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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05B
管理番号 1316019
審判番号 不服2015-10981  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-10 
確定日 2016-06-15 
事件の表示 特願2009- 56995「吹付塗装装置、噴霧整形システム、吹付塗装システムおよび塗料吹付方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月24日出願公開、特開2009-214103〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第36条の2第1項の規定による平成21年3月10日(パリ条約による優先権主張2008年3月11日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成21年5月11日に外国語明細書、外国語特許請求の範囲、外国語図面及び外国語要約書の日本語による翻訳文(以下、「翻訳文」という。)が提出され、平成25年9月10日付けで拒絶理由が通知され、同年12月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年2月28日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年9月4日に意見書が提出されたが、平成27年2月6日付けで拒絶査定がされ、同年6月10日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る発明は、平成25年12月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに翻訳文の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
エアキャップを具備した吹付塗装システムにおいて、
前記エアキャップが長手の中心軸線を有した中心霧化オリフィスと、
前記中心霧化オリフィスを挟んで両側に配置されたエアホーンに設けられ、前記長手の中心軸線沿いの所定の第1の点へ向けて指向するように配向された第1の整形空気オリフィスと、
前記中心霧化オリフィスを挟んで両側に配置されたエアホーンに設けられ、前記長手の中心軸線沿いの所定の第2の点へ向けて指向するように配向された第2の整形空気オリフィスとを具備し、
前記第1の整形空気オリフィスが前記第2の整形オリフィスから前記長手の中心軸線の方向に上流側に配置されており、前記第1の点は前記長手の中心軸線に沿って前記第2の点の下流にあり、前記第1と第2の整形オリフィスは中実の整形空気流れを出力し、前記第1の点の下流側に円錐面から外側に膨出する非円錐状の液体噴霧が形成されるようにした吹付塗装システム。」

第3 引用文献の記載等
1 引用文献1の記載等
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開平4-247252号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「低圧広角パターンスプレーガン」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、順に「記載1a」ないし「記載1d」という。)がある。

1a 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、圧縮空気により塗料を霧化し、被塗物に向けて吹き付けを行なうエアースプレーガンに関する。
【0002】
【従来の技術】エアースプレーガンには、噴出させた塗料に圧縮空気を噴射衝突させて霧化する方式と、スプレーガン内部で塗料と圧縮空気を混合させた状態で噴霧化する方式とが使われている。前者は後者に比べて霧化粒子を微細にでき、吹付パターンを可変調節できることから汎用の仕上げ塗装用として広く用いられている。」(段落【0001】及び【0002】)

1b 「【0009】
【実施例】図面は本発明の一実施例を示すエアースプレーガンの霧化装置部を示す断面図である。スプレーガンの構造はすでに公知のものとして数多くの例が示されている。したがって作動部については省略し、ここでは霧化装置について詳細に説明を加える。
【0010】塗料の噴出口1を先端にもつ塗料ノズル2は、先端部のみを示したスプレーガンの本体3の先端中心に着脱自在にねじ込まれている。噴出口1は内部より前後に進退するニードル弁4の先端が当接し、この状態で塗料を停止している。ニードル弁4が右側へ後退すると塗料が噴出する。
【0011】空気キャップ5が前記噴出口1の外側に環状の中心空気孔6を形成するよう塗料ノズル2と同軸心上に着脱自在にとりつけられる。実施例においては、塗料ノズル2のテーパー面7と空気キャップ5の帯状になっている球面シート8とによって同心に設定される。この環状の中心空気孔6は塗料ノズルの外径2.3?2.8mmに対し、空気キャップの中心孔径2.6?3.6mmであり、スキマは0.15?0.4mmである。微粒化の効率をあげるためには、表面積を増加させるためスキマを小さく、大口径化する方が良いが、加工、組合せの精度がパタン形状に影響するため、可能な範囲で設定される。
【0012】空気キャップ5の内側は、中心空気通路9としてスプレーガン本体1の空気通路10より直接連通している。前記テーパ面7と球面シート8にて閉じられた外側は、空気キャップ5に付き出した一対の角11にあけられたパタン調節空気通路12に連通しており、前記の空気通路10とはパターン調節弁13を介して連通するよう構成されている。
【0013】中心空気孔6の両側に形成された一対の角11には、パタン調節用の側面空気孔14、15が互いに対向し、中心軸16に向けて噴射するよう形成されている。実施例の場合2対の側面空気孔を形成し、かつそれぞれの噴射軸が中心軸16の一点で交わるように側面空気孔14、15の角度を定めている。これらの角度は110°から150°の交差角度範囲で、一対より二対の方が安定性が良い結果となっている。これらの側面空気孔14、15の合計開口面積は、前記中心空気孔6の開口面積に対し、2倍以上の面積としている。したがって、全空気孔面積に対して2/3以上、すなわち66%以上である。」(段落【0009】ないし【0013】)

