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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 発明同一  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1315665
異議申立番号 異議2016-700263  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-30 
確定日 2016-06-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第5786042号発明「ボンディングワイヤ及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5786042号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5786042号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は,平成25年1月16日に特許出願(国内優先権の優先日:平成24年1月25日)され,平成27年7月31日に特許の設定登録がされ,その後,その特許について,特許異議申立人田中電子工業株式会社により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1ないし6」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
(1)特許異議申立人は,下記(2)の証拠方法を提出し,(1)本件発明1ないし6は,甲第1号証に記載された発明と実質同一であり,本件特許の請求項1ないし6に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり,(2)本件発明1ないし6は,甲第2号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許の請求項1ないし6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,(3)本件特許の明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1ないし6の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,本件特許の請求項1ないし6に係る特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。
(2)証拠方法
甲第1号証:特願2011-42560号(特許第4860004号公報)
甲第2号証:特開2010-199528号公報
甲第3号証:国際公開第02/23618号
甲第4号証:日本塑性加工学会編,「塑性加工技術シリーズ6 引抜き加工-基礎から先端技術まで-」,コロナ社,1990年10月25日,p.74,75,201-202写し
甲第5号証:稲数,山本,”銅線材の2次線引加工集合組織について”,日本金属学会誌,1983,第47巻,第3号,p.266-272
甲第6号証:Jae-Hyung CHO,外5名,"Investigation of Recrystallization and Grain Growth of Copper and Gold Bonding Wires",METALLURGICAL ANS MATERIALS TRANSACTIONS A,Vol.37A,October 2006,p.3085-3097
甲第7号証:稲数直次著,「金属引抜 加工と繊維組織」,近代編集社,昭和60年7月1日,p.308-311

第4 甲号証の記載
1 甲第1号証の記載及び甲1発明
(1)甲第1号証は,本件特許についての出願の優先日前の出願であって,次のとおりの記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。)
ア「【技術分野】
【0001】
この発明は,IC,LSI,トランジスタ等の集積回路素子上の電極と,リードフレーム,セラミック基板,プリント基板等の回路配線基板の導体配線とをボールボンディング法によって接続するためのボンディングワイヤ及びその製造方法に関するものである。」
イ「【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を達成するために,この発明は,ボンディングワイヤWの線径Lを,50.8μm以下とし,純度99.99質量%以上の銅からなる芯材1の外周全面に,Pdによる厚みt2:0.01?0.09μmの被覆層2を形成したものとしたのである。」
ウ「【0023】
上記被覆層2は,電解メッキ,無電解メッキ,蒸着法等の周知の手段によって形成され,一般に,ワイヤWは大きな線径の銅ロッドをダイスと呼ばれるツールに順次貫通させていくことにより,所定の線径に仕上げられるため,この工程途中の適宜な線径で被覆層2を上記手段により形成する。このとき,被覆する際の芯材1の線径は作業性・コストにより決定されるが,製造装置の制限から0.2?0.8mmが一般的である。外周全面にPdを被覆された被覆線は200?500℃で拡散熱処理を施して前記芯材1と被覆層2の密着性を高めた後,線径50.8μm以下まで伸線することで,被覆層2の厚みt20.01?0.09μmとすることができる。その後,ワイヤWに調質熱処理を施す。
【0024】
その調質熱処理は,所定の線径まで伸線を行いリールに巻きとられたワイヤWを,巻き戻して管状の熱処理炉中に走行させ,再び巻き取りリールで巻き取ることによって連続熱処理を行う。管状の熱処理炉中には窒素ガスもしくは窒素に微量の水素を混合させたガスを流す。また,その炉温度は400℃以上800℃以下として,走行速度は30?90m/分で熱処理を行う。
【0025】
この調質熱処理において,後記の実施例と比較例の対比から,ワイヤWの室温(20?25℃)での引張試験による引張強さTSRと250℃での引張試験による引張強さTSHの比HR(TSH/TSR×100)が50?70%となるように調整することが好ましい。
