• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E21D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E21D
管理番号 1315675
異議申立番号 異議2016-700166  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-25 
確定日 2016-05-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第5769085号「トンネル覆工コンクリートの打設方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5769085号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5769085号(以下「本件特許」という。)は、平成23年12月21日を出願日とする出願であって、平成27年7月3日に特許の設定登録がされ、その後、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下「本件特許発明1、2」という。)に対し、特許異議申立人有限会社アモニータ(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
本件特許発明1、2は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
2基の移動式セントルをトンネル掘進方向で同方向に前進させ、覆工コンクリートを施工するトンネル覆工コンクリートの打設方法であって、
2基の前記移動式セントルを互いに所定スパンだけ間隔をもってトンネル内に設置する第1工程と、
前記移動式セントルのそれぞれを単独で順次隣接するスパンへ移動させながら覆工コンクリートを打設する第2工程と、
後方側の前記移動式セントルによる覆工が前方側の前記移動式セントルによって施工した覆工コンクリートのスパンに追い着いたときに、2基の前記移動式セントルを同時に前方へ盛り替え、後方側の前記移動式セントルを前方側の前記移動式セントルで覆工した最も前方の覆工コンクリートに隣接させて移設する第3工程と、
を有することを特徴とするトンネル覆工コンクリートの打設方法。
【請求項2】
2基の前記移動式セントルにおける打設時期が異なっていることを特徴とする請求項1に記載のトンネル覆工コンクリートの打設方法。」


第3 申立理由の概要
1 申立人の主張の概要
申立人は、証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証を提出し、概ね以下のとおり主張している。

(1)特許法第29条第1項第3号(以下「理由1」という。)
ア 本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

イ 本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明であるから、その特許は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

(2)特許法第29条第2項(以下「理由2」という。)
ア 本件特許発明1、2は、甲第1号証に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

イ 本件特許発明1、2は、甲第2号証に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

ウ 本件特許発明1、2は、甲第10号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。


2 証拠方法
甲第1号証:「工事報告 摺鉢山トンネル工事TWSによる合理化施工 -米子道4車線化 摺鉢ホルンジャーで掘るんじゃー-」、横尾豊視 等、土木技術、第56巻3号、土木技術社、2001年3月発行、p46-54
甲第2号証:「施工 TWSによる長大トンネルの合理化施工 米子自動車道 摺鉢山トンネル4車線化」、中島博文 等、株式会社土木工学社、トンネルと地下、第34巻2号、2003年2月1日発行、p17-26
甲第3号証:特開2008-31715号公報
甲第4号証:「山岳トンネル工事(NATM・TBM)」、竹林亜夫 等、第1版第1刷、株式会社山海堂、2003年9月20日発行、p1-57
甲第5号証:「コンクリートライブラリー102 トンネルコンクリート施工指針(案)」、土木学会 コンクリート委員会 トンネルコンクリート施工指針作成小委員会編集、第1版第2刷、社団法人土木学会、平成12年8月31日発行、p28-52
甲第6号証:「最新 トンネル工法・機材便覧」、最新 トンネル工法・機材便覧編集委員会編集、株式会社建設産業調査会、昭和63年11月1日発行、p159-161、1154-1155
甲第7号証:「見学しよう工事現場2 トンネル」、溝渕利明監修、株式会社ほるぷ出版、第1刷、2011年11月25日発行、p6-7、32-35
甲第8号証:特開2003-129800号公報
甲第9号証:特開2009-138516号公報
甲第10号証:「連載講座 山岳トンネルの新技術(17)」、金田勉、トンネルと地下、第19巻8号、1988年8月発行、p63-69
甲第11号証:「丸子トンネル工事誌」、社団法人中部建設協会 静岡支所編集、丸子トンネル連絡協議会、昭和63年3月発行、p52-67、138-149、162-167
甲第12号証:「小特集 改築・拡幅 摺鉢山トンネル工事TWSによる合理化施工-米子自動車道4車線化-」、横尾豊視 等、ハイウェイ技術、No.20、日本道路公団試験研究所、2001年10月発行、p32-38