1c 「【0014】また、側面の空気が直接中心からの噴霧流に衝突し、霧化促進をするように、中心空気孔の周辺には側面空気を妨げる空気孔、すなわち補助空気孔を設けていない。したがって側面空気によっても霧化の促進が効率良く行われる。しかし、側面空気孔の影響が強い程、中心噴霧流に対し中心部のみ強く作用し、パターンの安定性を欠くことがあるため、前述のように側面空気孔を2対設け、かつ、これらが互いに交わるよう異る角度に設けられ、実質的には噴射途中で合流し、噴霧流に衝突するよう形成する。」(段落【0014】)

1d 「【0015】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、側面空気孔が全空気孔面積の67%以上、すなわち2/3以上あり、中心からの噴霧流に対し、従来の2倍以上の空気量で両側面より押しつぶすため、広がりの大きなパターンが形成できる。したがって短い吹付距離で比較的大きなパターン、いいかえると低密度のパターンが形成できるため、近距離での吹付作業がやりやすくなる。近距離での吹き付けは、噴霧粒子の飛散を著しく減少させることができることから、塗着効率の増加、環境汚染の減少がはかれる。また、従来のように圧力をあげなくてもパターンの拡大ができ、側面空気によっても霧化が促進できるために、従来3?3.5kgf/cm^(2)で行っていた吹付作業が約1/2の1.8kgf/cm^(2)可能となり、低圧吹付による飛散防止等にも大いに効果が得られる。」(段落【0015】

(2)引用文献1の記載事項
記載1aないし1d及び図面の記載から、引用文献1には、次の事項(以下、順に「記載事項2a」ないし「記載事項2e」という。)が記載されていると認める。

2a 記載1aの「本発明は、圧縮空気により塗料を霧化し、被塗物に向けて吹き付けを行なうエアースプレーガンに関する。」(段落【0001】)及び「前者は後者に比べて霧化粒子を微細にでき、吹付パターンを可変調節できることから汎用の仕上げ塗装用として広く用いられている。」(段落【0002】)、記載1bの「図面は本発明の一実施例を示すエアースプレーガンの霧化装置部を示す断面図である。」(段落【0009】)及び「空気キャップ5が前記噴出口1の外側に環状の中心空気孔6を形成するよう塗料ノズル2と同軸心上に着脱自在にとりつけられる。」(段落【0011】)並びに図面によると、引用文献1には、空気キャップ5を具備した吹き付け塗装用エアースプレーガンが記載されている。

2b 記載1bの「空気キャップ5が前記噴出口1の外側に環状の中心空気孔6を形成するよう塗料ノズル2と同軸心上に着脱自在にとりつけられる。」(段落【0011】)及び「中心空気孔6の両側に形成された一対の角11には、パタン調節用の側面空気孔14、15が互いに対向し、中心軸16に向けて噴射するよう形成されている。実施例の場合2対の側面空気孔を形成し、かつそれぞれの噴射軸が中心軸16の一点で交わるように側面空気孔14、15の角度を定めている。」(段落【0013】)並びに図面を記載事項2aとあわせてみると、引用文献1には、空気キャップ5が中心軸16を有した中心空気孔6と、
前記中心空気孔6を挟んで両側に配置された角11に設けられ、前記中心軸16沿いの一点に向くように角度を定めて形成された側面空気孔15と、
前記中心空気孔6を挟んで両側に配置された角11に設けられ、前記中心軸16沿いの一点に向くように角度を定めて形成された側面空気孔14とを具備することが記載されている。