通常,HRを50%未満にするには,室温での引張強さTSRを高くする必要があるため,低温もしくは短時間で調質熱処理を行う。この場合,低温,短時間であることから,ワイヤWの銅の結晶組織は加工ひずみが残る微細組織となる。一方,上記図3(h)の放電棒gの放電によってそのワイヤWにボールbを形成する際,そのボールbからキャピラリー10aに向かってある長さのワイヤWは,溶融したのち再結晶した結晶組織の粗大化した熱影響部(図5のe参照)が生じる。このため,そのボールbから所要距離に結晶組織の境界ができる。この結晶組織の境界がループの途中にあるとその部分に亀裂が生じたり,場合によっては破断したりする不具合の原因となるため,ワイヤを高いループ形状(ループ高さ)でボンディングすることができなくなる。
また,HRが70%を超えるようにするためには,室温での引張強さTSRを低くする必要があるため,高温もしくは長時間で調質熱処理を行う。この場合,高温,長時間であることから,ワイヤWの銅の結晶組織が粗大化して脆弱となり,ボンディング時のくせ付けする(わん曲)部分で結晶粒界から亀裂が生成したり破断したりする不具合の原因となる。
以上から,この発明によるワイヤWのHRを50?70%とすれば,後記実施例と比較例の対比から,微細組織と粗大化した再結晶組織の境界が発生しないため,ループの途中で亀裂が生じることがなく,また,ワイヤWの結晶組織が粗大化していないため,くせ付けのときに結晶粒界から亀裂が生じることもない,と考える。このため,ワイヤWに亀裂が発生することなく,フレキシブルにくせ付けが可能になる。」
エ「【0048】
さらに,HRが50%未満では,そのHR:45%(比較例4)を示す図2(b)の写真に示すように,銅の結晶組織は加工ひずみが残る繊維組織(軟化が少ない結晶組織)となり,上記図3(h)の放電棒gによってそのワイヤWにボールbの形成する際,銅の結晶組織が粗大化し(図2(c)参照),上記結晶組織の境界ができるため,ループ形状に亀裂の問題が生じ(比較例4,5),同70%を超えると,そのHR:71%(比較例3)を示す図2(c)の写真のように,銅の結晶組織が粗大化し(過軟化結晶組織となり),ループが高い場合,ループ形状に亀裂の問題が生じ(比較例2,3,9),ループが低い場合でも,連続ボンディング性に支障が生じる恐れがある(比較例8,10)。
これに対し,HRが50?70%であると,そのHR:65%(実施例9)を示す図2(a)の写真に示すように,良好な再結晶組織となって,繊維組織と粗大化した二次再結晶組織の境界が発生し難いため,くせ付けのときに結晶粒界から亀裂が生じることもなかった(実施例1?15,比較例1,6,7)。」
オ 図2aないし図2cには,それぞれワイヤWの室温(20?25℃)での引張試験による引張強さTSRと250℃での引張試験による引張強さTSHの比HR(TSH/TSR×100)が,50?70%,50%未満,及び70%を超える場合のボンディングワイヤ表面結晶組織の顕微鏡写真図が示されている。
(2)前記(1)より,甲第1号証には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ボンディングワイヤであって,純度99.99質量%以上の銅からなる芯材の外周全面に,Pdによる被覆層を形成したボンディングワイヤ。」
2 甲第2号証の記載と甲2発明
(1)甲第2号証
甲第2号証には,次のとおりの記載がある。
ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
集積回路素子の電極(a)と回路配線基板の導体配線(c)をボールボンディング法によって接続するための線径(L)12μm以上50.8μm以下のボンディングワイヤ(P)であって,芯材(1)が純度99.99質量%以上の銅からなり,その芯材(1)の外周全面に,金,白金,パラジウム,銀の1種以上による厚み(t)0.02?0.09μmの被覆層(2)を形成したことを特徴とするボンディングワイヤ。
・・・
【請求項6】
集積回路素子の電極(a)と回路配線基板の導体配線(c)をボールボンディング法によって接続するための請求項1?4の何れか1つに記載のボンディングワイヤ(P)の製造方法であって,純度99.99質量%以上の銅からなる芯材(1)の外周全面に,金,白金,パラジウム,銀の1種以上による被覆層(2)を形成し,その被覆線を拡散熱処理して前記芯材(1)と被覆層(2)の密着性を高めた後,線径(L)12μm以上50.8μm以下まで伸線し,さらに,引張伸びが8%以上となるように調質熱処理を行ったことを特徴とするボンディングワイヤの製造方法。」
イ「【0022】
さらに,被覆層2は,電解メッキ,無電解メッキ,蒸着法等の周知の手段によって形成され,一般に,ワイヤPは大きな線径の銅ロッドをダイスと呼ばれるツールに順次貫通させていくことにより,所定の線径に仕上げられるため,この工程途中の適宜な線径で被覆層2を上記手段により形成する。このとき,被覆する際の芯材1の線径は作業性・コスト
により決定されるが,製造装置の制限から0.2?0.8mmが一般的である。外周全面にパラジウム等の金属を被覆された被覆線は200?500℃(被覆線の温度)で拡散熱処理を施して前記芯材1と被覆層2の密着性を高めた後,線径12μm以上50.8μm以下まで伸線し,さらに,引張伸びが8%以上となるように調質熱処理を行って,被覆層2の厚みt0.02?0.09μmとすることができる。
引張伸びを8%以上とするのは,ステッチボンド接合性を上げ,より安定したボンディング性を得るためである。
このとき,被覆層がパラジウムから成れば,芯材の銅純度を99.999質量%以上とし,その被覆層の厚みtを0.05?0.09μmとすることができる。
・・・
【0025】
表1に示す実施例1?45及び比較例1?13を製作し,そのボンディングワイヤPの1st接合部のSiチップ(電極a)の損傷度合,及び連続ボンディング性の試験を行った。
すなわち,まず,銅純度99.99質量%の純銅(表1中:4N)と銅純度99.999質量%の純銅(表1中:5N)の0.2?0.8mm径の銅線を用意し,その銅線に,Au,Pd,Pt及びAgの貴金属を電解メッキ法によって被覆し,その被覆線を巻き戻し,焼鈍炉を通したのち,再び巻き取り用リールで巻き取ることによって連続拡散熱処理を行った。焼鈍炉は炉長1mの炉芯管を有する電気炉を用い,炉芯管には窒素ガスを流した。その炉温度は500℃以上800℃以下として被覆線の温度を200?500℃とし,その被覆線の走行速度は5?60m/分とした。以上の拡散熱処理を施して銅線(芯材)1と被覆層2の密着性を高めた後,線径15?50.8μmまで伸線し,さらに,引張伸びが8%以上となるように調質熱処理を行って,被覆層2の厚みt:0.001?0.112μmのボンディングワイヤP(実施例1?45及び比較例1?13)を得た。表1中,2種の貴金属を示す例は,その2種の金属を同一厚で2重被覆したものである。」
(2)甲2発明
前記(1)より,甲第2号証には次の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「ボンディングワイヤであって,芯材が純度99.99質量%以上の銅からなり,その芯材の外周全面に,金,白金,パラジウム,銀の1種以上による被覆層を形成し,伸線し,引張伸びが8%以上となるように調質熱処理を行ったことを特徴とするボンディングワイヤ。」
3 甲3号証の記載と甲3発明
(1)甲第3号証
甲第3号証には,次のとおりの記載がある。
ア「本発明の(7)?(11)に記載のボンディングワイヤにおいて,芯線または外周部に用いられる導電性金属とは,Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al,Ni,Fe元素などを溶媒とする金属またはその合金が望ましい。すなわち,上記元素の中から選定された2種類の元素から,芯線と外周部で異なる部材を構成することにより,前述した中間層複合ボンディングワイヤとしての効果を発現することができる。ここで,ワイヤ最表面での酸化を抑えるためには,外周部にAu,Pt,Pd,Ag,Alを用いることがより好ましい。さらにより好ましくは,半導体配線の電極部,リード側メッキ部への接合性をより向上するためには,外周部にAu,Pd,Ptを用いることが望ましい。一方,芯線に用いる部材では,強度,弾性率が高いことが望ましいため,Pd,Cu,Ni,Fe元素などがより好ましい。」(43頁12-23行)
イ「第二の方法は,ある線径まで細くしたワイヤを芯線材とし,そのワイヤ表面を覆うように異なる材料で外周部を作製した後に,拡散熱処理を施し,その後さらに伸線加工により最終線径まで細くする方法(以下,被覆法と呼ぶ)である。今回は,直径が約200?500μmのワイヤを予め準備し,そのワイヤ表面に蒸着,メッキなどにより0.1?30μmの厚さで外周部材を被覆し,線径60?100μmまでダイス伸線した後に,上述した加熱炉を用いて同様の拡散熱処理を施した。その拡散熱処理されたワイヤをさらに,ダイス伸線により,最終径の20?30μmまで伸線し,最後に,加工歪みを取り除き伸び値が4%程度になるように熱処理を施した。」(48頁8-17行)
ウ「10.導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と,前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる中層と,前記中層の第2の金属とは異なる導電性の金属またはその合金からなる外周部から構成され,さらにその芯線と中層との間,および中層と外周部との間には,拡散層または金属間化合物層の少なくとも1種以上を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。」(82頁請求項10)
(2)甲3発明
前記アより,甲第3号証には次の発明(以下,「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「ボンディングワイヤにおいて,芯線にCu,外周部にPdを用い,ワイヤ表面に外周部材を被覆し,ダイス伸線した後に拡散熱処理を施し,さらに,ダイス伸線し,最後に加工歪みを取り除き伸び値が4%程度になるように熱処理を施したボンディングワイヤ。」
4 甲4発明
甲第4号証には,次の発明(以下,「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「金属材料を引抜き加工すると繊維組織を形成すること。」
5 甲5発明
甲第5号証には,次の発明(以下,「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「一般に線材は連続鋳造で提供されるが,この段階では線材は結晶学的にほとんど不規則な方位分布を示し,この線材は伸線工程である優先方位を持つようになること。」
6 甲6発明
甲第6号証には,次の発明(以下,「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「銅ボンディングワイヤを,伸線工程における中間焼鈍及び最終焼鈍で製造し,中間及び最終焼鈍工程は,銅ボンディングワイヤを加工する上で最適な性質を微細構造及び組織に付与し,400℃で1分間の焼鈍で銅ワイヤの中心付近に伸張された結晶粒が,周辺部には等軸粒が成長すること。」
7 甲7発明
甲7号証には,次の発明(以下,「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「純アルミニウム線材を引抜加工後焼鈍し,その際の再結晶率は焼鈍時間軸で見るとまず外周部の再結晶率があがり,中心部が遅れて再結晶すること。」

第5 申立理由についての判断
1 特許法第29条の2
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,両者は
「銅を主成分とする芯材とパラジウム被覆層を有するボンディングワイヤ。」
である点で一致するが,
