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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E02D
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  E02D
審判 全部無効 2項進歩性  E02D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  E02D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02D
管理番号 1315356
審判番号 無効2013-800062  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-04-15 
確定日 2016-06-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第3793777号発明「地盤強化工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3793777号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の手続の経緯は以下のとおりである。

平成 7年 8月14日 本件出願(特願平7-237509)
平成18年 4月21日 設定登録(特許第3793777号)
平成25年 4月15日 本件無効審判請求
平成25年 7月 3日 被請求人より答弁書提出
平成25年10月 1日 被請求人より上申書提出
平成25年11月15日 被請求人より上申書提出
平成26年 2月13日 審理事項通知
平成26年 3月 4日 請求人・被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成26年 3月18日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成26年 3月18日 口頭審理
平成26年 3月25日 被請求人より手続補正書提出
平成26年 3月27日 被請求人より上申書(補充書)差出
平成26年 4月 8日 被請求人より上申書差出
平成26年 4月15日 請求人より上申書提出
平成26年 4月16日 被請求人より上申書差出
平成26年 5月24日 被請求人より上申書差出
平成26年 6月 3日 審決の予告
平成26年 8月 6日 被請求人より上申書及び訂正請求書提出
平成26年11月 7日 訂正拒絶理由通知、職権審理結果通知
平成26年11月27日 被請求人より意見書提出

第2 訂正請求について
1 訂正請求の内容
本件無効審判事件の被請求人より平成26年8月6日に提出された訂正請求(以下「本件訂正」という。)は,特許第3793777号無効審判事件の特許明細書を本件請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであって,次の事項を訂正内容とするものである。(下線は訂正箇所を示す。)
(ア)訂正事項1
請求項1に「前期」の記載を「前記」と訂正する。
(イ)訂正事項2
請求項1に「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,」の記載を「鉄骨などの構造材で強化形成され,地形に適した平面,階段,斜面などの形状であるテーブルを地盤上に設置し,」と訂正する。
(ウ)訂正事項3
特許公報第1頁【0001】【産業上の利用分野】の1行目の「特に地震動や」の記載を「地盤に起因する欠点,特に地震動や」と訂正する。
(エ)訂正事項4
特許公報第2頁【0005】【課題を解決するための手段】の1行目及び特許公報第2頁【0005】【作用】の1行目にそれぞれ記載した「鉄骨などの構造材で強化され,」の記載を「鉄骨などの構造材で強化形成され,地形に適した平面,階段,斜面などの形状である」に訂正する。
(オ)訂正事項5
特許公報第2頁【0005】【作用】の4行目に「人工造成地に起因する地震」の記載を「人工造成地に起因する欠点,特に地震」に訂正する。
(カ)訂正事項6
特許公報第2頁【0008】の1行目「施工手順としては,」の記載を「上記実施例の施工手順としては,」に訂正する。
(キ)訂正事項7
特許公報第2頁【0009】の3行目の「通信用のパイプなどの設備を前提として」の記載を「通信用のパイプなどの設計の前提として」と訂正する。
(ク)訂正事項8
特許公報第2頁【0010】の1行目の「例においては,独立性を」の記載を「例においては,さらに独立性を」と訂正する。
(ケ)訂正事項9
特許公報第2頁【0010】の2行目の「との干渉による」の記載を「(公知の物理的,化学・生物的,地学的な欠点を含む)との干渉」と訂正する。
(コ)訂正事項10
特許公報第3頁【0012】の1行目の「テーブルを設計して」の記載を「テーブルを設計(造成)して」と訂正する。
(サ)訂正事項11
特許公報第3頁【0013】の1行目の「また複葉にすることによって」の記載を「また複葉にし,緩衝材を介在させることによって」と訂正する。
(シ)訂正事項12
特許公報第3頁【0014】の1?2行目の「緩衝材を使用することによって」の記載を「緩衝材を使用して流体の自然的作用である均一化によって」と訂正する。
(ス)訂正事項13
特許公報第3頁【0015】【発明の効果】の1?2行目の「造成による欠点,地震」の記載を「造成による欠点,特に地震」と訂正する。

2 訂正の原因
被請求人は,訂正請求書において,「訂正事項1は誤記の訂正であり,訂正事項2?13はいずれも明りょうでない記載の釈明であって,上記の訂正はいずれも特許請求の範囲の実質拡張・変更ではなく,また新規事項の追加ではないので,いずれの訂正事項も特許法第134条の2に規定される訂正要件のすべてを満たしております。」と主張している。

3 訂正拒絶理由について
本件訂正の訂正事項のうち,当審において訂正事項2,4,10,12に対して通知した訂正拒絶理由の概略は以下のとおりである。
(1)訂正事項2及び4について
テーブルの形状が「地形に適した平面,階段,斜面」であることは,願書に添付した明細書又は図面(特許公報に掲載された明細書又は図面である。以下「明細書等」という。)に記載されておらず,自明な事項とも認められないから,新たな技術事項を導入するものである。

(2)訂正事項10について
「テーブル」を「造成」することは,明細書等に記載されておらず,自明な事項とも認められないから,新たな技術事項を導入するものである。

(3)訂正事項12について
「流体の自然的作用である均一化」との記載は明細書等には記載されていない。
また,一般的に流体には自然的作用である均一化する性質があるとしても,この場合の均一化とは,例えば流体中の密度や温度,流体中の分散物の分散状態等について言うものであって,当該性質が本件明細書等に記載された平準化に関連する性質とは認められず,さらに,「流動性を有する緩衝材」が「流体」に限られるものではないことから,流体の性質をもって流動性を有する緩衝材の性質とする記載は,新たな技術事項を導入するものである。

(4)まとめ
以上のとおり,訂正事項2,4,10,12は,明細書等に記載した事項の範囲においてするものではなく,特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていない。

4 意見書における被請求人の主張
被請求人が平成26年11月27日付け意見書において主張した内容の概略は,以下のとおりである。
(1)訂正事項2及び4について
願書に添付した明細書の[0006][実施例]に「テーブルの形状は,平面,階段,斜面などの地形に適したものにし」との記載があります。
この記載によって「テーブル」の技術的意義を明瞭にすることを目的としたものであって,新たな技術的事項を導入するものではありません。

(2)訂正事項10について
特許公報第2頁[0009]に「造作」との記載があります。この「造作」は,「造成」と同義であると解して「造成」といたしましたが,「造成」ではなく「造作」に変更することも検討いたします。
願書に添付した明細書の[0004]にも「造作」の記載があり,新たな技術事項を導入するものではありません。

(3)訂正事項12について
ア 貴審のご案内の通り,「流体の自然的作用の均一化」は,一般的には流体中の密度や温度,分散物の分散状態等についてでありますが,本件発明で云う「均一化」は,土木工学に関わる本件発明の明細書の文略における意義においてのもので,「緩衝材を低い箇所に補うことによって」,「あるいは強制的に支持工事を,テーブルを対象とすることによって」との条件下で効果を得ることができる「流体の自然的作用」を意味しています。
ここでは一般的な作用である「密度」,「温度」,「分散状体」の均一化の他に,土木工学で重視される「負荷」や「圧力」の均一化が流体の自然的作用として活用されます。
イ 貴審は「『流動性を有する緩衝材』が『流体』に限られるものではないことから,流体の性質をもって流動性を有する緩衝材の性質とする記載は,新たな技術事項を導入するものである。」と判断されています。
本件訂正は,「流動性を有する緩衝材」に含まれるものとして「流体」をとらえています。
また,流動性を有する緩衝材は,ある条件下で流体としての性質をあらわすものを含みます。その典型例が「液状化」であり,「固体」が「流体」に変化することは広く知られていることです。