2c 記載1bの「中心空気孔6の両側に形成された一対の角11には、パタン調節用の側面空気孔14、15が互いに対向し、中心軸16に向けて噴射するよう形成されている。実施例の場合2対の側面空気孔を形成し、かつそれぞれの噴射軸が中心軸16の一点で交わるように側面空気孔14、15の角度を定めている。」(段落【0013】)を踏まえると、図1から、側面空気孔15が側面空気孔14から中心軸16の方向に上流側に配置されていることが看取される。

2d 記載1bの「中心空気孔6の両側に形成された一対の角11には、パタン調節用の側面空気孔14、15が互いに対向し、中心軸16に向けて噴射するよう形成されている。」(段落【0013】)を踏まえると、図1及び2から、側面空気孔15と側面空気孔14は中実のパタン調節用の空気を噴射することが看取される。

2e 記載1dの「中心からの噴霧流に対し、従来の2倍以上の空気量で両側面より押しつぶすため、広がりの大きなパターンが形成できる。」(段落【0015】)及び図面を記載事項2aないし2dとあわせてみると、引用文献1には、中心軸16沿いの一点の下流側に中心からの噴霧流を両側面より押しつぶした広がりの大きなパターンの噴霧流が形成されるようにしたことが記載されている。

(3)引用発明
記載1aないし1d、記載事項2aないし2e及び図面を整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「空気キャップ5を具備した吹き付け塗装用エアースプレーガンにおいて、
前記空気キャップ5が中心軸16を有した中心空気孔6と、
前記中心空気孔6を挟んで両側に配置された角11に設けられ、前記中心軸16沿いの一点に向くように角度を定めて形成された側面空気孔15と、
前記中心空気孔6を挟んで両側に配置された角11に設けられ、前記中心軸16沿いの一点に向くように角度を定めて形成された側面空気孔14とを具備し、
前記側面空気孔15が前記側面空気孔14から前記中心軸16の方向に上流側に配置されており、前記側面空気孔15と側面空気孔14は中実のパタン調節用の空気を噴射し、前記中心軸16沿いの一点の下流側に中心からの噴霧流を両側面より押しつぶした広がりの大きなパターンの噴霧流が形成されるようにした吹き付け塗装用エアースプレーガン。」

2 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である実願昭59-118027号(実開昭61-33654号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)には、「エアースプレーガン」に関して、図面とともにおおむね次の記載(なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。以下、「引用文献2の記載」という。)がある。

・「又、最近は、塗装の自動化により噴霧パタンの制御が塗料噴出量と共に中心霧化空気とパタン形成用空気を別個に制御してより塗装に適したパタン制御が行われているが、この場合、中心霧化空気を少なくすると補助穴よりの空気流も少なくなり、パタン形成用空気口よりの空気の噴射流に補助空気を衝突させて巾広い噴流を形成する作用が薄れ、塗料噴霧流の中心に勢いよく衝突し、パタンの中心部が薄くなつてパタン形成が中心部でくびれる、所謂中割れパタンとなり塗装膜厚の不均一を生じ折角の噴霧制御が好ましからざる結果になつてしまう。」(明細書第3ページ第1ないし12行)