第4 当審の判断
1 各甲号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。

ア 「南側(落合側)片側からの施工とし、工事区間を通らずに避難できる計画とした。
それにより、延長4,088mの片押施工となり、通常の工法では工事期間が長くなるため、多機能型掘削機:トンネルワークステーション(TWS)を採用し、トンネル掘削の高速化、工期短縮を主に合理化施工に取り組んでいる。」(第47頁左欄35行?右欄1行)

イ 「3) 覆工コンクリート
トンネル掘削において工程の短縮を目指した際、その後必要となる覆工コンクリート打設工程もそれに遅れないようにすることで工事全体の高速化施工が図れる事となる。これはトンネルの延長が長くなる程より顕著になる。
覆工コンクリート打設工程の短縮のため、・・・、今回L=12.0mセントル2基を製作搬入することとした。採用の判断については次のとおりである。
・・・
12mスパンセントル2基
長所
・セントルを2基製作搬入する事により、掘削工程の進捗に合わせ2基目の搬入時期により全体工程の調整可能。
・打設方法は従来型と同じため、打設に不安はない。
・・・
短所
・2基にて同時打設するため、覆工完了区間をセントルが移動する区間が発生する。
・2基目の搬入後、坑内(非常駐車帯)にての組み立てが必要。
以上の検討結果により、・・・、L=1 2 mのセントルを2基製作搬入する事とした。」(第52頁右欄9行?第53頁右欄14行)。」

ウ 上記イから、覆工コンクリート打設工程が1基目の12mスパンセントルが搬入された後、掘削工程の進捗に合わせて2基目の12mスパンセントルが搬入される工程を有することは明らかである。

エ 図-9から、スライドセントルの切羽側に階段が配置され、坑口側(切羽側と逆側)に、階段、ミキサー車、コンクリートポンプが配置されていることがみてとれる(「TWS」、「(6)覆工コンクリート工」を参照。)。

オ 上記ア?エを踏まえると、甲第1号証には、下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「12mスパンセントル2基にて同時打設するトンネル覆工コンクリート打設方法であって、1基目の12mスパンセントルが搬入された後、掘削工程の進捗に合わせて2基目の12mスパンセントルが搬入される工程を有するトンネル覆工コンクリート打設方法。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載がある。

ア 「緊急時の避難者に対する安全確保を第一に考え、避難者が避難坑を通って坑外に出る際にトンネル掘削作業区間(切羽から100m程度)を通行せずに脱出できる片押し施工を採用した。
本稿では、4,000mを超える新設線を片押し施工で行うにあたり、トンネル掘削の高速化、工期短縮および新しい発破技術の採用による合理化施工について報告する。」(第17頁右欄5行?同頁11行)」

イ 「4-4 覆工コンクリート
トンネル掘削において工程の短縮を目指した際、その後必要となる覆工コンクリート打設工程もそれに遅れないようにすることで工事全体の高速化施工が図れる。これはトンネル延長が長くなればなるほどより顕著になる。本工事においては覆工コンクリート打設工程の短縮のため、通常L=10.5mセントルを使用するところ、(1)L=2 1.0mのロングスパンセントルと、(2)L=12.0mセントル2基を使用する2ケースについて比較し(表-4)、後者を採用することとした。」(第22頁32行?同頁41行)

ウ 表-4には、「12mセントル2基」について以下の記載がある。
「長所」
「・通常使用する10.5mセントルと同じ方法で打設ができる。
・掘削進捗にあわせて2基目の搬入時期を決定することで、全体工程の調整が可能となる。」
「短所」
「・2基目の組み立ては坑内で行わなければならない。
・覆工完了区間をセントルが通過する必要がある。
・作業人員が2倍となる。」

エ 上記ウから、覆工コンクリート打設工程が1基目の12mセントルが搬入された後、掘削進捗にあわせて2基目の12mセントルが搬入される工程を有することは明らかである。

オ 上記ア?エを踏まえると、甲第2号証には、下記の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

「12.0mセントル2基を使用するトンネル覆工コンクリート打設方法であって、1基目の12mセントルが搬入された後、掘削進捗にあわせて2基目の12mセントルが搬入される工程を有するトンネル覆工コンクリート打設方法。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。

ア 「【0002】
図1にトンネルの縦断面図を示す。トンネル工事においては、例えば、トンネルの切羽側から坑口側へかけて、順次「掘削区間」や「覆工区間」などが設定される。掘削区間では、発破や掘削重機等によって地山掘削やずり出しが行われるとともに、その掘削壁面S0に対しては一次覆工としてコンクリートC1の吹き付け等が施される。他方、覆工区間では、上記一次覆工されたトンネルの内壁面S1に沿って型枠21を配置し、前記内壁面S1と型枠21との間に覆工コンクリートC2を打設する。型枠21は、セントルフォーム1’と呼ばれる台車に支持されており、掘削方向に沿ってレールR上を移動可能である。そして、切羽が所定距離だけ掘り進められる度に、セントルフォーム1’も前方へ移動し、これにより、掘削区間の前方への移動と伴に覆工区間も前方へと移っていき、もって、トンネル工事が進められていく。」

イ 「【0024】
図3に示すように、トンネル工事においては、切羽側から坑口側へかけて順次「掘削区間」及び「覆工区間」が設定される。
【0025】
掘削区間では、発破や掘削重機等によって地山掘削やずり出しが行われ、その後に、掘削壁面S0への一次覆工としてコンクリートC1の吹き付け等が施される。また、掘削底面S0bに対してはコンクリートが打設されてトンネルの床部C0bが形成され、この床部C0b上には、後述のセントルフォーム1のレールRが掘削方向に沿って敷設される。
【0026】
覆工区間では、上述のコンクリートC1の吹き付けにて一次覆工されたトンネルの内壁面S1に、覆工コンクリートC2が打設される。すなわち、当該覆工コンクリートC2用の型枠21を具備したセントルフォーム1が、レールRに案内されて覆工区間へと移動し、これにより、前記一次覆工されたトンネルの内壁面S1と所定間隔を隔てつつアーチ状の型枠21が対向配置される。そして、型枠21の頂部から、型枠21とトンネルの内壁面S1との間にコンクリートC2を注入することにより、トンネルの内壁面S1がアーチ状に覆工され(図5を参照)、しかる後、所定の養生期間を経て当該覆工区間での作業が終了する。
【0027】
そして、切羽が所定距離だけ掘り進められて上述の掘削区間での作業が終了する度に、当該作業の終了した掘削区間を、次の覆工区間としてセントルフォーム1が掘削方向の前方へと移動して上述の覆工区間の作業が行われ、これが繰り返されてトンネル工事が進んでいく。」

(4)甲第4号証
甲第4号証には、以下の記載がある。

ア 図2.2(第23頁)から、トンネル掘進方向に前進させて覆工コンクリートを施工するとともに、トンネル掘削に後行して覆工コンクリートを施工すること、及び、トンネル掘削と覆工コンクリートの施工は並行することがみてとれる。

(5)甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載がある。

ア 解説図10.4.1(第31頁)から、覆工コンクリートを打設する際に移動式型枠の前後に階段が配置されていることがみてとれる。

イ 解説図10.4.5(第38頁)、10.4.6(第38頁)、10.5.1(第45頁)から、覆工コンクリートを打設する際に型枠の他方を既設コンクリートにラップさせていることがみてとれる。

(6)甲第6号証
甲第6号証には、以下の記載がある。

ア 「(1)覆工
a) 施工計画
覆工と掘削作業は、通常併行作業となり、また、覆工の施工速度は高く、工期は掘削の進行に支配される。しかし、小断面、円形断面トンネルでは、作業スペースの点などより、掘削覆工分離作業となり、覆工の工程が全体工期に大きな影響を与える。」(第159頁右欄5行?11行)」

イ 図1.5.43(第161頁)から、セントルの前後に階段が配置されていることがみてとれる。

(7)甲第7号証
甲第7号証には、以下の記載がある。

ア 第32頁の写真から、セントルの手前に階段、コンクリートポンプが配置されていることがみてとれる。

(8)甲第8号証
甲第8号証には、以下の記載がある。

ア 「【0002】
【従来の技術】元来、トンネル内への覆工用のコンクリートの打設は、コンクリートを打設するための型枠を、コンクリート打設終了後、前方に折り畳んで搬送し、展開させて設置し、その個所でコンクリートを打設する移動式の型枠により行われていた。
【0003】また、型枠の設置は、所定位置に型枠を移動させ、折り畳んだ状態の型枠を展開させた後、型枠のラップ側(トンネル坑口側)を既コンクリート打設面と重合させ、型枠の妻側(トンネル切羽側)は、型枠とトンネル内壁面との間に充填するコンクリートが外部に漏出しないように妻枠、妻板等の被覆材により被覆(妻止め)することにより、行っていた。」

イ 図3から、型枠の前後に階段が配置されていることがみてとれる。

(9)甲第9号証
甲第9号証には、以下の記載がある。

ア 「【0053】
既存の公知公用の工法によってトンネルTを掘削し、図4に示すように掘削したトンネルT内にセントル3を配置する。配置したセントル3内にコンクリートを打設することで1スパン分の覆工コンクリート構造物1を構築することができる。1スパン分の覆工コンクリート構造物1を構築した後、セントル3を脱型し、構築済みの覆工コンクリート構造物1に隣接する次の1スパン分の位置に前記セントル3を移動する。セントル3の移動後、該セントル3ないにコンクリートを打設することで次の1スパン分の覆工コンクリート構造物1を構築することができる。順次、この作業を繰り返し、掘削したトンネルTの全長に亘ってコンクリート構造物1・1・1・・・を図1に示すように目地部11を接続部として連接状態で構築する。」

イ 上記アを踏まえて図1をみると、セントルを隣接するスパンへ順次移動させながら覆工コンクリートを打設することがみてとれる。

(10)甲第10号証
甲第10号証には、以下の記載がある。

ア 「(5) 本坑通過型非常駐車帯用セントル
道路トンネルにおいて、非常駐車帯を2か所以上設ける場合、本坑通過型の非常駐車帯セントルがよく使用されている。
この場合、本坑の掘削およびコンクリート覆工を先行させて、非常駐車帯区間を後から掘削および覆工することになる。」(第66頁左欄30行?右欄4行)

イ 「本型式のセントルの適用性は、前述のとおり非常駐車帯を2か所以上設けるときは当然有利となるが、掘削およびずり出しの工程上、坑内で組み立てができない場合、坑外で組み立てを行い所定の位置まで移動して非常駐車帯断面に拡張することも可能である。
型枠は本坑通過時に、コンクリート打設機械およびずり出しの通過スペースを確保していることはもち論、本坑と非常駐車帯断面との間の縮小・拡大のため型枠各部にピン構造、伸縮用ターンバックルおよびレバーブロックを用いて対処し、型枠全体を同時に移動する構造としており、さらに非常駐車帯位置でのトラバース機能も具備している。」(第66頁9行?同頁20行)

ウ 上記ア、イを踏まえると、甲第10号証には、下記の発明(以下「甲10発明」という。)が記載されているといえる。

「本坑の掘削およびコンクリート覆工を先行させて、後から、本坑通過型の非常駐車帯セントルを使用して非常駐車帯区間を掘削および覆工する方法。」

(11)甲第11号証
甲第11号証には、以下の記載がある。

ア 図4-35(第141頁)から、覆工に際し、セントル移動、セット・妻型枠、コンクリート打設、養生・脱型の順に繰り返し施工することがみてとれる。


イ 「4-11 非常駐車帯
本トンネルの非常駐車帯は3ケ所有り、トンネル中央部の1箇所を除き方向転換所を併せ持つ構造となっている。断面構造は通常断面より2.5m拡幅したものとなっており、偏平率が大きい。」(第162頁1行?同頁3行)

ウ 「非常駐車帯の断面は、通常断面より広く高い」(第166頁1行)

(12)甲第12号証
甲第12号証には、以下の記載がある。

ア 「6.3覆工コンクリート
トンネル掘削において工程の短縮を目指した際、その後必要となる覆工コンクリート打設工程もそれに遅れないようにすることで工事全体の高速化が図れることとなる。こればトンネル延長が長くなる程より顕著になる。
覆工コンクリート打設工程の短縮のため、一般的なセントルはL=10.5m程度であるが、ロングスパンセントルL=2 1.0mの採用の検討を実施したが、今回L=12.0mセントル2基を製作搬入することとした。採用の判断については以下のとおりである。
・・・
12mスパンセントル2基
長所
・セントルを2基製作搬入する事により、掘削工程の進捗に合わせ2基目の搬入時期により全体工程の調整可能。
・打設方法は従来型と同じため、打設に不安はない。
・・・
短所
・2基にて同時打設するため、覆工完了区間をセントルが移動する区間が発生する。
・2基目の搬入後、坑内(非常駐車帯)にての組立てが必要。
以上の検討結果により、・・・、L=12mのセントルを2基作製搬入する事とした。」(第36頁右欄20行?第37頁左欄12行目)


2 理由1について
(1)甲第1号証に記載された発明に基づく新規性欠如
ア 対比
(ア)甲1発明の「12mスパンセントル」は、本件特許発明1の「移動式セントル」に相当し、以下同様に、「覆工コンクリート」は「覆工コンクリート」に、「トンネル覆工コンクリート打設方法」は「トンネル覆工コンクリートの打設方法」に相当する。

(イ)甲1発明の「12mスパンセントル2基にて同時打設する」は、2基の12mスパンセントルのそれぞれを単独で順次次のスパンに移動させながら打設することを指すことは明らかなので、本件特許発明1の「2基の移動式セントルをトンネル掘進方向で同方向に前進させ、覆工コンクリートを施工する」と、「2基の移動式セントルを移動させ、覆工コンクリートを施工する」で共通し、同様に、「移動式セントルのそれぞれを単独で順次隣接するスパンへ移動させながら覆工コンクリートを打設する第2工程」と、「移動式セントルのそれぞれを単独で順次次のスパンへ移動させながら覆工コンクリートを打設する工程」で共通する。

(ウ)甲1発明の「1基目の12mスパンセントルが搬入された後、掘削工程の進捗に合わせて2基目の12mスパンセントルが搬入される工程」は、セントルの切羽側に階段が配置され、坑口側(切羽側と逆側)に、階段、ミキサー車、コンクリートポンプが配置されることから(上記1(1)エ参照。)、1基目の12mスパンセントルと所定距離の間隔をもって2基目の12mスパンセントルが搬入されることは明らかなので、本件特許発明1の「2基の前記移動式セントルを互いに所定スパンだけ間隔をもってトンネル内に設置する第1工程」と、「2基の移動式セントルを互いに所定距離だけ間隔をもってトンネル内に設置する工程」で共通する。

(エ)すると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「2基の移動式セントルを移動させ、覆工コンクリートを施工するトンネル覆工コンクリートの打設方法であって、2基の移動式セントルを互いに所定距離だけ間隔をもってトンネル内に設置する工程と、移動式セントルのそれぞれを単独で順次スパンへ移動させながら覆工コンクリートを打設する工程とを有するトンネル覆工コンクリートの打設方法。」で一致し、 以下の点で相違する。

[相違点1]:2基の移動式セントルを移動させる方向について、
本件特許発明1が、「トンネル掘進方向で同方向」に「前進させ」るのに対して、
甲1発明では、その特定がない点。
[相違点2]:2基の移動式セントルを設置する際の所定距離について、
本件特許発明1が「所定スパン」であるのに対して、
甲1発明では、その特定がない点。
[相違点3]:移動式セントルのそれぞれを単独で順次移動させる「次のスパン」について、
本件特許発明1が「隣接するスパン」であるのに対して、
甲1発明では、その特定がない点。
[相違点4]:
本件特許発明1が「後方側の前記移動式セントルによる覆工が前方側の前記移動式セントルによって施工した覆工コンクリートのスパンに追い着いたときに、2基の前記移動式セントルを同時に前方へ盛り替え、後方側の前記移動式セントルを前方側の前記移動式セントルで覆工した最も前方の覆工コンクリートに隣接させて移設する第3工程」を有するのに対して、
甲1発明では、その特定がない点。

イ 判断
申立人は、
甲3号証及び甲第11号証に例示されるように、移動式セントルによる覆工では、覆工スパンヘの型枠の設置、覆工コンクリートの打設、脱型、次の覆工スパンヘの移動を繰り返し行うことは技術常識(以下「技術常識1」という。)であり、
甲3号証及び甲第4号証に例示されるように、移動式セントルによる覆工では、移動式セントルをトンネル掘削に後行させるとともにトンネル掘進方向に前進させながら覆工コンクリートを打設すること、及び、覆工コンクリートの打設中に新たな掘削により未覆工区間が発生することは技術常識(以下「技術常識2」という。)であり、
甲第3号証及び甲第9号証に例示されるように、移動式セントルによる覆工では、移動式セントルを隣接するスパンへ順次移動させながら覆工コンクリートを打設することは技術常識(以下「技術常識3」という。)であり、
甲5号証及び甲第8号証に例示されるように、移動式セントルによる履工では、移動式セントルの型枠を既設コンクリートにラップさせて履工コンクリートを打設することは技術常識(以下「技術常識4」という。)であり、
甲第1号証、甲第5号証?甲第8号証に例示されるように、移動式セントルは、前後に階段、ミキサー車、コンクリートポンプなどが配置されることは技術常識(以下「技術常識5」という。)であり、
これらの技術常識を参酌すれば、上記相違点に係る構成は甲第1号証に記載されているに等しい旨主張する。
しかしながら、技術常識1?5は、何れも1基の移動式セントルを用いる際の施工手順やセントルの構造、各種施工機械の配置に関するものであって、2基の移動式セントルによる同時施工方法である上記相違点1?4に係る本件特許発明の構成を教示するものではないから、これら技術常識を参酌したとしても、上記相違点1?4に係る構成が甲第1号証に記載されていると認めることはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。

(2)甲第2号証に記載された発明に基づく新規性欠如
本件特許発明1と甲2発明を対比すると、両者は、上記(1)ア(エ)に記載した相違点と同様の点で相違するところ、上記(1)イにおける判断と同様の理由により、本件特許発明1は甲第2号証に記載された発明とすることはできない。


3 理由2について
(1)甲第1号証に記載された発明に基づく進歩性欠如
ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と甲1発明とは、上記2(1)ア(エ)に記載した相違点1?4で相違する。

(イ) 判断
上記相違点1?4は互いに関連するのでまとめて検討する。
甲1発明において、12mスパンセントル2基をどのように移動させて同時打設するかについては何ら特定されていない。これに関し、甲第1号証には、12mスパンセントル2基による同時打設に関して、「2基にて同時打設するため、覆工完了区間をセントルが移動する区間が発生する」との記載があるが(上記1(1)イ参照。)、当該記載によって、上記相違点1?4に係る12mスパンセントル2基の特定の配置、移動形態が示唆されるものとはいえない。
さらに、上記2(1)イで検討したとおり、甲第3号証?甲第9号証、甲第11号証に例示される技術常識1?5は、何れも1基の移動式セントルを用いる際の施工手順やセントルの構造、各種施工機械の配置に関するものであって、2基の移動式セントルによる同時施工方法である上記相違点1?4に係る本件特許発明の構成を教示するものではないから、これら技術常識を参酌したとしても、上記相違点1?4に係る構成が容易に導かれるとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は甲第1号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用してさらに限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断(上記(1)ア(イ)参照。)と同様の理由により、当業者が甲第1号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)甲第2号証に記載された発明に基づく進歩性欠如
本件特許発明1、2と甲2発明とは、上記2(1)ア(エ)に記載した相違点1?4と同様の点で相違するところ、上記(1)ア(イ)の判断と同様の理由により、本件特許発明1、2は、当業者が甲第2号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)甲第10号証に記載された発明に基づく進歩性欠如
本件特許発明1、2と、甲10発明とは、少なくとも、上記2(1)ア(エ)に記載した相違点1?4と同様の点で相違するところ、上記(1)ア(イ)の判断と同様の理由により、本件特許発明1、2は、当業者が甲第10号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。


第5 むすび
したがって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-05-16 
出願番号 特願2011-279760(P2011-279760)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E21D)
P 1 651・ 113- Y (E21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 竹村 真一郎  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 谷垣 圭二
赤木 啓二
登録日 2015-07-03 
登録番号 特許第5769085号(P5769085)
権利者 清水建設株式会社
発明の名称 トンネル覆工コンクリートの打設方法  
代理人 佐伯 義文  
代理人 松浦 孝  
代理人 志賀 正武  
代理人 川渕 健一  
代理人 高橋 詔男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