(相違点1)本件発明1は「ワイヤ表面近傍に結晶が再結晶化した粒形状の再結晶領域を有し,前記芯材の半径をRとしたとき,中心0.8R以内に,銅が軸方向に延在する繊維状組織を有する」のに対し,甲1発明においては「ワイヤ表面近傍に結晶が再結晶化した粒形状の再結晶領域を有し,前記芯材の半径をRとしたとき,中心0.8R以内に,銅が軸方向に延在する繊維状組織を有する」ことが開示されていない点,で相違する。
(2)相違点についての判断
前記第4の1(1)より,甲第1号証には,所定の線径まで伸線を行ったワイヤに調質熱処理を施す方法と,当該方法によって得られたボンディングワイヤ表面の結晶組織について記載されていると認められるにとどまり,上記の方法によって得られたボンディングワイヤ断面の結晶組織について記載されているとは認められない。
そして,甲4ないし甲7発明のような技術的事項が,本件特許の出願前,当該技術分野では技術常識といえる程度によく知られた事項であったとして,これらを参酌した場合でも,甲第1号証に記載された,所定の線径まで伸線を行ったワイヤに調質熱処理を施すとの方法によって,ワイヤ表面近傍に結晶が再結晶化した粒形状の再結晶領域を有し,ワイヤの芯材の半径をRとしたとき,中心0.8R以内に,銅が軸方向に延在する繊維状組織を有するボンディングワイヤが,常に得られるか否かは不明であり,上記ボンディングワイヤが甲第1号証に記載されているに等しいということもできない。
さらに,甲第1号証の記載より,本件発明1は,相違点1に係る構成を有することにより,ワイヤボンディングの際のボール形成時に,繊維状組織で熱エネルギを吸収し,ボールを速やかに冷却させ,パラジウム膜の溶解を抑制し,もって,ワイヤボンディング時における銅の露出を防止することができる(本件特許明細書段落0024-0026,0069)という作用効果を奏すると認められる。
そうすると,甲第1号証には,相違点1に係る構成が実質的に記載されているとは認められず,また,本件発明1は,相違点1に係る構成により格別の作用効果を奏するもので,相違点1が課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえないから,本件発明1と甲第1号証に記載の発明とは,相違点1で相違し,実質的に同一であるとは認められない。
なお,異議申立人は,「調質熱処理が本来伸線加工による加工組織(繊維組織)に由来する加工硬化などの機械的性質を一定程度維持して,伸び等の性質の調整を行うものであることから,ワイヤ内部組織は表面から進行する再結晶の領域と中心部に残存する繊維状組織とが存在するのであって,その結果,表面近傍は良好な再結晶組織となり,中心部は用途により要請される機械的性質を維持するに足る繊維状組織となる。」(異議申立書8頁)と主張する。
しかし,調質熱処理が,本来伸線加工による加工組織に由来する加工硬化などの機械的性質を一定程度維持して,伸び等の性質の調整を行うものであるということから,直ちに,調質熱処理によって,ワイヤの中心部に繊維状組織が存在するとまでは認められないから,異議申立人の上記の主張を採用することはできない。
(3)小括
したがって,本件発明1は甲第1号証に記載された発明と実質同一でなく,本件特許の請求項1に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。
(4)まとめ
同様に,本件発明1を引用して記載した本件発明2ないし6についても,甲1発明とは,少なくとも相違点1で相違し実質同一ではないから,本件特許の請求項1ないし6に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。
2 特許法第29条第2項について
(1)本件発明1と甲2発明との対比及び判断
ア 本件発明1と甲2発明とを対比すると,両者は,
「銅を主成分とする芯材とパラジウム被覆層を有するボンディングワイヤ。」
である点で一致するが,
(相違点1)本件発明1は「ワイヤ表面近傍に結晶が再結晶化した粒形状の再結晶領域を有し,前記芯材の半径をRとしたとき,中心0.8R以内に,銅が軸方向に延在する繊維状組織を有する」のに対し,甲2発明においては「ワイヤ表面近傍に結晶が再結晶化した粒形状の再結晶領域を有し,前記芯材の半径をRとしたとき,中心0.8R以内に,銅が軸方向に延在する繊維状組織を有する」ことが開示されていない点,で相違する。
イ そこで,相違点1について,以下検討する。
本件特許明細書の記載より,本件発明1は,「ボール形成時のパラジウム膜の溶解を抑制し,パラジウム被覆銅ボンディングワイヤで形成されるボールの形状の真球度を高め,水素を4?5vol%含有する窒素中の放電において形成されるボール表面の銅露出を抑制することができ,湿度が影響するHAST信頼性に良好なボンディングワイヤ及びその製造方法を提供する」(【0010】)との課題を,「ワイヤ表面近傍に結晶が再結晶化した粒形状の再結晶領域を有し,前記芯材の半径をRとしたとき,中心0.8R以内に,銅が軸方向に延在する繊維状組織を有する」との構成(相違点1に係る構成)を採用することで解決し,「パラジウム被覆銅ボンディングワイヤにおいては,ワイヤボンディング時における銅の露出を防止することができる」(【0069】)との作用効果を得たものと認められる。
他方,前記第4の2ないし7より,甲第2号証ないし甲第7号証には,本件発明1における前記の課題,課題解決手段である前記の構成,及び前記の作用効果について,記載又は示唆されているとは認められず,また,甲2発明に甲3ないし甲7発明を適用することについて,動機付けが存在するとも認められない。
さらに,甲2発明は,伸線し,引張伸びが8%以上となるように調質熱処理を行うものであるところ,甲4ないし甲7発明のような技術的事項が,本件特許に係る出願の優先日前,当該技術分野では技術常識といえる程度によく知られた事項であったとして,これらを参酌した場合でも,甲2発明において,ワイヤ表面近傍に結晶が再結晶化した粒形状の再結晶領域を有し,ワイヤの芯材の中心部に銅が軸方向に延在する繊維状組織を有するボンディングワイヤが,常に得られるか否かは不明であるから,相違点1に係る構成が,甲2発明において,当業者が適宜なし得たものであるということもできない。
そうすると,相違点1は,甲2発明において,甲3ないし甲7発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ したがって,本件発明1は,甲2発明並びに甲3発明ないし甲7発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
(2)本件発明1と甲3発明との対比及び判断
ア 本件発明1と甲3発明とを対比すると,両者は,
「銅を主成分とする芯材とパラジウム被覆層を有するボンディングワイヤ。」
である点で一致するが,
(相違点1)本件発明1は「ワイヤ表面近傍に結晶が再結晶化した粒形状の再結晶領域を有し,前記芯材の半径をRとしたとき,中心0.8R以内に,銅が軸方向に延在する繊維状組織を有する」のに対し,甲3発明においては「ワイヤ表面近傍に結晶が再結晶化した粒形状の再結晶領域を有し,前記芯材の半径をRとしたとき,中心0.8R以内に,銅が軸方向に延在する繊維状組織を有する」ことが開示されていない点,で相違する。
イ そこで,相違点1について,以下検討する。
本件特許明細書の記載より,本件発明1は,「ボール形成時のパラジウム膜の溶解を抑制し,パラジウム被覆銅ボンディングワイヤで形成されるボールの形状の真球度を高め,水素を4?5vol%含有する窒素中の放電において形成されるボール表面の銅露出を抑制することができ,湿度が影響するHAST信頼性に良好なボンディングワイヤ及びその製造方法を提供する」(【0010】)との課題を,「ワイヤ表面近傍に結晶が再結晶化した粒形状の再結晶領域を有し,前記芯材の半径をRとしたとき,中心0.8R以内に,銅が軸方向に延在する繊維状組織を有する」との構成(相違点1に係る構成)を採用することで解決し,「パラジウム被覆銅ボンディングワイヤにおいては,ワイヤボンディング時における銅の露出を防止することができる」(【0069】)との作用効果を得たものと認められる。
他方,前記第4の2及び4ないし7より,甲第2号証及び甲4号証ないし甲第7号証には,本件発明1における前記の課題,課題解決手段である前記の構成,及び前記の作用効果について,記載又は示唆されているとは認められず,また,甲3発明に甲2発明及び甲4号証ないし甲7号証を適用することについて,動機付けが存在するとも認められない。
さらに,甲3発明は,伸線し,伸び値が4%程度になるように熱処理を施すものであるところ,甲4ないし甲7発明のような技術的事項が,本件特許に係る出願の優先日前,当該技術分野では技術常識といえる程度によく知られた事項であったとして,これらを参酌した場合でも,甲3発明において,ワイヤ表面近傍に結晶が再結晶化した粒形状の再結晶領域を有し,ワイヤの芯材の中心部に銅が軸方向に延在する繊維状組織を有するボンディングワイヤが,常に得られるか否かは不明であるから,相違点1に係る構成が,甲3発明において,当業者が適宜なし得たものであるということもできない。
そうすると,相違点1は,甲3発明において,甲2及び甲4ないし甲7発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
ウ したがって,本件発明1は,甲3発明並びに甲2発明,甲4発明ないし甲7発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
(3)本件発明2ないし6について
本件発明1を引用して記載した本件発明2ないし6はいずれも,甲2発明又は甲3発明とは少なくとも相違点1で相違し,前記(1)及び(2)のとおり,甲2発明ないし甲7発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
(4)小括
したがって,本件特許の請求項1ないし6に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
3 特許法第36条第4項第1号について
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,以下のとおりの事項が記載されている。(下線は当審において付加した。)
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ボンディングワイヤ及びその製造方法に関し,特に,銅を主成分とする芯材と,パラジウム被覆層又はパラジウム及び金の被覆層を有するボンディングワイヤ,並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から,銅を主成分とする芯材をパラジウムで被覆したパラジウム被覆銅ボンディングワイヤが知られている(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
市場で使用されているパラジウム被覆銅ボンディングワイヤは,専ら窒素ガス雰囲気中でプラズマアークによって加熱され,溶融凝固して形成されるボールを半導体素子上のアルミニウムパッドへ超音波熱圧着し接合される。窒素ガス雰囲気中でボールを形成する場合には,銅芯材に脱酸剤となるリンを添加し,ボール形成時に銅が露出した場合の酸化を防止してボール表面の表面張力を維持し,溶融ボールを凝固まで真球に維持するような工夫がなされてきた。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0008】
窒素に4?5vol%の水素を含む混合ガス雰囲気中において,ワイヤ先端をプラズマアークで加熱する場合,水素を含まない100%窒素ガスと比較してプラズマ温度が高温になるため,パラジウムの融点が銅との合金化によって低下すると,パラジウム膜が熔解して銅ボール内部へ溶け込んだり,一部のパラジウム膜が熔解してボール表面に銅が露出したり,ボール表面に段差が生じたりといったボールの外観不良が発生し,接合性が悪化したり,銅のガルバニック腐食によってHAST信頼性が低下したりするものと推察された。
【0009】
また,かかるパラジウム膜のボール内部への溶解は,溶解時間が長いため,パラジウム膜の溶解が大きいことにも一因があると考えられた。かかるパラジウム膜の溶解は,ボールを形成してから速やかにボールが冷却され,ボンディングワイヤの元々の構造を維持することにより防ぐことができると考えられる。
【0010】
そこで,本発明は,ボール形成時のパラジウム膜の溶解を抑制し,パラジウム被覆銅ボンディングワイヤで形成されるボールの形状の真球度を高め,水素を4?5vol%含有する窒素中の放電において形成されるボール表面の銅露出を抑制することができ,湿度が影響するHAST信頼性に良好なボンディングワイヤ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため,本発明の一実施態様に係るボンディングワイヤは,銅を主成分とする芯材と,パラジウム被覆層又はパラジウム及び金の被覆層とを有するボンディングワイヤであって,前記芯材の中心に,銅が軸方向に延在する繊維状組織を有することを特徴とする。
【0012】
上記本発明のボンディングワイヤの製造方法は,連続鋳造により,前記芯材を生成する芯材生成工程と,前記芯材を所定の減面率まで減面するまでは,減面率10%以下のダイスを用いて伸線加工を行い,前記所定の減面率に減面後は,減面率が10%より大きいダイスを用いて伸線加工を行う第1の伸線工程と,
該第1の伸線工程により伸線加工された前記芯材の周囲にめっきして被覆銅線を形成するめっき工程と,
前記被覆銅線を所定の線径となるまで伸線加工する第2の伸線工程と,
を有することを特徴とする。
【0013】
また,前記第1の伸線工程と前記パラジウムめっき工程との間に,前記第1の伸線工程により伸線加工された前記芯材を,再結晶開始温度以上再結晶終了温度以下の温度で軟化熱処理する軟化熱処理工程を有することが好ましい。
【0014】
ここで,前記所定の減面率は,95.0?99.5%であることが好ましい。
【0015】
なお,前記第1の伸線工程は,前記芯材を供給する供給キャプスタンと前記芯材を巻き取る巻取キャプスタンとの間に1つのダイスを配置し,1つのダイスを用いて引き抜きを
行う伸線加工を繰り返すことにより行われることとしてもよい。 」
ウ 「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,図面を参照して,本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0019】
図1は,本発明の実施形態に係るボンディングワイヤの一例を示した断面構成図である。図1において,本実施形態に係るボンディングワイヤ15は,芯材10と,パラジウム膜13とを有する。芯材10は,銅を主成分として構成され,組織構造的には,繊維状組織11と,再結晶領域12とを有する。パラジウム膜13は,芯材10を被覆する金属膜である。つまり,本実施形態に係るボンディングワイヤ15は,銅を主成分とする芯材10の周囲を,パラジウム膜13で被覆した構造を有するパラジウム被覆銅ボンディングワイヤである。
【0020】
本実施形態に係るボンディングワイヤ15の製造方法の詳細は後述するが,本実施形態に係るボンディングワイヤ15は,99.99%以上の純度の銅に,添加元素を熔解して溶解鋳造し,得られた銅インゴットについて,ダイスを通して引抜き伸線加工を行う際,繊維状組織11を残留させることにより得られる。伸線加工後は,必要に応じて軟化熱処理を行って所定の線径とした後,各種の化学洗浄を施して線材表面に銅組織を露出させた後にパラジウムめっきを施し,必要に応じて金を更にめっきする。その後,再度伸線加工を加えて所定の線径まで縮径し,軟化熱処理を行う。その際,軟化温度を調整し,芯材中心に繊維状組織11が形成されたパラジウム被覆銅ボンディングワイヤを得ることができる。
【0021】
ここで,繊維状組織11とは,鋳造時の結晶が伸線方向に伸ばされて,その後の加熱によっても再結晶化や結晶粒の粗大化が顕著ではなく,繊維状に残留した金属組織のことを意味する。断面観察においては,図1に見られように,ワイヤ表面近傍の結晶が再結晶化して粒形状の再結晶領域12となっているのに対し,中心部分はワイヤ長手方向に伸張した繊維状組織11として容易に観察される。硬度測定を行うと,再結晶粒に比べて繊維状組織11の硬度は高く観察されるので,硬度測定によっても繊維状組織11の存在を確認することは可能である。
【0022】
繊維状組織は,芯材中0.5?90質量%存在することが好ましく,特に1?80質量%存在することが好ましく,特に4?50質量%存在することが好ましい。
【0023】
また,繊維状組織は,芯材の半径をRとしたとき,中心0.8R以内に存在することが好ましく,特に0.5R以内に存在することが好ましい。
【0024】
かかる繊維状組織11が中心に残留したボンディングワイヤ15は,ワイヤボンディングの際のボール形成時に,繊維状組織11で熱エネルギを吸収し,ボールを速やかに冷却させ,パラジウム膜13の溶解を抑制することができると考えられる。つまり,繊維状組織11は,再結晶化されていない粗い組織であるので,熱エネルギが加わることにより,再結晶化が起こり,加えられた熱エネルギを消費することができる。これにより,ボール形成の際におけるボール溶解時又は凝固時に,溶解温度の低下又は凝固時間の短縮を促し,パラジウム膜の溶解によるボール内部への溶け込みを抑制することができると考えられる。
【0025】
このように,本実施形態に係るボンディングワイヤ15においては,芯材10の内部に繊維状組織11を残留させることにより,ワイヤボンディング時に発生するボールの熱を素早く吸収し,ワイヤボンディングを良好に行うことができると考えられる。 」
エ 「【0028】
次に,図3乃至図9を用いて,本発明の実施形態に係るボンディングワイヤの製造方法について説明する。
【0029】
図3は,本発明の実施形態に係るボンディングワイヤの製造方法の芯材生成工程の一例を示した図である。図3(A)は,芯材生成工程に用いられる材料の一例を示した図であ
り,図3(B)は,連続鋳造の一例を示した図であり,図3(C)は,芯材生成工程により生成された芯材の一例を示した図である。
【0030】
図3(A)に示すように,金属生成工程において,例えば,芯材10の材料となる銅は,板状の銅板9として供給される。なお,添加物が必要な場合には,添加物の金属板も同様に用意する。
【0031】
図3(B)に示すように,芯材10の生成は,連続鋳造装置20を用いて行われる。連続鋳造装置20は,チャンバ21と,タンディッシュ22と,鋳型23と,ウォータージャケット24と,ローラ25とを備える。連続鋳造装置において,チャンバ21内に収容されたタンディッシュ22内で銅板9が溶解され,溶解した銅板9がウォータージャケット24を有する鋳型23を通り,ローラ25により引き出されて芯材10が生成される。なお,チャンバ21内は,例えば,窒素ガスで満たされてよい。また,銅板9の他,添加物もタンディッシュ22内で溶解供給されてよい。なお,タンディッシュ22に溶解した銅板9を供給する取鍋や,複数の役割を有するローラ25も,必要に応じて設けられてよい。
【0032】
図3(C)は,連続鋳造により生成された芯材10の一例を示しているが,鋳造直後の芯材10は,最終的なボンディングワイヤ15よりも遙かに太い線径を有しており,例えば数mmの線径を有する。
【0033】
図4は,本発明の実施形態に係るボンディングワイヤの製造方法の鋳造後伸線工程の一例を示した図である。鋳造後伸線工程においては,芯材10の伸線加工が行われ,芯材10が減面(縮径)される。図4に示すように,鋳造後伸線工程においては,一対のキャプスタン30,31と,1つのダイス40を用いて,芯材10の伸線が行われる。芯材10は数mmの太さを有し,ダイス40を挿通させるために要する力も大きいので,1つのダイス40のみをキャプスタン30,31間に設置し,十分な力を与えて伸線加工を行う。鋳造後伸線工程は,複数回繰り返され,芯材10を所定の線径にするまで行われる。例えば,鋳造後伸線工程で,芯材10は,1mm程度の線径とされてもよい。
【0034】
しかしながら,鋳造直後の芯材10を伸線加工する鋳造後伸線工程において,最初から大きな減面率で縮径を行うと,図1において説明した繊維状組織11が残存せずに,金属組織が伸び切ってしまうおそれがある。
【0035】
そこで,本実施形態に係るボンディングワイヤの製造方法においては,芯材10の累積減面率が所定の減面率に到達するまでは,減面率10%以下で伸線加工を行う。ここで,減面率は,(1)式で表される。なお,減面率は,縮径率と呼んでもよいし,リダクション率と呼んでもよい。
【0036】
【数1】(略)
減面率10%以下で伸線加工を継続する所定の減面率は,芯材10の中心に繊維状組織11が残存する適切な値に設定するが,これは,95.0?99.5%が好ましく,特に96%が好ましい。最初の鋳造直後の芯材10の直径が8mmの場合,直径1.6mmまで減面すると,96%に該当する。例えば,銅を主成分とする芯材10を,8mmから1.6mmまで減面した場合には,繊維状組織11が残存することが,発明者等の実験により確認されている。なお,この点の実施例については,後述する。
【0037】
図5は,本発明の実施形態に係るボンディングワイヤの製造方法の粗伸線工程の一例を示した図である。粗伸線工程においては,一対のキャプスタン32,33と,複数のダイス41?45を用いて伸線加工が行われる。粗伸線工程においては,鋳造後伸線工程よりも芯材10の直径が細くなっているので,引き抜き時に要する力も鋳造後伸線工程より小さくなり,複数のダイス41?45を用いて効率よく伸線加工を行うことが可能となる。かかる粗伸線工程により,芯材10は,数100μmレベルの芯材10に加工される。なお,粗伸線工程は,必要に応じて設けるようにしてよい。
【0038】
図6は,本発明の実施形態に係るボンディングワイヤの製造方法の軟化熱処理工程の一例を示した図である。軟化熱処理工程においては,ガイドローラ60,61を用いて,芯材10に円筒形のヒータ50を通過させる。これにより,芯材10の熱処理を行い,芯材10を軟化させ,ワイヤボンディング時にパッド等を損傷しない硬度に調整する。なお,軟化熱処理がなされた芯材10は,スプール70に巻き取られる。
【0039】
ここで,本実施形態に係るボンディングワイヤの製造方法においては,再結晶開始温度以上再結晶終了温度以下の温度で軟化熱処理工程が行われる。
【0040】
図7は,軟化熱処理工程において,伸線加工された金属線の加熱による破断強度と伸び率の変化と,再結晶開始温度及び再結晶終了温度について示した図である。
【0041】
図7において,横軸が温度,縦軸に金属線の破断強度と伸び率が示されているが,一般的に鋳造されたままの銅の芯材10を伸線加工すると,加工度とともに破断強度は上昇し,また伸び率は低下して次第に飽和するが,これを加熱すると,急激に伸び率が上昇しだす温度があり,これを再結晶開始温度(図7のA)と呼ぶ。また,伸び率が最大となる温度を,再結晶終了温度(図7のB)と呼ぶ。再結晶終了温度以上の温度で加熱すると,結晶は全体的に粗大化するのが一般的で,材料としては十分軟化した状態が得られることとなる。本実施形態に係るボンディングワイヤの製造方法においては,加熱温度を再結晶開始温度以上とすることにより,芯材10の再結晶は発生させるが,加熱温度を再結晶終了温度以下とすることにより,全径に亘る再結晶化は発生させない。これにより,芯材10の軟化は行うが,全面に亘る再結晶化は発生させず,一部を繊維状組織11として残留させている。
【0042】
図6に示したように,ヒータ50は,芯材10の外周面から加熱を行うので,芯材10の外側は再結晶化されて再結晶領域12となり,軸付近の中心は再結晶化されずに繊維状組織11が残存した構造となり,図1の構造と合致することが分かる。
【0043】
このように,本実施形態に係るボンディングワイヤの製造方法においては,再結晶開始温度以上再結晶終了温度以下の温度で軟化熱処理を行うことにより,芯材10を軟化させるとともに,繊維状組織11を中心に残存させた構造とすることができる。
【0044】
なお,軟化熱処理工程は,芯材10の硬度に問題が無い場合は行う必要が無く,必要に応じて行うようにしてよい。 」
オ 「【実施例】
【0054】
次に,本発明の実施例に係るボンディングワイヤ及びその製造方法を,比較例との比較において説明する。
【0055】
表1は,本発明の実施例1?11に係るボンディングワイヤ及びその製造方法と比較例1?11に係るボンディングワイヤ及びその製造方法の実施内容を示している。
【0056】
【表1】(当審注:下記カ参照)
表1に示すように,芯材全体の縮径率(減面率)が96%までは,実施例1?11に係るボンディングワイヤ及びその製造方法は,各ダイスの縮径率を7%又は10%に設定した。また,芯材全体の縮径率が96?99.9%の範囲では,各ダイスの縮径率を12%又は10%に設定した。
【0057】
一方,比較例1?11においては,芯材全体の縮径率が96%までは,各ダイスの縮径率を18%又は12%に設定した。また,芯材全体の縮径率が96?99.9%の範囲では,実施例1?11と同様に,各ダイスの縮径率を12%又は10%に設定した。つまり,実施例1?11と比較例1?11は,芯材全体の縮径率が96%までの各ダイスの縮径率が異なるように設定されている。
【0058】
また,実施例1?11及び比較例1?11において,芯材となる銅原料としては,市販の4N純度の無酸素銅または4N電気銅をさらに電解精製した6N純度の電気銅を用いた。リンは市販の15%リン銅地金を用いた。熱処理1(軟化熱処理)は,線径約1mmで,窒素雰囲気中で再結晶開始温度以上再結晶終了温度以下の温度で60分行った。なお,軟化熱処理は,実施した場合と実施しなかった場合があり,表1では,実施した場合を「実施」,実施しなかった場合を「不実施」として示している。めっき後は,所定の加工縮径率で最終線径まで伸線し,窒素ガス雰囲気中で伸び率をボンディングワイヤ用途が主となる9?10.5%と,バンプワイヤが主となる4?4.5%となるように焼鈍した。」
カ 発明の詳細な説明の「表1」には,実施例1ないし11及び比較例1ないし11について,芯材の銅純度,減面率96%までにおける縮径率,減面率99.9%までにおける縮径率,メッキ線径,Pbメッキ厚,Auメッキ厚及び最終線径の具体的数値が記載されている。
(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が,実施可能要件を満たすものであるか,否かについて
ア 前記(1)より本件特許明細書の発明の詳細な説明によると,本件発明1ないし6に係るボンディングワイヤにおいては,ボール形成時のパラジウム膜の溶解を抑制するために,芯材の中心に繊維状組織を残すというものであり,その製造にあたっては,「ダイスを通して引抜き伸線加工を行う際,繊維状組織を残留させ」るために,「芯材の累積減面率が所定の減面率に到達するまでは,減面率10%以下で伸線加工を行う」こととし,具体的には,所定の減面率を表1記載の96%とし,表1記載の具体的な縮径率で伸線加工を行うもので,さらに,「再結晶開始温度以上再結晶終了温度以下の温度で軟化熱処理工程」を行うことで,「芯材の軟化は行うが,全面に亘る再結晶化は発生させず,一部を繊維状組織として残留させ」るというものである。そして,「硬度測定を行うと,再結晶粒に比べて繊維状組織の硬度は高く観察されるので,硬度測定によっても繊維状組織の存在を確認することは可能」というのであるから,当業者ならば,硬度測定によって最終生産物の繊維状組織の存在を確認することで本件発明1ないし6に係るボンディングワイヤを選別することができる。
イ そうすると,本件発明1ないし6にかかるボンディングワイヤを製造することは,発明の詳細な説明の記載を参酌して,当業者が過度の試行錯誤を必要とすることなく実施をすることができることであると認められる。
ウ 特許異議申立人は,(1)繊維状組織の由来が鋳造組織なのか,加工組織によるものか不明であること,(2)加工歴,温度,処理時間について具体的な記載がないこと,を記載不備の理由として主張している。
しかし,実施可能要件は,物の発明については,物の発明について明確に説明されていることのほかに,その物が作れるように記載されており,かつ,その物を使用できるように記載されていること,物を生産する方法の発明については,物を生産する方法の発明について明確に説明されていることのほかに,その方法により物を生産できるように記載されていること,を満たせば必要にして十分であり,それ以上に発明の原理や発明の構成の由来,必要以上に詳細な製造条件等が求められるわけではなく,本件発明1?6に係るボンディングワイヤを作れ,ないし生産できるように記載されていることは,前記イのとおりである(また,本件発明1及び2に係るボンディングワイヤの使用法については,前記(1)アの記載から当業者に明らかである。)から,出願人の主張する理由によって記載不備とすることはできない。
エ よって,本件の明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(3)小括
以上のとおりであるから,本件特許の請求項1ないし6に係る特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
4 まとめ
上記1乃至3で検討したとおり, 特許異議申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし6に係る各特許を取り消すことはできない。
 
異議決定日 2016-05-25 
出願番号 特願2013-555221(P2013-555221)
審決分類 P 1 651・ 161- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼須 甲斐  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 深沢 正志
加藤 浩一
登録日 2015-07-31 
登録番号 特許第5786042号(P5786042)
権利者 日鉄住金マイクロメタル株式会社
発明の名称 ボンディングワイヤ及びその製造方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 入交 孝雄  
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