・「第2図は公知のエアースプレーガンの断面図であり、1は引金2の操作にて塗料ノズル3内の塗料通路4中に進退自在に挿通されたニードル弁5と、塗料ノズル3内にカバー6にて挿着される霧化用空気キャップ7を先端に設けたエアースプレーガン本体で、霧化用空気キャップ7には中心に中心空気孔8が塗料ノズル3の塗料噴射口9の周囲に形成されているとともに、中心空気孔8の両側対向位置に補助空気口10が一対若しくは二対形成されており、更に空気キャップ7の先端角部にはパタン形成用空気口11が夫々対向して形成されている。
ここに於て、第1図は本考案の実施例を示すノズル部の半截拡大断面図であり、スプレーガン本体1の空気通路12を分岐し、中心空気通路13と角空気通路14とするとともに、該角空気通路14にはパターン形成用空気口11への空気流量を調節するバルブ15の下流に空気溜16が設けられ、該空気溜16に連通した補助空気口17が、該補助空気口17よりの噴射流zが前記パターン形成用空気口11からの噴射流yが塗料噴射軸線xと衝突する前にパターン形成用空気口11からの噴射流yと衝突するよう前記塗料噴射軸線xに対し対向位置に開口されている。その他の構成は第2図に示す公知例と同様であり同一符合が用いられる。
以上の構成に於て、本考案の作用を説明すると、先ず圧縮空気はスプレーガン本体1のハンドル部の圧縮空気導入口19より空気通路12に供給され、一方塗料は塗料導入部20より塗料ノズル3内の塗料通路4に供給される。ここで、引金2を引くと、ニードル弁5が後退し塗料はノズル3部先端の塗料噴射口9より噴射されるとともに、圧縮空気は引金2に連動した空気弁22が開弁し空気通路12を通って塗料霧化用の中心空気路13とパターン形成用の角空気路14に二分され、一方はノズル3部先端の中心空気孔8より噴出し、ノズル3の塗料噴射口9より噴射された塗料を微粒化するとともに、他方はパタン形成用空気口11より噴出し微粒化された噴霧流をして塗装に適した噴霧パターンに形成する。以上は公知のエアースプレーガンの作用であるが、本考案に於ては、空気通路12を二分し、中心空気孔8に連通する中心空気路13と、パタン形成用空気口11に連通する角空気路14とするとともに、該角空気路14には空気溜16が設けられ補助空気口17が空気溜16に連通していることにより、空気通路12より二分され角空気路14へ導かれた圧縮空気は空気溜16を通って補助空気口17より噴射されるとともに、同時にパターン形成用空気口11よりも噴射され、該パタン形成用空気口11からの噴射流yが塗料噴射軸線xと衝突する前に補助空気口17からの噴射流zが衝突する。即ち、パタン形成用空気口11より噴出する空気流に補助空気口17より噴出する空気流を衝突させることによりパタン形成用空気口11からの噴射流を巾広い噴流として塗料噴霧流に衝突させ安定した噴霧パタンを形成するものである。
〔考案の効果〕
上述の様に本考案は、補助空気口をパタン形成用空気口に連通する角空気路より空気溜を介して連通させたことによりパタン形成用の空気割合に応じて常に適した補助空気の量が得られ補助空気口からの空気流はパタン形成用空気の増減に伴って増減し、常に最高の状態でパタン形成用空気流と衝突し、その噴流の勢いを緩和することができ、その状態で中心部分を通る塗料噴霧流に当るため、従来の如く高圧吹付時にパタン中心部が薄くなる中割傾向を招かずパタン形成が好適にしかも安定して行なわれる。
しかも、本考案は補助空気口をパタン形成用空気口側からとるため中心霧化空気流量が十分確保でき、霧化効率の向上が図れる。
更に、本考案は中心霧化とパタン形成用の空気を別々に制御する方式のスプレーガンにおいて大きな効果が得られるものである。」(明細書第5ページ第5行ないし第9ページ第5行)

・上記記載を踏まえると、第1図から、補助空気口17が指向する塗料噴射軸線x上の点は、パターン形成用空気口11が指向する塗料噴射軸線x上の点よりも下流にあることが看取される。

3 引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開昭62-87279号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「噴霧塗装方法」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、「引用文献3の記載」という。)がある。

・「以下、本発明方法を図面に例示する塗装用噴霧装置に基づいて詳細に説明する。
第1図ないし第3図に示す噴霧装置は、噴霧ガン本体1の先端寄りの中心部に弁座2に対応する針弁3を進退自在に対設し、針弁3が貫通している噴霧ガン本体1における塗料供給路4の後方から圧送される塗料を針弁3の後退により弁座2から前方へ給送することができるようにし、かつこの噴霧ガン本体1の前端には、先端にエアレス式の広角扇形噴霧ノズル5を固着したホルダー6をパッキング7の介在のもとに対設すると共に、このホルダー6の外周側には噴気口8があるエアノズル部材9をその噴気口8と前記ホルダー6の先端外周とにより環状のエアノズル10が形成される状態のもとに嵌合したまま、ナツト11により噴霧ガン本体1に同一軸線のもとに取り付け、かつホルダー6および噴霧ガン本体1にはそれぞれ前記エアノズル10に連通する通気路12および13を設けて後方から供給される加圧空気を両通気路13および12からエアノズル10に供給しつつ比較的細い筒形の膜状空気流を前向きに噴出させることができるようにし、更にエアノズル部材9には噴気口8から適度に離れた両側において、前記噴霧ノズル5から噴出する扇形噴霧面に対向するように突出部14,14を設けてこの両突出部14に斜め前向きのエアノズル15,16を相互に対向する内向きに開設すると共に、これらエアノズル15,16に連通する通気路17を後方開放状態に設けるほか、噴霧ガン本体1には通気路17に連通する通気路18を設けて、後方から供給される加圧空気を通気路18,17からエアノズル15,16に供給しつつ互いに対向する状態の斜め前向きに噴出させることにより、前記エアノズル10から噴出する筒形の膜状空気流を両側から押し潰しつつ合流して中途部分から扁平化させて扇形状空気流Aを形成するようにしてなり、従つてエアノズル10並びに15,16からの空気流と、噴霧ノズル5からの塗料の広角扇形噴霧Pとの関係は、第1図および第2図のように、基端部が細い筒形膜状で少し前方部分で両側から押し潰ぶされた状態の扇形に変形した空気流Aに対し、両端縁部分がほぼ直線状の扇形噴霧Pは、その両端縁部分が空気流Aにおける基端寄り膜状部分を外方へ突き抜けた後、少し前方において空気流Aにおける扇形部分に再突入もしくは衝触することになるのである。」(第2ページ右上欄第5行ないし右下欄第11行)

・上記記載を踏まえると、第2図から、エアノズル16が指向するエアレス式広角扇形噴霧ノズル5の中心線上の点は、エアノズル15が指向するエアレス式広角扇形噴霧ノズル5の中心線上の点より下流にあることが看取される。

第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。

引用発明における「空気キャップ5」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本願発明における「エアキャップ」に相当し、以下、同様に、「吹き付け塗装用エアースプレーガン」は「吹付塗装システム」に、「中心軸16」は「長手の中心軸線」に、「中心空気孔6」は「中心霧化オリフィス」に、「角11」は「エアホーン」に、それぞれ、相当する。
また、本願発明における「前記長手の中心軸線沿いの所定の第1の点」及び「前記長手の中心軸線沿いの所定の第2の点」と引用発明における「前記中心軸16沿いの一点」は、その機能、構成または技術的意義からみて、「前記長手の中心軸線沿いの所定の点」という限りにおいて一致する。
さらに、引用発明における「に向くように角度を定めて形成された」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本願発明における「へ向けて指向するように配向された」に相当し、以下、同様に、「側面空気孔15」は「第1の整形空気オリフィス」に、「側面空気孔14」は「第2の整形空気オリフィス」に、「パタン調節用の空気」は「整形空気流れ」に、「噴射」は「出力」に、それぞれ、相当する。
さらに、引用発明における「前記中心軸16沿いの一点の下流側に中心からの噴霧流を両側面より押しつぶした広がりの大きなパターンの噴霧流が形成される」中の「噴霧流」は、本来円錐状に膨らむ中心からの噴霧流を両側面より押しつぶして広がりを大きくしたものであるから、非円錐状であって、広がった部分は円錐面から外側に膨出していることは明らかであるから、上記相当関係を踏まえると、引用発明における「前記中心軸16沿いの一点の下流側に中心からの噴霧流を両側面より押しつぶした広がりの大きなパターンの噴霧流が形成される」は、本願発明における「前記第1の点の下流側に円錐面から外側に膨出する非円錐状の液体噴霧が形成される」と、「前記長手の中心軸線沿いの所定の点の下流側に円錐面から外側に膨出する非円錐状の液体噴霧が形成される」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。

「エアキャップを具備した吹付塗装システムにおいて、
前記エアキャップが長手の中心軸線を有した中心霧化オリフィスと、
前記中心霧化オリフィスを挟んで両側に配置されたエアホーンに設けられ、前記長手の中心軸線沿いの所定の点へ向けて指向するように配向された第1の整形空気オリフィスと、
前記中心霧化オリフィスを挟んで両側に配置されたエアホーンに設けられ、前記長手の中心軸線沿いの所定の点へ向けて指向するように配向された第2の整形空気オリフィスとを具備し、
前記第1の整形空気オリフィスが前記第2の整形オリフィスから前記長手の中心軸線の方向に上流側に配置されており、前記第1と第2の整形オリフィスは中実の整形空気流れを出力し、前記長手の中心軸線沿いの所定の点の下流側に円錐面から外側に膨出する非円錐状の液体噴霧が形成されるようにした吹付塗装システム。」

そして、以下の点で相違する。

<相違点1>
「前記長手の中心軸線沿いの所定の点」に関して、本願発明においては、「前記長手の中心軸線沿いの所定の第1の点」及び「前記長手の中心軸線沿いの所定の第2の点」であり、「前記長手の中心軸線沿いの所定の第1の点」は長手の中心軸線に沿って「前記長手の中心軸線沿いの所定の第2の点」の下流にあるのに対し、引用発明においては、「前記中心軸16沿いの一点」である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
「前記長手の中心軸線沿いの所定の点の下流側に円錐面から外側に膨出する非円錐状の液体噴霧が形成される」に関して、本願発明においては、「前記第1の点の下流側に円錐面から外側に膨出する非円錐状の液体噴霧が形成される」であるのに対し、引用発明においては、「前記中心軸16沿いの一点の下流側に中心からの噴霧流を両側面より押しつぶした広がりの大きなパターンの噴霧流が形成される」である点(以下、「相違点2」という。)。

第5 相違点に対する判断
そこで、相違点1及び2について、以下に検討する。

1 相違点1について
記載1cの「しかし、側面空気孔の影響が強い程、中心噴霧流に対し中心部のみ強く作用し、パターンの安定性を欠くことがあるため、前述のように側面空気孔を2対設け、かつ、これらが互いに交わるよう異る角度に設けられ、実質的には噴射途中で合流し、噴霧流に衝突するよう形成する。」(段落【0014】)によると、引用発明において、側面空気孔15から噴射される空気と側面空気孔14から噴射される空気は、「前記中心軸16沿いの一点」に到達する前に合流するものであるから、「前記中心軸16沿いの一点」に到達する前に合流するための技術を採用する動機付けはある。
他方、引用文献2及び3の記載に示されるように、圧縮空気により塗料を霧化し、被塗物に向けて吹き付けを行なうエアースプレーガンにおいて、整形空気オリフィスから噴射される圧縮空気が、中心軸線に衝突する前に交叉、すなわち合流するように、長手の中心軸線の方向に下流側に配置された整形空気オリフィスから噴射される流れが指向する点よりも長手の中心軸線の方向に上流側に配置された整形空気オリフィスから噴射される流れが指向する点が下流側にあるようにすることは、本願の優先日前に周知(以下、「周知技術」という。)である。
また、引用文献2に記載されたエアースプレーガンは、塗装膜厚の不均一が生じることを防ぐこと及び霧化効率を向上することを目的とするものであるが、引用発明においても、塗装膜厚の不均一が生じるのは望ましくないこと及び霧化効率を向上する必要があることは明らかであるので、引用文献2の記載から認定した周知技術を引用発明に適用することに動機付けはあり、また、それにより引用発明の効果が損なわれるとは考えられないから、阻害要因があるともいえない。
したがって、引用発明において、周知技術を適用し、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

2 相違点2について
引用発明において、周知技術を適用した場合、中心軸16沿いの点が2点となり、その内の下流側の点の下流側に、中心からの噴霧流を両側面より押しつぶした広がりの大きなパターンの噴霧流が形成されることは、明らかである。
したがって、引用発明において、周知技術を適用し、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

3 効果について
そして、本願発明を全体としてみても、本願発明が、引用発明及び周知技術からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。

4 むすび
よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 結語
上記第5のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-18 
結審通知日 2016-01-19 
審決日 2016-02-01 
出願番号 特願2009-56995(P2009-56995)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大谷 光司石川 太郎  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 加藤 友也
槙原 進
発明の名称 吹付塗装装置、噴霧整形システム、吹付塗装システムおよび塗料吹付方法  
代理人 伊藤 公一  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 島田 哲郎  
代理人 篠田 拓也  

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