有する油」、「式(I)(略)の油溶性チタン化合物」及び「内燃機関用潤滑油組成物」に相当する。 (イ)引用発明は、上記(i)の鉱油及び上記(ii)?(iv)の各成分からなるものであるから、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まないものであり、本願発明とは、「ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない」という点で一致する。 (ウ)本願明細書の【0021】「本発明の潤滑油組成物中で使用される潤滑性粘度を有する油は、基油(ベースオイル)とも呼ばれ、組成物の全質量に対して一般に多量に存在し、具体的には50質量%より多く、好ましくは約70質量%より多く、さらに好ましくは約80乃至約99.5質量%であり、最も好ましくは約85乃至約98質量%である。」からみて、本願発明の「主要量(潤滑性粘度を有する油)」とは、内燃機関用潤滑油組成物の全質量に対する割合(質量%)が50質量%より多い量であると解され、一方、引用発明の「潤滑性粘度を有する油」は、基油である以上、50質量%より多い量(割合)存在しているとみるのが妥当であるから、引用発明と本願発明とは、「主要量の潤滑性粘度を有する油を含む」という点で一致する。 (エ)引用発明の「オルトチタン酸テトライソプロピル」の化学式はTi{OCH(CH_(3))_(2))}_(4)、すなわち、C_(12)H_(28)O_(4)Tiであることが当業者に自明であり、C(炭素)、H(水素)、O(酸素)及びTi(チタン)の原子量を、それぞれ、12,1,16及び48として計算すると、オルトチタン酸テトライソプロピルの分子量は、(12×12+28×1+16×4+48)=(144+28+64+48)=284となる。 ここで、引用発明は、「オルトチタン酸テトライソプロピル」をエンジン油組成物の全質量に対して、Ti量(ppm)で100ppmとなる量含むものであるから、「オルトチタン酸テトライソプロピル」をエンジン油組成物の全質量に対して、X質量%含むとしてX質量%を算出すると、0.0592質量%(小数点以下5位四捨五入)となることからして、引用発明の「(iv)エンジン油組成物の全質量に対して、Ti量(ppm)で100ppmとなる量の油溶性チタン酸化合物としてのオルトチタン酸テトライソプロピル」と本願発明の「(b)組成物の全質量に対して、0.2質量%乃至4質量%の式(I)の油溶性チタン化合物」とは、「内燃機関用潤滑油組成物の全質量に対して、特定質量%の式(I)(略)の油溶性チタン化合物」という点で一致する。 (オ)上記(ア)?(エ)からみて、本願発明と引用発明とは、 「(a)主要量の潤滑性粘度を有する油および(b)組成物の全質量に対して、特定質量%の式(I)(略)の油溶性チタン化合物を含むが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含まない内燃機関用潤滑油組成物。」 である点で一致し、下記の点で相違する。 相違点:本願発明は、式(I)(略)の油溶性チタン化合物を組成物の全質量に対して、0.2質量%乃至4質量%含むのに対して、引用発明は、オルトチタン酸テトライソプロピルを組成物の全質量に対して、Ti量(ppm)で100ppmとなる量、すなわち、0.0592質量%含む点。 イ 検討 (ア)相違点について (ア-1)刊行物1の「【0035】上記に示した(c)成分は、1種単独もしくは2種類以上混合して使用してもよい。(c)成分は含有量が多過ぎると摩擦低減効果を損なう恐れがあるため、以下に示す含有量で存在させる。…(中略)…油溶性チタン酸化合物はチタン量で20?3000ppmであり、好ましくは20?1000ppmであり、また、摩擦低減効果持続性の面で、より好ましくは20?500ppmであり」(摘示(1-d))からみて、刊行物1には、エンジン油組成物の摩擦低減効果持続性の面で、油溶性チタン酸化合物をエンジン油組成物の全質量に対して、チタン量で20?500ppmの含有量存在させることが好ましい旨記載されているといえ、これをオルトチタン酸テトライソプロピルの質量%に換算すると、(284/48)×20×10^(-4)?(284/48)×500×10^(-4)質量%、すなわち、0.0118?0.2958質量%となる。 (ア-2)上記(ア-1)からみて、刊行物1には、摩擦低減効果持続性の面で、油溶性チタン酸化合物をエンジン油組成物の全質量に対して、チタン量で20?500ppmの含有量、すなわち、オルトチタン酸テトライソプロピルの質量%に換算すると、0.0118?0.2958質量%で存在させることにつき十分に示唆されているといえるので、引用発明において、エンジン油組成物の全質量に対して、オルトチタン酸テトライソプロピルを当該範囲の上限値近傍、すなわち、0.2958質量%近傍に調整することは、当業者が、刊行物1に記載された事項に基いて容易になし得ることである。 (イ)効果 (イ-1)刊行物1の「(c)成分は含有量が多過ぎると摩擦低減効果を損なう恐れがあるため、以下に示す含有量で存在させる。…(中略)…油溶性チタン酸化合物はチタン量で20?3000ppmであり、好ましくは20?1000ppmであり、また、摩擦低減効果持続性の面で、より好ましくは20?500ppmであり」(摘示(1-d))からみて、引用発明は摩擦低減効果持続性という効果を奏するものと認められる。 (イ-2)本願明細書の【0060】?【0109】の実施例1?9及び比較例A?Nに関する記載を見ても、本願発明の「0.2質量」及び「4質量%」それぞれに臨界的意義があるものとはいえない。 (イ-3)上記(イ-1)及び(イ-2)からみて、本願発明の奏する効果は引用発明の奏する効果及び刊行物1に記載された事項から予測できる程度のものであると認められる。 ウ 審判請求人の主張 なお、審判請求人は、平成26年11月4日付け審判請求書において、 (1)「本願請求項1に規定する油溶性チタン化合物の含有量は、0.2質量%乃至4質量%であり、その下限においても引用文献1の実施例が具体的に教示する量の3倍超であり、このように大量の油溶性チタン化合物を使用することは、引用文献1を参照した当業者が容易に想到し得たものではなかった。」(7頁19?21行) (2)「引用文献1の実施例2においては、一連の実施例1から5のうちで最も優れたSRV試験結果である摩擦係数0.051が得られていますが、この実施例2において、油溶性チタン酸化合物は用いられておらず、代わりに油溶性ホウ酸化合物が用いられています。一方、ほぼ同様の組成において油溶性チタン酸化合物を100ppm用いた上記実施例3ではSRV試験結果である摩擦係数は0.058と顕著に悪化しています。したがって、引用文献1を参照した当業者が、更に摩擦の低減を図るべく、引用文献1に記載のエンジン油組成物の配合を改良しようとした場合、油溶性ホウ酸化合物を使用すべく動機付けられることはあっても、油溶性チタン酸化合物を使用すべく動機付けられた蓋然性は低い」(7頁22行?8頁2行) 旨主張する。 しかるに、上記(2)ア(エ)で述べたとおり、引用発明(実施例3)は、オルトチタン酸テトライソプロピルをエンジン油組成物の全質量に対して、0.0592質量%含むものであるところ、上記(2)イ(ア)(ア-2)で説示したとおり、刊行物1には、摩擦低減効果持続性の面で、油溶性チタン酸化合物をエンジン油組成物の全質量に対して、チタン量で20?500ppmの含有量、すなわち、オルトチタン酸テトライソプロピルの質量%に換算すると、0.0118?0.2958質量%で存在させることにつき十分に示唆されているといえ、これを勘案することは容易想到性の判断の手法として一般的なものであり、よって、上記(1)の主張は、当を得ないものである。 次に、上記(2)の主張につき、刊行物1の摘示(1-e)【0050】【表1】の実施例1は、実施例2と異なる油性ホウ素化合物を用いる以外同様の組成のものであるが、上記実施例1のSRV試験結果である摩擦係数0.059と実施例3の摩擦係数0.058とはほぼ同等のものであるから、油溶性ホウ酸化合物を使用すべく動機付けられることはあっても、油溶性チタン酸化合物を使用すべく動機付けられた蓋然性が低いとする主張は、明らかに当を得ないものである。 エ 検討のまとめ したがって、本願発明は、当業者が、刊行物1に記載された発明及び刊行物1に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものである。 3.当審の判断のまとめ 以上のとおり、本願発明は、当業者が、刊行物1に記載された発明及び刊行物1に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではない。 第5 むすび したがって、本願は、他の請求項に係る各発明につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-01-08 |
結審通知日 | 2016-01-12 |
審決日 | 2016-01-25 |
出願番号 | 特願2011-529250(P2011-529250) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C10M)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松原 宜史 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 日比野 隆治 |
発明の名称 | 潤滑油組成物 |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |