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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G08G
管理番号 1315689
異議申立番号 異議2016-700157  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-24 
確定日 2016-06-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第5800581号発明「車載画像記録装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5800581号の請求項1-3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5800581号(請求項の数[3]、以下、「本件特許」という。)は、平成23年6月3日に出願した特願2011-124978号に係るものであって、その請求項1-3に係る発明について、平成27年9月4日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第5800581号の請求項1-3に係る発明の特許は、下記の特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定されるとおりのものである。(以下、本件請求項1-3に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」-「本件特許発明3」という。)
「【請求項1】
車両に搭載され、前記車両に乗車または下車する際の画像を撮影する撮影手段と、前記撮影手段が撮影した画像を記録する記録手段を備えた車載画像記録装置において、
車室内の気圧を計測する気圧計測手段と、
前記気圧計測手段が計測した前記車室内の気圧に基づいて前記車両のドアの開閉を示す信号を生成するドア開閉信号生成手段と、
前記車両の停止を検出する車両停止検出手段と、を備え、
前記ドア開閉信号生成手段が、前記車両停止検出手段が前記車両の停止を検出後に初めて前記気圧計測手段が計測した前記車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、前記車両のドアの開を示す信号を生成し、前記車両のドアの開を示す信号を生成後に前記車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、前記車両のドアの閉を示す信号を生成する、
ことを特徴とする車載画像記録装置。
【請求項2】
前記ドア開閉信号生成手段が生成したドアの開閉を示す信号に基づいて前記撮影手段が撮影した画像を前記記録手段に記録させる記録制御手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車載画像記録装置。
【請求項3】
前記ドア開閉信号生成手段が生成したドアの開閉を示す信号を前記撮影手段が撮影した
画像に関連付けて前記記録手段に記録する記録制御手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車載画像記録装置。」

3.特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として特開平11-298853号公報(以下「引用文献1」という。)及び従たる証拠として特開2008-186394号公報(以下「引用文献2」という。)、特開2006-138128号公報(以下「引用文献3」という。)、特開2009-107527号公報(以下「引用文献4」という。)を提出し、以下のように主張している。

理由ア:特許法第29条第2項
・請求項1について
本件特許発明1は、引用文献1-3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
・請求項2について
本件特許発明2は、引用文献1-3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
・請求項3について
本件特許発明3は、引用文献1-4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
理由イ:特許法第36条第6項第1号
・請求項1-3について
請求項1-3に記載の「撮像手段」及び「記録手段」は発明の詳細な説明に記載したものでない。
理由ウ:特許法第36条第6項第2号
・請求項1-3について
請求項1-3に記載の「撮像手段」は明確でない。
・請求項2について
請求項2に記載の「記録制御手段」は明確でない。

4.各引用文献の記載(下線部は当審付加)
(1)引用文献1の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である引用文献1には、「運転状況記録装置」として、図面と共に以下の記載がある。

(ア)「【0009】本発明は、こうした問題点を解決するものであり、事故状況や事故原因、あるいは車内状況を正確に把握することができる情報を記録する運転状況記録装置を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明の運転状況記録装置では、車内または車外撮影用に搭載された監視カメラの映像をサイクリックに記録し、事故発生時に、この記録動作を停止するようにしている。
【0011】そのため、記録された映像情報から事故原因を解明することができる。
【0012】また、車内撮影用に搭載された監視カメラの映像を、自動車のドアが開閉されるごとに一定時間だけ記録するようにしている。
【0013】そのため、自動車に乗り込む乗客の顔や、座席に残された忘れ物の映像を記録することができる。」

(イ)「【0020】この車両は、図2に示すように、フロントガラスの上方に設置された、車両の前方を映す監視カメラ11と、車両の前部両脇に設置された、右または左側前方を映す監視カメラ12、13と、ドアーミラーの位置に設置された、車両の右または左側後方を映す監視カメラ14、15と、車両の後部に設置された、後方を映す監視カメラ17と、運転席及び後部座席を映す車内監視カメラ16と、映像やデータを記録する記録装置18とを備えている。
【0021】また、図1は、実施形態の運転状況記録装置の全体構成をブロック図で示している。この装置は、前方監視カメラ11、右側前方監視カメラ12、左側前方監視カメラ13、右側後方監視カメラ14、左側後方監視カメラ15、後方監視カメラ17及び車内監視カメラ16の映像を記録し、また、車速データ検出部21、操舵角データ検出部22、制動データ検出部23で検出されたデータやGPS受信機20で検出された緯度・経度データや時刻データを記録する映像/データ記録部18と、映像/データ記録部18に記録されたデータを事故発生時にオペレーションセンターに送信する送信部27と、ドアが開閉されたときに車内監視カメラ16に映る映像を記録する車内映像記録部19と、Gセンサの検出出力により車両の事故発生を検知する事故検知部24と、ドアの開閉を検知するドア開閉検知部25と、事故検知部24やドア開閉検知部25の検知結果に基づいて映像/データ記録部18、送信部27及び車内映像記録部19の動作を制御する制御部26とを備えている。」

(ウ)「【0027】一方、車内映像記録部19は、制御部26から指示がある毎に、車内監視カメラ16の映像を短時間ずつ記録し、蓄積する映像の量を増やしていく。
【0028】車両の走行時には、前方監視カメラ11、右側前方監視カメラ12、左側前方監視カメラ13、右側後方監視カメラ14、左側後方監視カメラ15、後方監視カメラ17及び車内監視カメラ16で撮影された映像が映像/データ記録部18にサイクリックに記録され、また、車速データ検出部21、操舵角データ検出部22及び制動データ検出部23で検出されたデータや、GPS受信機20から出力された緯度・経度データ及び時刻データが映像/データ記録部18にサイクリックに記録される。
【0029】また、制御部26は、ドア開閉検知部25が後部ドアの開閉を検知すると、車内映像記録部19に映像の記録を指示し、車内映像記録部19は、車内監視カメラ16の映像を所定時間に渡って記録する。こうして、車内映像記録部19には、車内監視カメラ16に映し出された、乗車する客の顔や降車後のシート上の忘れ物などが順次記録される。」

上記(ア)?(ウ)の記載、及び図面を参照すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認める。

「車内撮影用に搭載された監視カメラの映像を、自動車のドアが開閉されるごとに一定時間だけ記録するようにして自動車に乗り込む乗客の顔や、座席に残された忘れ物の映像を記録する運転状況記録装置であって、
車両は、運転席及び後部座席を映す車内監視カメラ16と、車内監視カメラ16の映像を記録し、ドアが開閉されたときに車内監視カメラ16に映る映像を記録する車内映像記録部19と、ドアの開閉を検知するドア開閉検知部25と、ドア開閉検知部25の検知結果に基づいて車内映像記録部19の動作を制御する制御部26と、を備え、
車内映像記録部19は、制御部26から指示がある毎に、車内監視カメラ16の映像を所定時間に渡って記録する運転状況記録装置。」

(2)引用文献2の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である引用文献2には、「記録装置」として、図面と共に以下の記載がある。

「【0024】
本体部110のコントローラ111は、マイクロコンピュータと、RAM・ROMのメモリを含む周辺回路とから構成され、ROMに格納されているプログラムにより、記録装置100全体の動作を制御する。
このコントローラ111は、撮像部130の2つのカメラ131,132により撮影された映像を、画像インターフェース113を介して入力し、不揮発性の記録メモリ120に記録する。
コントローラ111は、入力する映像を切り替えることにより、カメラA131からの車外前方の映像とカメラB132からの車内の映像を、選択して入力することができる。このため、カメラA131からの映像のみを入力したり、カメラB132からの映像のみを入力したり、2つのカメラからの映像を交互に切り替えて入力することもできる。
一方のカメラからの映像のみを入力する場合、映像のフレームレートは最大30fptであるが、2つのカメラから映像を入力する場合、映像を切り替えて入力しているため、両方のカメラからの映像のフレームレートは、例えば4fpt程度となる。
なお、2つのカメラからの映像を切り替えて入力する場合も、記録メモリ120に記録する映像は、カメラごとの映像として別々に記録している。
コントローラ111には、車両に加わった加速度を検出する加速度センサ116a,ドアの開閉や窓ガラスの破損等を検出する気圧センサ116b,GPSユニット118が接続されており、これらからのデータ等を入力し、映像とともに記録メモリ120に記録することができる。 GPSユニット118からは、複数のGPS衛星からアンテナを介して受信した電波信号をもとに車両の現在位置等のデータ(例えば、経度,緯度,高度)を得ることができる。車両の運転中は、車速等の計測のためGPS衛星からの電波信号を常時受信している。一方、車両の駐車中は、電力消費を抑えつつ車両の位置の変化を監視するため、一定周期(例えば3分)間隔で受信している。
GPSユニット118の位置情報と時刻から、車の現在の速度を検出することができる。この速度が所定のしきい値を越えると速度超過を認識することができる。
加速度センサ116aは、車両に加わった加速度を2次元(x方向,y方向)で計測し、その計測値をコントローラ111に出力する。コントローラ111では、入力された加速度がしきい値を超過していることを検出して、衝撃があったと認識している。
また、気圧センサ116bは、車室内の気圧を計測して、例えば、駐車中のドアの開閉や窓ガラスの破壊による気圧の変化等をパターンにより検出するための信号をコントローラ111に出力する。」

上記の記載、及び図面を参照すると、引用文献2には、以下の事項が開示されているものと認める。

「車室内の気圧を計測して、駐車中のドアの開閉による気圧の変化をパターンにより検出するための信号をコントローラ111に出力する気圧センサ116b」

(3)引用文献3の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である引用文献3には、「車両用状態監視装置」として、図面と共に以下の記載がある。

「【0024】
なお、音圧センサに替えて、ドップラセンサ,超音波センサ,磁気センサなどを用いることができる。これらドップラセンサや超音波センサは、ドアの移動にともないマイクロ波等の発信源とドアの相対位置が変化するため、その相対位置の変化を位相や時間の変化として検出することができ、また、磁気センサではドアの移動により地磁気(磁界)が変化するため磁束の変化として検出することができる。これにより、ドアが所定位置に来たか否か(閉じたか開いたか)を検出することができる。このように、ドアの移動に伴い変化する物理量(圧力,相対位置等)等の変化を検出することで間接的にドアを閉じる行為或いはドアを開ける行為が行なわれたことを検出することができるセンサ手段であれば何でもよい。そして、このように異なる動作原理のドアの開閉を検出するセンサを複数使用し、それらの複数のセンサの出力に基づきドアの開閉を判断するようにするとよい。係る構成を採ると、より精度良くドアの開閉を検出することができる。」

「【0054】
*状態フラグFの設定
制御部1においては、判定動作のために状態フラグFを定義している。状態フラグFは車両の状況に対応させて設定し、その値を検査することにより判定ルーチンを適宜に切り替えていて、後述する各判定ルーチンは、車両が所定の状況にあるときに起動させることとし、不必要で誤った警報を防止するようにしている。
【0055】
図6は、メインルーチンを示すフローチャートである。このメインルーチンでは、主として状態フラグFの設定(0/1)を行なう。まず、状態フラグFを0にする初期化を行う(ステップM1)。この後、キー位置信号S1を検査し、イグニッションキーがオンからオフに遷移したか否かを判定する(ステップM2)。すなわち、制御部1は、内部メモリに前回のイグニッションキーの状態(オン/オフ)を保持しておき、前回がオンで今回オフに遷移した場合には(ステップM2でYes)、運転者が車両から離れる可能性があると推定でき、当該状態においては状態フラグFを1にする(ステップM3)。イグニッションキーがオンの場合と、すでにオフの状態が継続(前回がオフで今回もオフ)の場合(ステップM2でNo)には、状態フラグFはそのまま変更せずに以下に続くメインルーチンを続行する。」

「【0059】
図7は、半ドアの判定ルーチンを示すフローチャートである。半ドアの判定ルーチンでは、まず、状態フラグFを検査し、その値を判定する(ステップD1)。状態フラグFが1のときは(ステップD1でYes)、カーテシスイッチ4の信号を検査し、ドア開状態か否かを判定する(ステップD2)。運転者が降車する場合、まずイグニッションがOFFとなり、その後ドアが開く動作が行なわれるため、ドアが閉状態のままであると運転者が乗車中と推定できる。そこで、カーテシスイッチ4がドア閉状態にあるうちは(ステップD2でNo)、半ドアの判定は必要ないのでそのままメインルーチンのステップM2に戻り、処理ルーチンを継続する。一方、ドア開状態であれば(ステップD2でYes)、ドアが開けられた状況を示すために状態フラグFを2とし(ステップD3)、メインルーチンに戻る。」

「【0062】
なお、ステップD2のカーテシスイッチによるドア開検知の処理ステップは、ドアが開いたことを認識すればよいので、例えば、音圧センサの出力に基づいて「ドア開」を検知するようにしてもよい。
【0063】
ステップD1において、状態フラグFが2のときは(ステップD1でNo)、音圧センサ2の検出信号に基づくドア閉め動作の有無について判定を行う(ステップD4)。上述したように、音圧センサ2の検出を利用することで、ドア開け動作を判定でき、これに続くドア閉め動作を判定できる。ここでは、ドアの閉め動作があったか否かを判断する。」

上記の記載、及び図面を参照すると、引用文献3には、以下の事項が開示されているものと認める。

・「ドアの移動に伴い変化する物理量の変化を検出することで間接的にドアを閉じる行為或いはドアを開ける行為が行なわれたことを検出することができるセンサ手段。」
・「状態フラグFの設定(0/1)は、まず、状態フラグFを0にする初期化の後、内部メモリに保持したイグニッションキーの状態(オン/オフ)が、前回がオンで今回オフに遷移した場合には、状態フラグFを1にする。」
・「状態フラグFが1のときは、カーテシスイッチ4の信号を検査、又は、音圧センサの出力に基づいて「ドア開」を検知し、ドア開状態であれば、状態フラグFを2とする。」
・「状態フラグFが2のときの、音圧センサ2の検出信号に基づくドア閉め動作の有無についての判定は、音圧センサ2の検出を利用することで、ドア開け動作の判定に続くドア閉め動作があったか否かを判断する。」

(4)引用文献4の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である引用文献4には、「車両の乗員検出装置」として、図面と共に以下の記載がある。

「【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の乗員検出装置においては、ドア状態検出手段にてドアが開いたことが検出されるか、或いは、車両各部の動作状態に基づきドアが開くことを予測すると、基準画像記憶手段が、撮像手段から車室内の撮像画像を取り込み、その取り込んだ撮像画像を基準画像として記憶する。
【0011】
また、ドア状態検出手段にてドアが開閉したことが検出されると、乗員検出手段が、撮像手段から車室内の撮像画像を取り込み、その取り込んだ撮像画像と基準画像記憶手段にて記憶された基準画像とを比較することにより、車室内の乗員を検出する。
【0012】
つまり、本発明では、車両のドアが開いたとき、或いは、ドアが開くことを予測したときに、車室内を撮像し、その撮像画像を、乗員の有無を判定するのに用いる基準画像として記憶することから、基準画像は、乗員がドアを開いて車両に乗車(又は降車)する直前に車室内を撮像した画像となる。」

上記の記載、及び図面を参照すると、引用文献4には、以下の事項が開示されているものと認める。

「車両のドアが開いたとき、或いは、ドアが開くことを予測したときに、車室内を撮像し、その撮像画像を、基準画像として記憶する。」

5.判断
(1)理由ア(特許法第29条第2項)について
ア.本件特許発明1
(ア)本件特許発明1と引用発明との対比
・引用発明の「運転席及び後部座席を映す車内監視カメラ16」は、自動車に乗り込む乗客の顔や、座席に残された忘れ物の映像を撮影する手段であるから、本件特許発明1の「前記車両に乗車または下車する際の画像を撮影する撮影手段」に相当する。

・引用発明の「車内監視カメラ16に映る映像を記録する車内映像記録部19」は、本件特許発明1の「前記撮影手段が撮影した画像を記録する記録手段」に相当する。

・引用発明の「ドアの開閉を検知するドア開閉検知部25と、ドア開閉検知部25の検知結果に基づいて車内映像記録部19の動作を制御する制御部26」は、ドア開閉に基づき制御のための信号を生成し、制御のために出力する手段ということができるので、本件特許発明1の「車室内の気圧を計測する気圧計測手段と、前記気圧計測手段が計測した前記車室内の気圧に基づいて前記車両のドアの開閉を示す信号を生成するドア開閉信号生成手段」とは、「ドア開閉に基づく信号を生成する手段」である点で共通する。

・引用発明の「運転状況記録装置」は、「車両」に備えられ、映像(画像)の記録装置であるから、本件特許発明1の「車両に搭載され」た、「車載画像記録装置」に相当する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「車両に搭載され、前記車両に乗車または下車する際の画像を撮影する撮影手段と、前記撮影手段が撮影した画像を記録する記録手段を備えた車載画像記録装置において、
ドア開閉に基づく信号を生成する手段を備えた車載画像記録装置。」

そして、以下の点で相違する。
相違点:ドア開閉に基づく信号を生成する手段について、本件特許発明1は、「車室内の気圧を計測する気圧計測手段と、前記気圧計測手段が計測した前記車室内の気圧に基づいて前記車両のドアの開閉を示す信号を生成するドア開閉信号生成手段と、前記車両の停止を検出する車両停止検出手段と、を備え、前記ドア開閉信号生成手段が、前記車両停止検出手段が前記車両の停止を検出後に初めて前記気圧計測手段が計測した前記車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、前記車両のドアの開を示す信号を生成し、前記車両のドアの開を示す信号を生成後に前記車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、前記車両のドアの閉を示す信号を生成する」ものであるのに対し、引用発明は、少なくとも、「ドア開閉信号生成手段が、前記車両停止検出手段が前記車両の停止を検出後に初めて前記気圧計測手段が計測した前記車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、前記車両のドアの開を示す信号を生成し、前記車両のドアの開を示す信号を生成後に前記車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、前記車両のドアの閉を示す信号を生成する」ような特定がなされていない点において相違している。

上記相違点について検討する。
本件特許発明1は、気圧センサを備えて、車両停車後に測定した気圧の変化が予め定めた所定の値以上であった場合はドア開信号を生成し、ドア開信号生成後に測定した気圧の変化が予め定めた所定の値以上であった場合はドア閉信号を生成し、車室内の気圧の変化に基づいて、車両のドアを開閉したか否かを判断できることで、ドアの開閉を示す信号を車両が取り込む必要がないという効果を奏する発明である(本件特許明細書の段落【0040】の記載も参照。)。
一方、引用発明は、上記4.(1)引用文献1の記載事項(ウ)に示されるように、乗車する客の顔や降車後のシート上の忘れ物などを順次記録することを目的とし、そのために、車両は、運転席及び後部座席を映す車内監視カメラ16と、車内監視カメラ16の映像を記録し、ドアが開閉されたときに車内監視カメラ16に映る映像を記録する車内映像記録部19と、ドアの開閉を検知するドア開閉検知部25と、ドア開閉検知部25の検知結果に基づいて車内映像記録部19の動作を制御する制御部26と、を備え、車内映像記録部19は、制御部26から指示がある毎に、車内監視カメラ16の映像を所定時間に渡って記録するという構成を有するものであるが、気圧計測手段が計測した車室内の気圧の変化によってドアの開閉を判断することは全く記載されていない。
したがって、上記相違点は、引用発明に基づき容易に導くことができたものではない。また、引用文献2-4のいずれの文献を参照しても、
「ドア開閉信号生成手段が、前記車両停止検出手段が前記車両の停止を検出後に初めて前記気圧計測手段が計測した前記車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、前記車両のドアの開を示す信号を生成し、前記車両のドアの開を示す信号を生成後に前記車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、前記車両のドアの閉を示す信号を生成する」ことについて、開示されるものでも、示唆されるものでもない。
そうすると、引用発明に、引用文献2-4に記載された技術を適用したとしても、本件特許発明1の構成にはならないから、本件特許発明1は、引用発明に、引用文献2-4に記載された技術を適用することで、容易に発明をすることができたものということはできない。

イ.本件特許発明2、3
本件特許発明2、3は、本件特許発明1に、さらに他の構成要件を付加したものに相当するから、上記ア.と同様の理由により、上記引用発明に、引用文献2-4に記載された技術を適用することで、容易に発明をすることができたものということはできない。

ウ.理由アについてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1-3は、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2-4に記載される事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)理由イ(特許法第36条第6項第1号)について
ア.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の「エ 記載不備の理由」において、
「(ア) 本件特許発明1-3について
本発明の課題として、【0005】には『バスやタクシー車両において、乗客の乗車およぴ下車時の画像を撮影して安全確認を行う際に、上述したドライブレコーダを用いて画像を記録することがある。その場合が、イべント記録タイプの場合、車両のドアの開閉信号をドライブレコーダに取り込む必要があるため、ドライブレコーダの取り付けが煩雑になり時間がかかってしまう』こと、【0006】には『常時記録タイプの場合も全ての記録画像から乗客の乗車および下車時の画像を検索するために非常に手間がかかってしまう』ことが記載されている。この課題を解決するために、発明の詳細な説明【0008】には、車両に搭載され、前記車両に乗車または下車する際の画像を撮影する撮影手段と、前記撮影手段が撮影した画像を記録する記録手段を備えた車載画像記録装置において、車室内の気圧を計測する気圧計測手段と、前記気圧計測手段が計測した前記車室内の気圧に基づいて前記車両のドアの開閉を示す信号を生成するドア開閉信号生成手段と、前記車両の停止を検出する車両停止検出手段と、を備え、前記ドア開閉信号生成手段が、前記車両停止検出手段が前記車両の停止を検出後に初めて前記気圧計測手段が計測した前記車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、前記車両のドアの開を示す信号を生成し、前記車両のドアの開を示す信号を生成後に前記車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、前記車両のドアの閉を示す信号を生成する、ことが記載されている。
しかしながら、本件特許発明1は、撮影手段の特徴としては『車両に搭載され、前記車両に乗車または下車する際の画像を撮影する』点、記録手段の特徴としては『前記撮影手段が撮影した画像を記録する』点が記載されており、本発明の課題を解決できない範囲まで含むものである。
具体的には、本件特許発明1は、撮影手段の特徴としては『車両に搭載され、前記車両に乗車または下車する際の画像を撮影する』点、記録手段の特徴としては『前記撮影手段が撮影した画像を記録する』点が記載されているに過ぎない、すなわち、『車両に搭載され、前記車両に乗車または下車する際の画像を撮影し、記録する』という点が記載されているのみである。つまり、バスやタクシー車両において、乗客の乗車および下車時の画像を撮影して安全確認を行う際に、ドライブレコーダを用いて画像を記録することと差異はなく、上記に記載した課題を解決するものではない。
したがって、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。また、本件特許発明1に従属する本件特許発明2,3も同様の理由により発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。」
と主張している。

イ.当審の判断
特許異議申立人の主張は、「本件特許発明1は、撮影手段の特徴としては『車両に搭載され、前記車両に乗車または下車する際の画像を撮影する』点、記録手段の特徴としては『前記撮影手段が撮影した画像を記録する』点が記載されているに過ぎない」を前提として、「本件特許発明1は、『車両に搭載され、前記車両に乗車または下車する際の画像を撮影し、記録する』という点が記載されているのみ」とするものである。
しかし、本件特許発明1は、「ドア開閉信号生成手段」を有する点に特徴を有するものである。
たとえば、本件特許の発明の詳細な説明の【0012】には、本件特許発明1の「ドア開閉信号生成手段」について、
「以上説明したように請求項1に記載の発明によれば、ドア開閉信号生成手段が、車室内の気圧を計測する気圧計測手段が計測した車室内の気圧に基づいて車両のドアの開閉を示す信号を生成するので、ドアの開閉を示す信号を車両が取り込む必要が無く車載画像記録装置を容易に設置することができる。また、ドア開閉信号生成手段が、車両停止検出手段が車両の停止を検出後に初めて気圧計測手段が計測した車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、車両のドアの開を示す信号を生成し、車両のドアの開を示す信号を生成後に車室内の気圧が予め定めた所定の値以上変化した場合には、車両のドアの閉を示す信号を生成するので、気圧が予め定めた所定の値以上変化したことを検出することで、車両のドアの開閉を判断することができる。」
と記載されており、当該記載には明確に、本件特許発明1の「ドア開閉信号生成手段」が、発明の詳細な説明【0008】の「前記気圧計測手段が計測した前記車室内の気圧に基づいて前記車両のドアの開閉を示す信号を生成する」ための手段であり、本件発明の課題を解決するための主要な特徴であることが示されている。
また、本件特許発明1に従属する本件特許発明2、3の記載が、発明の詳細な説明に記載したものでないとする理由はない。
したがって、「本件特許発明1-3は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものではない。」とはいえない。

(3)理由ウ(特許法第36条第6項第2号)について
ア.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の「オ 記載不備の理由」において、
「(ア) 本件特許発明1-3について
本件特許発明1には、撮影手段について、『前記車両に乗車または下車する際の画像を撮影する』との規定があるが、この規定のみでは、何が車両に乗車または下車する際の画像を撮影するのかを明確に把握することができない。具体的には、撮影手段が車両に乗車または下車する際の画像を撮影するのか、記録手段が車両に乗車または下車する際の画像を撮影するのか、あるいは車載画像記録装置が車両に乗車または下車する際の画像を撮影するのか、を明確に把握することができない。したがって、本件特許発明1の記載から撮影手段を明確に把握できないため、発明を明確に把握することができない。また、本件特許発明1に従属する本件特許発明2, 3も同様の理由により発明を明確に把握することができない。
(イ)本件特許発明2について
本件特許発明2には、記録制御手段について、『前記ドア開閉信号生成手段が生成したドアの開閉を示す信号に基づいて前記撮影手段が撮影した画像を前記記録手段に記録させる』との規定があるが、この規定のみでは、ドア開閉信号生成手段が生成したドアの開閉を示す信号に基づいて何をするのかを明確に把握することができない。具体的には、ドア開閉信号生成手段が生成したドアの開閉を示す信号に基づいて前記撮影手段が撮影するのか、ドア開閉信号生成手段が生成したドアの開閉を示す信号に基づいて前記記録手段に記録させるのかを明確に把握することができない。
したがって、本件特許発明2の記載から記録制御手段を明確に把握できない。」
と主張している。

イ.当審の判断
本件特許発明1の、「前記車両に乗車または下車する際の画像を撮影する撮影手段」が、撮影するための手段であるから、「撮影手段」以外の「記録手段」や「車載画像記録装置」であると特定することはできない。
「撮影手段」が車両に乗車または下車する際の画像を撮影することは明確に把握できるものといえ、本件特許発明1の記載が明確でないとはいえない。
また、本件特許発明1に従属する本件特許発明2, 3の記載も明確でないとはいえない。

本件特許発明2の、「前記ドア開閉信号生成手段が生成したドアの開閉を示す信号に基づいて前記撮影手段が撮影した画像を前記記録手段に記録させる」は、ドア開閉信号生成手段が生成したドアの開閉を示す信号に基づいて「前記撮影手段が撮影した画像を前記記録手段に記録させる」ことは明らかといえ、ドア開閉信号生成手段が生成したドアの開閉を示す信号に基づいて「前記撮影手段が撮影する」ことのみを意味するものでも、ドア開閉信号生成手段が生成したドアの開閉を示す信号に基づいて「前記記録手段に記録させる」ことのみを意味するものでもない。
したがって、本件特許発明2の記録制御手段は明確に把握できるものであり、「本件特許発明2の記載が明確でない。」とはいえない。

6.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1-3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1-3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-06-17 
出願番号 特願2011-124978(P2011-124978)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (G08G)
P 1 651・ 121- Y (G08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 根本 徳子  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 前田 浩
矢島 伸一
登録日 2015-09-04 
登録番号 特許第5800581号(P5800581)
権利者 矢崎エナジーシステム株式会社
発明の名称 車載画像記録装置  
代理人 朴 志恩  
代理人 津田 俊明  
代理人 瀧野 秀雄  
代理人 鳥野 正司  
代理人 川崎 隆夫  
代理人 瀧野 文雄  

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