5 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項2及び4について
ア 訂正事項2は,請求項1に係る発明の発明特定事項である「テーブル」に関し,「地形に適した平面,階段,斜面などの形状である」ものに限定しているので,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
しかしながら,「テーブル」が「地形に適した平面,階段,斜面などの形状である」ことは,訂正拒絶理由で通知したとおり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)には記載されておらず,自明な事項とも認められないから,新たな技術事項を導入するものである。
被請求人は上記「4(1)」のとおり主張するが,特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項に,「第一項の明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(同項ただし書第二号に掲げる事項を目的とする訂正の場合にあつては,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願に係る特許にあつては,外国語書面))に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」とあるように、明細書等に記載した事項の範囲内であるかどうかの判断の基となる明細書等は,本件特許の設定の登録時のものである。したがって、「地形に適した平面,階段,斜面などの形状である」ことの記載が,本件特許の設定の登録時の明細書等にない以上、願書に最初に添付した明細書の段落【0006】を基にした請求人の主張を採用することはできない。(なお,当該記載は,既に平成7年8月16日付け手続補正書の段落【0006】にはない。)

イ また,訂正事項4は,訂正事項2に係る訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載とを整合させるためのものであって,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
しかしながら,訂正事項4は訂正事項2と同様の訂正をするものであるから,上記アの判断と同様の理由により,新たな技術事項を導入するものである。

(2)訂正事項10について
訂正事項10は,明細書の段落【0012】の「テーブルの設計」を「テーブルの設計(造成)」と訂正して,「設計」を「造成」という意味とすることにより,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
しかしながら,訂正拒絶理由で通知したとおり,「テーブル」を造成することは,明細書等には記載されておらず,自明な事項とも認められないから,新たな技術事項を導入するものである。
被請求人は,上記「5(2)」に記載したとおり「造成」と「造作」は同義であると主張するが,一般的に,「造成」とは,土地に対しその地盤面の形状を主に土を動かすことにより何かしらの目的に利用する為の行為をいい,「造作」とは,建築内部の仕上げ工事や取付け工事のことをいい,両者は同義語とはいえない。よって,被請求人の主張は採用することができない。

(3)訂正事項12について
訂正事項12は,「地形が変動して平行を欠いても,」「平準化が容易にできる」作用効果を達成するための,「流動性を有する緩衝材を使用」することの意味を,「流体の自然的作用である均一化によって」であることに明確化しようとするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
しかしながら「流体の自然的作用である均一化」との記載は,明細書等には記載されていない。
また,一般的に流体には自然的作用である均一化する性質があるとしても,この場合の均一化とは,例えば流体中の密度や温度,流体中の分散物の分散状態等について言うものであって,当該性質が本件明細書等に記載された平準化に関連する性質とも認められず,さらに,「流動性を有する緩衝材」が「流体」に限られるものではないことから,流体の性質をもって流動性を有する緩衝材の性質とする記載は,新たな技術的事項を導入するものである。
被請求人は,「土木分野で重視される『負荷』や『圧力』の『均一化』が流体の自然的作用として活用される」と主張しているが,仮に「流体の自然的作用である均一化」が意図するものが「負荷」や「圧力」の均一化であったとしても,本件訂正後の明細書等の記載をみても,当該「負荷」や「圧力」の均一化が平準化にどの様に関連するのかも理解することができない。同じく,本件訂正後の明細書等の記載から,「流動性を有する緩衝材」が「流体」,特に請求人が上記5(3)イで主張する「ある条件下で流体としての性質をあらわすものを含みます。その典型例が『液状化』であり,『固体』が『流体』に変化することは広く知られていることです。」と説明した「流体」を意味すると解することができるものではないので,「流体の自然的作用である均一化によって」を加える訂正は,新たな技術事項を導入するものである。

6 まとめ
以上のとおり,訂正事項2,4,10,12は,明細書等に記載した事項の範囲内においてするものではなく,特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていないことから,訂正事項2,4,10,12は認められず,そして訂正事項2,4,10,12は本件特許全体に対して訂正を請求しているものであるから,当該訂正事項2,4,10,12を含む本件訂正は認められない。


第3 本件特許発明
本件訂正は、上記第2のとおり認められないので、本件特許の請求項1に係る発明は,本件特許の設定登録時の特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルを地盤上に設置し,前期テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地を配置する地盤強化工法であって,前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け,前記テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応するようにしたことを特徴とする地盤強化工法。」(以下,「本件特許発明」という。)
なお,「前期テーブルの上部に」は「前記テーブルの上部に」の誤記と認める。


第4 当事者の主張
1 請求人の主張の概要
1-1 審判請求書における主張
請求人は,特許第3793777号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,その理由として,次の理由により,本件特許の請求項1に係る発明の特許は無効とすべきであると主張し,証拠方法として甲第1号証及び甲第2号証を提出している。
[無効理由]
(1)本件特許の請求項1に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法旧第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
(2)本件特許の請求項1に係る発明は,甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は特許法123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
(3)本件特許の請求項1の記載は,その発明特定事項のうち「地盤に起因する欠点」に如何なるものが含まれるのか把握することができず,「緩衝材」の技術的意義を理解することもできず,特許を受けようとする発明が明確でないから,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,本件特許は特許法旧第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。
(4)本件特許の請求項1に記載の発明特定事項のうち「地盤に起因する欠点に対応する」「緩衝材」について,本件特許の発明の詳細な説明は,「地盤に起因する欠点」として地震・地崩れ・液状化を記載しつつ,地崩れ・液状化に対応する具体的な「緩衝材」を記載しておらず,請求項1に係る発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していないから,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず,本件特許は特許法旧第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。

1-2 平成26年3月4日付け口頭審理陳述要領書における主張
(1)甲第1号証の段落0011は,第一実施例の人工地盤10上に建築構造物等を設置する手順を明示していないが,甲第1号証の人工地盤10上には各種建築構造物や土木構造物等が設置されるという段落0001?0003の記載を参酌すれば,段落0011の記載から,振動減衰体8上に設置した人工地盤10の上方に各種建築構造物や土木構造物等を設置する手順を含めた工法を導き出すことができる。
すなわち,甲第1号証の段落0001?0003及び0011の記載から,「人工地盤の上部に各種建築構造物や土木構造物等を設置する工法」(構成b1)を導き出すことができる。(第2頁第22行?第29行)
(2)「人工地盤と地盤との中間に介在する振動減衰体及び粘弾性ダンパーを設け,地盤の振動を人工地盤に直接伝えることなく,地盤の振動を減衰して人工地盤に伝えると共に水平方向及び上下方向の振動を吸収するようにした」(構成c1)は,甲第1号証の段落0011,0013,0016及び図2の記載から導き出せる事項である。(第3頁第31行?第35行)
(3)請求項1には「緩衝材」の機能が何ら規定されておらず,「テーブルが既存の地盤との関連を断つ」ための「緩衝材」を特定するための事項が不足していることが明らかであるため,発明が不明確なものとなっている。
(第4頁第15行?第17行)

[証拠方法]
甲第1号証:特開平5-18141号公報
甲第2号証:特開平2-232426号公報

2 被請求人の主張の概要
2-1 答弁書における主張
(1)甲第1号証の発明は,「回転支持部材」を取り付けることによって,人工地盤の「安全性を向上させ」(段落0004)るものである。本件特許発明は,「鉄骨などの構造材で強化形成されたテーブルを地盤上に設置」(請求項1)することによって「都市や街区を保護する」(発明の効果)ものである。上記のとおり,甲第1号証の発明と本件特許発明とは,その構成及び作用効果に顕著な相違が認められる。(被請求人築城俊雄答弁書第2頁第19行?第28行)
(2)甲第2号証の発明は,「低荷重構造体」に人工地盤を設けることで「荷重」を加え,「構造体の転倒防止」をするというものである。本件特許発明は,「テーブル」を設置して地盤の地層,地質,造成による欠点,地震,地崩れによる危険から「都市」,「街区」などを保護するものである。上記のとおり,甲第2号証の発明と本件特許発明とは,技術的分野が異なり,また作用効果においても相違がある。(同第3頁第11行?第20行)
(3)「地震,地崩れ,局所的な液状化」に限定せず,地盤に起因する欠点,地層,地形,地質,人口造成地の問題,環境との干渉,地形の変動,不均質などが含まれる。(同第4頁第24行?第26行)
(4)「テーブル」が主たる機能を果たし「緩衝材」が従たる機能を果たすことによって本件発明は所望の作用・効果を得ることができる。(同第5頁第22行?第23行)

2-2 平成26年3月4日付け口頭審理陳述要領書における主張
(1)本件特許発明の優れている点は,次の通りです。
地盤の地層,地形,地質,造成による欠点,地震,地崩れによる危険から都市,街区,施設を保護することができます。
ゴム,砂,流動体など多様な緩衝材を活用することができます。
(2)「都市」,「街区」などが保護される理由は,次の通りです。
請求項1には,鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルが設置され,テーブルと地盤の中間に緩衝材を介在させ,テーブルの上部に建築物や道路,橋などの構造物または人口造成地を配置すると記載されております。
テーブル上には,建築物,道路,橋などの構造物の他に,公園,人工湖水など多様な用途に利用される人工造成地も配置され,「都市」,「街区」を構成する各要素が設営されることから,「都市」や「街区」が保護される対象になるのです。

2-3 平成26年3月27日差出の上申書に添付の補充書における主張
(1)甲第1号証の図6で示されている人工地盤と振動減衰装置では,本件特許発明の特徴である地盤の欠点に対応することや,都市,街区を保護するという作用効果と同等の作用効果を得ることは不可能です。
甲第1号証の発明,特に図6は引用発明としての適格性はないと考えます。仮にこれが認められるとしても,図6によって当業者が観念する人工地盤と振動減衰装置を実施するためになされる設計や構造では,本件発明と同等の地盤の欠点に対応して都市,街区を保護する強度に達することはありません。
甲第1号証の発明と本件特許の発明は,構成,作用効果,目的において明らかに相違しています。(第1頁第14行?第22行)
(2)本件特許発明が特許査定を受けることができたのは,甲第1号証の欠点を解決するものである乙第1号証の欠点を更に解決するものだからです。
当業者の常識では,甲第1号証が引用発明とされて,本件特許発明が新規性を喪失することはあり得ないことです。(第2頁第16行?第19行)

2-4 平成26年8月6日付け上申書における主張
(1)同一の用語を与えられた技術要素(単一の技術要素であるものと,複数の技術要素で構成されるものがある。)でも技術的意義が異なることもあります。例えば「夢の島」のように埋め立てて造られたものを「人工地盤」と称する例もあります。
広辞苑では,「人工地盤」の意義を,単に「地面・水面の上に人工的に設置された地盤」としています。「構造」にしても,例えば「犬小屋」でも何らかの「構造」によって造られ,必ずしも大規模のものに限られません。
名称だけでは、同じ技術であるか否かは定まりません。(第3頁第9行?第16行)
(2)同じ技術分野で同じ名称の技術要素であっても,上記2のベクトル(目的,備えるべき作用効果)が異なれば全く相違する技術になります。
当該発明が,どのようなベクトルで,どのような進化系統に属するのかを無視するのは、発明の本質を見誤る原因となります。(第3頁第17行?第20行)
(3)本件特許発明は出願時における既存の「人工地盤」とは異なるものとして「テーブル」としましたし,「免震装置」の欠点を解決するものとして「緩衝材」としています。
単に局所的に地震動に対応するのではなく地盤に起因する欠点に対応することを目的としています。
そのことによって構造的に多様で複雑な施設を包摂して保護することができ,道路,橋,建築物によって構成される都市,街区,複雑な構造をもつ建築物,古い様式のもので老朽化し構造力学的に多様性のあるもの,新築であっても同区画に複数棟を建築する例,こうした条件を受容するものとしての「街区」,これらを地盤の欠点から保護することを目的とし,それに必要な作用効果を備える構成とすべく,現地に合わせて「テーブル」を平面,階段状,斜面等の形状にし,上置される構造物に合わせて鉄骨などの構造材で強化形成するとしています。(第4頁第20行?第31行)

[証拠方法]
乙第1号証:特開平4-269215号公報
乙第2号証:「地盤を『ゼリーに』最新の免震構想」という見出しの「ゼリ ー免震」に係る大林組の記事(朝日新聞GLOBE,
http://globe.asahi.com/feature/memo/2012041300006.html)
乙第3号証:日本経済新聞抜粋,「低層マンション揺れ半減」という見出し (平成24年3月19日付け)
乙第4号証:特許第3160659号公報
乙第5号証:鹿島建設のホームページの「免震人工地盤」
乙第6号証:Dynamic Design Inc.のホームページの
「相模原市営上九沢住宅」
乙第7号証:鹿島建設のホームページの「目白ガーデンヒルズ」
乙第8号証:免震化工事フロー図
乙第9号証の1:準備書面(2)及び添付書類
乙第9号証の2:被告第一準備書面
乙第10号証の1:準備書面(4)
乙第10号証の2:被告第2準備書面
乙第11号証:特許第3793777号公報
乙第12号証:特開平9-53225号公報
乙第13号証:陳述書(黒岩和代作成)
乙第14号証:見解書(弁理士久保司作成)
乙第15号証:申出書の控え(黒岩和代作成)
乙第16号証:申出書の控え(黒岩和代作成)
乙第17号証の1:手紙の控え(黒岩和代作成)
乙第17号証の2:手紙の控え(黒岩和代作成)
乙第18号証の1:手紙の控え(黒岩和代作成)
乙第18号証の2:手紙の控え(黒岩和代作成)

なお,乙第1?第10号証の2は被請求人築城俊雄が提出。乙第11?第12号証は被請求人日本知財開発株式会社が提出。乙第13?第18号証の2は被請求人らが提出。


第5 無効理由に対する当審の判断
本案件の都合上,無効理由(3),(4),(1),(2)の順に判断する。
1 無効理由(3)について
(請求人の主張)
請求人は,
「本件特許発明は,テーブルと地盤との中間に『緩衝材』を介在させることによって,『テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応する』と規定している。
ここで『地盤に起因する欠点』という用語は,通常は地盤の有する物理的な欠点(例えば,地下水位の位置,透水性,地盤支持力,等),化学・生物的な欠点(例えば,重金属・揮発性物質から生ずる人体へのリスク,土壌中の微生物活動による有毒ガスの発生,等),地学的な欠点(例えば,地質,岩質,活断層の存在,等)を全て含む意義と解されるのに対し,本件特許明細書には『地層,地形,地質,人工造成地に起因する地震,地崩れ,局所的な液状化』(本件特許明細書の段落0005,0015)と記載されているのみであり,地盤に起因する他の欠点は記載されていない。すなわち,本件特許発明の『地盤に起因する欠点』という用語は,明細書において通常の意義と異なる『地震,地崩れ,局所的な液状化』に限定する記載がされており,この『地震,地崩れ,局所的な液状化』以外の欠点を含むか否かが不明であるため,本件特許発明が不明確なものとなっている。
また,本件特許発明の『緩衝材』は『テーブルが既存の地盤との関連を断つ』という技術的意義を有するところ,本件特許明細書には『砕石,ゴム,発泡スチロール,砂などの緩衝材を介在させることによって耐震性を得る』(本件特許明細書の段落0012),『地形が変動して平衡を欠いても,流動性を有する緩衝材を使用することによって,また緩衝材を低い箇所に補うことによって平準化が容易にできる』(本件特許明細書の段落0014)と記載されているのみである。このうち『耐震性』については,既存の地盤の振動がテーブルに直接伝わらないように関連を断つという技術的意義が一応導き出せるものの,『平準化』については,如何なる意味において『テーブルが既存の地盤との関連を断つ』という働き・役割を果たすのか不明である。段落0014の記載を自然に解釈すれば,地形が変動して平衡(水平)を欠いた部分に,○1『緩衝材』を流動させて補填することによって平準化(水平)を回復すること,或いは○2『緩衝材』を新たに補充することによって平準化(水平)を回復することを導き出せるが,これら○1○2は『緩衝材』だけで自然に生ずる働き・役割ではなく,他の技術的手段を必要とすることは明らかであるから,本件特許発明は発明を特定するための事項が不足しているため不明確となっている。
すなわち,明細書の記載を参照しても,本件特許発明の『緩衝材』の『テーブルが既存の地盤との関連を断つ』という技術的意義を理解することができないため,本件特許発明が不明確なものとなっている。
従って,本件特許の請求項1の記載は,特許を受けようとする発明が明確でないから,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」(請求書第9頁第5行?第10頁第2行)(なお,「○1」等は○数字を表わす。以下同様。)と主張する。

(被請求人の主張)
一方,被請求人らは,
「(4)特許法第36条第6項第2号について
『地震,地崩れ,局所的な液状化』に限定されていない。
(一)本件特許発明には,次の記載がある。
○1 『地盤に起因する欠点』(請求項1)
○2 『地層,地形,地質,人口造成地に問題があるとき』(段落000 2)
○3 『その他の環境との干渉』(段落0010)
○4 『地形が変動』(段落0014)
○5 『不均質な場合』(段落0014)
○6 『地盤の地層,地形,地質,造成による欠点』(段落0015)
(二) 以上の記載によれば,『地震,地崩れ,局所的な液状化』に限定せず,地盤に起因する欠点,地層,地形,地質,人口造成地の問題,環境との干渉,地形の変動,不均質などが含まれる。
(三) 地下水の流入(環境との干渉),化学汚染(地質),活断層(地層)など豊洲市場や原子力発電所等で問題とされている例も含まれている。
(四) なお,公知事項を記載する必要はないとされている。」(答弁書第4頁第14行?第5頁第1行)(なお,「○1」等は○数字を表わす。),
そして,
「(1)『地盤に起因する欠点に如何なるものが含まれるのか』について
クレームに公知の事実を記載する必要はありません。
『テーブルが既存の地盤との関連を断って』と記載されており,地盤の如何なる欠点があっても対応できるとしています。
『地盤に起因する欠点』として,地盤の地層,地形,地質,造成による欠点,地震,地崩れによる欠点などがあり,常識に属する事項であって,『地盤に起因する欠点』の詳細をクレームに記載する必要はないと考えます。
(2)『緩衝材の技術的意義』について
広辞苑によれば,『緩衝』の意味は,『二つの物の間の衝突や衝撃をゆるめやわらげること。また,そのもの。』とあります。
用語例として,『緩衝液』,『緩衝器』,『緩衝装置』なども含まれ,『材』を付加した『緩衝材』から当業者が了解するもののうち,砕石,ゴム,発泡スチロール,砂などは,本件特許の明細書中【0012】に例示されています。」(平成26年3月27日差出の上申書に添付の補充書第3頁末行?第4頁第12行),
また,
「段落【0015】に『地盤の地層,地形,地質,造成による『欠点』』との記載があり,物理的な欠点,化学・生物的な欠点,地学的な欠点のいずれかを排除する意図はなく,全てを含むと解すべきです。
特許の明細書は,学術文献ではないので,公知の知見の全てを詳細に記述する必要はないと考えます。」(平成26年8月6日付け上申書第1頁第11行?第15行),
さらに,
「本件特許明細書の段落【0014】に『地形が変動して平衡を欠いても,流動性を有する緩衝材を使用することによって,また緩衝材を補うことによって平準化が容易にできる。『あるいは、強制的に支持工事を,テーブルを対象にすることによって平準化が可能になる。』』と記載されているのを看過しています。
流動性を有する緩衝材は,物理的に均一化,平準化する性質を備えていることは自然的作用として常識であり,流動性を有する緩衝材を補うことによっても当然に平準化は可能です。これは『テーブル』と『緩衝材』によって構成されていることから得られる効果です。
しかし,こうした『流動性を有する緩衝材』の物理的作用,性質だけでは平準化が困難である場合があり,この場合は「あるいは強制的に支持工事を,テーブルを対象にすることによって平準化が容易にできる。』として,段落【0014】に記載しています。
貴審は『あるいは強制的に支持工事を,テーブルを対象に・・・・・』の記載を看過していること,及び本件特許発明が「テーブル」と「緩衝材」で構成されているにもかかわらず,「緩衝材」にのみ着眼していることから誤まった結論に至っています。」(平成26年8月6日付け上申書第1頁第22行?第2頁第7行)
それに加えて,
「本件特許発明が『テーブル』と『緩衝材』によって構成されていること,及び本件特許の特許請求の範囲及び明細書において『テーブル』が『地盤の欠点に対応する』(段落【0004】)こと,『用地固有の欠点を解消すること』(段落【0005】),『テーブル』を対象にすることによって『平準化』が可能になる』(段落【0014】)と記載されていることを看過したことが原因で誤った結論に至ったものと考えます。」
(平成26年8月6日付け上申書第2頁第14行?第19行)と、主張する。

(当審の判断)
本件特許の発明の詳細な説明の【0005】,【0015】段落を参照すると,「地盤に起因する欠点」として「地震,地崩れ,局所的な液状化」が例示されているが,「地盤に起因する欠点」であれば「地震,地崩れ,局所的な液状化」以外の欠点も含むものと解するのが自然である。しかしながら,特許請求の範囲にも発明の詳細な説明にも,地盤の有する物理的な欠点,化学・生物的な欠点,地学的な欠点等,地盤に起因する他の欠点は何ら記載されていない。そうすると,本件特許発明の「地盤に起因する欠点」という用語は,通常「地震,地崩れ,局所的な液状化」以外の欠点も含むものと解されるところ,明細書においては通常の意義と異なる「地震,地崩れ,局所的な液状化」のみが記載されており,明細書全体をみてもこの「地震,地崩れ,局所的な液状化」以外の欠点を含むか否かが不明であるため,本件特許発明が不明確なものとなっている。
また,本件特許発明の「緩衝材」は「テーブルが既存の地盤との関連を断つ」という技術的意義を有しているが,本件特許明細書には「砕石,ゴム,発泡スチロール,砂などの緩衝材を介在させることによって耐震性を得る」(【0012】段落),「地形が変動して平衡を欠いても,流動性を有する緩衝材を使用することによって,また緩衝材を低い箇所に補うことによって平準化が容易にできる」(【0014】段落)と記載されているのみである。このうち前者の「耐震性」については,既存の地盤の振動がテーブルに直接伝わらないように関連を断つという技術的意義が導き出せるものの,「平準化」については,どのようにして「テーブルが既存の地盤との関連を断つ」という働き・役割を果たすのか不明である。【0014】段落の記載を普通に解釈すれば,地形が変動して平衡(水平)を欠いた部分に,「緩衝材」を流動させて補填することによって平準化(水平)を回復すること,或いは「緩衝材」を新たに補充することによって平準化(水平)を回復することが想定されるが,これらの平準化は「補填」や「補充」を行うための構成を必須とするものであって,「緩衝材」だけで自然に生ずるものではなく,他の技術的手段を必要とすることは明らかである。
さらに,強制的に支持工事をすることや,本願発明がテーブルと緩衝材によって構成されていることをもってしても,緩衝材が平準化の回復にどの様な働き・役割を果たすのか不明と言わざるを得ない。
そうすると,【0014】段落の流動性を有する緩衝材に注目すると,明細書の記載を参照しても,緩衝材のみで「テーブルが既存の地盤との関連を断」つ機能を生ずる,本件特許発明の「緩衝材」を想定することができないため,本件特許発明が不明確といわざるをえない。
したがって,本件特許の請求項1の記載は,特許を受けようとする発明が明確でないから,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとはいえない。

2 無効理由(4)について
(請求人の主張)
請求人は,
「本件特許発明は,テーブルと地盤との中間に『緩衝材』を介在させて『テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応する』ものであるところ,本件特許の発明の詳細な説明は,『地盤に起因する欠点』の具体例として地震,地崩れ,局所的な液状化を記載する一方(本件特許明細書の段落0005),『緩衝材』の具体例としては地震に対応する(耐震性を得る)ための砕石,ゴム,発泡スチロール,砂などを記載するのみであり(本件特許明細書の段落0012),地崩れや液状化に対応するための『緩衝材』の具体例を記載しておらず,地崩れ・液状化に対応する『緩衝材』の有する作用及び効果が生ずる技術的根拠が何ら具体的に記載していない。
本件特許の発明の詳細な説明には,地形が変動して平衡を欠いた場合に対応するため『流動性を有する緩衝材』を使用することも一応記載されているが,抽象的・機能的に記載されているだけで具現すべき材料が不明であり,本件特許の出願時の技術常識に基づいても,本件特許発明のように局所的ではなく広い範囲で安定した地盤を形成するための『流動性を有する緩衝材』とは如何なるものであるかを当業者が理解できない。
すなわち,本件特許の発明の詳細な説明は,『地盤に起因する欠点』のうち地震に対応する実施の形態は記載するものの,『地盤に起因する欠点』に含まれる地崩れや液状化に対応する実施の形態については,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に説明していない。従って,本件特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」(請求書第10頁第4行?第21行)と主張する。

(被請求人の主張)
一方,被請求人は,
「(6)特許法第36条第4項について
(一)本件特許発明は『地盤強化工法』であって,上記(4)に説明のとおり,地盤の欠点の全てに対応することを課題としている。『テーブルが既存の地盤との関連を断つ』(請求項1)として,本件発明の主たる作用は『テーブル』によって得られる。
『鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブル』によって,例えば地崩れや液状化が生じても『テーブル』によって被害は軽減される。
例えば,原子力発電所の活断層や,豊洲新市場のベンゼン汚染,造成地や埋立地などの不同沈下の問題を解消しあるいは軽減する。
(二)『テーブル』が主たる機能を果たし『緩衝材』が従たる機能を果たすことによって本件発明は所望の作用・効果を得ることができる。
本件特許発明における『緩衝材』は,従たる機能を果たすが,地震に対応するものとしては『ゴム』が一般的だが,『砂』(千葉大学・清水建設の共同研究)(乙第3号証)や『流動性』を有する『緩衝材』として『水』(大林組のゼリー工法)(乙第2号証)などがあるが,液状化しやすい地盤であれば,地震時には液状化することから,これを『流動性を有する緩衝材』として積極的に活用することもできる。
エリア全体が均等に液状化するように液状化しない個所がないことを確認することが必要だが,コストを最小に抑えることができる。」(答弁書第5頁第13行?第6頁第3行),
また,
「(1)『地盤に起因する欠点に対応する』ための作用効果は,『緩衝材』が単独で備えるものでないことはクレーム及び明細書から明らかです。
『テーブル』と『緩衝材』で構成されることで,都市,街区,施設が保護されるとしています。『テーブルと地盤の間に砕石,ゴム,発泡スチロール,砂などの緩衝材を介在させる』と明細書に記載されてもいます。
クレームに記載されているように,『地盤の欠点に対応する』のは主として『テーブル』であって,『緩衝材』として用いられるのは砕石,ゴム,砂などのいずれでもよく,また併用されてもよいのです。
『地崩れ』に対しては,『最下葉のテーブルに対しては固定施工をすることによって地崩れなどの地形変動に対応できる。』【0014】と記載されています。
『液状化』に対しては,『テーブル』が有効であることが,今日では当業者が広く認めるところです。」(平成26年3月27日差出の上申書に添付の補充書第4頁末行?第5頁第12行)と主張する。

(当審の判断)
本件特許発明は,テーブルと地盤との中間に「緩衝材」を介在させて「テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応する」ものであるところ,本件特許の発明の詳細な説明には,「地盤に起因する欠点」の具体例として地震,地崩れ,局所的な液状化を記載する一方(【0005】段落),「緩衝材」の具体例としては地震に対応する(耐震性を得る)ための砕石,ゴム,発泡スチロール,砂などが記載されているのみであって(【0012】段落),地崩れや液状化に対応するための「緩衝材」の具体例が記載されておらず,地崩れ・液状化に対応する「緩衝材」の有する作用及び効果が生ずる技術的根拠が何ら具体的に記載されていない。
また,本件特許の発明の詳細な説明には,地形が変動して平衡を欠いた場合に対応するため「流動性を有する緩衝材」を使用することも一応記載されているが,抽象的・機能的に記載されているだけで具現すべき材料が不明である。そこで,被請求人は答弁書において「流動性を有する緩衝材」として,「砂」や「水」をあげているものの,「砂」や「水」が地崩れ・液状化に対してどのような作用をして緩衝材としての効果を奏するのか,具体的な説明がないため発明の実施ができないものとなっている。
例えば,前記「第4 1 (当審の判断)」に記載したように,流動性を有する緩衝材にあっては,他の技術手段があって初めて発明の目的を達成し得るものであって,請求項記載の構成のみでは発明の目的を達成し得ない,すなわち発明を実施し得ないものである。
よって,本件特許の発明の詳細な説明には,「地盤に起因する欠点」のうち地震に対応する実施の形態は記載されているものの,「地盤に起因する欠点」に含まれる地崩れや液状化に対応する実施の形態については,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に説明されていない。
したがって,本件特許は特許法旧第36条第4項に規定する要件を満たしているとはいえない。

3 無効理由(1)及び(2)について
(1) 甲第1号証の記載事項
本件の出願前に頒布された甲第1号証には,次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与。)
(1a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,各種建築構造物や土木構造物等が設置される人工地盤における,特に地震時の制振対策として採用された場合に好適な制振人工地盤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】人工地盤上に構築された構造物の制振対策として,地盤振動に伴う構造物の振動は,構造物が設置された人工地盤を振動減衰装置により抑制している。この振動減衰装置を構造物等に設ける振動抑制の具体例としては,地盤とその上の人工地盤とに,ゴム積層構造,オイルダンパー,履歴ダンパー等の振動減衰装置を多数取り付けていた。」

(1b)「【0011】
【実施例】以下,本発明の制振人工地盤の第一実施例を図1ないし図5を参照して説明する。この制振人工地盤1では,図1及び図2に示すように,地盤2に上方向に開放されたくぼみ部3が設けられ,このくぼみ部3の対向する一組の両側壁4に支持台6が設置されている。これら支持台6に複数の振動減衰体8が一列に固定され,これら振動減衰体8上に,例えば桁等の土木構造物からなる人工地盤10が載置されている。この人工地盤10と地盤2上に設置された支持台6とに,人工地盤10の一軸線回りの回転(実施例では鉛直軸回りの回転)を自在にする回転支持部材11が取り付けられている。この回転支持部材11は,図1に示すように,地盤2に設置された一方の支持台6に取り付けられ,一列に配置された振動減衰体8の最後部に取り付けられている。」

(1c)「【0016】このような制振人工地盤1によれば,複数の振動減衰体8上に人工地盤10が載置されているため,地盤2の振動を人工地盤10に直接伝えることなく,地盤2の振動を減衰して人工地盤10に伝えることができる。そして,人工地盤10が振動減衰体8に載置されているため,人工地盤10と振動減衰体8とにねじり回転が伝わるのを防ぎ,振動減衰体8がひきちぎれたり,支持台6が破壊されたりするのを防止することができる。このため,地震時に振動減衰体8と人工地盤10とに作用する相対変形を小さくすることができ,人工地盤10が落下するのを防ぐことができ,人工地盤10の安全性,特にねじり回転に対する安全性を高めるとともに,振動減衰体8と人工地盤10との構造上の安定性を保つことができる。また,粘弾性ダンパー18が人工地盤10の中心部に取り付けられているため,振動減衰体8とともに,水平方向及び上下方向の振動を吸収することができる。」

(1d)「【0018】以下,本発明の制振人工地盤の第二実施例を図6ないし図9を参照して説明する。ここで,第一実施例と同様のものについては同一の符号を用い説明を簡略化する。この制振人工地盤23では,図6に示すように,地盤2に上方向に開放されたくぼみ部3が設けられ,このくぼみ部3の対向する一組の両側壁4・5に支持台6,6が設置されている。これら支持台6に載置部24がそれぞれ設けられている。これら載置部24は,断面L字状に形成されるとともに,平面コ字型に形成され,それぞれ対向して形成されている。これら載置部24に複数の振動減衰体8が立てられて状態で,水平方向に一列に並べられている。これら振動減衰体8上に例えば平面H型形状をなす大梁等の土木構造物からなる人工地盤25の両端部が載置されている。この土木構造物からなる人工地盤25の外周面に対向する載置部24の側壁26に,弾性体27が取り付けられている。これら弾性体27は人工地盤25の外周面に向けて固定され,土木構造物からなる人工地盤25の外周面を覆っている。これら土木構造物からなる人工地盤25と弾性体27との間に,人工地盤25の外周面を覆う間隙28が設けられている。
【0019】この土木構造物からなる人工地盤25上には,図7に示すように,上下面に振動減衰体8が例えばH型状の位置に複数配列されている。これら振動減衰体8では,第一実施例と同様に,弾性体16aと金属板16bとが交互に積み重ねられ,内部に円柱状鉛プラグが挿入されて構成されている。これら振動減衰体8上に例えば建築構造物からなる人工地盤29が載置されている。この建築構造物からなる人工地盤29の中心部に回転支持部材30が取り付けられ,この回転支持部材30は土木構造物からなる人工地盤25と建築構造物からなる人工地盤29との間に取り付けられている。」

(1e)「【0032】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように,本発明の制振人工地盤によれば,以下のような効果を奏することができる。
【0033】請求項1記載の制振人工地盤によれば,複数の振動減衰体上に人工地盤が載置されているため,地盤の振動を人工地盤に直接伝えることなく,地盤の振動を減衰して人工地盤に伝えることができる。この人工地盤が載置状態にあるため,振動減衰体にねじり回転が伝わるのを防ぎ,振動減衰体がひきちぎれたりするのを防止することができる。このため,地震時に人工地盤に作用する相対変形を小さくすることができ,人工地盤が落下するのを防ぐことができ,人工地盤の安全性,特にねじり回転に対する安全性を高めるとともに,人工地盤の構造上の安定性を保つことができる。また,人工地盤を一軸線回りの回転を自在にする回転支持部材が地盤と人工地盤とに取り付けられているため,地盤にねじれの回転がかかった場合,人工地盤が回転支持部材を中心に回転される。この回転支持部材により,地盤から人工地盤にかかるねじれの回転に対応することができ,人工地盤が落下されるのが防止される。」

(1f)記載事項(1a)の「各種建築構造物や土木構造物等が設置される人工地盤における,特に地震時の制振対策として採用された場合に好適な制振人工地盤に関する」との記載から,甲第1号証には地震時の制振対策工法が記載されているといえる。

(1g)記載事項(1b)を参照して,図1,2をみると,桁等の土木構造物からなる人工地盤10は厚みのある矩形の板状の形状であることがみてとれ,「桁等の土木構造物からなる人工地盤10」の例示として「厚みのある矩形の板状の形状である人工地盤」が記載されているといえる。

(1h)記載事項(1d)の「【0018】以下,本発明の制振人工地盤の第二実施例を図6ないし図9を参照して説明する。ここで,第一実施例と同様のものについては同一の符号を用い説明を簡略化する。」という記載から,第二実施例も第一実施例の記載事項(1c)「水平方向及び上下方向の振動を吸収することができる。」という作用を奏するといえる。

(1i)「土木構造物からなる人工地盤25」と「建築構造物からなる人工地盤29」は,両者とも「人工地盤」という文言を用いているため整理して「土木構造物からなる人工地盤25」を「人工地盤」とし,「建築構造物からなる人工地盤29」を「建築構造物」とすると,第6図には,人工地盤には,上下面に振動減衰体が複数配列され,上面の振動減衰体上に建築構造物が載置されていることがみてとれる。

そうすると,上記記載事項(1a)?(1i)及び第1,2図及び第6,7図からみて,甲第1号証には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「地盤に上方向に開放されたくぼみ部が設けられ,このくぼみ部の対向する一組の両側壁に支持台が設置され,これら支持台に載置部がそれぞれ設けられ,これら載置部は,断面L字状に形成されるとともに,平面コ字型に形成され,それぞれ対向して形成され,これら載置部に複数の振動減衰体が立てられた状態で,水平方向に一列に並べられ,これら振動減衰体上に平面H型形状をなす大梁等の人工地盤の両端部が載置されていて,この人工地盤には,上下面に振動減衰体が複数配列され,上面の振動減衰体上に建築構造物が載置されていて,複数の振動減衰体上に人工地盤が載置されているため,水平方向及び上下方向の振動を吸収することができ,地盤の振動を人工地盤に直接伝えることなく,地盤の振動を減衰して人工地盤に伝えることができる地震時の制振対策工法。」

(2) 甲第2号証の記載事項
本件の出願前に頒布された甲第2号証には,次の事項が記載されている。
(2a)「尚,人工地盤31と建築物1の重量比を2:1にすると,人工地盤31の如何なる箇所に建築物1を建築しようが免震支持上影響はなく,建築物1が一般住宅の場合,人工地盤31としてプレストレストコンクリート製構造板を用いると,人工地盤31と建築物1の重量比を2:1にとりやすい。」(第4頁右上欄第9行?15行)

(2b)「また,免震支持装置の構成は実施例の構成に限定されず任意であり,例えば,ハイダンピング積層ゴムにより,或いは,積層ゴムと鋼棒ヒステリシスダンパーの組み合せにより,或いは,積層ゴムとオイルシリンダーの組み合せにより,或いは,ボールベアリングとコイルバネと粘性剪断ダンパーの組み合せにより構成してもよい。」(第5頁左上欄第1行?7行)

3-1 無効理由(1)についての判断
上記「第5 1」及び「第5 2」に記載したとおり,本件特許は,特許法第36条第6項第2号及び旧第36条第4項に規定する要件を満たしているとはいえないものであるが,仮に本件特許明細書の発明の詳細な説明が,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり,本件特許発明が明確であるとして,請求人が主張する無効理由(1),(2)についても検討する。
本件特許許発明は,上記「第3 本件特許発明」で認定したとおりのものである。

本件特許発明と甲1発明を対比すると,以下のとおりである。
甲1発明の「人工地盤」はその上下面に振動減衰体が複数配列され,上面の振動減衰体上に建築構造物が載置されており,一方,本件特許発明の「テーブル」はその上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地を配置していることから,両者は共にその上部に構造物を配置しているものであるので,甲1発明の「人工地盤」は,本件特許発明の「テーブル」に相当する。
甲1発明の「地盤に」「人工地盤の両端部が載置」された構成が,本件特許発明の「テーブルを地盤上に設置」した構成に相当する。
次に,甲1発明の「建築構造物」は,本件特許発明の「立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地」に,甲1発明の「人工地盤上には,」「建築構造物が載置」される構成は,本件特許発明の「テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地を配置する」構成にそれぞれ相当する。
そして,甲1発明において,地盤の上方向に支持台を設置し振動減衰体を立てて人工地盤を載置しているが,当該支持台は地盤と一体となって人工地盤を載置する機能のものと解されるので,「地盤に上方向に開放されたくぼみ部が設けられ,このくぼみ部の対向する一組の両側壁に支持台が設置され,これら支持台に載置部がそれぞれ設けられ,これら載置部は,断面L字状に形成されるとともに,平面コ字型に形成され,それぞれ対向して形成され,これら載置部に複数の振動減衰体が立てられた状態で,水平方向に一列に並べられ,これら振動減衰体上に厚みのある矩形の板状の形状である桁等の土木構造物からなる人工地盤の両端部が載置」されることは,本件特許発明の「テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け」ることに相当する。
また,甲1発明の「地盤の振動を人工地盤に直接伝えることなく,地盤の振動を減衰して人工地盤に伝える」ことが,本件特許発明の「テーブルが既存の地盤との関連を断」つことに相当する。
さらに,甲1発明の「地震時の制振対策工法」と本件特許発明の「地盤強化工法」とは,地盤の振動から建築構造物等を保護しているので,制振対策工法で共通する。

以上より,両者は以下の点で一致している。
(一致点)
「テーブルを地盤上に設置し,前記テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地を配置する制振対策工法であって,前記テーブルと地盤の中間に介在する緩衝材を設け,前記テーブルが既存の地盤との関連を断つようにした制振対策工法。」

そして,以下の点で一応相違している。
(相違点1)
地盤上に設置するテーブルが,本件特許発明では鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブルであるのに対し,甲1発明では,平面H型形状をなす大梁等の人工地盤である点。

(相違点2)
本件特許発明では,テーブルが既存の地盤との関連を断って,地盤に起因する欠点に対応するようにしたのに対し,甲1発明では,人工地盤は,地盤の振動を直接伝えることなく,地盤の振動を減衰して伝える点。

(相違点3)
制振対策工法が,本件特許発明は「地盤強化工法」であるのに対し,甲1発明では「地震時の制振対策工法」である点。

そこで,これらの相違点について検討する。
(相違点1について)
本件特許発明では「テーブル」の用語が使用されており,「テーブル」は「扁平な板に四脚ないし中央に一脚をもつ洋家具の総称。卓。食卓。洋卓。」(広辞苑第三版1644頁,1990年1月8日第三版第八刷発行)を意味するものであるが,「脚をもつ」ことや「卓(高い台を意図して使用される)」は,本件特許発明の地盤強化工法になじむものではない。そこで,一応本件特許発明の「テーブル」は「卓」のようにその上に物体を載せる物を意味するものとして検討を進める。
甲第1号証の人工地盤は,その上部に建築構造物を載せる機能において,テーブルに相当するものである。さらに,甲1発明の「大梁」は,その代表的態様として鉄骨があげられるものであり,構造材であることが自明であるので,甲1発明の「平面H型形状をなす大梁等の人工地盤」の形状が「平面H型形状」のものであっても,その構成及び機能において,本件特許発明の「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブル」に相当するものであり,本件特許発明の「鉄骨などの構造材で強化,形成されたテーブル」と,甲1発明の「平面H型形状をなす大梁等の人工地盤」は表現上の差異が存在するに過ぎず,相違点1は実質的な相違点ではない。

(相違点2について)
甲1発明では,地盤の振動を減衰して人工地盤に伝えるのに対し,本件特許の発明の詳細な説明の【0005】,【0015】段落において「地盤に起因する欠点」として「地震,地崩れ,局所的な液状化」が例示されていて,本件特許発明はこれらの例示に対応するものであるから,本件特許発明の「テーブルが既存の地盤との関連を断って地盤に起因する欠点に対応するようにしたこと」は,上記のような地盤の振動に対応するようにしたと理解されるものであって,技術的に甲1発明の「地盤の振動を減衰して人工地盤に伝える」ことと同じことと解される。そうすると,相違点2は実質的な相違点とはいえない。

(相違点3について)
甲1発明の「地震時の制振対策工法」は,「水平方向及び上下方向の振動を吸収することができ,地盤の振動を人工地盤に直接伝えることなく,地盤の振動を減衰して人工地盤に伝えることができる」ものであり,一方,本件特許発明の「地盤強化工法」も,本件特許明細書の【0005】段落の「【作用】上記構成の地盤強化工法によれば,鉄骨などの構造材で強化され,テーブルを地盤上に形成し,前記テーブルの上部に,建築物や道路,橋,などの構造物,または,人工造成地を配置するようにしたので,テーブルが既存の地盤の関連を絶って,用地固有の欠点を解消することによって,地層,地形,地質,人工造成地に起因する地震,地崩れ,局所的な液状化から都市,街区,埋立地を改善できる。」ものである。そうすると,両者は地震時における役割に差違はないから,その限りにおいて,甲1発明の「地震時の制振対策工法」と,本件特許発明の「地盤強化工法」とは実質的な相違点とはいえない。

(被請求人の主張に対して)
なお,被請求人は,平成26年3月27日差出の上申書に添付した補充書において「甲第1号証の図6で示されている人工地盤と振動減衰装置では,本件特許発明の特徴である地盤の欠点に対応することや,都市,街区を保護するという作用効果と同等の作用効果を得ることは不可能です。甲第1号証の発明,特に図6は引用発明としての適格性はないと考えます。仮にこれが認められるとしても,図6によって当業者が観念する人工地盤と振動減衰装置を実施するためになされる設計や構造では,本件発明と同等の地盤の欠点に対応して都市,街区を保護する強度に達することはありません。」(第1頁第13行?第19行)と主張しているが、本件特許発明はテーブル上に都市,街区を配置した構成に限定されるものではなく,特許請求の範囲の請求項には「テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,・・・を配置する」と記載されているように,テーブル上に建築物等の構造物を配置した構成も含んでいるものであって,そのような場合のテーブルは都市,街区を保護するまでの強度を要求されていないと解するのが相当である。そうすると,本件特許発明のテーブルが都市,街区を保護する強度であることを前提とする被請求人の主張は特許請求の範囲の請求項の記載に基づくものではないので,この主張は認められない。

また,被請求人は,平成26年8月6日付け上申書において「同じ技術分野で同じ名称の技術要素であっても,上記2のベクトル(目的,備えるべき作用効果)が異なれば全く相違する技術になります。
当該発明が,どのようなベクトルで,どのような進化系統に属するのかを無視するのは,発明の本質を見誤る原因となります。」、
「本件特許発明は出願時における既存の『人工地盤』とは異なるものとして『テーブル』としましたし,『免震装置』の欠点を解決するものとして『緩衝材』としています。単に局所的に地震動に対応するのではなく地盤に起因する欠点に対応することを目的としています。そのことによって構造的に多様で複雑な施設を包摂して保護することができ,道路,橋,建築物によって構成される都市,街区,複雑な構造をもつ建築物,古い様式のもので老朽化し構造力学的に多様性のあるもの,新築であっても同区画に複数棟を建築する例,こうした条件を受容するものとしての『街区』,これらを地盤の欠点から保護することを目的とし,それに必要な作用効果を備える構成とすべく,現地に合わせて『テーブル』を平面,階段状,斜面等の形状にし,上置される構造物に合わせて鉄骨などの構造材で強化形成するとしています。」とも主張しているが,既存の「人工地盤」及び「免震装置」とは,単に表現上の差異に過ぎず,その用語の意味において格別の相違はない。

したがって,甲1発明と本件特許発明とは実質的な相違点がなく,本件特許発明は甲1発明と同一,すなわち,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法旧第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。

3-2 無効理由(2)についての判断
本件特許発明と甲1発明を対比すると,上記「2-3 無効理由(1)」に記載のとおり,上記(一致点)において一致し,上記(相違点1)ないし(相違点3)も実質的な相違点ではないが,仮に,以下の点で相違しているものとして検討する。

(相違点1’)
地盤上に設置するテーブルが,本件特許発明では鉄骨などの構造材で強化,形成された「扁平な板状」のテーブルであるのに対し,甲1発明では,平面H型形状をなす大梁等の人工地盤である点。

そこで,この相違点について検討する。

(相違点1’について)
甲第1号証の記載事項(1g)の「厚みのある矩形の板状の形状である人工地盤」の形状は扁平な板状であってテーブル形状ということができるものであり,それは,甲1発明の「平面H型形状をなす大梁等の人工地盤」の例として,もしくは対応するものとして甲第1号証に記載されたものであるので,甲1発明の人工地盤の形状として該例示のものを採用することは当業者にとって容易なことである。
また,記載事項(1b)や(1g)には,「桁等の土木構造物からなる人工地盤10」と記載されており,一般に桁は通常鉄骨を用いて構成されていて構造を強化するものであり,甲1発明の人工地盤は十分な強度を要求されたものとして理解されるものであるところ,上記矩形の板状の形状である人工地盤にあっても必要な強度を有するものであって「構造材で」,「形成された」ものと解するのが通常である。
そして,記載事項(1d)には「これら振動減衰体8上に例えば平面H型形状をなす大梁等の土木構造物からなる人工地盤25の両端部が載置されている。」と記載されており,「例えば平面H型形状をなす大梁等の」「人工地盤」として大梁を例示しているが,例示である以上,甲1発明において,記載事項(1g)の「厚みのある矩形の板状の形状である人工地盤」を採用して,本件特許発明の相違点1’に係る構成をすることは当業者が容易に想到し得たことである。
なお,本願特許発明のテーブルが鉄骨などの構造材で強化して,形成されたものであるとしても,建築分野において桁等の構造材による板材の補強が常套手段ともいえるものである以上,そのようにすることも,当業者が容易に想到し得たことである。

また,本件特許発明の作用効果は,甲1発明及び甲第1号証に記載の技術事項から当業者が容易に予測し得る程度のことである。
したがって,本件特許発明は,甲1発明及び甲第1号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(被請求人の主張に対して)
以下,被請求人の主張について,念のため判断を続ける。
被請求人は,「テーブルの上部に建築物や道路,橋などの構造物または人工造成地を配置する」ものである旨主張する。
仮に,上記「3-1」では,甲1発明の「人工地盤上には,」「建築構造物が載置」されることが,本件特許発明の「テーブルの上部に,立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地を配置する」に相当するとしたが,本件特許発明が,「立設された建築物」以外に道路や橋等の土木構造物や人工造成地も配置可能なものであり,その点が相違点アであるとして,以下に検討する。

(相違点ア)
テーブルの上部に,本件特許発明は「立設された建築物や道路,橋などの構造物,または,人工造成地」を配置しているのに対し,甲1発明は「建築構造物」が載置される点。

(相違点アについて)
甲第1号証では,記載事項(1a)に「本発明は,各種建築構造物や土木構造物等が設置される人工地盤」と記載されているように,道路,橋などの土木構造物も対象とすることを想定しているといえるから,甲1発明の「建築構造物」に加えて土木構造物も対象とすると,建築構造物と土木構造物の集合体となり,また,それらの構造物を構築するための土地として人工造成地も必要とされることから,甲1発明の「建築構造物」に加えて甲第1号証記載の土木構造物や人工造成地も対象として,本件特許発明の相違点アの構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

また,被請求人は,本件特許発明が「都市,街区を保護する」ものであると答弁書等で主張しているが,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,その前提において失当である。
本件特許発明が「都市,街区を保護する」ものであると限定して解釈するものであるとしても,上記「(相違点アについて)」で判断したように,建築構造物と土木構造物の集合体によって都市,街区を形成するものといえるから,甲1発明の「建築構造物」に加えて甲第1号証記載の土木構造物や人工造成地も対象として,都市,街区を保護するようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本件特許発明の作用効果は、甲1発明及び甲第1号証に記載の技術事項から当業者が容易に予測し得る程度のことである。
したがって,本件特許発明を,被請求人の主張のように理解したとしても,本件特許発明は,甲1発明及び甲第1号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


第6 むすび
以上のとおり,本件特許の請求項1の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,本件特許は同法旧第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。
また,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していないから,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず,本件特許は同法旧第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。
さらに,本件特許発明は,特許法旧第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第64条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-24 
結審通知日 2015-03-26 
審決日 2015-04-08 
出願番号 特願平7-237509
審決分類 P 1 113・ 841- ZB (E02D)
P 1 113・ 536- ZB (E02D)
P 1 113・ 113- ZB (E02D)
P 1 113・ 537- ZB (E02D)
P 1 113・ 121- ZB (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柴田 和雄  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 中川 真一
住田 秀弘
登録日 2006-04-21 
登録番号 特許第3793777号(P3793777)
発明の名称 地盤強化工法  
代理人 吉村 俊信  
代理人 市東 禮次郎  
代理人 吉村 俊信  
代理人 市東 篤  

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